冬冬の夏休み

(C)A MARBLE ROAD PRODUCTION, 1984 Taiwan

 まだ小学生だった頃、夏休みは、毎年のように、京都御所の周辺で蝉を追い、上賀茂近くの賀茂川で泳いだものだ。陽射しは厳しく、水は冷たかったが、時間を忘れて、蝉を追い、川で遊んだ。そんな幼い日々は、ただただ懐かしく、楽しかった。もちろん、いたずらばかりの日々で、祖父祖母から叱られたことも。映画「冬冬の夏休み」(熱帯美術館配給)を見るたびに、古い思い出が頭をよぎる。
 「冬冬の夏休み」が、初めて日本で公開されたのは、もう26年ほど前のこと。このほど、デジタル・リマスター版で、リバイバル公開される。何度も、あちこちで見ている映画だが、このほどのバージョンは色彩が鮮明。いまの画像処理技術に驚くばかり。
 冒頭のシーン、小学校の卒業式で、「蛍の光」が流れ、「仰げば尊し」が唄われる。ラスト近く、「赤とんぼ」のメロディーが聞こえてくる。かつて日本が、台湾を統治していたことを物語る。台北に住むトントン(冬冬)は、小学校を卒業する。病弱の母が入院する。看護にあたる父の許を離れ、トントンと幼い妹のティンティンは、台湾中部の田舎に住む祖父母の家で、ひと夏を過ごすことになる。祖父母の家は、玄関に椰子の木があるほどの大きな家で、病院を兼ねている。

(C)A MARBLE ROAD PRODUCTION, 1984 Taiwan

 都会育ちのトントンは、田舎の少年たちが亀と遊んでいるのに多大の興味を持つ。田舎の少年たちは、トントンの持っているラジコン・カーが珍しい。少年たちは、川で泳いだりして、すぐに仲良しになる。一方、まだ幼いティンティンは、なかなか田舎暮らしになじめない。そのような少年少女たちの夏の日々が、美しい台湾の田舎の風景のなかで綴られていく。
 トントンの祖父は医者である。祖父は、いろいろとトントンに教える。王維の漢詩「独り異郷に在りて異客と為る」を暗唱させたり、SPレコードで、スッぺの「詩人と農夫」を聴かせたりする。
 こどもたちの世界があれば、おとなたちの現実がある。ティンティンが親しくなった、ある女性の妊娠騒動や、トントンたちが泥棒を目撃する事件もある。いつのまにか、トントンは、勝手なおとなの世界に足を踏み入れていく。やがて、夏休みが終わろうとする。すでに、トントンは、少年とおとなの端境期にいる。おとなの世界を窺い知る、まさにとば口にたっている。
 監督のホウ・シャオシェンは、共同で脚本を書いた女流作家、ジュー・ティエンウェンとともに、それぞれの過去を振り返っているように思われる。作り手たちは、過ぎ去った日々を、ただ懐かしく振り返るだけではない。ここには、世界共通の、こどもからおとなへの通過点が、鮮烈に描かれている。

(C)A MARBLE ROAD PRODUCTION, 1984 Taiwan

 トントンの夏休みの日々には、すぐに忘れてしまうほどのいろんな出来事が起こる。二度と戻らない幼い日々は、トントンだけのものではない。時代や場所、出来事の内容は違っていても、トントンの過ごした夏の日々と、だれでもが過ごした幼い日々が、次第に重なりあってくる。
 映画の作られたのは1984年である。その前年には、東京ディズニーランドが開園している。トントンが駅で出会う少年の話のなかに、東京のディズニーランドに行くといったセリフが出てくる。さらに、当時の台湾の時代背景が、随所に散りばめられている。ここ70年ほどの、日本と台湾との関係を、さらに詳しく知りたくなるはずである。
 映画「冬冬の夏休み」は、同じホウ・シャオシェンの撮った「恋恋風塵」と同時のリバイバル公開である。どちらも、映画としての素晴らしさだけでなく、日本と台湾との関わりや、人生そのものについて、多くの「学び」のヒントを与えてくれるはずである。台湾の歴史については、同じホウ・シャオシェン監督が、1989年に監督した「悲情城市」をご覧いただけたら、さらに詳しいことがご理解いただけるはずである。
 こどもからおとなの世界へ足を踏み入れる映画では、小栗康平監督の「泥の河」や、アメリカ映画の「スタンド・バイ・ミー」といった傑作がある。まだご覧になっていないのなら、あわせておすすめする。映画は、確実に、多くのことを学べるメディアだから。

