ドリーム ホーム 99%を操る男たち

Copyright (C)2014 99 Homes Productions LLC All Rights Reserved

 持ち家がある人や大金持ちはともかく、住宅ローンを抱える人は、日本にも多い。利息は安いけれど、長い間、ローン返済を続けている人が多いと思う。毎月の家賃を払う人から比べると、一応は持ち家だが、リストラなどで定期収入がぐんと減ったり、最悪の場合、無収入になることさえある。ローンが払えない。せっかくの持ち家を、安い家に買い換えたり、最悪の場合は、せっかくの家を処分することになる。買ったときより高く売れるといいが、そういうケースは少ない。ふつう、狭い家に買い換えるか、持ち家を手放すことになる。
 アメリカのサブプライム・ローンは、日本とちがって、返済能力に疑問があっても、お金を貸してくれる。ただし、利息が高い。定期収入があって、返済できるうちはいいが、リストラなどで定期収入が減ったり、失業で収入がなくなったりすると、高い利息のローンが返せなくなる。バブルのせいで、住宅の価格があがっているときはいいが、ぐんと下がっていれば、悲惨なことになる。

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 このほど公開される「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」(アルバトロス・フィルム配給)は、いまのアメリカ、フロリダ州が舞台。ローンで買った家の返済ができなくなった男の話で、実話に基づいている。
 2007年から2008年にかけて、リーマン・ショックが起こる。高い金利で住宅ローンを組んでいた人たちが、返済できなくなる。借りるほうも借りるほうだが、返済能力に疑問のある人たちにまで、見境なく住宅資金を貸したほうにも問題がある。妻と離婚、まだ小学生の息子と母親(ローラ・ダーン)と3人で暮らしているデニス(アンドリュー・ガーフィールド)という男がいる。デニスは建築関係の職人で、家の内装やちょっとした修理、補修をこなしているが、不景気のせいか仕事が激減、収入がない日々が続いている。当然、銀行へのローン返済に行き詰まる。ローン支払いが滞納すると、明け渡しになる。高く転売できる物件ではない。売れなければ、手放して、安い家賃の家に引っ越すことになる。デニスたちは、とりあえず近くのモーテルに移り住むことになる。モーテルには、デニスとおなじような境遇の人たちが寝起きしている。
 デニスの職探しが始まる。なかなか、いい仕事にありつけない。たまたま、デニスの家の強制執行に関係していた不動産ブローカーのリック(マイケル・シャノン)が、デニスを雇うことになる。デニスは、空き家の清掃やエアコンの修理などはお手のもの。ちょいと仕事をしただけで、3250ドルもの破格の賃金を受け取る。リックは、法すれすれで、ローン返済の出来なかった人たちの住宅を差し押さえ、銀行や政府に取り入り、入手した住宅を転売して、ぼろ儲けをしている。リックは嘯く。「アメリカは負け犬に手を差し伸べない。この欺瞞の国は、勝者による勝者のための国だ」とか、「箱舟に乗るのは1%、99%は溺れ死ぬ」と。
 デニスは、リックのノウハウを身につけ、実績を積み重ねていく。かつて、自分の経験した辛いことを、いまは他人に押しつけている。デニスは、多額の収入を手にする。もちろん、さらに大きな家を手にいれることになるのだが…。

