ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション(カナダ)

偶然の出会いと、アカデミー賞受賞作「ライアン」
そして、奇跡の復活へ

ライアン・ラーキン

 一口にアニメーションといっても、さまざまな表現がある。たまには、アート系の、おもしろさがたっぷり、見る側の想像力を刺激するようなアニメーションはいかがだろうか。

 ライアン・ラーキンの手になる「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」(トランスフォーマー、トルネード・フィルム配給)は、ラーキンの才気あふれる、数少ない短編アニメーション作品(全4作、もう1作は未完で、友人の手で完成)の集大成である。この5作に加えて、ラーキン自身を素材にしたドキュメンタリーふうのアニメーション「ライアン」と「ライアン・ラーキンの世界」が、同時に公開される。すべて短編、上映時間にして合計44分ほど。

 ラーキンは、1943年、カナダのモントリオールの生まれ。1960年代のなかば、勤め先のカナダ国立映画制作庁でその実力が認められ、3分の短編「シランクス」と、1分少しの短編「シティスケープ」を監督する。
 「シティスケープ」は、文字通り、町の風景。わずか1分少しの間に、田舎から都会にやってきた男の混乱や戸惑いが、柔らかなタッチの木炭画で描かれる。
 「シランクス」は、有名なギリシャ神話、ニンフのシランクスと半獣神パンの物語。パンに追い回され、混乱したシランクスは、葦に姿を変える。嘆き悲しんだパンは、その葦から笛を作る、という話である。これまた、木炭で描かれた作品だが、シランクスの変貌する様子が、なめらかに描かれる。音楽は有名なドビュッシーの無伴奏フルートによる「シランクス」。

 1968年、ラーキンは25歳にして、5分の短編「ウォーキング」を撮る。ただ、歩く人の動きを、丹念に描いているかと思いきや、少しずつ人の形が変貌、まるでインクのシミのようになっていく。これが、第42回のアカデミー賞の短編アニメーション賞にノミネートされ、いちやくラーキンは有名になる。

 その後、1972年に9分の短編「ストリート・ミュージック」を作る。これは、さまざまに姿を変えるモンスターたちが、楽しげにダンスを踊る。都会にあふれる人や物たちが、音楽の合わせて、いきいきと踊る。
 やがてライアンは、スランプに陥る。創作意欲が無くなったのか、重度のアルコール中毒になり、コカインにも手を出すようになったという。私生活でも不幸が続き、やがて、アニメーションの世界から去っていく。
 80年代は、ホームレスとなり、路上生活を経験、次第に、ラーキンの名は忘れさられていく。

 ところが、2000年、オタワ国際アニメーション・フェスティバルのディレクターから、ラーキンは審査員を依頼される。これがきっかけで、ふたたび、アニメーションの世界にカムバックしたラーキンは、2008年、監督5作目にあたる「スペア・チェンジ 小銭を」に着手する。
 自身のホームレス体験に基づくアニメーションは、未完のまま、ラーキンは肺がんで亡くなる。

 ラーキンのドキュメント2本、残された5本の作品から、ラーキンの描いた世界は、どのようなものなのか、考えてみた。もちろん、厳しい現実や、創作への夢や憧れは描かれるが、風刺や皮肉というより、ラーキンのアニメーションは、楽しく、美しい。なめらかに変貌する動きや色彩からは、限りない自由を感じる。
 若くして得た名声は、たちまち失うことになったが、アニメーションという表現で、自らを主張したラーキンの遺産は、見るべき価値があると思う。

2009年9月19日(土)、ライズXほか奇跡のロードショー

■「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」

ライアン』2004年 監督:クリス・ランドレス/第77回アカデミー賞短編アニメーション賞 受賞
ライアン・ラーキンの世界』2004年 監督:ローレンス・グリーン
シランクス』1965年 監督:ライアン・ラーキン
シティスケープ』1966年 監督:ライアン・ラーキン
ウォーキング』1968年 監督:ライアン・ラーキン/第42回アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート
ストリート・ミュージック』1972年 監督:ライアン・ラーキン
スペア・チェンジ 小銭を』2008年 監督:ライアン・ラーキン、ローリー・ゴードン
カナダ/計44分/スタンダード、アメリカン・ビスタ/ステレオ/デジタル上映


