Webマガジンまなびと:「学び!とPBL」Vol.48

Webマガジン:「学び!とPBL」Vol.48 “「自分が生きるに値する社会」”を追加しました。

「自分が生きるに値する社会」

1.「See-Understand-Comprehend」

図1 「わかる」の3段階 私の最も尊敬する教育学者の竹内常一先生は、「理解する」には、感覚的に理解する(See)、構造的に理解する(Understand)、自分が何をすればいいのか理解する(Comprehend)、という三つのレベルがあると言っていました。学校での一般的な学習は、感覚的な理解から構造的な理解へレベルを上げることなのですが、PBLでは問題を理解するだけではなく、問題を解決するために自分自身が何をすればいいのかを理解する必要があります。
図2 学習会――社会のイメージをつくる 例えば、ゴミが落ちていたら「景観が悪くなるからゴミはない方がいい」はSeeの段階、地域のゴミ処理施設でゴミの実態を調べたり、ゴミの構成を調査したりするのはUnderstandの段階、生産者や消費者の責任を考え、ゴミの出ない包装やゴミの回収システムをつくるとすれば、これはComprehendの段階ということができるでしょうか。
 児童生徒は総合学習や探究学習で現実社会を学びますが、安易に社会をあまりに単純化して学んでしまうと、社会のすべてを自分の主観でしか捉えられなくなってしまいます(See)。また逆に、現代社会の巨大で複雑な様相から入ってしまうと、社会とは複雑で、曖昧で、予測不能なもの、だから理解できないもの、自分が行動してもしかたのないもの(Understand)と受け止められてしまいます。前回紹介したPISAの調査や日本財団のアンケートの結果を見ると、日本の若者は後者が圧倒的に多い可能性もあります。

2.「学びとしてのアクション」と「社会実践としてのアクション」

図3 学習会――風船と爪楊枝を準備して実験 生徒たちの一般的な社会の認識は、「See-Understand-Comprehend」のような段階を踏んで進むべきなのだと思います。本連載の「<Vol.22>Education 2030と新しいコンピテンシーの定義①」のラーニングコンパスが最終的に、能力をため込むことが目的なのではなく、Well-beingに向かうアクションであることがとても大切なポイントです。そのアクションも、「学びとしてのアクション」と「社会実践としてのアクション」の二面性があることは押さえておくべきです。つまり、社会を知るために地域の中で活動する場合と、地域の役に立つために地域活動を行うということで、当然両者が融合することもあるでしょう。
図4 学習会――社会の性質を学ぶ しかし社会は、生徒たちに、というよりも一市民として社会参加をし、自分たちが住みたい社会に変えていく努力、すなわち「社会実践としてのアクション」を期待しています。高校で先行して実施されている探究活動は、「学びとしてのアクション」を飛び越えて「社会実践としてのアクション」を期待しがちです。複雑な社会に生徒たちを投げ込んでしまうと、「自分がいくらがんばったって……」という社会イメージに支配され、社会に対する無力感や、家族や友達などの狭い社会のイメージで物事を判断してしまうことになってしまいます。東日本大震災や、新型コロナウイルス感染症や、この原稿を書いている現在、ロシア軍によるウクライナへの侵攻が激化し、多くの尊い人命が失われていることを見ても、現実の社会は理不尽で、過酷で、そう簡単に一人ひとりの希望を反映してはくれません。

3.ポジティブな社会イメージ

図5 学校でこそ社会変革の学習を 学校で学ぶ児童生徒に身につけさせるべきは、「学びとしてのアクション」を通して、将来自分が働きかける対象となる社会の肯定的イメージではないかと思います。いきなり、社会の荒波を体験させても児童生徒は無力感しか得ることはないでしょう。生徒たちが発達過程の中で、社会のイメージを自分の中に築いていくときに、「自分が生きるに値する社会」のイメージをつくっていかなければなりません。「自分の働きかけによって社会が呼応し、その働きかけを価値化する」という成功体験が、「自分が生きるに値する社会」のイメージの形成に繋がります。福島市チームが「高校生フェスティバル」に取り組んだのは、そのような理由があります。
 地域実践型PBLは、せっかちに実効性を求めるのではなく、ゆっくりと「自分が生きるに値する社会」のイメージをつくっていくことを目標とすべきなのです。

円と球「まるい形を調べよう」(第3学年)

1.単元名

円と球「まるい形を調べよう」(第3学年)

