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月別アーカイブ: 2021年4月
Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.15
Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.15 “教科書のデジタル化とインクルーシブ教育”を追加しました。
教科書のデジタル化とインクルーシブ教育
前回、ICTの利活用がインクルーシブ教育システムの構築という観点からも重要な意味をもっていることを記しました。今回は、その延長としてICTの活⽤として学校教育の柱となる教科書のデジタル化とインクルーシブ教育の関係に着目し、その重要性について考えてみたいと思います。
教科書のデジタル化に向けての取組
文部科学省では、「教科書への ICT の活用の在り方」という観点から、紙によるものを前提としていた教科書のデジタル化についても検討を積み重ねてきました(*1)。2019 年度からは、学習者用デジタル教科書について、一定の基準の下で、必要に応じ、教科書に代えて使用できることになり、そのためのガイドライン(*2)も示されています。また、これからの在り方については、初等中等教育局の調査研究協力者会議として「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」(*3)が設けられ、この3月にその「中間まとめ」が報告されています。
教科書のデジタル化の意義
その報告では、教科書のデジタル化のメリットとして、直接画面に書き込みができる、効果的に対話的な学びを行うことができる、拡大表示やポップアップの機能で図版や写真などを細部まで見ることができる、機械音声読み上げ機能により、読み書きが困難な児童生徒の学習を容易にすることができる、教科書の持ち運びの負担が軽減され、身体の健やかな発達にも資することなどが挙げています(*3)。
さらに報告では、こうしたメリットに加えて、アクセシビリティやユーザビリティを確保することにより、障害のある児童生徒が教科書へアクセスしやすくなることも意義のひとつとして示しています。障害等の特性に合わせて特別なものを別途用意するのではなく、最初から多くの児童生徒が利用できるものにしておくというのがユニバーサルデザインの思想ですが、このことはインクルーシブ教育システムの構築にとって重要な意味を持っています。
教科書のデジタル化とユニバーサルデザイン
教科書のデジタル化にあたっては、次のような機能の装着が考えられます(*3)。
- ピンチイン・ピンチアウトによる拡大・縮小表示機能
- 図やグラフや挿絵のポップアップ等
- フリーハンド又はキー操作による簡易な書き込み・消去
- 書き込んだ内容の保存・表示
- 機械音声の読み上げや、読み上げ速度の調整、読み上げている箇所のハイライト表示
- リフロー画面への切り替えによるレイアウトの変更
- 背景色・文字色の変更・反転、明るさ等の調整
- 文字のサイズ・フォント・行間の変更
- ルビ振り
- 任意のページめくり方法の設定
こうした機能の装着は、ユニバーサルデザインに直結します。ユニバーサルデザイン仕様のデジタル教科書は、障害がある児童生徒のみならず、学級に在籍する様々なタイプの児童生徒のニーズにも応えることを可能にします。例えば、近年増加傾向にある外国籍や⽇本語の習熟度が異なる児童・⽣徒にとっては、ルビ振り、読み上げ、拡大表示、書き込み、マーキング等の機能が役に立つことが中間報告に示されています(*3)。
グローバルな視点での教科書のデジタル化とインクルーシブ教育
インクルーシブなアプローチは、並行するシステムをいくつも構築する従来の考え方から脱却して、すべての子どもが利用できるひとつのメインストリーム(主流)となるシステムを機能させようとするものです。ユニバーサルデザイン仕様のデジタル教科書は、このアプローチに合致しています。
国外に目を向けると、障害があるなどのために十分な教育を受けることができない状況にある子どもがたくさんいます。ユニセフではこうした状況の改善のためにはインクルーシブなアプローチが不可欠であるとして、デジタル教科書の普及に力を注いでいます(*4)。ほかの子どもたちと一緒に教育を受けることができる障害のある子どもは、生産性の高い社会の構成員となり、コミュニティの生活に溶け込む可能性が格段に高いといわれています。こうした実りある共生社会を実現するためには、アクセシブルな環境が用意されている必要があります。
今後への期待
すでに、令和6年度の教科書改訂を視野に入れて学習者用デジタル教科書の開発が始まっていますが、基本設計の中に十分なユニバーサルデザインにつながる機能を組み込んでおくことが大事なこととなります。このことが、インクルーシブ教育システムの構築の推進につながっていくことは間違いありません。他方、デジタル化にはデメリットも伴うわけですが、十分な配慮をしながらデジタル化された教科書を利用していくことも重要になってきます。こうした観点から今後の取り組みが一層進んでいくことを期待したいと思います。
*1:『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議 最終まとめ』(平成28年12月)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2017/01/27/1380531_001.pdf
