こんなときどうしよう?④ コロナ禍でどうやって話し合い活動をおこなえばいいの?

1 コロナ禍での話し合い活動の模索

 2020年度、新型コロナウイルス感染症による感染拡大を防止するため、全国の公立小中学校が一斉に休校しました。それが明けてしばらくしたある日、区教育委員会から問い合わせがありました。
 「今年度研究指定校の2年目ですが、研究発表を行いますか?それとも、来年度に回しますか?」と。私は、今年度のメンバー(教職員)で発表までもっていかないと、研究の内容がまとまらなくなる可能性があることを懸念して、校長に相談し、「今年度行います」と回答しました。研究主題は「未来社会を見据えた『協調的な学び』の創造」です。話し合い活動の活発化による「深い学び」への到達をねらいとしており、話し合い活動をすることが前提です。しかし、グループでの話し合い活動は当時のガイドラインではあまり好まれない状況でした。どうすればよいか。私たちは大変悩みました。
 指導主事から、「濃厚接触にあたらなければ、活動できます」とのご助言がありました。そこで、マスクを着用して、15分未満の話し合い活動を計画しました。
 また、全校児童に一人一台ずつのタブレット端末が配布される前ですが、80台のタブレット端末と各担任に指導者用タブレット端末がありました。それらを活用した新しい形の話し合い活動ができないか。つまり、情報共有を可能とするアプリを駆使してまるで模造紙にみんなで書き込むようにして、話し合い活動にあたる情報の交流ができないかと考えました。

2 濃厚接触にさせない話し合い活動の工夫

1.話し合い活動の意義は

・「周りの人たちと共に考え、学び、新しい発見や豊かな発想が生まれる授業に」
どのように授業改善を図るかを述べた文部科学省の「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」より

・「子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める『対話的な学び』が実現できているか。」
『対話的な学び』について説明した文部科学省資料「新しい学習指導要領の考え方―中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ―」より

 対話的な学びとは、友達と話し合ったり、協働作業をしたりすることで、自分の考えを広げ、深めていくための教育活動を指しています。
 グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会構造や雇用環境が大きく変化する、予測困難な時代を生きる児童にとって、「何を学ぶか」だけではなく、「どのように学ぶか」が必要となります。そして、一つひとつの学びを大切にし、各教科等を通じて得た力が将来にもつながるように、学ばせなくてはいけません。これからの時代を生きる上で、児童にとって必要なものの一つが話し合い活動なのです。

2.従来の話し合い活動をする際の工夫

 コロナ禍において、どのようにすれば話し合い活動ができるのでしょうか。指導主事からの助言を踏まえ考えました。濃厚接触者を作らなければ、話し合い活動は実施できるので、次のように校内での取り決めを行い、話し合い活動を増やしました。

<図1 従来の話し合い活動をする際の工夫>

①話し合い活動は15分未満とする。

・指導計画に表した。

②少人数のグループ活動の際、机(イス)の配置を工夫する。
※右図のように飛沫が相手にかからないように机の配置を工夫する。原則、机の幅の分を離れるようにした。

③ノートでの交流

・付箋を用いて、感想を伝え合ったり、助言したりした。

④思考を可視化するツールの活用(話し合う際などに、効率よく意見を交流し、考え等を整理する際に活用した。)

・イメージマップ→意見や考えを広げる際に有効
・ピラミッドチャート→具体化、構造化
・Yチャート→多角的に見る、分類  など
※これらについては、https://www.nichibun-g.co.jp/tools/c-sha_thinking/もあわせてご覧ください。

⑤知識構成型ジグソー法(*1)の活用

・本校の研究の肝となる学習方法だった。
(時間の制限のある中、より深い学びにつなぐため)

3.ICT機器の活用

 その当時の本校の環境としては、全校で2クラス分(80台)のタブレット端末がありました。また、各学級に指導者用タブレット端末や電子黒板、実物投影機が配られていました。そこで、情報教育推進リーダーを中心に、できそうなものを情報共有し、できる人から挑戦し、それを校内研究会の実証授業の際に報告しました。ここで活用したのが、図2①のJamboardでした。

