小さな村の小さなダンサー

(C)Last Dancer Pty Ltd and Screen Australia

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 中国ではこのところ、若くして、世界的脚光を浴びる人が多い。80后(バーリンホウ)と呼ばれ、文字通り、1980年代の生まれである。
 作家のハン・ハンは、アメリカ、タイム誌の「2010年世界で最も影響力のある100人」に選ばれている。また、ラン・ランはクラシックのピアニスト。昨年暮れには、サイモン・ラトル率いるベルリン・フィルハーモニーと共演している。ポップス歌手のリー・ユィチュン、女優のファン・ビンビン、コメディアンのシャオ・シェンヤンなどなど、いずれもまだ20代、将来有望な若い人たちである。
 1961年生まれ、バレエのダンサーとしてアメリカでブレイク。結果、アメリカに亡命するが、ダンサーとして有名になったリー・ツンシンも、いまで言う、バーリンホウの先輩格だろう。17歳で渡米、21歳で、ヒューストン・バレエ団のプリンシパルとなる。
 映画「小さな村の小さなダンサー」(ヘキサゴン配給)は、リー自身が、波瀾万丈の半生を振り返った自伝が原作である。これが、オーストラリアで出版され、ベストセラーとなる。
 1979年、テキサス州ヒューストン。中国のダンサー志望の若者リーが、はじめてアメリカに降り立つ。そして、幼いころを回想する。
 1972年、中国の山東省の小さな村。11歳の小学生リーは、貧しい暮らしではあるが、活発な男の子。たくさんの兄弟なのに、両親は愛情豊かである。
 ある日、生徒たちは「東方紅」を歌って、北京からの視察団を歓迎する。視察団は、全国からダンスの才能ある少年少女をスカウト、北京で英才教育を施すというもの。ちょうど、文化大革命の真っただなか、毛沢東夫人の江青が、文化政策の一環として展開しつつあった計画である。
 たまたま、先生の推薦で、リーが選ばれ、北京の舞踏学院に入ることになる。いかにも文革時代の雰囲気のなか、リーは、クラシック・バレーの基礎を身につけていく。厳しい訓練である。ひとり泣く日もある。
 リーの才能を評価するチェン先生は、ひそかに隠し持った西洋のダンサーたちの映像を、リーに見せる。リーは、ますます踊ることへの夢を募らせる。やがて、チェン先生は文革のせいで下放になる。
 1976年、周恩来、毛沢東が相次いで死去、文革は終結、改革開放がスタートする。1978年、アメリカから、ヒューストン・バレエ団の一行が北京に来る。リーは、バレエ研修生として、初めてアメリカに渡る。
 なにもかもが、カルチャー・ショックのなか、リーは突如、代役として「ドン・キホーテ」を踊ることになる。これが評判となり、リーはダンサーとしての名声を獲得するが、やがて、二度と中国に戻れなくなるほどの、たいへんな事件に巻き込まれていくことになる。
 しかし、感動的なラストが、笑いと涙に包まれて用意されている。
 「白鳥の湖」や「春の祭典」など、すばらしいバレエのシーンが続く。
 激動する中国の状況が、自由の国アメリカを舞台に、さりげなく描かれる。
 少年、青年、成人と、リーを演じる3人の俳優が、いい。ことに成人してからのリーを演じるツァオ・チーは、15歳でイギリスに留学、1995年に、バーミンガム・ロイヤル・バレエに入団、いまではプリンシパルを務めるほどの現役のダンサー、まさに適役である。
 演出は、アカデミー賞の最優秀作品賞を受けた「ドライビングMissデイジー」の監督、ブルース・ペレスフォード。激動する政治状況にあって、ダンサーとしての夢を実現しようとするリーの苦悩を、劇的に描いて、あきさせない。
 いまは、バーリンホウよりさらに若い世代、90年代生まれの90后(ジュウリンホウ)といわれる若者たちが、中国から世界に飛び立とうとしている。
 リー・ツンシンは、34歳でオーストラリア・バレエ団に入団、ダンサーとなり、現在49歳。オーストラリアのメルボルンに在住、作家である。

