ソ満国境 15歳の夏

(c)『ソ満国境 15歳の夏』製作委員会

 戦後70年。映画の世界でも、節目の年ということで、戦争にまつわる映画が公開される。高井有一の小説「この国の空」を原作にした「この国の空」や、半藤一利のノンフィクションを原作にした「日本のいちばん長い日」だ。ぜひとも、若い人たちにお勧めしたいのが、田原和夫のノンフィクション「ソ満国境 15歳の夏」(築地書館)を映画化した「ソ満国境 15歳の夏」(パンドラ、ジャパン・スローシネマ・ネットワーク配給)だ。
 原作は、田原和夫の終戦前後の実体験に基づく。終戦直前の昭和20年5月、勤労動員としてソ満国境の近くに送り込まれた新京一中の三年生たちがいる。敗戦直後、日本の少年たちはソ満国境近くに置き去りにされ、餓死寸前、中国の人たちに救われたりしながら、過酷な状況を生き延びる。田原和夫はその中のひとりである。映画は、この原作を骨格に、現代の15歳の若者たちを重ね合わせる。

(c)『ソ満国境 15歳の夏』製作委員会

 2011年、未曾有の震災が日本を襲う。1年後の2012年、いまなお、福島の仮設住宅に住み、中学校に通う3年生の敬介(柴田龍一郎)たちが、中学生として最後の夏休みを迎えようとしている。校庭では、ボランティアの老人の原田(夏八木勳)たちが、放射能の除染作業を続けている。ある日、中学校の放送部に、中国の黒竜江省のあるところから新しい撮影機材が届く。手紙には、「中国に来て、撮影してほしい場所がある」と記されている。敬介たち放送部員は、引率の古賀先生(大谷英子)と、黒竜江省に旅立つ。撮影機材とともに、一冊の本が送られてきた。田原和夫の「ソ満国境 15歳の夏」である。古賀先生は生徒たちに、この本を読ませる。

(c)『ソ満国境 15歳の夏』製作委員会

 みんなを招待してくれたのは、石岩鎮という小さな町の長老、金成義(田中泯)である。日本語が達者な金長老は、みんなに取材、撮影してほしい場所を教える。そこが、終戦直後に少年たちがさまよった場所、ソ満国境のすぐ近くだった。敬介たちは撮影のための取材を続ける。やがて金長老は、秘めていた過去の出来事を敬介たちに話し始める。そして、敬介たちは、ここに招待された本当の理由を知ることになる。
 一見、複雑な構成に見えるが、過去と現在の出来事が巧みに交差して、分かりやすい展開である。よく練られた脚本で、過去と現在が、鮮やかに結びつく結末は見事である。
 いまなお、解決のメドのたたない福島の現実がある。憲法を勝手に解釈して、戦争への危惧が拡大する動きがある。映画の資料で、原作者の田原和夫は言う。「昨今、戦争を知らない世代の人口が増えています。往々にして過去の事実を確認することなく、紙に書かれたものを読むだけで判断する傾向があるように見受けられます。あくまでも過去の事実をしっかり踏まえた実証的な歴史認識を持っていただきたいものです」。
 資金難や苦労した中国ロケなどを経て、6年の歳月をかけてやっと映画を完成させた監督の松島哲也は言う。「15歳の若者の命を、誰がどうやって守っていくのか? 親子で見て、コミュニケーションのきっかけになってくれればいいのですが」。
 この夏、先生と生徒、親と子、戦争を知る世代と知らない世代など、一人でも多くの人に見てほしい一作。

2015年8月1日(土)より新宿K’s cinemaico_link大阪・シネ・ヌーヴォico_link名古屋シネマスコーレico_linkにてロードショー、以下全国順次公開!