<図2 本校で情報共有を可能とするアプリ(ソフト)>

ソフト

概要・特徴

操作ロック
・一覧表示

料金

URL

①Google Jamboard

デジタルホワイトボード。描画や付箋、図形、Google画像貼付等の機能。50名まで共同編集可能。
※50名まで可能な場合もあるが、動作不安定になる可能性がある。

×

無料

https://jamboard.google.com

②スカイメニュークラウド

学習活動端末支援Webシステム。発表ノートやグループワーク、ポジショニング(※1)、QRコード、教材・作品共有、シングルサインオン(※2)、健康観察等の機能。
※1:自分の意見がどこにあるかを色の点などで表現し、意見の分布などを一覧可能。
※2:Googleアカウントなどでログイン情報を連携。

有料

https://www.skymenu.net

③コラボノートEX

協同学習支援ツール。個別学習・共同学習切り替えやシングルサインオン等の機能。思考ツール等のテンプレート多数。

有料

https://www.collabonote.com

④ロイロノート

クラウド型授業支援アプリ。カードの共有・蓄積やテスト・アンケート、Webフィルタリング等の機能。思考ツール等のテンプレート多数。

有料

https://n.loilo.tv

⑤Googleスライド

プレゼンテーション作成ツール。オフィスのパワーポイント同じように使用できる。100名まで共同編集可能。
※ファイルごとの権限設定による。

×

無料

https://docs.google.com/presentation

⑥Googleドキュメント

文書作成ツール。オフィスのワードと同じように使用できる。100名まで同時編集可能。
※ファイルごとの権限設定による。

×

無料

https://docs.google.com/document

⑦Googleスプレッドシート

表計算作成ツール。オフィスのエクセルと同じように使用できる。100名まで同時編集可能。
※ファイルごとの権限設定による。

×

無料

https://docs.google.com/spreadsheets

2021年11月1日現在

 4年生は、社会科の水の学習を終えた後、総合的な学習の時間「わたしたちの水~水からつながる世界」の学習で、世界では水が得がたい存在であることなど、水自体についてや、世界の水事情などの各自が調べたい内容について調べました。その後、調べる内容が同じメンバーで集まりグループを構成しました。そのグループでJamboardにまとめました。最後は、探究したことをGoogleスライドで作品を作成し、電子黒板に投影して発表しました。教員は、指導用タブレット端末で、Googleドライブに格納してある作品を点検し、指導内容があれば、付箋の機能を用いて修正をさせました。この単元を校内研究会の実証授業で情報共有し、他の学年にも広がっていきました。

3 一人一台タブレット端末が配布された以降の取り組み

 4月以降、区教育委員会よりiPadが全校児童に貸与されました。情報教育推進リーダーは校内のiPadの活用事例を、「iPadを活用した校内事例」としてまとめ、活用の推進を図りました。その中で、情報共有を可能とするアプリ(校内事例では「コラボレーションツール」としている)として、①や②、④などを挙げています。下図はその一例です。

アプリ

内容

①Jamboard

4年生 総合的な学習の時間「わたしたちの水」

②コラボノートEX

2年生 生活科 野菜の観察記録
・児童が写真を撮り、教員が用意したシートに貼って、一般化を図る際の資料とした。

④Googleスライド

2年生 図画工作「おおきく そだて、びっくりやさい」作品ポートフォリオ
・児童が撮った写真を貼り付け、ポートフォリオとしてまとめた。

 まとめた事例には社会科がありませんが、4年生で「自然災害からくらしを守る」において、妙正寺川の普段の様子と台風時の濁流となっている様子をGoogleスライドに貼り付け、学習問題作りに活用したり、6年生「長く続いた戦争と人々のくらし」で、焼け野原の東京と復興した東京を比べる際に用いたりする予定です。また、知識構成型ジグソー法(*1)を行うため、三つの内容に合わせた資料をGoogle Classroomに貼り付け、エキスパート活動(*2)で、Jamboardやコラボノートで情報を整理し、それを基にジグソー活動(*3)で情報を交流させて、クロストーク(*4)で学習問題に対する考えを話し合うこともできます。
 一人一台のタブレット端末を活用すれば、手元で、カラーで、必要に応じて拡大もできることから資料提示にはとても有効だと思います。また、話し合いの時間を十二分に取りたいときは、話し合いの様子を教員が板書にまとめ、それを撮影し、印刷・配布したものを貼らせることも可能です。
 一方で、学習に見合う情報共有を可能とするアプリの適切な使用場面や使用方法がイメージできていないと、無駄な時間が生まれたり、ICT機器を活用することが目的化してしまったりすることがあります。

