《札幌発信シリーズ》 表現(2)立体に表す・鑑賞(1) きもちをかたちに

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

図画工作・札幌発信シリーズ<5>

指  導  計  画

題材名

きもちをかたちに ~粘土で自分の気持ちを表そう!~

学年

総時数

準備

☆鑑賞
・本校や札幌市内にある、抽象的な彫刻作品の写真

☆作品づくり
・油粘土
・ブロンズ粘土
・ねんどべら
・メッキスプレー
・さびカラー
・黒色発泡スチロール

学習目標

 自分の表したい「きもちのかたち」をブロンズ粘土を用いてつくることができる。
 粘土の手ごたえや質感に親しみ、つくりだす喜びを感じたりつくる行為を楽しんだりする。

主な学習内容

  • 札幌市にある、抽象的な形の彫刻作品の鑑賞を行う。
  • 粘土の質感、技法などを確かめるために油粘土で遊ぶ。
  • 鑑賞で感じたことを大切にしながら、ブロンズ粘土で、抽象的な作品作りを行う。

主な評価の観点

  • 自分の表したい「きもちのかたち」を見つけ、感じたことを活かしてつくることを楽しもうとする。(造形への関心・意欲・態度)
  • 自分のイメージや材料とのかかわりから、表したい形を考えている。(発想や構想の能力)
  • 粘土の特性を生かしながら、自分の表現に必要な技能を適切に使い、表している。(創造的な技能)
  • 抽象彫刻や友達の作品から、その形の表わしていることを想像したり、美しさや面白さを感じたりしている。(鑑賞の能力)

1.<感じたままに~抽象彫刻の鑑賞~>

z_vol12_01 『本校の玄関前には「大いなる希望」と題された抽象彫刻がある。
 子ども達にとってなじみの深い、この彫刻を取り上げることで、「難しそう」「よくわからない」という既成概念を持たせず、抽象表現に親しむことができると考えた。その他、鑑賞で用いた5つの作品は、全て札幌市内で見ることができる作品である。子ども達が何気なく道を歩いていて、美術作品に出会った時に「あ」と目を留め感性の素地を養いたいと考え、子ども達にとってなるべく身近に感じられる作品を選んだ。それらの作品の画像を、大画面テレビに映し「どんな感じがする?」と問いかけた。

z_vol12_02 z_vol12_03 z_vol12_04

 最初は「○○の形に見える」と見立てを行っている子が多かったが、ある子の「喜んでいる感じに見える。」という発言をきっかけに、鑑賞は深まり、彫刻作品から受ける感じを話す子どもが増えていった。作品を見て感じたことを互いに伝え「わかる!」と共感しあったり「私は逆に…」と自分とは違う感じ方に触れたりしながら、子ども達は、抽象のイメージをつかんでいった。鑑賞の授業後、ある子どもの振り返りには『今日見た作品は全部、はっきりした形ではないけれど、色々な見方ができて、つくった人には表したいことがあるということがわかった』と書かれていた。抽象的な表現を子ども達なりの言葉で理解していった。

2.<きもちをかたちに ~自分の気持ちを表そう~>

①油粘土でおためしタイム
 まず「おためしタイム」と称して、油粘土で色々なことを試してみた。この「おためしタイム」には3つのねらいがある。

  1. 自分のつくる作品のイメージを膨らませる。
  2. 指先でひねり出したり、丸めたり、手のひらで伸ばしたりしながら粘土の感触や技法を確かめる。
  3. 用具の使い方を確かめる。
z_vol12_05 z_vol12_06

 鑑賞の学習の印象が強く残っていたため、子ども達の意識は、自然と抽象的な形に向いていった。気に入った形ができた子は「これ、とっておいてもいい?」とそれをエスキースとして作品づくりを行っていた。

②ブロンズ粘土ってどんな粘土?
 作品の製作には、ブロンズ粘土を用いた。子どもたちにとっては初めて出会う材料である。ブロンズ粘土は彫塑性に優れており、磨くことによって光沢が出る。その特徴を子ども達と確かめ、いよいよ作品づくりである。

③自分の気持ちを立体に表そう
 きもち、という言葉から「喜び」や「怒り」などの「感情」をテーマに選ぶ子、「夢をテーマに…」「仲の良い友達とのつながりを表したい」など、自分が表したいことのイメージを形にしようとする子、様々な方向に子ども達の発想と活動は広がっていった。
 子ども達は、指先や手のひら全体を使い、ブロンズ粘土の感触を楽しみながら作品づくりを進めていった。
 自分自身や友達と会話をしながら、子どもの手は止まることがなかった。そこには、自分の思いを表現しようと模索し続ける子どもたちの姿があった。作業が進むにつれ「芯を入れたい」「空中に浮かせたい」など、ブロンズ粘土以外の材料を必要とする子が増えてきた。

z_vol12_07 z_vol12_08 z_vol12_09

z_vol12_10

 次の時間には鑑賞コーナー(ミニ美術館)を設置した。作品をここに置き、照明を当て、「見て感じる」ことと「つくる」ことを繰り返していった。客観的な目で作品を見つめることで、作品の形がどんどん豊かなものになっていった。
 さらに次の時間には、実物投影機とプロジェクターを用意して、作品をスクリーンに映し出せるようにした。作品が映されると、子ども達の中から歓声があがり「本物みたい」「ひび割れをなくしたほうがいいね」など自然な関わりが生まれた。
 仕上げの方法は、作品をどんな風合いにしたいのかによって選択させた。屋外に置いてある彫刻のように仕上げたい時には、彫塑作品用の「さびカラー」(いぶし銀)を用いるように、つるりとした光沢を出したい時には、メッキスプレーを使用するように指導した。
 さびカラーを塗り、布で磨いたり、スプレーをしたりすることで、更に金属らしい光沢や重厚感が生まれた。

完成作品 ~子どもたちの作品カードから~

 自分の内面を抽象的な形で表すという難しいテーマに、子ども達は抵抗なく取り組むことができた。それは、最初に鑑賞を行ったことが大きかったように思う。抽象彫刻から感じることを互いに言葉で伝えあう活動を通して、子どもたちは抽象の面白さを感じ取り、それを自分の表現に生かすことができた。
 作品を展示すると、真剣でありながらも、あたたかな眼差しで互いの作品を見合っていた。自分の作品について語る子どもの顔は自信に満ちており、友達が「わかる!そんな感じがする!」と共感してくれたり「でも私は○○な感じがする」と別の感じ方を伝えてくれたりすると、ますます満足した様子だった。
 この実践を通して、子ども達は抽象表現という新たな表現方法を知り、自分の表現を見つけることができた。鑑賞活動と表現活動をつなぐ実践を今度も研究していきたい。

z_vol12_11

作品名 「つながり」
作品にこめた思い
大きくても小さくても、どんな形もつながりあえる「心」をテーマにしました。
感想
一度ひびがはいると大変なので「心も一緒だな」と思いました。

z_vol12_12

作品名 「そだっていく心と不安の花」
作品にこめた思い
下のブロックみたいなものは、人からの支えで「土」と同じ。根っこがからみついて木(心)をだいて守っているけど、ことばという刃はとうしてもふせげない。でも言葉は心を育てる水でもある。
感想
すごくたのしくて、げいじゅつがすごくわかったような気がする。

z_vol12_13

作品名 「心の波」
作品にこめた思い
波の部分は心の色々な波を表しています。トゲトゲしたものは「驚き」涙のような形は「悲しみ」丸は「悩み」です。
感想
最初は思ったような形ができなくて大変だったけど最後には納得のいく作品ができてよかったです。

