「やめろよ」(第1学年)

1.はじめに

 道徳が特別の教科として出発して5年が経過した。教科化には、道徳授業の質的改善だけでなく、いじめなどの問題に対応できる児童の資質・能力を育むことも期待され、それをねらいとした教材も多く開発されてきている。道徳の授業では、このような教材を通して、人間の強さや弱さを見つめ、自分ごととして理解し、児童がよりよく生きるための力を養っていくことが求められている。
 本教材も、いじめを題材にした教材である。「いじわるはよくないことです。」と児童に模範解答を求めるような授業にならないように、教材にしっかりと自我関与し、自分ごととして生活を振り返ることができるような発問を工夫することが大切である。また、友達の思いや考えに耳を傾けながら自分の考えをつなげ、さらに深めていくことを目指した授業を構想しなければならない。

2.教材について

 ぽんたたちは学校の帰り道で、ぴょんこに意地悪をするこんきちと会う。注意をしようか悩みながらも、ぽんたたちは一度通り過ぎようとする。しかし、ぴょんこが泣き出しても意地悪を続けるこんきちに、ぽんたは勇気を出して「やめろよ。」と言うことができた。
 正しいことをすることに悩むぽんたに自我関与しながら、人の心の弱さにも触れ、どんなときも正しいことを進んで行おうとする態度を養う。

3.実践報告

(1)主題名

正しいことを、ゆうきを出して A[善悪の判断、自律、自由と責任]

(2)教材名

「やめろよ」
(出典:日本文教出版 令和2年度版『しょうがくどうとく いきるちから1』)

(3)本時のねらい

 ぽんたの行動や心情を通し、正しいと思うことができたときとできなかったときの気持ちを理解し、正しいと思うことをすすんで行おうとする態度を養う。

(4)展開例

学習活動
(○主な発問 ・予想される児童の反応)

◇指導上の留意点 ☆評価


1 ねらいとする価値への導入を図る。
○意地悪とは、どんなことですか。
・たたく ・悪口 ・仲間外れ
・友達が嫌がること
○意地悪をしている人を見ると、どんな気持ちになりますか。
・いやだな。 ・悲しい。
・やめてほしい……。
・やめさせなきゃ。

◇意地悪について考えることで、ねらいとする価値への導入を図る。
◇個別の児童の名前が挙がらないように配慮し、一般的な問題として捉えさせる。



(前段)

2 教材を読んで考え、話し合う。
○ぽんたがそのまま通り過ぎようとしたのは、どんな気持ちからでしょう。
・やり返されることが怖い。
・自分が意地悪されるようになるかも……。
・ぴょんこみたいになりたくない。
・関わりたくない。

◇場面絵を提示して、登場人物を確認できるようにする。
◇いけないことだとわかっているうえで、ぽんたの関わりたくないという気持ちに気付き、人間の心の弱さについて理解する。

◎どんな考えから、ぽんたは「いじわるは、やめろよ。」と言えたのでしょう。
・これ以上、見ていられない。
・こんきち、ひどい。ぴょんこを助けたい。
・怖いけど、やめさせなきゃ。
・逃げるのは、格好悪い。
・そんな自分になりたくない。
・勇気を出して、言おう。

◇どんな考えから、「やめろよ。」と言えたのか、児童の意見をつなげたり、問い返したりして、多面的・多角的に考えを深められるよう工夫する。

○「やめろよ。」と言えたとき、ぽんたはどんな気持ちになったでしょう。
・怖かったけど、言えてよかった。
・言えてすっきりした。
・ぴょんこを助けられてよかった。
・言えた自分が嬉しい。

◇役割演技をしながら、「やめろよ。」と言えたときのぽんたの心情から、正しいことができたときの気持ちについて考える。また、言えたときだけでなく、言えなかったときの気持ちについても迫る。
☆正しいと思うことを行うことのよさについて、自我関与しながら考えている。【発言】



(後段)

3 自分を振り返る。
○正しいと思うことができたとき、どんな気持ちになりますか。
・気持ちがいい。
・すっきりする。
・できなかったら、ずっと気になる。
・できた方が、自分のためにもなる。

◇本時の学習を振り返り、道徳ノートに自分ごととして考えたことをまとめ、学びを確かなものにする。
☆よいことや正しいと思うことができたときのよさについて、経験から考えようとしているか。【発言・道徳ノート】


4 教師の説話を聞く。

○正しいことを行うことのよさについて、説話をする。

4.授業記録

【導入】

T 意地悪って、どんなことですか。
C 暴力。
C 悪口。
C 相手が嫌がること。
T では、意地悪している人を見ると、どんな気持ちになりますか。
C いやな気持ち。
C やめさせる。

(考察)
いじめや意地悪は、当たり前のようにいけないことで、いやな気持ちになったり、止めようとしたりすることが一般的であることを確認する。

【展開前段】

T ぽんたがそのまま通り過ぎようとしたのは、どんな気持ちからでしょう。
C 注意したいけど、怖い。
C やり返されたら、どうしよう。
C 自分が意地悪されるようになるかもしれない。
C 巻き込まれたくない。
C 誰かが、止めてくれるかな。

(考察)
やめさせることが正しいことだと分かりながらも、できない人の心の弱さにしっかりと触れさせたい。すぐに言えなかったことについて、その理由について自我関与させながら考える。

T どんな考えから、ぽんたは「いじわるは、やめろよ。」と言えたのでしょう。(中心発問)
C 泣くまでやるなんて、ひどい。
C やりすぎ……。
C 怖いけど、助けたい。
C 怖いけど、やめさせなきゃ。
C 逃げるのは、意地悪しているのと一緒。
C そんな自分になりたくない。
C 勇気を出して、言おう。

(考察)
正しいことを行うことが、周りの人だけでなく、自分としてもどういう意味があるのか、多角的に捉えさせたい。また、通り過ぎようとしていたとき、どのように考えが変容したのか、児童の発言をつなげながら、深めさせる。

T 「やめろよ。」と言えたとき、ぽんたはどんな気持ちになったでしょう。
C 助けられてよかった。
C (できて、言えて)すっきりした。
C 言えなかったら、後悔する。
C (言えないと)格好悪い。
C 自信がついたから、今度はすぐ言える。

