「画人像」 小倉遊亀作

紙本着色/91.4× 69.2cm/1962

紙本着色/91.4× 69.2cm/1962

 鏡を見ながら描いた画家の自画像です。画家はこの作品について、「私は何度となく人物を描いてきたが、どうも顔が拙い。一番大事な顔が描けていないのだ。自分の顔をモデルに一つ苦心しようと決心した」と制作の動機を語っています。
 画面一杯に上半身をとり、太い墨の線で体の輪郭や着物がかたどられます。無駄のない厳しい線描によって、作者の内面までもが描きだされるかのようです。バックは、左から射し込んだ光線が、画家の着衣や部屋の片隅を照らし出しているところが、プラチナ箔の下地の上の、微妙な着彩の変化で表現されます。
 「鏡を見ながらスケッチを何枚もする。見れば見るほど変な顔である。間のぬけた、好人物的で、怒ったように表情を作っても笑った顔になってしまう。似なければ自画像にならない。削り削り、うんと省略してしまいたいのだが、『私』がぬけてゆく。とてもむつかしくていい勉強になった」と、画家は制作の感想を語っています。
 何気ない、どこにでもあるようなものを作品のテーマに選び、一見無造作な、奇をてらわない画面構成をしていますが、実は周到に計算し尽くされて描かれている、というのがこの画家の特徴です。この作品についても、これと同じ大きさの下絵が残っており、綿密に練られた絵づくりの足跡を知ることができます。

(滋賀県立近代美術館 主任学芸員 國賀由美子)


滋賀県立近代美術館ico_link

  • 所在地 滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1
  • TEL 077‐543‐2111
  • 休館日 月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、
    冬季休館日(2010年12月20日~2011年2月4日)

<展覧会情報>

  • 襖と屏風-暮らしを彩る大画面の美- 
  • 2011年2月19日(土)~4月10日(日) 

展覧会概要

  • 日本の絵画は、欧米の絵画以上に建築と密接な関係をもち、発展を遂げてきました。本展覧会では当館の館蔵品から、江戸時代から近代に及び、座敷の美から展覧会芸術の華へと転じた、襖や屏風の様相を概観します。 

<次回展覧会予定>

  • 珠玉のヨーロッパ絵画展~バロックから近代へ~
  • 2011年4月16日(土)~6月12日(日)

その他、詳細は滋賀県立近代美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


「寝椅子(シェーズロング)」 ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン作

金属パイプ、金属板、キャンヴァス布地/塗装/<br />42.7×162×53.7cm/1928年ころ
金属パイプ、金属板、キャンヴァス布地/塗装/42.7×162×53.7cm/1928年ころ

 金属パイプにより人間の身体に合わせて曲げられたカーブと、それを支える優雅な曲線のコントラスト。《寝椅子》はル・コルビュジエ(本名:シャルル・エドゥアール・ジャンヌレ、1887-1965)と従弟のピエール・ジャンヌレ(1896-1967)、そしてインテリア・デザイナーのシャルロット・ペリアン(1903-1999)によって共同制作されました。
 「住宅は住むための機械である」と語った近代建築の巨匠ル・コルビュジエは、今世紀初頭に新しい造形システムと機能主義を掲げ、厳密な建築理論に基づく数々の名作を残しています。本作は家具における機能性の追求から生まれた作品で、4本脚の土台のクロスバーに乗せる金属パイプの角度をかえることにより、椅子の傾きを自由に設定できます。またこの椅子は土台を取り除くことでロッキング・チェアにもなるのです。身体を横たえる椅子の上面は、人間工学に基づく有機的なカーブに曲げられており、直接土台に触れないように、曲線の部分がそれを支える構造となっているのです。上面に張られた弾力性のあるキャンヴァス地は、それのみで身体を快適に支えるために両側の金属パイプに直接巻きつけられています。この時代の合理的思想に基づいてル・コルビュジエは、人間工学や機能主義の徹底というコンセプトを厳密なまでに追求しました。彼が具体化した新しい家具のあり方は、私たちに「座るための機械」のような印象すら与えるのです。

