文字の大きさと配列 「実りの秋」(第5学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

文字の大きさと配列 「実りの秋」

2.目 標

○漢字と平仮名の文字の大きさや配列に気をつけて書く。
○漢字と平仮名の文字の大きさや配列に気をつけて,半紙におさまりよく書く。
○筆順と字形との関係に気をつけて,漢字を書く。
○既習の字形や行の中心,文字の大きさに気をつけて書く。

3.評価基準

関心・意欲・態度
○自分のめあてを見つけようとしている。
○漢字の平仮名の大きさに気をつけて,配列よく書こうとしている。

思考・判断・表現
○毛筆で学習したことを硬筆で確かめながら書いている。

技能
○文字の大きさや配列に気をつけて書くことができる。

知識・理解
○配列よく書くための方法を理解している。

4.本単元の指導にあたって

 本単元では,漢字は大きく,平仮名は小さく書くと読みやすいことを取り上げ,定着を図る。
 画数の少ない平仮名を漢字と同じ大きさに書くと,平仮名が大きく見えてしまい,読みにくいことを理解して書くことができるようにする。
 1学期は「組み立て方と字形」について学習してきた。どのような形で書いたらよいのか,全体のバランスはどうかを考えながら書くことを練習してきた。子どもたちは,初めは,ただ単に「手本の通りに書く」ことを目標として黙々と練習していたため,評価をしても「○○さんよりうまい」「○○さんのようには書けない」といった他人との比較しかできておらず,自分の字に自信の持てる児童は多くなかった。そこで,ためし書きをし,「自分の書いた字を添削し,交流する」ことをすべての学習で行うようにした。すると,自分の字の直すところが明確になり,まとめ書きでは,手本を意識して見るようになった。さらに,「自分は~が手本のように書けるようになった」と自分自身の成長を評価できるようになっていった。また,ためし書きを交流する際には,筆の動きを確認しやすくするため,「筆てぶくろ」を使った。穂先の向きや筆の回転の仕方など,筆だけで確認するより,児童には分かりやすかったようである。
 本単元では,これらの学習を生かして,漢字と平仮名の交ざった4文字を大きさや配列に気をつけて書く。漢字は画数が多いので,画の太さや長さにも十分意識して,半紙におさまりよく書けるようにもしたい。平仮名では,点画のつながりや丸みを意識して書けるようにもしたい。さらに,毛筆で学習したことを今後の硬筆でも生かすことができるようにしたい。

5.単元の指導計画(全2時間)

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

準備物

1

漢字と平仮名の大きさと配列に気をつけて毛筆で書く。

○作品を見て,漢字と平仮名の大きさの違いを知る。
C1.漢字が大きい。
C2.平仮名が小さい。
C3.違いがあったほうが読みやすい。

(関)漢字と平仮名の大きさの違いや配列について知ろうとしている。
【観察・発表】

○ためし書きをし,自分のめあてを見つける。
C1.「実」は,右はらいを半紙におさまるように書く。
C2.「り」は,1画目と2画目がつながるように,書く。
C3.「秋」は,右はらいを大きく書いたほうがいいのかな。

(関)ためし書きから自分のめあてを見つけようとしている。
【観察】

○交流し,まとめ書きをする。

(関)ためし書きから自分のめあてを見つけようとしている。
【発表】

(技)文字の大きさや配列を意識しながら練習する。
【半紙】

(知・技)漢字と平仮名の大きさの違いや配列について理解したうえで練習している。
【半紙】

○評価をする。
C1.漢字を大きく書くことができた。
C2.漢字と平仮名の大きさに違いをつけることができた。

(関)自己評価や相互評価でよいところを見つけようとしている。
【観察】

2

漢字と平仮名の大きさと配列に気をつけて毛筆で書き,さらに硬筆で書く。

○作品を見て,自分のめあてを見つける。
C1.もう少し右はらいを大きく書く。
C2.文字の中心を意識して書く。

(関)自分の作品から本時のめあてを見つけようとしている。
【観察】

○交流し,まとめ書きをする。

(関)本時の自分のめあてを見つけようとしている。
【発表】

(技)文字の大きさや配列を意識しながら練習する。
【半紙】

(知・技)漢字と平仮名の大きさの違いや配列について理解したうえで練習している。
【半紙】

○評価をする。
C1.文字の中心を意識することができた。
C2.漢字は直線的に,平仮名は曲線的に書くことができた。

(関)自己評価や相互評価でよいところを見つけようとしている。
【観察】

○硬筆で書く。
C1.毛筆で意識したことを硬筆でも気をつけて書こう。

(思)毛筆で学習したことを硬筆で確かめながら書いている。
【練習ノート】

6.本時の学習

①目 標
○漢字と平仮名の大きさと配列に気をつけて書く。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

準備物

1.漢字と平仮名の大きさの違いを知る。
C1.読みやすい。
C2.漢字と平仮名の大きさが違う。
C3.バランスが悪い。

C1.漢字が大きい。
C2.平仮名が小さい。

C1.漢字は画数が多いから。

○作品を見てそれぞれのよさを発表できるようにする。

○バランスのとれた作品に共通することを見つけて発表できるようにする。

○なぜ漢字が大きく,平仮名が小さいとバランスがよいのかを考えられるようにする。

児童の作品

漢字は大きく,ひらがなは小さくなるように大きさと配列に気をつけて,ていねいに書こう。

2.ためし書きをし,自分のめあてを見つける。

○手本は見ずに書き,手本と比べたことを赤ペンで書きこむようにしたい。
○気がついたことは,文字やしるしで書きこむことができるようにする。

3.気をつけるところを交流する。
C1.「実」は,右はらいを半紙におさまるように書く。
C2.「り」は,1画目と2画目がつながるように書く。
C3.「り」は,丸みをもつように,縦長になるように書く。
C4.「の」は,筆を回転させるように書く。
C5.「秋」は,へんとつくりの大きさにも意識して書く。
C6.「秋」は,右はらいを大きく書いたほうがいいのかな。

○発表したことを1つずつ確認する。

○文字の中心を確認する。
○始筆,送筆,終筆を確認しながら,いっしょに空書きをする。

筆てぶくろ

4.まとめ書きをする。

○交流したことを生かして,練習できるようにする。

5.評価をする。
C1.うまく書けるようになった。
C2.漢字と平仮名のバランスがとれるようになった。

○ためし書きとまとめ書きを並べて,よくなったところを見つけられるようにする。

評価カード

道徳の時間って、「正解」も「間違い」もないんですよね?

今までなかった「どうとくマンガ」!
「道徳教育」についてよく抱かれる疑問を取り上げ、マンガでわかりやすく解説します!
第4回のテーマは,児童・生徒の意見の受け止め方についてです。

【登場人物】

徳田一道(とくだかずみち)

徳田一道
(とくだかずみち)

主人公。新任の中学校教師。悩んでいる。

モモ

モモ

なぜか一道に「道徳」について教えてくれる妖精(?)

ルル

ルル

モモと一緒に「道徳」について教えてくれる妖精(?)

