「受けつがれる祭りと人々のねがい」(第4学年)

1.単元名

「受けつがれる祭りと人々のねがい」(第4学年)

2.目標

 地域で受け継がれている文化財や年中行事について地図などの資料で調べて年表などにまとめ、人々の願いや努力を考え、表現することを通して、文化財や年中行事は、地域の人々が受け継いできたことや、地域の発展など人々の様々な願いが込められていることを理解できるようにするとともに、主体的に学習問題を追究・解決し、地域に対する誇りをもち、伝統や文化の継承に協力していこうとする態度を養う。

3.評価規準

知識・技能
○歴史的背景や経過、保存や継承のための取り組みについて調べ、文化財や年中行事の様子を理解している。
○文化財や年中行事は地域の人々が受け継いできたことや、人々の様々な願いが込められていることを理解している。

思考・判断・表現
○歴史的背景や現在に至るまでの経過、保存や継承のための取り組みなどに着目して問いを見出し、文化財や年中行事の様子について考え、表現している。
○文化財や年中行事を保存していることの意味を考えたり、自分たちにできることを選択・判断したりして、適切に表現している。

主体的に学習に取り組む態度
○文化財や年中行事について学習問題を追究し、解決しようとしている。
○学習したことをもとに、文化財や年中行事を継承していくために、東京都民の一人として自分たちにできることを考えようとしている。

4.本単元の指導にあたって

 教材として扱った三社祭は毎年5月に浅草の浅草神社で行われている祭りで、毎年150万人もの人が訪れている。
 4年生の児童にとっては自分の住んでいる都道府県で行われている祭りといえど、参加したことがなければその規模や様子、盛り上がりを実感するのは難しいと考えられる。まずは、地図を用いてどこの地域で行われているのか空間的に捉えさせるとともにその地域について簡単に紹介する。そして自分の住んでいる市区町村(練馬区:約70万人)の人口と参加人数を比較する。ICT機器を使用して動画や写真を見せるなど児童が少しでも身近に感じられる工夫をすることでその年中行事や文化財に関わる人の思いにせまれるように工夫したい。
 今回の実践では資料の都合上、文化財についての扱いが少なくなってしまった。可能であれば文化財についても丁寧に扱うことで、年中行事と文化財をどちらも守り、受け継ぐために様々な人々が工夫や努力を重ねていることや、それらの人々の思いや願いの共通点に気付くことができ、学びが深まると考えられる。また、学習のまとめでは直接運営に参加したり何かの活動をしたりするだけでなく、知ることや大切にしようと思うことも保存や継承につながることを授業の中で伝えていきたい。

5.単元の指導計画

学習のねらい

子どもの活動と内容

評価規準の具体例

1

東京都の代表的な文化財や年中行事について調べ、その概要を知る。

○東京都で受け継がれている年中行事や文化財について知る。
!浅草に行ったことがある。
!皇居は昔は江戸城だった。

【態度】
文化財や年中行事について関心をもち、すすんで調べようとしている。

2

三社祭について知り、学習問題と学習計画を立てる。

○三社祭の様子を知り、学習問題と学習計画を立てる。
?どれくらいの人が参加し、町のどれくらいの範囲で行われているのだろう。
?誰が祭りを開催しているのだろう。

【態度】
文化財や年中行事について疑問や予想から学習問題を立てようとしている。

3

三社祭の様子について調べ、理解する。

○写真や資料から祭りの概要を調べる。
!3日間(準備を入れると4日間)やっている。
○調べたことから考えたことや疑問を話し合う。
!神様の魂を込めているから、みこしは大切な物だと思う。

