Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.33

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.33 “児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)とインクルーシブ教育”を追加しました。

児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)とインクルーシブ教育

 前回、国連の「障害者権利条約」の日本における履行状況に関する審査の結果について取り上げました。審査で示された内容が、日本の障害者施策全般にわたって厳しいものであったこと、とくに教育の分野については、分離された特別な教育を廃止してインクルーシブ教育へ移行することについて国としての行動計画を示すことなどの要請が盛り込まれていたことを紹介しました。
 大変厳しい内容であり今後の動向が気になるところですが、障害がある子どもへの対応という観点から見ると、「障害者権利条約」以前にも、日本は別の条約を批准しています。「児童の権利に関する条約(子ども権利条約)」です。この条約にも、「障害がある子ども」についての規定があります。この条約が採択されたのは1989年で、日本は1990年に署名し、1994年に批准しています。この条約でも批准後にその履行状況に関する審査が行われます。すでに5回の対日審査が行われているのですが、「障害がある子ども」への対応については、いずれの回でも厳しい審査結果を受け続けてきています。そこで今回は、「障害者権利条約」との関連で「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」について取り上げてみたいと思います。

児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)

 「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」(*1)は、子どもが一人の人間として基本的人権を所有し、行使する権利を保障するための条約です。なお、この条約については、外務省による仮訳では「児童の権利に関する条約」となっていますが、「子どもの権利条約」という表現も併用されています。原文のchildが未成年者=18歳未満の者となっていて、「児童」の枠組みでは収まりきらないことから「子ども」という用語が使われるようになったのです。1993年8月の国会において、条約名称として「児童」と「子ども」との用語の併用が確認されています。

児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)における「4つの原則」

 「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」では、18歳未満を子どもとして定義しているのですが、年齢にかかわらず、すべての子どもが大人と同じ人間として平等であり、主体的には生きる権利を持つ存在として定めています。
 しかし、大人への成長段階にある子どもは身体的・精神的に未熟であり、経済力が備わっていません。弱い立場の子どもが自立できるまでに十分な配慮や保護が必要なため、子どもの権利条約には子どもならではの権利も盛り込まれています。unicefの「子どもの権利条約」のサイトでは、子どもの権利条約における根源的な理念として、下記の「4つの原則」を示しています。(*2)

 ●生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること)
 すべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障されます。
 ●子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)
 子どもに関することが行われる時は、「その子どもにとって最もよいこと」を第一に考えます。
 ●子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること)
 子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。
 ●差別の禁止(差別のないこと)
 すべての子どもは、子ども自身や親の人種、性別、意見、障がい、経済状況などどんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。

児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)と「障害を有する児童」

 障害がある「子ども」に焦点を充てると、とくに「差別の禁止」の原則がクローズアップされるのですが、この点において、この条約の履行状況を審査する「児童の権利委員会」の日本での取り組みに対する見解は大変厳しい内容になっています。すでに、この条約については児童の権利委員会から5回の審査を受けているのですが、2019年の「第4回・第5回政府報告に関する総括所見」において、障害を有する児童に関しては次のような記述が認められます。(*3 太字は筆者による)

障害を有する児童
32. 委員会は,合理的配慮の概念を導入した2011年の障害者基本法改正及び2013年の障害者差別解消法の採択を歓迎する。障害を有する児童の権利に関する一般的意見第9号(2006年)に留意し,委員会は,前回の勧告(CRC/C/JPN/CO/3,パラ59)を想起し,締約国が,障害について人権を基盤とするアプローチをとり,障害を有する児童を包含するための包括的戦略を確立し,以下を勧告する。
(a)障害を有する児童に関するデータを恒常的に収集し,効率的な障害診断システムを発展させること。これは,障害を有する児童のための適切な政策及びプログラムを整備するために必要である。
(b)統合された学級における包摂的教育を発展させ実施するために適切な人的・技術的資源及び財源に支えられた施策を強化すること,また,専門教員及び専門家を養成し,学習障害のある児童に個別支援やあらゆる適正な配慮を提供する統合された学級に配置すること。
(c)学童保育サービスの施設及び人員に関する基準を厳格に適用し,その実施を監視するとともに,これらのサービスが包摂的であることを確保すること。
(d)障害を有する児童が早期発見介入プログラムを含む保健サービスにアクセスできることを確保するための即時措置をとること。
(e)教員,ソーシャルワーカー,保健,医療,治療やケアに従事する人材等,障害を有する児童とともに働く専門スタッフを養成し,増員すること。
(f)障害を有する児童に対する汚名及び偏見に対処し,こうした児童の肯定的なイメージを促進するために,政府職員,公衆及び家族を対象とする意識啓発キャンペーンを実施すること。

