主権者教育について考える

 主権者教育という言葉が使われるようになって久しい。主権者教育という言葉は「18歳選挙権年齢」の実現を契機として、総務省の「常時啓発事業のあり方等研究会」の最終報告書に登場した。官による定義づけ・言葉の使用はおそらく初めてだったと思われる。その後、「18歳選挙権」を可能にした「公職選挙法の一部改正」における参議院の特別委員会における付帯決議にも、主権者教育という言葉が示された。その付帯決議の内容は、以下のようなものであった。

本法により新たに有権者となる若年層において、民主主義の根幹である選挙の意義等の十分な理解が進むことが本法施行の前提ともなるべき重要な事柄であることに鑑み、主権者教育及び若者の政治参加意識の促進に向けた諸施策を速やかに実施するとともに、その一層の充実を図ること

 この付帯決議だけだと、官が考えている主権者教育の意味内容を正確に捉えることが難しいので、当時付帯決議が審議された際の付帯決議の提案者の答弁を見てみよう。

十八歳選挙権の実現に向け、政治教育、主権者教育の充実は極めて重要である。現在も、学習指導要領には、憲法や選挙制度、その仕組みについて教える記述はあるが、十八歳選挙権が実現したら、高校生の一部が選挙権を持つことになるので、民主主義社会における政治参加意識を高めるため、国や社会の問題を自分たちの問題として考え、捉え、行動していく、主権者としての素養を身に付ける教育を充実させていくことが大変重要であり、~以下省略

 つまり、提案者は、「国や社会の問題を自分たちの問題として考え、捉え、行動していく」そういった主権者を育成する教育として主権者教育を捉えていた。単に選挙に行くだけ、若者の投票率を上げるだけ、そういったことを目的とした「浅い」主権者教育は当然ながら想定されていないのである。その際、前回のコラムにも示した当事者性も重要になるし、根拠やデータに基づいて合理的な政治に係る意見を述べることができるようになる主権者育成も大切である。他方で、この間、根拠やデータに基づく意見形成だけではなく、主権者教育を深掘りするためには、「声」を聴くという学習活動も重要になると筆者は考えている。
 先日、筆者の大学に所属する大学2年生が「消費税を上げるべきか下げるべきか、維持すべきか」といった主題で模擬授業を行った。様々な資料を読み取らせながら、消費税のあり方を学生(生徒)に考察させていた。その際、授業を参観していた税理士が、「消費税は『預かっている税』であり、所得税とその点が違う。実際に多様な事業者は、その『預かっている税』を企業の運転資金に回している。そして、運転資金が枯渇すると、滞納が生じる。消費税の滞納額がどれだけあるか考えてほしい。消費税のあり方を考えるうえで一番大事なポイントは景気動向だ、ということになる」と発言していた。また、消費税の問題を考えるうえでは「事業者の声」が大切であることを述べていた。
 筆者は、その発言を聞いて、「我が意を得たり」と感じた。根拠やデータだけでは見えないことが多くある。むしろ、見えない点がその問題を考えるうえでの本質であることがある。主権者教育は、そろそろ、「根拠やデータ」だけではなく、「声」に依拠するものに転換すべきである。声を大きくして言いたい。

「お金」を学ぶのは何のため?

1.はじめに

 生徒から、「なぜ社会科で『お金』を学ぶのか」と聞かれたら、どのように答えるのが正解でしょうか。

 自身の生活設計を見据え、資産形成の方法を身につけるため?これでは家庭科との区別がつきにくくなりそうです。いや、家庭科でも資産形成のハウトゥーまでは教えられていませんね。では、「教科書に載っているから!」との答えはいかがでしょう。正解ではあるけれども、何とも物足りません。そこで、少々ずるいのですが一問一答的に答えるのではなく、社会的な見方・考え方を働かせ、「分業と交換、希少性などに着目して考えてごらん」と問い返すことをおすすめします。生徒の素朴な疑問が「学び!」へと発展していく瞬間を目のあたりにすること請け合いです。

2.金融教育の歴史

 社会科での「お金の教育」に触れる前に、まず、戦後日本の金融教育の歴史をふり返ってみましょう。金融広報中央委員会Webサイト(アーカイブサイト)に「金融広報中央委員会の歩みと最近の取組み―創立70周年に寄せて―」との記事があります(武井 2022)。
 それによると、第二次世界大戦後、日本は戦後復興のために巨額の資金が必要となり、政府と日本銀行が主導して国民に貯蓄を奨励、蓄積された資金を重工業などに優先的に割り当て、復興の礎が築かれた、とのことです。その際、貯蓄を全国一体となって推進するために1952(昭和27)年に創立されたのが貯蓄増強中央委員会でした。貯蓄増強中央委員会は、1953年初刊、70年以上過ぎた現在まで毎年発行されている政府刊行物『明るい暮らしの家計簿』の普及に努めたほか、「こども郵便局」(学校に近い郵便局が親局となり、学校に特設窓口を設置して運営。授業に差し支えのない時間を選んで、学童の貯金奨励と社会教育に資する目的で開局)を全国の学校に展開させ、貯蓄習慣の育成に一役買ったのです。
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 1990年代半ばのバブル経済崩壊後、橋本内閣、小泉内閣によって金融機関に対する大規模な規制緩和が行われました(日本版金融ビッグバン)。2001(平成13)年度の「骨太の方針」で「貯蓄から投資へ」とのスローガンが掲げられ、従来のような「貯蓄」に焦点をあてるのではなく、広く金融経済に関する情報を提供することが国民のニーズにかなう、との認識が高まっていきました。そうした中、2001年に貯蓄増強中央委員会は金融広報中央委員会に改称し、個人の金融リテラシー向上に努める組織へと衣替えしたのです。
 こうした社会の変化を受けて、2008年版学習指導要領で、公民的分野の改訂の要点に「法や金融などに関する学習の重視」がうたわれました。公民的分野、とりわけ経済領域の授業で「お金」を学ぶことが重視されることとなり、現行の2017年版学習指導要領に引き継がれています。