【知・技】
三社祭の様子について各種資料を活用して調べ、理解している。

4

三社祭の起源と歴史について調べ、理解するとともに、受け継いできた人々の苦労や努力を考える。

○三社祭の始まりと歴史について年表などの資料から調べ、理解する。
!江戸時代には今のような、にぎわう祭りになった。

【知・技】
資料を調べ、必要な情報を読み取り、三社祭の歴史について理解している。

5

三社祭の準備に携わる人々の働きや思いを知る。

○多くの人が関わっていることを知り、わかったことを話し合う。
!浅草神社奉賛会や町会の人を中心に、浅草中の人が協力して祭りをつくっている。

【知・技】
三社祭は多くの人の協力があること、人々の様々な思いが込められていることを理解している。

6

三社祭が受け継がれてきたわけについて、人々の思いや願いから考える。

○浅草神社の人や浅草に住んでいる人の話から、祭りを支える人々の思いや願い、苦労を考える。
!昔から受け継がれてきたものを子どもや孫にも伝えたいと思っている。

【思・判・表】
様々な人々の工夫や努力、願いを比較したり関連付けたりして考え、適切に表現している。

7

三社祭のキャッチコピーを考え、文化財や年中行事を守っていくために大切なことについて考える。

○今までの学習を資料やノートから振り返り、人々がどのような思いで受け継いできたのか話し合う。
!長い歴史のある祭りなので次の世代にも受け継ぎたいと願っている。
○三社祭のキャッチコピーを考え、交流する。
!700年の歴史と文化を守る三社祭
!みんなに愛され、みんなで受け継ぐ三社祭

【知・技】
調べてわかったことを文章や年表などにまとめて、三社祭は地域の人々が受け継いできたことや、それらには人々の様々な願いが込められていることを理解している。

8

9
本時

文化財や年中行事を守るために自分たちにはどんなことができるか考える。

○区内の文化財や文化財を保護している人の思いを調べる。
○文化財や年中行事を受け継ぐために自分たちにできることを話し合い、まとめる。
○地域の祭り(八幡神社例大祭)を主催する人の話を聞き、思いや願いを知る。
!多くの人に祭りのよさを知ってもらう。
!誰でも参加できるよう、安心・安全な祭りにしていったらいい。

【思・判・表】
学習したことをもとに、社会への関わり方を選択・判断して、適切に表現している。
【態】
学習したことをもとに、文化財や年中行事を継承していくために、東京都民の一人として自分たちにできることを考えようとしている。

6.本時の学習(9/9時)

①目標
○文化財や年中行事を守るために自分たちにはどんなことができるか考える。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

資料

○三社祭や地域の文化財を保存や継承していくための取り組みについて振り返る。
・準備をしたり、計画を立てたりする人たちがいた。
・子どもや孫の世代に受け継ぐため、安全に気をつけていた。

○ノートや副読本の資料から具体的な人の言葉を使って振り返りができるよう支援する。

○これまでの学習ノート
○三社祭や地域の文化財の写真
○各自が作ったキャッチコピー

・地域の文化財も、それを保護している人たちがいるから今の時代まで受け継がれてきた。

○浅草の人々との共通点を意識できるようにする。

○地域の祭り(八幡神社例大祭)を守ったり受け継いだりしている人の話を聞き、思いや願いを知る。
・自分たちも参加したことのある祭りだ。
・身近な地域にもお祭りを受け継ぐために努力している人たちがいる。

○地域の人材なので可能であれば直接話をしていただく、動画を撮影させていただくなど児童がより身近に感じられる工夫をする。

○地域の祭りの様子(動画や写真)
○地域の祭り(八幡神社例大祭)を主催する人の話

○浅草の人々の思いや願いと比較し、文化財や年中行事を守るために自分たちにできることを考え、話し合う。
・お祭りは、今までは自分が楽しむことだけ考えていたけれど、いろいろな人の思いが込められていることに気付いた。
・地域に残っている他の古いものも、何か理由があって残されているのだろうから調べてみたい。
・お祭りに参加して盛り上げることも行事を伝えていくのに役立ちそう。
・ごみを持ち帰ったりマナーに気をつけたりすることも受け継ぐために大切だ。

○祭りの運営に参加するだけでなく、様々な立場からどのようなことができるかを考えられるようにする。
○今の自分ができることだけでなく、将来の自分ができることという視点でも考えてよいことを伝える。
○これまで学習してきた人々の思いと関連付けて考えることができるようにする。

Padletで共有する「学びのポートフォリオ」

 今回は、Padlet(パドレット)というツールを使って、図画工作の授業での学びを記録し、ほかの児童と共有する実践を紹介します。

Padletについて

Padletとは?

