Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.11

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.11 “「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」報告(案)について”を追加しました。

「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」報告(案)について

 本連載では、これまでの10回にわたって、インクルーシブ教育システムの構築に関するわが国の基本的な考え方や実際の取り組みを視座に情報を提供してきました。「障害者の権利に関する条約」の批准を契機に、インクルーシブ教育システムの構築が通常の小・中・高等学校等に浸透し様々な取組が進んでいること、他方、当事者の視点に立つとまだまだ課題も残されていること等を理解していただけたのではないかと思います。それでは、これからのインクルーシブ教育システムの構築はどのように進んでいくのでしょうか。
 文部科学省は、昨年9月に「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」(*1)を設置しました。この11月にこれまでの会議の議論が素案として取りまとめられ(*2)、パブリックコメントにかけられました。パブリックコメントの意見等を踏まえて最終報告がまとめられていくことになりますが、その内容はこれからの施策立案に反映されていくものと思われます。そこで、素案の段階ですが、通常の学校の取組に関する今後の方向性がどのように考えられているか整理しておきたいと思います。

これからの特別支援教育の方向性

 素案からは、今後もインクルーシブ教育システムの理念を構築し、特別支援教育を進展していく方向性が確認できます。このことを踏まえて、小中学校における障害のある子どもの学びの充実についても、現状や現行制度を整理したうえで、管理職のリーダーシップ等、特別支援学級と通常の学級の子どもが共に学ぶ活動の充実、児童生徒の特性に応じた支援、自校における通級による指導を充実するための環境整備、通級による指導等の在り方の検討、学校施設のバリアフリー化等について提言がなされています。 これらはこれまでの取組の改善や一層の工夫を求めるものだといえます。

全ての教師に求められる特別支援教育に関する専門性

 さらに、今回の素案では、全ての教師に特別支援教育に関する専門性を求めています。このことは、インクルーシブ教育の構築の推進の上で大変重要な提言であるといえます。すでに、小学校教員等の養成を目的とする教職課程においては、令和元年度入学生からは、全ての学生が発達障害や軽度の知的障害をはじめとする特別支援教育の基礎的内容を1単位以上修得することが義務付けられていますが、この素案には、全ての教師に求められる資質・専門性として、次のような記述が認められます。

 ○ 全ての教師には、障害の特性等に関する理解や、個別の教育支援計画・個別の指導計画などの特別支援教育に関する基礎的な知識が必要である。加えて、障害のある人や子供との触れ合いを通して、障害者が日常生活又社会生活において受ける制限は、障害により起因するものだけではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものという考え方、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえ、障害による学習上又は生活上の困難について本人の立場に立って捉え、それに対する必要な支援の内容を一緒に考え、本人自ら合理的配慮を意思表明できるように促していくような経験や態度が求められる。また、こうした経験や態度を、多様な教育的ニーズのある子供がいることを前提とした学級経営・授業づくりに生かしていくことが必要である。
 ○ 日々の教育実践において、目の前の子供の障害の状態等により、学習上又は生活上の困難さが異なることを理解し、個に応じた分かりやすい指導内容や指導方法の工夫を検討し、子供が意欲的に課題に取り組めるようにすることが重要である。その際、困難さに対する配慮等が明確にならない場合などは、校内の特別支援コーディネーターや特別支援学級、通級による指導の担当教師に相談したり、必要に応じて特別支援学校等に対し専門的な助言又は援助を要請したりするなどして、主体的に問題を解決していくことができる資質や能力が求められる。

 こうした資質や専門性は、連続性のある多様な学びの場の充実・整備に欠かせないものです。また、こうした資質や専門性を高めていくためには具体的な方策が不可欠ですが、素案では、養成、研修・人事交流の在り方などについても提言しています。また、一方的に負担を求めるだけでなく、インセンティブも大事になりますが、この素案ではその拡大にも言及しており、踏み込んだ提言になっていると言えます。
 本素案に関するパブリックコメントはすでに締め切られていますが、多数の意見が寄せられており、関心の高さがうかがえます。最終報告の公開が待たれるところですが、素案も一読されるとよいのではないかと思います。

