《札幌発信シリーズ》 スノーワンダーランド【A表現(1)造形遊び】

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

図画工作・札幌発信シリーズ<7>

指  導  計  画

題材名

スノーワンダーランド【A表現(1)造形遊び】

学年

総時数

題材のねらい

  • 自分の思いの形に変えて固めることができる雪の性質を理解し、カタヌキをしたり、丸めたりするなど様々な形の雪をつくる
  • カタヌキはその硬さから積み上げることができることや、同じ形のものを並べてできる様子の面白さに気付き、活動を工夫する
  • 大きさの違うカタヌキを重ねて置いたり、ビーズやつまようじなどの材料と組み合わせたりするなど、雪や場所からイメージを広げ、思い付いた活動をする

材料

バケツ、プリンカップ(カタヌキをつくるのに使用)、シャベル、ビーズ、つまようじ、カラーセロハン、ポリテープ、モール、カラーポリ袋

評価基準

造形への関心・意欲・態度
雪に関心をもち、思い付いた活動を楽しんで取り組もうとしている。

発想や構想の力
雪の感触や特徴、形や色、他の材料との組合せなどから思い付いたことを考えている。

創造的な技能
雪や組み合せる材料の特徴を生かしながら並べ方や重ね方、組合せ方を工夫して活動している。

鑑賞の能力
友だちと互いの活動や作品を見合い、よさや面白さを感じ取っている。

学習内容

  1. カタヌキづくりに挑戦 ~雪の特徴をつかむ~
  2. カタヌキを使って、何ができるかな? ~雪の特徴を生かす~
  3. 友だちの作品を鑑賞しよう ~アイデア吸収タイム~
  4. 作品をもっと楽しくしよう ~アイデアを試す~

学習展開

-1時間目開始-

 同じ時期には、社会科「昔の人々が受けつぐ行事」の学習で「さっぽろ雪まつり」について調べていた。大きく、本物そっくりの雪像を見ている経験や、材料の面白さが子どもの意欲を引き出しているように感じた。

(1)カタヌキづくりに挑戦 ~雪の特徴をつかむ~

 題材の導入時には、次の1~5について説明した。

  1. 題材名から
    ・雪を使って自分たちの楽しい世界をつくろうとめあてをもった
  2. 活動のねらい
    ・バケツに雪を入れてつくったカタヌキを使って活動することを確認した
  3. 注意すること
    ・スコップの使い方
    ・カタヌキを高く積み上げると倒れる危険性も(3段目まで)
    ・カタヌキのつくり方
  4. 子どもからの質問
    ・地面を掘って穴をつくってもいいか
    ・校庭にある木や彫刻、遊具などを使ってもいいか
  5. カタヌキづくり
    ・学校で用意した清掃用のバケツを使用
    ・自分でバケツを用意した子どももいた

 話を聞いている子どもたちは、「早くやってみたい」と、わくわくしているようだった。説明が終わってから活動場所へ移動した。まず、自分たちの場所を決めてから活動を開始させた。

<活動初めのころ>

カタヌキづくりでは、「できた!やった!」と、夢中になって活動に取り組んでいた。

カタヌキづくりでは、「できた!やった!」と、夢中になって活動に取り組んでいた。

「もっとたくさんつくろう」と、一人でいくつものカタヌキをつくる子もいた。

「もっとたくさんつくろう」と、一人でいくつものカタヌキをつくる子もいた。

 スコップで雪をバケツに入れ、固めたあと、ひっくり返すカタヌキの行為は大変楽しく、20分間で3~4個つくる子もいた。そして次第に、つくることから置き方に楽しさを感じる子どもが増えてきた。

