仲間との対話を通して道徳的価値に迫る道徳科の授業(第1学年)

1.はじめに

 本校は、「学校全体で取り組む道徳教育の充実と授業改善」をテーマに、道徳教育推進教師を中心として校内での道徳教育の推進に取り組んできた。
 「考え・議論する道徳」を目指し、登場人物の行動をつかんだり、心情理解をしたりすることにとどまらずに、さらに深い道徳的価値に迫ることのできる「めあての設定」「中心発問の設定」に加え、「生徒に考えさせる・説明させる」・「道徳的価値に迫るために立ち止まり、問い返す」授業展開の工夫を取り入れている。

2.教材について

 本教材「富士山から変えていく」(令和3年版『中学道徳 あすを生きる 1』日本文教出版)は、登山家の筆者・野口健さんがエベレスト登山をきっかけに環境問題を意識し、富士山の環境保全活動を通して感じたことがつづられている。
 ねらいとする内容項目は、【C-(12)社会参画、公共の精神】であり、「社会参画の意識と社会連帯の自覚を高め、公共の精神をもってよりよい社会の実現に努めること」の大切さについて理解することである。ねらいについて考えることを通して、「誰かがやってくれるから」ではなく、「自分が積極的に関わり行動することで、社会はよりよいものに発展していく」ことに気づかせたい。そのために、道徳的価値に迫る発問の際には、生徒の考えを揺さぶるような問い返しを取り入れ、生徒自身の中にある道徳的価値を見つめる時間を設定した。

3.本時の指導方法について

(1)導入で「めあて」を提示

 授業の初めに「本時のめあて」を提示している。めあての設定においては、生徒たちに最終的に考えさせたい道徳的価値を簡潔に示すように工夫している。また、めあてを提示することで、今日みんなで何を考えるのかを生徒が理解することができる。そのため、学習内容がぶれることなく深く学ぶことができ、導入で見通しをもつとともに終末で自分自身の学びを振り返ることにもつながる。
 さらに、めあてを問いの形で示すと、生徒の中に課題意識が生まれ、展開後半でめあてに戻って共通の課題としてクラス全体で考えることもできる。自分の今後の行動につながるようなめあての設定を心がけている。

(2)仲間との対話と、ファシリテーターとしての教師の役割

 中心発問の設定においては、自分の中にある「弱さ」とどう向き合い、道徳的価値に迫るか、登場人物を通して考えることができるように工夫している。そして、個人で考えたことを生徒同士で交流し合い、「たしかにそうやんな。」「なるほどな。」「似た考えやな。」「そんな考えもあるんや。」と自分自身の考えを深める時間を設定している。
 全体交流の時間では、生徒の発表に立ち止まって、「どういうこと?」と問い返すことを意識している。教師が語るのではなく生徒に語らせ、表現に悩んだときも「誰か同じ考えの人いる?」と呼びかけ、生徒同士をつなぐ役割を授業者が行えるように意識した。
 本時の展開の中でも、本教材の内容項目【C-(12)社会参画、公共の精神】において中心となる「参画」について考えさせる問い返しを行った。揺さぶるような問い返しをすることで、「人任せだったら何も変わらない。」「自分たちが動かないと、状況は変わらない。人に頼らず自主的に動く方がいい。」「自分がやれば、周りもしてくれるはずだから、まずは自分がやるべき。」などの考えが生徒から出てきた。他人任せにするのではなく、「自分たちが積極的に行動することで社会はよりよくなるんだ。」という道徳的価値に迫ることができた。

<展開前半の授業の様子(一部)>

T=教師、S=生徒

T 野口さんが「自分たちの力で、この状況を変えていく。」という意識を大切にしているのはなぜだろう?
S 次に登る人が気持ちよく登れるようにしたいから。
S 自分にもできることがあるから。
S 「自分がやる。」というのが大事で、その思いが集まって大きな力になるから。
T なるほど。みんなの考えには共通して「自分」という言葉がありますね。でも、ごみを捨てたのは野口さんではないし、「誰か」がやってくれたらそれでいいんじゃない?
S そういうことじゃないと思う。
T どういうこと?
S そこにごみがあるなら、自分がやるほうが早いから。
T でも、それは自分の捨てたごみじゃないんだよ?
S それはそうだけど、人任せだったら何も変わらないと思う。待つといつまでも変わらないし、人に頼らず自主的に動く方がいい。
T なるほどね。みんなはどう思う?近くの人と交流してみよう。

(3)展開の後半で再度、めあてに戻る

 展開の後半で再度めあてに戻り、授業を通して考えたことを整理する時間を設けている。考えたことをクラス全体で交流することにより、さらに疑問が生まれたり、考えが深まったりする場面も見られた。

<展開後半の授業の様子(一部)>

T 「よりよい社会」は何から生まれるのだろう?
S 増税しない!大人の意識を変えてもらうのがいちばん早い気がする。
S そんなん人任せやん。自分で動かな。
T じゃあ、どんな方法があるだろう?
S 18歳になって選挙権を得たら、選挙に行って投票をして自分で決める。
S 自分たち一人ひとりの「いい社会にしたい」という気持ちを、実現・実行するのが大事だと思う。
S 選挙権がない今でも、調べたり、関心をもったりすることが大事だと思う。
S 自分が周りに影響を与えているという考え方をもつ。
S 人のよい行動を見て、「自分もできるようにしたい!」と思って行動する心が大事。
S みんなで協力して、自分も活動に参加する。
S 一人ひとりが「自分がするんだ。」という意識をもって行動する。

4.まとめ

 本授業では、①めあてを提示する、②自分の考えを持つ、③意見を交流して考えを深め合う、④めあてに戻って考える、の流れで本時のねらいに迫った。中学生になると、「教師はこう答えてほしいのだろう。」というような意見を言うことも少なくない。しかし、途中で揺さぶりを入れることで、再度自分の考えを見つめ直し、「それでも自分で行動することに価値がある。」と考えを深めることができた。まとめの最後に、「みんなが言ってくれたような、自分が積極的に関わって自分にできることをすることを『参画』と言うんだよ。」と伝えると、「へ~そんな言葉あるんや。」という反応が返ってきた。『参画』という言葉を知らずとも、生徒たちの中にある「社会参画」の道徳的価値がクラス全体で深まる時間となった。