【監修者 北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】

《札幌発信シリーズ》 表現(2)絵に表す 雪ぞうさんとあそぼう

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

図画工作・札幌発信シリーズ<4>

指  導  計  画

題材名

雪ぞうさんとあそぼう

学年

総時数

評価規準

  • 関心・意欲・態度
    雪像と自分とのお話をつくり、楽しく表そうとしている。
  • 発想・構想の能力
    雪像と自分とのお話に合った形や色を考えている。
  • 想像的な技能
    絵の具やクレヨンを用いて雪像と自分を、表したい思いに合った工夫している。
  • 鑑賞の能力
    自分や友達の作品の形や色をもとによさを感じながら、楽しく見ている。

材料用具

絵の具、クレヨン、色画用紙

子どものイメージを広げる「さっぽろ雪まつり」

 『さっぽろ雪まつり』は62回を数え、世界中から観光客を集めるイベントとなっている。札幌の中心部を東西に延びる大通公園など数か所で開催され、大雪像の迫力と完成度の高さは見る人の心を打つ。それは、大人でも子どもでも同じである。特に子どもにとっては、空から舞い降りる柔らかい雪が雪像に姿を変えた、その圧倒的な存在感に心を奪われる。
 伏見小学校の2年生は生活科の『さっぽろ雪まつり』を探検する学習がある。子どもは雪像を見ると、「すごく大きい」「かっこいい」「きれい」といった感動体験をする。その感動体験と自由にイメージを広げることができる低学年の発達特性を生かし、雪像と自分を描く題材を設定する。
 5時間の題材とし、はじめの1・2時間目はイメージを膨らませ、願いをもち、自分の表現に浸る。3・4時間目は願いの質を高め、表現を広げる。5時間目は全体で鑑賞活動を行う。

雪像との距離を縮める全体交流

 生活科の『雪まつりたんけん』では、探検に出かけることを目標としているため、雪像との心の距離は遠く、ただ眺めている関係にある。雪像と子どもの心の距離を縮めるために、全体での交流を設ける。
「どんな雪像があったかな」と問いかける。子どもからは、
「お寺があったよ」
「おおきな恐竜もいたね」
「大きなジャンプ台もあった」と返ってくる。
 ここで、雪像と子どもたちの距離を近付けていく。
「みんなは、ジャンプ台で滑ってみたい?」と聞くと
「え~。こわいな」
「スキーが苦手だからなあ」
「でも楽しいかも。滑ってみたい」などと、子どもは雪像と自分の距離を近付け始める。
「ジャンプ台のほかにも、お寺があったよね」
「あった。お寺の中はどうなっているのかな」
「雪のお寺の中に入ってみたい」
「じゃあ、ぼくは恐竜にのってみたいよ」と、教師や友達との対話を通して、自分のお気に入りの雪像とのイメージを広げ、距離を縮めていく。

z_vol11_01

イメージに合った色画用紙

絵具での描画

絵具での描画

 『ジャンプ台でかっこよくジャンプしている自分』『大きな恐竜に乗って、町を眺めている自分』イメージをもつことができた子どもは、「描きたい」と願いをもつ。
 ここでは、子どものイメージを十分に生かすためにも、色画用紙を使用する。画用紙の色は自分で選ばせるようにする。夜の雪像を描きたい子は黒、青天の下の雪像を描きたい子は青など、具体的なイメージから色を選ぶ子もいれば、オレンジを選んだ子に意図を聞くと、「オレンジって楽しい感じがするから」と抽象的なイメージに合う色を探す子もいる。

 描画材は絵の具とクレヨンを使用する。クレヨンは絵の具をはじくことや、絵の具の上からクレヨンで描けることを前題材までに学習しておくと、どちらから使用するかも自分で選ぶことができ、表現を広げることができる。
 1・2時間目は自分の机で表現に向かい、自分のイメージした世界に浸る。
 「ぼくはスノーボードでジャンプ台を滑っているところにしよう」「ぼくは、ふくろうに乗って遠くまで飛んで行くんだ」とイメージした子は、絵の具でジャンプ台や雪像を描き始めた。ジャンプ台や雪像が完成すると、その上からクレヨンで自分を描く。描画材の特性を押さえておくことで、より自分のイメージにあった表現に近付くのである。
 教師は机間指導を行う。絵の具の水の量やクレヨンとの併用など、描画の仕方については随時指導していくが、子どもと対話をしながら、どんな思いでかこうとしているかを見取ることに努める。また、対話をしていくことによって、子ども自身がさらにイメージを膨らませることにもつながっていく。
 T「何をかくの?」
 S「ジャンプ台だよ」
 T「ジャンプ台で何をしているの」
 S「お友達と一緒にそりで滑るんだ」
 T「どんなそり?一人で乗るの?」
 S「二人で乗るそりにしようかな」
 T「二人乗りは楽しいね。お友達とたくさんすべりたいね」
 S「5人で乗れるそりもつくってみようかな」

願いの質を高める環境の変化

 3・4時間目は、よりイメージを膨らませながら、新しい願いへとつなげていくことをねらい、教室環境を変える手立てを取る。

「雪をふらせたんだね。きれいだね。私もふらせようかな」

「雪をふらせたんだね。きれいだね。私もふらせようかな」

 自分のイメージが表現でき、満足感が得られた子どもは「友達はどんなことを描いたのかな」と他者の表現に興味をもつ。そこで、3間目からは教室から図工室に場所を変える。4人掛けの机になり、必然的に友達の作品が見合えるようにする。座席は同じ雪像の子にしたり、色が単色の子と多色の子にしたりするなど、表現に刺激を受けるようにする。
 教師は机間指導を行う。1・2時間目は子どもの思いを見取ることに努めたが、教室環境の変化を生かし、子ども同士がお互いの作品を形や色に焦点化して交流するように声かけをしていく。

z_vol11_04 z_vol11_05

互いの表現に刺激を受け合う

 T「4人とも雪像さんと楽しそうにしているね。雪像さんの色が違うね」
 S「本当だ。○○ちゃんの雪像に色が付いてる」
 S「探検のとき寒かっただでしょ。だから洋服を着せてあげたの」

 T「同じジャンプ台だね。二人の絵の顔の形が違うね」
 S「うん。ぼくはすごく楽しいから笑っているの」
 S「え~。わたしこわいから目をつむっているの」

z_vol11_06 z_vol11_07

絵を通して交流

 形や色に焦点化することで、「どうしてその色にしたの?」「同じ雪像なのに形が違っておもしろいね」と交流していく。そして、「もっと、自分も描き足したいな」と新しい願いをもつ。

鑑賞を通した相互評価

 5時間目には鑑賞活動を行う。お互いの作品をよく見るために、どのように掲示するかを問う。色画用紙で並び方を考える子もいれば、雪像の仲間で並べてみたいと考える子もいる。それぞれの作品の形や色を見ながら、友達のイメージに浸っていく。

z_vol11_08 z_vol11_09

同じ雪像でも
子供のイメージによって
作品が異なる

z_vol11_10 z_vol11_11

雪像との距離が縮まり、
雪像と遊んでいる自分

授業を終えて

 どのような題材であっても、子どもが自分自身で世界で一つの作品を生むために、自分のイメージをもつことが重要であると考える。今回の題材では、全体交流を設定することで、イメージが膨らんでいったと考える。これからも子供の自由な発想を大切にし、授業の導入を考えていきたい。

z_vol11_12

自分の好きなキャラクターの雪像と遊んでいる作品。
キャラクターと友達になったんだよと、笑顔が見られた。

【監修者 北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】

《札幌発信シリーズ》 表現(2)絵に表す 12才の自分を表そう

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
※この実践は、前任校の札幌市立伏見小学校において6年生で行ったものです。

図画工作・札幌発信シリーズ<3>

指  導  計  画

題材名

12才の自分を表そう

学年

総時数

6(+道徳2)

題材のねらい

  • 自画像の表情を工夫したり、背景の表現方法を工夫したりすることで、「自分のイメージ」を表現する。
  • 自分を見つめ、自分らしさを再発見・再確認していく喜びを感じる。