*2:『学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン』(平成30年12月、令和3年3月改訂)
https://www.mext.go.jp/content/20210325-mxt_kyokasyo01-100002550_02.pdf
*3:『デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議 中間まとめ』(令和3年3月)
https://www.mext.go.jp/content/20200421-mxt_kyokasyo01_1.pdf
*4:『Accessible Digital Textbooks for All Initiative』
https://www.accessibletextbooksforall.org/accessible-digital-textbooks-all-initiative
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Webマガジンまなびと:「学び!とPBL」Vol.37
Webマガジン:「学び!とPBL」Vol.37 “札幌新陽高校と福島”を追加しました。
札幌新陽高校と福島
1.一か八か……
2018年2月に福島市で、「新しい教育」をテーマとするシンポジウムを開催しました。地方創生イノベーションスクールで一緒に活動した和歌山のメンバーもお呼びし、福島市チームやふたば未来学園高校とのコラボも実現できました。メインの講演は、OECD東北スクールスターのきっかけとなる支援をいただき、東日本大震災復興支援財団の理事を務められ、東北全体の復興にたいへんな力を発揮し、現在は札幌新陽高校で校長先生(当時・現在は副理事長)をされている荒井優氏にお願いしました。
荒井氏はいつも新陽高校のロゴの入ったパーカーとジーンズを着用して現れ、ネクタイ・背広の姿を見たことがありません。それだけでもいかに常識にとらわれない型破りの学校運営をされているか、よくわかります。講演から、いかに生徒たち一人ひとりの個性、教員一人ひとりの個性を学校づくりに活かしていくか、とてもインパクトのある内容でした。一人1台のパソコンを早々と導入し、授業もゼミナール形式で行います。
図1 生徒たちによるお出迎え 話を聞いている内に、札幌の荒井氏の学校に行きたい願望が極限に達し、講演後に交渉したところ即、快諾を得ました。福島市チームと日程について相談すると、何と3月30日しか取れないということになります。年度末の学校現場はまるで戦場で、そこにお邪魔するというのは非常識の極みなので、諦めるしかないかと思いましたが、ダメ元で交渉してみると、OKをいただいたではありませんか! しかも荒井氏は「他でもない、大事な福島が来るのなら、スケジュールを変える」といって、東京から九州に移動する日程を、「東京→札幌→九州」に変えてくださったのです。
2.いざ、札幌新陽高校へ
図2 手作りの昼食をとりながら 3月29日、私たちが札幌に到着すると早速「ようこそ札幌へ!」の横断幕でお出迎え。部活動の送迎に使っているという、新陽高校の先生の運転するかなり年季の入ったマイクロバスで学校まで送ってもらいました。
学校に到着すると、「本気で挑戦する人の母校」の強烈な文字が迎えてくれます。十数名の生徒たちが出迎えてくれ、保護者の皆さんの手作りという昼食をとりながら、自己紹介をします。
図3 初めてのキンボール 生徒の創意による「宝探しゲーム」、新しいスポーツ「キンボール」体験など、とても楽しい一時となり、生徒たちはすっかり仲良くなりました。ここでは、生徒たちのデザインよる、企業と連携した独自のファッションブランドも立ち上げており、荒井氏がいつも身につけているパーカーやトレーナー、Tシャツなどはすべてこのブランドのものでした。他にも高校生の起業活動が活発で、福島の高校生たちにとっては驚くことばかりでした。
図4 生徒たちによるファッションブランド 札幌新陽高校の生徒たちはとても一人ひとりが生き生きしていて、その個性が形になって現れており、丁寧に育てられていることがよく伝わってきます。今回の交流も、自ら立候補した生徒たちが、すべて自分たちで企画してくれたとのことでした。ここでの生徒同士のつながりは、その後もずっと続くことになります。
3.札幌新陽高校と福島
図5 生徒たちと熱心に語り合う荒井氏 福島側のグループには佐藤君という、ふたば未来学園高校から「来週」福島大学に入学する「生徒」もいました。2日目は、「高校生の地域活動」と題した熟議を行うことになっており、新陽高校の生徒たちに福島を知ってもらうため、佐藤君にプレゼンをお願いしていました。原発被災地の富岡町の出身で野球少年だった彼は、高校時代のプロジェクトでアメリカに行ったとき、生産者と消費者が親しく交流するファーマーズマーケットに「運命的に」出会い、自分のやることはこれだと確信し、高校時代は農業の研究と、ファーマーズマーケットの実現のために汗を流し続けました。自分で交渉した農家に参加してもらったファーマーズマーケットは大雨にたたられましたが、たいへんな達成感を得ます。
図6 札幌新陽と福島の生徒による熟議 財団の理事として福島の復興やふたば未来学園高校の創設にも関わっていた荒井氏は、「大切な福島から、こんな若者が育った」と、涙を流して彼の話を聞いていました。「復興とは子どもが大きくなること」という印象的な言葉を核にして、荒井氏自身と福島の関わりを話してくださいました。これをもとにして、高校生同士、札幌の真ん中で、延々と福島の震災と復興の物語は話し続けられました。