(豊田市美術館学芸員 北川智昭)

豊田市美術館ico_link

  • 所在地 愛知県豊田市小坂本町8-5-1
  • TEL  0565-34-6610(代表)
  • 休館日  月曜日(祝日は除く。振替休館はなし)

<展覧会情報>

  • 石上純也 - 建築の新しい大きさ
  • 開催期間 2010年9月18日(土)-12月26日(日)

展覧会概要

  • 建築家、石上純也の極大と極小の両極に向かう無限の空間の広がりを、5種類の模型を通じて紹介。
    谷口吉生による豊田市美術館の展示空間と石上の構造建築との共鳴、新たな建築の可能性を体感下さい。

<次回展覧会予定>

  • Art in an Office - 印象派・近代日本画から現代絵画まで
  • 2011年1月8日(土)-3月27日(日)

その他、詳細は豊田市美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


「赤い皿」 浜口陽三作

カラーメゾチント/24.5×51.5cm/1968年

カラーメゾチント/24.5×51.5cm/1968年

 赤い器に葡萄の房が横たわっています。葡萄の粒が一粒だけ、ぽつねんと宙に浮かんでいます。どこかで見たような光景なのに、卓上の静物がこんなに瞑想的に見えるのは何故なのでしょう。その秘密のひとつはカラーメゾチントのもたらす質感と色彩にあります。
 浜口陽三の用いた銅版画の技法をメゾチントといいます。鏡のように平らな銅の板を、縦横斜めに傷つけて、布目のような地を作ってゆく方法です。木版画とは正反対に、プレス機で刷った時には、傷つけたところに色が入ります。ビロードのような黒を表現するためには、表面が一面に滑らかな凹凸をもつまで、気の遠くなるほどの時間をかけて、銅板を細かく刻んでいかなければなりません。
 メゾチントは、もともと西洋で油彩画の複製等に用いられた印刷技術でした。19世紀に写真技術が発明されると、ほとんどすたれてしまいましたが、20世紀に入ると、今度はこの黒に魅かれて、版画家たちが芸術表現として復活させます。その一人が浜口陽三です。彼は、モノクロの世界に飽き足らず、赤、青、黄、黒の4色の版を作って刷り重ねるカラーメゾチント技法を開発しました。
 「赤い皿」では、背景と手前のテーブルが、濃淡の異なる黒で表現されています。銅板を彫る最初の作業を目立てといい、この作業の密度によって色の濃淡を調整します。濃い黒も淡い黒も、どちらかというと柔らかい質感を帯びています。メゾチントでは、他の技法では出せないほど濃厚な黒を表現することが可能ですが、浜口はあえて目立ての回数を減らし、「光を宿す闇」を表現しました。
 もうひとつの特徴として、この黒は一色ではなく、黄、赤、青が微量に混じり、ニュアンスに富むことが挙げられます。黒だけではありません。彼の色彩は透明で鮮やかですが、必ず陰影や翳(かげ)りが混じっています。「赤い皿」では、葡萄は一粒ずつの存在の重みを表すかのように翳(かげ)をもち、皿に透けて赤に染まり、闇に置かれてそれ自体が微光を放って見えます。
 寡黙な作品なのに、静かに見入るといつの間にか時間が経ってしまう、そんな銅版画です。

 (ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション 神林菜穂子)

 

ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション ico_link

  • 所在地 東京都中央区日本橋蛎殻町1-35-7
  • TEL 03-3665-0251
  • 休館日 月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、展示替期間、夏期冬期休館

<展覧会情報>

  • 浜口陽三展「カラーメゾチントの魅力」(メゾチントの冒険Ⅱ)
  • 2010年10月5日(火)~12月12日(日)

展覧会概要

  • 浜口陽三の開拓したカラーメゾチント技法の不思議を紹介する展覧会の第二回目。基本的なしくみの解説をまじえ、所蔵品から浜口陽三のカラーメゾチント作品を中心に約60点を展示します。カラーメゾチントの体験教室や実演会もあります。
    ※浜口陽三の「赤い皿」も出展されます。