ララ

ララ

モモとルルの上司。

富岡物語(1)

文明―西洋の貌として

画像提供 富岡市・富岡製糸場

 群馬県の富岡製糸場は、「富岡製糸場と絹産業遺産」として世界遺産に登録されることとなり、未曾有の観光ブームのにぎわいで喧騒の渦にまきこまれているようです。明治政府は、明治3(1870)年に日本の文明開化、西洋を模範とした近代化を実現するための外貨獲得をめざし、「糸縷純情色沢玲瓏の佳品」を製造する一大製糸場を建設し、進んだ製糸技術を全国に広めようとはかりました。ここに製糸場建設計画は、横浜の生糸商社エッシュ・リリアンタール商会が紹介したフランス人技師ポール・ブリューナを雇用し、具体化します。
 富岡の地が選ばれたのは、(1)1万5600坪という広大な敷地、(2)富岡付近が古来より養蚕の中心地として多量の原料繭を生産し、座繰糸による品質の優れた製糸生産地であったこと、(3)水質が製糸に最適である高瀬川からの引水が容易なこと、(4)富岡周辺の山水の美にひかれたこと、(5)地元有力者の協力が期待できたこと等々によります。工場は、着工後1年半、明治5年7月に完成、煉瓦造りで、繰糸場(長さ142メートル、幅14.4メートル、高さ11.8メートル)をはじめ、東西の繭所、蒸気釜所、寄宿所等々からなり、一大偉観を呈し、「御場所」「御製糸所」といわれましたように、お上の権威が威光を放つ存在でした。
 建設資材は、杉を妙義山、松を吾妻地方の官林、セメント代用の漆喰用石灰を下仁田、基礎の石材を甘楽町の連石山、煉瓦は粘土が手にはいる甘楽町福島の窯で焼かれましたように、周辺のものが使用されました。

工場の営み

 工場は、明治5年10月4日から操業しましたが、明治6年の日本人職員が通訳3名を含めて14名、伝習生徒13名、フランス人9名の少人数で、工女が400名前後で出発するというあわただしい開業でした。明治8年には、日本人職員が通訳・医官を含めて22名、生徒2名、「小使い」20名、フランス人2名、寄宿工女550名、通勤工女750名に警官5名、馬丁1名という大所帯になっています。このような大規模な富岡製糸場の存在は、戸数620戸、人口2500人程度であった富岡の町にとり、驚天動地ともいうべき出来ごとでした。その風景は、ハヤリ唄にうたわれるほどに富岡の名所とみなされたのです。まさに赤煉瓦造りの壮大な建物群は、糸繰る車の音とともに、民衆に「文明」への夢を奏でる世界でした。

上州一ノ宮あづまやの二階
 椅子に腰をかけ遙か向うを眺れば
あすこに見えるはありや何処だ
 あれこそ上州の甘楽郡
音に聞えし富岡の
 あれこそ西洋の糸きかい
西洋造で木はいらぬ
 回りははしごで屋根瓦
窓や障子はギヤマンで
 糸繰る車はかな車
あまたの子供はつれだちて
 髪は束髪花やうじ
紫はかまを着揃へて
 縮緬だすきをかかけ揃へ
糸とる姿のほどのよさ

文明の陰翳

 工場の経営は、御雇外国人への給与支払いが巨額なこともあり、当初より赤字経営が続いていきます。そのため外国人の雇用は、契約が満期となった明治8年で打ち切られ、日本人だけで運営されたのです。この間、明治6年に良質生糸をオーストリアのウィーンで開催された万国博覧会に出品し、日本にも器械製糸場があり優良製品を生産しうる国であることを宣伝しました。しかし製糸場の運営は、工場が大規模なこともあり、構造的な赤字体質から脱却できず、明治14年の官営工場の払下げの対象をまぬがれたものの、ついに明治24年6月に払下げの入札が行われました。開業以来の総経費は20万円余(現在の34億円程度に相当か)でした。最初の入札は予定価格が整わず、26年7月の再入札で三井家が12万2600円で落札します。この価格は、倉庫にある原料繭代約8万円がふくまれており、土地・建物・機械のすべてが約4万2600円の値段でしかなく、操業後10年にして製糸場の評価額が5分の1でしかなかったことになります。
 この後、富岡製糸場は、明治35年に原合名会社に、さらに昭和14(1939)年に片倉製糸紡績株式会社に譲渡され、現在に至ったのです。昭和62年には、工場の製糸部門が廃止され開業以来動いていた機械は停止となり、繭倉庫として使用されたものの、現在その業務も停止されました。かくて現在は富岡町の観光資源として蘇生され、注目をあつめています。このように流転していく工場の運命には、「蚕の化せし金貨」といわれた外貨獲得の花である生糸をめぐる歴史が凝縮されています。
 富岡製糸場の開設は、工場が流転していく様を想い見ることなく、民衆に文明の響きを告げるものでした。しかしこの夢は、甘楽郡の農民にとり、大規模工事への強制的動員、資材運搬で田畑が踏み荒らされたことなどもあり、無残にも裏切られたようです。そのため、信越線が新町―藤岡―富岡―下仁田―上田のルートで計画された際、政府の工事を敬遠する反対運動が生まれる要因ともなりました。ここには、「西洋の糸きかい」が奏でる文明をもたらす音が民衆の暮らしを根底から揺るがす地鳴りであったことがうかがえます。このような「西洋の糸きかい」の登場は、日本農村で営まれてきた在来の製糸業にとり、どのような影響をあたえたのでしょうか。

 

参考文献

  • 大濱「糸をつむぐ女たち」笠原一男編『近代の女性群像』日本女性史7 評論社 1973年
  • 松浦利隆『在来技術改良の支えた近代化』 岩田書院 2006年

「いきものとなかよし~わたしのだんごむし~」(第1学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名/時数・実施時期

「いきものとなかよし~わたしのだんごむし~」/全15時間 9月~11月

2.はじめに

 区の名前に植物がつく杉並区は,その名のとおり緑豊かなところである。学区域は,閑静な住宅街で,大きな公園もあるが,整備されているたいへんきれいな公園なので,子どもたちは,自然の中で虫を捕まえたりそれを飼ったりという経験は少ない。それ故に,虫に対しては「嫌い。」「気持ちが悪い。」と苦手意識をもつ子どもが多い。そこで,1年生でも親しみやすく危険性もなく,校庭でも容易に捕まえることができるダンゴムシを教材にして学習を進めることにした。
 単元は,学習指導要領内容(7)「動植物の飼育・栽培」,内容構成の具体的な視点として,「キ:身近な自然との触れ合い」「カ:情報と交流」を位置付け,単元を構成した。子どもたちが自らの手で継続的に生き物を飼うことを通して,生き物を育てることに興味・関心をもち,それらが命をもっていることや成長していることに気付くとともに,生き物を大切にすることができるようにすることを目指した。

3.単元の目標

生活への関心・意欲・態度
○生き物を採集・飼育し,その生き物の生息環境や生態・成長の様子などに関心をもってかかわり,大切にしようとしている。

活動や体験についての思考・表現
○生き物たちが住んでいた環境から飼育環境や世話の仕方を考え,試行している。
○生き物の姿・形やすみか,えさ・世話の仕方などの驚きや気付きなどを自分なりの表現方法で表現している。

身近な環境や自分自身への気付き
○生き物の採集・飼育を通して,生き物たちも自分たちと同じように生命をもっていること・成長していることなど,生き物と自分とのかかわりに気付いている。

4.活動計画

事前準備
●「わたし」のダンゴムシにするために,1人1つずつ飼育箱をもち,教室で飼い,週末には家に持ち帰り,いつでもふれあえるようにした。飼育箱は市販のものでもよいし,ペットボトルでつくったものでもよい。
●土を乾燥させないことを注意すれば,飼育自体はそんなに難しくない。土を多めに入れ,枯れ葉などをしいておくと,そんなに乾燥はしない。霧吹きは教室に用意しておくとよい。
●校内の中で,ダンゴムシが居そうな場所を確認しておくこと。休み時間でも,ダンゴムシさがしができる場所や,校舎の裏など生活科の時間でしか行けない場所も探しておくとよい。校舎の裏を回るときは「多分,この辺にいそうだよね。」と予想しながら探してみると,子どもたちの意欲は一層高まる。

環境設定

●ダンゴムシへの興味関心を高めるために教室に図書スペースをつくって,ダンゴムシに関する図鑑や絵本などを,いつでも読んだり見たりできるようにするとよい。ダンゴムシのおうちをつくるときや,えさについて調べたいときはもちろんのこと,内遊びのときなど何気なく友だちといっしょに読んだり話したりしている姿が見られた。
●図鑑や本を読み始めると,知らなかったことを知り,みんなに伝えたくなるので,「ダンゴムシノート」をつくってそれにメモし,伝え合う場を設定するようにした。また,はじめ知っていたことからどんどんダンゴムシに関する知識が広がっていくのが視覚的にも分かるようにまとめていくとよい。

5.単元の流れ

活動[時数]

対話に見る活動の様子(子どもの思考の流れ)

(1)ダンゴムシとあそぼう
[2時間]
●ダンゴムシについて知っていることを出し合う。
●ダンゴムシさがしをして遊ぶ。
●遊んで気付いたことや感想をカードに書いたり,発表したりする。