3.「お金」を通した「主体的に学習に取り組む/社会に関わろうとする態度」の育成

 現行学習指導要領は、各教科等で育成することが求められる資質・能力が「内容」として明記されていますが、その書きぶりが、

 次のような知識(及び技能)を身に付けること。

 次のような思考力、判断力、表現力等を身に付けること。

と、「2観点」で統一的に示されたことから、学習の目的や主体性、すなわち「何のためにこの内容(本稿では「お金」)を学ぶのか」が見えにくくなっているのも確かです。ただし、公民的分野では、

 国民の生活と福祉の向上を図ることに向けて、次のような思考力、判断力、表現力等を身に付けること。<大項目B(2)>

 地方自治や我が国の民主政治の発展に寄与しようとする自覚や住民としての自治意識の基礎を育成することに向けて、次のような思考力、判断力、表現力等を身に付けること。<大項目C(2)>

(下線は筆者付記)

など、思考力、判断力、表現力等を身につけた先にある個人や社会の在り方を方向目標として明記している箇所もあり、これは他教科、他の分野には見られない特徴的な書きぶりです。個人と社会との関わりを、「お金」を仲立ちにして考察したり、理解を深めたりすることで社会参画意識の涵養につながることが期待されます。

【参考文献】

  • 武井敏一「金融広報中央委員会の歩みと最近の取組み―創立70周年に寄せて―」金融広報中央委員会(現 金融経済教育推進機構(J-FLEC))、2022年
    https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/k_kikou/70th.html
  • 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』東洋館出版社、2018年
  • 郵政省『郵政百年史』吉川弘文館、1971年

当事者性について考える

1.社会科教育でのホットな話題は…

 社会科教育研究でホットな話題は、いくつかありますが、「当事者性」もその一つでしょう。児童・生徒は、「当事者性」をいかにもち、学習問題・学習課題について主体的に追究できるかが問われるし、教師は、児童・生徒が「当事者性」をもって学習問題・学習課題を追究する際に、どのように学習問題・学習課題を設定するのか、学習の組織化において、教師はどのような役割を果たし、児童・生徒を支援するのか、が問われます。児童・生徒を「当事者性」に寄せすぎると、第三者的な判断はできにくくなるかもしれません。他方で、「当事者性」をもった児童・生徒から教師が想定しない思わぬ発言が導出され、それをきっかけに「深い学び」につながるかもしれません。

2.こうのとりのゆりかご・いのちのバスケット~「赤ちゃんポスト」について考える~

 本稿では、筆者が最近参観した授業を事例として取り上げたいと思います。それは、少年院での法教育授業で、テーマは「赤ちゃんポスト」の是非です。「赤ちゃんポスト」を巡る議論は最近でもその設置の際に、様々な意見が出される論争問題です。入所者には、赤ちゃんポストへの賛成及び反対の意見をあらかじめ提示します。賛成の意見としては、「命を守る」「赤ちゃんが不適切な環境で成長することを妨げる」等であり、反対の意見としては、「親子関係が完全に切れる」「赤ちゃんが適切な環境で育成できる保証はない」「育児放棄につながる」です。これらの意見をあらかじめ提示し、「赤ちゃんポスト」設置の目的を考え、その目的は正しいのかを入所者に問います。その後、「赤ちゃんポスト」という制度が、手段として最適なものなのかについて、入所者が考察していきます。
 入所者は、概ね目的は正しいと考えていました。他方で、「赤ちゃんポスト」といった「しくみ」については、「赤ちゃんポストに入った赤ちゃんは劣等感を感じる」「里親との関係が悪くなった場合は赤ちゃんの精神衛生上よくない」「赤ちゃんポストに入った赤ちゃんは、親の名前を知ることができない。これは、親に会いたくても会えないことになる」といった意見が次々と出され、熱心な意見交換があり、かつ、それぞれの入所者の「こだわり」があり、その「こだわり」から「赤ちゃんポスト」の是非について、比較的否定的な意見も出されるようになり、「自分の出自を知ることができるしくみに変えるべき」といった意見も出されました。この授業は、ファシリテーターに長けた弁護士がグループディスカッションを先導しましたが、この弁護士曰く「それぞれの言い分を丁寧に聞き取り、反論するところは丁寧に反論していた」と議論の展開に感心していました。
 筆者もこの議論を聞いて感動しました。少年院の入所者の印象は、発達障害傾向がある子もいるし、ネグレクトを受けている子もいると聞いていました。かみ合う議論ができるかどうか、心配していましたが、その心配は杞憂に終わりました。最初の話題に戻りましょう。「当事者性」です。入所者それぞれの背景事情を筆者は知りません。知りませんが、おそらくそれぞれが抱えている背景があり、今回の「赤ちゃんポスト」の是非の熱心な議論につながったように思います。「当事者性」が近いテーマが熱心な議論につながると感じました。
 今後も「当事者性」について、考えていきたいと思います。