8月28日より
Bunkamura ル・シネマ、シネスイッチ銀座他 全国ロードショー

■「小さな村の小さなダンサー」

監督:ブルース・べレスフォード
製作:ジェーン・スコット
脚本:ジャン・サーディ
出演:ツァオ・ツィー、ジョアン・チェン、カイル・マクラクラン ほか


改革のミッションは「体験格差」の是正と体験カリキュラムの編成

■ 「体験」をなぜ問題にするのか

 「体験」をなぜ問題にするのか。それは次の理由からである。子どもの世界に体験格差が生まれている。とりわけ、格差は子どもの放課後の生活で生まれている。
 危惧するのは、この体験格差は家庭の経済格差から生まれていることである。そして経済格差が学力格差を生むのである。
 図式的に示せば、家庭の経済格差→子どもの体験格差→子どもの学力格差、という筋道が描ける。  
 経済格差が学力格差を生む。親の年収によって子どもの
学力に「差」が生まれ始めている。例えば、年収800万円以上の家庭の子どもと300万円以下の家庭の子どもを比較すると学業成績に「差」が見られる。こうした事実は文部科学省の事例調査からも裏付けられている。
 放課後の世界はまさに自由競争である。経済的・文化的に優位な家庭とそうでない家庭とでは子どもの体験量が違う。
 経済的に余裕のある家庭では「夏は海、冬はスキーに行く」ことができる。自然体験を満喫する。そして日常の生活では放課後、塾やお稽古、それからスイミングなどのスポーツクラブに通う。さらに通信教育の添削を受けている。
 経済的に余裕のある家庭の子どもたちはさまざまな体験をしている。学力格差はこの体験量の「差」から生まれるのである。

■「体験」はどんな効果を生むのか

 子どもの成長に体験は大切だ、といわれてきた。しかし、体験活動は子どもにどんな影響をもたらすのか、子どもの成長にどんな効果があるか、実証されていない。
 この度、国立青少年教育振興機構は、子どもの頃の体験はその後の人生にどんな影響を与えるか、という問題設定の調査結果を発表した。これは昨年の11月に20歳以上の大人約5000名を対象にした全国調査である。
 興味深いことに、子どもの頃の体験量が高学歴、高収入を生むのである。
 最終学歴では、「大学・大学院卒」の割合を体験量別に見ると45.4%(体験量は少)→48.6%(中)→50.4%(多)と増えている。一方、「中学卒・高卒」は30.8%(少)27.6%(中)→26.1(多)と減っている。
 子どもの頃の体験が多い者ほど高学歴者が多いといえるのである。体験量が「学歴」に影響を与えている。そして、体験格差が学歴格差をも生じさせている。
 「現在の年収」でも同じことが読みとれる。
 「年収750万円以上」の割合は11.0%(少)→12.7%(中)→16.4%(多)というように体験量が増えるに従い数値が増える。一方、「250万円未満」の割合は35.3%(少)→32.5%(中)→26.9%(多)と減っている。
 体験量が今の年収に影響を与えているのである。子どもの頃の体験格差が年収格差を生じさせている。
 ちなみに、ここでの子どもの頃の体験量は「自然体験」「動植物とのかかわり」「友だちとの遊び」「地域活動」「家族行事」「家事手伝い」という六つの領域を加算している。

■どんな体験がよいか

 次に問題になるのが、どんな体験をいつすればよいか、である。それを調べるために、体験の領域と身につく力(体験力は意欲、自尊感情、規範意識、職業意識、人間関係能力などを意味する)の関係を確かめてみた。
 するとここでも興味深い事実が読みとれる。
 一つ目は、「小学校に通う前」の幼児期の体験は体験力をつけるのにそれほど影響がない。
 二つ目は、「小学校低学年」の体験は体験力の育成に効果がある。しかもすべての体験ではなく「友だちとの遊び」と「動植物とのかかわり」が大事になる。
 三つ目は、「小学校高学年」と「中学校」の体験も効果がある。しかし、体験活動の内容は小学校低学年と異なり、「地域活動」や「自然体験」、それから「家族行事」「家事手伝い」といった活動が大事になる。
 この知見は、体験活動においては子どもの成長にあわせて適切な活動内容を提供すべきである、という方向を支持する。
 体験格差が学歴格差、年収格差を生んでいる。そして体験活動は何でもすればよいというものでもない。
 これからの教育改革のミッションは、この体験格差の是正を目指すことである。具体的には、格差が生まれる放課後に、どの子どもにも豊かな体験を保障することである。次に、どの時期にどんな体験が効果があるか、という課題に答える体験カリキュラムを編成することである。

詳しいデータは独立行政法人国立青少年教育振興機構のホームページを参照。
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