(考察)
「やめろよ。」と言えたときの心情に触れ、正しいことを進んで行えたときの気持ちを問い、正しいことができたときの喜びやよさを確認し、後段の自己への振り返りにつなげた。

【展開後段】

T 正しいと思うことができたとき、どんな気持ちになりますか。
C 気持ちがいい。
C すっきりする。
C できなかったら、ずっと気になる。
C できた方が、自分のためにもなる。
C 自信をもって行動できる。

(考察)
生活経験が少ない低学年において、後段の自己への振り返りは課題の一つである。一学期から意識をもって関連する場面を取り上げて考えることを通して、後段での発問に関する経験が思いつかない児童には、「あのときは、どうだったかな。」と、学級共有の経験について振り返ることができるよう声を掛ける。

【終末】

主題やねらいに沿った教師の説話

5.板書例

6.授業への工夫など

(1)板書の工夫
 場面絵だけでなく、教材の人物の絵を掲示することで、話の内容を正しく理解できるようにした(教材への導入など)。また、児童の発言について、関連している意見をまとめたり、線でつないだりすることで、考えを深められるように板書した。

(2)役割演技の活用
 「いじわるは、やめろよ。」と言えたときの心情について、自我関与しながら考えられるように、役割演技を行った。言えたときだけでなく、通り過ぎようとしていた場面からぽんたの気持ちを考えさせ、それらを対比させることによって心情の変化を捉えやすくした。

7.考察

ねらいを「正しいと思うことを進んで行おうとする態度を養う。」としたため、中心発問では心情ではなく、考えを問うことにした。そのうえで、正しいと思うことを行うことができたときの心情を重ねて確認することで、そのことのよさについて、さらに感じられるようにした。
善悪の判断について、低学年の発達段階では他律的に捉える児童が多い。そのことから、発言を問い返したり、ときには揺さぶったりすることも必要となる。本授業においても、教材を通して、正しいとわかっていても迷う心の弱さについて十分に触れ、他者ではなく自分としてはどうなのかを考えられるようにした。
自己の振り返りで、経験があまりなく悩んでいる児童も見られたが、学校生活を振り返り、同じような場面を想起できるよう声掛けを行った。

「あいさつがきらいな王さま」(第2学年)

1.はじめに

 児童一人一人が、本時の学習内容をいかに自分ごととして捉え、主体的に考えられるかどうかが大切であり、課題や展開、振り返りを工夫したいところである。
 挨拶をすることに関しては、日頃から生活指導などでもされていることであるが、「なぜ、挨拶をすることが大切なのか。」について、教材を通してじっくりと考えさせ、児童自身の中で、挨拶することの意義について深めさせていきたい。今回は、課題を提示し、教材を通して考え、自分なりの答えを導き出していく展開を行った。

2.実践報告

(1)主題名

あいさつっていいね B[礼儀]

(2)教材名

「あいさつがきらいな王さま」 (出典:日本文教出版 令和2年度版『小学どうとく 生きる力2』)

(3)本時のねらい

 間違いに気づいた王様の気持ちを考えることから、挨拶は相互の人の心を明るくすることを理解し、気持ちのよい挨拶をしようとする心情を養う。

(4)展開例

学習活動
(○主な発問 ・予想される児童の反応)

◇指導上の留意点 ☆評価


1 本時の課題をつかみ、教材への関心をもつ。
○あなたにとって、どうして挨拶は大切なのでしょうか。
・元気が出るから。
・いい気持ちがするから。
・落ち着くから。

◇ねらいとする道徳的価値について触れ、本時の課題をつかませる。現段階での考えを黒板に書く。
◇「あなたにとって」という発問で、自分ごととして考えさせるようにする。



(前段)

2 教材「あいさつがきらいな王さま」を読み、話し合う。

◇場面絵を黒板に掲示し、BGMを流し、教材に入り込みやすくする。

○朝から夜まで、何度も挨拶をされる王様は、どんな気持ちだったでしょうか。
・うるさいなあ。
・面倒くさいなあ。
・もういいよ。ひっついてくるようだ。

◇うんざりしている王様の気持ちを、自分ごととして考えさせる。(相互指名・意図的指名)

○楽しそうな歌声を聞いて、「なにかおかしい。」と言った王様は、どんなことを考えていたのでしょうか。
・挨拶があったほうがいいのかなあ。
・挨拶をして心がすっきりした方がいいのかなあ。
・挨拶がないと、さびしくて暗くなってしまうなあ。

◇王様の気持ちが変わってきたことを理解させる。

◎王様は、ついうっかり挨拶をしてしまって、どんなことに気づいたのでしょうか。
・挨拶をすると、心があたたかくなる。
・気持ちが良い。
・すがすがしい気持ちになる。

◇王様が「おはよう。」と言って気づいた挨拶のよさについて考えさせる。(ノート・相互指名・意図的指名)
◇挨拶の大切さに気づいた王様の気持ちに共感させるようにする。
◇小集団で話し合い、全体で話し合う。
◇ノートに自分の考えを書かせる。(意図的指名)
☆挨拶のよさに気づいた王様に共感し、考えることができたか。(話し合いの様子・発言・ノート)



(後段)

3 自分を振り返る。
○あなたにとって、挨拶をすることには、どのようなよさがありますか。
・自分もみんなもうれしくなる。
・周りの人の心も自分の心もいい気持ちになる。
・心が落ち着く。

◇ノートに自分の考えを書かせる。(意図的指名)
☆挨拶をした時のさわやかな気持ちや、相手と心が通じ合うことのよさなどを考えることができたか。(ノート・発言)


4 教師の説話を聞く。

◇挨拶をすることのよさについて教師の経験談を話し、気持ちよい挨拶をすすんでしようとする心情を高め、余韻をもって終わるようにする。

3.板書

4.授業への工夫

(1)課題を明確にし、自分ごととして考えさせていく展開の工夫
 日常で当たり前のように行っている挨拶について、改めて自分ごととして考え、児童一人一人が自分なりの答えを主体的に考えられるように課題を設定した。
 本時では、「あなたにとって、どうしてあいさつは大切なのでしょうか。」という課題を設定することで、より自分自身の課題として捉えられると考えた。「あなたにとって~」と問うことで、より主体的に捉えることができると考える。
 自分なりの答えを探求していくために教材を通して道徳的価値について考えていく。展開後段では、その答えを一人一人がもつことができるように展開を工夫した。