<次回展覧会予定>

  • 南桂子生誕100年展 きのう小鳥にきいたこと
  • 2011年1月9日(日)~3月21日(月)

その他、詳細はミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションWebサイトico_linkでご覧ください。


「唐松造砂磨棚」 氷見晃堂作

唐松/指物(技法?)棚(形状?)/59.3×33.9×69.8cm/1968 撮影=

カラマツ/高さ69.8㎝/1968

 唐松は古くから日本にあった木で、落葉松とも書き、秋に紅葉して葉が落ちる松です。木材としては他の木に比べて重くて堅く、木目が粗いため、美しさと正確さが大切な木工芸の作品に用いるのは難しいといわれています。しかし、作られたものは長い年月が経つと、木に含まれていた樹脂がしみ出て、木の肌は赤みがかった味わい深い美しい色になります。
 「唐松造砂磨棚(からまつづくりすなみがきだな)」は、江戸時代まで盛んに行われていた「砂磨き」という技法を用いた作品です。砂で木肌を磨くことで、柔らかい部分は削り取られてへこみ、硬い部分が浮き上がります。さらに、表面に半透明の漆を薄く塗っては拭き取る、という工程を何度も繰り返す「拭漆(ふきうるし)」によって仕上げています。
 これらの工程は時間と手間をかけて丁寧に行うことで、唐松が持つ粗い木目と色の美しさを引き出すことができます。また、生命力を感じさせる木目の曲線に合わせるように、棚の角をすべて丸く面取りしています。金具を黒色とし、引き出しなどのない観音開きのシンプルな形にしたことも、木目をよりよく見せるためでしょう。素材の持つ美しさを可能な限り引き出したいという、作者の思いが伝わってくるようです。
 この棚を作った氷見晃堂(ひみ・こうどう)は、昭和の時代に木工芸で人間国宝に認定された作家です。さまざまな木材に、その特性に合った技法を使い分け、たくさんのすばらしい作品を作りました。とりわけ、釘を使わずに木材を組み合わせて箱や棚などを作る「指物(さしもの)」を得意としていました。また晃堂は大変勉強熱心な作家であり、過去の優れた作品を研究し、生涯を通して技術を磨き続けました。この棚に用いられた「砂磨き」は、江戸時代が終わるころには行われなくなり、できる人もいなくなってしまった技法でした。しかし、これを惜しんだ晃堂は昔の作品を研究して何度も失敗を重ねた末、見事現代によみがえらせたのです。

(石川県立美術館 学芸員 寺川和子)

石川県立美術館ico_link

  • 所在地 石川県金沢市出羽町2-1
  • TEL 076-231-7580
  • 休館日展示替え期間中、年末年始

<展覧会情報>

  • 「加越能の美術 -縄文から江戸時代までの名宝-」
  • 2010年9月11日(土)~10月24日(日)

展覧会概要

  • 古来「加越能」と呼ばれた石川、富山ゆかりの、縄文時代から江戸時代までの、考古出土品や美術工芸品指定文化財約70点を含む150点を紹介し、その文化的な独自性を探ります。
    ※会期中、常設展(別途会場)で氷見晃堂の作品(桐造寄木象嵌之筥)が展示されます。

<次回展覧会予定>

  • 「加越能の美術 -明治から現代までの絵画・彫刻・工芸-」
    ※会期中、氷見晃堂の作品(大般若理趣分経之箱)が展示されます。
  • 2011年1月4日(火)~2月6日(日)

