学び!とESD

学び!とESD

ESDと気候変動教育(その14) 地球規模課題への教育的アプローチ
2023.10.16
学び!とESD <Vol.46>
ESDと気候変動教育(その14) 地球規模課題への教育的アプローチ
神田 和可子(聖心女子大学大学院永田研究室・聖心女子大学助教)

 これまでESDと気候変動教育に関連するトピックを紹介してきました(*1)。今回は、2022年にニューヨークの国連本部で開催された「教育変革サミット(Transforming Education Summit)」で誕生した新たなプログラムUNESCO「Greening Education Partnership(以下、GEPと略記)」(「学び!とESD」Vol.35 を参照)の最新情報も交えながら、国際機関における議論の進め方について考えます。

出典:UNESCOのホームページ

GEPの誕生

 2021年5月17-19日にドイツのベルリンで開催された「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」の成果文書としてベルリン宣言が採択されました。本宣言には「教育システムのあらゆる段階において、ESDが環境及び気候行動をカリキュラムの中核要素として備えたその基本要素であることを保証する」(*2)と明記されており、この概念は2021年9月のイタリアのミラノで開催された若者のイベント(Pre-COP youth event)や同年11月にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26の閣僚会議でさらに強調され、政治に積極的に働きかけることについても言及されました。
 このような背景から2022年9月に開催された「教育変革サミット」にて、GEPが立ち上げられるに至ります。

出典:GEPの誕生までの変遷(GEPの各ワーキング・グループ主催のウェビナーより筆者作成)

ESDに根差した気候変動教育とは

 日本の政府とNGOが提案し、UNESCOが主導機関となり牽引してきた国際教育運動である「持続可能な開発のための教育(ESD)」は、現在日本社会で浸透しているSDGs(持続可能な開発目標)の10年以上前から教育の在り方を問い続けてきました。また、ESDは世界的にもその喫緊性が共有されている気候変動に対し、“ESD for 2030”(持続可能な開発のための教育:SDGs実現に向けて)と呼ばれる新たな世界的枠組みを通じて、あらゆる年代の学習者が気候変動に対応できるようになることを目指しています。
 GEPで特徴的なのは、ESDの知見を活かした気候変動教育の実践および研究です。「学び!とESD:ESDと気候変動教育(その1)」(Vol.14)でも紹介した「ホールスクール・アプローチ」という手法は、4領域(教授と学習、学校ガバナンス、地域連携、施設と運営)から成る組織全体としてのアプローチです。持続可能な開発の社会的、経済的、文化的、環境的側面に関する知識と技能を促進することを目的としています。
 この「ホールスクール・アプローチ」は“ESD for 2030”のロードマップの中心に位置づいており、学習組織の変革を導く手法としても注目されています。GEPにおいても、この手法を用い、学習組織の文化の変容を促すような努力が進められています。

開かれた議論

 GEPは、相乗的かつ戦略的なプロセスで議論を重ねています。具体的には、次の2点が挙げられます。1点目はGEPで重点的に取り組んでいる4つの柱(①学校のグリーン化、②カリキュラムのグリーン化、③教員養成および教育システムの能力のグリーン化、④地域社会のグリーン化)(*3)それぞれに国連組織等の垣根を越え、異なる組織や団体が協働でコーディネーターを行っていることです。2点目は全世界の教員、研究者、政策立案者等でGEPに関心のある人は誰でも参加できるような体制が整っているところです。
 1点目は、下表のように各ワーキング・グループに2,3団体がコーディネーターとして配置されています。このように、複数の組織・団体が協働で進めていく議論のプロセスは意義深いといえるでしょう。

出典:ワーキング・グループとコーディネーター組織の配置表(GEPの各ワーキング・グループ主催のウェビナーより筆者作成、一部筆者仮訳)

 2点目の参加体制ですが、GEPに参加を希望する方は次のURL(https://secure.unesco.org/survey/index.php?sid=21736&lang=en )にアクセスし、アンケートに回答するとオンラインのミーティングの招待が届きます。関心のある方はどなたでも議論に参加することができます。
 私たち一人ひとりの意思や行動がどのように国際的な教育運動に反映されていくのか、これからの国際機関の役割についても検討できる機会になっています。ご関心のある方はぜひ参加してみませんか。

【参考・引用文献】

*1:次の13回をご参照ください。
Vol.14, Vol.19, Vol.20, Vol.21, Vol.22, Vol.23, Vol.24, Vol.25, Vol.26, Vol.27, Vol.36, Vol.37, Vol.38
*2:ベルリン宣言原文(英語)
https://en.unesco.org/sites/default/files/esdfor2030-berlin-declaration-en.pdf
および ベルリン宣言(仮訳)
https://www.mext.go.jp/unesco/004/mext_01485.html
をご参照ください。
*3:各領域の内容については「“Transforming Education Summit”(教育変革サミット)」(「学び!とESD」Vol.35)をご参照ください。②および③に関しては、Vol.35で紹介されていた名称から変更されています。