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月別アーカイブ: 2016年10月
[ここに注目!]どうなる デジタル教科書
【情報の流儀】アサンプション国際中学校高等学校 岡本弘之教諭 ほか
CONTENTS
INTERVIEW
舘 暲 先生(東京大学名誉教授)
〜VRの第一人者が語るバーチャルリアリティの未来〜
【仕事のしくみ・社会のしくみ】
南澤孝太 先生(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 准教授)
〜VRが実現する社会〜
【授業のネタ帖】
授業導入のためのVRコンテンツ活用ガイド
〜UEI代表取締役・清水亮さんに聞きました〜
【情報の流儀】
岡本弘之 教諭(アサンプション国際中学校高等学校 ※旧:聖母被昇天学院中学校高等学校)
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数学的で,概念的で,抽象的な学習内容を含む教科「情報」は,ときに生徒の拒絶反応を生んでしまう。そんな指導者にとっての大きなハードルを乗り越え,生徒が「やってみたい」と思える授業を数多く実践する岡本弘之先生。「情報嫌いをなくしたい」と奮闘する岡本先生が,授業をどうデザインしているのか,その詳細を伺いました。
- Q
- 岡本先生のWebサイト『情報科の授業アイデア』には,ほんとうにたくさんの授業実践が掲載されていますね。
- A
- 自分はもともと社会科を指導していましたが,’03年に教科「情報」が生まれたのを機に情報科の指導も行うようになりました。最初はどのように教えたらいいのか戸惑うことばかりで,そんなときに学会や研究会で出会った先生方とのつながりやサポートがあり,ここまでやってくることができました。
日々の授業をどうデザインすべきか,それは今も変わらず,試行錯誤の連続です。研究会で他の先生の発表を聞いて,よいと思ったものはどんどん取り入れさせていただいたりしています。とくに情報の授業は指導すべき領域が広く,日進月歩なので,この分野は得意でもこっちはそうではないということがどうしてもでてきます。恩返しではないですが,だれかの役に立てられたらという気持ちで公開しています。
- Q
- 先生の実践には,「ペーパープロトタイピングでアプリを企画」をはじめ,「マイブームをプレゼンテーションしよう!」や「取材して雑誌風の記事を書こう!」,「大阪案内ツアーを企画しよう!」など,テーマを見ただけで「受けてみたい」と思える魅力的なテーマが並んでいます。
- A
- 生徒には「おもしろい!」と学びの本質を実感させながら授業を受けてもらいたいという想いがあります。教えられる授業ではなく,生徒が主体となった授業です。そのためには,教科として教えるべき内容,あるいは教科書の内容をただ教えるのではなく,いったんそれらを再編集し,生徒たちが主体的になれるテーマなり,方法なりにアレンジして再パッケージします。その試行錯誤の結果として,いまの授業があると思います。
- Q
- 授業を設計するうえで,大事にされていることはありますか?
- A
- 絞り込むことはむずかしいのですが,ひとつ挙げるとすれば,「考える場をいかに与えるか」ということ。
たとえば,プレゼンテーションの場合,どうしてもパワーポイントの操作の習得に時間を取られてしまったり,評価や時間の都合から,みんなが一斉に与えられた課題を制作したり,といった授業になってしまいがちです。
ソフトの習得であれば,それは本来の学習の趣旨とはかけ離れているし,同じ課題をレールに乗って制作するのでは主体的な学びにはなりません。そのため,ソフト操作の解説はあらかじめプリントにまとめ,説明も5分程度に抑えます。また,プレゼンだけでなくWebサイトや映像,ポスターなど,何かを制作させるときには,企画書や絵コンテをつくらせるところからはじめ,何を考えるべきかを明確にしつつ,「考えさせる」という狙いを確実に実行させることを意識しています。
企画書や絵コンテを書かせることで,教師側が考えるべき手順をお膳立てしているわけですが,答えはどこにも用意されていません。生徒は,自分にしか出せない答えを生み出そうと,楽しみながらも必死にもがいています。
単元「学校紹介のショートムービーを作ろう!」のソフト操作を解説したプリント。ソフトの操作のために多くの時間を割くことはない。生徒は必要に応じて参照すれば,操作を習得し,しかも,期待以上の成果物を仕上げてくる。
単元「Webページを制作しよう!」で企画書を書かせるためのワークシート。「料理またはお菓子の作り方を紹介する」というテーマを与え,内容を生徒が考える。
単元「学校紹介のショートムービーを作ろう!」で絵コンテを書かせるために,生徒に提示した見本。
- Q
- 「苦しい」けど「楽しい」という一見矛盾する2つを結びつける秘訣はどこにあるのですか?