*1:新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/154/index.htm
*2:新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告(案)
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20201222-mxt_tokubetu01-000011855_2.pdf

GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生

© Ladybirds Cinema

 アフリカのケニアに、94歳になる小学生がいる。プリシラ・ステナイというおばあちゃんだ。現地の言葉で、ゴゴ(おばあちゃん)と呼ばれている。ゴゴは、3人の子どもに、22人の孫、52人のひ孫がいる。もとは助産師で、住んでいる小さな村で、多くの出産に立ち会っていて、今なお、現役の助産師である。
 一応はドキュメンタリー映画だが、「GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生」(キノフィルムズ配給)は、おそらく世界で最年長の小学生の日常に寄り添ったエピソードが続き、劇的である。
 ゴゴは90歳で、6人のひ孫といっしょに、小学校に入学する。女の子は寄宿舎に入るので、ゴゴもまた自宅から寄宿舎に入る。90歳を過ぎると、耳は遠くなるし、片目は見えない。もういっぽうの目も、はっきりとは見えないようだ。ゴゴは、小さいときから、牛や鶏の世話などで、そもそも学校には行ったことがない。
© Ladybirds Cinema ゴゴは、算数の授業で、かけ算に答えるが、耳が遠いので、先生とのやりとりも厄介だ。みんなが昼寝をしていても、ゴゴは一生懸命に教科書を読んでいる。ひ孫のチェプコエチは、ゴゴの復習を手伝っている。ゴゴは、子どもたちに昔話を聞かせる。子どもたちは、熱心にゴゴの話に聞き入る。映画は、ゴゴの学校生活をゆったり、淡々と描いていく。
 みんなで、1週間のバス旅行に出かける。平原の向こうはタンザニアだ。キリンやライオンに出会って、みんなは大喜びだ。
 卒業試験が近づいているある日、ゴゴは94歳の誕生日を迎える。サミー校長先生をはじめ、みんながゴゴを祝ってくれる。ゴゴも尽力していた、女の子用の新しい寄宿舎が完成を迎える。ゴゴの名前をとって、ゴゴ・プリシラ・ステナイ寄宿舎という。ゴゴは、お祝いのスピーチをする。
 さあ、卒業試験が始まる。果たして、ゴゴは合格するのだろうか。
© Ladybirds Cinema いまでは、ケニアの子どもたちは、ほとんどが教育を受けられるようになったが、年配のことに女性たちは、そもそも学校に行けなかった。ゴゴは、「世界じゅうに教育の大切さを伝えることができるなら」と、映画の出演を引き受けたという。映画のタッチは、どこかで見たことがあると思っていたら、2014年の4月に本欄で紹介した「世界の果ての通学路」と同じ、フランスの映画監督パスカル・プリッソンの作品だ。「世界の果ての通学路」は、ケニア、アルゼンチン、モロッコ、インドの辺鄙な場所に住む子どもたちが、長い時間をかけて通学する様子を描いた傑作ドキュメンタリー映画だった。
 パスカル・プリッソン監督のこの新作は、小学校の授業風景や、子どもたちの生き生きとした表情、そして、ケニアの村の様子を活写する。自ずと、小さい子どもたちにとって、教育がいかに大切かが伝わってくる。
 映画の資料に、ゴゴの言葉が紹介されている。「世界中の全ての子供たち、特に少女たちに伝えたい。学校に行くことはあなたたちの力になり、財産となります。だから突き進んで下さい」。また、ゴゴのいる寄宿舎のドアには「学ぶことに年齢は関係ない」という看板が掲げられている。その通りである。

2020年12月25日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』公式Webサイト

監督:パスカル・プリッソン
2019年/フランス/英語・スワヒリ語/カラー/スコープサイズ/DCP/5.1ch/84分/原題:Gogo/字幕翻訳:長澤達也
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