「義挙」とは何か―「攘夷」という大義の下に

「維新150年」が問いかけていること

 安部内閣は、2018年が明治維新から150年ということで、祝典を企画している由。この企画は、佐藤栄作内閣の下で営まれた「明治百年」の「祝典」を受けたものです。佐藤内閣は、1966年1月に古都保存法を制定して京都市(平安京)、奈良市(平城京)、橿原市(神武天皇―橿原神宮)等々の天皇にかかわる歴史的故地を指定し、「天皇の国」であることに目を向けさせ、さらに6月に国民の祝日法を改正、9月15日の「敬老の日」、10月10日の「体育の日」とだきあわせて「建国記念の日」を制定、12月8日に「建国記念の日」を2月11日とする答申をうけ、旧紀元節がここに衣替えをして蘇生したのです。この間には1968年が明治維新から100年ということで明治百年記念事業を国家的事業と営むことが決定されました。
 このような佐藤内閣の政策は、明治維新で誕生した「皇国」日本という物語を戦後日本における国民の記憶にすることで、国家の精神を造型することをめざしたものにほかなりません。国家の文化政策は、きわめて強い政治性を帯びたものであり、国民の歴史意識を規定するものなのです。
 かかる記紀神話のもとづく強い民族心を揚言する政治作法は、1968年に小笠原諸島返還、小学校における神話教育の復活をうながし、71年の沖縄返還、72年に沖縄県が発足することにみられますように、占領体制から日本の「真の独立」がここに達成されたとみなし、内閣の政治的遺産として受け継がれていきます。かかる国家ナショナリズムが揚言した民族的自覚は、帝国大学的体質で営まれてきた戦後大学の権威的体質に異議を申し立てる学生反乱が列島を揺るがせましたように、まさに国家の方途めぐり戦後日本の営みを根本から問い質すこととなりました。
 しかし国家の在り方は、神話的物語に照らされた国家ナショナリズムにのみこまれ、現在の安部政権が忠実に引き継いでおります。想うに安部晋三の母は岸信介の娘であり、岸は佐藤の兄、佐藤家の長男市郎が海軍の星として名をなす逸材との誉高い存在であったこともあり、秀才といわれた次男信介が岸家の養子となりました。3男栄作は、2人の長兄におよばない者とみなされた存在でしたが、市郎の死で佐藤家を継いだのです。
 まさに安部晋三は、岸・佐藤という「皇国」的な国家ナショナリズムの血を受け継いだ「大国」日本をめざしてきた家系の申し子にほかなりません。そのため安部晋三の世界は、中国と対峙するアジア戦略が物語るように、「昭和の妖怪」といわれる外祖父岸信介が終生想い描いてきた日本を盟主とする「大東亜共栄圏」の実現を夢想する外交戦略に引き継がれています。この思いこそは、自衛隊の海外派兵へ途を開くことで日米軍事同盟の強化をはかり、アジア諸国への艦船の供与で中国の海外進出に対抗し、北朝鮮の弾道ミサイル落下に対する挑戦的な指示で危機感を増幅し、国民の不安を煽り、テロ等準備罪という治安立法による国民監視体制の構築等々を強権的に推進せしめたものにほかなりません。
 かかる体制がめざす世界には、「維新150年」を宣揚することで、西洋文明の圧力に抗し、維新の復古革命で日本が世界に名をなす「大国」、「軍事大国」になりえたのだという思いこみにちかい歴史像があります。では「維新」への道を開いた、「タイクン」の国といわれた江戸将軍家の統治を崩壊に追い込んだ一撃は何にはじまったのでしょうか。

