貧困と格差の拡大の中で

■家庭の機能の底が抜けた

 全国各都道府県に青少年の健全育成にかかわる団体の代表が集う「青少年問題協議会」という組織がある。
 大阪府においても会長は知事で、年数回会合がもたれている。
 先日の会でのことである。
 座長を仰せ付かっている私が、最近の子どもたちの状況について、最初にカウンセリングを専門にされている大学教授に発言を求めた。
 「ここ10年、あきらかに変わってきた傾向があります。不登校の子どもの様子は以前と変わらないのですが、その子どもを受けとめる親が、機能を果たさなくなった。親が頼りにならなくなってきたことです。」と切り出された。
 家庭裁判所の調査官、保護観察所長さんと席の順に指名すると、
 「子どものことで、保護者に指導すると、”どうして、そんなことまで家でせなあかんのですか”と、逆に文句を言う保護者が増えてきた」と口をそろえて言われた。
 さらに女性の弁護士さんは、
 「現在、離婚の調停中の事案をかかえているのですが、先日、母親が”今日は主人の給料日です。子どもの養育費のこともあるし、給料を差し押さえてください。”と突然、電話をしてきました。
 ”まだ、何も決まっていないので、それはできませんよ”と言っても、”それなら、私が子どもを養うのは無理だから、子どもを置いて私が出て行きます。”と言って電話を切るんです。
 心配になって児童相談所に連絡をして対応しているんですが、信じられないようなことが日常茶飯事になってきました。」と語った。
 最初に発言を求めた4~5人の委員が連続して、家庭の教育機能の低下を強調されたこともあって、後に続く大阪府警本部の方や子ども会育成連合会の代表、校長会の代表の委員等、次々と同じ趣旨の発言が続いた。
 もう何年も、この青少年問題協議会の委員をつとめてきた私にとっても、こんなことは初めてだった。

■子どもは被害者

 これは偶然の出来事ではないように思えてならない。
 ここ数年、貧困と格差が確実に広がってきている。大阪府の青少年にかかわる各団体の代表の委員たちが、口をそろえて家庭の崩壊について語るというのは、そういう深刻な状況が広がっている証あかしといえるだろう。
 学校現場から見た時、いわゆるモンスターペアレントという理不尽な要求をする保護者が増えたとか、離婚が増加し母子家庭の比率が高くなったとか、生活保護家庭が増えたとか、給食代も払えない、払わない家庭が増えたとかという話は、ここ数年何度も言われてきた。
 しかし事態はもっと深刻だ。虐待、ネグレクト、極端な放任、極端な過保護、貧困が教育の分野を越えて、福祉、医療、警察など社会全体の問題に広がっていることを、あらためて思い知らされた。
 親が朝食だけでなく夕食も作らない。家の台所に包丁もない。家のかたづけや掃除もしない。家庭訪問したらひきっぱなしのフトンがこんもりしているので、かけフトンをとると暖房もなく寒いから犬を抱いて寝ていた。畳からキノコが生えていた。数えあげればきりがないほど出てくる。
 貧困が家庭のぬくもりも家族同士のいたわりも奪ってしまった。
 いくら貧しくても、親がひもじい思いをしても、子どもには腹一杯食べさせてやりたいというような親子の絆も薄れてきている。
 もっと初歩的なこと、どのように子育てをしたらいいのか分かっていない親が増えてきた。
 深夜に幼い子どもたちを連れて、ファミリーレストランでタバコをふかしながら大声で談笑している若い母親たち。
 すぐに子どもに暴力をふるい、力でおさえつける親。
 子どものことよりも、自分のことを優先して平気な親。
 子どもよりも親を教育しなければならない。
 保健所が母子健康手帳の交付や乳幼児検診の時など子育てについて指導されているが、これに学校・幼稚園・保育所も含め社会全体の子育て支援が求められている。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員