 1つの画面に、複数人で文字を書いたり写真を貼り付けたりできる、掲示板のようなオンラインツールです。
 以下のWebサイトから、無料ですぐに利用できます。学校や企業向けの有料プランもあります。

https://ja.padlet.com/

 また、App Store/Google Playからアプリをインストールして利用することも可能です。

Padletでできること

 Padletは、教育現場に向けてつくられた、直感的かつ使いやすいツールです。教員がボード(掲示板)をつくり、児童を招待することで利用できます。
 児童一人一人が、授業での気付きを書いたり作品の写真を貼り付けたりすることで、他者の学びを見ることができるクラスのポートフォリオとなり、学びを共有することができます。

今回の活動での設定について

「シェルフ」のボードを使う

 Padletのボードには、7種類のテンプレートが用意されています。
 情報を並べたり連結させたりできる「キャンバス」、地図上に情報を追加できる「マップ」など、目的に合わせて選択することができます。
 今回は、縦の列に情報を追加していくことができる「シェルフ」のボードを使いました。

縦の列に児童一人一人の名前をつける

 「シェルフ」のボードに、児童一人一人の名前を付けた列をつくっていきます。
 縦の列は「セクション」と呼ばれます。この「セクション」の下に、情報を追加していくことができます。
 児童は、自分の名前がついている「セクション」に振り返りを書いていきます。その際、新しい振り返りが一番上に表示されるように設定しました。

プライバシーの設定をする

 個人情報の漏洩を防ぐために、ボードを共有する範囲を設定します。
 「プライバシー設定」から「シークレット」を選択し、ボードを共有した相手だけがアクセスできるようにします。今回は、クラスの児童にだけボードを共有し、そのクラスの児童だけが利用できるようにしました。
 その際、「書き込み」の権限を付けて設定することで、児童が振り返りを書けるようにします。

 また、

  • ほかの児童の振り返りに「コメント」ができるかどうか
  • 「いいね」などの「リアクション」ができるかどうか

などを設定することも可能です。今回は、学び合いの効果を期待し、両方ともできるように設定しました。

授業での活用方法

ミラクル! ミラーステージ(5・6上p.38-39)

 鏡の面白さを生かして、試しながら、様々な材料で立体に表す活動です。
 1次では、鏡の面白さや不思議さに触れる造形遊びの要素が強い活動をしました。この活動で鏡のもつ特徴などをクラス全体で共有し、整理していきます。
 2次では、その鏡の特徴を生かして、自分でテーマを決め、立体に表す活動を行います。

授業ごとの振り返りで、自己調整力を育む

 この題材では、毎回の授業の振り返りを、児童がPadletで記録していきました。ボードに、写真、学んだ内容や感想を追加していくことで、自分の学びをメタ認知するポートフォリオができあがっていきます。このように、児童が活動を振り返り、次時の活動へとつなげていくことで、学びの自己調整力を育むことができると考えます。

ほかの児童と学びを共有し、活動に生かす

 「シェルフ」のボードでは、ほかの児童の振り返りは横に表示され、ほかの児童がどのような活動をしているのか、リアルタイムで見ることができます。児童のよい気付きをほかの児童に知らせることで、振り返りの質も向上し、図工の学びも共有できます。

形が動く 絵が動く(5・6上p.18-19)

 コマ撮りアニメーションの仕組みを生かして、工夫しながら、楽しい動きや変化を表現する活動です。
 コマ撮りアニメーション制作アプリ「KOMA KOMA×日文」を活用し、身の回りのものを生かしてアニメーションを製作しました。

動きのある作品を鑑賞しやすく

 Padletは、写真やテキストだけでなく、動画やアニメーションを共有することができます。
 「KOMA KOMA×日文」の書き出し形式であるGIFファイルにも対応しているので、作品が動いている状態で、簡単に共有することができます。

コメント機能で、感じたことを伝え合う機会を用意する

 ほかの児童の投稿に対して、コメントをつけることができるよう設定しました。
 コメント機能を活用することで、児童はお互いの学びを相互評価でき、自己肯定感や学習意欲を高めることができます。意見の交換ができる機会や環境を整えることは、協働的な学びを保障することにつながり、児童の個別の学びを深めることにもなると考えます。