5.実践事例

(1)教材名

「富士山から変えていく」(令和3年版『中学道徳 あすを生きる 1』日本文教出版)

(2)主題名・内容項目

つながりが生み出す力(内容項目:C-(12)社会参画、公共の精神)

(3)本時のねらい

 自分が積極的に関わり行動することで、社会はよりよいものに発展していくことに気づき、社会連帯の自覚を深め、一人ひとりが協力し、よりよい社会を実現していこうとする実践意欲を育てる。

(4)展開例

学習活動
(○主な発問 ◎中心発問 
★予想される生徒の反応)

指導上の留意点


1 題名にある「富士山」について、知っていることを交流する。

○「富士山」と聞いて、イメージするものや、知っていることはありますか?
★世界遺産。 ★日本で一番高い山。
★かぐや姫の不死の薬を燃やした。
★青と白のイメージ。
★観光客もたくさん登りに来ている。

○富士山に対してよいイメージを持っている人が多いようですね。でも実はこんな現実があるんです。→富士山に不法投棄されたごみの写真を見せる。
★ニュースで見たことがある。
★お菓子の袋が捨てられている。

2 本時のめあてを知る。

富士山の写真をスライドで映し、イメージをもちやすくする。

○今日は「富士山から変えていく」という話を通して、「よりよい社会」は何から生まれるのかということについて、考えていきます。

働くことや社会に奉仕することの意義については既習事項であることを確認し、そのうえで、「よりよい社会は何から生まれるのか」について考えることができるようにする。


3 語り手である野口健さんについて紹介し、「富士山から変えていく」を読む。

○この話は、登山家の野口健さんが実際に経験したことが書かれています。野口さんの思いを感じながら、聴いてください。

4 野口さんの思いを考える。

本文から読み取ることができる野口さんの思いに注目させるようにする。

○エベレスト登頂挑戦のときに、隊長の「ごみを拾おう。」の呼びかけに、野口さんは「ノー!」と言いかけたのはなぜだろう?(全体)
★ほかの登山家たちの残したごみを拾わないといけないのかと思っている。
★自分は登山をしに来たのであって、ごみ拾いをしに来たのではないと思っている。

「なぜ自分がしないといけないのか。」という、ごみ拾いに対する野口さんの当初の思いをつかむことができるようにする。

○エベレストで富士山の話が引き合いに出されたことをきっかけに、夏の富士山に登った野口さん。
ごみの多さを目の当たりにして、どんなことを思っただろう?(全体)

野口さんの気持ちが変化した出来事であることに気づくことができるようにする。

★思っているよりごみが多くてショック。
★エベレストの汚さと変わらない。
★なんとかしないといけない。

この出来事をきっかけに、「自分たちの力で、この状況を変えていく」という考えが生まれたことを確認する。

◎野口さんが「自分たちの力で、この状況を変えていく」という意識を大切にしているのはなぜだろう?
(個人→交流→全体)
★みんなで結集することで大きな力になるから。
★一人ひとりがみんな行動すれば社会はよくなるから。
★悪い状況をよくするのは、ほかでもない自分だから。
★「まずは自分が行動して変えていこう」という意識がよりよい未来につながるから。

自由に移動して、できるだけ多くの意見を交流するように声掛けをする。

○誰かがやってくれたら、それでいいのではないか?
(追発問)
★誰かがやるのを待っていては遅い。
★人に頼るのではなく、自分が行動することで状況を変えたい。

生徒から出た意見を揺さぶる追発問を行い、近くの人と交流させることで、「自分が行動することに価値がある」ということに気づくことができるようにする。

○「よりよい社会」は何から生まれるのだろう?
(個人→交流→全体)
★集団や社会は、私たち人間が作ってきたものであり、その集団や社会をよりよく発展させていくのも自分。
★自分が積極的に関わって、自分の役割を果たすことが大切。

よりよい社会は何から生まれるのかを考えることを通して、「誰かがしてくれる」ではなく「自分がする」ことが大きな一歩であることに気づくことができるようにする。


5 学習を振り返る。
★今日の学習を通して、感じたこと、考えたこと、これから自分が大切にしたいことを自由に書こう。

今までの自分を振り返ったり、これからの自分の生き方につなげたりできるようにする。

6.板書例

生徒を信じて待つ道徳授業(第2学年)

1.はじめに

 この実践事例は、日本文教出版主催の道徳セミナーで使用する授業映像用に取り組んだものです。道徳の授業の撮影依頼を初めて受けたのが春の終わる頃でした。新しい学校に赴任してすぐでしたが、経験したことのないことに挑戦したい!と考えている私にはとてもありがたいお話で、何よりも、日本文教出版のセミナーで自分の授業を使ってもらえることが光栄でした。また、セミナーで付属学校などではなく一般の公立中学校の映像は使われたことがないと聞き、「生徒にも自分にも初めての経験になる!」と、興奮した気持ちで準備を進めました。
 選んだ教材は「足袋の季節」。自分が好きな教材を選びましたが、誰かに見てもらうことを想定しての指導案作成に苦労しました。導入から終末までを、50分間に収めることが難しく、これまで「書くこと」も大切にしていた授業展開を「話すこと」を中心にして、長文の教材は朝の会で事前に読んでおくという手法を取り入れました。
 授業を撮影していただいたのは9月末で、その時期には生徒たちとも関係づくりができていたので、ペアワークやグループワークなど、生徒はいつも通りの様子で授業に参加してくれました。目の前の生徒とはまだ半年の関わりでしたが、授業者を信頼して、安心して発言してくれる雰囲気が醸成されつつあることが分かり、うれしかったです。
 その後、冬に2回開催されたセミナーに登壇させていただきました。セミナーでは反省ばかりの時間となりましたが、この実践事例の執筆まで約1年間をかけて、1つの道徳教材に触れられたこと、多くの方々にご助言をいただきながら、研さんに励めたことに感謝しています。

2.教材について

 貧しい老婆から釣銭をごまかし良心の痛みに悩む主人公「私」は、後年、謝罪に訪れますが、老婆はすでに亡くなっていました。「私」が貧困と寒さに耐えきれず、釣銭で足袋が買えると考えた罪と後悔、そして謝って楽になろうと思っていた自分の弱さを糧に、「おばあさんにもらった心」を人生に前向きに生かしてきた姿勢に学ばせたいです。なお、1920年代の話であるため、20銭ほどの「足袋」の価値や、極寒の小樽の街について生徒に理解させる必要があると考えました。

