ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―

(C)ANEMON

 ギリシャでテレビのドキュメンタリーを作っているニコス・ダヤンダス監督が、ニューヨーク・タイムズの「祝福された長寿の島」と題された記事を読む。ギリシャのエーゲ海の小さな島であるイカリア島の人々は、世界のどこよりも長寿で幸せに暮らしているという。監督は、映画「ハッピー・リトル・アイランド―長寿で豊かなギリシャの島で―」(ユナイテッドピープル配給)を撮るためにイカリア島に向かう。ちょうど、アテネから島に移住しようとしているトドリスとアナというカップルを取材する。

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 ギリシャはこのところ経済が疲弊、長生きする人や幸せな人は稀といった現実がある。三人に一人は貧しく、若者の半分は無職という。アテネを抜け出そうとしても、仕事がない。トドリスは、コンピューター関係の仕事をしているが、治安が悪化したアテネを脱出しようとしている。トドリスは思う。「もはや、アテネでは幸せを見つけられない。格差が生じ、人々は助け合おうとしない」と。
 トドリスは、まずひとりでイカリア島に向かう。島には松やオークが茂り、オリーブ畑が広がっている。トドリスは土地と家屋を買う。修理や手入れが必要なボロ家だが、畑を耕し、なんとか早くアナを迎えようとしている。近くに住む、80歳になるヨルゴスがトドリスに言う。「ここの生活にも慣れるし、きっと道は見つかるさ」と。ヨルゴスは、小さいころから作物を育て、自給自足している。「お金がなくても生きていける。作物を育てる大地があるさ」とヨルゴス。
 トドリスの奮闘が始まる。農業経験は初めてである。やがてコツらしきものは掴むけれど、なかなか計画通りに事は運ばない。ヨルゴスは、毎日欠かさずに働き、「体は疲れるが、精神は疲れない」と言う。とても80歳には見えない。オリーブ油を作ったり、蜂蜜作りの仕事もある。
 長寿の調査で、フランスからロマンという医者が島にやってくる。墓地に向かい、墓碑を見る。100歳まで生きた人が多くいることを知る。元気そうな老女に長寿の秘訣を聞く。「人生は美しいものよ。うまく生きられるならね。人生を楽しめないなら、死んだほうがマシよ。互いを思いやって生きたい、助け合いでね。それが望みよ」と老女。

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 オリーブを収穫する人たちがいる。人手が足りないときは、みんなで助け合う。島では、資金集めのパーティがよく開かれる。学校を維持するための費用集めなどだ。島の伝統は、困っている人を助けること。島民には格差はない。どこかの家に問題があれば、みんなで救いの手をさしのべる。
 トドリスが島に来て数ヶ月経つ。なかなか島の人たちに馴染めない。トドリス以外にも、アテネで失業した若者が島で働いている。家賃代わりに、大家の庭の手入れをしたり、家の塗装をしたりしている。
 島の種々相が見えてくる。トドリスも、苦労しながら仲間たちと共同で農作物を作ろうと動き始める。
 いったい、人の世の「幸せ」とは何だろう。経済成長優先の国が多いなか、一見、豊かに見える世の中が、はたして本当に豊かなのか。幸せなのか。医者のロマンに話す老女の言葉がいい。「贅沢品じゃなくても必要なものは誰もが手に入れることができる。人生に必要なものがね。でも、権力者たちはそんなものに目もくれないのよ。ぶっ飛ばしてやりたいわ」
 静かに、地に足をつけて、助け合って、島の人たちは生きている。よそ者への差別もない。「幸せ」とは、「豊かさ」とはを、じっくりと考えさせてくれる映画と思う。

2014年10月11日(土)より渋谷アップリンクico_linkほかでロードショー!

『ハッピー・リトル・アイランド ―長寿で豊かなギリシャの島で―』公式Webサイトico_link

監督:ニコス・ダヤンダス
プロデューサー:レア・アポストリデス、ユーリ・アヴェロフ
製作:ANEMON
共同制作:ARTE & ERT
配給:ユナイテッドピープル
原題:LITTLE LAND
ギリシャ/2013年/ギリシャ語・英語/52分/HD/16:9/カラー/ドキュメンタリー

よくある質問~「技能」の指導はどうする?

Q.「切る、貼る、彫る、描く、、etc、『技能』が育ちきっていない子どもへの指導はどうしたらいいのですか?」

A1.「道具」に浸れる時間と場を工夫しましょう

 「技能」の指導を考える上で、大切なのは「道具」です。「切る⇔ハサミ」、「彫る⇔彫刻刀」など、技能は必ず「道具」とセットになっています。なぜ「道具」に括弧をつけたかというと、ノコギリや彫刻刀などの文字通りの「道具」だけでなく、描写や筆算などの認知的な「道具」も含むからです。例えば、私たちが普通に計算や描写するときにも「道具」は用いられています。どちらも鉛筆だけでなく「位をそろえて縦に並べる」「立体を透視的に平面化する」などの文化的な「道具」が必要です(※1)。そして、これらの「道具」を使いこなすためには一定の時間が必要です。特に新しい「道具」では、2時間、4時間と「道具」に浸る時間が求められます。年間指導計画の中で十分な時間と場が設定されているかどうか検討しましょう(※2)。

A2.発達に応じた「道具」を用意しましょう

 次のポイントは発達です。「道具」が子どもの「その時点」の成長や発育の状態にふさわしいかどうか検討する必要があります。例えば、小学校の中学年の子どもが釘を打つ場合を考えてみましょう。まず、金づちの柄が長すぎると上手く振ることができません。次に、金づちの重さは170~190gくらいが適切です。それ以上だと子どもはコントロールしにくくなります。また、金づちが使える高さや広さなどの視点も大事です。釘を打つのに机が高すぎては脇が開いてしまいますし、逆にしゃがんで打つと自分の肘が足に当たりとても危険です。子どもの身長、手の大きさや握力、思考や判断の発達などに応じて「道具」を用意することが大切です(※3)。

