vol.04 富山県南砺市立城端中学校 藪陽介 先生
詳しく解説! 私の指導計画(1年生編)

 美術の先生が実際に立てられた年間指導計画を紹介、解説するコーナー。今回から3回にわたって解説いただくのは、南砺市立城端中学校の藪陽介先生です。初回となる今回は、1年生の年間指導計画に焦点を当てて解説いただきます。

 以下より、藪先生が立てられた1年生の年間指導計画の表がダウンロードいただけますので、ぜひ記事と併せてご確認ください!
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目 次

1.はじめに~年間指導計画を立てる際に意識していること~

2.1年生の年間指導計画、どうやって考えている?

3.実際の年間指導計画を解説!
・4月:スケッチの基礎
・5-6月:絵文字をつくろう
・7月:想像してみよう ~見立ての世界~
・9月:鑑賞 風神雷神図屏風 俵屋宗達から琳派
・9-10月:絵と詩のコラボレーション 〜さまざまな技法体験〜
・10-11月:お皿をつくろう 〜陶芸〜
・12-3月:模写にいたずら

1.はじめに~年間指導計画を立てる際に意識していること~

 中学校3年間の美術の時間は115時間です。1日24時間計算で、5日間に満たない数字です。これを多いとみるか、少ないとみるかは別として、高校で美術を選択しない多くの生徒たちにとって、最後の必修美術となるという危機感をもって取り組んでいます。
 1年生では、美術への興味を開くところから、基礎的な知識、技能を身に付けることを主眼においています。2、3年と学年が進むにつれ、応用的な力や、社会とつながる美術を意識していくような題材を設定しています。
 3年間を通して、美術を身近に感じ、生涯、生活の中に美術を感じていける心を育めるよう願いながら行っています。

2.1年生の年間指導計画、どうやって考えている?

 1年生では、中学校に入って「図工」から「美術」という教科名に変わることで、抵抗感をもっている生徒が多いと思われます。最初の授業では、基本的には図工の延長だということ、内容が難しいと感じるかもしれないが、発達段階に応じて進んでいるため大丈夫だということを伝え安心感をもたせています。
 写実の絵から入ると、技術的に自信のない生徒は、その時点で拒否感を抱いてしまう恐れがあるため、「絵文字」のデザインから始めています。この題材を通して、「マス目を比べながらバランスよく目測すること」「混色のメカニズムを理解すること」「中間色を含めた配色を楽しみながら行うこと」など、これからの学習に必要な基本を身に付けることを主眼においています。実際にこのような力が身についていないと、絵画作品の制作は困難になると考えているからです。そのことを念頭に置き、年度の最初にデザイン「絵文字」で学習した内容が、年度終わりの絵画「模写にいたずら」でスパイラル的に生かされる構成としています。
 さらに、さまざまな領域の美術を一年間で体験できるよう、鑑賞も含め網羅している計画となっています。

3.実際の年間指導計画を解説!

 筆者が、1年生の年間指導計画を立てる際に、どんなことを意識していたのかを題材ごとに解説します。

4月:スケッチの基礎

①鉛筆と消しゴムの使い方
 ここでは、「正確に形を捉える」ときに必要な鉛筆と消しゴムの使い方を実習します。小学校でもしっかりとおさえられていることは少ないと思われます。課題例として「できるだけ正確な円を描く」こととします。
何も言わずに描かせたあと、形を正確に捉えるときには鉛筆と消しゴムの使用に「6段階」あることを解説します。
1 まず描いてみる(薄く)
2 (消さずに)修正する
3 はみ出た線を消しながら線の幅を細くしていく
4 1本の線で濃く描く
5 全体を(軽く)消す
6 4の線をしっかりなぞる

「6段階」を経て、もう一度描き、最初のものと比較して自己評価する

②左右同じ絵にするには
 ここでは、片方の横顔を中央の直線に対し、左右対称になるよう目測で写すことをねらいとして行います。
コツとして
1 中心からの距離が同じになるよう目測する
2 図と地の概念から脳内で「図地反転」させることで、より正確に形を捉えやすくする
ことを抑える。

生徒作品

③対象物をよく見る
 ものを見て描くとき、「見ているようで、見ていない」すなわち、既成概念で描く場合がよくあります。幼児から小学校中学年まではそれが普通なのですが、高学年くらいから「見て描く」ことができるようになってきます。しかしそれには個人差があるようです。
 ここでは、対象物を見ざるを得ない状況に追い込みます。自分の手(利き手の逆)を描くのですが、その手のみを見て、描いている紙(手元)を見てはいけないという条件下で行います。当然しっかりとした絵にはならないのですが、手の細かなカーブやしわなどしっかりと見るという体験を重視します。