3.実践事例

(1)教材名

「足袋の季節」(『中学道徳 あすを生きる2』日本文教出版)

(2)主題名

強く気高く生きる(内容項目:D-(22)よりよく生きる喜び)

(3)本時のねらい

 人間の内面にある弱さや醜さに向き合って自分を奮い立たせ、強さや気高さに変えることで自己を肯定して生きていけることの自覚を通して、人間として生きる喜びを見いだそうとする態度をつちかう。

(4)展開例


学習活動

主な発問と予想される生徒の反応
(○基本発問 ★中心発問 ・生徒の反応)

指導上の支援・留意点
(○留意点)

授業まで(朝読書の時間)に教材を読む時間をとる。



5

1 「私」の当時の生活状況を考える

○「私」は日々どのような生活をしていたのだろう。
・貧しくつらい。冬なのに足袋が買えない。
・散髪代とお風呂代しか払えないほどの生活。
【めあて】弱さを受け入れ、気高く生きることについて考えよう。

○あらすじを確認する。
○足袋や極冬の小樽の街の写真などを提示することで臨場感を高める。



40

2 教材「足袋の季節」の内容について考える

〇おばあさんに「50銭玉だったね?」と聞かれ思わず「うん。」と答えてしまった「私」は、どんな気持ちだったのだろう。 ペア
・足袋が買えるが、おばあさんにうそをついていいのか。
・おばあさんはわざと50銭玉と言い、私を励ましてくれているのだろうか。
・おばあさんは50銭玉と間違えているのだろうか。

○下宿先のおばが給料のほとんどを取ってしまうことに目を向ける生徒もいるが、多くは、中心の問題である釣銭のごまかしに注目する。主人公が思わず「うん。」と答えてしまうことの背景にある、貧しさや寒さをしっかり捉えさせる。

〇おばあさんにお金を返そうと思いながらもそれが果たせないでいるとき、「私」はどんな気持ちだったのだろう。 ペア
・おばあさんは私を励まして渡してくれたんだ。
・貧しいおばあさんにお金を返さないでいいのか。
・正直にお釣りが多かったことを言わなくてはと悩んでいる。

○思わず釣銭をごまかしたこと、「足袋が買える」という心に負けて謝りに行けなかったこと、おばあさんが自分を励ましてくれたと都合よく考えていたこと、謝れば許されると考えていたことに、「私」の心の弱さがあった。こうした人間の弱さ、醜さは誰にでもあることを自覚させる。

★「私」を、泣けて泣けてどうしようもなくさせたのは何だろう。
個人小集団
・謝る機会を失ってしまった後悔の気持ち。
・犯してしまった罪をどう償っていいのかわからない絶望感。
・いつか謝れば許してもらえると思っていた自分に対する情けなさ。

○「私」が橋の上で自分の弱さと向き合って乗り越えようとしたことをおさえ、「乗り越えていく」ことの意義や意味を考えさせる。
○「『私』は何を後悔したのだろう。」と補助発問をしてもよい。

3 「私」の考えを自分の生き方に生かす

〇過ちや失敗に気づいたとき、どう行動することが必要なのだろう。
ペア全体
・弱さから自分を奮い立たせ、強く生きようとすること。
・過ちや失敗を次につなげ、これからどう生きるかを前向きに考えること。

○おばあさんの死は絶対で、二度と許しを請うことはできなくなった。仕方なかったと考えずに、「おばあさんがくれた心を誰かに差し上げなければ」という「私」の心に深く共感させる。




5

4 学習を振り返る

〇自分の経験を踏まえて、感想を書こう。 個人

4.板書例

5.まとめ

 自分の授業を誰かに見られる、見てもらえる機会を大事にしなければならないと感じました。今回、自分の授業映像を見て、多くの発見がありました。指導案だけでなく、自分の話し方、教室内での立ち位置、生徒との距離、間の取り方など、授業そのものを俯瞰することがとても大切です。多くのことを伝えたいと思っている授業者には「生徒を信じて、黙って待つ」ことが難しく、だからこそそれができるように努めなければならないと反省しています。
 そして、どんな授業も日々の生徒との関わりとつながっているということも再認識できました。生徒と関わってきた時間だけが重要なのではなく、どれだけ本気で向き合っているのか、その思いの深さが生徒たちに安心感を与え、自己開示できる空間づくりにつながります。
 熟考された指導案と、そこに授業者と生徒との思いが重なって、生徒の記憶に残る素敵な道徳授業が成立するのだと思いました。

場面絵の活用で、目標に向けた強い意志について考える道徳授業(第2学年)

1 はじめに

 文部科学省が、全国の小中学校を対象に「私たちの道徳」の活用状況を調査した結果によると(H26年)、各都道府県教育委員会より寄せられた意見には、「イラストや写真等も発達段階を意識してあり、生徒が自然とページをめくっていく配慮ある」「名言・格言などの充実により、授業の構想に一定の方向性が見出せる」との学校現場からの声が記載されている。そこで、この調査の結果から道徳の授業でコラムや場面絵を活用した授業実践を行なった。

2 授業展開について

 長い読み物教材は話の構成が複雑であり、内容整理だけでも時間がかかる場合がある。事実に基づいたグラフ、生徒の多くが知っている漫画の場面絵やコラムの活用等は、短い時間で生徒への道徳的諸価値に関わる問題提起をすることができると考えた。

導入でグラフを活用する。
 『私たちの道徳』p.19のグラフで人間の目標について考えさせる。
展開で場面絵を活用する。
 『私たちの道徳』p.18宇宙兄弟「内なる敵」左側の吹き出しを空欄にしたものを黒板に掲示し、目標を達成させるためには何が自分の阻害要因になっているかを考えさせる。ペアトークを行い、それぞれの「敵」について考える。
グループトークをさせる。
 中心場面で「理想通りにいかない現実もある」を音読し、自ら決めた目標を達成させるために大切なことは何かをグループトークで深めていく。

3 実践事例

(1)主題名
目標の実現(内容項目:A-(4) 希望と勇気、克己と強い意志)

