はじめに
文部科学省は、特殊教育から特別支援教育への移行の際に、特別支援学校が地域の小・中学校を積極的に支援すること、つまり特別支援学校が「センター的機能」を発揮することの必要性を示しました。
日本型インクルーシブ教育、正式には「インクルーシブ教育システムの構築」では、障害がある子どもとない子どもが同じ場で共に学ぶ仕組みを目指しつつ、特別支援学校や特別支援学級といった「多様な学びの場」を用意し、子ども一人ひとりの状態に応じた柔軟な教育を提供することを方針としています。この枠組みでは、障害がある子どもが通常の学校に在籍することについては、本人や保護者の意向を最大限尊重して最終的には市町村教育委員会が就学先を決定することになっています。こうした仕組みのもとで少なくない数の障害がある子どもが通常の学校で学んでいます。その場合、通常の学級における教員のマンパワーや専門的な指導体制の整備が課題となってきますが、実際に十分な対応が困難な場合もあるようです。特別支援学校から積極的な支援を受けることができれば、より適切な対応が可能となります。インクルーシブ教育システムの構築を推進するために特別支援学校のセンター的機能の一層の充実が期待されます。
このセンター的機能については、本稿の<Vol.07(2020.08.25)>(*1)で紹介したのですが、それから6年近く経過しています。次期の学習指導要領改訂を目指して中央教育審議会特別支援教育ワーキンググループ(以下WGと記す)で検討されていることもあり、この話題を取り上げることにしました。
センター的機能とは
学校教育法の第4条を確認しておきましょう。
特別支援学校においては、第72条に規定する目的を実現するための教育を行うほか、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校の要請に応じて、第81条第1項に規定する幼児、児童又は生徒の教育に関し必要な助言又は援助を行うよう努めるもののとする(*2)。
ここには、特別支援学校が通常の学校の要請に応じて支援を行うことが盛り込まれています。このことを受けて、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領には、第1章第6節 学校運営上の留意事項として次のように記されています(*3)。
小学校又は中学校等の要請により,障害のある児童若しくは生徒又は当該児童若しくは生徒の教育を担当する教師等に対して必要な助言又は援助を行ったり,地域の実態や家庭の要請等により保護者等に対して教育相談を行ったりするなど,各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特別支援教育のセンターとしての役割を果たすよう努めること。その際,学校として組織的に取り組むことができるよう校内体制を整備するとともに,他の特別支援学校や地域の小学校又は中学校等との連携を図ること。
2005年(平成17年)に示された「特別支援教育を推進するための制度の在り方(答申)」には、センター的機能の具体的な内容として具体的に次のような機能が示されています。
①小・中学校等の教員への支援機能
②特別支援教育等に関する相談・情報提供機能
③障害のある幼児児童生徒への指導・支援機能
④福祉、医療、労働などの関係機関等との連絡・調整機能
⑤小・中学校等の教員に対する研修協力機能
⑥障害のある幼児児童生徒への施設設備等の提供機能
筆者は、国立特別支援教育総合研究所に在職中、こうしたセンター的機能の内容について検討する開発的研究に係わっていました(*4)。
センター的機能の活用状況
センター的機能の取り組み状況について、文部科学省では2009年(平成21年)から2015年(平成27年)まで毎年調査を実施し、その結果をホームページに公開していました(*5)。
その実施がほぼ定着したためでしょうか。2016年(平成28年)度以降は単独課題での調査は実施されていないようで、特別支援教育に関連する総合的な調査の中で扱われています。「令和4年度 特別支援教育に関する調査」には、2021年(令和3年)度に実施した特別支援学校のセンター的機能の取り組みに関する状況調査の結果が示されています(*6)。
この調査結果では相談件数、校内体制の整備状況、(図1)、取り組みの内容(図2)など量的側面での達成状況が示されています。センター的機能を主として担当する分掌・組織を設けている特別支援学校は97.0%(前回値:96.3%)に達していました。設置が求められている特別支援学校がほぼ対応しているといえます。

図1 2021年度におけるセンター的機能の取り組みの内容(*6)
出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/content/20231020-mxt_tokubetu02-000032348-1.pdf )