A3.「創造的な技能」を伸ばしましょう

写真1

 単純な「技能」の向上で終わるのではなく、「創造的な技能」を高めることが重要です。そのためには、夢中になって一つの「道具」に浸りながら、そこで思いついたことが技法や作品につながるなど、自然な流れで造形活動が発展していくことが大切です(※4)。例えば、写真1は小学3年生の題材で生まれた作品です。「とにかく打ってみよう!」から始まって、この子は釘を300本も打ちました。よく見ると、木目に沿って打ち込んだり、打ち込む深さを変えたり、いろいろな工夫をしています。「クギササリスギッチ」という生き物で、作品にもなっています。釘の打ち方が向上しただけでなく、その子なりに技法が編み出され、新たな表現となって昇華したことが分かります(※5)。他に、画用紙をひたすらいろんな切り方で切って、そこで生まれた形を組み合わせて作品にする(なる)という題材もあります(写真2)。

写真2

 まとめれば、子どもたちの成長には、「作品や仕上がりのための技能」よりも、「技能の経験や獲得のプロセスそのもの」が大切だということです。そのために、教師は、「創造的な技能」という意識を持ち、そこから「どんな活動が必要か」「題材をどう展開するのか」と考えることが求められます。これが逆になると「こんな作品を作らせたい」から「こんな技能が必要」ということになります。それを否定するわけではありませんが、往々にして「先生の指示通りにするだけの技能」「発達を無視した技能」に陥りがちです。それは「ある特定の場所に近づけるための従属的な技能」「作品至上主義に埋没した技能」です。素直な子どもたちは先生に合わせてくれますが、それでは「創造的な技能」は伸びません。次回はそれに関する私の失敗談を書きましょう。

 

※1:「道具」については昔からいろいろ言及されていますが、 有元 典文 岡部 大介 著『デザインド・リアリティ―半径300メートルの文化心理学』2008 北樹出版 が参考になるでしょう。
※2:例えば「自分の感覚や感じ方を頼りに試行錯誤できる時間」「自分でやって、自分で確かめるような場」など。「学び!と美術 <Vol.23>」でも述べましたが、この質問も子どもの個別の問題というより、教育課程で解決すべき問題でしょう。
※3:「学び!と美術 <Vol.19>」も参照してください。
※4:小学校では特に必要な配慮事項ですが、中学校では文化的な資源として、「道具」を題材の中で効率的に用いることがポイントです。
※5:「学び!と美術 <Vol.04>」で紹介した版画の題材もその一種です。

鈴木康広展「近所の地球」

 鈴木康広(1979-)の大規模な個展である。水戸芸術館の現代美術ギャラリーに、これまでに制作してきた代表作および、本個展のために制作した新作が数多く展示されている。また、中心市街地活性化事業として水戸市街の24の店舗に各2冊ずつパラパラマンガを設置する、「パラパラマンガ商店街in水戸」も同時に開催しており、地域と連動した展覧会にもなっている。
 代表作の展示として「ファスナーの船」の関連資料があった。これは2002年に鈴木が飛行機で移動している際、上空より、水上を進む船の後ろに発生するハ字型の波(引き波、ケルビン波などと呼ばれる)を見て、そこから着想を得た作品である。このハの字に広がる波をファスナーが開かれる様に見立て、船をファスナーの持ち手と考えれば、地球をファスナーで開いているイメージにつながる、と鈴木は発想したのである。2004年にはファスナーの持ち手部分のラジコン船を制作し発表。このときは公園の池で実演した。2010年には実際の漁船を改造し、人間が乗船可能な全長約11mの船舶を現実のものとする。これは第1回瀬戸内国際芸術祭において、来場者を乗せて瀬戸内海を渡った。そのほかにも代表作として「遊具の透視法」(2001)「まばたきの葉」(2003)などが体験型のインスタレーションとして展示されている。
 また「パラパラマンガ商店街in水戸」は水戸市街を散策しながら、多彩なパラパラマンガを鑑賞できるのが特色である。鈴木のパラパラマンガはメタモルフォーゼによる形の変化の不思議さ、単純な動きの面白さ、短時間で完結するシュールな物語性、見たての妙など、さまざまな技法を一冊ずつ端的に凝縮してある。より多くの作品を見るほどに、「この手があったか!」と感心の度合いが深まるので、水戸市街を散策しながら、なるべく多くのパラパラマンガを鑑賞することをお勧めしたい。

(編集部)

 

<展覧会情報>

  • 鈴木康広展「近所の地球」
  • 2014年8月2日(土)~10月19日(日)

展覧会概要

  • 2001年に公園の遊具を用いた映像インスタレーション作品で脚光を浴び、その後、美術館での作品発表のみならず、地域や空間を意識した活動や奇想天外なアイデアを紹介する著作などを発表し続ける鈴木康広の大規模な個展。これまでの代表作と新作を一挙に体験できる内容となっている。

水戸芸術館ico_link

  • 所在地 茨城県水戸市五軒町1-6-8
  • TEL 029‐227-8111
  • 休館日 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)

<次回展覧会予定>

  • ヂョン・ヨンドゥ 地上の道のように
  • 2014年11月8日(土)~2015年2月1日(日)

その他、詳細は水戸芸術館Webサイトico_linkでご覧ください。