(2)話し合いの工夫
①意図的指名での話し合い
②相互指名での話し合い
③小集団での話し合い
 対話的な授業展開をすすめるにあたり、教師の意図的指名、児童同士の相互指名、小集団での話し合いの形式を適宜取り入れた。
 なかなか考えがまとまらない児童や発表が不得手な児童にとっては、小集団での話し合い活動をすることで自身の意見もまとまり、発表への自信をもてるようになってくると考える。小集団の意見をまとめるために話し合うのではなく、児童一人一人が考えをもてるようになることが目的である。小集団での話し合いの場を設けることにより、自分の考えや思いを伝え合うことができる。伝え合うことにより、考えが広がったり深まったりすることもある。また、互いを認め合う活動としても有効である。
 全体では相互指名をしたり、意図的指名をしたりしながら考えを共有し、ねらいとする道徳的価値について深めさせていく。

(3)書く活動の工夫
 書く活動を取り入れ、考える時間を十分に確保する。発言を不得手とする児童も、書くことで自分の考えをもち表現することができる。中心発問と展開後段で書く活動を取り入れ、自分ごととして価値について考えさせる。また、ノートを継続的に使用することで、1年間の記録となり変容も見取ることができる。

(4)教材提示及び展開の工夫
 教材提示に際しては、効果的な場面絵を提示したりBGMを流したりすることにより、教材への共感を高める工夫をする。教師が教材を読むときは、ゆっくりと表現豊かに読む。板書の際は、場面絵で教材の内容が分かりやすくなるようにレイアウトを考えた。教材提示をしながら場面絵を黒板に貼っていくことで、教材の内容が児童に分かりやすくなるように工夫した。

5.考察

場面絵が有効であった。場面絵を追うだけでも話の内容が理解しやすいようであった。
児童の意見から、「挨拶をすると落ち着く。」という考えをもった児童が多数いた。おそらく挨拶を交わし合うことで、互いを認め合えているという認識がもてているのではないかと考察する。
本教材は挨拶をすることの意義について考え深めさせる教材である。生活指導との関連も図りやすい年度初めや学期初めの時期に授業を行うことで、児童がより自分ごととして捉えることができると考える。

「やさしいユウちゃん」(第5学年)

1.はじめに

 内容項目B「親切、思いやり」の学習指導要領における高学年の目標は「だれに対しても思いやりの心をもち、相手の立場に立って親切にすること。」とある。この「相手の立場に立つ」というところに焦点化し、親切の行為について考えさせたい。
 この時期の児童は、相手の置かれている立場を、ある程度自分自身に置き換えて想像できるようになってくる。「親切」という価値について問うと、「優しくすること」「助けること」とその行為の具体的姿が返ってくるだろうと予想できる。また、児童は、相手に手を差しのべることが望ましい「親切」であると捉えがちである。そこでさらに「よくない親切はあるのか?」と揺さぶりの発問をしたり、教材における「親切のちがい」を考えたりする中で、相手にとって何が必要かを考えたり、相手にとっての一番を考えたりすることこそ、「相手の立場に立った親切」なのだと気づくような学習展開としていきたい。
 また、対比的に考える学習展開から、横書きの板書に取り組んでみたい。

2.教材について

 おっとりしたハルカを助けることの多いユウコ。同じ委員会になりたくて、二人とも飼育委員を希望したが定員より一人多い状態になる。二人で別の委員会に行こうと言うハルカに、「わたしは別の委員会に行くね。」とはっきり言うユウコ。ハルカに一緒の委員会になれなくても、自分のやりたいことをやったほうがいいと言ったユウコの姿から、本当に相手のことを思う親切について考えさせる。
 また、今までと違い、ユウコがいなくても別の友達と楽しそうに飼育委員活動に打ち込むハルカの姿を見て、これからの自分にもワクワクするユウコのすがすがしい心情に気づかせたい。

3.実践報告

(1)主題名

相手のための親切(内容項目:B 親切、思いやり)

(2)本時のねらい

 時には言いにくいことも言うユウコの姿から、相手のため(立場)を考えることが本当のやさしさであることに気づき、進んで親切にしようとする心情を育てる。

(3)展開例

学習活動
(○発問 ・予想される児童の反応)

◇指導上の留意点 ☆評価


○親切とは、どんな行為だろう。
・優しくする。
・助ける。
・教えてあげる。

・親切は、した方もされた方もうれしい行為であると、親切の行為から生まれる互いの心のつながりを確認する。
・「よくない親切もあるのかな。」と切り返し、価値への方向づけを行う。



(前段)

①「ユウちゃんといっしょになれてよかった。もう安心だよ。」と言われたユウコがほっとしたのは、どのような気持ちからでしょう。
・これで大丈夫。
・いっしょだから楽しい。
・私が助けてあげる。

・二人が幼なじみで、いつも一緒に過ごしていた仲であることを押さえたうえで、二人の特性を整理しておく。
・ユウコは、再びハルカと一緒のクラスになれたことで、彼女を助けられるといううれしさや期待感を感じていたことに気づかせる。

②ユウコが「わたしは別の委員会に行くね。」とはっきり言ったのは、どんなことを考えたからでしょう。
・ハルカは、動物が好きなんだから、飼育委員をやった方がいいと思う。
・自分のやりたいことをやってほしい。

・ユウコがハルカのことを考えて決断したことから、今までのハルカへの親切と質の異なる高次の親切に変わってきたことを感じさせたい。(道徳ノート)
・その後、ユウコが今後の自分にワクワクしているすがすがしさにも触れ、相手のことを思う親切の気持ちよさを感じられるようにする。



(後段)

◎①②の親切のちがいは、何だろう。
・相手の将来のことまで考えている。
・その人にとって何がいいかまで考えている。

・友達のため、より深い関係になるため、といった「信頼、友情」の価値に偏らないようにする。
・①も②もどちらも親切であるからこそ、その違いを考える中で、ねらいとする価値に迫りたい。

○相手のための「親切」とは、どういう行為のことだろう。
・相手にとって何が必要かを考えて行動する。
・相手にとっての一番を考えて行動する。

・導入と同じく「親切」について問うことで、価値の深まりを児童自身に実感させる。
☆相手の立場を考えて、親切にすることの大切さを記述しているか。(道徳ノート)