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携帯電話に関する指導の徹底

■ネット上のいじめと携帯電話

 子どもたちの間に携帯電話が急速に普及し、次のような問題を生じるようになった。
(1)携帯電話によるメールの送受信件数が非常に多い場合。(2)携帯電話の過剰な使用が生活面に悪い影響を及ぼす場合。(3)携帯電話の使用マナーに関して問題を生じる場合。(4)有害サイトなど、携帯電話の使用にかかわる危険についての認識に乏しい場合。(5)いわゆる学校裏サイト等を利用し、特定の子どもに対する誹謗中傷を行うなどの場合。
 平成19年12月27日に出された、「子どもを守り育てる体制づくりのための有識者会議」アピールでは、「ネット上のいじめ問題」に対してとして、次のような呼びかけをした。
(1)携帯電話・ネットの危険性を、知っていますか? 教えましたか? (2)情報モラルについて約束しましたか? 親子で学びましたか? (3)お子さんがネット上のいじめで悩んでいないか聞いてみましたか? 学校と連携していますか? (4)学校と相談していますか?
 この内容を見ても分かるように、携帯電話はネット上のいじめにも深いかかわりがあり、その点に関する指導・対応は特に緊急性を持つものといえる。

■携帯所有に関する指導

 携帯電話の取り扱いをどうすべきかについては様々に検討され、それぞれの地域の状況、子どもの実態に応じて適正に指導・対応が行われている。
 携帯電話対応に関する意見を大きく分類すれば、「原則所有・使用自由」「使用禁止」「学校への持ち込み禁止」「所有禁止」ということになるが、多くの小・中学校では、文部科学省の通知(平成21年1月)の内容を踏まえて、学校の実態に即して対応しているようである。
 こうした措置・指導によって、少なくとも学校での教育活動に支障が起きる様なことは防げるものと思われる。しかし、ここで留意すべきは、その処置をとったとしても、それで抜本的な問題解決ということにはならないということである。
 携帯電話等に関する問題は次のように整理することができる。
(1)携帯電話等の学校への持ち込みに関する問題。(2)「ネット上のいじめ」やインターネット上の誹謗・中傷、違法・有害情報への関与の問題。(3)携帯電話の異常な使用や、関連しての交友関係上の問題等。(4)個人情報の流出の問題など。
 こうした問題について、すべての子どもが正しく認識し、情報モラル、適正な携帯電話等の使用のあり方を確かに認識し、いじめ等を許さない、危険に関与しない正しい行動がとれるようにならない限り、問題解決とはいえないのである。
 学校としては、携帯電話、インターネット等に関する指導の基本、中傷やいじめなど、深刻な問題への対応・指導の留意点を確かに押さえる必要がある。平成21年1月の文部科学省通知にある情報モラル教育、具体的な問題への対応、家庭との連携といった重点を押さえ、指導指針を明示して、適正かつ効果的な指導を行うことが課題になっている。

■学校における指導・対応の実際

 まず求められるのは、平成20年7月、平成21年1月に相次いで出された、文部科学省からの通知の趣旨を、全教職員の間で共通理解を図ることである。適切な指導に向けて、すべての教師が、携帯電話の使用のあり方、望ましい能力・態度に関してどの機会にどう指導を行わなくてはならないか、主体的な課題意識を持つことが大切である。
 携帯電話の学校への持ち込み、「ネット上のいじめ」に関する対応などの具体的な取組を中心に、平成20年11月に文部科学省が作成した『「ネット上のいじめ」に関する対応マニュアル・事例集』などの内容も視野に入れて自校の指導の在り方について協議する。その協議に基づいて、自校の指導指針を作成し、その内容を子どもや保護者に説明し、一体になって指導の徹底に努めることが求められる。
 例えば、学校への持ち込みの原則禁止、情報モラル教育、家庭との連携による携帯電話等利用のルール作りなどをばらばらに行うのでは効果が上がらない。子どもや保護者への趣旨の徹底、いじめや誹謗中傷を絶対にしない、様々な危険の被害にあわないための指導、望ましい態度の育成、問題の早期発見・早期指導のためには、全校的な指導体制の確立が欠かせない。
 学校としての指導方針を明確にし、自校の実態に立つこと、全校体制での取組、家庭・地域との連携という三つの側面を重視して携帯電話等に関する指導を推進することが必要である。
 これからの学校は、自校の目指す教育の目標をこれまで以上に明確に示し、具体的な指導内容を家庭・地域に十分に説明し、信頼関係に基づいて、ともに指導の徹底を目指すことが課題になっている。
 現在及び今後の社会を考えるとき、インターネット、携帯電話を排除することはとても考えられない。そもそも、携帯電話やインターネットというのはメリットとデメリットの両面を持った媒体である。携帯電話の機能、使用上の注意、情報モラル等の指導において、子どもたちに、もう一度しっかりと考えさせることが重要であるといえよう。