2016年5月21日(土)、渋谷ユーロスペースico_linkにて2週間限定公開

『冬冬の夏休み』公式Webサイトico_link

監督:ホウ・シャオシェン
脚本:ジュー・ティエンウェン、ホウ・シャオシェン
原作:ジュー・ティエンウェン
出演:ワン・チークァン、リー・ジュジェン、グー・ジュン、メイ・ファン、ヤン・ドゥチャン
台湾映画/1984年/台湾語/萬賽路影業公司製作/イーストマンカラー/98分/原題:冬冬的假期
配給:熱帯美術館
(C)A MARBLE ROAD PRODUCTION, 1984 Taiwan

教科書特集号

  • 社会に関わり,社会を動かす高校生を育てる 
    …黒上 晴夫 × 登本 洋子
  • 積極的に教科書を活用した授業プランの提案 
    …登本 洋子
  • 生徒が主体的に学ぶ,アクティブな授業に変える 
    …中川 一史 × 岡村 起代之
  • 学ぶ力を学ぶ,見てわかるジグソー学習
    —SNSを題材にした問題解決手法の学び— 
    …岡村 起代之
  • 科学的に世の中を見ることでわかること 
    …黒田 卓 × 奥村 稔
  • プログラミングで問題解決
    —コードに書いてモデル化,動かしてシミュレーション— 
    …奥村 稔
  • 次期学習指導要領における高等学校情報科
    —教育課程部会 情報ワーキンググループ資料より—

図画工作科・美術科の改訂、どんな感じ?

1.はじめに

 「論点整理」を踏まえ、中央教育審議会教育課程部会芸術ワ-キンググループで美術、音楽、書道など芸術教科における改訂作業が進行中です。4月現在、7回の会議が行われています。本稿ではその議論や資料等から現段階における図画工作・美術の改訂のポイントを検討してみましょう(※1)。

2.全教科等を貫く「三つの柱」

図1

 今回、学校教育において重視すべき三要素(※2)などをもとに、育成すべき資質・能力が「三つの柱」として整理されています(※3)。各教科等の資質・能力は「三つの柱」から構造的に見直され、その実現のためのアクティブ・ラーニングやカリキュラム・マネジメントなども提案されています(※4)<図1(※5)>。芸術ワーキンググループにおいても同様です。例えば小学校図画工作科では以下のように提示されています(※6)。

①形や色、材料や用具などについて理解することや、創造的な技能を身に付けることができるようにする(個別の知識・技能)。
②豊かに発想や構想することや、作品などからよさや美しさなどを感じ取ることなど、創造的に思考・判断できるようにする(思考力・判断力・表現力等)。
③主体的に表現や鑑賞の活動に取り組み、つくりだす喜びを味わうことや、生活の中の様々な造形に親しむことができるようにする(学びに向かう力、人間性等)。

 まだ最終形ではないようですが、教科目標や学年目標、〔共通事項〕、評価の4観点などを踏まえて、すっきりと整理されていると思います。小学校の先生にとっては、図画工作科で育てる資質や能力が分かりやすくなることでしょう。学校で教科横断的な実践を行う場合も、立案や計画などが容易になると思われます。また、これから教員になろうとする学生は共通の枠組みで各教科等の資質や能力をとらえることができて助かるでしょう。

