《札幌発信シリーズ》 光のたから箱【A表現(1)造形遊び】

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

図画工作・札幌発信シリーズ<9>

指  導  計  画

題材名

光のたから箱【A表現(1)造形遊び】

学年

総時数

主な学習内容

z_vol18_01 大きな箱に入って中から穴をあけ、穴を通して見える「光の宝物」を集め、素敵な「光の宝箱」をつくることを目指す。
 穴をあけるためのボールペンと段ボールカッターで、光の宝物の数や形に着目したところから活動を始め、次第に様々な材料を試しながら、色や模様の工夫へと活動の幅を広げていった。
 箱の中と外、隣の面どうし、他のグループと、友だちとかかわり合いながらどんどん発想を広げていった。

題材の目標

<造形への関心・意欲・態度>
光の形や色などを感じながら、光の宝物をつくり出そうとしている。

<発想や構想の能力>
箱に穴をあけながら、表したい光の宝物の形と色を思い付いたり、考えたりしている。

<創造的な技能>
光の宝物の大きさや形、色、飾り方など、表し方を工夫している。

<鑑賞の能力>
箱の中に入って、自分や友達の光の宝物を見ながら、形や色の美しさや楽しさなどを感じている。

材料・用具

  • 板段ボール(90cm×90cm 1グループに5枚)
  • 段ボールカッター
  • 布粘着テープ
  • 使わなくなったボールペン
  • 光を通す材料(セロハン・ポリテープ・気泡シートなど)
  • セロハンテープ
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〈授業の流れ〉

<1時間目 箱の中を光の宝物でいっぱいにしよう!>

 箱の中に入ってみよう!

光の美しさをより感じることができるよう、真っ暗な箱の中に入るところから活動を始める。

光の美しさをより感じることができるよう、真っ暗な箱の中に入るところから活動を始める。

「真っ暗だ~!」

「真っ暗だ~!」

 箱に穴をあけたら、どんなふうに見えるかな?

「とってもきれい!」

「とってもきれい!」

「光ってる!」

「光ってる!」

 1つだけ穴をあけることで、光をより際立たせる。

 まずは1つだけ、光の宝物をつくってみよう!

「どこにつくろうかなぁ。」

「どこにつくろうかなぁ。」

「もっとたくさんつくりたい!!」

「もっとたくさんつくりたい!!」

 

 光の宝物で、箱の中をいっぱいにしよう!

「外からおさえているね。」

「外からおさえているね。」

「順番につくろうよ。」

「順番につくろうよ。」

 1つ→たくさんと段階をふむことで「もっとやりたい!」という気持ちが生まれるように。

「たくさん集めたよ。」

「たくさん集めたよ。」

「宝物をつなげてハートの形に!」

「宝物をつなげてハートの形に!」

「段ボールカッターでハートの形に!」

 「光の宝物でいっぱいにしよう!」と投げかけて活動を始めると、はじめは慎重に1つずつ穴をあけていたが、次第に「もっとたくさん!」と、穴をあけていった。面ごとに担当を決めたり、1つの面ごとにどうやって穴をあけるかグループで相談したりしていた。また、友だちが形をつくったのを見て参考にするなど、子ども同士のかかわり方も多様であった。
 光の宝物の美しさに着目していて、全体を通して「大きくあけすぎるときれいに見えない」という思いが生まれ、1つ1つの宝物を丁寧につくる姿が印象的であった。
 活動の中で、形からイメージを広げ、色を付けたいという思いが生まれてきた。そこで、どんな材料があったら宝物をより素敵にできるかみんなで意見を出し合い、発想を広げていった。

<2・3時間目 光の宝物をステキにしよう!>

 集めた様々な材料を試しながら、色や模様、形を工夫しながら、素敵な光の宝物をつくっていった。

■色に着目して

「セロハンで、いろんな色を集めよう!」

「セロハンで、いろんな色を集めよう!」

「たくさんの色を組み合わせてみたよ。」

「たくさんの色を組み合わせてみたよ。」

■模様に着目して

「セロハンに模様を描いたらどうなるかな?」

「セロハンに模様を描いたらどうなるかな?」

「気泡シートを使ったらこんな模様に!」

「気泡シートを使ったらこんな模様に!」

■いろいろな材料で

「マヨネーズのチューブの中に、モールを入れてみよう。」

「マヨネーズのチューブの中に、モールを入れてみよう。」

「中から見たら、とってもステキだよ!」

「中から見たら、とってもステキだよ!」

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 宝物の形に合わせて色を選んだり、材料から形をつくりなおしたり、子どもたちは思考を行ったり来たりさせながら、活動を進めていった。
 また、子ども同士が自然とかかわり合っている様子がたくさん見られた。2人で1つの宝物をつくったり、1人が外から材料を試して、もう1人が中から見てみたり、友だちのアイデアを見て自分でも試してみたり。かかわり合いを通して、どの子もどんどん、発想を広げていくことができた。

