現代スペイン・リアリズムの巨匠 アントニオ・ロペス展

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アントニオ・ロペス「グラン・ビア」 油彩/キャンヴァス/93.5×90.5㎝/1974-81
(C)VEGAP, Madrid & JASPAR, Tokyo, 2013
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 アントニオ・ロペスは1960年頃からマドリードという都市そのものを絵画におさめるようになります。それらの絵画は、13歳の時に故郷を離れ首都に住み着いてから、長年日常生活を送る中で生まれた、マドリードに対するロペスの深い愛情が反映されたものでしょう。ある時は高層ビルの屋上からの俯瞰視点であったり、ある時は地上からの低い視点であったりと、さまざまな角度から見た都市景観作品を生み出していきました。
 本作はマドリードの目抜き通りであるグラン・ビアを描いた作品です。1974年夏のある日、ロペスは友人とともにこの地点を訪れ、早朝の太陽の光がビル群に反射して輝く光景に深く魅了されました。その美しい光を捉えるために、毎年夏になると朝6:30には現地へと向かい、同じ場所にイーゼルを立て、約20分間の制作を7年もの間続けました。刻々と移り変わる光はロペスに約20分間の制作しか許さなかったのです。
 本作はあまり大きい作品でないにも関わらず、画面左奥の消失点から通りに沿って建つビル群、そして手前のアスファルト道路まで、曲線を描きながらこちらに迫り来るようなダイナミックな展開を見せます。現実を描写したにも関わらず、そうとは思えないほど硬質で冷たい世界を創造したロペス芸術の金字塔と言える作品です。
 本展では、美術学校時代の初期作品から近作までの64点の作品により、ロペス芸術を包括的に紹介します。日本では細密描写を基にしたリアリズム作家と目されがちですが、彼の作品はそれに留まらない壮大な芸術観を秘めています。写真とは全く異なる人間の眼に忠実なリアリズムを体現することのできるアントニオ・ロペスは、スペインのみならず現存する作家の中でも最大の巨匠と言えるでしょう。

(長崎県美術館学芸員 森園 敦)

<展覧会情報>

■長崎県美術館ico_link

  • 所在地 長崎市出島町2-1
  • TEL 095-833-2110
  • 休館日 第2、第4月曜日(休日・祝日の場合は翌火曜日)

展覧会概要

  • スペイン現代美術の最重要作家アントニオ・ロペス(1936- )の日本初となる回顧展を開催します。彼が制作する油彩、素描、彫刻の各ジャンルから代表作64点を、「家族」「故郷」など7つの章に分け、わかりやすく紹介します。
  • 巡回:岩手県立美術館 2013年9月7日(土)~10月27日(日)

<次回展覧会予定>

  • 京都清水寺成就院奉納襖絵 中島潔「生命の無常と輝き」展
  • 2013年10月5日(土)~11月17日(日)

その他、詳細は長崎県美術館公式Webサイトico_linkでご覧ください。


「通学路五十三次」(第2学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.題材名

「通学路五十三次」

2.目 標

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 自分の通学路で心に残る風景を選び,近景・中景・遠景の位置や組み合わせ方を工夫しながら,表現主題により近付くような構図を決め出し,版画に表していく。

3.準備(材料・用具)

教師:写真立て,レイヤーシート(アクリル板),ホワイトボードマーカー,版画板
生徒:通学路の写真,彫刻刀,水彩絵の具

4.評価規準

(ア)造形への関心・意欲・態度
 自分の通学路で心に残る風景を版画で表す活動に意欲的に取り組み,見慣れた風景のよさや美しさを見つけ出そうとしている。

(イ)発想や構想の能力
 主題により近付くようなレイヤーシートの組み合わせや視点を見つけ,構図を決め出すことができる。

(ウ)創造的な技能
 主題により近付くように,彫り方やインクののせ方,刷り方を工夫し,創造的に表現することができる。

(エ)鑑賞の能力
 参考作品や友の作品から,版画の造形的なよさや美しさ,創造的な表現の工夫などを感じ取り味わうことができる。

5.本題材の指導にあたって

○近景・中景・遠景の三段階でレイヤーシートを制作し,構図を考える。

 一人に3枚ずつレイヤーシート(透明のアクリル板18×24㎝)を配付し,自分の主題を基にスケッチした風景を近景・中景・遠景に分けてそれぞれのシートに描いていく。その際,描画材料はホワイトボードマーカーを使う(何度でも描き直しが可能)。また,レイヤーシートの位置を自由に移動させ,構図の検討がしやすいように,写真立てに差し込んで使うように伝える(図1)。それぞれのレイヤーシートが描けたところで,三枚が重なるように並べ,どのくらいの間隔で置くのがよいのか,また,左右の位置はどのあたりがよいのかをデジタルカメラのモニターに映し出しながら検討する(図2,3)。