4 最後に

 教員の仕事は、終わりがなく、いくらでも仕事が見つかります。まじめな教員ほどそうです。特に、若手教員は、学級事務や校務分掌、生活指導などやることが多く、教材研究を行うので精一杯かもしれません。本校の教員もよく頑張るなという場面を見かけます。しかし、多少余裕のある長期休業日や計画的に仕事を行うことで生み出した時間を使って、<図2 情報共有を可能とするアプリ(ソフト)>などを研究し、トライアンドエラーを繰り返しつつ、習熟を図れたら、授業が充実してくると思います。そして、情報共有を可能とするアプリのよりよい活用場面を見いだし、「深い学び」に到達できるよう授業改善を支えていきたいと考えています。

*1:本校の昨年度の研究の内容、その手だての一つである学習方法である。「人に伝えたい状況」や「自分の考えが相手に受け入れられる状況」、「友達と考え、自分の考えが良くなる状況」が設定されるため、「協調的な学び」(*5)を教員が引き出すために有効な方法。
*2:元々のグループからテーマを選択して、専門的に個々に学ぶ。その後、同じテーマで学んだ人同士で情報を共有、詳しく説明できるようにする活動のこと。
*3:エキスパート活動で詳しくなった学びについて元々のグループで交換、統合する活動。
*4:3の段階で得た内容を学級などの全体で情報共有、学習問題に対する考えを出し合う活動。
*5:互いに考えを伝え合うことで、グループだけでなく、一人ひとりの考えが、よりよい考えになっていく学習のこと。「主体的・対話的で深い学び」につながるものと捉えている。

令和元・2年度 中野区教育委員会「学校教育向上事業」研究指定校 研究主題「未来社会を見据えた『協調的な学び』の創造」リーフレットより

Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.25

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.25 “教科教育とインクルーシブ教育(1)”を追加しました。

教科教育とインクルーシブ教育(1)

 これまで、何回かにわたって、海外のインクルーシブ教育の状況について紹介してきました。インクルーシブ教育への取り組みについては、多様な学びの場を用意して、地域ですべての子どもを包含する「インクルーシブ教育システム」の体制をとっているタイプと、一つの学校ですべての子どもを包含する(フル)インクルーシブ教育体制をとっている二つのタイプがあることがご理解いただけたのではないかと思います。
 どちらのタイプをとるにせよ、学校教育の中核的な活動となっている教科教育への配慮は欠かせません。そこで今回からは、インクルーシブ教育の推進と教科教育の実践に関して取り上げていきたいと思います。

教科教育とダンピング

 日本のインクルーシブ教育は、できるだけ現行のシステムに変更を加えず緩やかに共生社会の実現を目指すという方針で「インクルーシブ教育システムの構築」が打ち立てられていますので、前者のタイプということになります。
 他方、障害者の権利に関する条約では「生活する地域社会において、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができること」とその第24条に記されています。このことから、当事者団体などは、インクルーシブ教育体制への移行に関する議論の中で、原則「地域の学校で教育を受けること」を強く主張してきました。
 そうした背景もあって、障害のある子供の就学先の決定の手続きについては、平成25年の学校教育法施行令の一部改正において、「教育委員会が相談・指導する」という手続きから「合意形成」を尊重する手続きに方向に転換されました(*1)
 しかし、教育委員会と当事者・保護者の間に合って、一律に「合意形成」を図ることは極めて困難なことです。そうしたことから、「インクルーシブ教育システム」を建前としながらも、地域の状況や自治体の判断によっては、当事者や保護者の意向を尊重して、学校内ですべての子どもを包含するインクルーシブ教育に対応しているというケースも少なくありません。こうした場合に、くれぐれも気を付けなければいけないのは、教科教育のダンピング(配慮なく通常の学級で学んでいること)を生じさせないことです。こうした事態を防ぐためにもこうした教科教育での配慮事項を把握しておくことは重要だと思われます。