<4時間目 いろいろな場所で光の宝物を見てみよう!>

 「光の宝物が一番きれいに見える、お気に入りの場所をさがしてみよう」と投げかけて、活動を始めた。

「どこへ持って行ったらきれいかな?」

「どこへ持って行ったらきれいかな?」

「光が雪に映ってとてもきれい!!」

「光が雪に映ってとてもきれい!!」

「箱の下から光が入ってこないように、周りを雪で埋めよう。」

「箱の下から光が入ってこないように、周りを雪で埋めよう。」

「山の頂上に置いたら、きれいだよ!」

「山の頂上に置いたら、きれいだよ!」

 スキー山の頂上やグラウンドの真ん中など、“たくさん光が集まりそうな場所”を探して、宝箱の置き場所を探していた。
 屋内よりも強い光に照らされて、美しく光る宝物に感動しながら、お互いに他のグループの箱の中に入って鑑賞し、自分や友だちの宝物の素敵なところを見つけていった。

学習を終えて…

 本題材は、箱の“中同士”“外同士”“中と外”、他のグループ同士…という様々なかかわりが、自然と生まれる題材であった。子どもたちはお互いにかかわり合う中で、1人では思いつくことのできなかったアイデアを見つけ、発想を広げ、思いをもって取り組むことができた。
 また、導入時に1つずつ条件を絞って提示することで、子どもたちは光の美しさにより注目し、“もっと美しくしたい”という思いをもつことができたと考える。
 そうした子どもたちの思いを、さらに広げ、高めていけるような交流の場を、意図的に設定していくことの必要性を改めて感じることができた。

「光の宝物でいっぱいにしよう!」

「光の宝物でいっぱいにしよう!」

allow04 2時間目「光の宝物をステキにしよう!」 allow04
3時間目「光の宝物をもっとステキにしよう!」

3時間目「光の宝物をもっとステキにしよう!」

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 素敵な光の宝物がたくさんできました!

【監修者:北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】

新しい大地で生きるということ

 東日本大震災で海岸地域から高台への移転を余儀なくされた人々には、生活再生に向けての経済的問題のみならず、移住者の協同一致を生み育てる精神的活力を引き出せる場をいかに構築しうるかが問われているのではないでしょうか。そこで維新革命で誕生した新国家が営んだ最大の国家事業である北海道開拓では、日本列島の各地から移住入植した人々にとり、何が問題であったかを検証してみることとします。そこには、安積開拓における開成山大神宮の設立を官が主導したのと異なり、新しい天地で生きようとする入植移住者が己の場を求めた営みがありました。それは日本人の原初的な心の軌跡ともいえるものです。このような心の営みをみつめることなく、大震災で生きる場を失った人々が協同性の場を取もどし、生きて在る場を確立することは困難なのではないでしょうか。

移住者の想い

 北海道への移住者を勧誘する移民募集の担当者がその困難さを次のように証言しています。この証言は、北海道開拓地で奉仕している田舎神主が北海道神職会の会議でその見聞を報告したものですが、故地を捨てた移住者にとり、新天地での協同一致を育む器の有無が大きな関心ごとであったことをうかがわせます。

移民募集員と称する人と汽車に同乗せることありて、移民募集の易々たる事業にあらざることを聞けるが、中に第一神社のなき土地又は其設立準備なきけ所には応募困難なることを力説致し居り候、中秋の候新開の山間僻地を通過する際、粗造の草屋点々たる一方に普通民家に用ゐる神棚などを木の切株に安置し、割合大なる黒木に鳥居を建て老幼男女四十人或は五六十人芝生に団欒し嬉々として宴飲放歌し或は競馬角力等の催をなすを数次実見せる事候き、やがて両三年を経過して視ればこの神棚の一小祠宇となり、この点々たる草屋の普通住宅と改る頃にはこの一小祠宇は更に殿堂となり、然して附近の天然林は伐採せられて只この社地に於てのみ蓊鬱たる浄地を残し、やがてこの部落の公園と成り申候、これらの実例は山手方面皆皆然る事に候、遠く古国を離し猛獣怪鳥の声より外に音なき山間に入りて開拓に従事するもの、如何にしても我運命を依託するものなくてはこれあるまじく候、殊に終日耕耘にのみ従事するもの一定の慰安日を要求するは人間の通有性に候、前者は即ち無願神社となり後者は即ち祭典と相成る事に候、然してこの切株神社の無願神社は移住民に安定を与へ其祭典は一致協力の機会を授け拓殖上軽々に付すべからざる神徳を認めらるるのみならず自然其の敬神崇祖の観念を涵養する枢機に触れつつある事と信じ候