(2)教材名
「目標を目指しやり抜く強い意志を」(『私たちの道徳 中学校』文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/doutoku/detail/1344255.htm

(3)本時のねらい
 場面絵やグラフを使い、それぞれの目標実現のためには、さまざまな困難があることを共感させ、目標や理想を達成させようとする強い意志を育てる。

(4)展開例

学習活動(◎中心発問、○主な発問、・予想される生徒の反応)

◇指導上の留意点 ◆発問の意図


1 p.19「人生の目標について」のグラフを提示する。

○「これからどんな目標をもって生きたいか」の質問に対してどの国も「お金持ちになる」や、「高い社会的地位につく」ことが低いのはなぜだろう。
・幸せはお金や地位ではない。
・どんなに地位やお金があっても幸せになるとは限らない。
・地位があってもやりたいことができるわけではない。

◆幅広い視点からの生徒の意見を聞き、受け取り方は人それぞれであることを押さえる。


2 p.18「理想通りにいかない現実もある」「内なる敵」を音読する。
○理想通りにいかない現実が起きたとき、吹き出しにはどんな言葉が入るのだろう。(ペアトーク)

・だいたい俺です。 ・自分の甘え
・時間 ・兄弟 ・友人 ・自分自身

◇「内なる敵」の最後の2行「自分の夢を……」は読まない。
◇数名の生徒を指名し、吹き出しに言葉を入れて、その意図をそれぞれ聞く。

◎自ら決めた目標を達成させたいときに大切にしなければならないことはどんなことだろう(グループトーク)
・誘惑に負けない自分。
・達成できたときの自分を思い描く。

◇グループトークは4人1組で話し合いを行い、発表させて全体で共有していく。
◇目標を達成するためには強い意志が大切であることに気がついたか。

3 p.16を読んで考える。
○「壁の向こうに向かって帽子を投げる」とはどのようなことなのだろう。(グループトーク)

・目標に向かって進むしかない。
・意欲をもって進もう。
・希望を持とうとする意志のあらわれ。
・既成事実を作って迷いを断ち切る行為。
○帽子を投げる行為にはどのような意味があるだろう。その先で見たいものは何だろう。(補助発問)
・壁の向こうには生まれ変わった自分がいるから、その自分に会うためにあえて投げる。
・帽子は自分の気持ちではないだろうか。

◆壁の向こうに帽子を投げる行為は、強く意志を持つことにつながることを押さえる。


4 本時の感想をワークシートへ記入し、気づいたことや学んだことについて、挙手または指名で発表をする。

◆互いの発表に共感し考える。

4 板書例

5 まとめ

 宇宙兄弟は多くの生徒がその内容を知っており、生徒にとって身近なものとして考えることができた。また、問題なく学校生活を送っているとみられていた生徒でも「『欲』が邪魔をしている。」と発言をしたことから、誰にでも目標を達成させるためにはその人なりの課題があることを認識させることができた。
 「自分を信じて進む。」「物事から逃げずに取り組む。」また、「そのような環境を与えられていることにも感謝する。」などの発言を生徒たちから引き出すことができた。生徒の感想からは「みんなも内なる敵とたたかっていることがわかった。壁を乗り越え、目標を達成することに逃げずに取り組んでいきたい」など具体的に自分の置かれている状況に照らし合わせ考え、どのように行動していくかを考える授業となった。

※この実践事例は、『どうとくのひろば19号』(2018.01.31)に掲載されていたものです。

「全生徒の意見を授業に絡めるための手立て」~生徒の意志表示を明確化する工夫~(第2学年)

1 はじめに

 2019年度より教科化された特別の教科道徳。新学習指導要領の改訂後、教育現場では多様で効果的な道徳教育の指導方法を目指した改善が求められ、生徒たちが個々の良さを伸ばしながら成長を促すことができる授業の実践を行ってきている。教育基本法に定められた教育の根本精神に基づき、「主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養う」ことを目的とした授業展開、1単位時間の授業の中での即時的な評価は、心身の成長の著しい中学生にとって大変意義深いものである。
 しかし、中学1年から3年間で習熟する生徒の能力は、当然個々によって程度は異なり、道徳的価値の理解についても例外ではない。また、各学級において、様々な特性をもつ生徒が多数在籍することを考えると、指導方法や発問、生徒への声掛けも一様に凝り固まったものであると、生徒の授業参画の意識や自我関与の気持ちが薄れ理解は進まないことが考えられる。
 本実践は、自分の意志を明確に示すことで授業へ参加すること、そこを入口にして、道徳的価値の理解を深められるような授業展開を工夫した一例・提案である。多面的・多角的な視点から考えるためにも、生徒は他者の意見から学ぶことが必要であり、学級全員が意欲的に学ぶことができるよう配慮することが望ましい。

2 本実践の重点項目

 道徳科の授業における自ら学び深める学習姿勢は、中学生として望ましい姿であり、道徳的価値の理解を進めるには何より重要な要素であると考える。道徳科の授業に限ったことではないが、それが授業の終末に顕著に表れる教科である。よって、以下に示す①~③に重点を置き、授業展開を考える。

 自分の意志を的確に伝えることができる語彙力の向上(思いを言葉で伝える場面設定)

 簡易的・瞬発的に意志表示できるツールの工夫(ICTを含めた様々なツールの活用)

 他者に認められる、受け入れられる学習環境の整備(少人数での話合い活動)

 また、②・③に関連して、(1)誠実さについての事前アンケート、(2)簡易意志表示カード、(3)少人数での話合い活動を授業展開の中で取り入れ、自分から主体的に内容にかかわるための手立てや工夫を行うこととする。

アンケート結果

簡易意志表示カード(○・△・×)話合い活動時に各々の付箋を貼る用紙

3 教材について

 将棋や囲碁は、対局者の一方が自分の負けを宣言することで終局となり、対局者双方の自主性・自律性が不可欠なゲームである。この教材は、ネット将棋で負けを認められず、不誠実な行動をしてしまう主人公「僕」が、友人の言葉を聞いて、誠実に自らの行動に責任をもって行動するとはどういうことかを考え始めるという教材である。登場人物の言動をとおして、誠実の意味を考えさせたい。

4 実践例

(1)教材名
「ネット将棋」(中学道徳 あすを生きる2 日本文教出版)