(実物を映しながら)『ダンゴムシについて知っていることはありませんか。』
「触ると丸くなります。」
「石とかの陰にいます。」

『遊んでみて気付いたことを発表してください。』
「黄色い点々があるダンゴムシを見つけました。」
「それは,メスだよ。」
「メスとオスがあるんだね。」
「ぼくのは,オスだ。メスをさがそう。」

(2)できたよ,ダンゴムシのおうち
[2時間]
●ダンゴムシを飼うための準備をする。
●死んでしまったダンゴムシをどうするか,どんなおうちにしたらよいか話し合う。(命についても含む)

『○○さんのダンゴムシは死んじゃったんだよ。どうしたらいいと思いますか。』
「うめてあげる。」
「見つけた場所に返してあげる。」
「ふるさとに返すってこと?」

『どうしたら,死なせずにすむかな?』」
「土が乾くとだめだから,毎日霧吹きをしてあげる。」
「土をもっとたくさん入れてあげる。」
「石やはっぱも入れるといいよ。」

(3)むしのふしぎを見つけた
[3時間]
●飼育しながら,発見したことを「ダンゴムシノート」に書きためていく。
●図鑑や絵本を見ながら,興味があるところも「ダンゴムシノート」に書いていく。

(4)ダンゴムシランドであそぼう
[4時間]
●ダンゴムシランドの計画を立てる。
●迷路などをつくって遊ぶ。

「楽しそう。一緒にやってもいい。」
「いいよ。競走しようよ。」

「迷路の途中に,レタスを置いてみたらね,出てこないんだよ。うちの子はレタスが好きなんだ。」

(5)おわかれしきをしよう
[4時間]
●絵本「ぼく、だんごむし」を読み,冬になったら返さなければならないことを知る。
●お別れする前に,何ができるか話し合う。
●おわかれ式の準備をする。
●おわかれ式をする。

絵本「ぼく、だんごむし」の本を読む。最後のフレーズを読んだとき,クラス中がシーンと静まりかえった。

『どうする? だんごむし,元の場所に返してって言ってるよ?』
「いやだけど,返さなくちゃいけないんだね。」
「さみしいなあ。」
「ぼくは,いやだよ。返したくないよ。」
「だって,私たちで,冬を越させてあげられるの。死なせちゃったらもっとかわいそうなんだよ。」
「それなら,返す前に,だんごむしが喜ぶことをしてあげようよ。」
「もう一回,ダンゴムシランドをしようよ。」
「最後にごちそうしてあげたい。」
「思い出のアルバムをつくりたい。」

それから,あきのおわりになったら,きみがぼくをみつけたところにそっとかえしてほしいんだ。ふゆはやっぱり,なかまたちといっしょにすごしたいんだよ。
(出典:「ぼく、だんごむし」得田之久 文、たかはしきよし 絵 福音館書店刊)

6.評価について

子どもの変容から
●なかなかクラスになじめずにいた子どもが,ダンゴムシを通してかかわり方を学ぶことができた。
 「どこでつかまえたの?」
 「一緒にダンゴムシを探そう。」
 「今度はぼくがつくった迷路で試してみよう。」
このような会話が他の場面でも普通に交わされるようになった。

●虫が大嫌いで,最初ダンゴムシに触ることもできずにいた子どもが,友だちから貸してもらい,ゴム渡りをして遊んでいるうちに,自然に触れるようになった。次のときには,自分でダンゴムシを探して遊ぶ姿が見られた。単元が終わるころには,ダンゴムシを探しているときに別の虫が出てきても,「これは何かなあ。」と平気で拾い上げる姿も見られた。

7.教師の手立て

①かかわる場の設定~かかわることで学び合う~

「細いゴムだと落ちちゃうね。」
「太いゴムの上を渡らせてみようよ。」

「ひなたぼっこさせると元気になるんだよ。」
「暖かい方が好きなんだね。」

「迷路の中にレタスを置いてみたよ。」
「みんなレタスの方に行っちゃうね。」
「うちの子。レタスが好きなんだよ。」

●子どもの変容から

 話し合いを通して,自分でダンゴムシのお家をいろいろ工夫することで,「僕のダンゴムシは幸せだよ。だってぼくが大事に育てているから。」と自慢げに話す姿が見られた。

②話し合う場の設定~話し合いで自己決定~

 ダンゴムシを飼うことになって,おうちづくりをした後,どんなことをしていきたいかを話し合った。

 11月になって寒くなってきたころに,「ぼく,だんごむし」の絵本を読み聞かせた。それがきっかけとなり,ダンゴムシを元の場所に返すかどうかについて「だんごむしかいぎ」を開くことになった。

 ダンゴムシとのおわかれ式で,どんな歌を歌ったらいいかを話し合った。各グループから1曲ずつ出し,6曲の中から1曲歌うことにした。それぞれ,思いが強くてなかなか決まらなかったので,三角ツールを使って,選ぶことにした。

●曲を選ぶために,自分のダンゴムシへの思い(「お別れしても元気でいてほしい。」「また,来年会いたい。」「わたしたちのことを忘れないでいてほしい。」など)を再認識している姿が見られた。

●「この枯れ葉の下に返してあげよう。」「日向の方が暖かいね。」「また,来年会おうね。」という声かけをしながら土にそっと返していた。

●ダンゴムシの絵本づくり(アルバムまたは,えにっきなど)では,どの子どももたいへん夢中になって取り組んだ。書くことが苦手な子どもたちも書きたがって,ページを進めていた。出来上がると,「ぼくがつくっただんごむし絵本だよ。一緒に見よう。」と,友だちに見せながら,嬉しそうにダンゴムシの話をしている姿も見られた。

「なかよく あそぼう」(第1学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名/時数・実施時期

「なかよく あそぼう」/全25時間 6月~10月

2.単元のねらい

 本校は敷地内に子ども園が隣接されており,6~7割の児童が,子ども園から本校に入学する。子ども園とは一部の施設を共有しているが,園児と児童の日常的な交流は多くはない。そこで,1学年では生活科の学習として園児と交流を行い,互いのことを理解し合ったり,心を通わせたりしてかかわることの楽しさを実感させたいと考え,本単元を設定した。
 本単元は「1.なつだ いっしょに あそぼうよ」「2.ランド遊びを しよう」の二つの小単元から構成されている。「1.なつだ いっしょに あそぼうよ」では,夏という季節感を最も感じられる水を教材として,身近にあるものを使って簡単な水遊びの道具をつくり,自然の不思議さやおもしろさ,遊びの楽しさに気付くことをねらいとしている。「2.ランド遊びを しよう」では,水遊びの経験を生かして,より工夫した遊び道具や遊び方を考えて,園児を招待して一緒に遊んだ。どちらの単元でも,身近な自然を利用したり身近にある物を使ったりして自分たちの生活を工夫したり楽しんだりできるようになることや,園児や友だちとの交流を通じて,わかりやすく伝えようとする気持ちや相手の気持ちを考えようという心を育て,誰とでも仲良く生活できるようになることを期待している。また,隣接学年ではなく,1学年と年中組の交流を設定したことで,児童は自信をもって園児をリードすることができ,園児も小学生への憧れの気持ちをもつことができる効果を期待した。

3.評価規準

○生活への関心・意欲・態度
 友だちや園児とかかわり合いながら,遊びを楽しんだり,交流を喜んだりすることができるようにする。

○活動や体験についての思考・表現
 友だちと協力して試行錯誤しながら道具をつくったりルールを考えたりして,園児と一緒に楽しく遊べる方法を工夫することができる。

○身近な環境や自分自身への気付き
 交流活動を通じて,言葉や表情,しぐさなど,多様な伝え方があることに気付き,適切に園児とかかわる中で,一緒に遊ぶことの楽しさや自分の成長に気付き,伝えあっている。

4.活動の計画

事前準備
 水遊びを行う前に,教師が様々な材料を使って水遊びを行い,子どもの活動がより広がったり,深まったりする素材を探した。重視した点は,子どもが容易に遊べるもの,工夫によって遊びの発展が期待できること,人とのかかわり合いによって遊びが発展することである。

環境設定
 教室に生活科コーナーを設定し,単元の活動写真や,活動計画を掲示した。児童の振り返りに利用し,次時の見通しをもたせて児童の意欲を持続させることができた。