御一新―維新へ奔らせたもの

 1853年(嘉永6年)のペリー艦隊の浦賀入港、54年の日米和親条約による開国がもたらした衝撃は、後に「嘉永癸丑」の年として、御一新―維新による新国家創成の原点と意識されました。この「黒船」来航は、列島を覆う衝撃波となり、人心をゆるがしたのです。日本の開国は、イギリスの産業革命に象徴される資本主義の波動が日本に到達、世界がひとつになったことでもあります。かつ「未開野蛮」「暗黒の国」とみなされていた日本を「文明の光」で照らすものだともみなされた営みでした。この波動こそは、江戸将軍家の統治を揺るがせ、日本列島をひとつとすることで対外危機に対峙する方策を模索させました。
 1858年の日米通商条約調印をめぐる朝廷と将軍家の対立は、京都の朝廷を政治的な場に登場させ、将軍家に対抗する諸大名が「京都」をかつぐことで江戸に対抗する途を用意しました。彦根藩主井伊直弼は、大老に就任、将軍家の統治を強化すべく京都におもねる諸大名とその背後で教唆先導する「志士」を自称する武士を厳しく処断しました(安政の大獄)。
 井伊大老は、開国に舵を切り、将軍家の全国統治を強権的に推進することをめざしたのです。直弼は、オランダ学に心開いた「蘭癖大名」であり、「一期一会」を説いた茶道に通じた大名でした。このような人物の登場は、将軍家に対抗する者にとり、排除すべき存在とみなされたのです。かくて井伊直弼は1860年3月登城中の行列を水戸・薩摩の武士集団に襲撃され、殺されました(桜田門外の変)。
 この事件は、討幕攘夷を掲げた勢力にとり、個別的な襲撃で政治状況を変えていくという作法の先駆けとなったものです。この作法は、圧倒的な武と富を占有することで徳川王国を担う「タイクン」の政府に対抗すべく選択した、個別分散的な武力行使にほかなりません。諸藩の脱藩浪士は、将軍家の治安を揺るがせ、将軍家に近い公卿をはじめとする人物への執拗な襲撃で己の政治的場を世間に知らせようとしました。かかる作法は、当世風にいえば「テロ」そのものです。かかる「テロ」は御一新により徳川王国が滅び、天皇を頭首として明治の新政府が登場することで「義挙」とみなされ、そこに倒れた「テロリスト」は「義士」として称揚され、靖国神社に祀られました。

義挙―正義のために起こす企てや行動

 開国に世上が激変していく19世紀後半は、桜田門にはじまり、老中安藤信正を襲撃した坂下門外の変 、一方に品川東禅寺のイギリス公使を襲撃、さらに京都や江戸で大きな商家に押し込み「御用金」強奪。江戸では薩摩邸を拠点に西郷隆盛の教唆による相楽総三らの浪士集団が江戸の治安を攪乱すべく「御用党」を自称して商家を荒しました。そのため将軍家は治安出動として薩摩邸を襲撃。
 思うにこれらの事件は、時の権力を脅かし、自己に有利な状況を創り出すための武力行動、世上人心に恐怖をばらまくことで秩序に孔をあけ、自己に優位な状況をつくり、さらには権力を奪取するための企てにほかなりません。昨今成立した「組織犯罪処罰法」改正による「テロ等準備罪」なるものに該当するものこそは、桜田門をはじめとする水戸、薩摩、長州等々が教唆先導し、暗に実行した血生臭い諸事件です。いわばテロ等の諸行動は、新たな状況下で「義挙」「正義の行動」とみなされ、世が賞賛し、歴史に名を遺させることともなります。歴史を読むということは、この逆説がもつ世界を凝視し、世間日常の「正義」に対峙できる目をきたえる作法にほかなりません。「維新150年」なる言説はこの目で問い質したいものです。

言葉のおくりもの(第6学年)

1.主題名

男女の友情と協力  B[友情,信頼]

2.教材名

「言葉のおくりもの」(出典:日本文教出版「新・生きる力」)