夏休みの宿題

学び!と美術Vol.29_01

 8月になると、あっという間に夏休みが終わってしまうと感じた、子どもの頃を思い出します。研修や免許の更新、部活動で多忙を極めた教師のみなさんも新学期に向けて気合いを入れ直している頃でしょう。新聞の4コマ漫画やTVアニメなどでは、夏休みの宿題に追われる子どもたちが一時の主役です。夏休み中の天気をすべて教えてくれるサービスもあると聞いたことがあります。

 夏休みの宿題のイメージは、昆虫採集と作文、そして絵という風景は今も変わっていないのでしょうか。珍しい夏休みの宿題特集をしてみるとおもしろいかもしれません。子どもたちにとって夏休みの宿題は楽しみなのか、それとも苦痛なのでしょうか。たとえ苦痛であっても、これまでの学習不足を補うためと、意志強く練習問題に取り組んだ子どももいるでしょう。「自由研究」として宿題を課す教師のみなさんは、自主的な研究心と楽しさを期待していると思われます。
 何れにせよ、夏休みのような貴重な時間に包まれる夢のような少年・青年期はすぐに覚めてしまいます。時間とエネルギーを自らの学びのために費やせる幸せを、子どもたちに話してあげて欲しいと思います。果たして、絵の宿題を楽しみと感じて取り組んだ子どもはどれほどいたのでしょう。

 図画工作・美術科は楽しいと感じる宿題をもっとも工夫しやすい教科なのかもしれません。
 絵の宿題に取り組む情況は、それぞれの家庭ではどのような様子なのでしょう。教師のみなさんも、この時期ばかりは、母として父として我が子と向き合い、忙しい両親が日頃の信頼回復をねらうチャンスであったかもしれません。一方で、教師である自分と、親である自分とについて考えさせられたかもしれません。
 職場での良い教師は、必ずしも良い家庭人とは限らない情況は、私も多々見たり感じたりしてきましたが、良い家庭人は、職場でも良い教師であったような気がします。また、そうあってほしいと願います。
この夏休みの宿題にまつわる問題で、私自身もこれまで解決できずに気になっていることがあります。
 それは、夏休みの宿題を「親が手伝っていいか」という問題です。やる気のない我が子を見て、ついつい手を出してしまい、気がついたら「親の作品」と子どもの依存心だけが残ったという場合も多いのではないでしょうか。これは、授業のときの教師が児童生徒の作品に手を入れたり加筆したりすることと共通する問題でもあります。

「やってみせ・・」

 本人以外の手が入ることを強く嫌う傾向には、自由画の思想があるようです。戦後の主流である「絵をかく意味」は自己表現です。絵には、その子らしさ、成長の様子が形として現れ、本人が現状の自分と向き合いながら成長するという期待があります。そして、見守る保護者や教師が、彼らの自己表現を通して、学ぶ子どもを支援する手段にするという教育的意味があります。確かに、大きい画用紙と格闘しながら、その子ならではの感動や思い出を表現した絵には、大人の意図的な絵などは蹴散らされてしまいそうなすばらしい作品があります。それは作者の健全な成長を示すものであったりします。
 すべての子どもたちがそうあって欲しいと願いながらも、決してそうではない多くの子どもたちにも注目する必要があります。
 「自由画」や「自由研究」を課されて不自由に感じている子どもたちを私はたくさん知っています。かいたりつくったりすることが好きな子どもたちでさえ、必ずと言っていいほど「何をかけばいいのか分からない」経験をします。そんなとき、そっと、子どもの背中を押してやるように加筆をしたり、手伝ってやったりする優れた教師や保護者が必要だと私は思います。
名言を借りれば、