その他、詳細は石川県立美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


「聖なる手1」 池田満寿夫作

ドライポイントなど/36.5×34.5cm/1965

ドライポイントなど/36.5×34.5cm/1965

 この作品は池田満寿夫が1965年に制作した銅版画です。
 赤と黒に二分された画面にふたつの組みあわされた女性の手、太いベルトと留め具が描かれたシンプルな構図です。しかし、よくみると文字が判読不可能だったり、ベルトの模様が反転した数字だったり、下段のベルトだけが彩色されていたり、袖が背景と同化していたりと、興味深い表現がいくつもあらわれます。まったく同一に思えた手の輪郭線にも、恣意的に強弱がつけられていることがわかります。これらは池田満寿夫の卓越したデザイン感覚を示すものですが、ほかに何かを示唆しているのでしょうか。そして、なぜ“聖なる”手なのでしょう。
 実は、この作品にはモデルとなる名画があります。フランドルの画家ロヒール・ヴァン・デル・ウェイデンの「婦人の肖像」(1455年、ナショナル・ギャラリー<ワシントン>蔵)。池田満寿夫は婦人の手の部分を借用し、滑らかで精緻な絵肌を単色の線に置き換えました。ドライポイント技法特有の引っ掻いたような、また落書き風の線刻によって、“聖なる”はずの手が原画の高貴で優美な印象を連想しがたいものに変わっています。並んだ手のある空間から神秘的な広がりが感じられるかもしれませんが、崇高さよりも、どこか洒落た印刷物のイラストを思わせます。
 新聞や雑誌の広告、包装紙、看板など商業アートの通俗性を積極的に取り入れたのは、1960年代前半に美術界を席巻したポップ・アートです。池田満寿夫もポップ・アートの手法を「聖なる手1」に応用しました。この題名には、むしろ“通俗的”でもあるという皮肉が込められているのかもしれません。
 みればみるほど不可解ながら、すべてが絶妙なバランスで配置される作品世界の創り手、それが池田満寿夫という作家の尽きない魅力です。

(池田満寿夫美術館 学芸員 中尾美穂)

池田満寿夫美術館ico_link

  • 所在地 長野県長野市松代町殿町城跡10
  • TEL 026-278-1722
  • 休館日 木曜日(祝日開館、8月無休)、12/29~1/1、展示替期間 

<展覧会情報>

  • 特別企画展 組みあわせの達人 池田満寿夫
  • 6月26日(土)~11月24日(水)開催

展覧会概要

  • 池田満寿夫(1934-1997)は、生涯、コラージュ(寄せあつめ・貼りつけ)の手法に強い関心を抱き続けました。画家、小説家、映画監督など分野を越境した自身の幅広い創作活動にもなぞらえています。同展では版画やコラージュを中心に所蔵品約100点を展覧し、ユーモアに富む作品の数々を紹介しています。

<次回展覧会予定>

  • 池田満寿夫 平面を極める -80年代・90年代の新たな挑戦-(仮)
  • 11月末~2011年6月末開催予定

 その他、詳細は池田満寿夫美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


「優しい女」 ジョルジュ・ルオー作

油彩/紙(キャンヴァス地で裏打ち)/57×49㎝/1939/(C)CADGP,Paris&SPADA,Tokyo,2010
油彩/紙(キャンヴァス地で裏打ち)/57×49㎝/1939/(C)ADGP,Paris&SPADA,Tokyo,2010

 頭には愛らしい髪飾り、首には豪華なネックレスをつけて着飾っているこの女性(あるいは少女)は、ルオーが得意としたサーカス、または、旅芸人一座のスターを描いたものだと思われます。こちらに顔を向けた女性の姿は、両目をしっかりと閉じ、静かで穏やかな表情をしています。清楚で気品をたたえた本作は、ルオーが描いた数ある女性像の中でも、最も魅力的な作品のひとつといえるでしょう。
 ルオーの作品に共通する特徴として、なんといっても鮮やかな色彩表現と、黒くて太い輪郭線の多用があげられます。これは、ルオーが画家として自立する前に修行した、教会の窓ガラス装飾などに用いられるステンドグラスを制作する工房での研鑽の影響と考えられています。ステンドグラスに見られる特殊な制作技法、つまり、さまざまな色ガラスを黒く太い鉛の枠でつないで図柄を表すという技法が、ルオー作品の表現上の特徴として残ったものと思われます。
 さて、ルオーが生きていた頃のヨーロッパは、今と変わらぬ豊かな都市での生活というものが登場した時代でもあるとともに、2度の世界大戦を経験するなど絶望的な現実ももたらされました。このような中で、敬虔なカトリックの信者であったルオーは、その信仰に基づき、この世の救いというものがキリストの無償の愛によってもたらされるのだというメッセージを、作品を通して発信し続けたのでした。ルオーの描くこの女性の姿にも、神への切なる祈りの気持ちと、それによってもたらされた充足感が感じられます。

