「わたしたちのくらしと水産業」(第5学年)

1.単元名

「わたしたちのくらしと水産業」(第5学年)

2.目標

水産物の種類や分布、生産量の変化、輸入などの外国との関わりについて調べまとめることを通して、我が国の水産業は、自然条件を生かして営まれていることや、国民の食料を確保する重要な役割を果たしていることを理解できるようにする。
日本で水産業が盛んな理由や背景について話し合うことを通して、我が国の水産業の概要と人々のくらし方を関連づけたり総合したりして、水産業が国民の生活に果たす役割を考えることができるようにする。
その中で、主体的に問題を解決しようとする態度や、我が国の水産業の発展のために関わろうとする心情を養うことができるようにする。

3.評価規準

【知識・技能】

我が国の水産業について、水産物の種類や分布、生産量の変化、輸入などの外国との関わりについて調べまとめることで、日本全国で様々な漁業が営まれ各地域で獲れる水産物を生かした食文化を育んできており、水産業は自然条件を生かして営まれていることや、国民の食料を確保する重要な役割を果たしていることを理解している。

【思考・判断・表現】

日本で水産業が盛んな理由や背景について、水産業の概要と国民生活を関連付けて追究したり話し合ったりしながら、食料生産が国民の生活に果たす役割を考えて自分の意見を表現している。また、水産業が抱える課題について、専門家との対話の中から捉え解決策を提案している。

【主体的に学習に取り組む態度】

我が国の水産業についての追究活動において、学習問題を解決するために計画を立てたり、自らの学びを振り返ったりして、粘り強く追究している。

4.本単元の指導にあたって

○社会参画するための教材について
・教材…サヴァ缶<岩手缶詰株式会社>
・授業協力…岩手缶詰株式会社、岩手県産株式会社、一般社団法人東の食の会

 水産業は様々な課題を抱えていることや東北地方は東日本大震災によって大きな被害を受けたことは知識として習得できるが、思考・判断・表現する場面において、あくまで「他人事」であることに変わりはない。そこで、東日本大震災の被害に最前線で向き合っている人と関わることで、「他人事」から「自分事」へ、さらに復興だけでなく日本の食料生産の未来を考えることで、より水産業が目の前に迫ってくると考える。愛知県に住む子どもたちが、東北の水産業の課題や様々な立場で震災復興に挑む人と出会うことで、子どもの学びの空間や事象との関係性についての視野が広がり、未来について議論することで大きな時間軸で学びが深まると考える。

5.単元の指導計画

学習のねらい

子どもの活動と内容

1

教材と出合い、問いを生み出す。

○主な水産物マップ、昔の水産業の様子(貝塚、江戸時代の浮世絵等)、世界の魚介類消費量などの資料から疑問や気付いたことを書き出す。

2

問いを吟味し、学習問題①を創る。

<問いの前提>
・日本は全国各地で様々な水産物が水揚げされる。
・日本は昔から水産業が行われている。
・日本は魚介類消費量が世界でも上位である。

学習問題① なぜ、日本は昔から水産業が盛んなのだろう?

3

問いを構成して、追究シートを作る。

○自分が立てた予想を確かめるための道筋を確認する。

4

追究の土台を作る。

○「水産業が盛んなのは、どのようなところだろう?」という問いについて、教科書や資料集で確認する。

5

7

各自で追究する。

○各自で追究する。

8

9

学習問題①について意見を書き、話し合う。

<児童のまとめ>
日本は自然環境や水産資源を大切にしながら、生産者の工夫や努力によって昔から水産業を営んできた。それによって、魚介類を食べる魚食文化が発展してきた。

10

東北で水産業に携わる人の話を聞き、学習問題②を創る。(本時)

○これまでの学習を振り返り、日本(特に東北地方)の水産業の課題を確認する。
○自分は、東北の水産業に対してどのように関わるとよいか考える学習問題②を創る。

学習問題② 東北の水産業をもっと盛り上げるためには、どうすればよいか?