2.単元の目標

  • 円について中心・半径・直径について知り、円に関連して、球についても直径・半径などを知ることができる。(知識・技能)
  • コンパスを使って正確に指定された大きさの円を作図することや指定された線分の長さなどを正しく図り取ることができる。(知識・技能)
  • 円や球の中心・半径・直径など、円や球の構成の仕方を考えるとともに、円や球の性質を見いだすことができる。(思考・判断・表現)
  • 円や球の性質が日常生活でどのように役立てられているかを考察しようとする。(主体的に学習に取り組む態度)

3.評価規準

知識・技能

  • 円や球について、中心・半径・直径などの構成を正しく理解している。
  • コンパスを安全に正しく使うことができる。

思考力・判断力・表現

  • 円を構成する要素に着目し、学習を通して、円や球の性質を見いだすことができる。

主体的に学習に取り組む態度

  • 円や球の性質を日常生活で積極的にいかそうとしている。

4.本単元の指導にあたって

 児童は2年生で定規を使って直線を決められた長さでかく作業を学習している。3年生では、円という図形を学習する。コンパスなどの用具を使って正しく決められた半径(または直径)の円をかくことができるようにさせることが本単元での主なねらいとなる。また、円を正しくかく過程の中で円を構成する要素である中心・半径・直径などの言葉の意味や性質も正しく理解させておきたい。学習を重ねるにつれ、円や球は日常生活の中で様々な形でその性質が利用されていることを知り、自ら進んで円や球の性質を利用しようとする態度も併せて養っていきたい。
 児童はコンパスを利用するのは初めてである。最近では左利きの児童も一定数おり、左利きの児童がコンパスを利用することにも留意して学習を進めていく必要があると考える。また、生活経験が不足している児童がここ最近全国的に増えてきている。コンパスには針などがありけがなども予想されるため、安全に留意して指導を進めていく必要もある。また、本教材では、基礎基本の徹底を図っていくとともに、本年度本校に導入された大型モニターやクロームブックも積極的に利用して、視覚的にも円およびその性質についての学習を深めていき、本校のめざす「学び合い学習」につなげていきたいと考えている。

※円の定義について
 円の定義は「平面上にある任意の定点Aから等しい距離にある点の集合」である。児童の発達段階を考えた時これをそのまま児童に伝えてしまうと混乱を招く恐れがある。よって、「右のような形を円といいます。」というような例示的な定義を示し、児童に円の学習を進めてもらいたいと考える。小学校算数では「円の定義」のように曖昧なものとして「①線分・半直線・直線をすべて直線とよんでいる。」「②三角形は内部をふくむときと、辺だけをさすときがある。」などがある。

5.単元の指導計画

学習のねらい

主な学習内容

1

日常生活の中で円が使われていることを知ることができる。

実際に4グループに分かれて玉入れを行い、感想などを発表する。

運動場
玉入れかご・玉

2

円の概念と円の半径・中心について理解することができる。

定点(円の中心)から5cm離れた点をたくさんかく。
点をたくさんかけばかくほど点を結んだ形が円に近づくことを視覚的に理解する。
円の中心と半径についてまとめる。

大型モニター
クロームブック

3

円の直径や直径の性質を理解することができる。

円に形に切った折り紙を2つに折って折り目が円の直径であり、その円を折ってできる一番長い折り目であることを理解する。
2回折り目を作ってできた交点について考える(円の中心)。

大型モニター
折り紙

4
本時

コンパスの使い方を正しく理解し、正確に指定された大きさの円をかいたり距離を図り取ったりすることができる。

コンパスの安全な使い方を知る。
コンパスを使って円をかいたり、距離を図り取ったりする。

コンパス
大型モニター

5

こまを作ることにより、円のもつ性質や美しさに気がつくことができる。

円の形のコマを回し、円の性質について視覚的に考える。
楕円形や三角形などのコマ(教師側で用意)を回した時の違いを考える。

段ボール

6

コンパスの性質を利用して、条件に合った点を見つけることができる。

コンパスの性質を使い、問題を解く。

7

球の中心・半径・直径を正しく理解することができる。

球の切り口の教材から、球はどこで切断しても切り口が円であることを理解する。
球の中心・半径・直径を理解する。

円の切り口の教材

8

身の回りのものから円や球を探すことによって、円や球の性質を使ったものが日常生活の中にたくさんあることを実感することができる。

学校内にある円や球を、クロームブックを使って撮影し、発表する。(図1)

クロームブック
大型モニター

9

学習内容の定着を確認し、理解を深める。

ノートの使い方にも気をつけながら問題を解いていく。

(図1)
校舎内にある円の形をしたものをクロームブックのカメラを使って児童が撮影しました。

6.本時の学習

①ねらい
コンパスの使い方を正しく理解し、正確に指定された大きさの円をかいたり距離を図り取ったりすることができる。(知識・技能)