私の「お金」が社会を変える!?

 小・中学校での「お金の教育」と聞くと、多くの方は家庭科や技術・家庭科(家庭分野)での学習を思い浮かべることでしょう。「お金」は、生涯を見通した自分らしい人生を設計するために、働いて給料などの対価を得たり資産運用したりして個人のよい暮らし(well-being)を達成するために必要不可欠なものだからです。
 ところが今、家庭科だけではなく、社会科での「お金の教育」が注目されています。どうしてなのでしょうか。少しだけ、社会の変化や学習指導要領の内容をもとに考えてみたいと思います。

1.平成20(2008)年版学習指導要領で示された「法や金融などに関する学習の重視」

 平成20(2008)年版学習指導要領と言えば、公民的分野において、対立と合意、効率と公正などを取り上げ、現代社会を捉える見方や考え方の基礎を養う学習が新たに設けられたことが注目されました。現行学習指導要領では見方・考え方を働かせることが全ての教科等で行われていますが、その先駆的な役割を果たしたと言えるでしょう。
 実はこのとき、公民的分野の改訂の要点には「社会の変化に対応した法や金融などに関する学習の重視」もうたわれており、学習指導要領解説には「なぜ、金融は必要なのか、どうしてそのような仕組みがあるのかということを理解させる」と、すでに示されていたのです。この「問い」に、皆さんはどのように答えるでしょうか。「お金」と言わずに「金融」と示しているところがポイントかもしれません。

図 中学校社会科公民的分野の流れ
(「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編」p.134より作成)

2.現行学習指導要領で示された「経済活動や起業などを支える金融」

 現行の平成29(2017)年版学習指導要領では、公民的分野の「内容の取扱い」に「起業について触れるとともに、経済活動や起業などを支える金融などの働きについて取り扱うこと」と示されました。これまでも公民的分野で学習されてきた金融の仕組みや働きに加えて、「なぜ、金融は必要なのか」との問いに対する答えの一つが、学習指導要領に示された、と捉えられるのではないでしょうか。
 さらに学習指導要領解説を紐解いてみると、公民的分野で金融を扱うのは「少子高齢化、情報化、グローバル化などの社会の変化に伴って、今後新たな発想や構想に基づいて財やサービスを創造することの必要性が一層生じることが予想される中で、社会に必要な様々な形態の起業を行うことの必要性に触れること、経済活動や起業などを支える金融などの働きが重要であることを取り扱うことを意味している」とあります。しかし、私たちの「お金」が経済活動や起業などに生かされていることを理解することは、社会科での「お金の教育」の入口に過ぎません。むしろ、ここからが先生方の腕の見せどころでしょう。公民的分野の各領域の学習と関連付けていくと、私たちが納めた税が、現在世代のみならず将来世代も含め、持続可能な社会の形成に資することや、NPO法人などへクラウドファンディングされた「お金」が、環境問題など地球規模の課題、まちづくりなどの地域課題の解決に役立っていることなどを考察させる深い学び(以後、「学び!」と示します)が、自由自在に展開できそうです。このように、私の「お金」が社会を変えていくという観点から学習を進められるのは、社会科ならではの「学び!」と言っても過言ではありません。

3.金融リテラシーを身につけ、「豊かな人生/よりよい社会」の実現を

 現在、日本では「貯蓄から投資へ」の流れを推し進める政策が採られています。児童生徒が将来、実際に投資を行うかどうか、は別として、幼・小・中・高の発達段階に応じて、着実に金融リテラシーを身につけることができる学習を進めることが大切であることは言うまでもありません。
 金融リテラシーについて、OECDでは「金融に関する健全な意思決定を行い、究極的には金融面での個人のよい暮らし(well-being)を達成するために必要な、金融に関する意識、知識、態度及び行動の総体」のことを言う、と定義しています。ここに示された「個人のよい暮らし(well-being)を達成するために必要な(リテラシー)」を直接的に捉えると家庭科で育成が求められるリテラシーとなりますが、一方で、個人が行うESG投資などや、金融政策を通して社会を豊かに発展させ、ひいては(究極的には)個人のよい暮らし(well-being)を達成する、と捉えるならば、まさに社会科の「学び!」と言えるでしょう。

【参考文献】

  • 文部科学省『中学校学習指導要領解説 社会編』日本文教出版、2008年
  • 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』東洋館出版社、2018年