○相手のことを考えて、親切にしてよかったという教師の体験を話す。
・車いすの人が、段差を乗り越える練習をしていた。「手助けしよう!」と思ったが、一生懸命頑張っている様子に、そばで見守ることにした。その後の清々しい様子を見て、私は「やりましたね!」と思わず声をかけた。

・相手のことを考えて行う行為について話すことで、互いに高め合うことも親切につながることを捉えさせる。

4.授業記録

【導入】

T 親切はどんな行為だろう。
C 手伝ってくれること。
C 相手のことを思ってすること。
C おせっかいではない。
T では、「よくない親切」もあるかな。
C ん~。あ~。

(考察)
「親切」という行為が、自分本位でないということは理解しているようである。
児童の実態を前提に、価値への方向付けを行う。

【展開前段】

T 「ユウちゃんといっしょになれてよかった。もう安心だよ。」と言われたユウコがほっとしたのは、どのような気持ちからでしょう。
C ハルカの悲しむ顔を見なくて済む。
C ハルカが安心してくれた。
T ユウコが「わたしは別の委員会に行くね。」とはっきり言ったのは、どんなことを考えたからでしょう。
C ハルカのやりたいことをやってほしい。
C ハルカは一人でできるだろう。
C ハルカも自立しないと、将来困る。

(考察)
どちらの発問に対しても「ハルカ」という親切の対象が返ってきた。
これらをもとにして「どちらもハルカのことを考えての親切だけど…」と比較の視点にしていきたい。

【中心発問】

T どちらも「ハルカ」のことを考えているよね。この親切の違いは何だろう。
C 将来のことまで考えている。
C 「今する親切」と「これからの親切」
C ハルカのことを本当に考えるなら、厳しくしたり、エールを送る立場でいることも大切。

T 最初も聞いたことですが、相手のための「親切」とはどういう行為のことだろう。
C 今できる親切と、これから役に立つ親切。
C 本当に相手にとって親切かを考える。
C 自己満足は親切とは言えない。

(考察)
導入に比べ、相手のこれからを考えた発言が多く見られ、価値の深まりを感じる。また、具体的な言葉かけを考えたり、自分なりの言葉で表現したりできている。
それが「相手のための」の親切であり、児童の学びの成果であると伝え、児童の手柄にしたい。

5.板書例

6.授業への工夫など

(1)「親切」についての比較が視覚的に分かるようにし、また、導入との価値の違いも分かるように、板書を工夫した。
(2)考えさせたい価値が「相手のこと」「将来のことを考えて判断」という児童の発言で授業を想定していたため、発問を精選し、考えることが焦点化された。

7.考察

「親切」について「相手のための」という価値を付随させることで、深い考えへと発展できた。
また、「親切」は、心の中で思っているだけでなく、行為として表出されることも大切だということも理解できたようであった。

「その思いを受けついで」(第6学年)

1.はじめに

 児童が教材を通して道徳的価値の理解を図ったり、自己を見つめたりすることができるように、教材の内容を自分事としてとらえさせることが重要である。そのために授業をどのように工夫すべきかを考えることが道徳科の授業の醍醐味でもある。児童が物語に入り込めるような教材提示、みんなで考え、多様な考えに触れることで、さらに自分の考えを広げ深める時間の設定の仕方、自分事としてとらえた一時間一時間の学びの連続性に重点を置いて、今回の授業実践を行った。

2.教材について

 祖父の寿命があと3か月と迫っていることを母から聞いた「ぼく」は、残された祖父との時間を大切に過ごし、祖父の最期を看取る。祖父の死後に見つけた手紙から、「ぼく」へ向けられた祖父の温かくも強い思いに触れるという内容である。
 身近な祖父の死と必死に向き合う「ぼく」の思いや、死期が近づいてきてもなお、孫への愛情を持ち続けた祖父の思いを考えることを通して、自分の生命が、祖父母や父母から大切に受け継がれたつながりの中にある素晴らしく尊いものであることを感じさせたい。そのうえで、「その思いを受けついで」、限りある命を精一杯生きること、自他の命を尊重することが大切であることに気付かせたい。

3.実践報告

(1)主題名

つながる命 D[生命の尊さ]

(2)教材名

「その思いを受けついで」 (出典:文部科学省 『私たちの道徳 小学校5・6年』)

(3)本時のねらい

 大好きな祖父の死に向き合う「ぼく」の気持ちを考えることを通して、自他の命が生命のつながりの中にある尊いものであることを理解し、自他の命を尊重しようとする心情を育てる。

(4)展開例

学習活動
○発問・予想される児童の反応

◇指導上の留意点 ☆評価


(1)学習課題を設定する。
○「命」について、どのように思いますか。

◇「命」についての様々な考えを出させる。同内容項目の授業の板書とノートを振り返り、これまで「命」についてどう考えてきたか想起させる。そのうえで、本授業を通して、なぜ大切にしなければならないのか、自分なりの考えを深められるようにする。


(2)教材「その思いを受けついで」を読み、なぜ命が大切なのかについて考える。

◇教師が範読する。教材文の世界観に浸ることができるよう、BGMを流す。

○じいちゃんの命があと三か月だと知って、「ぼく」はどんなことを考えたでしょう。
・嫌だ。 ・悲しい。
・信じられない。 ・信じたくない。
・うそであってほしい。 ・別れたくない。
・時間が足りない。 ・もっと一緒にいたい。
・早く教えて欲しかった。そしたらもっと一緒に過ごせたかもしれないのに。

◇小さい頃からかわいがってくれたじいちゃんが、あと三か月で死ぬかもしれないと知ったときに、ぼくが感じた複雑な感情を考えさせるようにする。

○毎日お見舞いに行った「ぼく」は、どのような気持ちだったのでしょう。
・僕が行ったら、元気になるかもしれない。
・少しでも長く生きてほしい。
・励ましたい。
・一緒に過ごす1分1秒を大切にしよう。
・少しでも長くおじいちゃんと一緒にいたい。
・おじいちゃんとの思い出を増やしたい。