図2 2021年度におけるセンター的機能のための校内体制の整備(*6)
出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/content/20231020-mxt_tokubetu02-000032348-1.pdf )
この調査では、センター的機能の内容の一つである小・中学校等の教員からの相談及び自校の在籍ではない幼児児童生徒及び保護者からの相談に対応している特別支援学校も9割以上に達していました。2021年度の相談延べ数は、小・中学校等の教員からの相談が110,387件、子ども及び保護者からの相談が92,998件に上っていたということです。この調査報告からは、国公立の特別支援学校のほとんどには対応する部門(分掌・組織)が設けられていること、通常の学校からの相談に特別支援学校がしっかり対応していることが伝わってきます。すでに、外形的な整備は一応整ったといってよいようです。
他方、通常の学校では、どれだけ特別支援学校のセンター的機能を利用しているのでしょうか。中央教育審議会第8回特別支援教育WGで配布されて資料によると、小学校で66.8%、中学校で63.3%、高等学校で44.7%の学校が特別支援学校の支援を受けているということです。支援を受けていない学校は、小学校で16.4%、中学校で17.5%、高等学校で15.3%となっており、各学校段階の4分の1は支援を受けていないということがわかりました。実際に支援の対象児童生徒がいないという学校が小学校で16.7%、中学校で19.2%、高等学校で40.0%ありました。しかし小、中学校に在籍していて特別支援対象である児童生徒が8%を超えている現状からすると、これらの中にも本来は特別支援学校と連携した方が望ましいと思われる学校も含まれている可能性があるように思われます(*7)。

図3 特別支援学校のセンター的機能の活用に関する状況(*7)
出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/content/20260421-mxt_tokubetu01-000049220_009.pdf )
中教審WGでの検討状況
次期学習指導要領の策定に向けて、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会で審議が進められています。特別支援教育関連については、特別支援教育WGで検討されています。センター的機能に関する課題については、2025年(令和7年)10月9日に開催された第1回特別支援教育WGで次のように示されていました(*8)。
通級による指導に関する課題
特別支援学校のセンター的機能を活用した助言や援助を受けることができておらず、障害の状態等に応じた適切な指導に課題を抱えている学校もある。
特別支援学校に関する課題
障害の早期発見・早期支援の更なる充実に向けた、センター的機能を発揮した乳幼児期を含めた相談体制の充実等も必要。
高等学校に関する課題
特別な教育的支援を必要とする生徒が高等学校においても急増している現状を踏まえ、個々に応じた適切な指導や必要な支援の実現に向けた方策について、特別支援学校のセンター的機能の活用も含め、どう考えるか。
第8回特別支援教育WGでは、以下のような検討の方向性が示され、議論されました(*7)。
小・中・高等学校の学習指導要領に関して
- 総則に、センター的機能の活用に係る規定が設けられているものの、解説において、具体的な活用場面に即した記載がなされておらず、センター的機能を活用して考えられる取組について具体的に記載することなどを検討してはどうか。
特別支援学校の学習指導要領に関して
- 特別支援学校には、特別支援教育に関する相談や情報提供、教師への支援のみならず、小・中・高等学校の教師への研修協力や、医療、福祉、労働等の関係機関等との連絡・調整についても期待される旨、特別支援学校によるアウトリーチ的な取組も期待される旨を解説等において記載してはどうか。
- 小・中・高等学校において体制整備が課題となる弱視や難聴などの子供たちが在籍している場合、視覚障害や聴覚障害の特別支援学校が確実に域内の弱視や難聴の子供たちへの支援体制を構築することが期待されている旨も解説等で記載してはどうか。
- 障害のある乳幼児に対して、障害の早期発見と早期支援を進めていくことも必要であり、特に視覚障害や聴覚障害の乳幼児に対する支援において、特別支援学校が担う役割はこれまで以上に期待されていることから、解説において、乳幼児教育相談の充実についても言及を図ってはどうか。
そして、直近の5月28日に開催された第9回特別支援教育WGでは、これまでの議論を踏まえて取りまとめ骨子案(イメージ)が示され、特別支援学校のセンター的機能の充実について、次のように整理されていました(*9)。
- センター的機能を活用して考えられる取組について、具体的な活用場面に即した記載などを、小・中・高等学校の解説等で示すこと