はじめは、ただカタヌキを置いていた子も積み上げられることにも気付き始めた。

はじめは、ただカタヌキを置いていた子も積み上げられることにも気付き始めた。

カタヌキで滑り台の周りを囲んでいた。「滑り台のある秘密基地みたいにしたい」と、活動に取り組んでいた。

カタヌキで滑り台の周りを囲んでいた。「滑り台のある秘密基地みたいにしたい」と、活動に取り組んでいた。

「ピラミットみたいにしたい」と、積み上げる工夫が見られた。

「ピラミットみたいにしたい」と、積み上げる工夫が見られた。

自分のもってきたバケツでカタヌキをつくる子もいた。「バケツの形がきちんとでる」と、雪の特徴を理解して活動していた。

自分のもってきたバケツでカタヌキをつくる子もいた。「バケツの形がきちんとでる」と、雪の特徴を理解して活動していた。

(2)カタヌキを使って何ができるかな?~雪の特徴を生かす~

 始めからカタヌキの置き方を考えて並べたり、積み重ねたりする子どもだけでなく、何気なく置いていた子もいた。「どうしてこう置くの?」「何に見える?」と聞いてみることで、「家の壁みたい」と自分の活動の面白さに改めて気付いたり、今後の活動に見通しをもちさらに工夫したりする様子が見られた。カタヌキの置き方を整理してみると、大きく二つに分けられると考えた。

<アイデア1>並べる・積み上げる

モニュメントを囲むようにしてカタヌキを並べていた。

モニュメントを囲むようにしてカタヌキを並べていた。

決めた場所を囲むようにしてカタヌキを並べていた。「ケーキ屋さんなの」と教えてくれました。

決めた場所を囲むようにしてカタヌキを並べていた。「ケーキ屋さんなの」と教えてくれました。

「家の壁にしたい」と、円を描くようにカタヌキを並べる工夫が見られた。

「家の壁にしたい」と、円を描くようにカタヌキを並べる工夫が見られた。

<アイデア2>大きさや形の違うカタヌキを組み合わせる

「動物の耳みたい」と、雪玉にしてカタヌキに載せていた。

「動物の耳みたい」と、雪玉にしてカタヌキに載せていた。

「高くなったよ」「同じものをいくつもつくれそう」と、新しい発見を活動に生かす姿も見られた。

「高くなったよ」「同じものをいくつもつくれそう」と、新しい発見を活動に生かす姿も見られた。

(3)友だちの作品を鑑賞しよう ~アイデア吸収タイム~

 子どもは、(1)と(2)の学習を終えると「もっとこうしたい」と自分なりのアイデアを思い浮かべる様子があり意欲を深めていた。そこで、(3)の鑑賞の活動を取り入れた。「すごいな」「まねしたい」とつぶやくなど、自分とは違う工夫を多く発見させることで、その後の活動ではより創造的に取り組む子どもの姿を引き出そうと考えた。

-1時間目終了-

-2時間目開始-

 本時の導入時には、実際に作品を見ながら面白さを紹介したり、新しいアイデアをもっている子どもに発表させたりした。本時では、より創造的にいろいろな大きさや形のカタヌキや他の材料を組み合わせることをねらいとしていたことから、大きさや形の違うカタヌキを組み合わせる<アイデア3>をさらに発展させることと、ビーズやつまようじなど、他の材料を組み合わせる<アイデア4>に焦点化することにした。

(4)作品をもっと楽しくしよう~アイデアを試す~

 活動中には、「このあとどうなるの?」「全体も見てごらん」など見通しが持てるよう支援した。子どもは「このとがっている部分が屋根で、お城です」と自らの活動を説明するなど鑑賞の活動を取り入れたり、話し合ったりしながら見通しをもって取り組んでいた。また、教師も「とがっているのは屋根なんだ。面白いね。」と価値付けをしたり、「屋根は一つなの?」「屋根には他に何か付いていないの?」と尋ねたりして、子どものイメージが広がるようにかかわった。