 これらの内容から、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」においても、学校教育段階におけるインクルーシブ教育(inclusive education、仮訳では「包摂的教育」)の充実を求めていることが理解できます。
 このことについては、これまでの審査でも指摘されてきていて、引き続き取り上げられていることになるわけですが、マスコミなどによって国内で大きく取り上げられることはありませんでした。改めて、インクルーシブ教育への取り組みが、「障害者権利条約」以外でも課題となっていたことを確認しておきたいと思います。
 また、国連の委員会から回を重ねて勧告され続けているということは、国連条約が批准するだけでは済まないということを改めて認識させられます。次回(第6回・第7回)の報告書の提出期限は2024年11月21日となっているということですので、引き続き今後の動向を注意深く見守っていきたいものです。
 いずれにしても、インクルーシブ教育の充実については、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」の関連では国連の児童の権利委員会による審査がこれからも続きますし、さらに「障害者権利条約」の関連でも、国連の障害者権利委員会の審査が継続していき、その履行が引き続き求められていくことになります。
 「共生社会」の実現という観点から、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」及び「障害者権利条約」の審査で指摘されていることについては、国や政府の問題ということだけでなく、社会の構成者自身の問題でもあるという認識をもって注視していくことが大事ではないかと思われます。

*1:「児童の権利に関する条約」
(全文) https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html
(概要) https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h24honpenpdf/pdf/ref6.pdf
*2:「子どもの権利条約」
https://www.unicef.or.jp/kodomo/kenri/
*3:「国際連合 児童の権利委員会日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見(仮訳)」
https://www.mofa.go.jp./mofaj/files/100078749.pdf

Webマガジンまなびと:「学び!とPBL」Vol.55

Webマガジン:「学び!とPBL」Vol.55 “「社会づくりの実験」としてのフォーラム”を追加しました。

「社会づくりの実験」としてのフォーラム

1.生徒たちの意見表明

図1 ISIF2020の様子 生徒国際イノベーションフォーラム2020@online(以下、ISIF2020と略)での「学校のWell-being」の議論で、印象に残った意見を以下に記しておきたいと思います。

【仕事】

  • 探究プロジェクトは、生徒が将来のキャリアについて考える機会をもたらしている。
  • 安定を求める職業選択ではなく、自分のやりたい職業を選べるよう、必要なスキルを身につける必要がある。
  • 勉強のスキルと生活のスキルのよいバランスが保たれている学校を先生と生徒がいっしょに創る。

【収入】

  • 日本では、学校内でお金に関して話すことは一般的にタブー視されている。
  • 多くの生徒が、インターンシップを導入してほしい、起業家を学校に招いてビジネスを始めるワークショップ開催してほしいと考えている。
  • 様々な職業に関して、忙しさや収入などを理解し、生活をリアルにシミュレーションする。これにより日本の相対的貧困率の問題などを学ぶ。またお金の価値を知ってお金を自己管理できるようになる。

【住居】

  • 中庭などの曖昧なスペースは、教室でのストレスから生徒がリラックスできる場所である。偶然に違う学年の生徒たちが出会って友達になれるような場所が必要。
  • 教室での授業をスムーズにし、学校の外ともつながり、授業内外での生徒からの質問に先生が対応する時間を節約するための、安全で安定したインターネット環境が整っている学校がいい。

【ワークライフバランス】

  • コロナ禍の学校で生徒は多くの宿題が出され、コミュニケーションをとることが難しい。
  • 生徒主体の体験型授業(例えば、実体験、授業や教科書で扱ったものを見る、生徒による教え合いをしてアウトプットの機会を持つ、生徒主体でグループでの話し合い)がほしい。