主な学習内容

  • (【道徳2時間との関連】自分の内面を見つめる。自分で、友達・保護者のアンケート調査で、自分についてのイメージを見つめ直す。)
  • 「自分のイメージ」から自画像の表情を思い描き、表現する。
  • 「自分のイメージ」から色や形を発想し、表現方法を選んだり試したりしながら背景を表す。
  • 互いの作品を鑑賞し合い、それぞれのイメージの伝わり方とその表現のよさを感じ取る。

材料・用具

白画用紙、鉛筆、消しゴム、水彩絵の具、ローラー、スパッタリング用の道具、ストロー、ビー玉、スタンプ、はさみ、のり など

主な評価の観点

  • 「自分のイメージ」が表現されていくことに楽しさや満足感を感じようとしている。(造形への関心・意欲・態度)
  • 「自分のイメージ」に合うために、どのような表情や背景にするとよいか思いを膨らませている。(発想や構想の能力)
  • 「自分のイメージ」に合った表現方法を試しながら、工夫して表している。(創造的な技能)
  • イメージと関連させながら互いの作品のよさをとらえたり感じ取ったりしている。(鑑賞の能力)

1.「自分らしさってなんだろう?」(道徳との横断的関連)

 「自分って…?」
 「自分らしさって…?」
 「自分のよさって…?」
 これまで当たり前のように考えてきた(または考えてこなかった)自分って、考えてみると案外よくわからない。
 日本の子どもたちは、他の先進国と比べても自己肯定感が際立って低いと言われている。卒業まであと数ヶ月の子どもたちに、「自分」を深く見つめる眼をもってほしい、特に、「自分のよさ」「自己肯定像」をしっかりととらえてほしい、と願い本題材に取り組んだ。
 道徳の時間を活用して、「自分らしさ」について考えた。ワークシートに自分自身で自分の趣味・特技・特徴などを書き込んだり、友達から「~さんのいい所」を書いてもらったり(子どもたちは友達の反応を想像以上に嬉しそうに受け止めていた)、保護者にアンケートで「~のいい所」を書いてもらったりすることで、自分を見つめ直していき、「自分のイメージ」を再発見・再確認していった。
 「自分は○○が好き。まわりの友達も認めてくれている。」
 「自分ではこう思っていたけど、意外に友達からはこう見られているんだ!」
 「お父さんもお母さんも私の○○がいい所って言ってくれている。」
 「僕は将来、○○の道を生きたい。だから○○ははずせない。」

2.「自分らしい表情?…マジ顔?笑顔?変顔?」

 「“今の自分”を自画像に表そう。“自分のイメージ”に合うのはどんな表情だろう?」
 鏡とにらめっこをする子どもがいたり、友達同士で顔を見せ合う子ども(自然とにらめっこに発展していき笑いが起こる)がいたりする。
 表情が決まったところで自画像を描き始める。それぞれの「自分のイメージ」は違うのだが、描いているときの様子はみんな真剣そのものであった。

z_vol10_01

z_vol10_02

 自画像を描くとき、「顔を描く」ということに抵抗感をもっている子どもや、漫画的・記号的に顔を描く子どもも少なくない。そこで事前に、顔をよく見たり触ったりすることで、顔の造形的な美しさや面白さに気付くことができるようにした。そうすることで、子どもは自分の顔とじっくりと向き合いながら、表現していくことができた。

z_vol10_03 z_vol10_04 z_vol10_05 z_vol10_06

鉛筆による自画像

3.「自分らしい形や色で背景を表そう!」

z_vol10_07
z_vol10_08

 背景を表していくとき、子どもは自分の内面とより親密に対話することになる。
 「自分らしい色って…?形って…?」
 「どんな表現方法にすればイメージに合うかな?」
 目に見えない「自分の内面」を形や色でどう表現するか、またその表現からイメージをどう広げていけるか、そこに、これまで習得してきた「発想・構想の能力」や「創造的な技能」が表れる。
 子どもたちは、これまでの図画工作科で培ってきた資質や能力を働かせて、ローラーやスパッタリング、にじみや点描などの表現技法を選び、試しながら、画面に自分を映していく。

z_vol10_09 z_vol10_10 z_vol10_11 z_vol10_12

自分のイメージに合うように様々な表現技法で表された背景

4.背景と自画像を組み合わせよう

 完成した背景に、自画像を組み合わせていく。
 事前に完成への見通しについては確認していたので、子どもたちは背景を表していく時点で、どこに自画像を当てはめようか考えている。自分の思い描く通りに自画像と背景を組み合わせていった。
 出来上がると、子どもたち一人一人の個性が表れた多様な作品が生まれた。
 「キーパーとしてサッカーに挑む自分」を表そうと、グラウンドの土の色一色の中にゴールを描き、真剣な表情の自分を当てはめる子、「面白い自分」を表わそうと、明るい色の下地の上にはじけるような点やコミカルな図形を配す子、淡い色と花びらで画面を構成し「明るい自分」を表す子、自分の好きな本やプレゼントなどの具体的表現と抽象的な背景を組み合わせて自分らしさを表現する子など多様な作品が並んでいる。

z_vol10_13 z_vol10_14 z_vol10_15 z_vol10_16
z_vol10_17 z_vol10_18 z_vol10_19 z_vol10_20

切り取った自画像と背景を組み合わせた完成作品

5.“あなた”がいて“わたし”がいる

 この題材を通して、子どもたちは常に「自分との対話」を続けている。その時忘れてはいけないのは、「他者との対話」の存在である。導入やまとめなど、私は折に触れて子どもの作品を全体で見合うことを大切にしてきた。または、自然発生的に行われる友達同士での交流を大切にしてきた。「この形が~さんらしい」「~君らしさって○○だからこの色なんだね」「こうすると、もっと~さんらしさが出ると思うよ」このような友達からの評価が、自分の表現を高め、自分をより深く見つめることにつながっていったのだと考える。

6.この実践を終えて

 出来上がった作品を見る子どもたちの表情はどこか誇らしげであった。自画像というと、「似ているか似ていないか」という評価で見てしまいがちだが、この題材を経験した子どもたちにとっては、今回の作品は「似ているかどうか」以上に大切なものが表現されているものとなったようである。それはまさしく、子どもたち一人一人の「自分らしさ」や「自分のよさ」である。見た目だけではなく、作品から滲み出る内面のよさをとらえられるからこそ、作品を鑑賞したときに、子どもたちは先ほどの表情を浮かべることができたのだと思う。
 今回の題材が終わっても、“自分を見つめる眼”をこれからも大切にもち続けてほしいと願っている。

【監修者 北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】

《札幌発信シリーズ》 表現(1)造形遊び つくろう!わくわくストリート

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

図画工作・札幌発信シリーズ<2>

指  導  計  画

題材名

つくろう!わくわくストリート

学年

総時数

材料・道具

ビニールシート、カラーセロファン、ポスターカラー、OHP用カラーペン、ハンガー、連結クリップ、セロテープ、はさみ、筆、刷毛、ブルーシートなど

題材の目標

ビニールシートを使って工夫し、空間を変えることを楽しむ。

題材の評価

  • 自分のイメージを膨らませ、空間づくりを楽しもうとしている。<関心・意欲・態度>
  • 材料のよさを生かして、空間が楽しい感じになるように表し方を思い付いたり考えたりしている。<発想や構想の能力>
  • ビニールシートを使って吊るし方や模様など表したいことを工夫している。<創造的な技能>
  • 互いの活動の面白さをとらえたり、楽しさを感じ取ったりしている。<鑑賞の能力>

学習内容

  • 学校の中のある場所をわくわくするような空間に変えることを知る。
  • 透明なビニールシートを使って、透けたり光を通したりする特性を生かし、ポスターカラーやカラーセロファンなどを用いて表現する。
  • イメージを膨らませ、色の重なりや吊るす形の面白さを感じながら表現する。
  • いろいろな方向から見たりのぞいたりして、楽しい空間になっているか鑑賞する。