活動計画
 活動計画を作成する際には,児童が自分で興味・関心をもって,次に行いたい活動を自然に見付けていけるように留意した。例えば,児童が水遊びをしているところに意図的に園児に見学に来てもらい,「次は園児も一緒に遊べたらいいな」という願いを児童がもてるようにした。このため,子ども園の教員との相談や連絡を密に行い,活動の意図やねらいを相互理解したうえで活動に臨んだ。また,小単元1ではグループ単位での交流を行ったが,小単元2では,園児と児童の交流の深まりを図るため,1対1(または2)のペアをつくって活動を行うこととした。

5.単元の流れ

                  

活動[時数]

対話に見る活動の様子(思考の流れ)

1 色々な水遊びをしよう[4時間]

●第1時
ペットボトルを使って水遊びを行う。

●第2,3時
色々なものを使って水遊びを行う(ビニールホース,ビニールプール,発砲スチロール,ペットボトル,割り箸,ストロー,ビニール袋 など)。

『朝顔の水やりの様子です。何か気付くことはありますか?』
「川ができています。」
「海もできました。」

『どうしたら水が流れるかな。』
「ホースを手で持ち上げて山にしよう。」
「みんなで協力するんだ。」

●第4時
水遊びを振り返って,楽しかった遊びをカードに書く。

2 水遊びランドで遊ぼう[8時間]

●第1時
前時のカードを基に,楽しかった遊びを伝え合い,園児と一緒に水遊びを行う計画を立てる。

●第2~5時
グループに分かれ,水遊びの道具やルールを考えてつくる。

●第6,7時
園児と一緒に水遊びを行う。

『みんなの水遊びを誰かが見ていますね。誰でしょう。』
「子ども園の子どもです。」

『どんなこと言っているのかな。』
「やりたいなって言っています。」
「一緒に水遊びをしよう。水遊びランドをしよう。」

●第8時
楽しかったことや,園児と一緒に遊んで気付いたことをカードに書く。

3 公園や校庭で園児と一緒に遊ぼう[4時間]

●第1時
近くの公園で遊びに出かけ,園児もやって来て,一緒に遊ぶ。

●第2時
公園での遊びを振り返り,園児と再交流したいという願いをもつ。

●第3時
校庭に園児を招待し,鬼ごっこやかけっこ,はないちもんめなどで遊ぶ。

●第4時
園児に楽しかった遊びを尋ねたり,好きなものを尋ねて,交流を深める。

『公園で子ども園のみんなに会いましたね。もっとしたかったことはありますか。』
「もっと広いところで遊びたい。」
「もっとたくさん走り回りたい。」(公園は狭いので,鬼ごっこは禁止だった。)
「校庭ならいいんじゃないかな。」

●校庭遊びにて
「子ども園の子にだるまさんの鬼をやらせてあげよう。」
「じゃんけんで決めるよ。」
「手をつないで一緒に走ろうね。」

『子ども祭り(学校行事)は楽しかったですね。子ども園のみんなもやりたそうでしたね。』
「今度は遊び道具をつくって一緒に遊びたいな。」

●遊び道具や遊び方を工夫する際に
「子ども園の子は一年生より前からボールを投げていいことにしました。」
「危なくないように,待つ場所をつくってテープを貼ったよ。」
「ちゃんと飛ぶか,テストをしよう。合格したのだけ使えるよ。」

『今日は一年生だけで遊んで,楽しいところやもっと工夫するところを見つけましょう。』
「たくさんの友だちが遊んでくれて嬉しかった。」
「ボールを打つパターがぐにゃぐにゃするから,つくり直したいです。」
「的当ての的をもっと工夫したほうが楽しくなりそうです。」

『子ども園のみんなと遊ぶときに大事なのはどんなことでしょう。』
「なかよく,たのしく遊ぶことです。」
「優しく話してあげようと思います。」
「わからないことは教えてあげます。」

4 「遊びランド」で一緒に遊ぼう[9時間]

●第1~5時
前時でのインタビューを基に,遊びランドの遊びを考え,遊び道具を作製する。

●第6,7時
ランドに招待して,一緒に遊ぶ。

●第8時
楽しかったことをカードに書いて振り返る。

●第9時
園児からのお礼のビデオレターを見て,手紙を書く。

●ランド遊びにて
「たくさんボールが入ったので,すごいと褒めたら喜んでいました。」
「クラスのみんながちゃんとお店をしていたので,すごいと思いました。」

『ビデオレターをもらって,嬉しかったですね。』
「お返事を書きたいです。」
「ビデオレターの話が上手だったよ。」
「一緒に遊べて楽しかったよ。」

6.評価について

①「活動→表現(振り返り)→伝え合い」のサイクルで子どもの意欲を高める
 活動を行って,楽しかったことや気付いたことを絵と文でカードに書き,学級で伝え合うことで,次の活動への意欲や願いが生まれてくるようにした。また,遊び道具をつくる際には,工夫したことをカードに書くことで,自分の作品に対する気付きや友だち同士の認め合いの気持ちが生まれた。
 子どもの意欲関心を高め,自主的に活動に取り組むことができるように,生活科コーナーをつくり,活動のねらいや流れを掲示した。

②ICT機器の効果的な活用
 活動の様子を写真に残し,子どもの気付きや思いを振り返りの場で引き出せるようにする。
 園児からのお礼の言葉は,視覚・聴覚の両面から情報を得られるビデオを活用し,子どもの関心を高めることができた。

③評価の流れ
 毎時間ごとに評価規準を設定し,具体的な児童の活動の姿や反応(つぶやき,発言,カードの記入)などを記録し評価に生かすようにする。

7.教師の手だて

●ねらいに沿って,カードに朱書きを書き加える
 各活動の際に必ず振り返りカードを書いたが,活動のねらいに沿って,気付きが生まれているかを特に評価した。ここでは,「園児が楽しめるように工夫したこと」に焦点をあてている。

●記録写真を撮影する
 活動の際には必ず写真で記録を残す。T1の教員だけでなく,より多くの教員の協力が得られると良い。その際には,どんな場面のどんな様子の写真が欲しいのか,共通理解しておく必要がある。写真はカラーコピーで引き伸ばしたり,パワーポイントで加工したりして提示し,振り返りの際に使用した。

●お店屋さん遊びには発展性のあるものを
 お店屋さん遊びのような活動の際,子どもたちにやりたい遊びを出させると,多様な遊びが出てくるが,自分たちで工夫して発展させる余地がある遊びを考えさせるほうが活動の広がりや深まりが出る(例えば,ゲーム形式や点数を競うような遊びの方が,道具やルールの工夫がしやすい)。子どもから出ない場合には,地域の祭りや学校での縦割り遊びなどの写真を提示したり,体験談を話させたりするとよい。

●交流活動は段階的に複数回行うと効果的
 子ども同士が知り合って,名前を覚え,楽しく一緒に遊ぶようになるまでは時間が必要である。最初は少しの時間一緒に過ごすだけでも良く,何度も交流を重ねることで,子どもたちの関係が深まり,より仲良くなって楽しく遊べるようになる。ビデオや手紙での交流,給食時間などの隙間時間を活用しての交流など,より多くの交流活動が行われるよう工夫できると良い。

●イラストカードで気付きの広がりを
 目,耳,鼻,手,心のイラストカードを用意し,全身の感覚を使って様々なことに気付くようにする。板書の際もカードごとに板書することで,気付きのバリエーションを児童自身が見つけて,気付きを広げるようになっていく。

「文字の歴史を探ろう」(第6学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

「文字の歴史を探ろう」

2.目 標

○文字の成り立ちについて知り,漢字に興味を持つ。
○昔の文字を石に彫り,自分だけの印を作る。

3.評価規準

関心・意欲・態度
○文字の成り立ちについて進んで知ろうとしている。
○自分の名前の漢字の成り立ちについて進んで知ろうとしている。

思考・判断・表現
○文字の組み立て方や字形を整えて作品を作ろうとしている。

技能
○辞書を活用し,自分の気に入った文字を選ぶことができる。
○選んだ文字をバランスよく並べることができる。

知識・理解
○篆刻がどのようなものかを知ることができている。
○文字がどのようにして生まれたかを理解している。

4.本単元の指導にあたって

①児童について
 児童はこれまでに多くの漢字を習ってきている。一年生の頃は新しい漢字を知ることに喜びを感じ,何でも漢字で書いてみようと意欲的に取り組んでいた。しかし,学年が上がるにつれ,覚える漢字も増え,新しい漢字を知る喜びを感じている児童もいるが,単に多くの回数を書いて覚えなければならないと苦痛を感じる児童もいる。なかなか既習の漢字が定着せず,文章を書かせると平仮名だらけの文章になってしまう児童もいる。そこで,漢字に興味を持てるような指導が必要である。