(出光美術館 学芸課長代理 八波浩一)

出光美術館 ico_link

  • 所在地 東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 月曜(ただし月曜日が祝日・振替休日の場合は開館し、連休の翌日に休館)

<展覧会情報>

  • 日本のヴィーナス -浮世絵と近代美人画-
  • 2010年7月31日(土)~9月12日(日)

展覧会概要

  • 江戸時代の浮世絵と近代の美人画を中心に、古くからかたどられてきた美しい女性の姿をご堪能いただけます。なお、会期中8月22日までルオーの「優しい女」を特別に展示いたします。

<次回展覧会予定>

  • 「生誕260年 仙厓 -禅とユーモア- 」展
  • 2010年9月18日(土)~11月3日(水・祝日)

その他、詳細は出光美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


「相馬の古内裏」 歌川国芳作

高校教科書美術館vol13

錦絵(大判三枚続き)/36.7×76㎝/1844‐48ころ

 相馬の古内裏は、相馬小次郎こと平将門が下総国猿島郡に内裏を模して建てた屋敷が、将門の乱の兵火で廃屋となったもの。将門の娘、滝夜叉姫(たきやしゃひめ)が父の遺志をつごうと、この廃屋で妖術を使って味方を募り、やがて妖怪が出没するようになりました。噂を聞いた大宅太郎光国(おおやのたろうみつくに)が妖怪退治に向かい、滝夜叉姫と対決する場面がこの絵には描かれています。
 これは文化3年(1806)に出版された山東京伝(さんとうきょうでん)の読本『善知安方忠義伝』(うとうやすかたちゅうぎでん)に載る話を題材にしていますが、原作では複数の骸骨が現れて合戦を始めるところを、国芳は1体の巨大な骸骨に置き換えています。しかも横に3枚の紙を並べたワイド画面を大胆に横切って描く、その奇抜な構図には驚かされます。破れた御簾越しに腰をかがめて登場する骸骨は、自分でもその大きさを持て余しているようで、不気味さの中にもとぼけた愛嬌があります。骸骨は解剖学的に正確な描写であることから、西洋の医学書の挿絵を参照したのではないかと言われています。
 作者の歌川国芳(1797~1861)は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師。出世作は水滸伝に取材した武者絵だったので、「武者絵の国芳」とよばれて人気を集め、物語や歴史上の人物、西洋風な表現を駆使した風景画、美人画などにも筆をふるいました。 
 天保の改革で、浮世絵にもさまざまな規制がされると、国芳はユーモアに富んだ風刺画や明るい笑いを誘う戯画といった、規制にふれない新機軸を打ち出して話題をさらいます。つねに新奇な趣向を取り入れ魅力的な世界を作り出した国芳のバイタリティーは、権力におもねることのない反骨の精神と人を喜ばせたいという情熱に支えられていたのです。

(山口県立萩美術館・浦上記念館学芸課主任 吉田洋子)

山口県立萩美術館ico_link

  • 所在地 〒758-0074 山口県萩市平安古586-1
  • TEL 0838-24-2400
  • 休館日 月曜日 ただし7月19日(祝・月)は開館

<展覧会情報>

  • 棟方志功 祈りと旅 
  • 2010年6月12日(土)~8月15日(日)

展覧会概要

  • 民芸運動の思想に影響を受け、神話的あるいは仏教的な主題をダイナミックに表現して、国際的な評価が高い版画家、棟方志功(1903~1975)の板画・肉筆画・挿絵・書・陶芸など多彩な作品を紹介します。

<次回展覧会予定>

  • 陶芸館開館記念Ⅰ 龍人伝説への道 三輪休雪展
  • 9月11日(土)~10月24日(日)