学習指導要領等における配慮事項の記載

総則における記載

 現行の小学校・中学校学習指導要領の【総則】には、特別な配慮を必要とする児童(生徒)への指導として、「障害のある児童(生徒)などについては,特別支援学校等の助言又は援助を活用しつつ,個々の児童(生徒)の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を組織的かつ計画的に行うものとする。」および「全ての教師が障害に関する知識や配慮等についての正しい理解と認識を深め,障害のある児童(生徒)などに対する組織的な対応ができるようにしていくことが重要である。」という記述が認められます。

学習指導要領解説に示されている配慮事項

 学習指導要領第6章の第3の1の(5)には次のような記載があります(*2)

(5)障害のある児童などについては,学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。

 これを受けて、各教科等の学習指導要領解説には、それぞれの教科等で配慮すべき事項が例示されています。各学習指導要領解説に配慮事項が記載されている場所は異なっているのですが、以下に該当ページを示します。

  1. 国語における配慮事項   
    【国語】p.160
  2. 社会における配慮事項   
    【社会編】p.139-140
  3. 算数における配慮事項   
    【算数編】p.327-328
  4. 理科における配慮事項   
    【理科】p.96-97
  5. 生活における配慮事項   
    【生活】p.65-66
  6. 音楽における配慮事項   
    【音楽】p.121-122
  7. 図画工作における配慮事項 
    【図画工作】p.110-111
  8. 家庭における配慮事項   
    【家庭編】p.75-76
  9. 体育における配慮事項   
    【体育編】p.165-166
  10. 外国語活動・外国語における配慮事項
    【外国語活動・外国語編】英語p.47-48、外国語p.127-128
  11. 道徳科における配慮事項  
    【特別の教科 道徳編】p.113-114
  12. 総合的な学習の時間における配慮事項
    【総合的な学習の時間編】p.43-44
  13. 特別活動における配慮事項 
    【特別活動編】p.148-149

 インクルーシブ教育を進めるために大切なことは、ユニバーサルデザインとして一斉指導を丁寧に行いつつ、一人一人の児童・生徒の実態に応じた学びが成立するようにすることところにあります。そのために配慮事項が示されているわけですが、通常の学校に勤務されている先生方には、是非とも確認しておいていただきたいと思います。

 今回は総論的な内容になってしまいましたが、以後は教科ごとに見ていくことにします。昨年末、筆者も関わっているのですが、跡見学園女子大学(前群馬大学)の茂木一司先生を中心に『視覚障害のためのインクルーシブアート学習』(*3)という書籍が出版されました。この書物では視覚障害からスタートしていますが、小学校、中学校の「アート学習」につながる様々な提案がなされています。そこで次回はこの書籍の紹介と共に「図画工作」および「美術」教育とインクルーシブ教育について考えていきたいと思います。

*1:障害のある子供の就学先決定について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shugaku/detail/1422234.htm
*2:小学校学習指導要領
https://www.mext.go.jp/content/1413522_001.pdf
*3:茂木一司(代表)、大内進、多胡宏、広瀬浩二郎(編)『視覚障害のためのインクルーシブアート学習-基礎理論と教材開発-』 ジアーズ教育新社、2021

Webマガジンまなびと:「学び!とPBL」Vol.47

Webマガジン:「学び!とPBL」Vol.47 “高校の「総合的な探究の時間」の背景”を追加しました。

高校の「総合的な探究の時間」の背景

1.高校で始まる探究活動

 この4月から、高校に「総合的な探究の時間」が設けられ、本格的な探究学習が始まります。私は、中教審の教育課程企画特別部会で学習指導要領の改訂に携わっていたのと、ここにはOECD東北スクールの成果が少なからず影響しているという点で、特別な思いがあります。
 高校では既に学習指導要領の改訂を見すえて探究活動の準備が始まっており、私のゼミ生もある高校で生徒のサポートをしていました。彼は高校生を集めて地域活動も行っているので、それとの対比で学校の探究活動に問題を感じています。彼のところには、探究活動をどう進めてよいかわからない高校生が次々と相談に訪れます。「高校が立地しているA市に関することが条件」「市の問題を発見して、その解決策を考えてまとめる」「限られた時間の中で作業」などの困りごとが多く寄せられます。
 少し回り道になりますが、「総合的な探究の時間」を必要とするわが国の状況を見ていきたいと思います。