題材構成

【1時間目】

 空間を変える場所へ行き、どんなふうに変えると楽しい空間になるかイメージが膨らむようにする。
 ビニールシートを使うことを伝え、触ったり吊るしてみたりしながら、ビニールの特性に気付いていく。

【2時間目】

 イメージを膨らませながら、ビニールシートにポスターカラーやカラーセロファンなどを使って表現する。天井に吊るして次時への工夫や思いがさらに膨らむようにする。

ポスターカラーでプラスチックのふたをスタンプにして押す

ポスターカラーでプラスチックのふたをスタンプにして押す

刷毛を使ってポスターカラーを飛ばす

刷毛を使ってポスターカラーを飛ばす

ポスターカラーをつけた刷毛で自由に線を描く

ポスターカラーをつけた刷毛で自由に線を描く

下から見て、光の透け具合や色の重なりを確かめている

下から見て、光の透け具合や色の重なりを確かめている

z_vol09_05

z_vol09_06

作品を吊るしてみて、さらに工夫したいことを考え、イメージが膨らむようにする

作品を吊るしてみて、さらに工夫したいことを考え、イメージが膨らむようにする

【3時間目】

z_vol09_10 前時に引き続き、表現する。時折天井に吊るし、光や色の重なりに気付き、吊るし方を工夫する。さらに楽しい空間にするには、どう工夫したらいいか考えながら表現する。



カラーセロファンをつけ、カラーペンでさらに線を重ねている

カラーセロファンをつけ、カラーペンでさらに線を重ねている

ポスターカラーの線の上にカラーセロファンを重ね、光の透け方や色の重なりを楽しんでいる

ポスターカラーの線の上にカラーセロファンを重ね、光の透け方や色の重なりを楽しんでいる

吊るしながらカラーセロファンを貼っている

吊るしながらカラーセロファンを貼っている

【4時間目】

 鑑賞。様々な方向から作品を見合い、自分の作品と友達の作品との違いや色の重なりの面白さや吊るす形の工夫に気づき、楽しい空間になったことを味わう。

z_vol09_12

z_vol09_13

【まとめ】

 ポスターカラーやカラーセロファンなどを自分の表現に合わせて、自由に使えたことが良かった。また、子どもたちに身近な学校の中の場所を“わくわく”する場所に変える題材の設定も子どもたちの意欲を引き出すことができた。
 場の設定として、廊下の踊り場や階段上に針金を何本も張り、そこへハンガーと連結クリップでビニールシートを吊るした。試しに吊るしてみたり、吊るし方にも工夫ができたりと楽しんで活動していた。
 ただ、ポスターカラーはすぐには乾かないので、吊るすときにビニールシートどうしがくっついてしまったり、子どもたちの服についてしまったりしたことが、残念だった。本実践では、制作場所を廊下や教室で行ったが、広い場所で活動できるともっと楽しめたのではないかと考えている。

【監修 北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】

《札幌発信シリーズ》 表現(1)造形遊び つながる・つなげる・レインボー

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

図画工作・札幌発信シリーズ<1>

指  導  計  画

題材名

つながる・つなげる・レインボー

学年

題材概要

z_vol08_01 この題材はポリテープを使って、「レインボー」を表現していく造形遊びである。
 「レインボー」というテーマと大量のカラフルなポリテープから思い付いたことから、色々な結び方や場所との関わり方に挑戦し、一人一人が活動の幅をどんどん広げていく。

題材ではぐくみたい資質や能力(評価規準)

  • 友だちと協力しながら活動し、普段使っている教室を、レインボーの世界につくりかえる楽しさを味わう。(造形への関心・意欲・態度)
  • 材料や場所とかかわることによって豊かに発想を広げ、いろいろなつなぎ方を考えている。(発想や構想の能力)

材料・用具

  • ポリテープ(1メートルに切り揃えたもの)
  • セストボールのゴール、フラフープなど(子どもたちと相談して、ポリテープをつなげてみたいものを集めた)

※はさみ、テープなどの用具は使わず、「結ぶ」という行為に限定した。

授業の実際

●子どもの「やってみたい!」に寄り添う

 導入時に、教室で一人2本だけポリテープを渡し「その2本をつないでみよう!」となげかけた。色々な結び方を試したあと、「これを使って教室にレインボーの世界をつくろうと思うんだけど…」となげかけると、子どもたちは「これじゃあ足りない!」「もっと色が欲しいよ!」と声を上げた。
 子どもたちと一緒に、必要な色やつなげてみたい物などを相談し、子どもに生まれた「やってみたい!」という気持ちに寄り添いながら、活動を始めた。

とりあえず結んでみようか

とりあえず結んでみようか

●どうやってつなげようかな?

 「まずは何から始めよう…?」広い教室を前に、子どもたちはまず友達とつなげてみることからスタートした。「レインボー」というテーマに沿って色を順番につなぐ子や、とにかく長くつなげてみる子など、小さな行為からスタートした。

●ここにもつなげちゃおう!

 活動をつづけていくうちに、つながる範囲がどんどん広がっていった。上から下へたらしてみる、はじからはじまでつなぐ…など、空間を意識した活動が生まれてきた。

 教師が「次は何を計画中?」と問いかけると、「あの友達のところまでつなげたいんだ!」「友達と一緒に、ここにたくさんつり下げるの!」と一人一人見通しをもっていた。友達と関わりながら活動することで、いろいろな「やってみたい!」気持ちが子どもに次々と生まれていった。

レインボーの世界が広がってきたよ!

レインボーの世界が広がってきたよ!

高いところからどんどん下につなげてみたらどうかな?

高いところからどんどん下につなげてみたらどうかな?

●見立てから発想を広げて

 「虹のカーテンができた!」活動の中で、子どもたちは見立てながら発想を広げていった。始めはとにかくつなげていた行為が、見立てから生まれた発想から、意図のある表現に変化していった。

虹色の順番にならべてつなげたよ

虹色の順番にならべてつなげたよ

虹のカーテン!

虹のカーテン!

虹のリングができたよ

虹のリングができたよ

 ある子どもが「虹の海に網をはった」と話してくれたので、「○○君はハンガーに結んで虹の魚をつくっていたよ」と紹介すると、「ここに泳がせようかな」と、発想から友達と関わるきっかけをつかんでいた。

虹の海に網を広げたよ!

虹の海に網を広げたよ!

●レインボーの世界、完成!

z_vol08_09

 活動の後に、「虹の世界を探検しよう!」と投げかけた。子どもたちはお互いの活動を見ているために、友達の活動のあとを壊さないように大事にしながらも、どんどん中に入っていって鑑賞を楽しんだ。そのうちに、床に寝転がって下から見た眺めを楽しむ子どもがあらわれた。それを見た子どもたちは「先生、上からも見てみたいから、台に上っていい!?」と声をかけてきた。
 子どもたちは鑑賞しながら、「ここのピンとはった所が、元気な感じがするよ」「ここの虹のカーテン、サラサラ揺れて光を通してきれいだね」と、お互いのよさを感じ取っていた。

虹のカーテンをくぐったよ!

虹のカーテンをくぐったよ!

下から見ると、虹がかかっているみたい!

下から見ると、虹がかかっているみたい!

上からも見たい!台に上っていい?

上からも見たい!台に上っていい?