■『ソ満国境 15歳の夏』

監督・脚色:松島哲也
脚本:松島哲也、友松直之
撮影:奥原一男
録音:山田均
照明:田部誠
音楽:上野耕路
美術:庄島穀、小林久之
編集:宮澤誠一、清水和貴
プロデューサー:野田慶人、宮澤誠一、松島哲也
原作:田原和夫著「ソ満国境・15歳の夏」(築地書館)
2015年/カラー/デジタル/94分
配給:パンドラ、ジャパン・スローシネマ・ネットワーク
(c)「ソ満国境 15歳の夏」製作委員会

兵隊を育む教育

若林虎三郎編『小学読本』第二(明治17年)第27課

 明治維新で誕生した日本は、吉田松陰らの幕末志士が欧米列強による侵略、日本が植民地にされるのではないかという危機感を共有することで、列強に追いつくために日本を天皇の下に一元的に統治する国家の形成をめざしました。国内の一元的統治は、列島にある地域的な固有の言語、方言とよばれた言葉を列島共有の「国語」に造型するとともに、天皇が統率する軍隊によって推進されます。ここに日本列島の住民は、地域的な偏差をこえて、日本国の国民である前に、天皇の民、臣民とされ、天皇の軍隊を担う兵隊こそが良き臣民、国民であるとみなされ、「良兵良民」となるように教育されました。この「良兵良民」をめざす教育はどのようなものだったのでしょうか。

行進する小学生

 1890年8月、島根県の松江中学に赴任したL、ハーン、後に日本に帰化した小泉八雲は、松江城を散歩の途次、女教師の先導で歌いながら行進する小学生の一団に出会い、その姿が松江の初印象として心に刻まれたと記しています。その時の歌は楠正成です。
 この行進曲は『小学生徒運動唱歌』(1889年 有川貞清 京都 福井宝正堂)の楠公に関するものです。『小学生徒運動唱歌』は、世間に流行する俚歌童謡が「鄙猥」「批毀軟弱」か「粗暴」なもので、「一として純乎たる児童天稟の美徳」を害うものばかりだとし、これを矯正すべく、「高尚優美の気風を喚起せしむべき運動歌活発勇壮の志気を振興せしむべき軍歌若干を選択編纂し以て児童をして運動遊技の間に之を和唱せしめ識らず知らず児童の悪習卑風を矯正するの材料に充て」、「教育の一助」とすべく編集されたものです。そこに収められた作品は、「日本魂の歌」「忠孝の歌」「武士の歌」「体操の歌」「遊戯の歌」「競漕の歌」「勧学の歌」「英雄の歌」「花月の歌」「元寇襲来の歌」「国体の歌」「益荒男の歌」「楠公遺訓の歌」「小楠公の歌」「軍歌」「楠公父子訣別の歌」「王政復古の歌」「兵士の歌」「小楠公決死の歌」等々で、楠公楠正成を主題としたものを多くみることができます。いわば楠公の神話は、明治維新の精神的な拠り所であっただけに、新国家が求める天皇への忠誠心、愛国の至上を言挙げする物語の原点にある世界として説かれたのです(Vol.3「楠正成像に読みとる時代精神」ico_link参照)。まさに日本の子どもは、松江の小学生が「楠公」を歌いながら行進しましたように、天皇の忠臣として生きることを幼き日よりすりこまれたのです。「楠公遺訓の歌」は

建武の昔正成は 肌の守りを取出し 是は一歳都攻ありし時 下し給ひし綸旨なり 之を汝に譲るなり 我兎に角になるならば 世は尊氏の世となりて 叡慮を悩まし奉らんは 鏡にうけて見る如し さは去りながら正行よ 父の子なれば流石にも 忠義の道はかねて知る 弓はり月の影暗く 家名を汚すことなかれ打ち漏されし郎等を あはれみ扶助し隠家の 吉野の山の奥ふかく 月の桂は漣や 流れも清き菊水の 旗を再び翻がへし 敵を千里に退けて 叡慮を慰め奉れ 嗚呼叡慮を安んじ奉れ

と説き聞かせ、次の「小楠公の歌」が「嗚呼正成よ正成よ 公の逝去のこのかたは 黒雲四方にふさがりて 月日も為に光なく 悪魔は天下を横行し 下を虐げ上をさえ あなどり果て上とせず」と、正成亡き世の暗黒を歌い、正行が「大君の御為に」「菊水の旗」を揚げ、「雲霞の如き大軍を ものともせずに斬まくり 君の方をば枕して 討死せしはいさぎよく 勇しかりける次第なり 都も遠き村里の 女わらべに至るまで 忠臣孝子の鑑ぞと 誉むる其名は香しく 天地と共に伝はらん 天地と共に伝はらん」と、楠公父子の忠誠心を讃えます。
 ここに歌われた楠公父子の物語は、後に落合直文が「櫻井の訣別」「敵軍襲来」「湊川の奮戦」からなる「楠公の歌」となし、「青葉茂げれる櫻井の 里のわたりの夕まぐれ」とうたいだす「櫻井の訣別」が小学唱歌として、人口に膾炙し、国民の心に埋め込まれた記憶の根となります。