<アイデア1>並べる・積み上げる

カタヌキで囲んだ真ん中には、穴を掘り座れるようにした家

カタヌキで囲んだ真ん中には、穴を掘り座れるようにした家

小さなバケツで作ったカタヌキを積み上げた。左端の高い塔で門を表した。

小さなバケツで作ったカタヌキを積み上げた。左端の高い塔で門を表した。

<アイデア2>大きさや形の違うカタヌキを組み合わせる

カタヌキで囲んだ中にはイスを置き、お店を表した。たこやきのようなカタヌキをつくって「これを食べられるお店なの」と教えてくれた。

カタヌキで囲んだ中にはイスを置き、お店を表した。たこやきのようなカタヌキをつくって「これを食べられるお店なの」と教えてくれた。

体育で使うコーンでカタヌキをした。「とがったカタヌキはお城の屋根だよ」と、形からイメージを広げて行く姿が見られた。

体育で使うコーンでカタヌキをした。「とがったカタヌキはお城の屋根だよ」と、形からイメージを広げて行く姿が見られた。

いろいろな形のカタヌキを組み合わせた。中心のカタヌキに顔をつくった美しい作品。

いろいろな形のカタヌキを組み合わせた。中心のカタヌキに顔をつくった美しい作品。

カタヌキだけでなく、雪で仕切ったり、ビーズを置いたりして部屋を表した。

カタヌキだけでなく、雪で仕切ったり、ビーズを置いたりして部屋を表した。

<アイデア3>ビーズやつまようじなど、他の材料を組み合わせる

カタヌキの中にビー玉を入れ目玉にした。いつも三匹いっしょの動物を表した。

カタヌキの中にビー玉を入れ目玉にした。いつも三匹いっしょの動物を表した。

コーンで作った3つのカタヌキはモンスター。奥にある積み上がったカタヌキにビー玉を入れ、きらきら光る宝物を表した。「モンスターが宝物を狙っているんだ」と話してくれた。

コーンで作った3つのカタヌキはモンスター。奥にある積み上がったカタヌキにビー玉を入れ、きらきら光る宝物を表した。「モンスターが宝物を狙っているんだ」と話してくれた。

-2時間目終了-

【監修者:北海道教育大学岩見沢校 准教授 阿部宏行】

いい先生の「三つの条件」と「三つの輪」

■ 私の失敗談

 私は大学を出るとすぐ、社会科の担当として中学校に赴任した。2年E組の担任になった。着任して1ヶ月後の連休あけに学年のバレーボール大会が予定されていた。
 高校生の時からバレーボール部に所属し、スポーツが大好きだった私はクラスの子どもたちと一生懸命練習をした。
 いよいよ球技大会前日が来た。
 「明日は、ボクたちのクラス、絶対優勝するぞ! エイエイ・オー」と気勢を上げて帰らせた。
 班ノートを集めて職員室にもどった時、最初の班ノートを見て驚いた。
 K君がたった1行、
「明日、球技大会、休みたいなあ……」
と書いていた。
 ガーン ! と頭を殴られたような気がした。そういう生徒がいるということに気がついていなかった。
 私は、明日運動会というと「ヤッタァー、明日は勉強もないし、楽しい運動会やぁ」と喜ぶ子ども時代を過ごしてきた。
 「明日、球技大会 ! 」というと、子どもはみんな自分と同じように、「ヤッタァー! 」と思うものだと決めつけていた。
 「明日、運動会」というと、目の前がまっ暗になる生徒がクラスには何人かはいるということに全然気がつかない最低の教師だった。
 K君の家に走って行った。
 「オイ、明日休もうと思ってるやろ ! 絶対あかんぞ ! そんなん上手な子だけ出て優勝しても、ひとつも値打ちないやん。応援も大事やし、全員で、みんなで力を合わせよう」

■ 三つの条件

 最初のこの体験は衝撃だった。子ども一人ひとりが見えていなかった。気がついていなかったことがショックだった。
 教室には様々な生い立ちや家庭の事情をかかえた子どもたちがいる。
 「体の弱い子の気持ちを分かろうと努力する教師にならないかん」
と思い知らされたことがきっかけとなって
「勉強の分からん子の気持ち」
「家庭的にめぐまれない子の気持ち」
を分かろうとすることの大切さを教えられた。
 この三つは私の教師論の原点のひとつとなっている。

■ 「先生が嫌いです」(三つの輪)