終わりに

z_vol08_13

 子どもたちは思うまま、自由に活動しているように見えるが、実際に活動にはかなりの制約がある。
 ・ポリテープの長さ(1メートル)
 ・切ったり割いたりしない。
 ・テープなどで接着しない。(結ぶだけ)
 ・生活班で教室のはじからスタート
 しかし、この制約があるからこそ、友達との新たな関わり方や、「こうしたい!」を実現する発想が生まれるのである。また、自分の活動を進めていくと、場所の制約から必ず友達の活動とぶつかることになる。そのときに、お互いの活動の良さを認め、組み合わせたり、場所を共有したりする活動も、高学年を前にした4年生の子どもたちにとって大切な行為であると考える。
 教師が子どもの「こうしたい!」という気持ちに寄り添い、語り合いながら題材を構成していきたい。

z_vol08_14 z_vol08_15

【監修 北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】

おうちへ おいでよ

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

指  導  計  画

題材名

おうちへ おいでよ

総時数

題材概要


Web実践事例vol07_12
Web実践事例vol07_12

 用いる主な材料は、1畳大より小さい段ボール板である。その段ボール板を立てて壁をつくって囲むと、部屋のようなスペースができる。こうしてできた部屋を一人ひとりの部屋として見立て、表していく題材である。
 部屋の仕組みだが、一畳大の段ボール板を十字に組み、倒れにくくした構造になっている。十字に組んだ所の一角ずつを、一人ひとりのスペース=部屋とし、その4つの部屋がまとまりをもって「おうち」と設定している。
 「おうち」の外に向かっては壁(境界線)がなく広がっているが、隣同士は段ボールの壁で隔たり(境界線)がある。実は、これは、隣の友だちとの造形活動の交流が生まれる仕掛けとなる場の設定なのである。なぜなら、自分のスペースを一つの部屋としてつくりながらも、隣と共有する壁に切り込みを入れたり穴を開けたりすることで、その窓や扉の活用の仕方を友だちと交流することが生まれるからである。こうしたつながる面白さを感じながら表すこともできるのが、この題材の面白さでもある。
 いつしか、一人ひとりのスペースも4人共有のスペースとなり、全体で一つの「おうち」となっていく。さらに発展して、隣の「おうち」とも段ボール板の道でつながり、コミニティがどんどんできていく。このような部屋づくり→家づくり→町づくりと展開されていく面白さのある題材である。

題材ではぐくみたい資質や能力

  • 自他の「おうち」の表し方や想いの面白さ、「おうち」ができていくことの面白さを感じ取ることができる。
  • 切り開いた窓やつくり始めた部屋を基に、新たな窓や壁、天井、部屋に合うアイテムなどを発想して表すことができる。
  • 思い描いた「おうち」が形づくられる満足感を味わったり、想いや表し方の違いをよさとして認めたりすることができる。

題材を構成するもの

  • テーマ:へや、うち
  • 素 材:段ボール板、段ボール箱、共同絵の具、刷毛、色テープ、粘着テープ、これまでの図工科の学習で出た廃材など
  • 方 法:段ボールカッターで切る、絵の具での着色する、材料を組み合わせるなど幅がある

*テーマは、「おうち」として限定をかけたが、それを表す素材や方法には幅をもたせて取り組ませた。

授業の実際

●題材イメージ→想いへ

Web実践事例vol07_01

 題材の導入では、一畳大の段ボール板を十字に組んだものを「おうち」に見立てることから始まり、子どもたちが「おうち」から連想するもの・ことを引き出していった。ここでは、題材の中心テーマである「おうち」への想像を広げ、おうちづくりへの想いをもたせることがねらいなので、敢えて時間をかけて分類・整理はしなかった。
 題材イメージが「おうち」からの連想によって広がってくると、子どもたちの中に「こんなおうちにしてみたい」「こんなおうちがあったらいいなあ」といった想いが芽生え始めてきた。そこで、活動へと移行していったのである。

●扉が交流の扉を開く

Web実践事例vol07_02 Web実践事例vol07_03 Web実践事例vol07_04

 まずは、座ったり触れたりして材質を確かめる子ども。十字に組んだ段ボールを動かして思い描いた部屋に合うように場を変化できないかと試す子ども。自分のスペースから隣のスペースをのぞいて楽しむ子どもなど。場や材料で遊んだり、材料に触れてできることを試す子どもたちの姿がそこにはあった。
 次にとりかかったのは、導入で行ったおうちからの連想で出ていた様々な部屋に必要なアイテムづくりである。段ボールで浴室をつくる子ども。部屋で一緒に暮らす犬の小屋をつくる子ども。おもちゃ棚を段ボール箱を切ってつくる子ども。段ボール箱を積み重ね、階段を手掛ける子どもなどがいた。
 一方で、段ボールカッターを手に始めたのが、隣の友だちと共有している壁の加工であった。部屋に必要なアイテムとして窓を強く意識している子どもであった。ギコギコ切っていくといつしか隙間ができ、扉や窓ができていく。その空いた箇所から隣をのぞいたり、手を入れて隣にちょっかいを出したり。また、それに気付いて、のぞき返してきたり、扉の形をさらに変えようと提案したりする子どもなど、次第にその輪が回りに広がっていった。つまり、共有する壁は子どもたちにとっては、隣との境界としての隔たりではなく、交流のきっかけをつくるものとして働いたのであった。

●互いに刺激を交わして表現の幅の広がりへ

Web実践事例vol07_05 段ボールカッターで切る手応えを満喫した子どもは、「もっと~したい」とばかりに屋根を組んだり、着色したり、新たに段ボールをもってきて家具をつくり出したりし始めた。
 友だちとの交流の中で「テレビがあるといいよね」「お風呂の次はシャワーもつくってみたら」といった「もっと」が生まれ、次の造形活動が始まる子どももいれば、段ボールをテーブルにしたり床の段ボールを着色して庭にしたりといった、友だちの工夫からひらめいて始まる子ども。また、周りの友だちがアイテムを段ボールに筆で描くのではなく、段ボールから切り抜いてつくっているのをきっかけにつくりかえる子どもなど様々であった。その様子を見ていると、子どもたちの造形活動は、友だちと交流しながら創造的な刺激を交わして進んでいるかのようであった。

Web実践事例vol07_06

 また、自分のスペースを表現しながらも、隣接した友だちが手掛けているところが気になり見に行ったり、手伝ったりする姿があり、そこに、自分たちの「おうち」への想いのふくらみを見取ることができた。このころから、子どもたちから「自分のおうち」ではなく「先生見て。ぼくたちのおうち。」という声があがり始めた。

●遊びを通した相互鑑賞で互いの違いのよさを実感

 本題材も6時間目を迎えた。題材の最終時間である。
 自分たちの「おうち」を満足いくまで表現し、班によっては表現の幅を広げ、段ボールで道をつくり他の班とつながっていき、互いに行き来して遊んで交流しているところも出てきた。それを見取った教師は、最後の時間を相互鑑賞、しかも遊びを通しての相互鑑賞の時間として設けた。

Web実践事例vol07_07
Web実践事例vol07_08
Web実践事例vol07_09

 右の画像は、友だちが表現したおうちの中の「お風呂」に入って面白さを味わっているところである。どんな気持ちかを尋ねると「気持ちいい~」と本物のお風呂に浸かってるかのように応えてくれていたところに、友だちの表現のよさを感じ取っているのを見取ることができた。

 2つ目の画像は、友だちの子ども部屋「ワクワクハウス」にすっぽり収まって落ち着いている様子である。「外側もいいけど、中からだともっといいよ」「本当のおうちにいるみたい」と教師に話しかけている場面である。

 3つ目は、女の子が男の子に、表現したおうちを「ここにはリモコンを置くポケットがあって、この箱には教科書が入ってて…」「このドアの取っ手が難しかったんだよねえ」と紹介している場面である。子どもそれぞれに、こだわってつくったり、苦労してつくった部分があったりするので、表現一つひとつがかけがえのないものとなっていることが、その説明に耳を傾けるととらえることができたのであった。