小学校は兵士の訓育場

 このような小学校教育を担う教師は、1889年1月の徴兵令改正で、小学校の教師となる師範学校卒業者に6カ月短期現役制(11月より6週間現役制)の特典を付与し、軍隊への体験入学をふまえ、小学生徒に天皇を「頭首」(軍人勅諭)とする天皇の軍隊の良き兵隊となることこそが良き国民の務めだということを教えたのです。国語読本は兵隊さんの世界を説き聞かせ、体育の授業では団体行動の規律を体得させるために行進することを教え込みました。その成果を競う場が学区をこえた地域対抗の連合運動会となります。
 1884年(明治17)の『小学読本 第二』(明治17年 若林虎三郎)第27課は、「汝等ハ操錬スルコトヲ好ムカ、操錬ヲ学ビテ好キ軍人ト為リ他日事アルトキハ死ヲ決シ勇ヲ振ヒテ敵ト戦ヒテ我ガ天皇陛下ノ厚恩ニ報イ奉ラズバアルベカラズ」と問いかけます。小学2年生の教科書としては程度が高いのは教科書編纂者が小学校教育の現場を知らないことによりましょう。教科書には、「櫻井駅訣別」等の楠公父子の忠義の物語が必ず入るとともに、「兵士」(『尋常小学読本 巻之二』第20課 1887年 文部省)、同『巻之三』第25課「招魂社」というように、兵隊として天皇の手足となって死ぬことが忠義の証であると教え込んだのです。
 いわば小学校の国語読本は、大日本帝国憲法公布に先立ち、1888年に文部省の『高等小学読本 巻之一』第1課「吾国」、『巻之四』)第28課「皇国の民」が教材となり、日清戦争の1894年の『尋常小学読書教本 巻之六』第17課が「軍人」、第23課「兵役と租税」というように、兵役の義務を説きましたように、国家の容(かたち)が整えられてくるとともに、「皇国の臣民」たる教育が体系化され、「良兵良民」として歩まされていくこととなります。このようにして造形された日本国民は、日本国憲法下においても、いまだ「天皇の民」に囚われた呪縛から自由でないのではないでしょうか。

 

参考文献

「ならべて,かさねて,つんでみると」(第1学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.題材名

「ならべて,かさねて,つんでみると」

2.題材の価値とねらい

 アーティストが学校に出向き,子どもと一緒に授業を展開する実践例は,幾つか報告されている。しかし,これまでの実践例では,アーティストのもつ技法を模倣する程度にとどまっていた。そのため,子どもは自らつくりたいという思いをもち,それを表すための発想や構想の能力を働かせていたとは言いにくい。
 子どもがアーティストと出会い,技法を紹介する場を設定したのみでは,「へー,すごいな」で終わってしまう。アーティストを授業に参画させるのであれば,アーティストが日頃の芸術作品づくりで大切にしていることや感じていることを十分に聞き,つくる行為を間近に鑑賞する場の工夫が必要であると考える。
 本題材では,アーティストが「自分の作品に込める思いを伝える」場と「つくる行為を実演する」場,「子どもの表現に対して評価する」場,これら三つの場を設定することで,子どもが感性を働かせ,自分の思いを表していくことをねらう。

3.評価の観点

【造形への関心・意欲・態度】
 アーティストの提示した材料を,並べる・積む・重ねることの面白さに気付き,進んで身の周りから材料を集めて,楽しんで表そうとしている。