②教材について
 篆刻とは,石や木などに文字を彫ることである。本単元では,石に文字を彫る。自分がこれまで慣れ親しみ,今後も使っていく名前を彫ることで,文字に興味を持つことのきっかけの一つになると考える。できた作品は半永久的に使えるものであり,書写の作品や図工の作品,自分の証明に押すなど様々な活用が考えられる。材料の石は中国で採れる青田石・寿山石・巴林石など産地によって様々なものがあるが,最近産出されている遼寧石などやわらかい石で彫ると比較的簡単に彫ることができる。篆刻には「篆書」という文字が使われることが多い。文字の成り立ちは甲骨文字に始まり,金文,篆書と続く。店の看板などでデザインとして目にすることはあっても,普段用いることのない文字である。
 文字を彫る際には,印刀を用いる。彫刻刀でも代用可能ではあるが,彫りやすさの観点から印刀を用いた方がよい。

③指導について
 まず,文字に興味を持たせたい。そのため,最古の文字である亀の甲羅や牛・馬の肩甲骨に彫られた甲骨文字を見せることから始める。児童はこれまでに象形文字について学んできたが,甲骨文字はほとんどが象形文字である。クイズ形式で児童に見せ,興味を持たせる。また,辞書から自分の名前の文字を探し,普段使っている文字がどのようなものからできたのかを知ることで興味を持たせたい。文字を彫る際には怪我に十分注意する。石を持つ方の手には軍手をはめるようにするなど,工夫が必要である。また,逆字を石に書かなくてはいけない。トレーシングペーパーなど薄い紙を用い,裏返したものを写しとる方法や鏡に文字を写して確かめる方法がある。

5.本時の学習

①目 標
○自分の名前の印を作ろう。

②学習展開 ※準備物の資料2~4は、表の下に掲載しています。

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

準備物

1.文字の成り立ちについて知る。
・甲骨文字について知る。

○甲骨文字を見せ,何に彫られたものか想像できるようにする。
・使用した写真は亀の甲羅(内側)に彫られたもの。他には牛や馬の肩甲骨に彫られたものもある。

・資料1(甲骨文字の写真)

・クイズに答える。

○甲骨文字クイズをする。
・象形文字がほとんどである。

・資料2(甲骨文字クイズ)

2.篆刻について知る。
・篆刻は,石に文字を彫ることであるということを知る。

○甲骨文字から現代の文字になるまでの過程に篆書があり,それを石に彫ることを知らせる。

3.本時のめあてを知る。

○自分の印を作ることを知らせる。

自分の名前の印を作ろう。

4.自分の名前の文字を辞書で調べる。
・名前の一字を選ぶ。

○名前の一字を選び,辞書で調べるよう助言する。

・辞書

5.印稿を作る。
・いくつかのデザインを描く。

○実際の大きさでデザインするようにする。
○いくつかのデザインを描いてみるよう助言する。

・デザインをする紙

6.印面に布字する。
・一番気に入ったデザインのものを墨で石に書く。

○トレーシングペーパーを裏側から見ながら,墨で逆字を石に書くよう助言する。
○失敗した場合は,その部分を墨で塗りつぶし,訂正するようにする。

・トレーシングペーパー
・石
・墨(朱墨も)

7.自分の名前を彫る。
・印刀と石を実際に持ち,側面に彫る練習をする。
・印面の名前の文字を彫る。
・彫り終えたら,試し押しをする。
・彫り残しのあるところを補刀し,押印する。

○写真を見せながら,印刀と石の持ち方を教える。
○側面に「×」,「○」を彫る。
・直線と曲線を彫る練習をし,文字を彫る際に生かすようにする。
・曲線を彫るときにも直線的に彫るように助言する。
○石に持つ方の手に軍手をはめ,怪我をしないようにする。
○押すときは,薄い雑誌一冊分程の堅さのところで押すようにする。
○石の周りも削るよう助言する。

・資料3(手順)
・印刀
・資料4(線を彫る時の注意点)
・軍手(雑巾)
・薄い雑誌
・印泥(朱肉)

【資料2】

【資料3】

【資料4】

線を彫る時の注意点

感性の理由

 小中一貫校に関わって6・3制や教育課程の弾力化や法改正が話題になっています。小学校と中学校の、教科や免許の関係が検討されるようです。以前よりも変化のスピードが速い感じがします。このようなとき、私たちはどのように報道や情報に接すればよいのでしょうか。このことについて学習指導要領の「感性」という用語から考えてみましょう。

学習指導要領の用語

 学習指導要領で使われる用語は最大公約数的な性格を持っています。一般に用いられている以上でも以下でもありません。特殊な使われ方もしません。もし、特殊な意味を持たせ、用法を限定したら、学習指導要領として役に立たないでしょう。素直に「あ、感性ね」という感じで使われることが前提です。
 でも、「感性」という言葉は、使う人や場面などでかなり意味が異なる言葉です。感覚という意味で使われたり、感情や感受性、あるいは直感という意味でも用いられたりします。「よく分からない」「説明できないけど大事」というような場面でも使われますから、状況的で幅のある言葉です。
 では、「『感性』とは何ぞや」と突き詰めたほうがいいのでしょうか。いいえ、それは学者さんたちの仕事です。現場で取り組んでも、哲学論議に陥るだけで、生産的ではありません。大事なのは、その言葉を用いた理由です。

平成10年改訂の「感性」

 図画工作・美術で「感性」が議論されたのは平成10年です。教科の改善の基本方針に「感性を育てる」という文言が入っています。でも、学習指導要領の目標に入ったのは中学校だけでした。なぜでしょう。
 当時主催した研究大会での「感性」に関するパネルディスカッションを紹介しましょう。小学校のパネラーは「感性は好ましくない」と述べ、中学校のパネラーは「感性は必要だ」と述べ、すっかり対立しました。
 小学校の理由は、「感性」を言いすぎると、感性VS知性となり、子どもの造形活動の知的側面が無視され、子どもの造形活動が曖昧な世界に押し込められるというものでした。それに「感性を育てる」と言うと、そこに「大人の思う感性」が忍び込み、それを押し付け、子どもの感覚や感じ方を阻害するというわけです。
 中学校の理由は、子どもは道具を用いるとき、全身を道具化させ、その動きや知覚、思考などを働かせながらつくっており、それは「感性」と呼ぶのがふさわしいというものでした。また、私たちには他国にない「日本人の感性」などもある、文化を学ぶという意味で「感性」は必要だというわけです。
おそらく、平成10年当時、同じような議論が行われたはずです。でも議論は熟せず、小学校に「感性」を入れることは見送られたのでしょう。

平成20年改訂と「感性」

 当時、中教審では「図画工作や美術の時間は必要か」「ものづくりは大事だ」「時間を削減してはどうか」「日本人としての感性や伝統や文化はどうする」などの議論が行われていました。一方、一部の現場では、子どもの感覚や感じ方、あるいは思いを無視して、先生の思い通りに絵を描かせる実践が行われていました。「感性」は再び、図画工作・美術で重要な問題として浮上していたのです。
 協力者会議や教科調査官同士、何度も議論しました。「『感性』を指導内容としてとらえるのか」「『感性』を指導できるのか」「『感性』は能力か」「いや、働きとして表れる」など、いろいろな検討が行われました。そして、最終的に、小学校と中学校の発達の特性の違いを踏まえて「感性」を設定したのです。主な理由は以下です。