3.主題設定の理由

(1)ねらいとする価値について
 高学年の内容項目B[友情,信頼]では,「友達と互いに信頼し,学び合って友情を深め,異性についても理解しながら,人間関係を築いていくこと。」というものである。
 この段階においては,これまで以上に友達を意識し,仲のよい友達との信頼関係を深めていこうとする。また,流行などにも敏感になり,ともすると趣味や傾向を同じくする閉鎖的な仲間集団を作る傾向も生まれる。そのため,疎外されたように感じたり,友達関係で悩んだりすることが今まで以上に見られるようになり,このことが不安な学校生活につながる状況もみられる。このことから,友達同士の相互の信頼の下に,協力して学び合う活動を通して互いに磨き合い,高め合うような,真の友情を育てるとともに,互いの人格を尊重し合う人間関係を築いていくようにすることが求められる。指導に当たっては,健全な友達関係を育てていくことが一層重要になる。この段階が第二次性徴期に入るため,異性に対する関心が強まり,これまでとは異なった感情を抱くようになる。この異性間の在り方も根本的には同性間におけるものと同様,互いの人格の尊重を基盤としている。異性に対しても,信頼を基にして,正しい理解と友情を育て,互いのよさを認め,学び合い,支え合いながらよい関係を築こうとすることに配慮して指導することが大切である。(新学習指導要領解説より)
 今回の学習を通して,男女の正しい友情の芽を育て,友情は性別を超えたものであることに気付かせたい。また,互いに信頼し合い,協力し合うことで,明るく楽しい学級が形成されることにも目を向けさせ,一人一人の良さを生かすことの大切さを自覚させたいと考え,本主題を設定した。

(2)児童の実態について
 最高学年となり,学校のリーダーであることを自覚して日々の活動に積極的に取り組む姿が見られる。本学級は男子15名,女子17名の学級である。5年生でクラス替えを行い,この学級で過ごすのは2年目ということもあり,男女お互いに慣れ親しんでいる様子が見受けられる。中休みや放課後の時間を一緒に過ごしたり,係活動を協力して行ったりすることもできる。しかし,第二次性徴期に入る児童にとって,少しずつ異性を意識し始めたこともあり,照れや恥ずかしさから素っ気なくしてしまったり,態度が悪くなってしまったりする場面もある。異性に対する正しい理解と男女間の友情を育てていくことが課題であるといえる。さらに,一緒にいて楽しいだけではなく,励まし合ったり忠告し合ったりしてお互いを切磋琢磨する真の友情に発展させていくことが求められる。

(3)教材について
 一郎は,すみ子と仲の良いところをたかしに見られ,からかわれたり,周りに言いふらされたりするのを嫌がり,すみ子をわざと避けようとする。小さなことにこだわらない明るい性格のすみ子は,たかしのリレーでの失敗を許し,一郎の誕生日には,すばらしい「言葉のおくりもの」をする,という内容である。揺れ動くこの時期の男女関係を,明るいすみ子,明るい学級の様子を中心に現実の問題として描き,児童をひき付けてくれる資料である。主人公の考えや行動に共感しつつ,お互いに信頼し合って友情を深め,男女相互に理解し,協力する態度を養うのに適した資料であると考える。

教材分析

場面

☆主な発問
○予想される児童の反応
◎ねらいに迫ったと考えられる児童の発言

関係する価値項目

1 一郎の消しゴムを拾ったすみ子に感謝の気持ちを表したことで冷やかされる。

☆一郎がすみ子に怒った態度をとったのは,どういう気持ちからでしょう。
○こんなことでからかわれたくない。
◎すみ子と仲がいいと思われるのはいやだ。
○あまり近寄るな。
○ゆううつだ。

B[友情,信頼]

2 植木鉢を落とした一郎をすみ子が手伝おうとするが,断る。

B[友情,信頼]

3 子ども会のリレーで,たかしがバトンをおとしてしまうが,すみ子はそれをかばう。

☆リレーで失敗したたかしをかばい,力づけるすみ子を一郎はどのように思ったでしょうか。
○失敗したたかしをかばうなんて。
○失敗を許せるすみ子は心が広い。
◎誰に対しても優しく思いやりをもって接している。

A[正直,誠実]

4 一郎の誕生日。すみ子も言葉のおくりものを贈る。教室のあちこちから拍手が起こる。

☆誕生日のすみ子の「言葉のおくりもの」に,一郎やクラスの友達はどう思ったでしょうか。
○すみ子の自分への励ましはうれしくありがたい。
○これまでの自分の態度が恥ずかしい。
◎これからもっと男女仲の良い友達でいたい。
○すみ子の言うようにみんなで明るい学級をつくりたい。

B[親切,思いやり]

4.年間指導計画による位置づけ

○10月…「ロレンゾの友達」
 ねらい…友達と共にかかわり合って,互いのよさに気付き,学び合いながら友情を深めようとする心情を育てる。

5.指導の工夫

(1)場の工夫
・児童同士が互いの表情を見て共感しながら話し合えるようにするために,座席をコの字型にする。

(2)導入の工夫
・事前に「友達に関する実態調査」を行い,資料への導入をし,資料の理解を助ける。
・調査結果

6年3組の友情を探れ!!