【発想や構想の能力】
 材料を置く向きを変えたり,様々な角度から鑑賞したりしながらイメージを膨らませて,表し方を思い付いている。

【創造的な技能】
 形や色,大きさなどを考えて,自分の思いを表現できる装飾材料を効果的に使い,思いに合った表し方を工夫している。

【鑑賞の能力】
 つくり途中の作品や完成した表現の鑑賞活動を通して,材料の形や大きさを生かして並べる・積む・重ねることのよさに気付いている。

4.学習の流れ

【用具・材料】
教師:
教師用教具(そろばん,算数セット,ブロック など) など
児童:筆記用具 など

(1)導入時の工夫:アーティストが「自分の作品に込める思いを伝える」場の設定
 導入時には,アーティストとの出会いの場を演出することが大切である。今回のアーティストは,秋山ブク氏(以下,秋山氏)である。秋山氏は,日本各地のギャラリー,店舗,倉庫など様々な空間で「コンポジション」のシリーズを継続しているアーティストで,制作している作品は,その場にあるものだけで構成するインスタレーションのシリーズが中心である。
 秋山氏は,亀田小の近辺にある「みずっちタンク(旧亀田浄水場)」と呼ばれる場所で制作を行い,一般市民に向けて作品の公開を行っていた。そこで,まず子どもにその作品と出会わせてから秋山氏を紹介することで,秋山氏への興味が増すと考え,子どもたちを「みずっちタンク(旧亀田浄水場)」鑑賞ツアーに連れて行き,秋山氏の芸術作品と,秋山氏本人とに出会わせた。

 子どもたちは,秋山氏の作品と秋山氏との対話を通じて,秋山氏に興味を示した。そして,今度秋山氏と亀田小で会う約束をし,鑑賞ツアーを終えた。
 後日,秋山氏が亀田小を訪問し,子どもたちの教室(1年1組)に入り,授業を行った。秋山氏は,身近な道具を使って並べたり,重ねたり,積んだりする制作過程や,別の形が形成されることの面白さを伝えた。子どもたちは,筆箱や鉛筆などを取り出し,次々に行為を始めた。

 その後,子どもたちは,校内の4カ所(体育用具室・第1音楽室・家庭科室・図書室)に設置された秋山氏の芸術作品を鑑賞した。

用具室

第1音楽室

家庭科室

図書室

 これらの作品を見てもわかるように,秋山氏の作品に込める思いとは「そこにあるものだけを使って,バランスや左右対称を意識して並べる・積む・重ねると,何かに見立てられる」であった。また,「ここをバランスよく重ねたよ」など,表現する際の視点を子どもたちに伝えた。抽出児の星山(仮名)は,「僕も色々なものを並べたい」とつぶやく様子が見られ,意欲を示していた。

(2)活動の広がり①:「つくる行為を実演する」場の設定
 表す意欲を示し始めた子どもに,普段は子どもだけでは入ることのできない資料室にある材料を使って,「気に入ったものを集めて,並べて,重ねて,積んでみよう」というテーマを提示した。つくる場所は,資料室前の廊下とした。この段階において,「秋山氏のつくる行為を実演する」手立てを設定した。具体的には,資料室の廊下前に,秋山氏のパフォーマンスコーナーを設置した。秋山氏も,そのコーナーで一緒につくることを伝えた。
 秋山氏には事前に,このコーナーでは「子どもの発想や構想が膨らむように,バランスや左右対称を意識して並べる・積む・重ねる方法を使ってパフォーマンスしてほしいこと」をお願いしておいた。
星山は,秋山氏が手にしたお花のおはじきをバランスよく並べて,重ねている様子を見た後,すぐにお花のおはじきを探してきた。そして,星山は,そのおはじきを並べ始めた。

 この姿からは,星山が秋山氏のつくる行為に感化され,「秋山さんのようなものを使ってみたい,並べてみよう」という発想・構想が膨らんだと言える。

(3)活動の広がり②:「子どもの表現に対して評価する」場の設定
 星山は,堀田と2人で活動をしていた。ある程度作品づくりが進んだ段階で,「子どもの表現に対して,秋山氏が評価する」場を設定した。
 秋山氏には,子どもの作品について思いを語る時に,事前にお願いをしておいたことがある。それは,「取り入れていない方法に気付くような働き掛けをしてほしいこと」であった。星山と堀田は,並べる行為を取り入れ,つくり進めていった。バランスよく重ねる行為のよさにも気付かせたかった秋山氏は,「何をつくっているの?」と星山に聞いた。星山は,「宇宙です」と答えた。秋山氏は,「本当の宇宙の世界みたいだね。このバケツの上に何か重ねると面白そうだね」と,重ねる視点を伝えた。星山は,バケツの上に何を載せるのかを考え始めた。そして,そろばんなどを並べ,重ね始めた。その結果,次の写真のような作品に仕上がった。