(2)主題名
誠実で責任ある言動【内容項目A-(1)自主、自律、自由と責任】

(3)本時のねらい
 誠実に行動することの大切さを理解し、自主的に行動して、その結果に責任をもとうとする態度を育む。

(4)展開例

学習活動(○主な発問 ・予想される生徒の反応)

◇指導上の留意点 ☆評価


1 自分や他者の誠実さについての考えを知る。

2 本時の課題を提示する。
[誠実で責任のある行動をするために]

◇誠実さに関するアンケートを実施し、PowerPointでグラフ化したものを提示する。


3 教材を通読する。

4 “僕”の気持ちから考える。

教材に関する発問

◇様々な特性の生徒がいることを考慮し、読みの速度に配慮する。

○「技量が上の相手には、やはり勝つことができず、おもしろくない。」という“僕”の気持ちに共感できるか。
【共感できる】
・ネットゲーム等で自分も経験した。
・勝つことが1番。
【共感できない】
・負けても何か成果はある。
・次に勝つ方法を考えることも面白い。

◇“簡易意志表示カード”を活用し、自分の意見を容易に示すことができるよう工夫し、深化を目指す。

○最後の場面で、「僕は笑えなかった。」のは、なぜだろう。
・自分が言い訳していることに気付いたから。
・「負けました」という言葉や挨拶の意味を考えたことがなかったから。
・自分のことを言っていると思ったから。

◇“僕”の心情を考えることで、次の課題に向かいやすいよう配慮する。

5 “僕”と敏和の違いから考える。

話合いにより深める発問(3~4人組の少人数)

○“僕”と“敏和”を比べたとき、2人の間にあるのはどのような気持ちや考えの違いだろう。
・素直に負けを認める気持ち
・対戦の内容全てから学ぼうとすること
・自分の行動に責任を持つ誠実さ
・自分に負けないことの大切さ

◇個人で意見を整理し、それに基づいて話合い活動をさせる。もし、机間指導中に話合いが滞っている班があれば、助言や切り返しの問いを投げかける。
◇話合い後、他者の意見から気付いたこと等を基に、もう一度自分の考えを振り返る。

6 “僕”の心情の変化を推し図り、そこで学んだことから考える。

自己内省させる発問

○よりよく生きるためには、どう“誠実”に生きていけばいいだろう。
(“僕”や“敏和”をはじめとする登場人物の言動から考える。)
・自分自身の気持ちに正直に生きること。
・状況に応じて、相手に誠意を示すこと。
・勝ちも負けも酸いも甘いも受け入れ、その時々の自分ときちんと向き合うこと。
・誠意をもって人と接し、責任を自覚した行動をすること。

◇実際に「○○をする」という行動の面での考えでも良いということを伝え、その意図が分かるよう理由も書かせる。
◇学校生活や社会の中では、自分は集団の中の個(1人)であるということも意識させたい。
☆課題解決のために、今までの自分を振り返って考えることで、今後の生活において自分の言葉や行為に責任をもち、誠実な行動をしようという気持ちをもつことができたか。


7 本時の振り返り(感想)と自己評価をする。

◇なるべくまとまった時間をとり、本時の学びを個人の中でじっくりとまとめさせる。
☆多様な価値観に触れることを通して、ものの見方や考え方を広げ深めることができたか。

(5)板書例

6 まとめ

 日頃の授業実践から、様々な生徒の特性に応じて、授業のスタイルや展開に多様性の必要性を感じている。教科化の背景にあるいじめ問題についても考えなければいけないことを考慮すると、やはり、世の中の大半の物事を自分事として捉え、他者と協働しながらよりよい選択をすることが望ましいと考える。そのためには、義務教育最後の3年間を主体的に道徳科の授業に取り組むことで得られるものを糧として、日常生活から学ぶ広い視点を養うこともまた重要である。本実践が、そのための一助となれば幸いである。

多様な考え方を生かすためのグループ活動(「ふせん」を使った話し合い活動)の実践(第2学年)

1 はじめに

 新学習指導要領では,「多様な感じ方や考えに接する」中で,考えを深め,「判断」し,表現する力などを育むことができるよう「言語活動の充実」が求められています。その際,様々な価値観について「多面的・多角的な視点」から「振り返って考える機会」を設けるとともに,「多様な見方や考え方」に接しながら更に「新しい見方や考え方を生み出していくことができる」ように,言葉を生かした教育の充実が図られなければなりません。

2 言語活動の充実

 道徳科の授業では,教材の内容や登場人物の言動などについての授業者の問いに,生徒は自分の体験や経験を振り返りながら自分だったらどうだろうと考えます。そしてそのことを通して,道徳的価値の理解を基に人間としての生き方についての自覚を深めていきます。主人公が置かれている状況を把握するなどの基本発問,道徳的価値に関する本時のねらいに迫るための主発問,生徒の考えを深めるための切り返し・問い返しなどの補助発問を意図的に組み合わせることで,生徒の道徳的思考を深めていきます。
 生徒の道徳的思考を深めるため,教材提示の方法,構造的な板書,デジタル機器の活用などの工夫をしてきました。特に道徳的価値に係る主発問については,役割演技を用いたり,ネームプレートや心情円盤・心情メーターなどの意思表現ツールや様々な思考ツールを用いたり,生徒の実態に応じて,ペア・グループ・学級全体で表現する活動を意図的・計画的に取り入れてきました。そして,自分と同じまたは異なる他の生徒の考えに触れ,自分の考えと比較し,多面的・多角的な視点から自分の考えを深め,考えを練り上げていくことを通して自分の生き方についての考えが深められるよう指導方法の工夫をしてきました。
 自分の考えや思いを明確にさせるために,ワークシートや道徳ノートなどへ書く活動を取り入れてきました。自分自身の感じ方や考え方を言語化することにより,自ら考えたり見直したりしていることを明確にすることにつながります。自分の考えや思いをうまく表現できず,すぐには書けなくても,自分はどう考えるかと思い巡らすことが大切です。その後,他の生徒の考えに触れることで,再考し,自分の考えや思いがだんだんと明確になっていきます。