切株神社の世界

多寄神社

 開拓移住者は、入植した原生林を開き、火をかけ、腰丈の根が残された大地に種を蒔き、収穫します。収穫後には、残されていた見栄えのする切株(きりかぶ)や棒杭(ぼうぐい)に故地から持参した神棚や母村などの鎮守社から下された神札などを安置し、収穫祭を営みました。この切株・棒杭をめぐる空間は、切株・棒杭神社といわれる聖なる場とみなされ、開拓村の祭りが営まれ、移住者の心の器となっていきます。その場には、時を経て開拓が進むなかで、小祠と鳥居が備えられ、やがて社殿が建立され、神社としての様相がととのえられていきます。いわば移住者は、故国を偲ぶ神祀りを執り行うことで生活の場における「一致協力」を確かめ、明日を生きるための生活をささえるハレの営みをなし、明日への祈りをささげたのです。この作法には日本人の神祀りの原初的形態が読みとれましょう。
 このような神祀りは、移住者が負うてきた歴史を凝縮したもので、その記憶を確かめる営みにほかなりません。そのため移住地の神祀りは移住者の故地に規定されていたため、北海道の神社の祭神には、故地の神が先ず祀られました。ちなみに江別市の野幌神社は、新潟県から団体移住である北越殖民社が「降神之処」神標を建てた棒杭神社にはじまります。秩父別町の集落では京都の伏見稲荷の神霊を大木の切株に安置して祀っています。このようにして成立した神社は、移住者が勝手に祀ったものとみなされ、国家に神社たる願書を届け出て認可された神祠でないがために「無願神祠」と位置づけられ、時とともに国家の厳しい統制を受けることとなります。
 しかし旧藩主が主導した入植移移住地や華族農場では様相が異なっております。旧亘理伊達藩が入植した伊達市は鹿島天足和気神社を、加賀藩士による前田村(現札幌市手稲前田)は藩祖前田利家を祀る前田神社を、長州藩士の大江村(現仁木町大江)は藩祖毛利敬親と毛利の祖大江広元を祀る大江神社を祀り、藩士の結集をはかっております。また華族農場では、松平農場(現鷹栖町)が出雲神社と松江神社を勧請するとともに、出雲松平家の始祖松平直政を祭神とする社を、加藤泰秋子爵の留寿都農場(現留寿都町)が旧領の伊予国大洲藩の久米村八幡神社の分霊で留寿都神社を建立していますように、農場主にゆかりの祭神が祀られたのです。

国家神との相克

 このような開拓地の神祀りは、無願神祠への統制が展開するなかで、雨龍開拓の中心となった蜂須賀農場の国瑞彦(くにたまひこ)神社が村社雨龍神社となっていくように、近隣集落の開拓時の祭祀が統合されていきます。国瑞彦神社は、農場主である蜂須賀家中興の祖蜂須賀家政を祭神となし、国瑞彦神社の分霊を勧請したものです。その創建前に、徳島県阿野村出身の小作人が故地の鎮守二ノ宮八幡宮を祀っていました。また戸田農場では、富山県新川郡内山村の出身者が内山八幡宮を、兵庫県淡路島出身者が三原郡の広田八幡宮を追分八幡神社にしておりました。追分八幡神社は、移住者の「淋しさを慰すべく、又不祥事をさくるため」に、「大木の切株の上に割板をもつて屋根を拵へ小さき祠を設置」した切株神社でした。
 これらの祭祀は、切株・棒杭神社に代表される無願神祠(無願神社)から村社雨龍神社として国家神の末端にとりこまれることで、その存在の場を見出したのです。雨龍神社は、主神を天照大神となし、蜂須賀家政、戸田農場主戸田家中興の祖松平康長、各集落の八幡神を応神天皇として祭神となし、各入植地の祭祀を取り込むことで雨龍の総鎮守たる村社の場を確保できたのです。いわば入植地の切株・棒杭神社は、農場主の祭祀下に組み込まれ、やがて国家神たる天照大神を頂点とする国家の祭祀体系に位置づけられていきます。しかし切株や棒杭に託した民の想いは、国家の祭祀体系を逸脱し、故地の神に連なる世界にありました。
 想うに日本の神信仰は、世に喧伝される「国家神道」なる言説でなく、切株・棒杭的世界にこそ民たる者がよせた精神の器がありました。現在問われているのは、移住者が日々の暮らしの場で心をよせうる器とは何かを、それぞれの記憶に眠る世界をみつめることで手にしていくことではないでしょうか。

参考文献

  • 大濱徹也「大地の祈り」(『年報 新人文学』第4号 2007年12月 北海学園大学大学院文学研究科)
  • 村田文江「開拓村と切株・棒杭神社」(『悠久』第119号 2010年10月 おうふう)