 小学生は、まだ文化に染まりきっていません。子どもは、その子らしい感情や感覚、直感などをもとに、友達や周囲の環境とかかわり合い、学習活動を展開しています。そこで有意に働いているのが「感性」であり、指導内容というよりも、「子どもの感性」と呼んだ方が適切な、能力とも文化とも言い切れぬ「何か」です。そこで、小学校では目標を「表現及び鑑賞の活動を通して,感性を働かせながら,つくりだす喜びを味わうようにするとともに,造形的な創造活動の基礎的な能力を培い,豊かな情操を養う」とし、働きを重視した設定を行いました。そして、解説で「児童の感覚や感じ方,表現の思いなど,自分の感性を十分に働かせる」と述べ、子ども自身の感性が働くような学習を目指そうとしました。

 しかし、中学生ともなれば、メタ認知も確立し、自分をもう一人の自分から見つめ直す「自我像(※1)」を描いたり、何気ない風景から光を見つけ出し、そこに感情や命を描き出したりします(※2)。歴史や社会の知識をもとに、自分や他者、文化などに潜む「感性」を操って学習を展開することも可能です。そこで、中学校では目標における設定は変更せず、解説で「感性」を「様々な対象・事象からよさや美しさなどの価値や心情などを感じ取る力であり,知性と一体化して人間性や創造性の根幹をなすもの」として「感性」が単に働くだけでなく、それ自体が能力であり、これを育て、高めることが重要であることを明確にしました。また「感性はその時代,国や地域などに見られる美意識や価値観,文化などの影響を受けながら育成される」と文化的な側面もおさえています。

改訂の向う

 「感性」という学習指導要領の文言を取り上げて、改訂の背景を検討しました。そこには、時代や社会の要求や、子どもの実態や発達などがありました。何より、小学校ではもっと子どもたちの「感性」を働かせてほしい、それを踏まえて中学校では文化に関わりながら「感性」を自らの力としてほしいという願いがありました。「感性」は、教育現場の実践を改善する有効なツールとして送り出されたメッセージだったのです。
 これから教育課程の改善や法改正などが、ますます議論されるでしょう。その中の、どんなささやかな変更にも、何らかの意図や願いがあります。流れてくるニュースや情報に対して、感情的に反応するのではなく、そこにどんな意味があるのか考えたり、現場で何が起きるのかなどを想像したりするのも一つの方法です。そこからの冷静な議論が、世論形成につながると思います。

 

※1:「自我」を表す自画像。自分とは何かを見つめて、そこから表現方法を考えて自分を描く題材。一見して顔と分からないものから、写実的な表現まで様々な表現が生まれる。
※2:学び!と美術 <Vol.11>「描写のできること」(2013.7)の注の9を参照してほしい。

「おやつだ~いすき!」(第3学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名/時数・実施時期

「おやつだ~いすき!」/全18時間 9月~12月

2.単元設定の理由

 4月19日(金)に遠足で府中市郷土の森に行った。持ち物にある「おやつ」を子どもたちは楽しみにしており,多くの児童がたくさんのお菓子を持参していた。学校行事ということで,より自分好みのおやつを持ってきていた。中には,大好きな甘いお菓子に偏って持ってきている児童もいた。
 そこで,この遠足をきっかけとして,自分たちにとって身近な「おやつ」について取り上げることとした。食に関することであるので,児童が興味・関心をもち課題を設定することができると考えた。また,本学級には学童に通っている児童が多くいる。学童では「ヨーグルト」や「するめ」など,栄養を考慮したおやつが提供されているので,情報収集の際にはよい情報源となり,より探究的な学習になると考え,本単元を設定した。
 本単元では,よりよいおやつを「心も体も元気になるおやつ」ととらえ,今と昔のおやつを比較しながら,「心の元気」と「体の元気」の要素がたくさん詰まったおやつを手づくりする。日常のおやつを食べる生活の中で「体の元気」まで意識している児童はほとんどいない。「好きなお菓子」をおやつとしている児童がほとんどである。給食も好き嫌いがある児童も,自分の好きなことが食べられるおやつの時間を楽しみにしているようだ。この単元を通し,おやつは「心の元気」だけでなく「体の元気」も意識することが大切であることを知り,実際に,自分たちが考えた「心も体も元気になるおやつ」をつくる活動を通して,生き生きと健康な生活について考えさせていきたい。
 また,本単元は,総合的な学習の時間の初めの学習である。自分にとって身近なおやつについて,「課題設定」から「まとめ・表現」までの一連の探究学習の流れを体験的に楽しく学ぶことで,探究活動が楽しく進められるようにしていきたい。

3.単元の目標

 さまざまなおやつについて調べることを通して,心や体によいおやつについて考える。実際に,心や体によいおやつをつくることを通して,自分の生活に生かしていこうとする。

4.単元の評価規準

評価の視点

本単元で育てたい力

○評価規準 ・具体的な子どもの姿

学習方法に関すること

・課題を見つける力
・情報を集める力
・情報を整理する力
・まとめる力

○「心と体によいおやつ」を見付けるために必要な情報を収集し,それらの情報を整理していく過程で,自分の考えを見付け,表現している。
・遠足に持っていったおやつや,普段食べているおやつから,おやつに対する自分なりの課題を見付けている。
・自分の身近な人から,おやつについての情報を集めている。
・集めた情報を,視点に基づいて整理・分析している。
・自分たちの考えをレシピ集にまとめている。

他者や社会に関すること

・コミュニケーション力
・協同的に学習を進める力

○自分の身近な人や,おやつを提供している人と関わりをもったり,グループの友だちと協同的に話し合いを進めたりしている。
・家族との会話を通して,それぞれの時代のおやつについて調べている。
・おやつを提供している保育園の人たちから,心と体のことを考えたおやつについて聞いている。
・自分たちのおやつづくりのために,グループで協同的にメニューを考えている。

自分自身に関すること

・自分自身について考える力

○調べたことを,これからの生活に生かしたり,自分の食について考えたりすることができる。
・今後生活の中で食べるおやつについて考えている。

5-1.学習過程ごとの主な学習活動

学習過程

主な学習活動

課題設定

おやつっていったいなんだろう?[3時間]
・遠足のおやつに持っていったおやつについて振り返る。
・普段よく食べるおやつを振り返り,自分にとっておやつがどのようなものなのかグループで話し合う。
・栄養士さんをゲストティーチャーとして招き,おやつの役割について知る。

情報収集

心にも体にもいいおやつを探そう①
~どんなおやつがあるのだろう~[3時間]

・1週間のおやつ記録を持ち寄り,自分たちのおやつについての情報を集める。
・自分の家族(親世代・祖父母世代)が子どものころ食べていたおやつの情報を集める。
・集めてきた情報を「手づくり」「買ったもの」に分類する。

心にも体にもいいおやつを探そう②
~手づくりのおやつってどんなものがある?~[4時間]

・手づくりのおやつを提供していそうなところを考え,どんな情報を得たらいいか話し合う。
・インタビューの基本について知る。
・保育園の栄養士さん,学童の先生にインタビューをする。
・インタビューの結果を報告し合う。

整理・分析

集めてきた情報から心も体も元気になるおやつを見付けて,実際につくってみよう[6時間]
・自分たちがつくって食べてみたいおやつのメニューを決める。
・自分たちがつくって食べてみたいおやつのレシピを持ち寄り,どのレシピを採用するか話し合う。
・つくる計画を立てる。
・「おやつ先生」を招いて,自分たちが考えてきたことについてのアドバイスをもらう。
・実際におやつづくりをし,食べてみる。

まとめ・表現

これからのおやつとの関わり方[2時間]
・活動を振り返る作文を書く。

5-2.授業の実際

【課題設定】
心と体にいいおやつって,どんなものなのだろうか。

○「おやつ」にどんな役割があるのか知る。
 4月の遠足に行く前に,おやつカードを配布して,遠足に持っていくおやつを記入した。遠足から戻った日の宿題として,持っていったおやつについて,「全部食べた」「半分ぐらい食べた」「全く食べなかった」という振り返りをした。また,全部食べられなかったおやつについては,「どうして全部食べられなかったのか」という理由をカードに記入させた。 食べられなかった理由の多くは,「おなかがいっぱいだった」「持っていきすぎた」というものであった。
 そこで,「そもそもおやつとは何なの?」という根本的な問いを,学校栄養士にすることにした。栄養士は,カルビーの食育教材を活用しながら,おやつの役割について話をした。おやつは,「心の元気と体の元気」につながることや,「補食」の役割があることを学習した。
 遠足のおやつを振り返ることと,栄養士の話を聞いたことから,心と体にはどんなおやつがいいのか興味をもち始めた。