図1 レイヤーシート

図1 レイヤーシート

図2 レイヤーシートの検討

図2 レイヤーシートの検討

図3 構図の検討

図3 構図の検討

6.題材の指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点,(評価方法)

○浮世絵を鑑賞し,主題と構図の関係性をとらえていく。

・歌川広重の「東海道五十三次」を一覧にして,実際の場所の写真とともに紹介する。
・1番目の「日本橋」を取り上げ,どのような構図の工夫が見られるか考えるように促す。(ア,エ)

○写真を基に,主題と描きたい風景を決め出す。

・イメージマップで,自分の描きたい風景を近景,中景,遠景に分けて考えるように伝える。(イ)

○近景・中景・遠景の三段階でレイヤーシートを制作して構図を考える。

・構図を決め出すために,三枚のレイヤーシートを並べ,表したい構図を考えて間隔や左右の位置を動かして検討するように促す。(イ)

○レイヤーシートの位置や視点を変えながら,主題をより表すことができる構図について友と意見交換し,構図を再検討する。(本時)

・グループでお互いのレイヤーシートの位置や視点を変えながら意見交換するように伝える。 
・友から出された意見を基に,主題により近付くために構図を再検討するように促す。(イ)

○版に下絵を写し,線彫りを進める。

・線の太さを変えたり,彫刻刀の種類を替えたり,彫り方を工夫している姿を全体に紹介する。(ウ)

○版に色のインクをのせ,刷る。

・同じ色から一色ずつ刷ることや,インクをのせる量,バレンでの刷り方によって表現の違いが生まれることを伝える。(ウ)

○完成作品を鑑賞し,自分の作品や友の作品のよさについて伝え合う。

・学習を通して学んだことや,友の作品を見て感じたことをワークシートに記入し発表する。(エ)

7.本時の学習

①目 標
 版画の構図を検討する場面で,レイヤーシートの位置や視点を変えながら,主題をより表すことができる構図について友と意見交換し,構図を再検討することを通して,主題により近付くようなレイヤーシートの組み合わせや視点を見つけ,構図を決め出すことができる。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫や教師の支援・評価◆の留意点

1 自分の構図を振り返り,本時の課題をつかむ。

○前時までに決め出した構図を振り返り,各自の主題と困っていることを伝え合う。
○レイヤーシートを用いて構図を再検討することの必要性を確認し,学習課題を設定する。

2 各自のレイヤーシートを基にグループで意見交換をする。

○意見交換の際に,レイヤーシートの位置や視点を変えながら検討するように促す。
○必要な場合には教室に掲示してある浮世絵の作品や参考になりそうな友のレイヤーシートを参考にするように伝える。

3 友の意見を参考にして構図を再検討する。

○レイヤーシートを描き直したり,新たなレイヤーシートに描いてこれまでの構図と見比べたりして,配置するものの位置や大きさなどを再検討するように伝える。
◆主題により近付くようなレイヤーシートの組み合わせや視点を見つけ,構図を決め出しているかレイヤーシートやワークシートから評価する。

4 活動を振り返り,本時のまとめをする。

○本時の活動を振り返り,感じたことや考えたことを,ワークシートに記入し,発表するように伝える。

8.主題と作品

夏の終わりまで通学を見守り続けてきたヒマワリ

夏の終わりまで通学を見守り続けてきたヒマワリ

朝日の中を進む通学電車

朝日の中を進む通学電車

清々しい朝日の中の稲穂と,山々の一体感

清々しい朝日の中の稲穂と,山々の一体感

清々しい

清々しい朝の神社に,さわやかな風が吹いている

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橋の欄干に朝日が当たり,さわやかで清々しい一日の始まり

にぎやかだった夏が終わり,秋へと季節が移っていく寂しい感じ

にぎやかだった夏が終わり,秋へと季節が移っていく寂しい感じ

9.実践を振り返って

 レイヤーシートの位置を変えたり,カメラの視点を変えたりすることで,実際にその風景を見ているかのような錯覚にとらわれる。そのため,生徒同士の意見交換では,シートを操作しながら具体的な言葉で修正の方向を見いだすようなアドバイスにつなげられた。また,主題を「○○な感じ」と決めたため,検討の際に「本人が考えているような,○○な感じがでているか?」と論点をしぼって意見交換することができていた。デジタルカメラでいくつかの構図を候補として撮っておくことで,見比べることが容易になり,よりよい構図を導き出すことができた。
 生徒が,自分の通学路を再発見することにもつながり,日常の何気ない風景にも関心を向けることができるようになった。また,後日行われた写生会においても,近景・中景・遠景の組み合わせや配置を意識して構図を決め出そうとする生徒の姿がうかがえた。