 星山と堀田の一連の姿からは,秋山氏の評価を受けて「地球儀を載せるために,その場所に他のものを重ねてみよう」という,「重ねる」ことの新たな視点のよさに気付いたことが窺える。そして,「ブロックや定規を重ねてみよう」という新たな発想や構想を膨らませることにつながったと言える。

5.評価の実際

 学習過程の児童のつぶやきや様子などを踏まえて,一人ひとりのつくりたい思いを継続させる評価を心掛ける。以下は本題材における評価規準の具体の姿である。

【造形への関心・意欲・態度】
 意欲的に材料を集めて,集めた材料を並べたり,積んだり,重ねたりすることを通じて,楽しみながら面白い形を表そうとしている。

【発想・構想の能力】
 何かを表すために,材料の置く向きを変えたり,様々な角度から鑑賞したりして,必要な装飾材料の組合せを考えている。

【創造的な技能】
 表したいものを表現するために,装飾材料を効果的に使って,思いに近付ける行為をしている。

【鑑賞の能力】
 友だちの製作途中の作品や,つくった作品を鑑賞する活動を通じて,材料の形や大きさを生かして並べる・積む・重ねることのよさに気付いている。

よくある質問~「造形遊び」って何?

Q.「造形遊び」と「絵や立体、工作」は何が違うのですか?

A.「『造形遊び』がよく分からない」という声はいまだに聞こえます。その理由を考えながら「造形遊び」について検討してみましょう。

○名称の観点
 実は学習指導要領上、「造形遊び」は正式名称ではありませんでした。「材料をもとにした造形遊び」「楽しい造形活動」など様々な呼び方をされていました。そのためか教科書でも「絵」「造形遊び」とは示されていません。でも、今回の改訂で「造形遊び」は正式な名称になりました。教科書にも用語として用いられています(※1)。一般の先生が馴染むのはこれからでしょう。

○内容の観点から
 図画工作科では、学習内容を「表現」と「鑑賞」の二つに分けています。そして「表現」を「造形遊び」と「絵や立体、工作に表す」に分けています。簡単に言えば、材料や場所あるいは行為などに出会って始まるのが「造形遊び」、明確な目的があって始まるのが「絵や立体、工作に表す」です(※2)。別の内容というわけではなく、図のように一つの内容を二つの側面からとらえるという考え方です。

○能力の観点から
 「造形遊び」も「絵」も、育てようとする能力は一緒です。問われるべきは、学習を通して「発想や構想の能力が高まったか」「創造的な技能が十全に働いたか」です。「これは造形遊びだったか、絵だったか」ではありません。授業研究会でジャンルにこだわる議論を行うのは生産的とは言えないでしょう。

○ジャンルの観点から
 一方、「これは絵」「これは彫刻」というふうに、ジャンルに分けて考えることも必要です。このとき、図画工作には、そのような一般的な言葉でうまく表せないことがあるというわけです。例えば校庭の遊具をシートで包む定番の学習活動を何と呼べばいいのでしょう(※3)。「絵」ではないし、かといって「つつむ行為から発展した何か」と言うのも変です。これを「造形遊び」と呼んでいると考えてはどうでしょうか。

○行為の観点から
 そもそも、行為だけを取り出したら、大人も子どもも、造形遊びも工作も、区別はできません。例えば、「絵」の題材に「真黒にした画用紙を消しゴムで消しながら描く」という題材があります(※4)。消すという行為そのものを楽しみ、そこから新しい発見が生まれるような活動です。あるいは作家が「風景画」で、山肌の質感を表そうと無心に絵具をキャンバスに重ね、その行為から思わぬ効果が生まれているとすれば、それはまさに「造形遊び」の状態です。行為性は「造形遊び」で最も大切な要素です。

○〔共通事項〕の観点から
 このように「造形遊び」には「絵や立体、工作と共通する部分」と「絵や立体、工作と異なる部分」があります。その二重性が「造形遊び」の分かりにくさでした。でも今回の学習指導要領で、「形や色を手掛かりにイメージを膨らませて表現する」という行為的な部分は〔共通事項〕と設定されました。「造形遊び」で重視してきた内容が〔共通事項〕として小中で一貫し、広がったという言い方もできるでしょう(※5)。〔共通事項〕には「造形遊び」の二重性の解消という側面もあるのです。