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寝る子は育つか

 子どもの生活スタイルが大きく変化する中、日本で言い伝えられてきた「寝る子は育つ」は今でも通用するのだろうか。
 今は夜更かしの時代だといわれる。ふた昔前までは「もう子どもの時間は終わったのだから寝なさい」というしつけがされていた気がする。しかし今はこうしたしつけは死語に近い。子どもを取り巻く放課後の世界が大きく変わっている。
 それでは、睡眠時間の「短い」子どもと「長い」子どもとでは生活スタイルはどう違っているのだろう。「寝る子は育つか」という問いに答えたい。

■睡眠時間の「長い子」VS「短い子」の特徴的なデータ

 ベネッセは、昨年全国的規模で子どもの生活時間の調査を行った。その結果の速報版が7月に出された。ここではそのデータに依拠しながら「寝る子」の意味を考える。
 ここでは、小学校高学年の睡眠時間の「短い」は8時間以下の睡眠、「長い」は9時間15分以上の睡眠、と考える。
 睡眠時間の「短い」子どもはどんな特徴を持っているのであろうか。
 睡眠時間の「短い」子どもほどテレビ視聴時間が長い。そして携帯を使っている。さらに音楽を聴く時間が長い。中高校生と同じ生活スタイルをとっている。
 睡眠時間の「短い」子どもほど昼寝をする。13%と一割を超える。この昼寝は放課後帰宅してからが多い。夕食時半分眠りながら食べた経験がある五十代以上の者には想像できないだろう。
 睡眠時間の「短い」子どもほど外遊びとスポーツをしない。外遊びを「しない」割合は36.6%(短い)> 22.0%(長い)となり、「短い」子どもほど数値が大きくなる。
 だからであろうか、睡眠時間の「短い」子どもほどぼーっとする傾向にある。「ぼーっとしない」割合は27.3%(短い)< 34.4%(長い)となり、「短い」子どもほど数値が小さくなる。睡眠時間の「長い」子どもほど何か夢中になる事柄があるのである。そして「短い」子どもは一人で過ごす時間も増える。