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 金融の知識がなくても、いまアメリカのあちこちで問題になっていることだから、映画を見ているだけで、いろんなことが見えてくる。映画は、答えを出さない。解答は、見た人それぞれが出すことになる。
 教訓がある。株式投資や外貨預金などは、素人が手を出すものではない。一部、儲ける人がいるかもしれないが、ほとんどは、マイナスになると思われる。住宅ローンもしかり。安い金利で借りても、定期的な収入がいつまでも保証できる時代ではない。映画のサブタイトルの「99%」とは、ノーベル賞を受けた経済学者のジョセフ・E・スティグリッツの著書「世界の99%を貧困にする経済」にちなむ。世界じゅうの富の4分の1を、たった1%の富裕層が所有し、残りの99%は貧困である。
 よく、アメリカン・ドリーム、という。夢を実現するのは、ごく少数の人だけである。ことはアメリカだけの話ではない。日本などは、私たちが出した年金を、株式投資で減らしている。このような現実に、どう対処するか。欲張らず、こつこつ学び、考え、元気で働くこと、しかないのではないか。頭のいい、アメリカの金融関係の人たちですら、欲を出したがために、倒産したり破産する。
 「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」という映画は、いろいろと考えさせられる。監督はラミン・バーラニ。両親はイランからの移民である。移民の人たちの現実を、アメリカン・ドリームに準えて、いろんな映画を撮っている。優れた映画は、いろいろと勉強になる。こつこつと、学ぶしかない。

2016年1月30日(土)、
ヒューマントラストシネマ有楽町ico_link新宿シネマカリテico_linkほか全国順次公開!

『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』公式Webサイトico_link

監督:ラミン・バーラニ
脚本:ラミン・バーラニ、アミール・ナデリ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、マイケル・シャノン、ローラ・ダーン、ノア・ロマックス
2014年/アメリカ/英語/112分/5.1ch/シネスコ
原題:99Homes
日本語字幕:アンゼたかし
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
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【インタビュー】2020東京オリンピックは芸術の祭典?!

 新年おめでとうございます。今年はリオ・オリンピックの年、「オリンピックはスポーツの祭典!」いえいえ、実は芸術の祭典でもあるのです。「芸術競技」がオリンピックで行われていた時代もあります。秩父宮記念スポーツ博物館の新名佐知子学芸員にインタビューしてみました(※1)。

1.スポーツと芸術の融合

著者「オリンピックで『芸術競技』が行われていたのはいつですか。」
新名「1912年のストックホルム大会から1948年のロンドン大会までです。建築、彫刻、絵画、文学、音楽の部門において、スポーツを題材とした作品により競い合うコンペティションでした。日本は、1932年ロサンゼルス大会と1936年ベルリン大会の芸術競技に参加しています(※2)。選外でしたが山田耕筰も出品しているんですよ。」
著者「現在も芸術分野で展覧会やコンクールで競い合いますが、オリンピックとはつながりませんよね。」
新名「現代の感覚からするとそうでしょうね。でも、近代オリンピックの祖であるクーベルタンは古代オリンピックの考え方を理想として精神と身体の調和が取れた教育をめざし、『スポーツと芸術の統合』を提唱していたんですよ。」
著者「なるほど、そもそもオリンピック自体が教育なんですね。」
新名「はい。現在のオリンピック憲章においても『スポーツを文化、教育と融合させ生き方の創造を探求する』(※3)と定められています。オリンピック大会では、スポーツが持つ精神性や美を表現し発信することが重要な取組みなんです。」
著者「スポーツと芸術が融合してはじめてオリンピック精神が達成されるというのは、興味深い話ですね。」

2.芸術の祭典としてのオリンピック

著者「1964年の東京オリンピックでは『芸術競技』は行われていませんよね。」
新名「『芸術競技』は1952年ヘルシンキ大会から『芸術展示』となってコンペティションの性格はなくなります。開催国の文化を展示や公演などで発信することになるんですね。1964年の東京オリンピックでは、日本古美術や日本の近代美術、また、能などの伝統芸能などが上野を中心とした美術館、博物館あるいはホールで公開されいているんですよ。」
著者「2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも文化プログラムが用意されていますね。」
新名「現在は、自国の文化だけでなく国際的な文化芸術のイベントで各国の文化を紹介することになっています。1992年のバルセロナ大会以降、前回のオリンピック大会終了後から次の大会開催までの4年間で文化芸術に関わるパフォーマンスや展示、舞台公演、伝統的スポーツなどを行うのが慣習です。2020年の文化プログラムは、リオ・オリンピック終了後からスタートというわけです。」
著者「オリンピックは今も芸術を含めた祭典なんですね。」