「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ・・・」(山本五十六1884~1943)

 絵をかき続けようとしない子どもがいます。自発的・自立的に学習に向かう子どもたちにも、自らの力では解決できない課題に直面するときがあります。絵に表すヒントや文章表現なども習作の中で「真似ぶ」ことをさせながら、学習意欲を高めてやる必要があると考えています。
 子どもたちの成長とは、まず、やってみせ、言って聞かせながら遂げられたことなのですから。

導入事例 Case12

小学校3年『タイヤをつけて出発進行!』(4時間)
日本文教出版教科書3・4年(上)
* 箱やペットボトルの下に、竹串とストローの車軸を貼り付け、ペットボトルキャップをタイヤ(4輪)にした「乗り物」をつくる題材です。

◎主な材料
・紙箱 ・ペットボトルとキャップ ・ストロー
・竹串 ・ダンボール ・木工用接着剤

◎導入の工夫
 教室に、木などをまくらにして緩やかな傾斜をつけた長机(脚は立てない)をセットし、参考作品をすべらせて見せる。途中の実験や完成作品のお披露目にも使います。

T:(参考作品を長机の上に停めておき)手を離すとどうなるかな?
C:走り出すよ。きっと。早くやってみて。(手を離すと)すごい。すごい。
T:みんなが自分で持ってきた箱やペットボトルでもできそう?
C:うん,できそう。(すぐにでもつくりたそうにしているが…)
T:もう一台用意してあるんだ。このタイヤはどうかな?
C:大きい。前と後ろのタイヤの大きさが違う。
T:どうやってつくったタイヤだろう。(全体にタイヤの部分を見せる)
C:どこかで見たことあるような気がするけど…。ダンボール?
T:そうだね。こんな風にしてタイヤにしたんだよ。(もう一度走らせて)耳をすませてごらん。
C:カタカタなってる。
T:スピードはペットボトルキャップのタイヤほどじゃないけど,音がするね。
T:段ボールタイヤのいいところはどんなことだろう。
C:好きな大きさにできるよ。幅の広い帯があれば太いタイヤになるかも。
(グルーガンで補強できるようにしておくと,ずっと使用に耐えるものになる。)

学び!と美術Vol.29_02

(1)猫の顔を車体の前側に細長く表現

学び!と美術Vol.29_03

(2)右手は、黒い発泡トレイのレーシングカー

学び!と美術Vol.29_04

(3)車体の紙は「風受け」,後方からうちわで扇ぐ

学び!と美術Vol.29_05

(4)タイヤの色が走るとカラフルに変わる

(I先生の実践から)

導入事例 Case13

中学校2年 『スクラッチボード』
*白黒による線描表現で動物などをリアルに描いて、美しい明暗のトーンを楽しむ題材です。

◎主な材料
・ スクラッチボード(B4) ・ニードルなど

◎導入の工夫
 作品例、明暗の基本的表現、画面へのかたちの入れ方を黒板に図示しておく。
条件は以下の3点。
(1)明るい部分、暗い部分が適度に含まれており、色みの無い表現に変えても美しいもの。
(2)なめらかに明から暗までつながる面があること。
(3)形を大きく画面に取り込み、面処理を見せやすいこと。

T:(参考作品を見せながら)最初に見る力、とても大事です。「何でひっかいたのかな~」細かい線をたくさんひいてるな~大変なのかな~」とか、「リアルに表せるんだな~」とか、よく見ると、たくさんの事が分かります。これが人間のすごいところです。
C:おお~。
T:どの作品ももともとは黒のボードです。厚めのブラスチックに黒のコーティングがしてあります。
それをニードルを使ってひっかき、傷を付けていきます。線は細い方が美しく仕上がります。下絵用紙いっぱいに下がきしてください。
C:はーい。
T:線の使い方により滑らかな面、硬質な面など質の高い画面が得られるのがこの素材の特性です。

