先輩からのアドバイス vol.29
【マンガ】発想に寄り添う

指導や授業で、つまづきがちな悩みや疑問をとりあげ、ベテラン教師から読者と同じ目線で問題解決へのアドバイスを提案します。

ここがポイント

発想が生まれる場に立ち会おう
 子どもたちと授業をしていると、とても楽しい思い付きや問題提議、はたまたとんでもないアイデアに出会うことがあります。教師はそのときの彼らの表情に、その子らしさがあふれていることに気が付かされます。新しい思いを生み出すという、人間らしい力のなんと素晴らしい瞬間なのでしょうか。美術はそうした瞬間にあふれています。
 ここで大切なのは、子どもたちの小さくまだ弱々しい思い付きを、価値づけて、発想という形に拾い上げる教師の目です。あなたは子どもたちのその思い付きに、どのような価値づける言葉や行動で対応しますか? アイデアスケッチを評価しているときに見出すのでしょうか? アイデアスケッチは子どもたちの思いを発想に結び付けるためにはとてもよい活動ですね。しかし多くの生徒の素敵な思い付きやアイデアは、スケッチという活動に昇華される前に儚く消えてしまうということを忘れてはいけません。思いをスケッチに表すという活動はかなり高度な活動であることを理解しましょう。ではどうしたら彼らの思いを汲み取れるのか? それは子どもたちの目線に合わせて、教師がつぶやきや表情といった表出を聞き逃さない、見逃さないということです。
 すべてを聞く、見つけるということは不可能です。でもそのような教師の姿勢が子どもたちの心に熱量を与えます。そのためには自由に語れる教室の暖かな雰囲気も大切ですね。

発想が生まれるとき―教師の立ち位置
 子どもたちは、表現や鑑賞といった造形活動の中でいったいどのようなタイミングで、あるいはどのようなときに新たな発想を生み出していくのでしょうか? 授業の中で子どもたちは、同じようなタイミングで素晴らしい発想を生み出すとは限りません。しかし、授業を俯瞰する視点で見つめてみると発想が生まれやすいときというタイミングは見えてきます。授業開始とともに発想を生み出せる生徒もいますが、発想の多くは授業の主題や、内容を子どもたちが把握したのちに生まれてきます。具体的な制作活動に入る前に最初のポイントがあります。多くの教師がアイデアスケッチの時間を設定する時間です。ここでは友だちとの意見交換や、参考作品の鑑賞といった学習が有効になります。語り合うという行為やアイデアを評価し合うという活動は、スケッチに至らずとも自分のアイデアを確かなものにしてくれます。教師もそこに加わりましょう。しかし発想という力は、静寂の中から生まれることを忘れてはいけません。話し合い、学び合った後には自分と対峙する静かな時間が大切になります。発想の卵が生まれ、頭の中で一つの形に結び付いていくときの瞬間は孤独なのかもしれません。教師もこの瞬間に立ち入るべきではありません。さらに重要な時間は制作途中の試行錯誤の時間です。より確かなものを、よりよいものをという学習の深化が試行錯誤を生みます。ここでの思考とともに現れる気付きを発想力と結び付ける教師の技量も重要です。

(シナリオ・監修、文 川合 克彦)