■睡眠の短い、長い子どものそれぞれの姿

 ここからは、これまでのデータに付け加えて両者の姿を浮き彫りにする。
 睡眠時間の短い子どもは26%とほぼ四人に一人である。彼らは寝るのが11 時と他の子どもに比べて遅い。当然ながら朝は早く起きている。そして普段の行動をみるとテレビゲームで遊ぶ時間は少ないものの、テレビ視聴時間は長く、音楽を聴いている。しかし外遊び・スポーツはしなくて一人で過ごす時間が多く、塾にも通い中学校を受験するつもりである。そして忙しいと実感し昼寝もしており、ぼーっとすることもある。また、規則正しい生活をしているとも思ってなくて、睡眠時間を増やしたいと思っている。
 しかし、彼らの将来の目標ははっきりしており、半数に近い子どもが大学以上の進学を望んでいる。実際、中学受験も3割を超える子どもが希望している。家庭では半数が自分専用の部屋をもち、パソコン、それから携帯電話を持っている。親の学歴も半数かそれに近い割合で大学卒(短大卒も含む)である。かなり裕福な家庭出身であるが、それは両親の高学歴と共稼ぎで支えられている、と推測できる。
 そこで気になるのは帰宅時間やテレビゲームなどで遊ぶ時間を決めていない子どもがいることである。
 一方、睡眠時間の「長い」子どもも25.1%とほぼ四人に一人である。彼らは睡眠時間の「短い」子どもと対照的である。寝るのは早く睡眠は十分である。テレビゲームはするものの、テレビ視聴時間は少なく外遊び・スポーツをしており、友達と交流している。塾も3 割強とそれほど通ってなくて中学受験(1 割に満たない)はあまり考えていない。そして、あまり忙しさを感じていなくて、ぼーっとした時間も少なく、昼寝も少ない(6%)。規則正しい生活をしており、睡眠時間は今のままでよいと思っている。
 確かに、将来の目標がはっきりしていないところはあり、自分専用の部屋やパソコン、携帯電話を持たないものの家に帰れば誰かが家にいる。
 睡眠時間の「短い」子どもたちの生活スタイルは、中高校生のような受験に追われ忙しくて疲れた姿である。一方、「長い」子どもの生活スタイルはふた昔前の姿のようである。
 こうした子どもの姿から、平成の時代でも「寝る子は育つ」といえる。しかしそれは四人に一人の割合である。睡眠時間の「短い」子どもも四人に一人いる。生活スタイルが二極化し始めているのが気になる。

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橋下知事が中学校で授業

■まるでオバマ状態

 体育館に“ウォー!”という歓声と大きな拍手が起こった。
 500人を超える中学生たちが橋下知事を迎えた瞬間だった。知事は半袖のカッターシャツにノーネクタイのクールビズスタイルで手を振りながら笑顔で入場してきた。
 平成21年6月26日午後、大阪狭山市立南中学校で「裁判員制度」についての授業が行われた。
 前日は東京で石原都知事と会ったり、横浜市の中田市長と会ったり、東国原知事が自民党から立候補かという報道が流れたりした超多忙な日程の中で、次の日に大阪の一つの公立中学校で生徒たちに授業をするというのである。
 その熱意というか意欲というか行動力に大人たちだけでなく、中学生たちも知事に拍手を送っている。
 「知事が来てくれるこの狭山南中学って、すごいと思う人?」と、進行役をつとめる「よのなか科」の藤原和博氏(大阪府教委特別顧問)が生徒たちに問いかけた。
 「ハーイ!」と一斉に手を挙げた生徒たちから、また歓声と拍手が起こった。
 まるでオバマ状態のスタートだった。

■授業で知事が訴えたこと

 突然、二人の男が体育館の横の入口から大声を出しながら乱入してきて、体育館フロアーの中央で二分間ほど、何やら叫んで走り去っていった。
 ここから授業が始まった。
 「今、立ち去っていった二人の人物の人相、服装など、覚えていることをカードに書いて班で話し合ってください。」
 突然のことで、生徒たちからはあまり意見が出てこないので、藤原氏が「知事ッ。弁護士として、目撃者の証言で大事なことって何ですか?」とふった。
 「皆が言ってくれたメガネとか40~50歳くらいの男というだけでなく、クツの色とか腕時計とか腕章をしていたとか個人が特定できる意見が欲しかったけれど、大切なことは、人間の記憶ってあいまいだということ、証人の意見もあやふやな記憶が多いことを知って欲しい。
 今年から裁判員制度がスタートしました。君たち中学生も、もう5、6年すれば裁判員に選ばれるかもしれない。足利事件の菅家さんのような間違いが起こらないように何が大切かしっかり考えよう。」と知事が説明。
 イギリスのバルガー事件という少年による幼児殺害事件を例にあげて授業は進んだ。
 大阪狭山市の吉田市長が検察官の最終弁論を読みあげる。橋下知事が弁護士として抗弁をする。生徒たちはシーンとして要点をメモしながら聞いている。
 バルガー事件の被告人の年齢は10歳、日本の少年法では14 歳未満は刑事罰の対象にならないのは甘いと思うかなど、各班に入っている地域のボランティアの大人や大学生と一緒に生徒たちは活発に意見を交わしている。
 「今、検察側の意見を言っていた人は、次は弁護側に立って話し合いをしてください。」
 授業は1時40分から始まり3時30分まで110分間続いた。知事は最後に「裁判というのは、証拠や罪の意識や殺意や判断能力など、いろいろな角度から考えなければならない。一方的な意見ではなく柔軟に立場も変えて考える力をつけて欲しい。」と語った。