- A
- たとえば「マイブームをプレゼンテーションしよう!」では,生徒一人ひとりがいまはまっているお気に入りの食べ物や場所,モノをまとめ,発表するという取り組みです。指導上の狙いは”プレゼンテーションの手順の理解→発表→評価”です。
生徒は自分の好きなものを発表できるとあって気分は盛り上がります。しかし,相手の考え方や行動に何かしらの変化を与える行為がプレゼンであり,単なる発表ではないこと,そのためにはテーマは何にするのか,またそのテーマで何を伝えようとするのか,さらに,どのような筋道で伝えれば説得力をもって伝わるのかなど,実施までの過程には考えるべきことがたくさんあります。
頭を絞ることは多いので,作業自体は重いものです。けれど,この単元にかぎらず,Webサイトの制作だったり,自分が経験したメディアの歴史の制作だったり(編集部注:実習「私のメディア史を作ろう」),すべての実習が生徒にとって身近なテーマで,経験したことから答えを導き出せる課題になっています。
生徒からはよく「情報科の授業はしんどい……」という声を受けます。「他教科は座っていれば1時間終わるけど,情報の授業は考えないといけないから」と。だから「情報科はいやなん?」と問うと,「でも楽しい!」という反応が返ってきます。
授業では「考えろ!」,「考えろ!」としつこく言うので,もし自分が生徒だったらたしかにしんどいし,自分の授業は受けたくない(笑)。でも,無茶苦茶な課題に答えを出せというわけではなくて,考えれば進められるようにリードしているし,かたちになれば達成感も得られる。生徒もそれがわかっていて,ついてきてくれるのだと思います。
- Q
- 先生の授業はテーマ設定ひとつとっても,とても親しみやすく,わかりやすく設計されています。「わかりやすい授業」を行うための工夫はあるのでしょうか?
- A
- 「情報科」と「社会科」は実社会に一番近い教科だと信じています。生徒が将来,社会に出たときに学んだことがダイレクトに活かされる教科です。
だからこそ,教科書に載っていることが,日常のどんなところと結びつくのか,現実社会にどう生かされているのかという「つながり」を生徒たちに与えることが大事だと考えています。
また,教科書に記述されている内容を,座学としてインプットすることはもちろん大切なのですが,知識を知識で終わらせるのではなく,体験と結びつけて理解させること。そのため,まずは学習内容を実習に落とし込み,作品でも発表でも,かたちは何であれ,生徒自身にアウトプットさせる授業を心がけてはいます。
教科書に記述された「知識」も生徒にとって身近な例と結び付けられれば理解しやすいでしょうし,単なる知識ではなく,体験を通じて得た知識が強いことも言うまでもありません。
わたしは大学時代に情報を専門に学んできたわけではなく,専門家ではありません。だから,「(情報の学習内容が)むずかしくて,わからない」という気持ちがよくわかります。わたしには先進的で「特別な授業」はできないけれど,でも逆に「むずかしいことを,いかにわかりやすく伝えるか」という授業はできるのではないかと考えています。
デスクとノートPCがゆったりとレイアウトされているPC教室。実習,グループワークが学習の中心になるため,活動しやすいように配慮されている。
- Q
- 最後に,先生の授業を受けることで,生徒たちにどうなってほしいとお考えですか?