【情報収集】
心と体にいいおやつを探すために情報を集めよう

○家族から情報を収集する

 「お父さん・お母さん」「おじいちゃん・おばあちゃん」は身近で話を聞きやすいという児童の意見から,まずは家族を対象に情報を集めることとした。「子どものころ,どんなおやつを食べていましたか?」という質問をし,ワークシートに記入した。
 また事前指導として「集めた情報はあとで整理整頓するよ」と,情報の整理・分析段階を示唆し,学習の見通しを指導した。
 情報を集める途中で,「買ったおやつ」と「手づくりのおやつ」があることに気付いていったので,情報を集めながら両者を分類することにした。集まってきた情報を年代別にカード化し,「買ったおやつ」と「手づくりのおやつ」に分類しながら整理してみると,ある傾向が見えてきた。

 年代が上がっていくに連れて,「手づくりのおやつ」が増えていっているということであった。児童たちの中には,「手づくりのおやつの方が体によさそうだ」という感覚があり,「手づくりおやつを提供しているところ」にインタビューをしてみたいと動き出した。
 どこに行くか検討する話合いをしたところ「保育園のときにおやつが出ていたから,もしかするといい情報が得られるかも」「学童でおやつ出るよ」という意見が出てきたので,学区内の保育園にインタビューをしにいくこととなった。
 本単元は総合的な学習の時間の初めての単元ということを鑑み,ここで,インタビューの仕方について指導する時間を設けた。

○保育園の栄養士さんから情報を得る
 保育園でのインタビューの内容は,以下のようなものである。

  1. 保育園では,どんなおやつを出していますか?
  2. それは,買っていますか? それとも手づくりですか?
  3. 人気のあるおやつは何ですか?
  4. おやつのことで気を付けていることはありますか?
  5. アレルギーの人にはどうしていますか?

 2の質問については,「うちの保育園ではすべて手づくりです」という回答をもらい,子供たちからは「やっぱり手づくりって体にいいのか」という声が上がっていた。「手づくり」という観点だけではなく,4・5の質問からも,保育園の栄養士さんが,いかに体のことを考慮したおやつを提供しているのか,知ることができた。
 平行して,学童でも同じ質問で,インタビューを行った。学童では,保育園とは違い,手づくりのおやつはないようだった。しかし,共通点として,ただ子どもたちの好きなものを提供するだけではなく,みんなが好きなもので体の栄養にもなるものという部分は共通していた。
 集めてきた情報は,報告会を開いて,クラスで共有した。
 ここまでの活動で,おやつは「心の栄養」と「体の栄養」になることが大切であることや,手づくりおやつにはどのようなものがあるのか,ということが分かってきた。

○自分たちがつくるおやつを決める

【整理・分析】
心と体にいいおやつをつくる! そこでグループで何をつくるか決めよう!


 活動の最中にも,「おなかすいた~」とか「食べた~い」という声が上がっていた。また,その中には,「つくったことないから,つくって食べてみたい」という意見が多く上がってきた。そこで,校長先生に許可をいただき,つくる計画を立てていくことにした。
 たくさんの情報が集まったので,いざつくるとなると,その中から1つに絞らなければならない。子どもたちの次の課題は,「つくるおやつを決める」ということになった。
 たくさんの情報の中から1つに絞っていく話し合いの過程が目で見て分かるように,「ピラミッド型」の思考ツールを活用した。
 思考ツールを使うことが初めてなので,中段にはランチョンマット,上段にはトレーを用いて,イメージしやすいようにした。
 グループでの話し合いは,「1人1人がつくって食べてみたいおやつ」を4~5種類中段に上げ,最上段は,その中から「みんなが好きで食べたいもの」を選んでいた。
 あるグループでは,2つのものを融合させた折衷案を考え,「フレンチりんごトースト」という新しいメニューを生み出していた。
 メニューが決まると,それぞれでレシピを持ち寄り,どれだったら自分たちでもできるか話し合いをした。自分たちの算数の知識を振り絞り1人分の分量を考えたり,必要な道具を考えたりした。それを画用紙にまとめた。

○おやつ先生にアドバイスをもらう
 おやつづくりの経験がない中で考えているので,誰かに聞いてみたいということを子どもたちが言い始めた。そこで,いつも料理をしてくれているお母さん(保護者)を「おやつ先生」として教室に招くことにした。

 おやつ先生に自分たちが考えてきたことを発表し,アドバイスをもらった。アドバイスの中には,使う道具のことや分量のこと,手順のことなどがあった。
 この時間に新しく知って,計画を修正したことは,黄色の画用紙に箇条書きにまとめた。

《授業後の児童の感想》
○おやつ先生にアドバイスをもらったことで,自信がもてました。
○人に聞くことは大切だと思いました。
○おやつ先生が道具の安全な使い方を教えてくれたので,心配なことが減りました。

《おやつ先生の感想》
○一生懸命になって考えている子どもたちにアドバイスするために,私もいろいろと考えました。自分たちで考えて,分からないことを解決していったり,知りたいと思ったりすることが大切だということを感じました。とても楽しかったです。

○おやつづくり実践
 実践の時間もおやつ先生をお招きし,教えてもらいながらおやつづくりをした。
 つくるおやつは,「心にも体にもいいおやつ」ということが前提となっているので,食べているときには,「おいしい!」とか,「これなら元気に大きくなりそうだ!」という声が上がってきた。
 一方で,量が多く「これでは夕食が食べられそうにないな」という声や,「野菜ばかりでおやつのような気がしないね」という声も上がった。

《児童の感想》
 普段,おやつのことは何も考えていませんでした。でも,総合の勉強をする中で,栄養のことと笑顔のことが大切なのだと知りました。おやつづくりは,そんなことを考えてやりました。つくって食べるおやつもすごくいいです。つくるときは,おやつ先生がやけどをしない方法を教えてくれました。
 今度はフレンチトーストをつくってみたいです。おうちでつくって,お母さんや兄弟に食べてもらいたいです。

6.成果と課題

《児童にとっての成果と課題》
 本単元は,3年生にとってはじめての「総合的な学習の時間」であった。したがって,子どもたちにとって学習の見通しがもちやすく,楽しく探究活動が進められるように,単元構成を考えた。
 情報収集の段階では,たくさんの人とかかわりをもつことができた。入門期であることを鑑み,インタビューの仕方を指導する時間を設けたことで,自信をもって取り組むことができた。
 整理・分析の段階では,付箋を用いた。色を分けたり,貼るところを工夫したりすることで,たくさんの情報を,見やすく整理することのよさに気付くことができた。今回の経験をきっかけに,情報を整理するための手段や方法を増やしていけるようにしたい。
 おやつをつくる活動を取り入れたことで,学習に対する意欲を持続させることができた。自分たちの計画に自分たちで取り組んでいくことが楽しいということを体感できた。

《教師側からみた成果と課題》
 本単元では,思考ツールを用いて整理分析をした。本単元において,ピラミッド型の思考ツールでは整理する視点が不明瞭で,各班の好みによってつくるおやつが決定していった。楽しく活動を進めるために機能したとは思うが,栄養素に着目したり,つくる相手を決めたりすることで,より視点を明確にして,思考ツールを使えたと考えられる。
 ゲストティーチャーとして保護者をお招きしたことは,児童・保護者にとってよい経験となった。人と関わりながら探究を進められ,安全面にもより配慮が行き届くことから,今後とも保護者との関わりは大切にしていきたい。

電子教科書の現在とこれから

1. 電子教科書の動向

 近年、学校の教科書を電子化し、タブレットPCなどで見て学習する「電子教科書」の動きが加速しています。文部科学省は2011年に「教育の情報化ビジョン」を発表し、2020年までに初中等教育で電子教科書を使えるようにする目標を揚げました。また、「学びのイノベーション事業」で全国で20の小・中・支援学校を対象に実証実験を行いました。
 こういった動きは日本だけではありません。韓国では2008年に実証実験をはじめ、2015年末には全国の小中高に電子教科書を導入する計画です。中国、台湾、フィリピン、シンガポールなどのアジア諸国も導入に向けた検討や実験を進めています。ヨーロッパでも、イギリス、ポルトガル、フランスなどが導入を進めており、アメリカのいくつかの州では実験がはじまっています。

2. 電子教科書で学力が低下する?