■生徒にとって○○記念日

 大人もいれたら800人はいただろうか。
 梅雨の体育館はクーラーもなく、ものすごい暑さだった。
 その中で100分以上の授業に全員の生徒が知事の話を真剣に聞き、話し合い、意見を発表した。
 「授業って何だろう?」と思わされた。
 話し合う班をまわりながら声をかける知事の熱意を生徒が感じたのか、教材やテーマが生徒を引きつけたのか、生徒たちが日頃から立派なのか、進行役の藤原氏のリードがよかったのか、おそらく、それらが全て合わさって、悪条件の中でも授業が成立したのだと思う。
 狭山南中の生徒にとっては、大人になっても思い出に残る○○記念日となったに違いない。
 子どもたちの為になることなら、なんでもやってやろうという気持ちにあらためてなった一日だった。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員

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読書会のすすめ

■「子どもの読書週間」

 今年も4月23日から5月12日までの期間は「子どもの読書週間」((社)読進協主催)でした。
 今年の読書週間の標語は「笑顔のヒミツは本の中」というもので、作者の北島絢子さんは「ページを1枚めくるたびにドキドキわくわく、本にはいろんな力があります。その素敵な力がひとりでも多くの子どもたちに届きますように、…」とコメントしています。このドキドキわくわく感は子どもばかりではありません。大人にとっても素敵な本との出会いは胸が躍ります。
 最近、「子どもの読書週間」を知らない人が多いことを知り、いささかショックを受けました。しかし、このこと以上に最近の若い人たちの本離れは心配です。たくさんの書物に接して欲しいと願う教職員にもその傾向が見られます。パソコンに向かう時間の増加に反比例するかのように読書に費やす時間は少なくなっています。教職員の多忙化が拍車をかけているとはいえ、心配です。

■100冊の本

 かつて静岡県教育委員会は、『先輩からのメッセージ「99+1冊」』を教職員全員に配布したことがあります。教職員に読書のすすめをしたもので、「99 冊」は県知事はじめ、教育関係者、民間の方々合わせて、1200人にアンケートを実施し、選出しました。
 パンフレットには次のコメントを付しました。
 『「99冊」の本は、子どもへの温かい視点や教育への熱い思い、人としての生き方などに指針を与える先輩からの温かいメッセージであり、エールそのものです。そして、最後の「1冊」は、一人一人の教職員が選んだ座右の書「私が私に薦める1 冊」です。それは、授業や子どものことを考える時に自信やよりどころとなるものです。』
 分類は、哲学、歴史、社会科学、自然科学…とせず、今、教職員に求められる六つの分野、「誇りと使命感」、「子ども理解」、「実践力」、「教養と人間性」、「社会の変化に対応する力」、「人としての生き方」に区分し、読む上での便を図ったものにしました。

■全国学習状況調査と読書

 平成20年度の学習状況調査によれば、「読書が好きな児童・生徒の方が、国語の正答率が高い傾向にある。」と国は公表しましたが、静岡県(浜松市)では国語のみならず、算数・数学にも同じ傾向が見られました。また、小学校では、読書が好きな児童と好きでない児童との正答率の差が前年度より大きくなっているという結果も出ています。各学校では、朝読書も盛んに行われ、読書に関わる指導は、どの学校でもきめ細かに行われているものの、読書についても二極化が進んでいます。