学び!と美術Vol.29_06 学び!と美術Vol.29_07 学び!と美術Vol.29_08

(T先生の実践から)


寝る子は育つか

 子どもの生活スタイルが大きく変化する中、日本で言い伝えられてきた「寝る子は育つ」は今でも通用するのだろうか。
 今は夜更かしの時代だといわれる。ふた昔前までは「もう子どもの時間は終わったのだから寝なさい」というしつけがされていた気がする。しかし今はこうしたしつけは死語に近い。子どもを取り巻く放課後の世界が大きく変わっている。
 それでは、睡眠時間の「短い」子どもと「長い」子どもとでは生活スタイルはどう違っているのだろう。「寝る子は育つか」という問いに答えたい。

■睡眠時間の「長い子」VS「短い子」の特徴的なデータ

 ベネッセは、昨年全国的規模で子どもの生活時間の調査を行った。その結果の速報版が7月に出された。ここではそのデータに依拠しながら「寝る子」の意味を考える。
 ここでは、小学校高学年の睡眠時間の「短い」は8時間以下の睡眠、「長い」は9時間15分以上の睡眠、と考える。
 睡眠時間の「短い」子どもはどんな特徴を持っているのであろうか。
 睡眠時間の「短い」子どもほどテレビ視聴時間が長い。そして携帯を使っている。さらに音楽を聴く時間が長い。中高校生と同じ生活スタイルをとっている。
 睡眠時間の「短い」子どもほど昼寝をする。13%と一割を超える。この昼寝は放課後帰宅してからが多い。夕食時半分眠りながら食べた経験がある五十代以上の者には想像できないだろう。
 睡眠時間の「短い」子どもほど外遊びとスポーツをしない。外遊びを「しない」割合は36.6%(短い)> 22.0%(長い)となり、「短い」子どもほど数値が大きくなる。
 だからであろうか、睡眠時間の「短い」子どもほどぼーっとする傾向にある。「ぼーっとしない」割合は27.3%(短い)< 34.4%(長い)となり、「短い」子どもほど数値が小さくなる。睡眠時間の「長い」子どもほど何か夢中になる事柄があるのである。そして「短い」子どもは一人で過ごす時間も増える。

■睡眠の短い、長い子どものそれぞれの姿

 ここからは、これまでのデータに付け加えて両者の姿を浮き彫りにする。
 睡眠時間の短い子どもは26%とほぼ四人に一人である。彼らは寝るのが11 時と他の子どもに比べて遅い。当然ながら朝は早く起きている。そして普段の行動をみるとテレビゲームで遊ぶ時間は少ないものの、テレビ視聴時間は長く、音楽を聴いている。しかし外遊び・スポーツはしなくて一人で過ごす時間が多く、塾にも通い中学校を受験するつもりである。そして忙しいと実感し昼寝もしており、ぼーっとすることもある。また、規則正しい生活をしているとも思ってなくて、睡眠時間を増やしたいと思っている。
 しかし、彼らの将来の目標ははっきりしており、半数に近い子どもが大学以上の進学を望んでいる。実際、中学受験も3割を超える子どもが希望している。家庭では半数が自分専用の部屋をもち、パソコン、それから携帯電話を持っている。親の学歴も半数かそれに近い割合で大学卒(短大卒も含む)である。かなり裕福な家庭出身であるが、それは両親の高学歴と共稼ぎで支えられている、と推測できる。
 そこで気になるのは帰宅時間やテレビゲームなどで遊ぶ時間を決めていない子どもがいることである。
 一方、睡眠時間の「長い」子どもも25.1%とほぼ四人に一人である。彼らは睡眠時間の「短い」子どもと対照的である。寝るのは早く睡眠は十分である。テレビゲームはするものの、テレビ視聴時間は少なく外遊び・スポーツをしており、友達と交流している。塾も3 割強とそれほど通ってなくて中学受験(1 割に満たない)はあまり考えていない。そして、あまり忙しさを感じていなくて、ぼーっとした時間も少なく、昼寝も少ない(6%)。規則正しい生活をしており、睡眠時間は今のままでよいと思っている。
 確かに、将来の目標がはっきりしていないところはあり、自分専用の部屋やパソコン、携帯電話を持たないものの家に帰れば誰かが家にいる。
 睡眠時間の「短い」子どもたちの生活スタイルは、中高校生のような受験に追われ忙しくて疲れた姿である。一方、「長い」子どもの生活スタイルはふた昔前の姿のようである。
 こうした子どもの姿から、平成の時代でも「寝る子は育つ」といえる。しかしそれは四人に一人の割合である。睡眠時間の「短い」子どもも四人に一人いる。生活スタイルが二極化し始めているのが気になる。