②本時案(指導の実際)

学習内容

学習活動および児童への支援

備考

1 コンパスの使い方を知る。

コンパスの使い方を知る

・針を人に向けないなどの安全な使い方を知る。

2 コンパスで円をかく。

・針をしっかりと固定して半径の長さが変わらないように気をつけながら円をかくようにする。

○ノートにたくさんの円をかく
・円の線が途中で切れたり、コンパスの針が途中で動いたりしないことに留意して円をできるだけたくさんかく。(図2)

・ノートにかいた円の絵をロイロノートを使い提出する。(図3)

運動場で「円」をかいている動画を見る(図4)

・半径などは気にせず好きな大きさの円をかかせる。

・コンパスと同じところはどこか、ペアで話し合い発表する。
→中心が固定されているところ
→中心と線をかくところの距離が一定であるところ

・円やコンパスの性質が日常生活にも使われていることに気づかせる。

3 コンパスで距離を図り取る。

教科書P124-4の問題を映像を見ながら一緒に解いていく。(図5)
・コンパスの針が動かないようにすることと、半径が変わらないようにすることに気をつけて、円弧をかいていく。

・円をかき切るのではなく、直線と交差する部分だけをかけばいいことに気づかせる。

4 まとめ

今日学習したことのまとめをする。
・コンパスでできること
 ・円をかく。
 ・距離を図り取る。
・コンパスを使うときに注意すること
 ・安全に気をつける。
 ・中心を動かさない。
 ・コンパスのねじが緩まりすぎていないか確認する。

(図2)
コンパスを使ってクマの絵をかきました。他にも同心円を書いている児童や、アニメキャラクターをコンパスでかいている児童もいました。

(図3)
クロームブックの「カメラ」を使って自分がノートにかいた円を「ロイロノート」アプリを使って「提出」しているところです。

(図4)
実際に休み時間を使って運動場に半径3mの円を児童がかきました。中心がずれたり、巻き尺を踏んだりの失敗が何度かありましたが、無事にかき切ることができました。

(図5)
パワーポイントのアニメーション機能を使って提示しました。

7.指導を終えて

 コンパスを使う今回の学習では、本単元の開始前から「先生、コンパスいつ使うの? 早く使いたい。」といった声もよく聞かれ、関心の高さがうかがえた。今回の単元に入ることを伝えたときは、コンパスを使うことができる喜びからなのか歓声が上がった。今回の学習ではコンパスだけではなく、校内にある様々な教育器具を使うことを意識した。特に本年度1学期末に本格導入されたクロームブックを今回は積極的に使うようにした。本授業ではノートにコンパスを使ってかいた円の絵を、クロームブックを使って先生機に提出し、出来上がった絵を大型モニターでみんなで確認する学習を行ったが、児童の中には1作品だけではなくいくつもコンパスを使った絵をかいて提出していた子どももいた。運動場でかいた円では、本来であれば児童全員に体験してもらいたかったが、時間の都合上5人にしてもらい、休み時間を使って撮影した。授業の中でその様子を映像で全員で共有した。撮影は何回も失敗を繰り返しながらようやくできたものであるが、撮影を終えた児童は、「いつ授業で使うん?」と何回も聞いてくるなど、授業で使うことをとても楽しみにしていた様子であった。
 本単元ではコンパスだけでなく様々な教育機器を使ったが、児童の関心および意欲は確実に高まったことがわかった。特に本年度から本格導入されたクロームブックを使った学習ではそれが顕著に表れた。これらの器具をどのように活用すれば、より子どもたちの学習意欲向上につながるかを考えることが、これからの教育課題であると私自身強く感じることができた。

【参考文献】
算数教育指導用語辞典第4版(日本数学教育学会出版部)

ESDと気候変動教育(その10) ユネスコの報告書から読みとく気候変動教育の課題

図1 出典:UNESCO(2021a) 『すべての学校を気候変動に備える: 各国はいかに気候変動の課題を教育に統合しているか』(Getting Every School Climate-ready: How Countries Are Integrating Climate Change Issues in Education)という気候変動教育の報告書が、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)にてユネスコより公表されました(図1)。これまでにも触れてきたように(「学び!とESD」Vol. 24 25 )、この報告書では、気候変動教育の様々な現状と課題が明らかにされています。
 本号では、報告書が伝える気候変動教育の現在、カリキュラムと教え手の備えの、2つの観点から紹介します。