《札幌発信シリーズ》 ここには、きっといるよ【A表現(1)・B鑑賞】

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

図画工作・札幌発信シリーズ<8>

指  導  計  画

題材名

ここには、きっといるよ【A表現(1)・B鑑賞】

学年

総時数

題材概要

 身近な場所の雰囲気から、そこにいそうな想像上の生き物(○○)をつくり、その○○が住んでいる様子を写真にとってお互いに見合い、面白さを感じ取る活動である。題材を構成するにあたって、場所を校庭に限定し、材料はよりその場所になじむようにと考え、その場にある身辺材を使うことにした。校庭には、彼らがこれまで理科や生活科の授業の時間、休み時間などで関わってきたアジサイやミニトマト、桜の木など自然が豊富にある。それらの形や色、においなどを感じながら、「そこに実際いるんじゃないかな?」「いたらいいな。」「きっといるよ。」というように、「場所」からイメージを膨らませていくことができると考えたからである。

題材のねらい

 場所の雰囲気から想像上の生き物を発想し、場所と○○を組み合わせてつくる。『きっといるよ図鑑』を作成するために、住んでいる様子を写真に撮って見合い、面白さを感じ取る。

主な評価の観点

造形への関心・意欲・態度
学校にいる想像上の生き物を考えて身辺材などで形に表し、場所との組み合わせを楽しもうとしている。

発想や構想の能力
身近な場所の雰囲気からそこにいるものが、どのような形や色をしているか考えている。

創造的な技能
材料の特徴を生かして、形や色、接合の仕方を工夫している。

鑑賞の能力
場所の雰囲気から、どんな形のものを思いついたのかを話し合い、よさや面白さを感じ取っている。

材料・用具

どんぐりなどの木の実、果実や野菜の種、石、コルク、木の枝、くぎ、針金、プリンカップ、ストローなど身辺材、かなづち、きり、ホットボンド、ニッパー、ラジオペンチなど

指導計画

題材との出会い(1時間)
「みんなで何かいそうなところを探しに行こう!」

造形活動(2時間)
「“ここ”にいる○○をつくろう!」

鑑賞(2時間)
「きっといるよ図鑑をつくろう!」

〈授業の流れ〉

1.材料集め

 「次の図工の時間に、こんなものを使うんだけど…。」と子どもに投げかけ、木の枝やどんぐりなどの材料を子どもと集めた。持ってきた材料を入れる箱を用意すると、集まった材料を休み時間に友だちと一緒に触ってみたり、違うもの同士を組み合わせて「魚みたい」と見立て遊びをしたりしていた。これによって、活動前に子どもたちはたくさん材料とふれ合うことができた。

2.「みんなで何かいそうなところを探しに行こう!」

 テレビのモニターに学校の前庭の写真を映し、「ここに何かいたんだよね。写真撮ってみたんだけど、写っているかな?」と話した。子どもたちは画面を食い入るように見つめ、「先生が見つけた何かはきっと小さいだろうから、少し画面を拡大してみようよ。」と言われ拡大したが、写真の解像度を低く設定していたため、余計見えなくなっていった。画面の中では探すことが出来ず、「実際に見に行こうよ!」と子どもから声があがり、外へ移動することにした。何か(○○)がいそうな場所を探して、「ここだ!」と思うところに旗をさした。アジサイの下にさして「ジメジメしていて暗くて隠れやすいから。」と話す子や、竹馬置場にさし「くもの巣と竹馬と落ち葉があって、そこで○○は一緒に遊んでいる気がする。」と話す子もいた。いろいろな場所を見て、一度選んだけど、やっぱりこっちじゃないかなと場所を変える子もいた。そのとき感じた気持ちや場所の様子、選んだ理由をワークシートに書いていった。

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3.「“ここ”にいる○○をつくろう!」

 活動に入ると、「場所に草がボーボー生えていたから体の色も同じ緑色にするんだよ。」「敵から身を守るために、大きな角を持っているんだ。」「木に似ているから体を木のようなコルクにしたよ。」など、場所のイメージをしっかりと捉え、材料のイメージを組み合わせて自分の○○のイメージを思い浮かべながらつくっていた。一生懸命つくりながらも友だちのつくっている○○にも興味を示していた。「これは足??」と聞いて、「そういう使い方もあるかぁ。」と友だちの工夫に驚いたり、「これどうやってくっつけたの?」と接着方法を聞いて、参考にしたりしていた。このような友だちとの自然な交流から、自分○○のイメージをさらに膨らませ、もっともっとつくりたいという想いをもつことができた。

4.「○○を場所にもどして写真をとろう!」

 選んだ場所が近くの友だちと相談して、いろいろな角度からレンズを覗いて考えていた。「~くんの○○、その場所で獲物を狙ってそうだね。」と友だちに言われ、よりその雰囲気が伝わるようにカメラを近づけて撮り方を工夫していた。