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橋下知事が中学校で授業

■まるでオバマ状態

 体育館に“ウォー!”という歓声と大きな拍手が起こった。
 500人を超える中学生たちが橋下知事を迎えた瞬間だった。知事は半袖のカッターシャツにノーネクタイのクールビズスタイルで手を振りながら笑顔で入場してきた。
 平成21年6月26日午後、大阪狭山市立南中学校で「裁判員制度」についての授業が行われた。
 前日は東京で石原都知事と会ったり、横浜市の中田市長と会ったり、東国原知事が自民党から立候補かという報道が流れたりした超多忙な日程の中で、次の日に大阪の一つの公立中学校で生徒たちに授業をするというのである。
 その熱意というか意欲というか行動力に大人たちだけでなく、中学生たちも知事に拍手を送っている。
 「知事が来てくれるこの狭山南中学って、すごいと思う人?」と、進行役をつとめる「よのなか科」の藤原和博氏(大阪府教委特別顧問)が生徒たちに問いかけた。
 「ハーイ!」と一斉に手を挙げた生徒たちから、また歓声と拍手が起こった。
 まるでオバマ状態のスタートだった。

■授業で知事が訴えたこと

 突然、二人の男が体育館の横の入口から大声を出しながら乱入してきて、体育館フロアーの中央で二分間ほど、何やら叫んで走り去っていった。
 ここから授業が始まった。
 「今、立ち去っていった二人の人物の人相、服装など、覚えていることをカードに書いて班で話し合ってください。」
 突然のことで、生徒たちからはあまり意見が出てこないので、藤原氏が「知事ッ。弁護士として、目撃者の証言で大事なことって何ですか?」とふった。
 「皆が言ってくれたメガネとか40~50歳くらいの男というだけでなく、クツの色とか腕時計とか腕章をしていたとか個人が特定できる意見が欲しかったけれど、大切なことは、人間の記憶ってあいまいだということ、証人の意見もあやふやな記憶が多いことを知って欲しい。
 今年から裁判員制度がスタートしました。君たち中学生も、もう5、6年すれば裁判員に選ばれるかもしれない。足利事件の菅家さんのような間違いが起こらないように何が大切かしっかり考えよう。」と知事が説明。
 イギリスのバルガー事件という少年による幼児殺害事件を例にあげて授業は進んだ。
 大阪狭山市の吉田市長が検察官の最終弁論を読みあげる。橋下知事が弁護士として抗弁をする。生徒たちはシーンとして要点をメモしながら聞いている。
 バルガー事件の被告人の年齢は10歳、日本の少年法では14 歳未満は刑事罰の対象にならないのは甘いと思うかなど、各班に入っている地域のボランティアの大人や大学生と一緒に生徒たちは活発に意見を交わしている。
 「今、検察側の意見を言っていた人は、次は弁護側に立って話し合いをしてください。」
 授業は1時40分から始まり3時30分まで110分間続いた。知事は最後に「裁判というのは、証拠や罪の意識や殺意や判断能力など、いろいろな角度から考えなければならない。一方的な意見ではなく柔軟に立場も変えて考える力をつけて欲しい。」と語った。