11

12

各自でアイデアを考える。

○現状の強みを使って、東北の水産業を盛り上げるためのアイデアを考える。

13

東北で水産業に携わる人と一緒に、学習問題②について議論する。。

○理想の水産業をイメージして、どうすれば課題を解決できるかを議論する。
○消費者の立場で、できることを考える。

6.本時の学習

①目標
 水産業の課題を見出す場面において、東北で水産業に携わる人から話を聞くことで課題を身近に感じながら、課題解決に向かって学習問題を創ることができるようにする。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

資料

1 日本の水産業の課題を確認する。
・水産資源を保護する必要がある。
・高齢化による人手不足
・食生活の変化によるニーズの変化
→水産物の輸入増加

○前時までの学習で得た概念的知識を想起できるようにする。
○日本全国に共通する課題であることを確認する。

・前時までの板書

2 教材「サヴァ缶」を提示して、気付いたことを発表する。
・東北で生産されている。
・復興プロジェクトと書いてある。
・東の食の会とは?

○班に1つサヴァ缶を渡して観察できるようにする。

・サヴァ缶

3 東北の方々からの課題提示動画を視聴し、気付いたことや疑問を発表する。
・大きな被害を受けたのに立ち直っていてすごい。
・さらに盛り上げたいと言っていて、まだ足りないことが分かった。

○東北地方ならではの水産業の課題があることに気付かせる。

・課題提示動画

4 学習問題②を創る。

○これまでの気付きや疑問からキーワードを抽出して、学習問題②を創れるようにする。

学習問題② 東北の水産業をもっと盛り上げるためには、どうすればよいか?

5 東北の水産業のあるべき姿をイメージする。
・持続可能な産業
・魅力ある水産業
・安心・安全でおいしい水産物の生産

○東北に限らず、日本全体を考えて意見が言えるようにする。

資料

岩手缶詰(株) 阿部常之さん一般社団法人東の食の会 高橋大就さん

サヴァ缶

授業にお役立ち!⑦ ESDとしてのエネルギー授業(1)

(1)自分とのつながり 他地域とのつながり

著者 小笠原諸島父島(太平洋を望む)2021年12月 2023年に入り、電気代が高騰している。読者の皆さんにとっても切実な問題となってはいないだろうか。ここから、「なぜ」という追究を始めてみる。日本はエネルギーの自給率が低く、輸入に頼っている。ロシアのウクライナ侵攻を発端として、世界のエネルギーの流通が滞り、石炭や石油や天然ガスなどの化石燃料を中心としたエネルギー価格が上昇していることや、円安による影響が大きい。日本のエネルギーの安定確保について改めて考える時期にきている。
 大分大学の河野晋也先生に3回にわたってご紹介頂いたESDは、「持続可能な開発」という価値を前提として、「自分とのつながり」、「他地域とのつながり」から社会(文化)・環境・経済に関わる課題を取り上げ、その現状や要因や影響などを考察し、その解決策を構想することで学習者の行動の変革を促すことが目指されている。永田(2016)は、公民的資質について、「持続可能な社会の構築を視野に入れ、現代世界に表出する諸課題の解決に向けて思考・判断したことを表現し、自己の行動を変革しようとする態度」と定義した。ESDの目標は、社会科の究極目標である公民的資質(公民としての資質・能力の育成)と大枠の趣旨は同じである。
 電気代の高騰から、「自分とのつながり」として普段からどのように電気を使用しているか、「他地域とのつながり」として貿易の状況や為替の変動を意識できる。