○発達の観点から
 教科書を眺めて「絵や立体、工作」と「造形遊び」の題材を比べてください。低学年ほど渾然としています。中学年から分かれはじめます。高学年では、テーマ性がはっきりしてきます。中学1年生にも、小学校との接続として「造形遊び」が想定されています(※6)。さらに中学生一人ひとりの作品の中に「造形遊び」性を探すことができるでしょう。どの教科でもそうですが、学習内容は発達に沿って分かれ、具体的になっていきます。「造形遊び」も同じです。発達に応じて、その現れ方は変化します。

○指導の観点から
 低学年ほど「造形遊び」はシンプルに提案されます。例えば「どんどん ならべて」のような定番題材では「今日はたくさんあるものを並べてみようか!」で十分でしょう(※7)。それだけで、子どもたちは次々と工夫します。でも高学年で、先生「並べてみよう!」、子どもたち「お~!」とはならないでしょう。高学年では、色、光、雰囲気、そこを通る人の気持ちなど、様々な手掛かりを与えたり、テーマを明確にして探求的に進めたりすることが考えられます。

○評価の観点から
 「造形遊び」では、プロセスで働く資質や能力が重要です。例えば、子どもたちは、大きな黒い画用紙に絵具を垂らしながら「きれい」や「いい感じ」を見つけています。そして、もっとそれを「きれい」に「いい感じ」にしようと挑戦します。それは大人的に言うと「補色の組み合わせ」「バランスの追求」などの試みです。また、子どもたちは、自分の手の動きや変化する様そのものが大事で、それ自体を飽きもせず繰り返します。それは「行為そのものへの没入」で、そこから「発見」が生まれたりします。先生はこれらの姿を肯定的に評価し、「子どもが感じてはいるけど、言葉にはできない部分を言葉にする」「活動の面白さを認め、後押しする」、時には「止めたり、複数の提案をしたりする」などの指導につなげるとよいでしょう。

 小学校図画工作には「造形遊び」という内容があります。それは、活動内容の変化の自由度や幅、活動の発展性などが子どもたち自身に開かれている学習活動です。子どもたちは、「造形遊び」の中で、材料や場所、行為などの様々な資源とかかわりながら、資質や能力を発揮しています。自ら「有能な私」を生み出し、「今」「ここ」で自分自身を更新しています。
 まずは教科書に掲載されている定番の題材を実践してみましょう。そして、直観的にチャレンジしたり、論理的に組み立てたり、体を作品から離して考え直したりする子どもを感じ、味わいましょう。それが「造形遊び」を理解する一番の近道です。

 

※1:日本文教出版『図画工作』教科書では「ぞうけいあそび」「ぞう形あそび」「ぞう形遊び」としている。
※2:文部科学省『小学校学習指導要領図画工作編』日本文教出版(2008)pp.11-12
※3:「つつんだアート」 『図画工作3・4下 見つけたよ ためしたよ』日本文教出版(2015)pp.20-21

※4:「消してかく」 『図画工作5・6上 見つめて 広げて』日本文教出版(2015)pp.14-15

※5:もちろん中学校美術科、音楽科として〔共通事項〕を設定しましたので、あくまで「言いよう」です。
※6:文部科学省『中学校学習指導要領美術科編』日本文教出版(2008)pp.36 9行目から
※7:「どんどん ならべて」『図画工作1・2上 たのしいな おもしろいな』日本文教出版(2015)pp.40-41

「切ってつなげて木の世界」(第3学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.題材名

「切ってつなげて木の世界」

2.題材の価値とねらい

 3年生が始まったばかりの頃、子どもたちの中には粘土で何かをつくるときに、絵をかくように平面的な作品になっている子どもがいた。このような子どもたちに、立体作品をつくる力を付けていきたいと考えた。木という材料は、様々な大きさや形に切ることができ、木工用の接着剤や釘で接着できるよさがある。また、のこぎり、金づちなどの用具を使うことで、子どもたちの創造的な技能も高まると考えた。