■生徒にとって○○記念日

 大人もいれたら800人はいただろうか。
 梅雨の体育館はクーラーもなく、ものすごい暑さだった。
 その中で100分以上の授業に全員の生徒が知事の話を真剣に聞き、話し合い、意見を発表した。
 「授業って何だろう?」と思わされた。
 話し合う班をまわりながら声をかける知事の熱意を生徒が感じたのか、教材やテーマが生徒を引きつけたのか、生徒たちが日頃から立派なのか、進行役の藤原氏のリードがよかったのか、おそらく、それらが全て合わさって、悪条件の中でも授業が成立したのだと思う。
 狭山南中の生徒にとっては、大人になっても思い出に残る○○記念日となったに違いない。
 子どもたちの為になることなら、なんでもやってやろうという気持ちにあらためてなった一日だった。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員

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「マルタ/フィンガーペインティング」 チャック・クロース作

油彩/キャンヴァス/61.2×51.2cm/1986 © Chuck Close, courtesy PaceWildenstein, New York
油彩/キャンヴァス/61.2×51.2cm/1986 © Chuck Close, courtesy PaceWildenstein, New York

 作品を鑑賞するとき、「作品をよく見ましょう」といわれます。では、この作品をよく見ると何が見えるでしょうか。答えは、指紋です。この作品は、指に白い絵の具をつけて、黒い地の上にペタペタと押して描かれています。近づいてよく見れば大小や濃淡に変化をつけた無数の白い指紋が見えます。離れて見れば人物の肖像。モデルは女性です。この作品を見た生徒の中に、男性だと思ったという人がいました。そういわれると男性にも……。
 作者のチャック・クロースは、作品の制作に写真を使うフォトリアリズムの画家です。親しい人を写真に撮り、写真そっくりに一辺が数メートルもある巨大な肖像画を描きます。これが彼の基本スタイルです。しかしそれだけではありません。一枚の写真から様々な方法で複数の作品を制作します。カラー印刷のように色を三原色に分解して塗り重ねてみたり、画面を碁盤の目のように縦横に区切ってそのマスに濃淡の差をつけてモザイク画のようにしたりします。また、エアブラシを使ったり、細かい線を引いたり、指で捺したりして描きます。
 なぜこのように手の込んだことをするのでしょうか。クロースは次のように語っています。「いろんなシステムを使って執拗に同一人物を描き、容貌にどんな変化が起こるか……いかにしてほんのちょっとした変化が、ものの認識のされ方に甚しい相異をもたらすのかみる」*
 つまり、描かれた視覚情報の違いが人の認識にどう関わるかがポイントです。
 この作品をよく見ることで、人の姿が黒面上に配された白い指紋の集積であるとわかったとき、私たちは、指紋という抽象的符号の集積を、マルタという人物の写実的な肖像画として認めたことに気付きます。ところで、女性か男性かを判別する視覚情報はどうなのでしょうか。指紋は、作者のクロースという男性固有のものではあるのですが…。
 *リサ・ライオンズ「チェンジング・フェース-チャック・クロース年譜」(チャック・クロース展カタログ フジテレビギャラリー 1985年)より引用しました。

(徳島県立近代美術館学芸員 安達一樹)

徳島県立近代美術館ico_link

  • 所在地 徳島県徳島市八万町向寺山 文化の森総合公園
  • TEL 088-668-1088
  • 休館日 月曜日(休日の場合は翌日)

<展覧会情報>

  • おもろいやつら-人間像で見る関西の美術
  • 7月18日(土)~8月30日(日)開催

展覧会概要

  • 徳島県立近代美術館のコレクションの魅力を探る展覧会。同館のコレクションのテーマ「20世紀の人間像」を、「関西の美術」という切り口で作品を紹介。関西独特のニュアンスを持つ言葉「おもろい」がキーワードのユニークな企画展です。

<次回展覧会予定>

  • 美術の国徳島II -谷口董美、山下菊二兄弟 故郷のイメージを描く-
  • 9月5日(土)~10月12日(月・祝)開催