学習の活用を意識して最初から指導しよう

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1.活用について

 見方・考え方や能力、態度に対しては「活用」、学習内容に対しては「利用」と区別して使われることもありますが、むしろ、活用は、利用や応用を含んだより広い概念と考えてみたいと思います。知識基盤社会を考えるのも、知識を基盤にして、新しい問題に既習の知識を活用できる状況を強く意図したものといえます。さらに、活用しようとするからこそ、学習内容も考え方も豊かに学ぶ必要を、児童・生徒に感じさせることができるものと考えられます。
 ところが、全国学力・学習状況調査やPISAなどの結果を見ると、活用に関する解答状況が良くないことはいろいろなところで指摘されています。
 例えば、平成24年度全国学力・学習状況調査の算数のB⑤(3)(一輪車に乗れる学級の男女の割合)の結果は、正答率が23.8%であり、「日常生活で二つ以上の事象の大きさを比べるときには、量で比べる場合と割合で比べる場合があることを理解し、目的に応じて適切に使い分けられるようにすることが大切である。」と解説資料で指摘されています。
 これは単に、学習した後の記憶力だけの問題としては片付けられそうにありません。学習後に、うまく既習の知識や考え方が活用できなかったのではなく、新たな課題を解決するとき、これまでの学習で自分が身に付けたさまざまな知識や技能、見方・考え方から課題解決に必要なものを選び出し、解決につながるようにくふうし、使っていく力としての活用力がうまく習得されていないことが、その要因と考えられます。

2.活用力を育成する

 このような活用力の習得がうまくいかないのは、基礎基本的な内容の習得学習と新たな問題への活用の学習が分離して学習指導されていることが問題であることは、すでにこのRooTでも指摘されています。
 活用する授業で改めて習得した内容の活用を意識させるのではなく、初期学習の際に、当該の学習内容が他の学習内容や考え方とどのように関連するのか、さらには、生活や社会の問題へどのような活用が考えられるのかといった話題をちりばめて意識させておきたいものです。
 その結果、児童・生徒は当該の学習内容を理解し、直後の問題さえ解ければよいといった学習意識に終わるだけでなく、その学習内容を活用しようと意識するようになります。さらに、その後の当該の内容をうまく活用できた経験を経て、活用を意識した学びのプロセスとしての活用力が児童・生徒に生まれてきます。そのためには、次のようなことを授業展開に配慮したいものです。

①活用するための数学の基礎学習をするときに、当該の内容や考え方が活用されることに触れておきたい。
②学習した学習内容や考え方を活用するには、数学化したり、情報を活用するためのくふうをしたり、表現するなどして、関連内容にどのように気付くかという活用のプロセスを経験させたい。
③「何かにうまく使えないか」、「あっ!ここに使えそう」といった活用するための意識を常に持たせたい。

 このような活用力の学びをできるだけ日々の学習指導の中に組み込んでおきたいものです。

3.活用力を生かした授業

 次の図は、中学校3年生の2乗に比例する関数の初期学習(右側)と、その活用として、テレビに出てくる『アルプスの少女ハイジ』のブランコの長さを求める探究活動を考えた授業を表した図です。直接的にブランコの長さを求めるときに、活用できる知識として2乗に比例する関数の内容や考え方が働く様子を示しています。 
root_no10_01 実際、ハイジのブランコの長さを求める授業では、日常生活や社会で数学を活用する活動としての数学的活動が重視され、京都府福知山市に高さ22.9メートルのブランコがあるといった興味・関心を引くことなどにも触れられていました。
 このような生活や社会との関係での興味・関心やよさを喚起するためにも、2乗に比例する関数の初期学習の折りにも、日常での振り子の運動の話題に触れ、関連を図ることが大切です。
 そのために、算数の教科書でも、主に作業的・体験的な活動や、算数で学習したことを実際の場面で活用するといった算数的活動を『いち・に・算活』として取り上げています。
root_no10_02 例えば、活用したものとして、算数新聞が取り上げられています。(『小学算数』5年下P.86)
 なお、習得や活用型の学力育成の基本となる「もう1人の自分」(メタ認知)を育てることを心掛けることも大切でしょう。
 活用についていえば、「習ったことを活用することが大切だ」というメタ認知的知識を育成することによって、「算数・数学の学習内容を使ったから、問題解決がうまくいった」、「次も算数・数学の学習内容を使うと、問題解決ができるかもしれないぞ」という考え方を育てることが可能になってきます。


〔論考〕子どもの興味を高める算数・数学的活動を喚起する単元導入

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1.十八番(おはこ)

 算数・数学を教える教師の多くは、新しい単元の学習の最初には、子どもの興味を引く導入をしようとするでしょう。そして、この成否はその後の単元展開に大きな影響を及ぼします。
 このような単元導入をくふうして、「この単元なら、この導入」という、いわば十八番を持っている方も多いはずです。筆者自身、小学校で算数を教えていたとき、例えば6年生の比例・反比例の導入では、「変われば変わるものなあに?」というなぞなぞを必ず使っていました。