【安全】

  • 幾つかの学校はきちんとした安全対策を行っておらず、生徒の安全を脅かしている。例えば、夜間の授業は女子にとっては安全でない、多くの課外活動により生徒は家に帰るのが遅くなる(例えば夜8時)、ロッカーに施錠ができない、など。
  • 生徒たちは、人間関係においても、人種差別やいじめなどに不安を感じている。
  • 生徒が主体となった環境づくり・生徒が安全な環境づくりに関わっていく。例えばICTを安全を学ぶために活用する。例えば、VRによる避難訓練、詐欺メールのシミュレーション。

図2 未来の学校のキーワードを樹で表した【生活満足度】

  • 生徒たちは先生とのコミュニケーションに困難が生じたり、授業が一方的に教えられていると感じる時にネガティブな感情を持つ。
  • 生徒と教師が平等な立場になれる環境を創ることが必要。
  • テクノロジーを活用する。ゲームで学ぶやる気の向上を図る。他の国とつなぐ。教室の学びとオンラインでの学びの両立、課題(宿題)はオンライン・コンピューターで。教え方もゲームなどを活用してもっと楽しく。

【健康】

  • 生徒たちは、十分に睡眠がとれておらずストレスを感じている。精神的な健康への影響は、肉体的な健康にも悪い影響をあたえていく。ストレスは、先生と生徒間のコミュニケーション不足や誤解による場合もある。
  • フレキシブルな学び、競争を少なくする、記憶する学びを少なくする。
  • 試験や宿題の本質を変える:数字で評価する試験を再考し、質の高い課題やクイズなど、努力・プロセスを評価するものに変えていく。

【市民参加】

  • 生徒の学校での市民としての活動は、校則や行事を組織するときに重要な役割を担う。しかし、何人かの生徒は、生徒の学校での市民としての活動に興味を示さない。
  • 先生には、生徒の話をもっと聞いてほしい。生徒と先生が平等なパートナーとして、オープンで健康的な対話ができるように。

【環境】

  • 生徒たちは、木や花を植えたり、実験的なプロジェクトを通して環境にやさしいキャンペーンを実施したりするなどして、地域コミュニティと関わることで、人々の意識を高めたいと考えている。
  • 学校における「緑の文化」を伴った、環境にやさしい文化づくり。エネルギー効率の良い学校環境づくり。社会への「リアルな影響・インパクト」を目指した、生徒が自分事として取り組む活動を増やす。

図3 2日間の議論を1つの絵にまとめた【教育】

  • 自分たちの思考力を育ててくれる授業が、将来のためには大切である。
  • 生徒を中心にした、生徒主体の学び:a)柔軟なカリキュラム(生徒が何を学ぶかを選択できる)、b)ライフスキルが組み込まれている、c)Eラーニングを活用した柔軟な学びの環境と、ソーシャルメディアの学びの基盤としての活用、d)柔軟で適応性のある校則。
  • 社会問題を解決する組織としての学校(探究)+ 教科の学びの連携。

【コミュニティ】

  • 高校は地域コミュニティによりサポートされ、コミュニティの人々のコメントやアドバイスと関わっていることを認識することが大切である。
  • お互いにコミュニケーションをとるための新しいプラットフォームを構築する。

2.日常性からの「ずらし」

図4 ISIF2020への寄せ書き 予想以上に生徒たちはISIF2020 に思い入れ、その意欲はバーチャルではない、リアルそのものでした。通常とは異なる角度からの議論に、出てくる意見も新鮮でした。日常性からの「ずらし」が、有効に作用したものと考えています。学校文化を突き放す、という意味で今後も活かしていけそうな気がします。全体を通して、ネット上のイベントの典型例をつくることができたのではないかと考えています。
 生徒たちが次の社会の建設者であるなら、学校を含めた教育は、その社会づくりのトレーニング、というよりも実験でなければならないでしょう。「自分たちの世界」をつくるために様々な試行錯誤が許され、それが成功体験となって、初めて「社会づくり」のイメージが形成されるのだと思います。その意味で、このバーチャルなフォーラムは、その「社会づくりの実験」の一つの例を示したと言えます。「学びの対象」ではなく「学びの主体」として、一人ひとりのキャラクターが立ちあがってくること、それがEducation2030が言うところの「エージェンシーAgency」と言えるでしょう。

図5 リアルで贈られたISIF2020の参加証明書