(2)電気代の内訳に着目してみよう

電気ご使用量のお知らせ(2013年6月) 電気代が高騰している理由を、紙やハガキやメール等で毎月1回各家庭に通知されている「電気ご使用量のお知らせ」から、使用量の内訳と電気代に着目して考えていきたい。右図は約10年前に筆者に通知された「電気ご使用量のお知らせ」の一部である。当時、筆者は一人暮らしで、自宅にいる時間が少なかった。このため電気使用量が極端に少ない。また、地球温暖化を意識して節電に心がけていたことも強調したい。
 電気代の内訳をみると、契約した基本料金に、電気の使用量に応じて「燃料費調整額」や「再エネ発電促進賦課金等」が加わっている。2013年6月の「燃料費調整額」は、kWhの単価は2円29銭であることが読み取れる。4月は1円41銭、5月は1円90銭だったので、「他地域とのつながり」から「燃料費調整額」の単価が刻々と変化していることがわかる。しかし、電気使用量自体が極端に少なかったため、筆者はあまり「燃料費調整額」を意識することがなかった。
 現在、筆者は広島市に住んでいる。2023年1月の「電気ご使用量のお知らせ」をみて衝撃が走った。前月と比べて電気代が増えることは、暖房等が必要になるために予想していたが、それをはるかに上回って激増したためである。そこで、1年前の電気代と比べてみたら、使用量はさほど変わらないのに電気代が約3割増しになっていた。さらに、筆者が契約している電力会社に尋ね、「燃料費調整額」が主な原因であることがわかったのである。1月の「燃料費調整額」の単価が約15円であった。4人暮らしで1ヶ月に1,000kWh使用したと仮定すると、「燃料費調整額」のみで15,000円となる。1年前の単価は10年前とほぼ同じの1円台だった。
 2023年2月の電気料金は、使用量が増えているにもかかわらず電気代は安くなった。なぜか。国からの補助金により「燃料費調整額」の単価が抑えられているからである。それでも2月の単価は9円弱である。この補助金制度は2月から10月までと期間限定である。しかも支援額も徐々に削られる。筆者は、節電につながるようにさらに生活を見直し、省エネタイプのエアコンの購入を考えている。このように筆者は主体的に追究し、行動の変革が促されている。

(3)社会科におけるESDとしてのエネルギー授業

 人類は生活をより豊かで快適にするためにエネルギーを使用してきた。2004年のユネスコ国際実施計画フレームワークでは、エネルギーは環境領域の自然資源として位置づけられている。山下(2005)は、エネルギー環境教育は「エネルギー+環境」といった環境教育の拡大解釈ではなく、「エネルギー」を軸教材とする環境教育であるとしている。新・エネルギー環境教育情報センター(2013)は、学校教育におけるエネルギー環境教育の目標を、「持続可能な社会の構築をめざし、エネルギー・環境にかかわる諸活動を通してエネルギー・環境問題に関する理解を深めるとともに技能を身につけ、課題意識を醸成し、その解決に向けて成長や発達に応じ、主体的かつ適切に判断し行動できる資質や能力を養うこと」としている。ESDそのものである。
 エネルギーを取り上げることで、ESDの「自分とのつながり」や「他地域とのつながり」から、どのような状況でなぜそのようになっているのかという社会認識の過程と、これからどのようになるべきかなどの社会参加の過程を踏むことにより、学習者の行動の変革を促しやすい。また、化石燃料などの世界全体のエネルギーの安定供給や世界の様々な国・地域のエネルギーの安定確保は、その「持続可能性」が脅かされており、エネルギーは、「Think Globally, Act Locally」の理念を実践することが可能となる、社会科におけるESDの最適な教材といえる。
 児童・生徒にイメージしやすいエネルギーは、社会機能に関わる「家庭生活」、「産業」、「運輸・交通」をあげることができる。「家庭生活」は、炊事、照明、暖房においてイメージしやすい。明かりに着目すれば、小学校の生活科や中学年の社会科においても意欲的な学習が期待できる。「産業」は、主要な産業での利用を確認し、石炭から石油、再生可能エネルギーの導入などエネルギー構成の変化を考察できる。「運輸・交通」は、家庭生活や産業を成り立たせるのに必要な移動に関わる部門であり、移動の手段の変化はエネルギー構成の変化と密接に関係する。
 エネルギーのなかでも、とりわけ児童・生徒に身近な存在であり、平常時や災害時などに必要なものの一つが電気である。「電気は命をつないでいる」というフレーズがそれを示している。社会科の教科書や授業実践でエネルギーを扱う際に、二次エネルギーである電気が取り上げられることが多い。それは、電気を取り上げれば、エネルギーを意識しやすく、ESDとしての社会科の授業になりやすいためである。筆者は2017年4月から三重・社会科エネルギー教育研究会の代表を務めている。次回からは、この研究会で提案されたエネルギー授業を紹介していきたい。