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 初めは同じ向きに2つ並べていたが、「仲良しの友だちだから楽しそうに写す方法はないかな?」と考え、友だちとの対話を通して向かい合わせになるように並べ方を変えた子がいた。そして置き方を少し変えるだけで、作品を見え方が違うということに気がついた。この活動で場所からイメージして○○をつくったということを改めて感じていた。

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 また、どの子も自分の作品だけでなく、「その置き方いいね~!」など友だちの作品のよさも味わいながら、写真に写すことができた。

5.「きっといるよ図鑑をつくろう!」

 最後に作品に名前やプロフィールを書き込んで図鑑をつくった。○○の名前をつけるとき、「たくさん候補があって選べない!」「こいつにピッタリの名前をつけてあげたいんだ。」などと話し、じっくり考えていた子がたくさんいた。このことから、この子たちが自分の作品に対して、これまでたくさんの想いを注いできたことがわかった。
 ここでは「きっといるよ図鑑」の中から、「小人のトマトン」(左の写真)と「アフリカむらさきガラフ」(右の写真)の2作品を紹介します。

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ミニトマト畑からトマトが大好きな「トマトン」が生まれたんだね。上からトマトを狙っている表情がとても真剣で、今にも飛びかかりそうだね!(先生からの言葉)

暗い場所で獲物がいないか目を光らせてそうな○○だね!赤と青のセロハンで作った体の色が、暗い軒下のイメージとマッチしているね。(先生からの言葉)

6.「きっといるよ図鑑の発表会をしよう!」

 作品の発表会では、友だちの説明を聞いて「だからかー!」「なるほどー!」と使われている材料と場所の関連について、納得を示していた。発表も後半になると、説明を聞く前から材料と場所のイメージを結びつけて頷いている子がたくさんいた。
「ミニトマトが大好物」ということから、体の特徴を捉えていることに気がついた。手の数を増やしたり、食べ物の近くに置いたりすることで、食いしん坊のイメージを明確にしていた。このことから、子どもたちは作品の出来栄えではなく、場所のイメージと材料の組み合わせに目を向けて作品を見ていることや、つくっていたことがわかった。また「すごーい!」「どうやったの?」と感動を声に出す子もいて、教室が温かい雰囲気に包まれた。

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【授業を終えて】

 造形活動を行う際、それぞれの材料に合う接着方法の提示や接着剤の用意などの手立てを考えておくべきであった。材料の接着に苦しんで、自分のイメージした○○から離れてしまった子がいた。せっかく「こうしたい!」「こんな姿なんだ!」という想いがあるにもかかわらず、私自身うまくアドバイスできず彼らの想いを膨らませることができなかった。改めて教材研究の大切さを痛感した。
 しかし子どもたちは友だちとかかわり合いながら、自分の作品に対する想いを伝え合いながら活動することができた。そのような姿をたくさん見ることのできたすてきな5時間であった。
その後の図工では、それまで作品をつくることを一番の楽しみにしていた子が、「早くみんなの作品も見たい!」と話すようになった。また、「作品を展示する際、「この向きがいいな。」「ここから見てほしいな。」など置き方を工夫しようとする子が増えた。今後も作品の出来栄えでなく、(今回で言えば)イメージと作品がどのように結びついているのかといった作品に込められた想いを読みとる力を子どもたちに一層身につけさせていきたい。

【監修者:北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】

小学校3、4年生が危ない

■ 今、小学生が荒れている

 今、小学生が荒れている。中学生の暴力件数は減少傾向にある。文部科学省の平成21年の調査によれば、小学生の学校内外の暴力は7,115件で前年度10%増加。児童・生徒の暴力は、件数の8割を中学生が占め小学生の件数は少ない。中学生は前年度比では2%増加、高校生は3%減と微増か減少傾向にある。小学生の増加が目をひく。
 「あなたの学校で、平成15年度に“少年非行”に関する問題がありましたか。それはどんな内容でしたか」(小学校校長会調査)
 その結果、一番多いのは万引きで、次が悪戯・物品破損、それに火遊び、喫煙が続く。また、それを14年度と比較してみると暴力・傷害が前年度の3倍、万引き、喫煙、家出、無断外泊、盛り場・深夜徘徊、恐喝はいずれも2倍強の増加となっている。そして悪戯・物品破損、火遊びも増加の傾向が見られる。
 これまで中学生の定番といわれていた非行が小学生にまで降りてきている。