3.題材の観点別評価内容

【造形への関心・意欲・態度】
 木に親しみ、木を使って形をつくることを楽しもうとしている。

【発想や構想の能力】
 いろいろな木材を組み合わせながら、つくりたいものを考えている。

【創造的な技能】
 つくりたいものに合わせて、用具、材料の使い方を工夫している。

【鑑賞の能力】
 自分や友だちのよいところや工夫したところを見つけている。

4.学習の流れ

〈用具・材料〉
教師:
木材、のこぎり、釘抜き、木工用接着剤、釘、粘着テープ など

児童:木材、木の実(松ぼっくり、どんぐりなど)、木の枝、つまようじ、割り箸、木のボタン など

〈材料の準備〉
 活動に入る2ヶ月ほど前に、子どもたちに、「切ってつなげて木の世界」という工作をすることを伝え、木材や飾りとして使える木の実などを集めるように話した。
 また、保護者にも協力を得るため、学級便りでどのような工作をするかや、どんな材料があるとよいかを知らせた。事前に子どもたちや保護者に知らせておいたことで、十分な木材と飾りに使える木の実などを準備することができた。

〈導入時の工夫〉
 粘土で積み木をつくり、それをどんどん積んでいき、立体をつくった。粘土で積み木をつくることから始めたのは、2年生の頃から粘土を使って何かをつくることに熱中する子が多かったからである。また、木で立体をつくることへの橋渡しになると考えたからである。
 子どもたちは、粘土で正方形・長方形・台形・円柱など様々な形の積み木をつくり、どんどん付けていった。「木でもつくれそう!」「面白そう!」と子どもたちは言い始めた。

〈展開と活動の広がり〉

(1)のこぎりの使い方を知り、のこぎりで切る。
[児童の活動]

・実際に教師の切り方を見て、のこぎりの持ち方と木の押さえ方、ひき方を学んだ。
[教師の支援]
・初めて使う子どもたちが木を切りやすいように、小さめののこぎりを用意した。
・長い木切れ、短い木切れ、いろいろな大きさの木切れになるようにした。
・木を斜めに置いて切ると、斜めに切れたり、三角の形になったりすることを理解するようにした。
⇒初めて木を切る子どもが多かったが、いろいろな長さや形に切れることが楽しくなり、みんな大喜びで木を切っていた。

(2)金づちの使い方を知り、金づちでくぎを打つ。
[児童の活動]

・実際に教師の金づちの使い方を見て、金づちの持ち方、釘の押さえ方、打ち方を学んだ。
[教師の支援]
・釘が曲がらないように打つことを大切にした。
・釘は接合だけでなく、飾りにもなることを理解するようにした。
⇒始めのうちは釘を打つと曲がってしまう子どもがいたが、試しながら、まっすぐに打てるようになってきた。釘をひげやとげに使うなど、飾りとして使った子どもの作品を全体に紹介した。

(3)切った木切れでつくりたい物をつくる。
[児童の活動]

・一人ひとりが木切れをどんどんつなげて、つくりたい物をイメージしていった。
・自分の作品ができ上がった子どもたちから、「友だちと一緒につくってみてもいいですか?」という声が上がった。そこで、「ぼくらのモンスターワールドをつくろう」(日本文教出版株式会社 図画工作 教材のアイディア《立体表現編》に掲載)という実践の中の共同作品を子どもたちに紹介した。そのモンスターを見た子どもたちは、「自分たちもつくりたい!」と、ますます意欲的になった。子どもたちは、男女問わず「一緒につくろう!」と声を掛け合い、夢中になって作品をつくっていった。
・友だちと一緒に「どうやってくっつける?」「こうしよう!」「いいね!」などと喜んで知恵を出し合っていた。でき上がった作品は、1人では考えつかないようなアイデアがあり、ダイナミックなものが多かった。
[教師の支援]
・つなげるときには、接着剤や釘を使うようにした。接着剤が乾くまで、粘着テープで固定して、子どもたちがどんどん進められるようにした。
・子どもたちの発想を大事にし、個々にがんばりやよいところを褒めることに努めた。
・一人ひとりが自分の作品をまずつくり上げる。終わった子どもは、友だちと一緒に作品を作ってよいということにして、発展的な活動を取り入れた。
⇒子どもたちは、たくさんの木切れをよく見て、つなげ方を考えて夢中になり、どんどん立体作品をつくっていった。

(4)自分や友だちの作品のよさを発見する。
[児童の活動]

