Vol.02 浦谷幸史さん
デザイン的な考えが人生を成功させるカギとなる

 世の中を“美術でのつながり”を探って、あらゆる分野で活躍される人物にインタビューするコーナー。
 第二回は、芸術花火オーガナイザーの浦谷幸史さんです。

(プロフィール)
浦谷幸史(うらや・ゆきふみ)/北海道札幌市出身。世界最高峰の“芸術花火”を手掛ける「GREAT SKY ART」オーガナイザー。

 浦谷さんがオーガナイザーを務める芸術花火は、どういったきっかけからスタートしたものなのでしょうか?

 きっかけはリーマンショック以降、新聞社が手掛けてきた花火大会が減ってしまったこと。そこで新たな花火大会を立ち上げるプロジェクトに声をかけてもらったんです。でも、どうせやるなら世界一のレベルでやりましょうと。そもそも、日本の花火は世界一の水準ですし、それをモエレ沼公園でやれたらヤバイ組み合わせになるなと思って(笑)。そのためにまず、花火師の世界一集団をつくりました。日本で最も格式が高く、花火師の最高峰を決める大曲の花火大会で優勝、準優勝をした方々を集めたんです。実は高い技術をもつ職人の集団はそれまでなかったし、さまざまな花火師の玉がひとつの演舞に上がるようなプログラムもなかった。でも、僕はそういった団体をつくることで、花火師の素晴らしい技術がもっと知られるべきだと思ったんです。それこそ世界中に。その第一歩として始まったのがモエレ沼芸術花火2014でした。

 お話を聞くと簡単にやっているようですが、きっとその裏にはさまざまな困難もあったと思います。でもそれを乗り越えるほど、浦谷さんを夢中にさせる芸術花火の魅力ってどんなものなんでしょう?

 だって、子供から大人まで、おそらく人種も性別も関係なく楽しんでもらえる、こんなに垣根のないエンターテインメントは、世界中探してもあんまりないと思うんです。例えば、世界的に有名なミュージシャンのライブがあっても、小さな子供とか知らない年代がいるかもしれないですよね。でも、この花火大会ならきっと、見る人全員に楽しんでもらえると思う。きっとそれは花火が、色や光、音のエネルギー、振動やニオイとか、人間の感覚すべてを使って“感じる”ものだからじゃないかな。感動って衝撃であって、頭で考える必要なんてないんです。だからこそ、これを世界にもっていったら、もっとたくさんの人が元気になるんじゃないかなって。実は、いずれ宇宙空間で打ち上げて、地球人みんなで見ようっていうプロジェクトも考えてます。発想が小学生みたいでしょ(笑)。

サザンオールスターズのデビュー40周年記念、茅ヶ崎サザン芸術花火2018の様子。ひとつのアーティストの楽曲のみで構成された芸術花火史上、初の試み。このほか日本各地で開催し、海外でのプロジェクトも動き出している。

 それはすごい! 本当に無邪気な表情で楽しそうに話されていますが、そのパワフルなエネルギーは芸術花火だけではなく、リフォーム会社やコンサドーレの取締役など、多方面に向けられているわけですよね。ご多忙の中、それぞれをうまく動かすために大切にされていることとは?

 そもそも僕は、経営することが好きで。経営って、デザイン的だと思いませんか? というのは、デザインの語源に“問題を解決すること”があるからなんです。デザインって、ただ表面をかっこよくすることではなくて、問題を解決する内側の機能を作るのが目的。その感覚が経営には必要だと思っています。だから、僕の会社のブレーンは全員デザイナーで固めていて、経営の話は彼らとしかしません。プロジェクトや社内に起こっている問題を解決するためには、単純にうわべだけを整えても意味がなくて、関わっているひとりひとりの問題を掘り下げて集約する必要がある。どんな仕組みでも、それを実行する人の特性まで考えてデザインすることがとても大切なんです。実は、このデザイン的な感覚が世の中で生き残ったり、成功したりすることに直結していることに気づいていない人がすごく多いなっていうのも感じています。だから、今回の取材を受けて、その感覚を育てることができる美術の授業はとても大切だなと実感しましたね。

浦谷さんが代表取締役を務めるリフォーム会社のチラシ。そこにはあえてチープな作りにしたり、電話をかけてもらうための仕掛けが。このほか、社内で作成する企画書や見積書ひとつとっても、読ませるためのデザイン性を徹底している。

 そう言っていただけてうれしいです。では、浦谷さんが美術の授業をするならば、どんな内容にしたいですか?

 僕が覚えている美術の授業は、結構覚えなくてはいけないことが多かった印象なんです。でも、自分が物事に対して何を感じるかをもっと考えられる授業がいいなと。だからまずは、好きな人のことを考えてくださいというところから入るかな(笑)。きっと盛り上がると思うし、恋愛ってすごく本能的じゃないですか。何かをしようとする感覚の根底にあると思うんです。例えば、中学生だって、好きな子と会う時におしゃれしたり、メールの絵文字を選んだり、そのひとつひとつを自然にデザインしてるわけで。まずは、そんな風に日常的にみんな美術を使ってるんだよということを伝えたいですね。そのうえで、好きな人や両親を色でイメージしてもらう。普段、だれかを色で表現することをしていなくても、中学1年生くらいならすぐにイメージできるだろうし、気づいてほしい重要な感覚ですよね。さらに、その色で絵を描いてもらったら、すごく刺激的な授業になると思いますよ。

 

取材後記
いろいろな顔を持つ浦谷さん。でも、ベースの考えは一つのようで、どれも楽しんでいる。いいですねー。芸術花火というネーミングや、さまざまなプロジェクトに対しての子供のような無邪気な想い、その根底にはデザインという考え方があって、常に実践されています。こういった主題を持ち、表現したいことをプロデュースする力に美術とのつながりを感じました。サザンと花火も最高ですね、個人的に。(Y)