Vol.04 佐藤可士和さん
クリエイティビティを育てるのが美術

 世の中を“美術でのつながり”を探って、あらゆる分野で活躍される人物にインタビューするコーナー。
第四回は、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんです。

佐藤可士和(さとう・かしわ)/1965年、東京都生まれ。クリエイティブディレクター、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。2016年度文化庁文化交流使。博報堂を経て、2000年に「SAMURAI」設立。ユニクロ、楽天グループなどのブランド戦略、ふじようちえん、カップヌードルミュージアムのトータルプロデュースなどを手掛ける。

 まず、デザイナーになる人じゃなくてもデザインという視点は社会に出てから大切なんでしょうか?

というか、めちゃめちゃ大切です(笑)。昨年、経済産業省・特許庁が「『デザイン経営』宣言」という報告書を出しました。それは、経営の中にデザインという考え方を導入したほうがうまくいくというものです。事実、現在世界を席巻している素晴らしいブランドや成功している企業はそのようにしています。僕もその仕事の一端を担っていますが、もはや社会に出たときにデザインという概念が分かっていないと仕事が進まない時代になっていると言っても過言ではないでしょう。

 中学で初めてデザインという分野を学ぶことになるわけですが、デザインの面白みをどのように授業で伝えていけばいいと思いますか?

数年前から、僕は慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで「未踏領域のデザイン戦略」という授業を行っていて、そこでは「デザインはビジョンを設計すること」だと教えています。今はまだないけれど、こうなったらいいなっていう未来のビジョンを形にするプロセスのすべてがデザインです。別の言い方をすると、理想と現実とのギャップが課題としてあって、それをクリエイティブの力を使って解決していこうというのが、絵画や彫刻とは違うデザインの役割=領域なんです。僕としては、「デザインとは問題解決である」ということを中学・高校で学んでほしい。そうすると、大人になったときにビジネスにおいてデザイン的に解決できることが、たくさんあることが分かると思います。

美術の「術」のスキルの部分は、コンピュータやAIが代行してくれる。これからの時代に必要なのは、「美」のクリエイティビティの部分だという。

 佐藤さんはデザインに関わるお仕事を長く続けてこられていますが、時代とともにデザインに対する考え方や視点は変わってきているのでしょうか?

もともとデザインには、問題や課題を解決する力や役割があります。それこそ、石器時代に石器を作っていたというのもまさにそうで、狩りや生活にはどういった形が使いやすいか、効率がいいか、その問題解決法こそが、プロダクトデザインそのものなんです。

 そうすると、いろんなところに授業のネタはいっぱいあるということですね。

そのとおりです。街中いたるところにデザインは溢れています。以前、小学生を対象に、身の回りにあるデザインを気にしてみようというワークショップをやりました。はじめに郵便局やトイレ、それにユニクロという文字を羅列して見せます。ただ文字だと小さくて読めない。それを次の瞬間、アイコンにパッと変えて見せると、一瞬で何であるかが認知できるんです。これがデザインのパワーだと感覚的に理解できて、腑に落ちる。おまけに言語を超える。多分ここにアメリカ人や中国人やドイツ人がいたとしてもほぼ分かる。それがビジュアルコミュニケーションのパワーで、マークや絵だと認識していると思いますが、言語の一種で、視覚言語というんです。

 ところで佐藤さんの考える「造形的な視点」とは?

形や色をコントロールすることだけがデザインだと思われがちですが、何が課題かを発見する視点が重要だと思います。大学で教えているときは「課題発見、コンセプト、ソリューションという順番でやりましょう。」といっています。ソリューションが表現になりますが、課題設定が一番始めにやることで、実はそれが難しいのです。だからこそ、課題発見力が重要になります。これからの時代、最も必要な能力はクリエイティビティによる問題解決だと僕は思っています。そしてその能力を一番発揮できるのは美術の授業のはずなんです。ひょっとしたら「美術」という言い方がよくないのかもしれない。「術」を学ぶというのではなく、本当は「美」のほうが大事で、「クリエイティビティ」という名前で学んだほうが、意味があるような気がします。

 誰にとっても「クリエイティビティ」は大切なことですね。とても重要なご指摘だと思います。

クリエイティビティという問題解決力がなければ、社会は問題だらけになります。また、これからの時代は、AIが進化して、ロボットや機械がさまざまなことをやってくれるので、AIにできないことを人間がやっていかないとダメな時代になります。そうすると、人間にできることはまさにクリエイティビティですよね。もっと効率よくアイデアを出したり、問題を発見するなど創造性という部分は人から言われて作業することとは違います。

 これからの時代の展望もお聞きできました。最後にお聞きしますが、佐藤さんが中学校の美術の授業をするなら、どんな授業をされるでしょう?

やはり、「なぜ、美術を勉強すると思う?」って、生徒に聞くと思いますね。僕も子どもの頃に、なんでこんなことをやらないといけないのかと思いながらずっとやっていたので(笑)。もちろん、子どもだからロジカルに説明してもなかなか理解してもらえないかもしれない。全員がデザインができるようにならなくてもいいんです。これは優れている、これはそうでもないということを判断できる目を養ってほしい。そのためには、良いものや本物をたくさん見ることが重要です。例えば、VRを使って、行ったことのないバチカン美術館でミケランジェロを鑑賞するとか。あるいは、ゲームやYouTubeなど子どもたちが大好きなものを取り上げて、そこに介在しているUIやUXといったデザインを気付きながら学ぶとか。そもそも「美術は何のために学ぶのか」ということが少しでも分かると、とても面白くなるんじゃないでしょうか。家に帰って、親に説明したくなるような、そんな授業になったらいいですね。

取材を行った佐藤可士和さんの事務所は、余分なものがそぎ落とされた極めてシンプルな空間。この研ぎ澄まされた場所から、さまざまなクリエイティビティが生み出されていくのだろう。

 

取材後記
今回は、デザイナーでもあり、美術にどんぴしゃつながっている佐藤さんのアタマの中をいろいろと探らせていただきました。
予想以上にお話しいただき、“これまで”と“これから”の社会に対するアンテナの張り方を垣間見た機会でした。
超整理されたオフィスで、途中でいただいた炭酸水が忘れられません。
来客対応にとてもいいですね。(Y)