- 特別支援学校にアウトリーチ的な取組も期待されることや、小・中・高等学校において体制整備が課題となる弱視や難聴などの子供たちが在籍している場合には、特別支援学校が確実に支援体制を構築することが期待されている旨を特別支援学校の解説等で示すこと
- 障害のある乳幼児に対して、障害の早期発見と早期支援を進めていくことが重要であることを踏まえ、特別支援学校の解説において、幼児教育相談の充実についても示すこと
特別支援教育WGでのセンター的機能討に関する検討の流れはおおよそ上記のとおりですが、センター的機能の一層の活用に向けた周知や特別支援学校における支援や相談機能の一層の充実といった、いわば量的な側面での充実を図るという方向でまとめに向かっているようです。
おわりに
これまでの文部科学省のセンター的機能に関する調査においても、普及という観点から量的な側面での拡充が重視されていたように思います。特別支援学校のセンター的機能に求められている「地域の小・中学校を積極的に支援」するためには、支援を受ける小・中学校側にとっての充足度や、相談や支援の有効性等の質の側面のレベルアップを図っていくことも大切になってきます。
筆者らが2016年に実施した小学校を対象とした調査では、センター的機能が概ね有効に働いていることが把握できた一方で、特別支援学校からの支援に対してその質に不満を示す回答もありました(*10)。それらは、小・中学校の実情を考慮しないアドバイスや一方的な支援に戸惑ったというものでした。
センター的機能について量的な側面から一層の充実を図ることはもちろん大切なことですが、「インクルーシブ教育システムの構築」において、インクルーシブ教育の理念の実現に向け、障害がある子どもと障害がない子どもが可能な限り共に教育を受けられるように条件整備を行うためには、センター的機能の質のレベルアップも欠かせません。中教審のWGでは、実現可能性のある改善の方向性を示すことに尽力していますが、質的な面も含めて検討が進んでいくことを期待したいと思います。
*1:日本文教出版(2020)「学び!と共生社会 <Vol.07> 小・中学校等のインクルーシブ教育と特別支援学校のセンター的機能の活用」
https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/inclusive/inclusive007/
*2:学校教育法
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000026#Mp-Ch_8-At_74
*3:文部科学省(2017)「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領」(第1章第6節3)
https://www.mext.go.jp/content/20200407-mxt_tokubetu01-100002983_1.pdf
*4:国立特別支援教育総合研究所リポジトリ(2025)「特殊教育諸学校の地域におけるセンター的機能に関する開発的研究(総説編)」表紙、目次
https://nise.repo.nii.ac.jp/records/2001254
*5:文部科学省(2009~2017)「特別支援学校のセンター的機能の取組に関する状況調査関連」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/1343892.htm
*6:文部科学省(2023)「令和4年度 特別支援教育に関する調査結果について」
https://www.mext.go.jp/content/20231020-mxt_tokubetu02-000032348-1.pdf
*7:中央教育審議会 特別支援教育ワーキンググループ(第8回)(2026)「【資料4】第8回特別支援教育ワーキンググループの検討事項」
https://www.mext.go.jp/content/20260421-mxt_tokubetu01-000049220_009.pdf
*8:中央教育審議会 特別支援教育ワーキンググループ(第1回)(2025)「【参考資料1】特別支援教育ワーキンググループ 参考資料集」
https://www.mext.go.jp/content/20251007-mxt_tokubetu01-000045071_011.pdf
*9:中央教育審議会 特別支援教育ワーキンググループ(第8回)(2026)「【資料1】第9回特別支援教育ワーキンググループの検討事項」
https://www.mext.go.jp/content/20260528-mxt_tokubetu01-000050228_003.pdf
*10:香川邦生・大内進編著(2021)『インクルーシブ教育を支えるセンター的機能』慶應義塾大学出版会