■『橋をかける』

 これは、皇后様の著した本(4月10日発行)の題名です。副題に―子供時代の読書の思い出―とあります。本稿は、1998年(平成10年)の9月インドのニューデリーで開かれた国際児童図書評議会第26 回世界大会においてビデオテープによって上映された皇后様の基調講演を収録したものです。
 皇后様は、「私の子供の時代は、戦争による疎開生活をはさみながらも、年長者の手に護られた、比較的平穏なものであったと思います。そのような中でも、度重なる生活環境の変化は、子供には負担であり、私は時に周囲との関係に不安を覚えたり、なかなか折り合いのつかない自分自身との関係に、疲れてしまったりしていたことを覚えています。
 そのような時、何冊かの本が身近にあったことが、どんなに自分を楽しませ、励まし、個々の問題を解かないまでも、自分を歩き続けさせてくれたか。」と、その中でお述べになっています。
 本のもつ意味はこの短いお言葉の中に凝縮されているように思います。そして、読書の思い出として真っ先に、まだ小さな子供であった時のことで不確かな記憶ですが、と断わりをしたうえで、新美南吉の『でんでんむしのかなしみ』をあげ、「この話は、その後何度となく、思いがけない時に私の記憶に甦って来ました。」とお述べになっています。

■読書会のすすめ

 読書の大切さは教職員であれば誰もが認識しています。教職員が本を読まずして、子どもたちに本の素晴らしさを伝えることが困難なことも承知しています。しかし、現実は、読書に多くの時間を割くことは至難の業でもあります。
 時代は移り、生活環境も大きく変わってきました。読書が全てではありませんが、読書の時間は確保して欲しいと思います。できれば、昔のような読書会(放課後)を復活し議論をして欲しい。教育力が確かなものになります。
 孔子は、「学んで思わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し、思うて学ばざれば則ち殆(あやう)し」といっています。本を読むゆとりのない中で、読書するだけでなく、皆で議論をして欲しいというのは余りにも乱暴な提案のようにも思いますが、「教育」の問われている時代だけに、原点に返る一つの縁(よすが)として、改めて教職員の「読書会」を勧めたいと思うこの頃です。

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学習意欲・学習習慣を重視する指導改善

■課題を抱える子どもたち

 このところ、いくつかの学校の授業参観をしていて、気づかされることがあった。学習に取組む子どもの態度である。
 授業開始早々うつぶせになる子ども、形式的に黒板に目を向けてはいるけれども教科書は閉じられたままの子ども、話し合い活動の輪に加わらない子どもが目についた。
 今回の学習指導要領改訂に当たって、基本的な考え方の一つとして学習意欲の向上・学習習慣の確立が明示された。
 各種学力調査結果から把握される学力にかかわる問題の背後に家庭での学習時間など、学習意欲、学習習慣に課題があることも指摘されている。
 こうした課題に関して、
  ①家庭学習も含めた学習習慣の確立、
  ②子どもがつまずきやすい内容、基礎的・基本的な内容の確実な定着、
  ③意欲喚起に留意する学習活動の展開、
  ④意欲・習慣を含めた、学力に課題を抱える子どもへのきめ細かな指導、
などがこれからの学校の重要な課題になっている。

■学校経営上の留意点

 指導改善に際して留意すべきことについて、学習指導要領では次のように示している。
 「主体的に学習に取組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならない。その際、児童(生徒)の発達の段階を考慮して、児童の言語活動を充実するとともに、家庭との連携を図りながら、児童(生徒)の学習習慣が確立するよう配慮しなければならない。」(小学校学習指導要領総則教育課程編成の一般方針1、(生徒)は中学校、以下同じ)
 「(各教科等の指導に当たっては、)児童(生徒)の興味・関心を生かし、自主的・自発的な学習が促されるよう工夫すること。」(同指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項2)
 すべての子どもの意欲的、主体的な学習を実現させるためには、指導改善を促す学校経営が重要になる。まずは、教育課程編成の基本方針に、学習意欲の向上、学習習慣の確立を明確に位置付け、効果的な展開を推進することができる校内体制を整えることが求められる。
 次に、基本方針に基づく各教科等の年間指導計画のねらいに、学習意欲の向上、学習習慣の確立を明確に位置付け、共通理解を図ることが大切になる。
 指導計画等に形式的に示しただけでは、現実のものとはならない。効果的な指導の展開になるためには、指導改善に向けてすべての教員が課題意識を持って取組む、その取組の重点を明らかにすることが必要になる。
 第一はカリキュラム開発である。いま目の前にしている子どもの実態に立ち、担当する授業のどこをどう改善していくか、学年・学級における指導をどう工夫するかが課題になる。
 第二の課題は、学習環境の整備である。学習意欲に影響を及ぼす学習環境には様々な側面がある。教室環境、学習形態、学習集団づくりなど、カリキュラム開発を支える形での校内研究・研修の充実が欠かせない。