その他、詳細は山口県立萩美術館・浦上記念館Webサイトico_linkでご覧ください。


「裸形の少年像」 橋本平八作

木、彩色/高さ154.2cm/1927

木、彩色/高さ154.2cm/1927

 橋本平八は、明治30年(1897)、三重県の朝熊村(現在の伊勢市)に生まれました。18歳のときに三宅正直から彫刻の技法を学び、その後上京して、彫刻家の佐藤朝山(ちょうざん)に弟子入りしました。そして29歳のときに故郷の朝熊村に戻り、わずか38歳で亡くなるまで、動物や人物、仏像などのさまざまな木彫作品を残しました。
 ≪裸形の少年像≫は、平八が朝熊村に戻った翌年に制作されました。同年の再興第14回院展に出品されており、平八の代表作のひとつに挙げられます。背筋を伸ばして直立し、右足をわずか前に出している姿勢は、古代エジプトの彫刻によくみられます。さらに、わずかに微笑むような独特の表情は、古代ギリシャ彫刻のアルカイック・スマイルの影響をうかがうことができます。平八は、古代の彫刻への憧れの念をもって新しい彫刻をつくり出そうとしていました。動きの少ない像でありながら、迫りくるかのような力強さを持ち合わせています。
 像の背面には、首から尻にいたるまでの大きな亀裂があります。これは、この像が木心(木材の中心部)を使ってつくられているためです。木心を彫刻に使うと、乾燥による木の収縮が大きくなりひび割れが起きてしまうため、通常、彫刻家は木心を避けた部分を使います。しかし、平八はあえて木心を使いました。それは、平八が木には心が宿っていると信じていたためで、木の魂が宿る中心部分を、像の中心と合わせたかったのではないかと考えられています。

(東京藝術大学大学美術館 学芸研究員 寺地亜衣)

東京藝術大学大学美術館 ico_link

  • 所在地 東京都台東区上野公園12-8
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 月曜日(ただし月曜日が祝・休日の場合は開館し、翌日休館)、8月21日

<展覧会情報>

  • ポンピドー・センター所蔵作品展 シャガール–ロシア・アヴァンギャルドとの出会い~交錯する夢と前衛~
  • 2010年7月3日(土)~10月11日(月・祝)

展覧会概要

  • ポンピドー・センターから選りすぐったシャガール作品約70点によってシャガールの人生を追うとともに、シャガール作品を同時代に活躍したロシア前衛芸術の巨匠たちの作品約40点と対比して紹介します。

<次回展覧会予定>

  • 「明治の彫塑 ラグーザと荻原碌山」展
  • 「黙示録:デューラー/ルドン」展(仮)
  • 2010年10月23日(土)~12月5日(日)二展同時開催

その他、詳細は東京藝術大学大学美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


「シップヤード・ワークス」 大竹伸朗作

繊維強化樹脂、発泡スチロール/塗装/289×304×132㎝/1990 撮影=村上宏治
繊維強化樹脂、発泡スチロール/塗装/289×304×132㎝/1990 撮影=村上宏治

 大竹伸朗が暮らすのは、目の前に海が広がる宇和島です。
 そこで大竹が偶然出会ったのは、造船所に置かれていた漁船の木型でした。船が造られた後は巨大なゴミとしか扱われない船型の、「かたち」そのものに大竹は関心を持ちます。そして、実際の船と同じ材料を用い、船を造るのと同じ工程をたどって、アート作品「シップヤード・ワークス(造船所の作品)」を制作しました。
 人間の意識の中では、船は海を移動するモノとしてインプットされていると思います。その「かたち」をよく見ると、一つとして直線がなく、曲線からなりたっていることや、コストを抑えつつも速度を落とさないような材料が選ばれていることに気付きます。
 決められた役割だけのモノとして見ていると、気が付かないことがあります。しかし、「かたち」そのものに興味を抱くことで、今まで気付きもしなかった部分に関心が向き、新たな発見に喜びを見出すことはしばしばあります。モノだけではなく、人生の中で出会う友人や自分自身に対しても,同様な出来事があるでしょう。
「シップヤード・ワークス」と名付けられたこの作品は、今も直島の浜辺に設置され、まるで大竹本人が瀬戸内海に佇んでいるかのように日々行きかう船を見つめます。その姿はやがて訪れるであろう新たな発見に心ときめいているように悠々として見えるのです。