気候変動教育を、全ての国の、全ての学年、全ての学習分野の中核に

 気候変動に関する知識、スキル、価値観、そしてアクションは、学習の分野や学年を超えて、カリキュラムに組み込まれることが必要です。上記の報告書が最初に伝えているのは、調査した100か国のナショナル・カリキュラム(学習指導要領)のうち、気候変動について言及しているのは53%だということです。またナショナル・カリキュラムのうちの40%については、言及はあってもその度合いが最小限だと評価されています。
 気候変動に関する内容の地域差についても報告があります。図2が示すように、オセアニアやサハラ以南のアフリカといった気候変動の影響を受けやすい地域の国々は、その内容を広く盛り込んでいます。一方で、二酸化炭素(CO2)を多く排出し気候変動の原因に強く加担している国々は、大きく遅れを取っていることも明らかになりました。

図2 各地域のナショナル・カリキュラムに気候変動の内容はどの程度含まれているか
出典:UNESCO(2021a)Figure3

 さらに、気候変動教育が行われるのは初等・中等教育が中心であり、TVET(技術・職業教育・訓練)、高等教育、教員養成ではさして見受けられない傾向も分かりました。
 ちなみに、今回の報告書に日本への個別の言及はありませんが、この報告書が土台としている別の調査(UNESCO 2021b,p.33)は、文部科学省の計画や学習指導要領で使われている環境問題関連の用語から、日本の環境教育を評価しています。具体的には、「環境」「持続可能性」「生物多様性」「気候変動」に関わる用語を抽出し、抽出された用語全体を100%とした場合に各分野の用語がどの程度の割合で登場するかを明らかにしています。例えば「環境」分野では「環境(environmental)」、「エコシステム(ecosystem)」などの用語が、「気候変動」分野では、「温室(greenhouse)」、「地球温暖化(global warming)」、「気候変動(climate change)」などの用語が取り上げられました。この調査の結果によると、日本は「環境」に関わる用語が79%である一方、「生物多様性」は14%、「持続可能性」は7%であり、「気候変動」は0%です。日本はSDGsや環境問題を取り扱う中で、気候変動への比重が極めて小さいと評価されたことになります。

気候変動教育への教師の備え

 報告書では、教師へのアンケートの結果、95%近くが気候変動を教えることの重要性を認めているものの、それを教えることに自信がある教師は40%に満たないことが明らかになりました。さらに、身近な地域への影響を説明できると考える教師の割合は、約3分の1に留まります。また、気候変動の知識(認知的側面)を教える自信のある教師は40%いる一方で、行動的側面(例えば、どのように自分のカーボンフットプリントを減らすか)を説明できるのは約20%であるという結果も出ています。
 気候変動を教えられないのは、適切な教え方を知らないこと、どの科目で教えたら良いのか分からないこと、このテーマを教える時間が無いこと、必要な知識やスキルが無いことなどが要因のようです。実際に、気候変動や持続可能なライフスタイルに関する教員養成や教員研修を受けたという回答は、半数強(55%)で、学校に気候アクションを起こす計画があるという回答は、半数を満たしていません。
 このような課題を踏まえると、気候変動教育を全ての教科、全ての教員養成・教員研修に組み込み、学校全体で取り組むために、知識や効果的な教授法、ツールを提供する必要があります。また、アクションに重きを置いた学習への取り組みも重要です。

これからの気候変動教育に向けて

 以上のことを踏まえ、これからの気候変動教育に向けて次のような提案を報告書は提示しています。

  • 気候変動教育を、すべての国でカリキュラムの中核に据えること。
  • 気候変動の問題に最も責任のある国に関してはその国の教育課程で気候変動の内容に焦点をより当てること。
  • 気候変動教育をあらゆる学年、あらゆる学習分野に組み込むこと。
  • 教師が気候変動を教えられるように備えること。(*)
  • 頭も心も身体もバランスよく重視した形で気候変動教育を行うこと。
  • 気候変動教育を各国の政策やプログラムの多様な側面に織り込むこと。
  • 文部科学省と環境省が気候変動教育を推進するために協力すること。

 日本のESDや気候変動教育の取り組むべき課題を共有し、対話を重ねていくうえで、今回の報告書は世界の現状を踏まえた様々なヒントを与えてくれると言えるでしょう。

*英国の若者たちは政府に対してこの要請をつとにしている。詳細は次を参照。
https://climate-empowerment.com/globaltrend/若者による政府への要請文/

【参考文献】

  • UNESCO(2021a)Getting Every School Climate-ready: How Countries Are Integrating Climate Change Issues in Education.
  • UNESCO(2021b)Learn for our planet: a global review of how environmental issues are integrated in education.

Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.27

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.27 “ESDと気候変動教育(その10) ユネスコの報告書から読みとく気候変動教育の課題”を追加しました。