■指導改善の重点は何か

 基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力などの能力を育むことが各学校の中心課題である。その目標実現のためには、すべての子どもが興味を持ち自ら学習を展開させることを重視する授業の成立が大切になる。
 授業者としては、課題意識を持ち、どのような意図で、何をねらいとして指導を展開しようとしているかをとらえるとともに、どのような工夫によって学習意欲を喚起し、学習習慣に結びつけようとするかを考えることが必要である。そこで、次のような点について十分な共通理解を図り、全校指導体制の中ですべての教師が創意工夫を凝らすことが求められる。
  ①授業のねらいが明確に設定され、そのねらいが子どもにも意識されて、子どもの主体的な活動を促す。
  ②目標・活動・評価の筋道が一貫しており、子どもの自己評価・相互評価が授業に効果的に位置付けられている。
  ③指導する内容が、子どもの発達段階、興味関心に合致しており、学習内容が、子どもの問題意識に訴えかけるものになっている。

■決め手となる保護者との連携

 主体的に学習に取組む態度、自ら学ぶという学習習慣を養い、個性を生かす教育を充実させるためには、保護者との連携が欠かせない。家庭との連携を図りながら子どもの学習習慣を育てるためには、どのような働きかけが重要か、全教職員の間で次の点を中心に、十分な共通理解を図ることが配慮されなければならない。

・多様な授業展開によって子どもの学習意欲を引き出し、指導後の家庭学習に結びつく内容について工夫する。
・学校における学習指導の内容が様々な形で家庭に知らされ、課題意識が共有される。そのことによって、子どもの学習習慣の形成が自然に進められる。
・授業公開などによって、学校において展開している学習意欲重視の学習指導について共感的に理解することができるようにし、親子の話し合いを促す。
・子どもの学習習慣の確立には、家庭における働きかけが欠かせないことを説明し、学校、各家庭がともに子どもの指導に当たることができるよう連携を求める。

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バックナンバー 2009.1~4

[No.72]今年の教育改革 「鳥の眼」と「虫の眼」で

大阪教育大学監事 野口 克海 (2009.4 更新)

[No.71]変わらない「学校の教育目標」

山形大学地域教育文化学部教授 長南 博昭 (2009.3 更新)

[No.70]そんなに甘くないよ

大阪教育大学監事 野口 克海 (2009.2 更新)

[No.69]新教育課程に生きる研修の充実

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2009.1 更新)


バックナンバー 2008

[No.68]全国学力調査と情報公開

静岡文化芸術大学顧問 元静岡県教育長 杉田 豊 (2008.12 更新)

[No.67]北極星のような教育目標でよいのか

山形大学地域教育文化学部教授 長南 博昭 (2008.11 更新)

[No.66]こんな校長さん

大阪教育大学 野口 克海 (2008.10 更新)

[No.65 臨時号]「かかわり」から「つながり」へ

山形大学地域教育文化学部教授 長南 博昭 (2008.9 更新)

[No.64]新学習指導要領対応の教育課程編成

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2008.9 更新)

[No.63 臨時号]市町村教育委員会は分権の痛みを

日渡 円 (2008.8 更新)

[No.62]30年間で子どもの歩数が1万歩減った

千葉大学 明石 要一 (2008.8 更新)

[No.61]地域型小・中一貫教育の願い -宮崎県日向市の取り組みよりその3-

日向市教育委員会教育長 宮副 正克 (2008.7 更新)

[No.60]地震!その時教師はどうする?