 その年、“一年間を振り返って”という作文を書かせた時、「野口先生は休み時間、いつも先生のまわりに集まっていくM君やI君、Oちゃんなどとばかり楽しそうに話している。だから、私は野口先生が嫌いです。」と書いた子がいた。S子である。
 この作文もショックだった。
 確かに、若い教師である私は休み時間、いつも話しかけてくる生徒たちに囲まれていた。
 自分では、次から次へと、いろんな子どもたちと話をしているつもりだったが、よく考えてみると教師のまわりには、子どもたちが三重の輪になっている。
 先頭を切って「せんせい!」と近づいて、身体に触れるほど寄って来る子、その子と一緒に手をつないで来ているのだけれど、ちょっと後にまわって、ひかえめな子、そして、先生と仲良く話し合ってる様子を教室の窓のところにもたれて、ジーとこっちを見ている子の三重の輪である。
 時々は、窓ぎわに立ってる子の手を引っぱって「ちょっとこっちにおいで!」と話しかけて、はじめてエコひいきしない先生になれるということに新任の頃は気がつかなかった。
 いつも子どもたちに囲まれているから、「オレは生徒たちにモテる教師だ」とうぬぼれていたのではないか。
 この最初の教え子たちの同窓会が去年の夏に開かれた。
 10人ぐらい座れる中華料理の円卓にS子もいた。来年はもう還暦を迎えるという話題がひと区切りついた時、私はS子に聞いてみた。
 「おいS子、野口先生はMやIやOちゃんとばっかり話してるから“嫌いです”って作文に書いたの覚えてるか?」
 「覚えてます。あの時、先生嫌いやったもん」
 横からMやIが
 「お前そんなこと思ってたんか、僕ら先生と気楽に話してただけやのに……」
 「あれから40 年以上たってるのに恐いなあ」
 「生徒の恨みは恐い」という話で盛り上がった同窓会だった。
 「三重の輪」、気をつけよう。

著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員
日文の教育情報ロゴ

ベイビーズ-いのちのちから-

(c)2010 Chez Wam/Thomas Balmes

(c)2010 Chez Wam/Thomas Balmes

 ナミビア、モンゴル、日本、アメリカで、赤ちゃんが生まれる。赤ちゃんたちの仕草、泣いたり眠ったりの表情に、思わず微笑みがこぼれる。どの国の赤ちゃんも、それはもう、可愛いのである。
 映画「ベイビーズ-いのちのちから-」(エスパース・サロウ配給)は、生まれたばかりの赤ちゃんたちが、お座りから、ハイハイを経て、声を出し始め、一人で立ち上がり、歩き出すまでの約1年間を描いたドキュメントである。
 ナミビアのポニジャオは女の子。ママのおっぱいを飲んでいる。モンゴルのバヤルシャルガルは男の子。生後すぐ、バスタオルに包まれて退院、草原の家に帰っていく。東京のマリは女の子。ママに抱かれている側にネコがいる。アメリカのサンフランシスコの郊外、オークランドで生まれたハティは女の子。やはり近くにネコがいる。
 1時間19分、映画は、赤ちゃんたちの成長を記録していく。説明のナレーションやセリフは、一切ない。ただもう、淡々と、赤ちゃんたちを写し出す。
 生活環境はそれぞれ異なる。ナミビアとモンゴルは自然の残る場所だが、アメリカのオークランドと日本の東京は都会である。その風俗や生活習慣は、それぞれ異なっている。
 都会生まれのマリやハティが、どのように育つかの見当はつくが、ナミビアやモンゴルでは、いくつかの独特の育児のありようが、丹念に描かれる。