 電子教科書を巡っては、さまざまな反対意見もあります。その理由として、「学習が画一的になる」「正解を求める学習に偏りがちになる」「書く機会がなくなるので学力が低下する」「先生と生徒のコミュニケーションが途絶する」などがあります。
 もちろん、こういった危険性もあります。しかし、「紙の教科書だから多様な学習を展開できる」とも限りません。「正解を求める学習に偏る」のは、電子媒体だからでしょうか?これらは、授業をどのように展開するかを先生方が決め、生徒に何を求めるかによって決まってくるものです。電子教科書は、学びの場におけるツールや環境であって、学び自体を形作り、展開していくのは、結局は先生方の技量や経験に大きく依存しているのです。
 ただ、今まで授業で使ってきた紙媒体が電子媒体に切り替わることに、不安を抱く方も多いと思います。昨年、筆者は教員の更新講習にタブレットPCを持ち込み、先生方に使っていただきました。当然、使い慣れるにはそれなりの時間がかかります。しかし、使いこなせるようになり、PCならではの便利さを実感された先生方も多くいらっしゃいました。「なるほど、こう使えばいいのか」という安堵と、「でも紙を離れるのは…」という漠然とした不安を両方お持ちの先生方が多かったと思います。

3. 「先生が楽になる電子教科書」を目指して

 現在の学校は、先生方にとって楽な勤務環境ではありません。残業も多く、週末も様々な仕事や行事に時間を費やす必要があるのが現状です。これに加え、電子教科書を導入して更に負担が増えるという事態は、できる限り避けたいのが本音だと思います。
 導入の初期には、環境の変化により混乱が生じる危険性があります。しかし中長期的には、先生方の負担を減らす様々な工夫を、電子教科書に盛り込むことが可能ですし、そうあるべきだと考えています。
 例えば、簡単なクイズであれば、PCのプログラムを使って自動的に正誤判定をしたり、間違えた生徒にヒントを提示することができます。宿題も、サーバーに集めることによって自動的に一覧表示し、提出状況をまとめられます。また、支援学校の拡大教科書や読み上げなども大幅に省力化できます。こういった機能により、現在は人手をかけざるを得ないルーティーンワークの多くを自動化できるのです。これにより、「先生が本当に時間をかけるべき」生徒に、より多くの時間を使うことができます。言い換えれば、導入されるPCやサーバーを、先生方の「助手」として使っていただき、定型的な処理はそれらに任せ、先生方でなければできないことに時間を使っていただきたいのです。
 現在さまざまな機関で、電子教科書の機能に関する議論が行われています。日本では、文部科学省や総務省が議論や試作開発を進めていますし、CoNETSでも議論が進んでいます。国際の場でも、ISOがeラーニングの規格を議論するSC36で電子教科書の規格検討をしており、またIDPF(国際電子出版協会)がEDUPUBという規格の議論を2013年から開始しています。メンバーの多くは、現在の教育現場の問題点を捉え、それを解決したいと考え、ボランティアで議論に参加しています。こういった状況を踏まえ、先生方にも「電子教科書のあるべき姿」の議論に参加していただけると幸いです。
 「学校の現場で、教科書や資料が紙媒体から電子媒体に移行する」ことについては、上にも書きましたように様々な賛否両論があります。技術面から見た場合、現在の紙媒体の資料が一気になくなる、ということはないと思います。紙のノートに書き込んだ方が理解が進む科目や単元があります。電子媒体に置き換えても、まだ機能が不十分で、学習に使えない、ということも多くあるでしょう。その一方で、電子媒体に置き換えると学習効果が高まる科目や単元もあります。学習内容を吟味し、効果があがるところから徐々に電子媒体に置き換えていく、というのが、学校の現場における進め方ではないかと、個人的には考えます。電子教科書の導入は、「媒体を電子化する」ことが目的ではなく、「より学習効果を高める」ことが目的です。その意味で、技術面に関わる人間として、現場の先生方と意見交換を行いながら、「より良い学習」を目指していきたいと考えています。

 

田村 恭久(タムラ ヤスヒサ)
上智大学理工学部 教授
1961年東京都生まれ。1987年 上智大学大学院修了。同年 日立製作所勤務。1993年 上智大学理工学部助手。同講師、助教授を経て、現職。日本eラーニング学会、アスカアカデミー等理事。ISO SC36 e-Textbook Project co-editor

大切な「二つの学力」

icon_pdf_small「日文の教育情報 No.135」PDFダウンロード(344KB)

■学力には二つある

 一つは「受験の学力」である。「点数の学力」とも言う。「偏差値」で示される学力である。
 もう一つは「その子の学力」という。その子が得意なこと,その子が大好きなこと,一番こだわっていること,それはスポーツでも音楽でも何でもいい。その子が一生懸命になれることである。
 「受験の学力」と「その子の学力」とは強くつながっていることが多い。

■「成績下がったから部活やめなさい!」

 ある父親が言った。
 「私の娘は,ブラスバンド部に入ってトランペットを吹いてます。娘は音楽が大好きで,練習の熱心なブラスバンド部で毎日,一生懸命に励んでいます。
 それはそれで,元気に学校に通ってくれているのでありがたいのですが…。
 勉強の成績がいまひとつふるいません。
 このあいだの中間試験でも成績が下がったので,娘に“このままでは,高校に行けなくなるよ。部活をしばらくやめなさい”と言いました。本人はだいぶショックを受けていたようですけれど…」

■「その子の学力」を奪えば偏差値も下がる

 こういう例はたくさんある。
 小さいころからピアノを習っていたけれど高学年になったから,ピアノをやめさせて学習塾に行かせるとか,本人が大好きだったスイミングをやめさせて予備校に通わせるだとか,私たち大人は子どもの成長に応じて,その子の大好きなものを順番に取り上げていくことが多い。
 最後に残されるのは偏差値の学力だけである。だけど,私たち教師は子どもが頑張っている部活動をやめさせたら,偏差値も下がってしまう子どもたちを多く知っている。
 それだけではない。「その子の学力」を奪えば,部活動を通じて自然に身についていた生きる力,例えば,仲間とのチームワークだとか,先輩や後輩など人とのつきあい方などの人間関係だとか,厳しい練習に耐える忍耐力とか,やればできるという自信や自己肯定感まで奪われてしまうことが多いのである。
 「それで,お父さん,娘さんの成績は良くなりましたか?」
 「いや,それが,なかなか…」
 「大好きなトランペットも,おもいっきり頑張って,勉強もおもいっきり頑張りなさいと言う方が,成績も上がりますよ。」

■最近の大学生で心配なこと

 どこの大学でも同じような傾向にあると思うのだけど,この三月まで私のいた大阪教育大学の学生の様子を例にあげる。
 最近の大学生は,昔に比べて「真面目な子」が多いということである。
 真面目だけど,言われたことだけ,受け身,無理しない学生が増えた。
 もちろんスポーツのクラブやさまざまなサークルに所属して,積極的でバイタリティーに富んだ学生もたくさんいるのだけれど,全体としては真面目で良い子が増えた。
 「何が得意なの?」と尋ねると,
 「別に…」と答える。
 「なぜ,この大学に来たの?」と尋ねると,
 「偏差値が丁度このぐらいだったから」と答える。
 学生課の職員が寮の学生に,「このプリント,Aさんに渡して…」と頼むと,
 「Aさんって,誰ですか?」
 「何言ってるの,寮のあなたの隣の部屋の子やないの」
 自分はこんな教師になりたい!とかこんな人生を送りたい!という夢を持たずに,偏差値で自分の人生を決め,友達・仲間のつながりも少ない学生たちが一番心配である。

■二つの学力を見直そう

 「受験の学力(偏差値)」はいらないと言っているのではない。点数の学力だけ大切にして学力テストの点数を競争させることに傾いてしまうと,生きる力の弱い子を育ててしまうのではと心配になる。
 学力には二つあることを忘れないで欲しい。


著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員
元 大阪教育大学 監事

 日文の教育情報ロゴ