美術鑑賞の現在地 後編(2010~) 第4回「ビジネスと美術鑑賞(3)対談:アートのある生活という『動き』」

株式会社MAGUS 代表取締役
上坂真人
筆者

 企業の力で日本をアートで素敵にするためには、確かな企業戦略が必要と力強く語る上坂さん。対談の後編では新たに立ち上げたMAGUSについて語ってもらいます。

MAGUS設立の願い

筆者:以前シンガポールに調査に行ったときに、美術館で幼稚園生が英語でディスカッションしている姿を見たんですね。思わずその時、20年後、この子たちが大人になったときに、日本人は勝てるのかなと不安になってしまいました。
上坂:英語問題もありますが、それよりも、欧米もアジアも、ほとんどの国は、子どもの頃から「アートについて語る」教育です。そして、アートの専門教育機関での大事な学習内容は「アート作品を言葉で主張する事」です。村上隆さんも相当書いていますが、皆さんの周囲に、海外のアート大学経験者がいたら聞いてください。皆さん言います。「海外と日本のアート教育は全然違う」って。決定的に違うんです。変革以前のステップなんです。
 「人々がアーティストと語り合う」
 「メディアがアートを多面的に批評する」
 「素敵なギャラリーやアートフェアで作品を買う」
 「富裕層がアートを購入する」
 「住まい、オフィス、商業の各空間がきちんとしたアートで彩る(普通の映画の中で見ることができます)」
 「来訪者とアートについて語り合う」
 「自国文化を語る事が日常……」など
 このようなギャップが結局、日本の文化や経済など様々な停滞につながっているのでしょう。似たような社会制度なのに、北欧や米英、中国などと比べると、明らかに文化への時間の使い方、スタンス、保有欲、関連ビジネスも見劣りというか選択肢に入っていませんね。たぶん、美術館に行くスタンスが違います。
 MAGUSを設立したのは、2021年3月です。生活提案、流通、空間、教育、メディア、批評などいろいろなところにあるギャップをつなぎ、アートに働きかけることで、日本をもう少し素敵にしようという事で始めました。この趣旨で、寺田倉庫、三菱地所、TSIホールディングス、東急の4社が2億円以上を出すのは素敵ですよね。
 ちなみに、行政には頼りません。民間で……です。
筆者:なるほど。アートのギャップに目を向けて、そこからいろんな事を起こしていく、それがMAGUSという感じでしょうか。まだ設立間もないですが、どのような事業に取り組んでいるのですか?
上坂:すべて実験とも言えますし、やってみて柔軟に変わりますが、まずは、アート教育、アートトレード、メディアの順でお話しましょう。

MAGUSアートスクール(※1)

上坂:2021年8月~10月に、個人向け事業として、MAGUSアートスクールを立ち上げました。奥村さんにも講師として登場してもらいましたよね。
筆者:ええ、「アートが育む感性とは?」というお題でした。でも、「アートが感性を育てるかもしれないけれども、証明されていないし、そもそも感性のためにアートがあるわけじゃない」と言ってしまいました。そして、「生存価」の観点から、アートはアートであることを大切にした方がいいし、アートの縁起に参加するという考え方の方がうまくいくのではないかという話をしました。
上坂:ええ、「アートはこんな感性を育てる!」と力強く言ってほしかったのですが……やはり期待を裏切ってくれました(笑)。もちろんいい意味です。
 なぜなら、このスクールは、分かっていることを教える学校ではないからです。教育や美術などの講師は3名のみにしました。その他は、医師、歴史学者、地球科学者、社会学者、僧侶、小説家、法律家、銀行、ジャーナリストなどから多様な視点で語ってもらいました。
 実は、これ以降、企業からのアートセミナーの話がたくさん来るようになりました。大手企業の若きエリート(たった8人の新規事業チーム)向けだったり、対法人営業向けやカード会社のVIP向けだったり……そこではもっと踏み込んだ内容にしています。例えば、海外美術館広報、海外アートフェア出展ギャラリスト、海外オークショニアなど世界でアートの実務で取り組んでいる人々の話ですね。
筆者:それは、聞いてみたいなあ! 最近、盛んに行われるようになったビジネスとアートに関する企画や研修会は「主催者側(美術館や美術教育など)が保有しているノウハウを提供する」という形が多いです。でも、主催者側の視野が狭かったり、既存の概念のままだったりすると、その問題点の再生産になってしまいます。
上坂:それは避けたいですね。日本における最近の動きを考えれば、既存の教育が求められているわけではないのです。例えば、現代アートのニュースは増えているし、最近ではNFT等の価格面での報道が相次いでいます。また、若い人や富裕層はアートを実際に購入しています。
 私はよく「買った後にどうしたらいい?」「保存は、修復は、相続が、税金は?」と尋ねられます。「個人美術館をつくりたい」「世界のアートマーケットが知りたい」「オークションに参加したい」などの積極的な声もあるんですよ。このような声に対応できる教育の場が必要だと思います。