(c)2010 Chez Wam/Thomas Balmes

(c)2010 Chez Wam/Thomas Balmes

 ポニジャオは裸で育っている。うんちは、とうもろこしの芯で、拭き取る。バヤルシャルガルには、一度にたくさん口のなかに入らないよう、おしゃぶりにはマッチが刺してある。おむつなどはないから、仰向けになったバヤルシャルガルは、そのままおしっこを上に向けて出す。
 ポニジャオは、上のお兄ちゃんといっしょに、ママのおっぱいを吸う。儀式の一種だろうか、顔に母乳が飛ぶ。ママは、母乳をポニジャオの顔になすりつける。地面に這い蹲って、石などを舐めたりするが、元気そのもの。
 羊の群れがいる。散髪は、ママが包丁で剃る。妊娠中にお腹に塗った赤い泥のようなものを、ポニジャオの頭にも塗る。
 赤ちゃんたちは、少しずつ成長する。手を床について、起きあがろうとする。掃除機の動きをキョロキョロ眺める。ガラガラをじっと目で追う。水たまりで遊ぶ。犬やネコに触れたり、ハエの行方を目で追う。
 やがて、赤ちゃんたちは、ハイハイを始める。国こそ違え、赤ちゃんたちの成長の経過は、同じである。やがて、みんな、声を出し始める。
 積み木遊びがうまくいかない。トイレットペーパーを引っ張りだす。その都度、声を出し、喋りだそうとする。
 やがて1年。そろそろ、立ち上がろうとする。赤ちゃんたちは、たくましく成長していく。
 バヤルシャルガルは、羊のそばで、立とうとする。ポニジャオは、柱に掴まって、立とうとする。ハティは、ドアの取っ手に掴まって、立とうとする。マリは公園の芝生で、立とうとする。
 感動的なシーンが続く。人間、だれしもが、かつては赤ちゃんだった。大人は、人を騙したりするが、赤ちゃんは無垢そのもの。

 若い人は、いずれ親になるだろう。ぜひ、見て欲しい。すでに子供のいる人は、懐かしく見ることと思う。眠り、泣き、怒り、笑う赤ちゃんたちから、いのちの尊さ、逞しさが伝わってくる。映画は、優しい微笑みを浮かべて、見ることが出来る。
 監督のトマス・バルメスは言う。
 「二度と繰り返すことのない唯一の瞬間をとらえるため、人間が五感でまだ体験していないことを体験する“初めての瞬間”にそこに居ようとつとめました」。
 希有なドキュメントである。

2012年5月5日(土) 新宿ピカデリーico_linkほか全国ロードショー

■「ベイビーズ-いのちのちから-」

監督:トマス・バルメス
原案・製作:アラン・シャバ
出演:子供たち/ポニジャオ(ナミビア)、マリ(日本)、ハティ(アメリカ)、バヤルジャルガル(モンゴル)、両親/タレレルアとヒンデレ(ナミビア)、セイコとフミト(日本)、スージーとフレイザー(アメリカ)、マンダフとプレフ(モンゴル)
2010年/フランス/79分/カラー/デジタル/ビスタ
原題:BABIES
推薦:社団法人日本助産師会
協賛:たまごクラブ ひよこクラブ
提供:紀伊國屋書店 メダリオンメディア
配給・宣伝:エスパース・サロウ


みちのく・東北のお伊勢さま

開成山大神宮

開成山大神宮

 福島県郡山市の開成山大神宮は、明治9年9月18日に皇大神宮(天照大御神)の分霊を祭神として奉遷し、大槻原開墾と安積原野の開拓守護神とした神社の由来から、現在「みちのくのお伊勢様」「東北のお伊勢様」として親しまれています。その誕生は、安積郡大槻原開墾のために、開拓入植者に協同一致の精神の器を備えんとした営みがあります。この営みは、大槻原開墾から猪苗代湖疏水開鑿による安積原野開墾を可能となし、現在の郡山市発展の基礎を築いたものです。この誕生記には、東日本大震災により、新たな大地を造営していくうえで、民心をささえる器の存在が欠かせないという物語が読みとれます。