3.実は同じ! 4観点と3観点

図2

 ただ、これまで4つだったものが3つになることに対する戸惑いはあるでしょう。学校や地域によっては「せっかく現場で定着したのに」という思いがあるかもしれません(※7)。しかし、継続性を無視しているわけではないのです。
 なぜなら、前回の改訂において、すでに鑑賞の能力は「知識」と「思考・判断」の二つの要素でとらえるように変更されています。表現の能力については従来通り「技能」と「思考・判断」です。つまり図画工作科や美術科の学力を全体として見れば、すでに「知識・技能」「思考・判断」「主体的に学ぶ態度」で構成されているわけです<図2(※8)>。この図を前述の小学校図画工作科の「三つの柱」と比較してみれば、大きく異なるものではないことが分かると思います。厳密には相違点もありますが(※9)、4観点と3観点は基本的に示し方の違いということができるでしょう(※10)。

4.各教科等の特質に応じ育まれる「見方や考え方」

 ただ、共通化で危惧されるのが各教科等の固有性です。これについては、アクティブ・ラーニングの三つの視点「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」の中で、特に「深い学び」を実現するために提案されている「見方や考え方」がポイントになります。「見方や考え方」は「様々な事象等をとらえる各教科等ならではの視点や、各教科等ならではの思考の枠組み」とされています(※11)。筆者が注目したのは、芸術系教科(※12)の「見方や考え方」に「感性を働かせて」という文言が入っていることです(※13)。
 感性を働かせるという言葉は、前回の改訂で小学校図画工作科の教科目標に導入された用語です。これは「学習過程の最初から最後まで、子どもは自らの感性を働かせながら活動していること」と「その過程を通して技能の獲得や新たな発想などをしていること」などを意味しています。図画工作科では単に「予定の内容を順序通りに消化したから目標が達成される」とはなりません。子ども一人一人が自らの感性を働かせる学びの過程を通してこそ、知識・技能の獲得や表現力の伸長などが実現するのです(※14)。もちろん、子どもの感性といっても、それぞれの時点で子どもたちは文化的な感性を身に付けています。発達や内容によっては感性そのものについて学習することもあります。そのようにして育まれた感性は、芸術の意義や文化の多様性などを理解する上で欠かせない資質や能力となるでしょう(※15)。
 まだ各教科等で検討している段階なので、どのようにまとめられるのか分かりませんが、「感性を働かせて」が、このまま芸術系教科の共通の「見方や考え方」になるとしたら、学習のプロセスでこそ成長する芸術教科の固有性が明確になるのではないかと期待できるというわけです。

5.おわりに

 これまでの改訂では、まず学習指導要領で「目標と内容」、次に指導要録で「評価」、そして様々な報告書等で「学習方法」など数年かけて示されていました。今回これらが一度に議論されています。そのため「この力を育てるために、この学習方法がある。それをこの観点で評価する」ということが鮮明になっています。以前から図画工作・美術では、目標や資質・能力を不問にしたまま、〇〇式、〇〇型などの学習方法だけを論じるという問題がありました。今後は、育てたい能力、学習方法、評価を一体的に考えた上で、その妥当性を議論する方向に進むでしょう。
 いずれにせよ、小学校、中学校、高等学校それぞれの現状と、法的な継続性や安定性などを考慮しながら作成するのが学習指導要領です(※16)。どのように表されるとしても、子どもたち自身が活躍する20年~30年後の未来を見据えた上で、現時点における最も妥当な提案が行われると思います。

 