3 「ふせん」を使った話し合い活動

 グループでの話し合い活動を充実させるための手段として,「ふせん」を使った話し合い活動の実践を紹介します。「ふせん」は書くスペースが少なく,短文や語句を記入する活動に適しています。そのため,文章を書くことが苦手な生徒でも記入しやすくなります。さらに,「ふせん」に記入した短文や語句を基に話し合い活動を行わせることでメモを見ながら文章で説明できる力を育成することにもつながります。
 話し合い活動は【話し合いの進め方】に従って進めていきます。

【話し合いの進め方】
 マグネットを用い,今,自分は①~④のどの活動をすべきか視覚支援によって明確にさせます。そして,生徒の話し合いのようすを観察しながら,時間配分と活動を指示します。日頃からタイマーを活用するなど時間管理の習慣化を図っておきます。そうすることで,合図とともに活動を始め,タイマーの音で次の活動へ移るという思考の切り替えが可能になります。このとき,③④に時間をとり,話し合いをしっかりと深めさせます。

4 実践例

(1)教材名
『「自分」ってなんだろう』(中学道徳 あすを生きる2 日本文教出版)

(2)ねらい
人それぞれよさがあり,その発見と自己受容・自己理解に努め,自分らしさを発揮しようとする実践意欲と態度を育てる。【内容項目A-(3)向上心,個性の伸長】

(3)学習指導過程

学習活動(主な発問と予想される生徒の心の動き)
主な発問(○) 中心発問(◎) 予想される生徒の反応(・)

指導上の留意点



5

1 事前アンケートを発表する。
○事前アンケート「あなたは,何があれば(もっていれば)自信をもって人生を過ごせますか?」
※アンケート結果をプロジェクターで提示する。

・自分の外にあるものが多いことに気付かせる。




10

2 『「自分」ってなんだろう』を提示する。
『「自分」ってなんだろう』を読む。
○発問①「『自分の中に自信があった』と思えるようになったのは,どんなことに気付いたからだろう?」
・自分が,他者と比べて劣っているところばかり見ようとしていたことに気付いた。
・他者に認められなくても幸せなことはあるということに気付いた。

・「自信は得るもの?」を中心教材として扱う。




20

3 自分が「宝石になる」ために大切にしたいことを考える。
◎発問②「自分が『宝石になる努力(磨くこと)』をするために大切にしたいことは何だろう?」
※【話し合いの進め方】を参考に自分の意見を出し合い,話し合いを深める。

・まず,自分の考えを道徳ノートに書かせる。
・自分の考えを「ふせん」に書き,「話し合いの進め方」に従ってグループで話し合わせる。
・話し合いで参考になったことを道徳ノートに書かせる。

【話し合いの進め方】
ふせんを使って話し合いを深めよう。
①自分の考えをふせんに書く。
②友達の考えは否定せず,ふせんを画用紙に貼りながら,お互い自由に発表する。
③質問したり,友達の考えに自分の考えをつけ足したりして,話し合いを深める。
④みんなの考えをグループ分けして,整理してみる。




10

○発問③「自分のよさを知ることで、これからの自分がどう変わっていきそうか、考えてみよう。」
・これから自分のよさを見つけていきたい。
・自分のよさを伸ばす努力をしていきたい。

・道徳ノートに書かせる。
・自分自身のよいところをどのように伸ばし,将来につなげていけるよう助言する。



5

4 教師の説話を聞く。

(4)板書計画

5 まとめ

 「ふせん」を使った話し合い活動は,あくまでも手段であり,活動自体が目的にならないようにしなければなりません。そのためにも,ねらいや生徒の実態、教材や学習過程に応じて発問を工夫する必要があります。また,話し合い活動の具体的な目的を理解させておくことが大切です。
 授業での生徒は,視覚的に「ふせん」を動かす活動をすることで,話し合い活動が活発になり,自分の考えや思いを伝えることだけでなく,他の生徒の考えを聞き,伝え合うようすが見られました。

他者の価値観から学び、自分の考えを深めるための指導過程 ~教材「最後のパートナー」の実践~(第2学年)

1 はじめに

 本実践では、他者との対話を授業の中心に取り入れた、「考え、議論する道徳」を実現するための、指導過程の工夫について、考察、検証しました。

(1)教材の背景を生徒にイメージさせる導入
 そもそも、生徒が教材に対して考えが深められるかどうかは、これまでの生活経験の差が大きいと考えられます。生徒が教材に共感し、考えを深めることが、より活発な話合いにつながるはずです。そのために、導入の大切さを再度見直し、導入部分で教材に対する知識やイメージを補足する時間をとって、生徒がより深く教材に入ることができる工夫が必要であると考えました。

(2)教材を焦点化する基本発問
 中学校で扱う教材は、長く複雑であるものも多いと感じます。登場人物の心情を順に追っていくのではなく、これからは学級全体で話し合わせることを目的とし、「課題を焦点化する」ことを基本発問の目的の一つとして位置づけることが必要であると考えます。

(3)話合いを深めるための発問
 答えが一通りに定まってしまうような発問では、話合いは活性化しません。生徒に様々な価値観から物事を多面的、多角的に考えさせるために、まず、生徒それぞれの価値観によって多様な考え、意見が期待できるような発問を設定します。

(4)自分の考えを深める発問
 話合いで、他者の価値観を学んだ後は、それを活かして、更に自分自身の価値観を見つめ直す発問を行い、生徒がこれまでの話合い活動を元に、自身を振り返り、個人で考えさせる時間を設定することが大切だと考えます。

2 実践報告

1 主題名 命をいつくしむ  D-(19)生命の尊さ

2 教材名 「最後のパートナー」(中学校道徳副読本「新 あすを生きる 2」日本文教出版)

3 ねらい

(1)ねらいとする道徳的価値について
 生命はかけがえのない大切なものである。生命を尊ぶことは、かけがえのない生命をいとおしみ、自らもまた、多くの生命によって生かされていることにこたえようとする心の表れと言える。私たちは多くの生命と関係を築き、その関係性の中で生きている。生命は自分のみならず周りのあらゆる生き物がもっている。その生命を大切にし、いつくしむには、ただ生きていればよいということではなく、自身はもちろん、あらゆる生命の尊厳、尊さを深く考えることが大切である。
 人間の生命のみならず、身近な動植物をはじめ、生きとし生けるもの生命の尊さに気付かせ、生命あるものは、互いに支え合って生き、生かされており、そのことに感謝の念を抱き、自分や、その周りのあらゆる生命をいつくしむ心を育てたい。