◇じいちゃんの病状の変化と、それに伴う「ぼく」の気持ちの変化も捉えさせる。

◎じいちゃんから受け継いだ思いとは、いったいどのような思いでしょう。

手紙を受け取ったぼくが感じた思いをペアで考え、短冊に書く。

・じいちゃんが見守ってくれている。命を大切に生きよう。
・じいちゃんの思いに恥じない生き方をしよう。
・じいちゃんが教えてくれたことを大切にして前に進もう。
・じいちゃんの分まで、全ての経験を大切にして生きていこう。
・じいちゃんが大切にしてくれたように、ぼくも周りの人を大切にして生きていこう。

◇じいちゃんがのし袋のメッセージに込めた「ぼく」への思いを考えさせるようにする。

☆生命のつながりやかけがえのなさを感じとり自他の命を尊重することの大切さを考えることができたか。(観察)

(3)自己を見つめる。
○なぜ「命は大切」なのでしょう。命を大切にすることについて感じたり考えたりしたことを書きましょう。
・自分の命は自分だけのものではない。受け継がれてきた命を無駄にしてはいけないし、精一杯生きなければいけない。

●いつものように、学習したことから、今までの自分やこれからの自分について振り返るよう促す。

☆自らの命も先祖から受け継がれてきた大切な限りある命であり、今後とも大切にしようとする気持ちをもつことができたか。(発言・ワークシート)


(4)学習のまとめをする。

●合唱「つながる命」を、歌詞を見ながら聴き余韻をもたせて終わる。

4.授業記録

T  これまで命について2回、みんなで考えてきました。第11回「命と平和」、第20回「命のかがやき」の2回です。自分が考えたこと、みんなで考えたことを振り返ってみましょう。
(道徳ノートや板書写真で振り返る。)
T  では、命についてどう思う?
01 失くしたらもうない。1つしかないかけがえのないもの。
02 生きることの源。
03 生き物には必ず1つある 失ってはいけないもの。
04 最も大切なもの。

T  命は大切じゃないと思っている人はいる? (いないよー。)
では、どうして命は大切にしなければいけないのかな?
みんなで考えてみましょう。

T  (教材の確認後)大好きなじいちゃんの命があと3か月だと知りました。その瞬間、ぼくはどんなことを考えただろう。
05 信じられなくて混乱している。
06 唐突なことで信じられない。
07 どうしよう。焦る。
02 お母さん、何言っているの?(信じられない気持ち)
08 受け入れたくない。
01 どうにかして治せないの?
04 おどろいている。
09 死んでしまう悲しさと、いつ死んでしまうのかという不安。

T  ぼくは毎日お見舞いに行きます。そのときはどんな気持ちだっただろう。
(ペアで話してから)
01 あと3か月。いつからやつれていってしまうのかこわい。
09 今日は元気にしているかなぁ。不安。
08 今日死んでしまうかもしれない。
05 いつ死んでしまうのかな。
02 行くときは不安。でも顔をみると安心する。
03 今日、会えるかな。話ができるかな。
10 最初のころはじいちゃんが元気で、死んでしまうなんて信じられない。
07 きっと元気になるよ。
06 顔を見ると、今日は元気でよかった。

T  「ぼく」は自分が安心したい気持ちだけでお見舞いに行き続けたのかな?(首を振る)
02 より多くじいちゃんと過ごしたい。
01 後で後悔したくない。今のうちにたくさん会いたい。
09 3か月でも1年分、2年分と同じくらいの時間を過ごしたい。
12 大丈夫だよと、じいちゃんを安心させたい。
13 会わない後悔をしたくない。最後まで送りたい。
14 じいちゃんのためにできるだけのことをしたい。

T  じいちゃんは亡くなってしまったけれど、まくらの下からしわくちゃののし袋が出てきたんだよね。とても悲しいけれど、じいちゃんから受け継いだ思いがあったのではないかと思います。ペアで話し合って、短冊に書いて下さい。
  ・じいちゃんが見守ってくれているから、前向きに生きよう。
  ・じいちゃんが最後の力をふりしぼって自分を勇気づけてくれたから、その命を大切にしていこう。
  ・じいちゃんの分まで生きよう。
  ・じいちゃんの優しい気持ちのおかげでぼくが成長できた。これからは自分でしっかりと成長していきたい。

5.板書例

6.授業への工夫及び考察

(1)導入
 本時の前に二回、生命の尊さに関する授業を行っている。ノートや板書の振り返りをしたうえで、本時のねらい示すことで、「命」について自分が学び考えたことを意識して本時にのぞむことができる。
※実施した授業の板書写真は教室に掲示してある。児童は休み時間等に話題にすることもある。

 ワークシートを見ると、生命の有限性・連続性に加えて、今生きていることの奇跡や、受け継がれた命を輝かせる等、これまでの「生命の尊さ」に関する授業で考えてきたことを絡めて考えている児童が多かった。身近な死には直面したことがほとんどない児童だが、自分なりに命の大切さに対して考えを深めている様子がみてとれた。

(2)BGMの使用
 身近な死に直面したことがない児童も多い。BGMを使用して教材提示を行うことで教材の世界観に浸り、「ぼく」の気持ちに寄り添いやすくする。また、終末も説話ではなく本時に関連する歌詞の歌を流した。自分事としてとらえた命のつながりをかみしめて終わることができると考えた。

 教材提示では、教材の世界に入り込み涙ぐんでいる児童もいた。表面にあらわれる子ばかりではないが、世界観に入り込むことができている児童が多かったように感じる。終末でも、歌詞を見ながら真剣なまなざしで音楽に耳を傾けていた。授業後、歌詞について話しているグループもあった。

(3)多様な考えに触れるために
 本学級の児童は、高学年になり、小グループであれば活発に話すことができても、自分の考えを挙手して発表することに恥ずかしさを感じる児童も多い。ペアで話すこと、短冊に書き黒板に貼ることで多くの考えに触れ、自分の考えを広げ、深められるようにした。(中心発問は小グループで話し合う予定だったが、緊急事態宣言中であったため、対面を避けペアで話すこととした。)

 自分の考えを伝え合うことで、「ぼく」に自我関与できていたのではないかと思う。しかし、ペアによっては会話が一方通行になっていたので、やはり小グループが適していたと考える。

ノンフィクション教材を活用した授業づくり(第6学年)