※1:本稿は会議資料、議論の傍聴等に基づく筆者の考えです。資料は会議の議論を反映し、毎回、変更や修正が行われます。
※2:学校教育法30条2項で定めるいわゆる学力の三要素「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」
※3:平成27年8月26日教育課程企画特別部会「教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)」
※4:「三つの柱」はバランスよく相互に関連させながら教育課程全体で構造的に考えることがポイントです。
※5:論点整理の補足資料(1)27p
※6:中学校美術科は以下。
①形や色彩などの特徴について、創造活動を通した造形的な視点として理解したり、美術作品や文化遺産などについて造形的な特徴などから理解を深めたりすることや、発想や構想したことを基に、意図に応じて創意工夫して表す創造的な技能を身に付けることができるようにする。
②豊かに発想や構想することや、造形的なよさや美しさを感じ取り味わったり、美術文化を伝統的かつ創造的な側面からとらえたりするなど、創造的に思考・判断できるようにする。
③主体的に表現及び鑑賞の活動に取り組み、美術の創造活動の喜びを味わい、生活や社会の中の美術の働きや美術文化と豊かに関わり、美術を愛好する心情をもてるようにする。

平成28年4月26日教育課程部会芸術ワーキンググループ資料3-2(案)「図画工作科、美術科、芸術科(美術、工芸)における教育のイメージ」
※7:前回の改訂では平成21年から22年3月にかけて児童生徒の学習評価の在り方について初等中等教育分科会教育課程部会「児童生徒の学習評価の在り方に関するワーキンググループ」で話し合われました。ぎりぎりまで3観点に変更するか、4観点を継続するかまとまりませんでした。主に研究者側は妥当性や信頼性などから3観点を主張しました。教育委員会や校長会会長等の学校関係者は「ようやく学習評価が定着してきたのだから」と4観点の継続を主張しました。結果的には4観点となりましたが、それは、まとめ役をしていた委員の言葉を借りれば「研究者的には3観点だが、現場があれだけ言ってるんだから今回は4観点でいこう」という現実的な決着でした。
※8:筆者作成
※9:今回の改訂の議論では「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学ぶ態度等」のとらえ方が深まっています。例えば「知識・技能」は「静的な知識・技能」というよりも「アクティブな知識・技能」です。「事実的な知識のみならず、学習過程において試行錯誤をすることなどを通じて、新しい知識が既得の知識と関係づけられて構造化されたり、知識と経験が結びつくことで身体化されたりして、様々な場面で活用できるものとして獲得される、いわゆる概念的な知識を含むものである」「一定の手順に沿った技能のみならず、変化する状況に応じて主体的に活用できる技能の習熟・熟達に向かうことが重要である」平成28年4月26日教育課程部会芸術ワーキンググループ資料5(案)
※10:平成20年の改訂で図画工作科・美術科は、資質能力ベースで目標と内容を構築しています。
※11:平成28年3月14日総則・評価特別部会資料1-1「アクティブ・ラーニングの視点と資質・能力の育成との関係について~特に「深い学び」を実現する観点から~」
※12:小学校音楽科、中学校音楽科、小学校図画工作科、中学校美術科、高等学校芸術(音楽、美術、工芸、書道)
※13:例えば、中学校音楽科「音楽に対する感性を働かせて、音楽を形づくっている要素とその働きの視点で音楽をとらえ、音楽的な特徴と、音楽によって喚起されるイメージや感情、生活や社会、文化などとの関わりについて考えること。」中学校美術科「感性や想像力を働かせて、形や色彩などの造形的な視点で、対象やイメージをとらえるなどして、自己や他者との関わりや、生活、社会、文化などとの多様な関係の中で、心豊かに生きることと美術の関わりについて創造的に考えること。」平成28年4月26日教育課程部会芸術ワーキンググループ資料2(案)「芸術系教科・科目における見方・考え方(案)」
※14:そこには「一方的に大人の感性を押し付けることに慎重でありたい」という願いも込められています。
※15:「小学校ではもっと子どもたちの「感性」を働かせてほしい、それを踏まえて中学校では文化に関わりながら「感性」を自らの力としてほしいという願いがありました。」 学び!と美術<Vol.22>「感性の理由」
※16:安定性と妥当性については、『学び!と美術<Vol.03>「子どもの学力が伸びる」という「言説」』を参照。