①男女が仲良くすることは大切だと思いますか。

はい 32人
いいえ 0人

②大切だと答えた人は,なぜ大切だと思いますか。
・クラスの雰囲気があたたかくなる  ・困った時に助け合える
・まとまりのある優しいクラスになるから
・共に楽しく過ごせるから  ・男女で分かり合うことが大切
・協力し合うことができるから
・男女共に素晴らしい意見,魅力的な意見があるから

③6年3組は,男女の仲が良いクラスだと言えますか。

はい 28人
いいえ 2人
どちらとも 2人

④言えると答えた人はどんなところが仲が良いクラスと感じますか。
・みんなで協力することができる
・男女共に遊んだり意見を交わしたりすることができる
・互いに思いやりをもって行動できる  ・困っている時に助け合える
・互いに教え合うことができる  ・友達の良い所をみつけることができる
・男女で手をつなぐゲームなどがサッとできる  ・先生がきっかけ

⑤言えないと答えた人はどんなところが仲が良くないと感じますか。
・一部の人は男女共に遊んでいるが一部だけな気がするので,それではまだ仲が良いとは言えない
・一部の男女が互いに苦手意識をもっているから
・互いに口が悪くなってしまう時があるから

⑥男女仲良く過ごすためにはどんなことが必要だと思いますか。
・男女関係なく一緒に遊ぶこと(全員遊びなどのきっかけを作る)
・相手の気持ちをもう少し考えること
・思いやりをもつこと
・自分から積極的に話しかける
・日頃から意見の交換や交流をする
・あまり遊んだことのない友達と遊ぶようにする

(3)教材提示の工夫
・話の展開や様子が分かるよう,拡大した挿絵を黒板に掲示する。
・資料を読む際に「一郎」の気持ちになって聞くという読みの視点を示す。

(4)発問の工夫
・一郎の心が少しずつ揺れ動いていくところに発問の焦点をあてた。

(5)展開前段の工夫
・ワークシートを活用する。ワークシートには,挿絵を入れることで,「一郎」の気持ちを考えやすくする。

(6)終末の工夫
・男子から女子へ,女子から男子への手紙を書いたものを渡すことで改めて友情についての考えを深め,それぞれが課題意識や友情への希望を抱いて終わることができるようにする。

6.本時の学習

(1)ねらい
 互いに信頼し合って友情を深め,男女相互に理解し,協力する態度を養う。

(2)展開


学習活動
(○主な発問 ・予想される児童の反応)

指導上の留意点(●)
指導の工夫(・) 評価(☆)



3

1 友達がいてよかったと思った経験を話し合う。
○友達がいてよかったなと思うときはどんな時ですか。

・楽しく遊び,笑い合うとき。
・困っているときに励ましたり助けてくれたりする。

・事前の実態調査を十分に活用して,意見を引き出し,学習への方向付けとする。





22

2 教材「言葉のおくりもの」を読んで話し合う。

・教師が教材の読み聞かせをする。

○どんなところが印象に残りましたか。
・一郎が素っ気なくしたところ
・たかしがからかったところ
・すみ子がたかしに励ましの声をかけたところ
・言葉のおくりものを贈るところ

・一郎,すみ子,たかしの顔の絵を提示し,3人の心の動きをとらえやすくする。

○すみ子に対して怒った態度をとった一郎はどんな気持ちからでしょうか。
・また,たかしに冷やかされる。
・すみ子と仲がいいと思われるのはいやだ。
・こんなことでからかわれたくない。

☆冷やかされたくなくて冷たい態度をとってしまう「一郎」の気持ちに気付くことができたか。

○リレーで失敗したたかしをかばい,力づけるすみ子を一郎はどのように思ったでしょうか。
・失敗したたかしをかばうなんて。
・失敗を許せるすみ子は心が広い。
・誰にでも優しく思いやりをもって接している。