生徒作品

5-6月:絵文字をつくろう

①マス目を比べながら文字を描く
 ・「永」→「自分の名前(スケッチブックへの記名)」→「絵文字の漢字」
 明朝体、ゴシック体の書体を学びながら、段階的に進めています。その際、文字の枠にマス目を入れ、バランスよく描けるようにしています。ここ最近では、導入されたタブレット端末を活用し、それを見ながら写しています。また、絵文字の配色ではタブレット端末上で、配色のシミュレーションを行った上で、実際に着彩しています。以前よりも完成作品のイメージがつかみやすくなりました。

PC上での配色練習

PC上での配色シミュレーション

アクリル絵の具で着彩した生徒作品

7月:想像してみよう ~見立ての世界~

 導入として、鈴木康広さん、田中達也さんの作品を鑑賞し、興味を引き出します。
 学校内にあるものや身の回りに持っているものなどを撮影し、別なものに見立ててタブレット端末上に加筆する短時間題材です。

生徒作品

生徒作品

9月:鑑賞 風神雷神図屏風 俵屋宗達から琳派

 原寸大の『風神雷神図屏風』をつくり、作品を実感的に鑑賞します。

原寸大になるよう、拡大印刷したものを段ボールに貼り付けて制作した。最初の段階では、折った状態ではなく平面的に。その後、折った状態で屏風として見せた時の違いについても考える

9-10月:絵と詩のコラボレーション 〜さまざまな技法体験〜

 表現の幅を広げるため、モダンテクニックの技法を体験します。できた素材を基に、コラージュをして抽象的な世界をつくりあげます。その際、富山出身の美術評論家・詩人、瀧口修造を紹介し、瀧口が制作したデカルコマニーに詩の一節を添えた作品を鑑賞します。その上で、自分がコラージュした作品から感じ取ったイメージを言葉にして書き込んで完成させます。鑑賞と表現を往還する〔共通事項〕を意識した題材です。

生徒作品

10-11月:お皿をつくろう 〜陶芸〜

 工芸領域の題材として、1年生では素材の加工が容易な粘土を用いた陶芸を行います。制作に週をまたぐと乾燥などのトラブルが発生するため、1校時で終了するよう、板作りで皿をつくることに限定します。そのため、事前の段階で、陶芸についての概略、家にあるお皿の観察、アイデアを練ることなどを終えておきます。陶芸職人さんの映像資料などを活用し、美術文化に親しむことも大切にしています。
 家に持ち帰ってから、実際に使ってみてその感想をレポートにまとめています。自分でつくったものを使う楽しさを実感させたいと願ってのことです。


12-3月:模写にいたずら

 これまでに学習した「マス目を比べながら写すこと」「混色をして自在に色をつくり出すこと」などの力を総合的に発揮する題材として、自分が気に入った名画の模写を行います。古来から絵画を学ぶ際行われている模写を通して、絵画の技法を画家から学ぶことをねらいとしています。自己流の描き方だけでは、絵画の技術を広げたり深めたりしてくことは困難です。画家はどのような順番で色を塗り重ねているのか、水の量を調節しながらどのような濃淡をつくっているのか、滲みや重色などの効果など、元の絵をじっくりと観察することで、自分の技術を高めていきます。
 最後に、少しの遊び心と、個性を生かすため「いたずら」を描き加えて完成させます。既習した「想像してみよう ~見立ての世界~」での視点を生かし、絵の一部分を何か別なものに見立て、他のものにすり替える(デペイズマン)の手法を取り入れます。その際、マルセル・デュシャンのモナリザにひげを書き加えた作品『L.H.O.O.Q』を鑑賞します。さらにデュシャンの『泉』なども紹介し、現代美術の窓口につなげます。

生徒作品『モネの絵にいたずら』

 

執筆者紹介

藪 陽介(やぶ ようすけ)
富山県南砺市立城端中学校 教諭

○経歴
1990年   富山大学教育学部小学校教員養成課程図画工作科専攻卒
1991年~  小矢部市立石動中学校
1994年~  井波町立(現 南砺市立)井波中学校
1998年~  砺波市立般若中学校
2003年~  城端町立(現 南砺市立)城端中学校
2004年~  富山大学教育学部附属中学校
2013年~  南砺市立福野中学校
2021年~  南砺市立城端中学校 勤務