【参考文献】

  • 新・エネルギー環境教育情報センター(2013)『エネルギー環境教育ガイドライン』
  • 永田成文(2016)「社会科における社会参加を踏まえた公民的資質の育成―持続可能な社会の構築を視野に入れて―」唐木清志編『「公民的資質」とは何か―社会科の過去・現在・未来を探る―』東洋館出版社、pp.116-125
  • 山下宏文(2005)「エネルギー環境教育のカリキュラム開発の視点と展開」佐島群巳・高山博之・山下宏文編『エネルギー環境教育の理論と実践』国土社、pp.76-81

Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.38

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.38 “イタリアにおける逆統合型の学校とインクルーシブ教育”を追加しました。

イタリアにおける逆統合型の学校とインクルーシブ教育

 筆者は、2月末に科学研究費による研究(*1)の一員としてイタリアの「共生社会」に向けた取り組みについて調査を行いました。その調査活動の一つとして、インクルーシブ教育体制に移行する以前は盲学校で、現在は「逆統合型」の学校となっている中学校を訪問する機会を得ました。今回は、ホットな話題としてこのことを取り上げたいと思います。

1 「共生社会」とは

 本論に入る前に改めて文部科学省が示している「共生社会」の定義を確認しておきたいと思います(*2)。平成24年の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告」には次のように示されています。
 「これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である。」
 文部科学省では、こうしたゴールをめざして様々な施策を打っています。直近では、この3月13日に「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議」という有識者会議の報告が公表されています(*3)。その報告では、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒へのより効果的な支援施策の在り方が提言されています。その多くは既に示されている内容の充実を求めるものですが、「よりインクルーシブで多様な教育的ニーズに柔軟に対応するため、特別支援学校を含めた2校以上の学校を一体的に運営するインクルーシブな学校運営モデルを創設すること」という方向性が提言されているところに新鮮味があります。日本の「共生社会」の実現を目指したインクルーシブ教育の取り組みは、残念ながら国際的な評価は芳しくありませんが、漸進的でありながら検討が進んでいるということは言えそうです。この有識者会議の報告については、改めて取り上げたいと思います。

2 フルインクルーシブ教育を推進するイタリア

 以前に本連載でも報告したことがありますが、イタリアでは1970年代から障害児のための特別な学校を廃止しました。原則として障害がある子どもも原則として地域の小学校や中学校に在籍して障害のない子どもと共に学ぶ、「誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型」の学校体制に移行したのです。ドラスティックに「共生社会」の実現を目指したフルインクルーシブ教育体制に転換したと言えます(ただし、当時のイタリアでは、「インテグレーション」という呼称が用いられていました)。
 イタリアのフルインクルーシブ教育の概要については、筆者が翻訳のお手伝いをした『イタリアのフルインクルーシブ教育――障害児の学校を無くした教育の歴史・課題・理念』に紹介しました(*4)。詳細については、こちらで確認していただけますと幸いです。

3 逆統合型の学校「ヴィヴァイオ中学校」

 今回調査したヴィヴァイオ中学校(Scuola Media Statale per Ciechi “VIVAIO”)は、ミラノ盲人協会(Istituto dei Ciechi di Milano)の一角にあり、1939年に協会附属の専門学校としてスタートし、1962年から義務教育段階の盲学校として運営されていました。そして、制度改革で1975年に逆統合型の学校として存続することを選択したのでした。一般の中学校(scuola media statale)として機能しつつ、視覚障害教育の機能をも保持し続けている逆統合型の学校という特色を有しています。
 インクルーシブ教育と言うと、通常の学校に障害がある子どもが入るという形態が一般的です。しかし、この中学校は、かつての「盲学校」としての機能を保持しつつ、そこにいわゆる健常の生徒を入学させることで、インクルーシブ教育を実現しているのです。「逆統合型」と称する由縁です。現在では、視覚に障害がある生徒だけでなく、他の障害があると認定されたり、明確に障害があるとは言えないものの特別な支援が必要(SEN,イタリア語ではBES〈Bisogni Educativi Speciali〉)とされたりする生徒も多数受け入れています。日本でもこうした形態が提案されたことはありますが、正規の手続きを経て実現した例は寡聞にして聞いたことがありません。
 イタリアの盲学校や聾学校は、1970年代のインクルーシブ教育への転換で廃止対象となりましたが、それらの学校は次のような形態をとって生き残りを図りました。