1.はじめに

 小学校学習指導要領「特別の教科 道徳」において、多様な教材の活用の視点として、「生命の尊厳、自然、伝統と文化、先人の伝記、スポーツ、情報化への対応等の現代的な課題など」が挙げられている。
 また、スポーツに関する教材の活用については、「例えば、オリンピックやパラリンピックなど、世界を舞台に活躍している競技者やそれを支える人々の公正な態度や礼儀、連帯精神、チャレンジ精神や力強い生き方、苦悩などに触れて道徳的価値の理解やそれに基づいた自己を見つめる学習を深めることが期待できる。」と示されている。
 ノンフィクション教材は、多面的・多角的に考えることができる一方で、多様な道徳的価値が含まれているため、ねらいが曖昧になってしまうことも考えられる。そこで、導入を工夫したり、発問を精選したりすることで、ねらいを明確にした授業を展開できると考えた。

2.実践報告

(1)主題名

生きる喜びを感じて D[よりよく生きる喜び]

(2)教材名

「真海のチャレンジ―佐藤真海―」 (出典:文部科学省『私たちの道徳 小学校5・6年』)

(3)本時のねらい

 佐藤真海さんの生き方を考えることを通して、人間は心の弱さと同時に心の強さや気高さをもっていることを理解し、夢や希望をもち、喜びのある生き方をしようとする態度を養う。

(4)学習指導過程

学習活動

○主な発問
・予想される児童の反応

◇指導上の留意点
☆評価


1 「よりよく生きる」ことの意味について考える。

○「よりよく生きる」とはどういうことだと思いますか。
・目標に向かって努力すること
・仲間と助け合って頑張ること

◇事前アンケートの結果を提示し、ねらいとする価値への導入を図る。


2 教材「真海のチャレンジ―佐藤真海―」を読んで話し合う。

①大学へ復帰したとき、真海さんはどんな気持ちだっただろうか。
・また大学に戻れてうれしい。
・これからの自分はどうなってしまうのだろう。
・友達は楽しそうでうらやましい。

◇範読する前に、佐藤真海さんのプロフィールを簡単に紹介し、教材への興味・関心を高められるようにする。
◇右足を失い、悩み苦しむ真海さんの心情を共感的に捉えさせる。

真海さんがパラリンピックを目指したのはどんな考えからだろうか。【中心となる発問】
・このままではだめだ、何とかしなければいけない。
・目標をもって頑張れば、自分を変えることができる。
・つらいことにも負けず強くなりたい。

◇目標に向かってチャレンジし続けることに生きる喜びを見出した真海さんの思いについて、多面的・多角的に考えられるようにする。

③真海さんはどんな生き方を大切にしてきただろうか。
・目標に向かってチャレンジする。
・どんな困難にもめげない。
・前向きに生きようとする。

◇展開後段の学びがより効果的に進められるように、教材を通して考えたことをまとめられるようにする。

3 自分自身の生活を振り返る。

○「よりよく生きたい」と思ったり考えたりして、頑張ったことやくじけそうになったことはありますか。
・サッカーの試合に勝つために毎日練習した。
・目標に向かって学習すると決めたのに、ついさぼってしまった。

◇学習シートを活用する。
◇ペア学習による学び合う場を設定する。
☆自分なりの「よりよく生きる」について考えることができたか。


4 教師の説話を聞く。

◇困難や障害と向き合いながら生きる喜びを味わった教師の経験を話し、余韻をもって終わらせるようにする。

(5)指導の工夫

○導入の工夫
 本教材は、A[希望と勇気、努力と強い意志]、D[生命の尊さ]などの内容項目と関連していると考えた。内容項目D[よりよく生きる喜び]を明確にした授業を展開するために、「よりよく生きる喜び」についての意味について考え、課題意識をもたせる。展開前段以降の活動時間を確保するために、事前にアンケートをとり、その結果を紹介する形にとどめ深入りはしない。

○板書の工夫
 教材の場面絵やプロフィールなどを提示することで長文の教材の理解を助ける支援を行ったり、主人公の心情の変容を捉えやすくするための工夫を行ったりする。
 また、題名「真海のチャレンジ」を中心に書くことで、本時で中心的に考えたいテーマが明確なものとなるようにし、構造的な板書となるような工夫を図る。
 さらに、教材に関する授業展開の板書の他に、補助黒板を活用する。補助黒板には、導入で活用したアンケート結果と展開後段での活動を結び付けて考えられるように示すことで、本学習を通して道徳的価値についての理解がどのように変容したのか実感し、道徳的価値の自覚を深められるようにする。

板書(展開前段での教材「真海のチャレンジ」における学習内容)

補助黒板(「よりよく生きる」をテーマとした事前アンケートの結果、展開後段における学習内容)

○発問の工夫

第1発問では、真海さんが悩み苦しんでいる場面の心情を問う。内容項目D[よりよく生きる喜び]には、強さや気高さだけではなく、自分の弱さを意識し、乗り越えるという側面も示されている。道徳的価値の深い理解につなげるために、誰しもが「弱い自分」を内包して生きていることに気付かせたい。
中心発問では、困難と向き合い力強く生きようと決断した真海さんの思いについて考える。真海さんにとっての「よりよく生きる」とは、自分の決めた目標に向かってチャレンジし続けることだと捉えた。真海さんにとってのチャレンジについて多面的・多角的に考えられるようにするために、補助発問として「普通のチャレンジとはどのように違うのか」と投げかける。
第3発問では、展開後段を効果的に進められるようにするために、真海さんの生き方について考える。教材における道徳的価値の理解と自己の生き方とを結び付けて考え、展開後段での学習がより主体的なものとなるようにする。

○話し合いの工夫
 展開後段では、感染症対策を十分にした上で、ペア・トリオの意見交換、「伝え歩き」による学び合いなどの対話型の学習の場を設定し、友達の感じ方・考え方との共通点や相違点を比べながら、道徳的価値についての理解を一層深められるようにする。

○書く活動の工夫
 展開後段では、適切な時間を確保した上で、学習シートを活用し、自分自身の生き方について深く考えられるようにする。事前アンケートを実施し、授業後にどのような変容が見られたかを把握するなど、児童の道徳性に係る成長の様子を継続的に把握していくことが重要である。