・一郎のすみ子に対する本当の気持ちをとらえさせる。すみ子の寛容な態度に気付くことができるようにする。
☆すみ子の寛容な態度に気付くことができたか。(発言,観察)

◎すみ子の「言葉のおくりもの」を,一郎はどう思ったでしょうか。
・すみ子の励ましはうれしくありがたいなあ。
・これまでの自分の態度が恥ずかしい。
・これからもっと男女仲の良い友達でいたい。

・すみ子の,男女を超えた友達を思うすがすがしい態度についてじっくりと考え,味わえるようにする。
・個人の関係だけにとどまらず,学級全体に目を向け,明るい学級づくりへの自覚を高める。
・ワークシートを活用し,一人一人がじっくりと考える時間を与え,多様な考えを引き出せるようにする。
☆すみ子のすがすがしい態度に共感し,学ぼうとする気持ちをもつことができたか。(発言,ワークシート,観察)





15

3 男女仲良くするためやよい友達であるために,どんなことが大切か,話し合う。
○男女仲良くするためやよい友達であるために,どんなことが大切だと思いますか。
・人のことをからかわない。
・お互いによさを見つけ,認め合うようにする。
・相手の気持ちになって思いやりをもち,考えて行動する。

・考えを発表させることでお互いの考えや体験を交流し,実践化へとつなげる。
☆自分の生活を振り返り,積極的に話し合うことができたか。
(発言,ワークシート,観察)


4 男子から女子へ,女子から男子への手紙を渡す。読みながら、思いを深め自分なりの課題をもつ。

・それぞれなりの思いや課題意識を大事にしつつ終わることができるよう、静かに読むことを事前に指導する。
☆お互いの気持ちを理解し,仲良くしようと考えることができたか。(観察)

7.評価

○主人公の気持ちに共感し,互いに信頼し合って友情を深め,男女相互に理解し,協力しようとする心情を高めることができたか。

○男女関係なく,相手を認め信頼し助け合おうとする意欲をもつことができたか。

8.板書計画

サーミの血

© 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

 北欧のノルウェー、スウェーデン、フィンランド三国の北部と、ロシアのコラ半島の一部で、ラップランドとよばれる地域に、サーミ人という先住民族がいる。主にトナカイの放牧で生計をたて、言語はサーミ語。
 いまなお、白人たちが有色人種を軽蔑、差別するように、トナカイを育て、テントで移動する生活をおくるラップランドのサーミ人を、白人たちは軽蔑のまなざしでみている。心ない人たちは、サーミの人たちに、「変な匂いがする」とまで言う。
 映画「サーミの血」(アップリンク配給)は、白人たちの差別に抵抗、自由を求めて、故郷、家族を捨て、白人社会で生き抜こうとする少女の成長物語だ。昨年の東京国際映画祭のコンペティション作品として上映され、審査員特別賞と最優秀女優賞を受けた。ほぼ1年後、やっと一般公開となる。
 老女クリスティーナ(マイ=ドリス・リンピ)は、孫娘を連れて、息子の運転する車で、妹の葬式に向かっている。クリスティーナは、サーミ人で、すでにエレ・マリャというサーミ人としての名前を捨てている。少女時代に捨てた故郷、別れた妹との、死後ではあるが再会の旅でもある。

© 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

 クリスティーナの表情は、険しい。理不尽な白人社会で生き抜いてきた辛苦を物語っているかのよう。クリスティーナは、息子の制止をふりきって、ひとり、ホテルに泊まり、少女時代を思い起こす。
 1930年代のラップランド。トナカイの放牧で暮らすサーミ人たちは、白人から軽蔑、差別されている。少女のエレ・マリャ(レーネ=セシリア・スパルロク)と妹のニェンナ(ミーア=エリーカ・スパルロク)は、サーミ語で話すことを禁じられている寄宿学校にいる。成績のいいエレ・マリャは、進学を希望するが、スウェーデンの女教師(ハンナ・アルストロム)は言い放つ。「あなたたちの脳は文明に適応できない」と。
 ある夏祭りの夜。エレ・マリャは、スウェーデン人のふりをして、ダンスをする人たちに紛れ込む。エレ・マリャは、ニクラス(ユリウス・フレイシャンデル)という青年と知り合う。名前を聞かれたエレ・マリャは、つい、「クリスティーナよ」と、スウェーデン人の名前を名乗ってしまう。
 ニクラスの実家を訪ねて、なんとか、クリスティーナは、上級の学校に進学するが、高い授業料は、とても払えない。クリスティーナは、自分のトナカイを売ってでも、授業料を捻出しようと、いったん、故郷に戻るのだが……。