CADAN ROPPONGI presented by Audi(※2)

上坂:法人向けには、2021年10月~11月、期間限定のギャラリーを六本木ヒルズのヒルズカフェにつくりました。ギャラリーの資金を出したのはAudi、作品を提供したのは日本の信頼できるアートギャラリー集団「日本現代美術商協会」です。そしてメガバンク、証券PB部、百貨店外商、カード会社などが、それぞれの「顧客」から、このところのセミナー等でアートに関心を持ち始めた「顧客」を呼んでくれました。
 公開対談では、普通は知られていないアートコレクターが、「アートを買う愉しさ」について語りました。また、米国のナショナル・ギャラリーに多数の現代アートのコレクションを寄付した夫妻のドキュメンタリー映画「Herb & Dorothy」も上映して、コレクションについて考えてもらいました。
 結果として、参加企業には新しい「顧客」と接する場を提供し、アーティストには作品の売却を通して利益を還元することができたかなと思います。
筆者:ギャラリーを通してコレクター同士が交流したり、買い方を知ったりするわけですね。それぞれの企業論理に閉じ込められた「顧客」をアートによって開くというか、新しい消費者の開発というねらいもあるのではないですか?
上坂:そうですね。複数の企業が「買う」視点でアートを観る機会がないというのは、本当に世界の常識とかけ離れていると思います。企業がアートを通してつながり合ったり、「顧客」を見直したりするという視点も、これまでなかったでしょう。
筆者:期間中にギャラリーに訪れましたが、オープンな雰囲気で、明るくて、「コアなファンが個展に集まって作品を購入する」という感じではありませんでした。二層、三層に色が動く作品はNFTでの販売でしたけど、相当ほしくなって……かなり心が動きました。やはり「買える」という条件で作品を観ると、その作品を「どこに置こうか」「どう活用しようか」と意識が変わりますよね。
上坂:世界では常識の愉しさです。海外旅行に行く、ジャズに親しむ、ちょっと服でおしゃれする……のと同じなんですよ。楽しみが。そして、知人がうらやんでくれたり、友人との会話が弾んだりする。そして、それがかっこいいと分かれば、人はエネルギーとお金を割きます。
 でも、これまで日本では「どこで、何を買ったらいいの?」「アーティストと直接話したい!」という層にアプローチしてこなかったのでしょうね。そのような人々は、いまだに誰を信じればいいのか分からないし、どのような情報をもとにすればいいのか分からないままの状態におかれていると思います。そこで世界の愉しさを伝える。いわば、明治維新です!
筆者:そこで立ち上げたのが国際メディア「ARTnews JAPAN」ですね。

「ARTnews JAPAN」(※3)