(2)生徒の実態について
 中学校の時期は、生命がかけがえのないものだということは理解できていても、健康に毎日を過ごせる場合が多いため、自己の生命に対する有り難みを十分感じていない生徒も多い。また、生命のかけがえのなさに心を動かされるような経験も少なく、生徒自身が生命の尊さを深く考える機会があまりない。
 そこで、中学校1年生の段階では、「生命の誕生」を見守る家族の姿から、生命の神秘性、関係性、一回性といった視点から考えを広げ、自身や周囲の生命を大切にして生きるにはどうすればよいかを考えた。それを踏まえて、中学校2年生では、身近な動物を「みとる」ボランティアの姿から、生命の尊厳や、生命あるものの支え合い、自己の生命の尊さに気付かせ、生命をいつくしむということについて、考えを深めさせる。

(3)教材について
 引退した盲導犬を引き取るボランティアを始めた筆者であるが、死による犬との早すぎる別れを経験するうちに、悲しみに耐えきれずボランティアを続ける意欲を失ってしまう。そんなとき、ボランティアが多くの人に役立っていることを知り意欲を取り戻す。本教材は、いつか迎える死は悲しいが、それ以上に懸命に生きる命は、多くの人との出会いを作り、そこに喜びを生むかけがえのないものであることに気付いた筆者の生き方を通して、生命の尊さについて深く考えることができる。

3 本時の学習

(1)ねらい
 生命はかけがえのない大切なものであることを理解し、自他の生命を尊重する心情を養う。

(2)指導過程

学習活動 主な発問(○)
・予想される生徒の反応

指導上の留意点(◇)



5

1 引退後の盲導犬の動画を見て、犬の「老い」と、家族の関わりについてイメージを膨らませる。

○「盲導犬が、どんな一生を送るか、知っていますか。」

◇まずは、「引退した盲導犬」のその後を紹介した動画の前半部分を視聴させる。
◇動物を飼ったことのない生徒、また、動物が老いていく様子を目の当たりにしたことがない生徒も多い。動物と暮らす、ということは楽しいことだけではない。筆者の気持ちにより深く考えさせるために、生き物の最後に寄り添うことについて、具体的にイメージさせる。



40

2 「最後のパートナー」を読み、次のことについて語り合う。

◇教師が範読する。

○「『もう、引退犬にはかかわりたくない。』と筆者が言うのは、どんな気持ちからなのでしょうか。」
・犬たちを愛していたからこそ、別れが辛かった。
・次の引退犬と出会っても、また短い時間で別れが来てしまう。それには耐えられないと感じたから。

◇引退犬との別れは、筆者にとってどういうものであったのか。筆者の気持ちを想像させる。

○「筆者が『これからも続けよう』と決心したのは、どんな思いからか。」
≪話合いの進め方≫
①自分一人で考え、付せん紙に書く。
②4人組で共有し、付せん紙を分類させる。
③分類の際、互いの意見について質問をし合い、それぞれの意見を深める。
④出された意見を学級全体で共有する。

・引退犬が幸せな余生を送ることは、その犬にこれまで関わった人にも希望を与えられる。
・引退犬と出会うことで、彼らを通じて多くの人とつながることができたことに気づいた。
・犬と一緒にいられることが自分にとっても幸せだと思った。

◇発問1のような葛藤があったにもかかわらず、筆者が引退犬ボランティアを続けることを決心したのはなぜか。考えさせる。
◇松尾さんからの手紙をもう一度読んで、その手紙からこれまでの経験が思い起こされ、筆者の胸には様々な思いがあったことを想像させてから、発問する。
◇多様な視点から、複数の意見を出すよう働きかける。
◇4人組の活動の後、どんな意見が出されたか、それぞれの意見を問い返し、深めながら学級全体で共有する。

○「筆者は死んでしまう犬に、最後にどんなことばをかけるでしょうか。考えてみましょう。」
・今まで一緒にいられて幸せだった。ありがとう。
・あなたのおかげで多くの人が助かったよ。これまでよく頑張ったね。
・あなたがいて、私も、ほかの人たちも、みんな幸せだったよ。

◇本文にあった「みとりの親」という言葉から、「みとる」瞬間に筆者はどんな思いを抱き、何を伝えるのか、想像させる。
◇「みとりの親」である筆者が、どのように彼らを送るのかを考えることで、筆者自身が彼らと暮らすことで感じていた幸せや、彼らにとって安らかで幸せな最後を願う多くの人の気持ちについて考えを深めさせる。

3 実際の「みとり」の場面の動画を見て、家族の思いから、自分の考えを振り返る。

◇動画の後半を視聴し、実際に引退犬ボランティアの方が、犬をみとる姿を見て、自分の考えを振り返り、深める。



5

4 「今日の授業で、生命について感じたこと、考えたことを自由に書いてください。」

◇教師自身の経験を話す。
◇命の大切さ、他者の生命尊重について考えたことを記入させる。

(3)板書計画

「体験活動」との関連に重点をおいた指導方法(第2学年)

 新学習指導要領では、カリキュラムマネジメントが求められるため、学校の教育活動全体で行う道徳教育での「豊かな体験」と道徳科での指導を関連づけることがますます重要になる。生徒は、「豊かな体験」を通して気付く様々な道徳的価値から深く考えることができ、その結果、道徳性としてより確かに定着する。道徳科の授業では、職場体験活動やボランティア活動、自然体験活動などの体験活動を生かし、心に響く多様な指導の工夫に努めることが大切であると考える。
 このことから、道徳科の授業と「職場体験学習」の体験活動を関連づけた実践事例を紹介する。

1 体験活動を重視した道徳科の授業

 「体験活動」と「道徳科」を以下のように考える。

 なぜ、「体験活動」が強調されているのか。体験がより豊かになれば、生徒の「感じる心」がより豊かになる。その結果、道徳科の授業がさらに充実することにつながるからである。しかし、単に体験を積ませればよいものではない。体験だけでは道徳性は育たない。あくまでも体験は体験であり、豊かな心を育てるのが道徳科の授業である。また、道徳科の授業で道徳性・豊かな心をみがくことによって、体験活動も充実し、有意義な「体験活動」へと発展する。