■ ギャング・エイジが消えた

 今、小学生の荒れは無視できない状況に来ている。なぜこうした事態が生じたのであろうか。この背景には子どもたちの育ち方が変わってきていることがあげられる。
 小学生の子どもの育ちに欠かせないギャング・エイジを体験しなくなったのである。小学3,4年生の時に「ちょい悪」文化を学んでないのである。
 子どもたちは「おりこうさん」になっている。そして一人ぼっちにもなっている。子ども同士が徒党を組んで遊ばなくなっている。集団行動をとらなくなっている。
 30年前までの子どもたちは放課後、近くの空き地で子ども同士で徒党を組み秘密基地づくりをして遊んだ。それが大学生たちでさえ、その経験をした者は半数に達しない。
 秘密基地づくりは次のような作業が伴う。
 ①基地の設計図を描く ②チームの名前を決める ③掟・暗号を決める ④メンバーシップを高めるためにそろいのバッチ、手帳などをそろえる ⑤遊びのルールを自分たちで決める
 ギャング・エイジの体験はなぜ必要か。それは遊び集団でのつきあい方を身につけるからである。
 小学校3、4年生ではじめて家や教室からのルールから解放される。自分たちだけのルールとマナーとモラルをつくり出す。
 家の経済状態や学校の成績はそれほど影響しない。どの空き地なら安全か、秘密基地に必要な材料をどれだけ集められるか、面白い遊びをどれだけ知っているか、うまい設計図をどれだけ描けるか、一発芸でどれだけ人を笑わせられるか、という才能が評価される。
 それぞれが持ち味をだし、議論を戦わしたり、けんかをしながら物事を決めていく。その中から決め方の段取りを身につけ、仕切り屋が生まれる。大人に頼らず自分たちの力で物事を解決していく方法を体験する。

■ ギャング・エイジはゴールデン・エイジ

 スポーツの世界でゴールデン・エイジという言葉が指摘される。一流の選手になるには練習を始める最適の時期があるという。9歳から12歳といわれる。中学生になってはじめてもよいが、それでは遅すぎる。手遅れになるらしい。
 確かに、プロで活躍するそれぞれの分野の選手のキャリア・パターンを見ると小学生の中学年あたりから覚え始めている。
 私は、ギャング・エイジを子どもの成長のゴールデン・エイジと呼びたい。
 中学生や高校生、それから大学生でギャング・エイジを体験するとすでに遅い。本当のギャングになってしまう可能性が強い。  
 「啐啄の機」という言葉がある。ヒナが孵る際わずかな音がする。それを親鳥は聞き漏らさず外側から突き返し殻を割る。親と子、両者の絶妙なタイミングの一致によって、無事に新しい生命が誕生する。
 ギャング・エイジは子どもたちが独自の文化をつくり始める時期である。親と教師、それから地域の人はヒナが孵るのを温かく見守って欲しい。
 学級崩壊の原因の一つに、子どもの集団力の衰退がある。集団生活で欠かせないルールとマナーとモラルを身につけていない。やんちゃのままの子どもが学級に入ってくる。だから、3,4年生の担任は集団づくりに苦労する。ベテランの教師でも学級をまとめるのに二ヶ月かかるという。
 学級集団だけでは子どもの集団力の育成には無理がある。集団力の育成には放課後、子どもたちに「ちょい悪文化」を含んだギャング・エイジの体験をさせるのが近道である。

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『幸せへのキセキ』

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 しみじみ、ほのぼの、笑って、泣けて、心温まる。よく練られた脚本で、味のあるセリフがたっぷり。良質のユーモアに笑い、爽やかな展開に涙する。このところ、3DやらCG駆使の大味な映画が多いが、久しぶりに「ウェルメイド」と思えるアメリカ映画だ。
 「幸せへのキセキ」(20世紀フォックス映画配給)という、変わったタイトルだが、キセキとは、軌跡と奇跡の両方を意味しているようだ。チラシに「最愛の人の死から立ち直ろうとする家族の<軌跡>を描く、実話から生まれた<奇跡>の物語」とある。さらに大きく、「家を買ったら、動物園がついてきた」とある。まさにチラシのコピー通りで、原題は「We Bought a Zoo」(私たちは動物園を買った)である。
 妻に先立たれたジャーナリストが、14歳の息子、7歳の娘を育てながら奮闘するが、いろいろと問題が起こる。そして、転居を決意、なんと転居先の住居には、動物園がついている。