大槻原開墾への想い

 大槻原開墾は、福島県令安場保和が企図し、旧米沢藩士中条政恒が中心となって実施したものです。中条は、「各富豪なりと雖も邑の為め国の為め尽す所なくんば守銭奴の侮辱免るべからず」と、郡山の富商を説得して開墾に参画させます。かつ戊辰の内乱で「朝敵」となり生活の術を奪われた旧二本松藩士族を入植させ、開墾の第一歩を踏み出します。
 中条は、明治6年3月に大槻原の現地を視察、出磬山(でけいさん)頂より安積原野を望み、開墾への決意を詠みます。

明治六年春正午(めいじろくねんはるしょうご)
夕陽立馬望平原(ゆうよううまをたててへいげんにのぞむ)
誰図華府中天月(だれかはからんかふちゅうてんのつき)
長照英雄一片魂(ながくてらすえいゆういっぺんのたましい)

 この詩は、アメリカの首都ワシントン―華府に重ね、英雄ワシントンの治績に想いをはせ、開墾地大槻原の困難な開墾事業の実現への心情を吐露したものです。まさに中条は、この壮図を実現すべく、郡山の富商を開墾事業の推進力として「開物成務」をはかるべく、開墾地を一村となし、出磬山に連なる小丘「放森(はなれもり)」を「開成山」と改称します。

遥拝所の設立

 ここに中条は、開成山上に遥拝所を設け、「山上山下花卉を植え遊園」となし、「郡民の気を和らげ」て協同一致の精神を生み育て、民心の結集をはかろうとします。この遥拝所建設に託した想いは次のように問い質されています。

今や万国と往来交通人民稍く天地の公道を知ると雖も未十分の一二も至らず、輦下に居て皇帝の御諱を知らず、其国に居て其国の元祖を知らず、実に無知無識の民と謂はさるへけんや、通交の諸国我を侮り我を笑ふは或は之に由る残念至極の儀に非ずや、其内取分け東奥の民は久敷覇政に漱染し、今日維新の隆時に会して尚未だ国帝を尊び国祖に報ゆるを知らざるに似たり、嗚呼是般開成山に於て遥拝所を設け、貧民流民愚夫婦と雖も此大義に遵行せしむる所以の大旨なり、四月三日神武帝の御祭事に歓欣鼓舞して遥拝式を行はヽ、皆以て国祖に報ゆるを知り、十一月三日天長節に逢ひ抃舞揚踏して遥拝を行はば、皆以て国帝を尊ぶを知るべし、大教於是て明かに東奥覇政の癖習遂には絶するを得へし、未開の民を教ゆるには此等の作用に非ずんば何ぞ戸々に渉り人々に及すを得んや、(略)
大凡新置の村は其民散じ易く其家亡し易し、必竟品物器具日用常務多く備らず、其地寥々として人心不愉快を生ずる故也、人楽めば村も亦盛なるべく、(略)新村をして快楽ならしむるは新村のすわりを堅くする所以

 開成山の遥拝所は、開墾地の民心結集のみならず、安積郡内の人民が協同一致する器となり、東奥の人民を国家の民にする場と位置づけられたのです。ここに明治6年11月3日の天長節の遥拝式は、山上に官吏正副戸長、神官僧侶等々が列座し祭式を営み、「近村隣郷老を携ひ、幼を提げ、或は一隊旗を翻すの壮者あり、或は綺羅群を為すの学校生徒あり、或は弦鼓舞踏の一連あり」と、歌い舞う者、「雑劇山車至る所人山を為す」にぎわいで、「来観する者皆耳目を驚かす」有様で、「此祭三日間に亘り集まる者無慮六万人に下らず」と、報じられています。