2.子どもの興味を高める

 このような導入をしていたのは、なぞなぞを使うことによって子どもの興味を高めようという意図があったからです。
 松尾(2001)は、導入について児童の意識から考察し、導入問題が持つべき10の要件を次のようにまとめています。

①児童が「おかしいぞ」と思うもの
②児童が「これはむずかしそうだ」とはじめは困った顔をするもの
③児童が「いろいろに考えられるな」と思えるようなもの
④児童が「おもしろそうだ、自分なりの方法でやってみよう」という気持になるもの
⑤児童が「こうすればできそうだ」という気になるようなもの
⑥児童が「ちょっとむずかしそうだ、できそうかな, あれとにているな」と思うようなもの
⑦児童が「あ!このあいだのだ、なあんだ」と親近感のもてるもの
⑧児童が操作をしているうちに「あれ,こうすればいいのか」など解決の糸口のえられるもの
⑨児童が「あれとにているな、~のようだ、続きをやってみたいな」と思うようなもの
⑩児童が「できたぞ、わかったぞ、やっとできた」などよろこびの声をあげられるようなもの

 筆者の十八番であったなぞなぞは、これらのうち、③④⑤の要件を備えていたと考えられます。

3.算数・数学的活動を喚起・促進する

 筆者が比例・反比例の導入になぞなぞを用いたのは、子どもの興味を高めるためだけではありません。それだけでは、単なるパフォーマンスになってしまいます。身の回りにある関数関係に気付かせ、さらに、その中から比例や反比例の関係にあるものに注目させたいという目的を持っていました。ですから、「増えれば増えるものなあに?」「増えれば減るものなあに?」というようななぞなぞに発展していきました。
 つまり、興味が高まったことによって喚起された子どもたちの活動が、算数・数学的活動になっていることが必要です。重松・日野・牧野(1999)は、多くの先行研究を整理した結果、数学的活動が喚起・促進されるような「よい問題」の特徴として、次の3つの数学力の育成を挙げています。

①筋道を立てて考える力
②一般化する力
③日常生活に活用する力

 筆者のなぞなぞは、③を意識しながら、導入後の単元の学習で①②を育成する契機になる問題だったといえるでしょう。

4.単元導入の開発

 さて、単元全体の学習を有意義に進めるために、教師はこれまでに述べた2つの要件、つまり、

●子どもの興味を高める
●算数・数学的活動を喚起・促進する

を備える導入を各単元で準備しなければなりません。そのために、多くの場合、教師はさまざまな資料を参考にすることになります。これに関して、松尾(2001)は、教材開発の観点として、次の8つを挙げています。

①教科書の中から楽しく学べる教材を工夫する。
②過去の文献・先行研究を探る。具体的には、算数の教育雑誌、学会誌などから情報を得る。
③数学史から資料を得る。
④子ども向けのクイズ・パズルから資料を得る。
⑤数学の本から問題を見つける。
⑥教具から教材を考える。
⑦研究グループで教材を吟味する。
⑧子どもの生活や実態から教材を考える。

 これらは、広く教材開発を対象としているため、①で教科書を参考にすることが挙げられています。しかし、これまでの教科書には単元導入の内容が掲載されていることは、それほど多くありませんでした。
 また、単元展開の成否を左右しかねない導入は、教科書に頼らない教師自身のオリジナルで臨みたいという教師の意気込みもあるでしょう。さらに、単元導入を成功させるために、担当する子どもたちの環境や実態に合わせた内容にしたいという教師の願いもあると考えられます。

5.教科書における単元導入

 しかし最近は、教科書にも単元導入に使える内容が多く掲載されています。
 そこで、『小学算数』(平成23年版)の単元導入を見てみましょう。その内容は、次の3つの型に分類できます。

①操作型
 単元の学習内容に関わりがある作業や体験といった算数的活動を通して、単元の学習内容への意識を高めます。

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操作型の例(『小学算数』2年上P.76)
「水のかさ 水のかさをはかろう」

②身の回り型
 ふだんの生活の中で目にしている事例や事象について算数の目で捉え、単元の学習内容に関わる疑問点や問題点を見つけます。

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身の回り型の例(『小学算数』3年上P.88)
「大きい数 10000より大きい数を表そう」

③ふり返り型
 単元の学習内容に関連する既習事項を提示しながら、最終段階で未習内容を提示し、未習内容をどのように解決するかについての関心・意欲を高めます。

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ふり返り型の例(『小学算数』6年上P.34)
「分数のかけ算 分数をかける計算のしかたを考えよう」