大阪教育大学監事 野口 克海 (2008.6 更新)

[No.59]事後処置は迅速に 事後指導はじっくりと

大阪教育大学監事 野口 克海 (2008.5 更新)

[No.58]教育改革で格差社会を改造する

千葉大学 明石 要一 (2008.4 更新)

[No.57]人事は芸術だよ…

園田学園中学校・高等学校校長 園田学園女子大学教授 野口 克海 (2008.3 更新)

[No.56]子どもたちの「感性」が危ない

山形大学地域教育文化学部教授 日本感性教育学会副理事長 長南 博昭 (2008.2 更新)

[No.55]学校改善の鍵握る学校評価

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2008.1 更新)


バックナンバー 2007

[No.54 臨時号]「目標達成型」の学校経営

山形大学地域教育文化学部教授 長南 博昭 (2007.12 更新)

[No.53]「地域型」小・中一貫教育の願い -宮崎県日向市の取組よりそのⅡ-

日向市教育委員会教育長 宮副 正克 (2007.12 更新)

[No.52]たった4点で夜も眠れず -過剰反応はやめよう-

園田学園中学校・高等学校校長 園田学園女子大学教授 野口 克海 (2007.11 更新)

[No.51]全国学力調査の活用

静岡文化芸術大学副理事長 元静岡県教育長 杉田 豊 (2007.10 更新)

[No.50]教育相談体制の重要性

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2007.9 更新)

[No.49]教育はチームでするもの

園田学園中学校・高等学校校長 園田学園女子大学教授 野口 克海 (2007.8 更新)

[No.48 夏期臨時号]いじめを生まない学級づくり

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2007.7 更新)

[No.47]家族の絆を深めよう

千葉大学教授 明石 要一 (2007.7 更新)

[No.46]「教職大学院」と教員の資質能力

山形大学地域教育文化学部教授 長南 博昭 (2007.6 更新)

[No.45]規範意識を育てる

園田学園中学校・高等学校校長 園田学園女子大学教授 野口 克海 (2007.5 更新)

[No.44]活字文化の危機にどう対応するか

千葉大学教授 明石 要一 (2007.4 更新)

[No.43]学校改善を目指す取組みの重要性

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2007.3 更新)

[No.42]「地域型」小・中一貫教育の願い -宮崎県日向市の取り組みより-

日向市教育委員会教育長 宮副 正克 (2007.2 更新)

[No.41]組織は「目標」を持つとき動きだす

園田学園女子大学教授 野口 克海 (2007.1 更新)


バックナンバー 2006

[No.40]教育の原点にかえる

静岡文化芸術大学副理事長 元静岡県教育長 杉田 豊 (2006.12 更新)

[No.39]伊達公子さんとの対話

園田学園女子大学教授 野口 克海 (2006.11 更新)

[No.38]子どもの問題は、「生活習慣」から起こる?

山形大学客員教授 日本感性教育学会理事 長南 博昭 (2006.10 更新)

[No.37]説明責任に機能する学校評価

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2006.9 更新)

[No.36]幼・小・中連携の4つの目的

園田学園女子大学教授 野口 克海 (2006.8 更新)

[No.35]コンピテンシーと管理職

静岡文化芸術大学副理事長 元静岡県教育長 杉田 豊 (2006.7 更新)

[No.34]学校不信を招く、意識の<<ズレ>>

山形大学客員教授事 長南 博昭 (2006.6 更新)

[No.33]服装は人格の一部を変える

園田学園女子大学教授 野口 克海 (2006.5 更新)

[No.32]保護者、地域住民参画による学校改善

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2006.4 更新)

[No.31]教職員人事評価の改善

園田学園女子大学教授 野口 克海 (2006.3 更新)

[No.30]学校改善に関するPDCA

東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英 (2006.2 更新)

[No.29]もし危機が発生したら -学校の危機と対応策-

園田学園女子大学教授 野口 克海 (2006.1 更新)