学校としての機能を廃し、障害児の支援センター等に業態を変えて存続。
一般の小学校、中学校となって存続。
教育省(文部科学省)の特別な認可を得て、インクルーシブ教育の理念を活かしつつ特別学校としての機能を残しつつ通常の小学校あるいは中学校に転換して存続。

 この学校は、③の形態をとったということになります。こうした学校の取り組みは、インクルーシブ教育の推進のために必要な課題や配慮点を明らかにするための実験的な役割も果たしていたようです。

4 ヴィヴァイオ中学校の概要

 筆者は、これまでにもこの中学校の取り組みを調査してきましたが、今回の調査では、これまでの調査内容を補強する情報が得られ、直近の実態を把握することができました。詳細については、研究成果報告としてまとめることになりますが、その要点を以下に記します。

在籍生徒について
  • 全校生徒240人。1学年の生徒定数は80名、各学年3クラス+1クラスの計10クラス。+1クラスは、パンデミックの影響を軽減するためにクラスを増設したもの。学級定数を減じることで、手厚い支援が可能となった。ヴィヴァイオ中学校は国立学校(イタリアの公立学校の多くは国立)ですが、イタリアで、こうした対応については学校の裁量が認められている。
  • 障害があると認定されている生徒は、全校で46人。1学級に4~5人在籍している。
  • 障害種では、視覚障害の生徒が相対的に多いが、様々な障害のある生徒も在籍している。
  • 障害があるとは言えないが特別な支援を必要とする学習障害等の生徒も各学級2~3人在籍している。
  • 他の中学校と比較すると、およそ5倍近い人数の障害やニーズのある生徒が在籍している。
スタッフについて
  • 教師は全体で70人ほど。視覚障害のある教員も勤務している。うち28人が支援教師。支援教師は、学級の中で障害がある生徒の指導を担当している点で、日本の特別支援学級担当の教師の機能を果たしているが、学級担任と共に学級の運営にも責任を有しているところが日本の制度と大きく異なっている。
  • 教員の他にアシスタントも配置されている。これは日本の特別支援教育支援員の役割に相当する職種であるが、日本と異なっているのは、正規の学校職員として位置づけられている点。この指導員には、2種類ある。「自立(自律)及びコミュニケーションアシスタント」及び「エデュカトーレ」と言われる指導員である。障害の重い生徒の生活面や行動面の支援を担当するのが「自立(自律)及びコミュニケーションアシスタント」。心理面での支援を担当するのが「エデュカトーレ」。この学校には20名いる。
授業等について
  • 授業時間は一コマ50分で、週41時間。一般の中学校よりも授業時間数が多くなっている。一般の中学校は午前中の授業で30時間前後であるのに対し、この中学校は午後も授業があり、週4日は午後3時50終了、1日は4時40分終了となっている。
  • この学校では、イタリアの学習指導要領にあたる規定に盛り込まれている中学校で教えなければならない教科(イタリア語、数学、理科、歴史 イタリア史、英語等)に加えて、「演劇」「美術」「音楽」などのアート系や「体育」などの科目を重視している。体育では視覚障害がある生徒の「歩行指導」も扱われている。
  • 「演劇」「美術」「音楽」を重視した学習活動が展開されている。とくに、音楽では器楽の指導にも力を入れており12名の担当者が個別指導にあたっている。

