もっと知りたい指導の工夫 vol.02
成長を実感することが次のステップへつながる

 教科情報誌『形 forme』連載企画「学びのフロンティア」に登場した先生方の取り組みや指導の工夫をさらに深く聞きます。第2回目は315号で紹介した札幌市立真栄中学校・寺田 実先生(実践時)です。

1年間の歩みが見える「アートプロセスカード」

 寺田 実先生が心がけているのは、生徒たちに積み重ねを実感してもらえるようにすること。そのために、毎年、生徒自身が1年間という長期的な学びの歩みを記録するスケッチブックを用意しています。
貼られていくのは、授業のワークシートや、つくった作品。デッサンの授業で描いた絵もあります。
なかでも重要なのが、毎回の授業の感想や気づきを短い文でつづった「アートプロセスカード」。1年間分の発想や構想の過程、創造的な技能の成長などが一覧できます。

記録と振り返りが確かな資質をつくりあげる

 アートプロセスカードの大切さについて、寺田先生はこう語ります。
「作品の出来栄えではなく、悪戦苦闘したプロセスこそが一番大事。生徒たちにも『一生懸命考えて、紆余曲折したことがみんなをつくるんだ』と伝えています。アートプロセスカードを通して身についた振り返りや見通しの力は、いつか子どもたちの確かな資質になるはずです」
また、気づきを言語化して記録することで、その後の授業への取り組み方も変わってくると言います。たとえば『形 Forme』315号で紹介した、アイヌ文様の切り絵をつくるという1年生の授業では、「もっと細かい文様にすればよかった」「すっきりした線にした方が、美しくなったかもしれない」といった感想も見られました。こうした形や色彩について追究し課題解決したことは、2年生や3年生で行う抽象デザインの授業などに生かされていくのです。

「学習目標」と「振り返り(成果・課題)」などが書き込まれたアートプロセスカード

「自ら」「仲間とともに」が実感できることが大切

 アートプロセスカードには、先生からのコメント欄もあります。「500人分を書くのは大変ですが、子どもたちが変わっていくのが嬉しくて」と寺田先生。最初は何を書いたらよいかもわからなかった子も作品の見方や捉え方が豊かになるなど、成長の様子が感じられるのだと言います。
そしてもうひとつ、寺田先生が授業で実践しているのは、生徒が「自ら表現できた」「仲間とともにつくった」ことが実感できる授業づくり。そのために、材料や表現方法などで選択肢を与えたり、仲間の作品を互いに見合って交流したりする習慣を大切にしています。
「『主体的・対話的で深い学び』では、そのような生徒の学習活動を支える教師の役割や想定がますます重要になると思っています。表現に行き詰まっている生徒がいれば、仲間同士支え合って課題解決に向かえるよう導きながら、生徒たち自身が互いの個性の違いや共に成長していることが実感できるようにする。この繰り返しと積み重ねが、目の前の子どもたちの未来や社会を築く土台となっていけばと考えています。」

文:平林理奈(Playce)