終わりに

 教師として日頃心がけていることがある。それは、終始、子どもの声に耳を傾け、子どもの内面を引き出して理解すること。そして、見取った子どものよさを子どもに価値付けとして返すことである。
 それは、個人的に問いかけたり、子ども同士の交流に加わって聞き出したりすることだけで可能になる。大事なのは、その子ども理解への手間を惜しまないこと。そして、子ども一人ひとりのこだわりや想像の世界のよさ、表現するモチーフに至るまでの背景、これからの表現への見通し、悩みなどの子どもの内面を見取った上で称賛したり周りに広めたりして価値付けるのである。そのことにより、子どもは無意識で行っていた造形活動のよさや自分の見方・感じ方・考え方のよさを意味付かせていくのである。
 本実践の記述は、場面場面での子どもの姿を取り上げて紹介したものであったが、その姿の裏では指導と評価の一体化としての教師の見取りと価値付けが適宜行われていたのである。

つないで つないで

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

指  導  計  画

題材名

つないで つないで

総時数

題材概要

 素材と方法から始まる造形遊びの題材である。大量の白色の短冊用紙とそれらをつなぐ造形行為(教師が示す)を出合わせ、教師が始めに示した造形行為を越える「だったら~してみたい」「もっと~できるよ」といった発想を子どもから引き出していく。こうした発想を基に、子どもたちは、短冊を重ねたり、丸めたり、折ったりしながら道のようにどんどん短冊をつないでいき、つなぎながら自分なりのお話をつくって取り組んでいく。

題材ではぐくみたい資質や能力

  • 短冊をつないでいく造形行為の面白さ、短冊用紙を折ったり曲げたり加工する面白さを感じ取りながら表すことができる。
  • 短冊のつなげ方を新たに思い付いたり、つながる中で現れる世界からさらに想像の世界をふくらませたりしながら表すことができる。
  • つなぐ造形行為そのものの面白さや想像の世界が形づくられる満足感を味わったり、互いの想いや表し方の違いをよさとして認めたりすることができる。

題材を構成するもの

  • テーマ:自由
  • 素 材:白い紙の短冊、でんぷんのりに限定
  • 方 法:でんぷんのりでの接着によって短冊をつないでいくことに限定

授業の実際

Web実践事例vol06_01
Web実践事例vol06_02

●「ななめにもつなげるよ」

 導入時に、教師が白色の短冊を数本のりで接着してつなぐ造形行為を示しながら、子どもたちに活動を投げかけた。
 教師:今日の図工は、長い紙をのりでこうしてくっつけて、ようしできたぞ。
 子1:横にもつないだらいいんじゃない。
 子2:だったら、斜めもあるんじゃない。
 子3:それいいねえ。おもしろそう。
 子4:ぼくだったら、長くつなぎたいな。ずうっと向こうまで。
 子どもたちの中に、「やってみたい」「試したい」「表してみたい」という想いが生まれたのを、教師は見取って、子どもたちの造形活動をスタートさせた。

●「いっしょにつなげよう」

Web実践事例vol06_03

 短冊をまっすぐつなぐ子ども。交差させてつなぐ子ども。ジグザグにつなぐ子どもなど。始めは一人ひとりでつなぐことを楽しんで取り組んでいた。しかし、短冊がつながり出すと、近くの友だちの表現と重なりや近接が生まれてきた。そして、友だちとのかかわりが生まれ、発想の広がりや、廊下への造形活動範囲の広がりへとつながっていった。つなぐ造形行為の面白さやつながって表れる世界の面白さを感じ取っている子どもどうし、自然と互いの想いや表現をつなぎ始めた。

●「トンネルのビルができたよ」

Web実践事例vol06_04

 教師:うわあ、面白いね、この丸まった形。どんなお話になっていくのかな。
 教師は、子どもに思い描いている想像の世界と、見通しについて問いかけた。すると、
 子4:ええとね。これがトンネルでね。トンネルのビルがあってね。ここを道路がくぐっていくんだよ。車もくぐれるよ、すぐにね。
 教師:そうかあ。楽しみだなあ。
 一人の子どもの短冊を丸める造形行為や表現から、折りたたむ、階段のように折る、高く積んでつなぐなど、次々に発想が広がっていくのを見取ることができた。

●「くぐって通れるんだよ」

Web実践事例vol06_05

 短冊をアーチ状に曲げたものを何かに見立てる発想は、男の子に限ったことではなかった。女の子にも波及し、遊園地のゲートやデパートの入り口に見立て始めた。
 また、アーチの形を繰り返し使って、模様づくりを楽しむ女の子も現れた。トンネルを設けるとそこには、目には見えないがくぐって通っている道路や車、人、動物たちがいるのであった。

●「いっぱい並べて橋に…」

Web実践事例vol06_06

 教師:ここでは、どんなことをしてるのかな。
 子5:いっぱい並べて、橋にするの。
 子6:あっちとこっちの道をつなぐんだよ。
 教師:なるほど。この橋を渡って行くと近道になりそうでいいね。
 子6:そうだよ。
 細い短冊を隙間無く並べて敷き詰め、つなぐことで橋を表すといった造形行為も現れた。この子どもの姿からは、1年生であっても、見通しや想像の世界を友だちと共有しながら取り組んでいることを見取ることができた。

●「もっともっと長~くしたいな」

Web実践事例vol06_07

 後半になってくると、教室では狭くなり、廊下を使っての活動へと広がりが見られた。写真の子どもたちは、道としてつなぐばかりではなく、道に隣接された駐車場やレース場、店や家などを配しながら、どんどん想像の世界を広げて表していった。中には、短冊を加工して車や人をつくる子どもの姿もあった。

 授業の最後には、子どもたちの「みんなのを見てみたい」想いを見取り、相互鑑賞を行った。一生懸命工夫してつくった箇所を説明する子ども。つくり始めた所から終わりまでお話をつなぐように話す子ども。友だちの長くつながった表現に興奮し、コースを行ったり来たりして走り回る子どもなど、様々な感じ方で互いの違いをよさとして感じ取っていた。

終わりに

 材料や方法を限定してスタートしているが、子どもたちは、限定されたからこそ短冊の新しいつなぎ方を試したり、用い方を思い付いたりしたのである。題材構想の段階で「子どもは教師の想定を越える」ことをふまえつつ、どれだけ子どもに寄り添った構想ができるかが教師にとっての勝負となる。多種多様な材料だからよいわけでもなく、斬新な方法を取り入れるからよいのでもなく、ちょうどよく子どもの「もっと」が生まれる題材構想をこれからもしていきたい。
 そのために、図画工作科の授業のみならず、他教科等の授業での子どもの見取りや給食中の子どもとの対話から子どもの興味・関心や発達の特性をとらえていく必要があると考える。

ゆらゆらゆれて~ふしぎなせかい

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

指  導  計  画

題材名

ゆらゆらゆれて~ふしぎなせかい

題材のねらい

  • 偶然できた模様の紙片を使って造形活動を楽しむ。
  • 切った形を何かに見立て、加筆して不思議な世界を完成させる。

題材の可能性

  • マーブリングのさまざまな技法を楽しむ。
  • 基本的な技能(切る、糊で貼る)を身につける。
  • 想像の世界に親しむ。

材料・用具

マーブリング用インク、和紙、色画用紙(四つ切り)、パス、水彩絵の具、カラーペン、水、バット、かき混ぜ棒、はさみ、のり

子どもの思いや活動

乾いてから、小さくなりすぎないように切っていく。切った紙をならべかえる。

 2008年9頃に小学2年生のクラスで実践した、マーブリングした紙を切って、いろいろ組み合わせて楽しむ題材である。

Web実践事例vol05_01
Web実践事例vol05_02

 子どもたちは不思議な世界が好きである。しかし、それを描くとなると戸惑う子どもも多い。そこで、マーブリングした紙から想像をふくらませて楽しんで描けるようにした。
 マーブリングは、水を張ったバットにマーブリング用インクや墨を垂らし、できた模様を紙に写し取る技法である。箸や棒で引っ掻いたり息を吹きかけたりすると模様が変化する。気に入った模様になったところで、紙をのせて写し取る。
 次にその紙を自由な形に切り、コラージュする。模様を気にして切っている子どももいれば、関係なく切っている子どももいる。
 切った紙片を自由に組み合わせ、糊で貼る。こうしてできた画面から見えてくる世界を、パス、絵の具、カラーペン等で描いていく。子どもはマーブリング、切る、貼るという活動を通して、自然に不思議な世界に入っていくことができる。

まとめ

Web実践事例vol05_03
Web実践事例vol05_04

 想像画をいきなり描いてみようと子どもに提案しても、どうしていいいか分からなくてとまどう子どもも少なくない。この題材のように、はじめのきっかけが自然にできると、子どもは作業をするうちに想像をどんどんふくらませていく。
 この題材は、材料を替えるといろいろな可能性が出てくる。マーブリング用インクを墨に替えたり、紙片を貼る台紙を立体にしてもよい。マーブリングは絵の具と筆でするよりも短時間で大きな紙に彩色できることになるので、共同制作としても利用できる。

ねんど デ・アニメーション!