© 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

 人はだれしも、自由であるべきだが、歴史は、ある人種がある人種を軽蔑、差別し続けている。エレ・マリャは、クリスティーナと名前を偽ってまで、自由を希求する。当然のことだが、身元がばれ、手ひどい差別に遭遇する。
 映画は、サーミの人たちへの差別を具体的に示しながら、クリスティーナの女性としての成長を綴っていく。正確な衣装考証に加えて、トナカイとの共生などが、たいへんリアルに描かれる。それもそのはず、女性監督のアマンダ・シェーネルは、サーミ人の血をひき、主演のレーネ=セシリア・スパルロクは、いまなおノルウェーで、トナカイを飼っているサーミ人だ。
 映画では、自然のままの美しい景色と、恵まれた自然環境が映し出される。セリフで、いまやラップランドの人たちは、バイクを走らせていることが分かる。ラップランドの地にも、確実に文明が忍び寄っている。
 いま、スウェーデンでは、サーミ語やサーミ文化を継承、存続させる動きがあるという。すべて、サーミ人女性エレ・マリャたちが、切り開いてきた道が存在したからだろう。
 ラストのいくつかのシーンに注目されたい。老女クリスティーナの表情が、ここ数十年のサーミ人の血が、どのようなものだったかを示して、圧巻である。

2017年9月16日(土)より、新宿武蔵野館ico_linkアップリンク渋谷ico_linkほか全国順次公開

『サーミの血』公式Webサイトico_link

監督・脚本:アマンダ・シェーネル
音楽:クリスチャン・エイドネス・アナスン
出演:レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、ユリウス・フレイシャンデル、オッレ・サッリ、ハンナ・アルストロム
後援:スウェーデン大使館、ノルウェー王国大使館
配給・宣伝:アップリンク
(2016年/スウェーデン、ノルウェー、デンマーク/108分/南サーミ語、スウェーデン語/原題:Sameblod/DCP/シネマスコ―プ)

美術への期待と学力のエビデンス

 本連載は2012年に「図画工作科・美術科ができること」というテーマで始まりました(※1)。特に学力について何度か検討してきたつもりです。本稿では近年の報告をもとに美術に対する期待と学力のエビデンスについて紹介しましょう。

美術への期待

 すでに単純な知識の量では勝負できない時代になっています。AIがより進化し、求められる仕事が日々激変しています。新興国の経済力が日々向上する状況で、先進諸国にはより創造的な結果や違いを生み出す力が求められています。
 このような動きを反映してか、ビジネスの世界で美術について語られる機会が増えてきたように思います。例えば、4月に週刊ダイヤモンドが美術に関する特集を組んでいます。そこではビジネスの話だけでなく、美術によって培える資質や能力に関する発言が紹介されています(※2)

  • 「創造性を養うのにアートは不可欠(石川康晴ストライプインターナショナル社長)」
  • 「AI(人工知能)が仕事する時代に必要なものは感性。アートに触れることで感性が育つ(新藤博信アマナ社長)」
  • 「美術作品と豊かなコミュニケーションができれば、論理的に考える力や、直感的にメッセージを捉える力を伸ばせる(筆者)」

 最近の出版物としては、山口周「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」(※3)があります。そこでは、RCA(英国カレッジオブアート)におけるグローバル企業の幹部トレーニングや、メトロポリタン美術館の早朝ギャラリートークのビジネスマン参加などの例が紹介されています(※4)。そして、美術鑑賞が「観る力」を高めることや「美意識への復権」の時代が来たことなどについて述べられています。
 新しい時代に直面していることを肌で感じているビジネス界は、美術によって育つ創造性や感性などに期待しているのかもしれません。