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 映画は、軽快に始まる。ベンジャミン(マット・デイモン)は、ロサンゼルスの新聞にコラムを書いているジャーナリスト。今日は、中南米のある国の独裁者に突撃取材する。アメリカを批判し、中国との結びつきを実証するコメントをとる。最後に、好きな映画は、と質問する。独裁者は「トイ・ストーリー」と答える。いきなりのギャグに大笑い。現場取材は危険も伴う。嵐のなかでの取材もある。
 最愛の妻が半年前に亡くなる。ベンジャミンは、14歳の息子ディラン(コリン・フォード)と、7歳の娘ロージー(マギー・エリザベス・ジョーンズ)の面倒を見ながらの日々で、食事や通学の準備など、なにかとうまくいかない。
 ディランは反抗期か、会話も「別に…」の一点張りで、ベンジャミンは息子に対して、つい辛く当たってしまう。学校でも、なにかと問題を起こすディランは、絵を描くのが好きだが、不気味な絵ばかり描いている。
 ある日、ベンジャミンは上司から、新しい仕事を勧められる。時代は変わる、ウェブに執筆してもらえないか、というわけだ。しかし、古いタイプのジャーナリストのベンジャミンは、受け入れない。そんな時に、ディランがまた、学校で事件を起こし、とうとう退学処分となる。
 いま住む町は、妻との思い出ばかり。いっそ、すべてをやり直そうとばかり、ベンジャミンはあっさり退職、町を離れる決意を固める。
 ロージーを連れて、郊外のあちこちに転居先を探すベンジャミン。豊かな自然の残るローズムーアに格好の家を見つける。しかし、これはいわゆるワケあり物件で、もう2年間も閉園したままの動物園がついている、というものであった。
 いまなお、多くの動物がいて、前オーナーの遺産をやりくりしながら、数名の飼育員たちが働いている。ライオンやベンガルトラ、クマなどがいる。見ると、ロージーがクジャクと遊んでいる。ベンジャミンは、いきいきと遊ぶロージーを見て、決心する。ここに移ろう、と。

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

(C) 2012 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 ベンジャミンの兄ダンカン(トーマス・へイデン・チャーチ)は会計士をしている。いろいろと経費のかかることを予想して、ダンカンは反対する。しかし、ベンジャミンの決意は固い。乗り気でないディラン、はしゃぐロージーとともに、一家は引っ越してくる。
 新しく動物園のオーナーになったベンジャミンに、飼育員たちは好奇の目を向ける。飼育員の主任は、まだ若い女性のケリー(スカーレット・ヨハンソン)に、大きな体で酒好きのピーター(アンガス・マクファーデン)、いつもサルを肩に乗せているロビン(パトリック・フュジット)など、動物は好きだが、どこか変な人たちばかり。
 ケリーの親戚にあたるリリー(エル・ファニング)は、動物園にあるレストランを手伝っているが、1歳年上のディランに、淡い恋心を抱く。
 いろいろと問題が起こる。動物園を維持するだけでなく、再開園を考えているベンジャミンのやり方と、飼育員たちの考えが対立する。開園のためには、さらにぼう大なお金がかかることが明るみに出る。動物園のスターともいえるベンガルトラが死にかかる。開園には、きびしい農務省の審査にパスしなければならない。
 そんな中、ベンジャミンとディランの父子関係が、ますますこじれてくる。
 だが、ベンジャミンは、あきらめない。奇跡を信じているわけではないが、なんとか、家族のため、自分のために夢を叶えるよう、必死に取り組んでいく。 
 大好きな映画「フィールド・オブ・ドリームズ」の中に、こんなセリフがある。「それを作れば、やってくる」。主人公のケヴィン・コスナーは、とうもろこし畑に野球場を作る。そして、奇跡が起こる。
 マット・デイモンもまた、動物園を再開園しようとする。はたして、「キセキ」は起きるのだろうか。
 人生には、数々の難局が待ちかまえる。夢があり、希望があっても、その実現には、多くの苦労が伴う。それでも、願った夢や希望が実現するよう、人は努力する。本作は、その夢や希望を実現するためには、努力を惜しまず、けっしてあきらめないこと、とエールを送る。

2012年6月8日(金) TOHOシネマズ スカラ座ico_linkほか全国ロードショー

■『幸せへのキセキ』

監督:キャメロン・クロウ
原作:ベンジャミン・ミー
音楽:ヨンシー
出演:マット・デイモン、スカーレット・ヨハンソン、トーマス・ヘイデン・チャーチ、パトリック・フュジット、エル・ファニング、ジョン・マイケル・ヒギンズ
2012年/アメリカ/ヴィスタ/2時間4分
原題:We Bought a Zoo
配給:20世紀フォックス映画


マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝

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「笑う少年」 油彩/板/直径(最大)30.4cm/1625頃

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「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」 油彩/キャンヴァス/44.5×39cm/1665頃