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

指  導  計  画

題材名

ねんど デ・アニメーション!

時 間

準 備

油粘土(薄い色は避ける)、爪楊枝(粘土細工用)、手動回転轆、スリット(8等分)の入った円筒形の黒画用紙と粘土を置く台紙

学習目標

  • 作家の作品を見たり、つくる過程を聞いたりすることで、作家の制作活動に対する熱意や思いを知る。
  • アニメーションの仕組みを知り、粘土で動く簡単なアニメーションをつくる。

主な学習内容

  • 作家の作品を見て、アニメーションの仕組みを知る。
  • 8コマで構成される簡単な話を考え、動きを工夫しながら(上下、左右、大小など)つくる。
  • 自分や友達の作品を鑑賞し、お互いの作品のよさや工夫について感じ取る。

主な評価の観点

  • アニメーションの仕組みに興味をもち、単純なアニメーションを考えることができる。(関心・意欲・態度)
  • 8コマの動きを考え、つくり、つくりかえながら、自分の思いにそって作品づくりができる。(発想や構想の能力)
  • 粘土の特性を捉え、丸める、伸ばす、つなげるなど試行錯誤しながらつくることができる。(創造的な技能)
  • 友達と作品を見合いながら、お互いの思いや工夫を伝え合い自分の作品にも生かそうとする。(鑑賞の能力))

「教科書で紹介されている作家さんが来てくれた!」

 希望に胸ふくらませ、5年生になった子ども達。毎年、子ども達と一緒に一年間にやってみたい内容など、教科書を見たり、実際に種々の作品を提示したりしながら計画をおおまかに立てることが定例になっている。
 「先生!この 石田卓也さん と言う人の粘土アニメーションって見たことあるよ!」教科書の最後のページを開きながら、目を輝かせ、興奮気味に伝えに来た子ども。楽しくっておもしろくって、つくってみたいと創作意欲が沸き起こる作品の数々。
 高学年になると、子ども達は自分たちがつくりたい作品だけではなく、鑑賞のページに掲載されている作品や芸術家自身の仕事へも興味・関心が非常に高くなる。

「石田さん登場!」

 子ども達に、石田さんとの授業が実現できることを伝えると大歓声が!
 前日には、石田さんとともに授業のための準備や仕込みをし、準備万端。子ども達にも簡単な粘土で動く8コマアニメを考えてくるように伝える。

 当日…石田さん登場に大興奮!今までの作品をビデオで見せていただきながら、つくる過程での思いや苦労、作品への熱い思いを伺った。
 色鮮やかな粘土があっという間にくるくると変化していくおもしろさや発想の豊かさにどの子も驚いている様子。

「アニメーションの1秒の動きに何枚くらいの原画を描くと思う?」
「10枚くらいかな…」
「正解は24枚」

Web実践事例vol04_02森脇先生 石田さんとのやりとりで、アニメーションを制作するには、豊かな創造力と発想の転換、頭の柔らかさが大切なこと(石田さんはいつまでも子どもの心を忘れないことと力説)一つ一つの動きをよく観察し、こだわりをもってつくっいること、歩くなどの一つの動作をつくるにもたくさんの時間がかかることなどなど…ものをつくりあげるには、総合的な力が必要なことを学んでいた。

「ふしぎ!ふしぎ!」

 ビデオでアニメーションの簡単なつくりを理解した子ども達は、実際に石田さんの作品を見せてもらうことにした。

Web実践事例vol04_01森脇先生

 [ぶたさんがぞうさんに変化するの巻]

 「顔の変化をよく見てごらん」
 「鼻がどんどん伸びている」
 「顔も変わっていくよ」
 「耳だって大きくなっている」

「芸術家の技にびっくり!」

Web実践事例vol04_03森脇先生 「8あるあなの中から一つ選んで、そこから目をはなさずに見ると、連続して見えるよ」

 「鼻がのびたりちぢんだりすごいなあ!」
 「よく見ると目も大きくなったり小さくなったり、つり上がったり、たれ下がったりして笑ったり、おこったりしている!」
 実際に子ども達の目の前で、粘土の作品をいとも簡単につくりあげてしまう石田さん。
 子ども達の感嘆の声!「石田さんの手は魔法の手!」と、どの子も職人技に驚いた。熟練した石田さんの手作業の早さや正確さは、子ども達にとってもよい刺激となった。鑑賞とは作品のみならず、作り手の思いや技、制作中の表情や身体の動きまでも含め素晴らしい出会いがあると再認識できた。

「さあ!つくってみよう」

Web実践事例vol04_04森脇先生
Web実践事例vol04_06森脇先生
Web実践事例vol04_05森脇先生
Web実践事例vol04_07森脇先生

●準備するものは…

 油粘土(薄い色は避ける)、爪楊枝(粘土細工用)、手動回転轆轤、スリット(8等分)の入った円筒形の黒画用紙と粘土を置く台紙

●つくるヒントとして…

 石田さんと相談し、自由につくらせることももちろん大切だが、子どもの実態に合わせ、今回はつくるヒントをいくつか示した。

  1. 大きい→小さい→大きい…
  2. 上→下→上…
  3. 縮む→伸びる→縮む…
  4. くっつく→はなれる→くっつく

など、4つの動きを基本として発想を広げさせる手がかりとした。

 「これはね、三角の生き物(木)が育っていく様子なんだ」
 「一番大きな木から小さい木になるときどんな動き方をするんだろう?」

「石田さん、見てください!」

 必ず、できたときは石田さんに声をかけ、評価をしていただく。
 まずは、回してみて確かめながら…
 「ここをもう少し大きくするとうまくつながっていくね」
 「すごい!びっくりするくらい変化しておもしろいね!」
 などなど、批評をいただき嬉しそうな子どもたち。
 もう一工夫とアドバイスを受けたところを、つくりかえてもう一度チャレンジ!