学力のエビデンス

 エビデンスが求められる時代です。国内外で図画工作や美術教育が育てる学力について様々な調査が行われています。
 国内では、国立教育政策研究所が実施した「特定の課題に関する調査(図画工作・美術)」と「小学校学習指導要領実施状況調査」があげられます(※5)。いずれもテスト形式で子どもたちの学力を測定しています。結果からは、例えば図画工作で「形や色、動きや奥行きなどをとらえ、それらを基に自分のイメージをもつことができる子どもは絵に表す問題や鑑賞の問題の通過率が高い」「複数の造形的な特徴を根拠に作品の印象について説明することに課題がある」などが分かっています。
 国外の研究については、邦訳でいろいろ入手できるようになりました。例えば、C.リッテルマイヤーは複数の研究を広く検討し、芸術教育に自己省察力や構想力、視点の拡張などを育成する可能性があると述べています(※6)。OECD教育研究革新センターはさらに広範囲の検証を行い、美術と「空間認知」「心的イメージ力」「推論する力」「粘り強さ」「問題を発見しようとする力」「他者と異なる方法で解こうとする力」などに関係があることを証明しています(※7)。「芸術教育に参加している生徒は学力が高い」「創造的でメタ認知の力がある」「欠席率が低くなる。学習意欲が高い」など本連載の指摘と重なる点も多くあります。
 ただ、共通しているのは、一定の傾向や相関は見られるけれども、因果までは証明できないことです。一時的な効果やホーソン効果(※8)かもしれず、「追跡調査が行われていない」「プログラムや教師によって結果が異なる」などの問題が残っています。また、音楽や美術などの教科が他教科の学力を育てるとしても、そのために芸術教育があるのではありません。芸術教育それ自体に意味があるという考えも大切です。
 今後も、新しい調査が行われ(※9)、美術教育で育てられる学力について様々なエビデンスが提示されることでしょう。

美術検定が示すエビデンス

 エビデンスの一例として美術検定(※10)の結果分析を紹介します。
 美術検定は、いわゆる「検定物」(※11)です。4級から1級で構成され、主に事実的な知識を問う「知識問題」で構成されています(※12)。「知識問題」とは、例えば「モナ・リザ」の画像を提示して「作者は誰ですか?」「作品名は何ですか?」などを答える問題です。作品や作者に関する事実的な知識の正確性や保有量が問われます。そのため、4級から1級にいくにしたがって、次第に重箱の隅をつつくような構造となっていました(※13)。そこで著者が監修や問題作成に参加し、「知識・情報の活用問題」や〝複数の資料を活用しながら記述する問題“などを導入して改善を図っています(※14)。「知識・情報の活用問題」とは、例えば、アートゲームや授業など仮想の状況を設定し、そこで作品の特徴や歴史的な文脈などを問う問題です(※15)
 現在、美術検定実行委員会の協力を得て、内田洋行教育総合研究所/東京大学大学院の平野智紀さんを中心に統計学的な分析を行っています。そこから解答者が働かせている学力についていくつかの知見が得られています。
 例えば、新たに導入した「知識・情報の活用問題」と、これまでの「知識問題」には、あまり関連が見られないことが分かりました。前述したように、「知識問題」は、題名と作品、作家名と作品名などが合致すれば正答します。比較的、単純な知識で答えられます。一方「知識・情報の活用問題」では、作品から構図や時代などの知識を引きだして、それらを論理的に組み立てなければ答えられない仕組みになっています。分析結果からは「知識問題」ができるからといって、「知識活用問題」もできるとは言えないことが分かりました。逆に「知識活用問題」ができるからといって、「知識問題」ができるとも言えません。ということは、「知識・情報の活用問題」が測っている学力と、「知識問題」が測っている学力は違うのだろうということになります。おそらく、単純な知識をたくさん保有しているからといって、それを活用できるとは限らないのでしょう。知識を活用するためには、知識とは別の学力が必要だと思われます。
 次に「知識問題」の中で、「ある問題」が正答だと、他の問題もよくできているという問題があることが分かりました。例えば、次のような問題です。