数学の授業の一コマ。電子黒板、通常の黒板、弱視者用のブラックライト黒板が活用されていた。視覚に障害があるが生徒全盲の教師から点字や触図による図形の指導を受けている一場面(視覚障害教育の機能を有していることがわかる)

インクルーシブ対応について
  • インクルーシブ教育への対応として、障害があったり特別な支援が必要とされたりする生徒のための日常生活訓練や触覚活用等の指導が1年時に週1時間設けられていて、クラスの半分程度の生徒がこの授業を受講している。
  • 障害があると認定された生徒は「個別指導計画」が作成され、その計画に基づいて指導が展開される。
  • 授業は、クラス単位での集団指導、グループ別の小集団指導、教室内での個別指導、教室外での取り出し指導など、指導内容や生徒の実態に応じて様々な形態で行われている。
「障害のない」生徒にとっての意義
  • 障害の有無にかかわらず、一人一人の生徒に応じたきめ細やかな対応がなされているところが保護者や生徒に評価されている(*5)
  • アートに特化したカリキュラムは、「障害がない」とされる生徒にとっても魅力があり、入学希望者が多い。

5 まとめ

 これまでイタリアのフルインクルーシブ教育については、日本国内で評価が大きく分かれていました。インクルーシブ教育の推進グループは高く評価し、他方、イタリアの進め方は適切ではないと批判的な見方をしている行政担当者や研究者も少なくありませんでした(*6)
 確かにイタリアのインクルーシブ教育への転換期には、混乱が生じました。そうした困難を経ながらも、ぶれることなくインクルーシブ教育が推進され現在に至っています。日本でも「障害者の権利に関する条約」を批准して以降、イタリアの制度への注目度が高まってきているように受け止めています。
 パンデミックの落ち着きを待って、数年ぶりのイタリア訪問となり、ヴィヴァイオ中学校を訪れるのは8年ぶりということになります。今回は校内をじっくり案内していただくことができました。改めて、「逆統合型」の学校が、フルインクルーシブ教育体制下で特別支援学校の機能を補完する役割を果たしていることを実感し、日本でもその気になれば十分対応できる可能性がある仕組みだと受け止めました。
 インクルーシブ教育を推進していくためには、新たな仕組みを創設していくという視点が不可欠です。教育を取り巻く状況が大きく異なるために、単純に比較することはできないのですが、「共生社会」の実現を目指すという観点からは、イタリアの取り組みには学ぶことが少なからずあるように思われます。取り組みや時間軸の一部をとらえてそこだけを強調するのではなく、取り組みの一つ一つを吟味して参考になるところは大いに学ぶという姿勢が大事なのではないでしょうか。
 今回の調査は、アートの領域でのインクルーシブな対応やアクセシビリティの状況を調査することが主眼でした。この学校でのインクルーシブなアート教育に関しても、授業参観や担当教師からの聞き取りを行いました。これらの詳細については、研究チームによる成果報告として取りまとめていくことになります。

*1:科学研究費基盤研究(B)「視覚障害及び同重複障害児者が主体的に学ぶインクルーシブ・メディアアート教材開発」、研究代表者:茂木一司(跡見学園女子大学)、研究課題/領域番号21H00855.
*2:文部科学省「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」(特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告)、平成24年7月
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1325884.htm
*3:文部科学省「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議」報告、令和5年3月
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/181/toushin/mext_00004.html
*4:アントネッロ・ムーラ(著)、大内進(監修)、大内紀彦(翻訳)『イタリアのフルインクルーシブ教育――障害児の学校を無くした教育の歴史・課題・理念』、明石書店、2022/10/1
*5:青木千枝子、報告「イタリアのインクルーシブ教育の実際」

https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/hikaku/111206_inclusive_edu_aoki.html

*6:例えば、石田祥代・是永かな子・眞城知己編『インクルーシブな学校をつくる』(ミネルヴァ書房、2020)における眞城知己による第2章「インクルージョンの概念―学校との関連から―」28pの記述
http://www.sanagi.jp.net/files/books/inclusiveschool2.pdf(期間限定公開)