「お互いの作品を見てみよう!」

Web実践事例vol04_08森脇先生
Web実践事例vol04_09森脇先生

 「恐竜が生きているみたい!」
 「首を曲げたのがもどるとき迫力があるね!」
 「平らな粘土から生まれてくるってアイディアがすごいね!」

 グループの子ども達が競うように作品をもってきては、見せ合いお互いに評価をし合っている光景がほほえましい。
 最初の導入段階では、アイデアがなかなかでなくて、悩んでいた子ども達も、石田さんのアドバイスや友達の刺激を受けながら、多い子どもでは、6つもの作品をつくり上げ大満足の様子だった。

「できたよ!力作」

Web実践事例vol04_10森脇先生
Web実践事例vol04_11森脇先生

 [絵描きさん伸びた鼻の巻]

 これは、グループの友達と二人でつくりました。とんがった鼻が、急に平らになったところは、どのように動いて見えるかすごくわくわくします。

 [バレリーナのくつ踊るの巻]

 バレーを踊るときのトウシューズが楽しく踊りだすという作品です。私の大切なトウシューズに願いをこめつくりました。

「授業をおえて…」

 あっという間の2時間だった。石田さんとの打ち合わせで、子ども達に作品を紹介し、作り方を提示し、つくらせるという段取りは2時間では、精一杯と予想していた。しかし予想に反し子ども達は、石田さんからたくさんの刺激を受け、泉がわき出るように作品をつくり上げていった。芸術家との素晴らしい出会いは、子ども達の心にも深く刻まれ、「大好きな図工がもっともっとすきになった」「アニメーションの仕事に興味をもった」など、本物との出会いは、創作へのエネルギーの原動力と思えた素晴らしい一日だった。

一文字アートにこめるわたしの2008年

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

指  導  計  画

題材名

一文字アートにこめるわたしの2008年

時 間

準 備

色画用紙,接着剤,絵の具など,自分の表現に必要な材料

学習目標

今年の自分への思いや願いをこめた一文字に描き加えたり飾り付けたりしながら表現をすることができる。
自分を見つめ,自分らしさを確かめたり思いがけない自分を発見したりしていくよろこびを感じることができる。

主な学習内容

  • 自分にとってどんな2008年にしたいか思い描きながら,表現していく意欲と見通しをもつ。
  • 一文字に込める自分の思いを確かめながら,材料や道具を選んだり試したりして表現していく。
  • 互いの作品を鑑賞し合い,それぞれの思いとその表現のよさを感じ取る。

主な評価の観点

  • 「わたしの2008年」というテーマに合わせて発想し,材料や用具を選んだり試したりしながらつくろうとしている。
  • 互いの作品について,気づいたことなどを伝えたり,気持ちを聞いたりして,自分の感じ方に気づいている。

さあ,5年生だ!高学年だ!自分を変えていきたい!

5年生に進級した子どもたち。期待と不安に胸を膨らませながらも,高学年としての自分を成長させていきたいという強い願いを胸に目を輝かせている。
A児も,そうした思いを膨らませている一人である。A児はこれまで友達と同じ行動をとったり既成のことをなぞったりすることで満足していた。しかし,A児もこのままの状況ではいけないと感じ,進級したこと,新しい学級になったことを機会に,なんとか自分を変えていくことはできないかときっかけをつかもうとしているのではないかと感じた。
そこで,表現をすることを通して,これまでの自分を思い起こし,どんな自分になりたいかといった,自分を見つめ,自分らしさを確かめたり思いがけない自分を発見したりしていくよろこびを感じることができる活動を展開することにした。そうすれば,自他のよさを感じながら,自分を変えていくことに向かっていくことができるのではないかと考えたのである。

2008年自分にとってどんな年にしたい?

毎年,年の暮れになると,その年を象徴する「今年の漢字」が発表され話題となる。2007年の「偽」,その前年の「愛」の画像を子どもたちに提示した。それぞれの文字がなぜその年の漢字に選ばれたのか,今年はどんな漢字になりそうかなどを話題に自由にやりとりした後に,「2008年は自分にとってどんな年にしたい?」「それを一文字で表してみようか…」と投げかけてみた。A児はしばらく考え込んでいたが,何かに気付いたように鉛筆を走らせていた。

わたしの2008年の一文字は,『旅』です。なぜかと言うと,一人旅から取りました。去年は一人旅ができずに友達にたよりすぎていたからできるようにがんばりたいと思ったからです。

A児がここで述べている一人旅というのは,自分自身の判断で行動するという意味で使われている。A児は,自分の考えや判断で行動することが自分を変えていくことにつながるのではないかと捉えはじめている。それを具体的なものとして感じ,意識していくことができるように,2008年を自分にとってどんな年にしたいか,一文字にこめた思いを色や形で表現していく活動を設定することにした。

わたしの一文字をアートにしよう!?

「この一文字でアートしてみようか。」と投げかけた。「(アートを)やってみたい気持ちはすごくあるんだけど,アートってどういうのかが思い浮かばないんだ。」とある子が切り出した。そこで,アートにするとはどういうことなのかを考えていくことになった。はじめ考え込んでいた子どもたちであったが,「紙粘土で文字をつくったらどう?」「箱の中に入れてみるとおもしろいんじゃない?」「木とか葉っぱとか使ったら?」次第にアイディアが次々と飛び交う。そんな中,A児は,自分が思い浮かべる表現を黙々とアイディアスケッチしていた。

最初,○○さんの言っていたように,箱の中につくろうと思っていたんだけど,画用紙に紙ねん土の一文字を入れてぶらさげることにしました。そうした方が,いつでも見えると思ったからです。

友達の考えを聞きながら自分のイメージを修正しようとしている姿も感じられる。こうした,子どもたち同士でボタンを押し合う時間というのは子どもたちの思考を加速させるものだと実感させられた。

一文字アート「旅」

一文字アート「旅」

A児ははじめ,板に「旅」という文字を紙粘土で形づくって貼り付けていた。しかし,「旅」の文字のへんとつくりを人の型につくり直した。また,板の底辺に当たる部分の形状を波形に加工しはじめた。自分で判断し考えていくことに自信を与えてくれたのが仲間であることを確かめていたのだろう。自分を変えていくためには,自分の足で歩んでいかなくてはならないことを荒波に表わしていた。

わたしの一文字アート だれに見てもらう?

「作品ができたら,見せ合うのやろうよ。」と子どもたちが言い出した。「だれに見てもらう?」ということが話題になった。「5年生(他学級)がいいんじゃない?」「みのり班(縦割り班)もいいかもよ。」と考えが出される。その後,次のようなやりとりが続いた。
B:「同じ学年や,みのり班の人だといいことしか言ってくれないと思う。だから,6年生に見てもらうのがいいんじゃないか。」
C:「6年生は本音を伝え合うことを大事にしているから,ぐさっと言われそうでこわい。」
D:「アドバイスしてもらうのはいいことだよ。」
C:「いっしょけんめいつくったからこそ,何か言われるといや。」
B:「それじゃ,わたしたちの成長にならないよ。」
しばらく聞いていたA児が口を開いた。

ぼくは,6年生に見てもらいたい。僕の一文字アートの意味を見てもらいたい。それは,人ぞれぞれだから大丈夫だと思う。

Web実践事例Vol.002_02

自分を変えていく見通しを具体的に捉えはじめ,これからの自分をイメージしはじめたA児なのだろう。その思いが,他者にどのように写るのか確かめること,つまり,自分らしさの確かめをしようとしているのではないだろうか。
そして,自分の思いを引き立たせるための作品の展示や装飾を考えながら一文字アート美術館を開いた。そこに6年生を招待したのである。

たくさんの6年生の人たちに,ぼくの気持ちを話しました。「なるほど」とか「いいね」だけでなく「すごいね」とも言ってくれたのがうれしかったです。

ぼくが友達の作品でいいなあと思ったのは,○○くんの「考」です。考えて行動していくんだろうなあと思い,すごくいいなあと思いました。

A児は,6年生とのかかわりの中で,色や形で表した自分の思いが認められたことで,自分らしさを見い出し,自信を深めたのだろう。次第に友達の思いに関心を寄せ,その価値を感じはじめているように思えてならなかった。

--------------------

体育の時間に最後まで走っていた○○さん,バタフライでタイムを縮めた□□さんがすごいと思った。それと,みんなが自然にその人たちに「がんばったね。」と言いながら拍手しているところがいいと思いました。

体育の後のふりかえりで,A児は上記のように記している。友達の取り組みを肯定的にとらえ,また,その周りの仲間のかかわりにも肯定的な目で見ている。さらには,そのよさを仲間に伝えようとしている。A児は,自分の思いを表現することを通して,さまざまな関係性の中で成り立っている自分を見つめてきた。こうした中で,自分に向けるまなざし,他者に向けるまなざしを研ぎ澄ましてきたのだろう。さらに他者とのよりよいかかわりを築き上げていくことが,自分を高めていくことになるということをA児は実感し,自分のくらしをつくっていこうとしている。