 この問題を解くためには、アール・ヌーヴォーやアール・デコなどの様式について理解し、さらに写真から幾何学的な形、すっきりした構成など複数の特徴を取り出す必要があります。ビルの名前や設計者などの事実的な知識は必要ありません。この問題は、複数の知識がつながり合った概念的な理解を問うているのです。この問題ができていれば他の問題もよく解けているということは、「知識問題」を解く場合も、単純な知識だけでなく、より高次な概念や理解が必要だということでしょう。
 このように、検定という限定的な状況を詳細に調べることによって、人々がどのように学力を働かせているのかを調べることができるというわけです。

 

 時代や社会の変化を思えば、今後、美術への期待はいっそう高まっていくでしょう。また、教育統計学などの発展によって、国内外を問わず、美術教育に関して様々なエビデンスが提示されるでしょう。今回の学習指導要領では「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力等」の学力やその関係が明確にされました。「グリッド」に代表されるようなやり抜く力や協働性などの非認知能力も着目されています(※16)。これから5年間、美術や美術教育をめぐる状況は大きく変化すると思われます。

 

※1:学び!と美術 <Vol.01> <Vol.02> <Vol.03> <Vol.04>
※2:週刊ダイヤモンド「美術とおカネ全解剖 アートの裏側全部見せます」(ダイヤモンド社)2017年4月1日号 p43
※3:山口周「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」(光文社新書)2017。ビジネス等における事例が豊富です。
※4:筆者は別の著書で企業がアートスクールに研修派遣させることや、エグゼクティブが美術館に集うことについて指摘しています。後半に、「『エジソン』と『実験工房』の共通点を幼児がすぐに探す(エ)」という例が出されており、これも筆者の著書の「ピカソ」「学力」とそっくりでしたが……(笑)。
※5:国立教育政策研究所「特定の課題に関する調査(図画工作・美術)」2020
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/tokutei_zukou/
及び、国立教育政策研究所「小学校学習指導要領実施状況調査」2015
https://www.nier.go.jp/kaihatsu/shido_h24/index.htm
※6:C.リッテルマイヤー「芸術体験の転移効果―最新の科学が明らかにした人間形成の真実」東信堂 2015
※7:OECD教育研究革新センター編著「アートの教育学 革新型社会を拓く学びの技」明石書店 2016
※8:期待されていると感じることで、行動や病状が良くなる(と思う)現象。
※9:著者が現在関わっているフィリピン貧困地域の調査は、国内外に例のないランダム比較試験です。
※10:前身は2003年~2006年に実施されたアートナビゲーター検定試験(主催:アートナビゲーター事務局主催)。美術館の予算削減、美術教育の時数削減などに対して、美術を愛好し、美術活動を推進する人材の支援や育成を目的としてはじまりました。2007年に美術検定と名称を変更し(主催:美術検定実行委員会)、今年14回目、昨年度の受験生総数は約2千人です(2015年は運営母体の交代により休止)。
※11:江戸文化歴史検定、世界遺産検定、TOEICなどの語学、教養、金融、教養など様々な資格試験のこと。
※12:西洋美術、日本美術、画材や技法等を問う問題で構成されています。4級は中学生、高校生(選択科目は美術以外)、3級は中学生(美術部)、高校生(選択科目は美術、美術系高等学校の生徒)、大学生(一般教養で美術史を受講)、2級は大学生(美術・美術史系)、1級は大学院生、高等学校の美術科教師などを想定しています。4級及び3級はマークシート。2級はマークシートと美術行政や美術館運営等に関する穴埋め。1級は企画力や実践力を測るためにテーマに沿った記述や論述で構成されています。
※13:例えば「こんなことを知っていて役に立つと思えない」「1級合格者が美術館ボランティア等で行われるギャラリートークでただ知識を披露するだけに終わって困る」などの声がありました。
※14:「特定の課題に関する調査(図画工作・美術)」「小学校学習指導要領実施状況調査」の作成に携わったノウハウや全国学力調査B問題の構造などを応用しています。
※15:例えば以下です。
問「アートカードを使った『共通点探し』のゲームをしています、Aの中に入る作品はどれですか?」

Aを選ぶためには、作品の形式(①)、時代(②)、構図(③)等を組み合わせる必要があります。このような問題を各級に2~3題導入しています。
※16:代表的なのはアンジェラ・ダックワース 著、神崎 朗子 訳「GRIT やり抜く力」ダイヤモンド社 2016