 教師の意気込みや願いとともに、このような教科書の内容も参考にして、子どもたちの興味を引きつける単元導入を開発してください。

【引用文献・参考資料】
松尾吉陽(2001) 算数科学習における導入指導 東京学芸大学附属学校 研究紀要.28集、p.49-56
重松敬一 日野圭子 牧野浩(1999) 中学校数学教科書にみる「よい問題」の研究 奈良教育大学紀要.48巻 1号、p.21-35


これからの算数・数学教育

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 今年度から、中学校で新しい教科書の使用が始まり、改訂された学習指導要領に基づく算数・数学教育が本格的な時代を迎えています。こうした折を踏まえ、今一度これからの算数・数学教育の課題について、3つのことを強調したいと思います。

1.重要性に応える算数・数学教育

 今回の改訂は終始一貫して、「算数・数学教育は重要であり、重視する」という方向のもとで進められました。こうした方向が打ち出された背景として、次の諸点を挙げることができます。

①知識基盤社会が到来したこと
②算数・数学が生活や学習の基盤となること
③算数・数学が論理的に考える力を培うこと

 知識基盤社会の時代を迎え、国民生活の向上を図るために科学技術開発に力を入れ、国際競争力を一層高めていくことは非常に重要な国家的課題です。その基盤として算数・数学教育の重視が打ち出されました。②、③は不易な重要性ですが、今回こうした点が中央教育審議会等で広く認知された意義は大きいといえます。今日、算数・数学教育がかつてないほど国民から大きな期待を寄せられ、非常に重い役割を担っていることは銘記しておくべきです。

2.「生きる力」を培う算数・数学教育

 「生きる力」は、前回の学習指導要領改訂において重要な教育目的として打ち出されました。その内容を端的に言えば「①自己教育力 ②豊かな人間性 ③健康と体力」の育成ということになります。今回の改訂では、その重要性が再確認され、内容の充実が図られました。とりわけ、前回は「何のための生きる力」かが見えにくかったのですが、今回は「自立的に生きる」「自己実現」「社会全体の発展の原動力」のためであることが明確化されました。これからは、算数・数学教育においても「生きる力」を培っていくことが重要となります。

3.学力の向上を図る算数・数学教育

 今回の改訂においては、学力の向上も非常に重要な課題とされました。幸い、平成21年に行われたPISA調査において「数学的リテラシー」は、前回と比較してわずかですが向上がみられました。しかし、国際的な点数も順位も平成12年の第1回調査結果には達していません。また、国内の全国学力調査の結果は活用力に課題があることを示しています。したがって、学力の向上を図ることは引き続き重要な課題です。世界トップレベルではなく、再び世界のトップに位置づく算数・数学教育をぜひ実現していきたいものです。


デジタル教科書を使ってみませんか? -算数・数学の授業におけるICTの活用-

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1.デジタル教科書と学びの場

 2020年に向けて、教育の情報化についてまとめた「教育の情報化ビジョン」 1)が公表されています。
 そこでは、社会の情報化の急速な発展等に伴い、情報通信技術を最大限活用した21世紀にふさわしい学びと学校が求められているとして、子どもたちへの情報活用能力の育成、教科指導における情報通信技術の活用、校務の情報化などの観点から今後の教育の情報化に関する総合的な推進方策が示されています。
 教育の情報化について、世界の状況を見ると、情報化が進んでいるイギリスでは、全教室に電子黒板が設置されているといいますし、韓国やシンガポールでも普及が進んでいるといいます。韓国では、2015年をめどに、教科書のデジタル化が行われるという状況です。我が国でも、デジタル教科書やデジタル教材の開発などが本格的に進められようとしています。
 これからは、授業にデジタル教科書や電子黒板、インターネットなどICTを活用した指導を積極的に取り入れ、わかりやすく力のつく授業を展開していく授業力が求められているといえるでしょう。

(1)デジタル教科書
 いわゆるデジタル教科書とは、「デジタル機器や情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集、移動、追加、削除などの基本機能を備えるもの」であるとされています。デジタル教科書は、指導者用デジタル教科書と学習者用デジタル教科書の2種類に大きく分けることができます。
 現在、我が国でデジタル教科書といわれているものは、指導者用デジタル教科書で、「主に先生が電子黒板等により子どもたちに提示して指導するためのもの」であるといえます。

(2)ICTを活用した学びの場
 ICTを活用した学びの場の将来像として、教育情報ビジョンでは、具体的に

  1. 一斉授業において、ポイントとなる部分を拡大・強調したり、動画など子どもたちの興味関心を引く教材を使用して学んだりすること
  2. 個別学習において、デジタルコンテンツ等の活用により、疑問について深く調べたり、自分にあった進度で学んだり、一人一人の理解やつまずきの状況に対応した課題に沿って学びをすすめたりすること
  3. 共同学習において、情報端末や提示機器等を活用し、教室内の授業で子どもたち同士がお互いの考え方の共有や吟味を行いつつ意見交換や発表を行うことや、学校外・海外との交流授業を通じて、お互いを高め合う学びを進めること