上坂:「ARTnews」は、1904年創刊のアメリカの老舗アートメディアです。「ARTnews JAPAN」はその信頼性をもとに、2022年1月にスタートしました。Webマガジンとニューズレターとたくさんのイベント、企業との共同事業(ギャラリー、イベント、教育)を通して、読者と世界を接続したいと考えています。
 例えば、「ARTnews USA」の全訳記事を毎日1本提供して、世界のアートシーンの愉しさとビジネス度を具体的に伝えます。UBSなど世界的な銀行のアートレポートの概要も紹介します。奥村さんはご覧になったことありますか?
筆者:どちらもNoです。うっすら情報として知っているだけですね。私の場合、美術や美術教育とかに偏っていますし、そもそも、そのような情報にアクセスする手段を持っていません。
上坂:日本では、アート情報に偏りがあるのが現状です。世界では、まず企業が乗り出すための数字がたくさんあります。UBSは毎年300ページのデータです。富裕層の中のアートへの関心と超具体的な用途等々、まあHPで見てください。膨大なデータが公開されています。JPMorgan、AXA……。この事実を日本の企業は知らないわけです。アメリカの大手美術館には営業が10人くらいいます。各美術館ごとにですよ。そして、数値で企業を口説きます。
 世界のアートに関するマーケティングやブランディングの具体事例を紹介したり、日本のビジネスパーソンにとってのアートを考えたりするメディアもありませんでした。世の中にたくさんいるアートコレクターが直接語る場もなかったのです。それでは企業も戦略を立てようがないですよね。「ARTnews JAPAN」はそこを担います。
 ただし、単なる情報提供で終わるつもりはありません。「ARTnews JAPAN」を通して、日本から世界に向けたアーティストやアート情報の発信も行いたいし、ワークショップや交流会を通して、アートコレクターやトップコレクター、既存の美術関係の人脈、文化人やタレント、さらに、ファッション企業、航空会社、銀行、証券など様々な人々や組織などをつなぎたいです。
筆者:情報提供だけでは、因果で終わりますが、そうではなくて、直接、縁起を起こしていこうというわけですね。具体的にはどのようなことを行うのですか?
上坂:分かりやすいところで言えば、「ARTnews JAPAN CLUB」では、リベラルアーツ講座、現代アート体験ツアー、アートコレクター・トーク、アーティストとの交流会、企業戦略としてのアートを考えるセミナー、アートとファッションを研究するワークショップなどを行う予定です。
 他には、個人宅のキュレーションや美術館の貸し切りも提案したいし、顧客に向けたアート購入のアドバイスや、アーティストが個人向け制作をする手伝いなどもしたいですね。サザビーズやクリスティーズでオークションを体験したり、トレードフェアの海外ツアーも楽しいでしょう。でも、トップコレクターから、2000万人ともいわれる美術鑑賞人口までを視野に入れれば、まだまだいろんなことができそうです。
筆者:上坂さんの仕掛けは、それが終わったら「おしまい!」ではなくて、その先も物事が転がっていく感じがします。
 そういえば、先日、上坂さんの紹介で、都市再開発チームに講義とワークショップを行いましたが、あれも具体策の一つなのでしょうね。面白かったのは、そこでの反応や質問などがこれまでと違うことでした。例えば、こんな感想をもらいました。
 「私は、仕事をしながら、アートとエンタメは何が違うのだろうとずっと考えていました。分かったのは、エンタメは単なる因果の提供だけど、アートはそうじゃないんだなということです。すごく腑に落ちました」
 この方は、アートにもエンタメにも仕事で関わっていて、そこで悩んでいたようなんですね。こういう感想はこれまでもらったことがなかったので、とても勉強になりました。
上坂:今までのように、何か一つの事業を行って満足したり、既存のノウハウで収斂したりしているだけではダメなのです。横に、縦に、つなげていって、人や企業を動かしていかないと。だってアートは「社会や文化、経済も含めたダイナミックな『動き』(※4)」なんですから。
 MAGUSとしては、すでに様々な企業に対する経営戦略や事業企画の提案、国際的なブランディング、顧客へのセミナー、社員教育などを始めています。将来的には「世界標準のインターナショナルアートスクール」や「世界への出口があるアートアワード」も立ち上げるつもりですよ。
筆者:上坂さんのお話を伺っていると、そのダイナミックな方向性に目が回ってしまいそうです。また、今回、特に心に残ったのは、冒頭の「すべて実験とも言えますし、やってみて柔軟に変わります」という言葉です。
 それは、小学校図画工作の造形遊びの考え方と同じなんですね。教育とビジネス、まったく異なる実践なのだけれども、基礎の部分で互いに共通性をもつということは、そこに大事なことというか、真髄があるような気がしました。
 2回にわたった対談ありがとうございます。

※1:MAGUS NEWS『MAGUSアートスクール(プレ版)開校のお知らせ』
https://magus-corp.jp/news/1.html
※2:美術手帖『アートが身近にある生活を。「CADAN ROPPONGI presented by Audi」が六本木ヒルズでスタート』
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/24724
※3:『ARTnews JAPAN』
https://artnewsjapan.com/
※4:上坂真人『学び!と美術<Vol.115> 美術鑑賞の現在地 後編(2010~) 第3回「ビジネスと美術鑑賞(2)対談:アートの動き」』より
https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/art/art115/

Webマガジンまなびと:「学び!と美術」Vol.116

Webマガジン:「学び!と美術」Vol.116 “美術鑑賞の現在地 後編(2010~) 第4回「ビジネスと美術鑑賞(3)対談:アートのある生活という『動き』」” を追加しました。