(6)児童の反応

児童の学習シートから

バレエの発表会までの間、自分の役に入り込めるように毎日努力をした。

水泳記録会に向けて練習した。よい記録が出ず、目標が高すぎたかなと思ったが、本番は目標を達成できた。

英語を習っている。何回もまちがってしまいやりたくないと思う時もあった。けれど、英検に受かりたいので毎日続けている。

サッカーの試合で負けたとき、もうだめだと思ったときもあった。だけど、前を向いてがんばろうと思っている。

書道を習っていて、最初は全然上手に書けなかったが、「もっと級が上がりたい」と思って努力してたくさん級が上がった。今でももっと上手になりたいと思って頑張っている。

3.おわりに

 ノンフィクション教材を扱う際の留意点として、登場人物の生き方を自分事として捉えることの難しさがあると考えている。発問や話し合い等の工夫を通して、自分自身の経験と照らし合わせながら、自己の生き方について考えを深められるようにすることが重要である。

※本実践は前任校での取り組みをまとめたものである。

「指導と評価の指針」を活用した教材「友の命」の実践(第5学年)

1.主題名

信じ合う友達 B[友情、信頼]

2.教材名

友の命(東京書籍)

3.主題設定の理由

(1)ねらいとする価値について
 友達とは、喜びを共有したり、困った時に助け合ったりするかけがえのない存在である。話をしたり、一緒に活動したりする日々の生活の中で、相手の性格や人柄が分かるようになる。すると相手を尊重したり、認めたりする気持ちが生まれ、友情は深まっていく。高学年になると、初めて出会う人とも関わろうとする姿が見られる。そして自分と相手の考えの違いを受け入れ、人間関係を深めていこうとする。お互いの理解が深まり、相手を大切に思う気持ちは、信頼関係に繋がる。
 今回の学習を通して、どこまでも友達を信じる気持ちの素晴らしさを感じ、友情を深めることの良さを味わわせたい。

(2)児童の実態について
 4月にクラス替えがあった。「今までは話したことがなかった人だったけれど、話してみたら盛り上がった。」と友達の輪が広がる喜びを感じる児童が多く見られた。休み時間になると「外でクラス遊びをしよう。」「今日は委員会の仕事があるから、一緒に行こう。」と男女関係なく声を掛け合っている。学習におけるグループの話し合いでは「友達は自分と考えが違っていたから、なるほどと思った。」と違う意見も受け入れて、自分の考えを深めようという意欲が見られる。
 そこで本時は、相手の良さを認めたり、相手を思いやったりすることが信頼関係に繋がることに気付き、改めて「友達がいて良かった。」という気持ちを感じさせたい。

(3)教材について
 正直者のピシアスは、疑い深い王様に憎まれて、首を切られることになった。ピシアスの仲良しである友達のデモンは、自分が代わりに牢屋に入っている間、ピシアスを外に出してほしいと王様に提案をする。ピシアスはデモンに期日までに「必ず戻って来る。」と約束をするが、当日ピシアスは戻って来ず、王様は二人の友情を蔑む。そこへピシアスが戻ってきて、お互いに、相手のことを一番に考えて声を掛け合う。その姿を見た王様は二人の真の友情に感心し、二人を許す。
 どこまでもお互いを信じ続ける二人の友情は、疑い深い王様の心を変えていく。お互いのことを第一に考え、信じ合う姿を通して、真の友情について考えを深めたい。

4.指導について

(1)児童が教材と向き合う
 時間や場面が変わる時、登場人物の気持ちを考えさせたい時に間をあけ、児童が教材と向き合い、じっくり考えられるように教材を提示する。登場人物の心情に合わせたBGMを活用し、気持ちの変化を捉えやすくする。

(2)発問の精選と場の工夫
 ピシアスとデモンの真の友情に触れた時、心の底から「友達って素晴らしいな。」と感じる王様の気持ちに共感できるように、疑い深い王様の心情を考える発問とした。
 みんなで話し合う中で、王様の気持ちに共感したり、王様になりきってそれぞれが自分の考えを伝えたりするために、発問に合わせて、机の位置を変える。

(3)児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握するための評価
 本時で目指す児童を具体的にイメージするために、評価の指針を作成した。児童の発言は表に記録し、児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を把握する時の評価に生かす。また記録を生かした板書をすることで、児童が考えを整理できるようにする。

5.教材分析

場面

王様の内面

発問

①1行目~8行目
正直者のピシアスは、王に憎まれて、首を切られることになった。

②9行目~15行目
ピシアスの仲良しのデモンは、自分が身代わりになる決意をする。

③16行目~30行目
ピシアスをうちに帰してほしいとデモンは王様にお願いをする。

・なんとずうずうしいやつだ。・うそをついたことがないなんて、ありえない。・牢屋から出してしまったら、絶対に逃げるに決まっている。

・デモンの願いを聞いたとき、王様はどのようなことを考えたのでしょう。

④31行目~40行目
デモンは自分が身代わりになると提案をする。

・面白いやつだ。友達のために命をかけるのか。・大王と賭けをするなんて、度胸がある。・この賭けは私が勝つに決まっている。

・デモンの提案を聞いて、王様はどのようなことを考えたのだろう。

⑤41行目~50行目
デモンはピシアスの代わりに牢屋へ入り、ピシアスは故郷へ向かう。

・デモンはなんて愚かなのだ。後悔をしても、もう遅い。友達を信じなければ良かったと思うだろう。デモンは命を落とすことになるから可哀そうだ。・ピシアスはラッキーだ。友達を裏切り、帰ってくることはないだろう。・友達なんて意味がないものだ。デモンは騙されている。

<発問1>
・王様はどのような気持ちで「おまえは、大王ディオニュシオスと、かけをする気だな。」と言ったのでしょう。

⑥51行目~54行目
首を切られる日にピシアスは帰ってこない。役人たちは笑っている。

⑦55行目~70行目
ピシアスが帰ってこないため、王様はデモンのことを笑う。

・ピシアスに騙されて、なんというばか者だ。・それでもまだ、ピシアスのことを信じているなんてありえない。・友達のために命をかけるなんて信じられない。・やっぱり人は信じられない。信じても良いことはない。裏切られるだけだ。