- A
- わたしたちの生きる世界がよいものになるか,そうでないかは,われわれ人間一人ひとりにかかっていると思います。社会がよりよいものになるためには,一人ひとりが,自分で考え,判断し,主張できる「賢い大人」である必要があります。現在のように情報通信技術が発達した現代社会では,だれでも簡単に情報発信ができるし,その情報を通じて影響力を持つことも可能です。情報科で学ぶ以上,情報を適切に収集し,捉え,表現できるようになってほしいと願っています。
「現場の感覚」~オランダ美術館員の一言~
「現場」という言葉があります。「今、物事が行われているところ」「実際に事が起こった場所」「管理部門に対する実務部門」「組織や制度に頼らない個々人の仕事」などの意味です(※1)。もちろん管理部門も立派な「現場」ですし、「現場」が成立するためには組織や制度も必要です。「現場」だけが単独に成立するわけではありません。でも「現場」という言葉には独特の、やはり「現場」的としか言いようがないニュアンスがあります。
例えば、ある問題に対して、人は自分の経験と目の前の状況から、その都度解決方法を考え、道具を探し、答えを導き出しています。先生であれば、直前の子どもの発言や行動などを手掛かりに、直感的に「何を話すか」「どう動くか」判断しながら事に当たっています。常に事は「現場」で起きていて、それを解決しているのは「現場」にいる人間です。それは当事者にとっては正直な感覚でしょう。刑事ドラマの名セリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」はこれを鋭く指摘した言葉だと思います(笑)。
さて、先月のオランダ調査で強く感じたのも、この「現場」の感覚でした。

色々な国で美術館の教育普及活動を調査してきましたが、話題は概ね共通しています。それは「来館者に何らかの変化を及ぼしていなければ、美術館の存在意義はない」ということです。「展覧会がどれだけ市民に役立ったのか」、「教育活動で人々の生きるスキルにどう貢献したのか」などが問われるのです。活動の対象が子どもであれば「ナショナルカリキュラム(学習指導要領)をどう踏まえているのか」「子どもの何を育てたのか」などが求められます。近年は明確なエビデンスを求めて調査や統計分析も行われています。
オランダの調査でも、この観点から「教育活動の目的をどのように考えているか」と学芸員やエデュケーターに質問しました。美術館の特徴に応じた相違はあったものの、ほぼ上記の文脈にそった答えが戻ってきました。例えば「ゴッホから作品の見方を学んでほしい」「オランダの歴史を伝えたい」「創造的な態度で世界に立ち向えるようにしたい」などです。
しかし、ユトレヒト中央博物館のベロニカの答えは少し違っていました。それは、最も印象的で「現場」的な答えでした。

「美術館の教育普及活動の目的は?」
「私の企画した教育活動でおじいちゃんと子どもが笑っていることです」
あまりにも素朴な答えだったので、私は次のように続けました。
「人々が『あらかじめ祖父である、孫である』ということではなく、教育普及活動を通して『祖父である、孫であるということが達成される』という意味ですか?」
それに対してベロニカはこう返しました。
「いや、おじいちゃんの笑顔がうれしいのです」
私は、役目とはいえ、少々恥ずかしい気持ちになりました。教育活動を進める上では明確な目標が必要です。美術館と学校が連携するためには、お互いの考え方を共有し、「何が向上したのか」というエビデンスを示さなければいけません。でも、結局のところ「現場」の人間が大切にしているのは、その都度生み出される参加者の「笑顔」なのです。それが教育活動の成果であり、当事者にとって一番の喜びなのです。
ベロニカの答えは「目的や理屈で物事を見過ぎてはいけない」「『現場の感覚』を忘れてはいけない」という警句に聞こえました。何か事に当たっていると、つい忘れがちになる「そこにいる人々の喜び」。これを大切にしたいと思った次第です。
※1:「現場」という言い方を嫌う教育委員会もあるので注意する必要がありますが、私は好きな言葉です(^^)



ワークシート
※岡本先生のWebサイト『情報科の授業アイデア』にはすべての実践のワークシート,スライドデータがアップされています。
マイブームをプレゼンテーションしよう!ワークシート(272KB)
スライド(272KB)
ぱらぱら動画を作ろう!ワークシート(248KB)
スライド(308KB)
Webページを制作しよう!ワークシート(288KB)
スライド(348KB)
私のメディア史を作ろうワークシート(128KB)
スライド(252KB)