2.日本の若者たちの現状

 PISA2018調査の、若者たちの意識の国際比較から日本の生徒たちの姿を見ていきましょう。
 図1の青い棒は「学校で幸福を感じる」生徒の割合を示しており、一番左の日本は全体の中でも「幸せ」と感じるグループにあることがわかります。また、菱形(◇)は「学校で決定機会を与えられていると感じるか」を表しており、この国際比較からは日本は最低であることがわかります。問題なのは、他国のほとんどの生徒が「決定機会が与えられていて、学校は楽しい」、「決定機会が与えられていないから、学校はつまらない」と感じているのに対し、日本の生徒だけが「決定機会が与えられていないのに、学校は楽しい」と感じている点です。うがった見方をすれば、決定機会が与えられていない、つまり責任を持たなくてよいから学校は楽しい、と読めなくもありません。

図1 学校の幸福度と決定機会の相関国際比較(PISA2018)

 図2は、生徒たちの生活満足度を表しており、学校で幸せを感じている日本の生徒は国際比較上、最も低いグループに属していることがわかります。OECD平均から1割も低く、主観的ではありますが、何らかの欠落感を抱いていることがわかります。Well-beingが「本質的に満たされている状態」を表すのであるとすれば、目の前の生徒たちはそのような状態にはないと言わざるを得ません。

図2 生活満足度国際比較(PISA2018)

 図3は、生徒たちの失敗に対する恐怖心の国際比較です。日本の生徒は、シンガポール、マカオ(中国)、香港(中国)についで4番目に高い値を示しています。5位の英国とともに、競争の激しい地域の生徒が失敗を恐れていることがわかります。これに対し、オランダ、スイス、ドイツ、オーストリア、クロアチアなどの生徒は恐怖心が少ない、つまり、チャレンジ精神が旺盛ということができます。

図3 失敗に対する恐怖心国際比較(PISA2018)

 図4は、この失敗に対する恐怖心とPISAスコアとの相関を表したグラフです。縦軸がPISAスコアで、横軸が恐怖心の度合いを表しており、日本やシンガポール、香港、韓国などはPISAスコアが高く失敗を恐れるグループです。これに対し、フィンランドやエストニア等の生徒はPISAスコアが高く失敗を恐れないグループ、ということができます。同じ高得点でも、生徒たちの性向にはかなり幅があることがわかります。理想で言えば、日本も、フィンランドやエストニアのようなチャレンジ精神の豊かな生徒を育てるべきではないかと思います。

図4 PISAスコアと失敗に対する恐怖心の相関(PISA2018)

 図5は、2019年の日本財団による個人と社会との関係を調査した結果です。最上段が日本で、「自分は大人だと思う」、「自分は責任のある社会の一員だと思う」「将来の夢を持っている」、「自分で国や社会を変えられると思う」、「自分の国に解決したい社会課題がある」、「社会課題について家族や友人など周りの人と積極的に議論している」、いずれの項目も日本の若者が極端に低いことが一目瞭然です。中でも「自分で国や社会を変えられると思う」はわずかに18.3パーセントで、自分で社会を変えようと思っている生徒は5人中1人以下で、8割以上の生徒は「自分ではない誰かが何かやってくれる」と思っている、ということになります。「若者たちは未来の担い手」というキャッチコピーとは全く逆の現状があることがわかります。

図5 若者たち社会変革に対する意識(日本財団2019)

3.PISAから学ぶべきもの

 PISA2018では、読解力が11位と前回の6位から落ちていますが、数学的リテラシーは1位、科学的リテラシーは2位、と全体としては上位をキープしています。しかし、PISAで重要なのは、学力のランキングなどではなく、そのような学力がその国のどのような文化や政治、経済的条件によって生まれてくるのか、教育制度や産業構造、国民意識、社会的インフラがどのように生徒の学びの構造に影響を与えているのかを明らかにすることです。
 日本の生徒の学びにどのような課題があり、それをどのような教育改革によって克服しようとしているのか、そしてそれが実際に改善に結びついているのかどうかを検証していくことが極めて重要です。高校に新設される「総合的な探究の時間」も、この文脈で見ていかなければならないのです。