もっと知りたい指導の工夫 vol.03
p4cを活用し、生徒の心を開く授業を実践する

教科情報誌『形 forme』連載企画「学びのフロンティア」に登場した先生方の取り組みや指導の工夫をさらに深く聞きます。第3回目は316号で紹介した宮城教育大学附属中学校の佐藤直人先生です。

なにかをさせるのではなく、なにかが生まれる教育を実現したい

 道徳の授業などで用いられるp4c(子どもの哲学philosophy for children ※)の手法を取り入れ、独創的な美術教育を展開する佐藤直人先生。以前から、「子どもたちになにかをさせるのではなく、なにかが生まれる教育を実現したい」と考え続けていたそうで、その過程のなかで、p4cという手法にたどり着きました。
 「子どもたちは、私たち大人が考えつかないような発想や考え、可能性を秘めています。そこをスルーして、教師が、ただ知識を詰め込む教育をするなんてもったいない。生徒の頭や心を刺激して、内に秘めた世界を開花させ、自らイキイキと表現の幅を広めてほしいなと考え続けていました。そんなときに、p4cを知って、『これを使って、ぜひ“自分”を表現する授業をやってみたい!』と思ったのです」
 こう振り返る佐藤先生。生徒に関わり始めてから今に至るまで、継続して、いかにして子どもたちから主題を生み出させるかを考え続け、その結果、「p4cで本当の自分を知り、立体で表現する」という、実にユニークな授業が生まれたのです。

※p4c(子どもの哲学philosophy for children ※)とは
場の主人公である子どもたちが、コミュニティボールと呼ばれる柔らかなボールを受け渡しながらテーマについて自由に語っていく“探求”の手法。倫理観や思考力の醸成、多様な価値観の共有と理解、課題の解決などに役立てられる。カウンセリングの一環として使われることも。

教師の介入は最小限! 生徒主体の対話の場

 p4cを成功させるコツは、極力、ファシリテートをしないこと。コミュニティボールを渡したり投げたりすることで、話者のスイッチや空気の転換ができるため、基本的には子どもたちに任せて進めていきます。
 「一部の先生から『本当に授業になるのか?』と、疑問の声を投げかけられたこともありました。が、実際にやってみたら、驚くほど場の熱量が高まり、深い発言が飛び出したのです。自分について語るうちに涙をこぼす生徒や、その生徒に刺激され、生い立ちを語り出す生徒などが出てきて、まさに、『生きること』や『自分を知ること』を探求する場になったと実感しています。生徒からも『自分の思いを伝えることの素晴らしさに気付いた』という声が上がりました」(佐藤先生)

人と交わることで生まれる刺激を、なによりも大切にしていきたい

 自分のことを深く見つめ、表現する生徒が出てくると、他の生徒からも「話したい!」「表現したい!」というオーラがあふれ出してくるそう。教室全体が「冒険したい!」という開かれた空気に包まれて、なんともいえない“いい雰囲気”になるそうです。
 「私が美術だけでなく教育全般においてこだわり続けているのが、『させない教育』『生徒主体の表現型・対話型の教育』です。学校は、人とともに学ぶ場所。友だちと過ごし、その思いや姿に触れることで、自己理解や他社理解が深まっていくと思うのです。みずみずしい感性を持った子どもたちが互いを知るというのは、ものすごい刺激だと思います! p4cに限らずさまざまな手法を用いて、今後も、表現力や感性が開かれるような授業をしていきたいですね。また、完成品を鑑賞させる授業ではなく、制作過程を鑑賞させることにフォーカスした授業も面白そうだなと考えています。今回の実践でも、例えばとある生徒の考えや作品が変わった理由をインタビューしてその動画を流したり、互いの作品を鑑賞させる時間を多くつくるようにしたりと意識はしていたのですが、もっともっと『他人の思考の変遷』を深く知ることができるような授業をしてみたいなと。それによって生徒がどう変わるのか……。考えただけでもワクワクします!」(佐藤先生)

文:秋山由香(Playce)