・友だちが一生懸命につくってきたことがわかっているので、作品を興味深く鑑賞していた。

5.完成作品

コミュニティ・スクールの展望

icon_pdf_small「日文の教育情報 No.138」PDFダウンロード(364KB)

 今更ではあるが、コミュニティ・スクールとは「学校運営協議会」が設置され、教育委員会から任命された保護者、地域住民等が、一定の権限と責任を持って学校運営の基本方針を承認すること、教育活動に対する意見を述べること、教職員の採用その他の任用に関する事項について任命権者に対して意見を述べることが保証された制度である。
 コミュニティ・スクールを全公立学校の1割に拡大するという推進目標が「第二期教育振興基本計画」において掲げられ、「教育再生実行会議・第六次提言」では全ての学校がコミュニティ・スクールの仕組みの必置について検討を進めることが提言されている。
 ところで、地域とともに子供を育てるという学校の在り方は、これまでの日本の公立学校の歴史が求めてきたものと言っても過言ではない。
 学校運営協議会制度におけるコミュニティ・スクールが求める“地域とともにある学校づくり”をガバナンスとソーシャルキャピタルの視点から検討し、今後の展望について考察したい。

■コミュニティ・スクールとガバナンス

 地域と学校との関わり方・在り方は、制度上、大まかに次の三つの段階を辿ってきたといえる。学社融合・連携による地域の教育資源を活用して充実した教育活動を推進する段階、学校評議員・学校関係者評価制度による地域住民の意向を反映した開かれた学校経営・運営を推進する段階、学校支援地域本部事業など地域ぐるみで学校を支援する仕組みを構築し、地域とともにある学校づくりを推進する段階である。
 学校運営協議会は、前述した一定の権限が制度上保証されていることから、学校の教育活動に関する「支援活動」のみに留まらず、学校運営に関して合意形成し「参加・意志決定」することをその機能として持っている。学校運営に関わっている主体(保護者、地域住民等)が「地域の課題は地域で」課題解決していこうと相互調整(熟議)する時、「おらが学校」を中心とした“まちづくり”に繋がっていく可能性を持っている。コミュニティ・スクールは“まちづくり”の方向性を持った制度と言える。
 今後、教育課程特例校制度の活用や「地域学」の編成・実施などに多くの主体が積極的に参画し、「おらが学校」のカリキュラムの構築に学校運営協議会がかかわっていくというアプローチが考えられる。

■コミュニティ・スクールとソーシャルキャピタル

 地域における公立学校の存在意義は、少子高齢化、人口減少の進行する社会において教育の機会均等、地域コミュニティの維持の観点からも極めて大きい。
 コミュニティ・スクールを導入することで、より効果的な学校間連携や地域住民のソーシャルキャピタルの醸成が推進されることは実践校の「成果」の一つとして確認されている。保護者、地域住民等が学校運営などへ積極的に参画することに伴って、地域内での各主体間の社会的つながりが増し、そのことが学校の教育活動においてさまざまな好結果―学力向上、生徒指導上の諸問題の減少等―を生み出していくというポジティブフィードバックの存在の可能性も指摘されている。
 学校運営協議会制度は、コミュニティ・スクールを中心として多くの保護者、地域住民・団体を巻き込むことでコミュニティの信頼性、互酬性、ネットワークの密度を増し、学校教育の「資本」としての「よき地域づくり」につながる方向性を持っている。
 学校運営協議会が福祉関係機関やスクールソーシャルワーカー等と家庭教育支援チーム等を組織し「学校運営に関する意見の申し出」を家庭・地域に対する支援活動につなげるというアプローチも考えられる。

■おわりに

 多くの市町村教育委員会では、学校に学校運営協議会を設置し、積極的な支援体制を確立することで、学校が抱える課題の解決を地域社会と一体となってはかり、地域が活性化し“まちづくり”に資する学校となっていくことが期待されている。
 コミュニティ・スクールの展望について、二つの視点から検討したが、今後、コミュニティ・スクールの導入がより促進されることが予想される。その際、コミュニティの規範と学校・教員の専門的規範との間で生じる葛藤を軽減するのが学校運営協議会における熟議であり、熟議をとおしてガバナンスやソーシャルキャピタルがさらに醸成されていくものと考える。

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