開成山大神宮の創建と移住者の心

開成山大神宮

開成山大神宮

 いわば開墾地の民心結集をめざした開成山の遥拝所は、天長節と神武天皇祭を営むことで、安積郡民の祭りの場にとどまらず、東奥の人心結集の器たろうとしたのです。ここに大槻原開墾の展開をふまえ、遥拝所でなく開成山上に開拓所神社を創建し、皇大神宮の分霊を奉祭する岩代大神宮となし、さらに安積原野の開墾へと発展させ、東北の「頑民」に国家の恩沢を及ぼそうとの壮図がおこります。この岩代大神宮構想は、国名を用いることが許されないとして、開成山大神宮として明治9年8月4日に認められました。「みちのくのお伊勢さん」誕生です。
 大久保利通内務卿は、明治9年6月の明治天皇の奥羽巡行の先発として東北各地を視察し、大槻原開墾による桑野村を検分して心動かされ、安積野開拓と猪苗代疏水開鑿(安積疏水)を国家プロジェクトで実現してほしいとの要請を受けとめ、事業の実現に力をつくします。ここに開成山大神宮は、国家事業としての安積野開拓の推進をめざし、「某等商人元来好んで開拓を為す者に非ず、県庁の諭告に従ひ、成否を試みんと欲し、之に従事し、遂に大金を投ずるに至」ったと言う商人等の想いをして、国家の回路に位置づけ、「小村一部落に及び一国一郡の名あるも其民殆んど呉越の思を為す」「互に党を結び鍬鎌を振て闘ふ、秣場の喧嘩水の紛争」が絶えない状況を克服し、村民・郡民をして、県民・国民にしていく、国民育成に相応しい精神の要となることで、その存在を輝かせていきます。
 しかし入植した移住士族は、故地の神を勧請し、その精神の器としております。旧久留米藩士は福岡県御井郡瀬下町鎮座の水天宮、広谷原の鳥取開墾地は鳥取県の国幣中社宇倍神社、対面原の棚倉藩士族は三柱神社からそれぞれの分霊をなし、開拓に従事しました。いわば開成山大神宮は、安積野の総社と位置づけられたものの、入植地ごとの地域的党派性に強く規制されていたのです。ここには日本の神信仰の在り方が読みとれましょう。このような在り方をみつめるとき、東日本大震災で故地を追われた人びとが明日を生きる上で、いかなる精神の器を用意できるかが、復興再建の要であることに想いをいたしたいものです。
 なお、この開墾地に生きた人びとのの相貌は、祖父中条政恒の家で少女期をすごした中条・宮本百合子の作品「貧しき人々の群」に描かれています。

h_vol55_01

『貧しき人々の群 ほか』
宮本百合子名作ライブラリー
宮本百合子 著
1994年 新日本出版社 刊


マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝

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「真珠の耳飾りの少女」 油彩/キャンヴァス/44.5×39cm/1665頃

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「笑う少年」 油彩/板/直径(最大)30.4cm/1625頃

 平成25年度から使用される、新版高校美術Ⅰ教科書(「高校美術1」「Art and You」)のご案内が始まりました。新しい教科書への期待も高まる頃です。
 そんな中、長年使用されてきた「高校美術1」教科書の表紙を飾る「真珠の耳飾りの少女」と、オリエンテーションで紹介する「笑う少年」が、日本にやって来ます。オランダのマウリッツハイス美術館に所蔵され、国内ではなかなか見ることができない作品たち。教科書で見る作品の「本物」に出会える貴重な展覧会を、どうぞお見逃しなくご覧ください。
※「真珠の耳飾りの少女」は、新版「Art and You」P.13にも掲載されます。

<展覧会情報>

  • マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝
  • 2012年6月30日(土)~9月17日(月・祝)
    巡回:神戸市立博物館 2012年9月29日(土)~2013年1月6日(日)
  • 休室日:月曜日(ただし7月2・16日、9月17日は開室。7月17日は休室)

展覧会概要
本展では、17世紀のオランダやフランドル絵画の世界的コレクションで知られるオランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館から、フェルメールやレンブラントなど、西洋絵画の巨匠たちの名品約50点を紹介します。

■東京都美術館ico_link

  • 所在地 東京都台東区上野公園8-36
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)

<同時期開催の展覧会>

  • 「Arts&Life:生きるための家」
  • 2012年7月15日(日)~9月30日(日)

その他、詳細は東京都美術館Webサイトico_linkでご覧ください。

<次号予告>

マウリッツハイス美術館展を担当する東京都美術館学芸員 大橋菜都子氏が出品作品について読み解きます。