<発問2>
・「デモン、お前の負けだぞ。」と言う王様はどのような気持ちだろう。

⑧71行目~87行目
ピシアスが走ってやってくる。王様は二人の友情を見て、すっかり感心してしまう。

・相手のことを一番に考え続ける姿がすごい。・命が関わっているのに、二人で交わした約束を守ったことが信じられない。・お互いを信じる気持ちがあって感動した。・友達のために命をかけるなんて、自分にはできない。・もう人を疑うことは、やめよう。・こういう友達がいたらいいな。・友達がほしい。

◎発問3
・「なんというりっぱな友達どうしだ。」という言葉には、王様のどのような気持ちが込められているのだろう。

6.本時の指導

(1)ねらい
 ピシアスとデモンの互いを信じ合う姿から、真の友情に気付く王様の気持ちを話し合う中で、互いに理解したり、支え合ったりして深まる、友情の素晴らしさを感じる心情を養う。

(2)本時の展開

学習活動(主な発問と予想される児童の反応)

○指導上の留意点
☆…評価


1 自分と友達の関わりについて考える。
どのような時に「友達っていいな。」と感じますか。
・分からない勉強を教えてくれた時。
・悩みを相談したら聞いてくれた。

○コの字型の座席で、互いの意見を聞き合うようにする。
○友達との関わりを振り返り、本時の学習内容と繋げる。


2 「友の命」を読んで話し合う。
○教材材提示
①王様はどのような気持ちで「おまえは、大王ディオニュシオスと、かけをする気だな。」と言ったのでしょう。
・デモンは、なんて愚かなのだ。後悔をしても、もう遅い。
・ピシアスはラッキーだ。友達を裏切り、戻ることはないだろう。
・友達なんて意味がないものだ。デモンは騙されている。

○BGMを活用した教材提示を行い、児童が教材とじっくり向き合えるようにする。
○友達を信じるか、信じないかという心が、かけになっていることに気付けるようにする。

②デモンに「お前の負けだぞ。」と言う王様はどのような気持ちだったのでしょう。
・ピシアスに騙されて、気の毒だ。
・まだ、ピシアスのことを信じているなんてありえない。
・やっぱり人は信じられない。信じても良いことはない。

○人や友達に対する疑いを更に深めていく王様の気持ちを捉えられるようにする。

③「なんというりっぱな友達どうしだ。」と声を掛ける王様は、どのようなことを考えていたのだろう。

・二人で交わした約束を守ったことが信じられない。
・相手のことを一番に考え続ける姿がすごい。
・お互いを信じる気持ちがあって感動した。
・友達のために命をかけるなんて、ぼくにはできない。
・もう人を疑うことは、やめよう。
・このような互いを信じられる友達がほしい。

○ピシアスの「早くおりて」、デモンの「君にかわりたかった」という、お互いのことを第一に考えていることが分かるセリフを提示してから、発問をする。
○3人一組の話合い隊形にして、王様が信じ合う友情に気付いた時の心情を考えさせる。
☆評価①

3 友達がいて良かったと感じた経験を振り返る。
どのような場面で「友達がいて、本当に、よかった。」と感じましたか。その時、どのような気持ちになりましたか。
・クラス替えで不安だったけれど、声を掛けてくれた。すごくうれしくて、次は自分が誘おうと思った。
・自分がきつく言ってしまってけんかになった。後で謝ったら、許してくれて、いつも通りに戻れて良かった。

○普段の授業の座席に戻し、自分と向き合う時間を確保する。
○悩んでいる児童は導入で出ていた考えを振り返って考えるように声掛けをする。
☆評価②


4 「信頼・友情」に関する詩を紹介する。

○「信頼・友情」に関する本の中から詩を紹介する。

(3)評価 ※指導と評価の指針も活用する。
①ピシアスとデモンの互いを信じ合う姿を見て、友達の良さを感じる王様の気持ちについて考えている学習状況を把握する。(発言、観察)【発言記録表】
②友達がいて、本当に良かったと感じた経験を振り返り、友達の良さについて改めて考える学習状況を把握する。(観察、ワークシート)【発言記録】

(4)板書計画

7.指導と評価の指針

項目

期待する「児童の学び」の例

(1)道徳的諸価値について理解する

価値理解

信じ合うピシアスとデモンの姿を見て「なんというりっぱな友達どうしだ。」と感心する王様の気持ちを問うことで、友達と互いに信頼し合う関係の素晴らしさに気付く。さらに友達の良さを認め、よりよい人間関係を築こうとする気持ちを理解する。

人間理解

友達のことを理解したり、支え合ったりすることは良いことだと分かっていても、上手くいかないことがあることを理解する。そのような状況を乗り越えようという思いの大切さや、乗り越えることで、友情が深まる良さがあることに気付く。

他者理解

時には人を疑いたくなる気持ちは誰にでもあることに気付く。真の友情とは「お互いのことを理解している。」「相手のことを考えて行動する。」「友達を信じる気持ちがある。」「お互いを磨き合う。」等、人それぞれであることを理解する。

(2)自己を見つめる

これまでの友達との関わりを振り返り、友達がいて良かったことを思い起こさせ、みんなで共有する。より友情を深めるために、「あの時、こうすれば良かった。」と課題に気付いたり、今までの自分はどのようなことを大切にしてきたのかを考えたりする。

(3)物事を多面的・多角的に考える

ピシアスとデモンの姿から、お互いにうそをつかない誠実さや、相手のことを第一に考える思いやりを持つことが、信頼関係の土台となっていることを理解する。信じ合う友達はA「正直、誠実」、B「親切、思いやり」や「相互理解、寛容」等の内容項目と関連していることに気付き、考えをより深めることができる。

(4)自己の生き方についての考えを深める

相手のことを考えて行動できたり、互いに支え合ったりした具体的な経験や体験を想起し、その時に感じた気持ちを思い出すことで、友達の良さを改めて理解する。また今後も学び合う中で協力したり、互いに高め合ったりする中で、より良い人間関係を築きたいという心情をもつ。

※参考
日文教授用資料
「特別の教科 道徳」の評価 ~「指導と評価の指針」の活用を含めて~
2019.9 明星大学・青山学院大学 大原龍一

クリック or タップでPDFが開きます。

クリック or タップでPDFが開きます。

クリック or タップでPDFが開きます。