3.スポーツと芸術文化のこれから

著者「でも、現実はエンブレムや建築のような話ばかり盛り上がっています。」
新名「はい。残念ですがスポーツと芸術文化をつなぐ意識が欠如していると思います。スポーツをイベントで終わらせるのではなく、文化として成立させないといけません。例えば、秩父宮記念スポーツ博物館に1936年ベルリン大会の芸術競技作品が収蔵、展示されていたことも知られていないでしょう。」
著者「初めて来館したときに知りましたが、面白かったです。今は休館中で見ることができませんが。」
新名「私たちも反省しないといけないんです。作品の背景がわかるように解説していなかったし、大きな油絵は展示スペース不足のために収蔵庫で保管したままでした。日本が出品した芸術競技作品の行方も十分確認されていないんです(※4)。海外のスポーツ文化に対する取組みに比べれば、学芸員や研究者も含めた日本の研究体制は不十分です。」
著者「私自身も美術の方向ばかり向いて美術教育を考えていた気がします。もう一度クーベルタンの精神に戻って考えてみたいと思いました。今日はありがとうございました。」

 新名学芸員の話は、日本が海外の受賞作品を日本へ持ち帰るなど戦前からスポーツと芸術文化をつなごうとしていたこと、クーベルタンのスポーツと文化の融合の思想に立ち返ってスポーツ史、美学、社会学などジャンルを超えた教育や研究が必要であることなど興味深い事例ばかりでした。中央教育審議会で教科の本質的な意義が問われている現在、示唆を与えてくれるように思います(※5)。

■1936年ベルリン大会芸術競技 会場風景(※6)

日本会場の展示風景

※1:秩父宮記念スポーツ博物館は、独立行政法人「日本スポーツ振興センター(JSC)」によって運営される日本で唯一の総合スポーツ博物館。スポーツの振興に尽くされ、「スポーツの宮様」として広く国民に親しまれていた秩父宮雍仁親王ゆかりの博物館で、オリンピックと日本のスポーツ史に関する資料、芸術作品、本や雑誌などを収蔵し、展示や展覧会を行っていた。収蔵品の中には1940年の幻の東京オリンピックの招致活動資料や、1964年東京オリンピックのポスター等、1936年のベルリン大会の芸術競技に出品された作品など貴重な資料がある。現在は、国立競技場取り壊しにともなって休館中。
※2:日本の参加について、1932年ロサンゼルス大会は、総出品数、約1100点のうち47点の出品。長永治良「蟲相撲」(版画)が銅メダルの下に設けられた選外佳作を獲得。1936年ベルリン大会は総出品数810点のうち79点の出品。藤田隆治「アイス・ホッケー」、鈴木朱雀「古典的競馬」の絵画2点が銅メダルを獲得、また、長谷川義起「国技(押せば押せ)」(彫刻)、江 文也「台湾舞曲」(音楽)が選外佳作を獲得。
※3:「オリンピズムの根本原則」『オリンピック憲章』国際オリンピック委員会 2014年 p.11
※4:大分県立美術館には1932年ロサンゼルス大会に出品された日名子実三「ラグビー」、秩父宮記念スポーツ博物館には1936年ベルリン大会の畑正吉「スタート」、須坂版画美術館には1936年ベルリン大会の小林朝治「スケート」山口進「鉄槌投」が所蔵されている。
※5:本稿は、栗原祐司(東京国立博物館)新名佐知子(秩父宮記念スポーツ博物館)「東京オリンピックにおける文化プログラムの歴史と展望」全日本博物館学会第41回研究大会口頭発表(2015.6)に基づいている。
※6:ORGANISATIONSKOMITEE FÜR DIE XI. OLYMPIADE BERLIN 1936 E. V. “XITH OLYMPICGAMES BERLIN,1936 OFFICIAL REPORT”,1937,pp.1106-1128