2 職場体験学習(総合的な学習の時間)と道徳科の授業

 道徳科の授業に職場体験学習の体験を取り上げることで、生徒たちに自らが行った職場体験学習の追体験をさせることができる。そのことによって、生徒たちは自己の気持ちを具体的に振り返ることができ、さらに他の生徒の発言を聞くことによって、考え方や感じ方にふくらみや広がりができる。
 職場体験学習における達成感が内面に根ざした道徳性をよび起こし、さらに職場体験学習が自らの生き方に直接かかわることを実感することで、生徒自身の内面から道徳性が生じてくることが期待できるのである。
 本校のある区では職場体験学習は総合的な学習の時間に実施している。そこで、本授業は「体験活動」のみではなく総合的な学習の時間との関連も考慮して行った。
 「総合的な学習の時間」においては実践的なことがらが中心となるが、それだけでは有意義な「体験活動」にはならない。道徳科の授業で生まれる生徒自身の内面に根ざした「道徳性」が結びついてはじめて有意義な「体験活動」に発展する。総合的な学習から生まれた「自己の生き方の探求」と道徳科の授業で育成された「道徳性」、これらが相互に密接に関連してはじめて有意義な「体験活動」になると考える。これによって、生徒たちの道徳的行為を行うための意欲や態度が育成されるだろう。生徒が社会的に望ましい行動をとることができ、鋳型にはめられるのではなく、自ら道徳性を形成し、希望をもって生きることができるようになると考える。

3 実践指導例

(1)教材名
「挨拶はことばのスキンシップ」(中学校道徳副読本「新 あすを生きる 2年」日本文教出版)

(2)ねらい
礼儀の意義を理解し、時と場に応じた適切な言動をとることができる。
内容項目 B-(7) 礼儀

(3)授業展開

学習活動

指導上の留意点


1 職業体験学習の写真を見て、職場体験学習を思い出す。
・おじいさんにお礼を言われてうれしかった。
・園児がかわいかった。将来働くことをイメージしやすくなった。
・言葉遣いが大切なことがわかった。

○ただ単に思い出すのでなく、ねらい「礼儀の意義」「時と場に応じた適切な言動」に沿った学習活動になるようにする。


2 教材を、自分の職場体験学習を思い出しながら読み、考える。

○心を込め、静かに範読する。

①どうして、「わたし」は職場体験学習に積極的になれなかったのか。
・面倒だから。
・体験先の人は怖いかなど、不安に思った。

○小グループに分け、個々にワークシートに記載させ、記載内容をそれぞれに発言させる。

②お客さんに「ありがとう」と言われて、じわっとうれしさがこみあげてきた「わたし」は、どんなことを感じたか。
・私だってうれしいと思った。疲れがとんだ。
・お客さんのときには、言うようになった。

○考察した内容を相互に言い合う。時間があれば、店長・生徒に分かれた役割演技を行う。発言のルールに則り、互いの考察内容を尊重する雰囲気をより高める。

③店長さんが、職業人として2人に伝えたかったのはどんな思いか。自分の体験を振り返りながら考えてみよう。
・客商売は感謝の気持ちがお客さんを呼ぶ。
・心のこもったあいさつは、相手の気持ちをよくするし、自分の気持ちもよくなる。
・言葉だけでなく、笑顔などの態度も考え、実行すると、さらに相手との関係がよくなり、自分も嬉しくなる。

○自らの体験を踏まえて発言するように促す。
○自分の職場体験学習や、学校・日常の生活と結びつけて考察させる。


3 自分の職場体験学習を振り返って、本時の感想を書く。

○自分の職場体験学習と結びつけて考えたことを評価に生かし、本時の学習活動を生かし、自己の今後の生き方につなげ、まとめる。

(4)道徳科の授業と職場体験学習の関連づけ

①職場体験学習を道徳科で効果的に扱うために、職場体験学習の事前・事後に以下の指導を行った。
ア.人とのつながり(礼儀、責任、協働など)を人間社会という観点から、働くことや生きることを考えさせる。「人間関係形成・社会形成能力」「道徳的心情」
イ.人との関わりから自分のよさを知ることにより、さらに自分を伸ばすことにつなげさせる。「自己理解・自己管理能力」「道徳的判断力」
ウ.体験活動の取り組みを通して、将来に向けて考え、行動できることを感じさせる。「キャリアプランニング能力」「道徳的実践意欲と態度」

②道徳教育の要として道徳科の授業で職場体感学習と関連づけて指導を行った。
 職場体験学習で重点的に指導した上記の「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「キャリアプランニング能力」と「道徳的心情」「道徳的判断力」「道徳的実践意欲と態度」の相互の関連を考え道徳科の授業を実施する中で、より一層、生徒の道徳性を豊かにすることができる。その際に、道徳的価値(内容項目:礼儀)を明確にし、指導方法の工夫を行うことにより、さらに道徳性の育成につながる。本授業では、発問に「主人公の気持ち」を問うだけでなく「職場体験学習を踏まえて」を加えて問うなどの工夫をした。また、別葉などの年間指導計画にも位置付けた。

4 まとめ

 職場体験学習の様子を道徳科の授業の展開に意図的に盛り込んだ。結果、自分たちの体験活動と関連づけて具体的に考え、生徒相互の対話が活発になり、自己の見方や考え方が深まった。感想文などからは自分自身の成長を実感する記載が多く見られ、評価することができた。また、導入・終末段階で職場体験学習の様子の写真を映し出すことは効果的であった。
 意図的に体験活動と関連させて道徳科の授業を実施することによって、生徒の活動に変化が表れ、道徳的実践意欲と態度が育成されたと考える。道徳科では、体験活動を効果的に生かすことにより道徳的価値の自覚を深めさせることができると考える。また、教材を活用する際に、生徒の体験活動を盛り込むなどの工夫をすることにより、自分自身の体験と重ねながら考え、さらに道徳性が高まるであろう。
 授業の中でも生徒は、自分自身の成長を実感していた様子が見られた。さらに日常の生活の中で、積極的に挨拶をするのもちろんだが、笑顔などの表情を見せ、相手に正対し、適切な言葉がけをするなど、挨拶の仕方に変化も見られるようになった。