 17世紀オランダは、「黄金時代」と呼ばれるほど多くの優れた画家を生み出しました。フランス・ハルスとフェルメールは、まさにこの時代に活躍した画家です。
 ハルスの「笑う少年」は、屈託のない笑顔が描かれた魅力的な作品です。素早い筆遣いで描かれたくしゃくしゃの髪や、勢いよく描かれた白い襟など、表情に合わせた生き生きとした描写が全体にあふれています。ハルスは肖像画を得意とし、同時代の人々からも高い評価を受けました。
 フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」は、振り返ってこちらを向く少女の一瞬の表情が捉えられています。高価なウルトラマリンで描かれた青いターバンは、当時の少女が普段から身につけていたものではないことから、本作品が肖像画のように特定の人物に似せて描かれたものではないことがわかります。少女の耳には、鈍く輝く非常に大きな真珠が飾られています。この作品が描かれた頃、真珠が大流行していました。本物なのか、ガラスにニスを塗った模造品なのか、画家が創造力を駆使して描いたのかは定かではありません。また、作品の左上にフェルメールの署名が見えますでしょうか。あまりにも有名な作品ですが、デジタルの画面や印刷した紙面では見えにくい部分もあります。色彩や筆跡なども本物でぜひ確認してみてください。
 オランダのデルフトで活躍したフェルメールの作品は、現在では世界中で30数点しかありません。穏やかな光の入る室内の女性を描いた静かな作品がよく知られ、特に日本では絶大な人気を誇る画家です。「真珠の耳飾りの少女」はフェルメールの作品の中でも、世界で最も有名な1点と言えるでしょう。

(東京都美術館事業係学芸員 大橋菜都子)

<展覧会情報>

  • マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝
  • 2012年6月30日(土)~9月17日(月・祝)
    巡回:神戸市立博物館 2012年9月29日(土)~2013年1月6日(日)
  • 休室日:月曜日(ただし7月2・16日、9月17日は開室。7月17日は休室)

展覧会概要

  • 本展では、17世紀のオランダやフランドル絵画の世界的コレクションで知られるオランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館から、フェルメールやレンブラントなど、西洋絵画の巨匠たちの名品約50点を紹介します。

■東京都美術館ico_link

  • 所在地 東京都台東区上野公園8-36
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)

<同時期開催の展覧会>

  • 「Arts&Life:生きるための家」展
  • 「東京都美術館ものがたり」展
  • 2012年7月15日(日)~9月30日(日)

その他、詳細は東京都美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


「白貂を抱く貴婦人の肖像」 レオナルド・ダ・ヴィンチ作

油彩/板/54.8×40.3cm/1485-90頃

油彩/板/54.8×40.3cm/1485-90頃

 レオナルド・ダ・ヴィンチは、パリのルーヴル美術館に所蔵されている「モナ・リザ」の作者として、歴史上もっともよく名前の知られている画家の一人ですが、残されている彼のタブロー作品(テンペラ画や油彩画)の数は大変に少なく、わずかに12~3点にしかすぎません。そのなかにあって、この「白貂を抱く貴婦人の肖像」は、レオナルドが実際に接見して描き上げた女性の肖像画として、モデルとされた人物、制作を依頼した人物、これを所蔵した人物、それらが誰であったということが、かなり正確にわかっている大変めずらしく貴重な例です。モデルとなっている貴婦人の名前はチェチリア・ガレラーニ(1473-1536)。ミラノ公国の宮廷にあって最も美しく知的に洗練されていた貴婦人として知られていた彼女は、その公国の君主の地位に就くこととなるルドヴィコ・スフォルツァと相愛の仲でしたが、高位の貴族の結婚は政略的に行われた時代であったことから、二人の愛は結婚にまで至りませんでした。しかしルドヴィコは愛の記念として、レオナルドにチェチリアの肖像画を描かせ、彼女にそれを与えたのです。チェチリアが抱いている白貂は「貞潔」や「美徳」の象徴とされていますが、この動物の仲間はギリシャ語では「ガレー(galée)」と呼ばれるため、チェチリア・ガレラーニを暗示することとなり、そこから、この肖像画と実在のモデルとが結びつく証拠の一つが生じます。画家レオナルドは美しいチェチリアのことを「私の愛する女神」と呼んだとも伝えられていますが、彼女の着衣が聖母マリアの定式の着衣と同じ赤(愛)と青(神聖)からなっているところは、チェチリアに対するレオナルドの敬愛を示しているのかもしれません。丁寧に描き出されているその顔は、「モナ・リザ」とも共通する、理想の顔立ちの均衡を持っていて、当時の貴婦人に求められた「優雅」と「貞節」の美しさの典型を示しています。

(美術評論家 木島俊介)

木島俊介
1939年鳥取県生まれ。慶応義塾大学卒。フィレンツェ大学、ニューヨーク大学大学院、同美術史研究所に学ぶ。共立女子大学名誉教授、群馬県立近代美術館館長、群馬県立館林美術館館長、東急文化村プロデューサー。1970年創立の万国博美術館(現・国立国際美術館)をプロデュースして以来、数多くの美術館設立と美術展の企画・開催、カタログの制作・執筆に携わる。2011年より静岡市美術館、福岡市美術館、Bunkamuraザ・ミュージアム(2012/6/10まで開催)を巡回した「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」展の日本側監修者を務める。著書に『名画が愛した女たち 画家とモデルの物語』『美しき時祷書の世界』『女たちが変えたピカソ』など。新版「高校美術1」教科書(日本文教出版)監修。