(ベネッセアートサイト直島 キュレイター 徳田佳世)

ベネッセアートサイト直島 ico_link

  • 所在地 香川県香川郡直島町琴弾地
  • T E L 087-892-3223
  • 休館日 年中無休

<展覧会情報>

  • 現在行われている企画展はありません。掲載作品「シップヤード・ワークス」は、ベネッセハウス屋外に常設展示されています。

<次回展覧会予定>

  • 瀬戸内国際芸術祭2010
  • 2010年7月19日(祝)~10月31日(日)
  • 会場:瀬戸内海の7つの島(直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島)+高松
  • 参加予定アーティスト:オラファー・エリアソン、ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー、木下晋、千住博、レアンドロ・エルリッヒなど
  • 作品鑑賞パスポートは主要なプレイガイド、コンビニエンスストア、旅行代理店他で発売中

その他、詳細は瀬戸内国際芸術祭2010 Webサイトico_linkでご覧ください。


「大和路」 奥村土牛作

紙本着色/91×119.5㎝/1970
紙本着色/91×119.5㎝/1970

 「白毫寺(びゃくごうじ)のある、奈良の白毫寺村の一隅を描いた。今は町になっているが、当時村であった。」(『奥村土牛』文藝春秋 1979年)と語っているように、作者は奈良に取材しています。この斜めにのびてゆく古びた家並みと土塀は、西洋絵画の遠近法を用いて奥行きと空間の広がりを表しています。
 歴史画や挿絵で名を馳せた梶田半古に師事した土牛でしたが、その指導のほとんどは兄弟子の小林古径から受けました。古径の教えは大局的で細かいことは言わずに、日本の古典のみならず、中国・宋代の名画、ヨーロッパ絵画の複製をだまって見せてくれるというものでした。また『白樺』で紹介されていた西洋絵画にも触れ、中でもセザンヌに惹かれていたといいます。そして、セザンヌの画集から素描などを模写した土牛は、長い年月をかけて西洋絵画、日本の古典などを咀嚼した後、独自の描き方を生んだといわれます。西洋絵画から学んだ構図ばかりでなく、何度も薄塗りを繰り返した絵の具の質感と風合いに、土牛作品の特徴があります。本作で試された存在感のある土塀が、後に描いた《醍醐》(1972年)の背景の土塀に生かされています。《醍醐》では、土塀に何度も胡粉を塗り、「こく」を出すのに苦心したと作者は語っています。
 土牛が本作品を描いたのは81歳。自著『牛の歩み』(日本経済新聞 1973年)で「私はこれから死ぬまで、初心を忘れず、拙くとも生きた絵が描きたい。むずかしいことではあるが、それが念願であり、生きがいだと思っている。」と述べているように、84歳になってもなお、若々しい感性で前向きに画業を追究しようとしています。そして101歳で天寿をまっとうするまで、ひたむきに絵筆をとりつづけました。

(山種美術館学芸員 櫛淵豊子)

山種美術館 ico_link

  • 所在地 東京都渋谷区広尾3-12-36
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル) 03-5467-1101(直)
  • 休館日 毎週月曜日(祝日は開館、翌日火曜日は休館)、展示替え期間、年末年始

<展覧会情報>

  • 開館記念特別展Ⅳ 生誕120年 奥村土牛
  • 2010年4月3日(土)~5月23日(日)

展覧会概要

  • 2009年に迎えた奥村土牛(1889-1990)の生誕120年を記念し、その人と芸術をたどる展覧会を開催します。国内外屈指の「土牛コレクション」といわれる山種美術館所蔵品から、院展出品作を中心として、季節の草花や十二支をテーマに描かれた作品なども加えた約70点を選び、土牛の画業と芸術の粋を紹介します。

<次回展覧会予定>

  • 開館記念特別展Ⅴ 浮世絵入門 -広重《東海道五拾三次》一挙公開-
  • 5月29日(土)~7月11日(日)

その他、詳細は山種美術館Webサイトico_linkでご覧ください。