の3つをあげています。
 授業におけるICTの活用で重要な視点として、黒板などのこれまでの教育メディアとICT機器の組み合わせによる活用があります。たとえば、電子黒板と書画カメラを使用して、児童のノートを電子黒板に拡大して提示し、電子黒板上で書き込みをさせながら発表を行うなどの活用は簡便でしかも効果的な活用方法だといえます。しかし、電子黒板上の画像は一覧性に欠け、授業の中で比較・検討し、練り上げをする場合などにはスムーズにいかない点も出てきます。このようなときに、電子黒板の画面を印刷し、黒板に掲示するなど既存の黒板との組み合わせをすれば、発表から討論へスムーズに展開できると考えられます。

2.教科指導におけるICT活用の効果

 授業でのICT活用の効果 2)については、ICTを活用して授業を行った教員の98.0%が、「関心・意欲・態度」の観点において効果を認めています。また、小学校算数の実践の結果(図1)から、ICTを活用した授業が、そうでない場合と比べ、それぞれの観点について効果が高いことが明らかになっています。

3.デジタル教科書の活用

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図1 算数における客観テストの結果

 『小学算数』の教師用指導書には、デジタル教科書が添付されています。このデジタル教科書は、CD-ROMをパソコンにセットするだけで使用できるようになっています。デジタル教科書を活用すれば、次のような「ICTを活用した学びの場」を子どもたちに提供することが可能です。

  1. 教科書を拡大して提示し、学習課題やポイントとなる図、グラフ、用語などを強調する。
  2. 画面に直接書き込みをして、作図や計算のしかたなどを確実に理解させる。
  3. デジタル教科書の「資料活用」機能で準備されている動画などのコンテンツを活用することで、わかりやすい授業を展開する。(教科書のroot_no7_03マークの箇所には、コンテンツが用意されています。)

 デジタル教科書を効果的に活用して、わかる授業、深める授業を展開していきたいものです。

【参考引用文献】
1) 文部科学省「教育の情報化ビジョン」H23.4
2) 財団法人 コンピュータ教育開発センター「ICTを活用した授業の効果等の調査 報告書」H20.3


平成24年度用 新版「中学数学」教科書特集号

※PDFデータをダウンロードしてお読みいただけます。(下記ご参照)

RooT No.06表紙インデックス

1.
数学の学びと授業をデザインする新しい教科書
重松 敬一
5.
教科書における数学的活動の取り扱い

清水 紀宏
8.
「Mathマス活動!」を活用した数学的活動の実践
『中学数学』編集委員会
11.
確かな学力を確立する基礎基本からの丁寧な積み上げ

『中学数学』編集委員会
14.
学び直しを考える
山口 武志
17.
標本調査を利用して母集団の傾向をとらえ,説明しよう
吉岡 睦美
20.
教科書の単位表記が変わる

icon_pdf_smallRooT No.06 「中学数学」教科書特集号:ダウンロード (4.6 MB)

※ファイルの内容について
・PDFファイルは、閲覧・印刷用です。
・イラストや写真は解像度を落としています。
・コンピュータ・回線環境によってはダウンロードに時間がかかる場合があります。

※データのダウンロード(保存)方法 
ダウンロードには下記方法があります。
・アイコンを直接クリックした後表示されるページで、「別名で保存」を選択して保存してください。
・アイコンを右クリックし「対象をファイルに保存」や「リンクを別名で保存」などを選択し、保存先を選んでください。


様々な状況で算数・数学の学習内容を活用する力の育成

RooT No.05表紙

1.はじめに

 OECDが15歳児(高校1年生)を対象として2009年に実施した国際学力調査(PISA調査)の結果が、2010年12月7日に公表されました。日本の「数学的リテラシー」の平均得点は2006年の523点から529点へと上昇しましたが、統計的な有意差はありませんでした。さらに、参加国・地域のうちで日本は前回の10位から今回は9位とほぼ横ばいでした。この結果は、OECD平均よりも高得点グループを維持したとして概ね評価されているようです。
 「RooT」No.1『活用力をつける:PISA調査の問題から示唆される活用力育成のための指導のポイント』で山田篤史氏が指摘しているように、PISA調査の問題は、学校で学習した単純な知識・技能の習得状況を問うような問題ではなく、様々な状況で知識・技能を活用する能力を問う問題です。数学が用いられる状況については、「全国学力調査B問題に比して、かなり幅広い問題状況が想定されている」と山田氏も指摘しています。つまり、PISA調査では、ある問題状況で学習した知識・技能を、それとはかなり異なる状況の問題でも使える力が求められて、問われているといえます。

2.様々な状況で活用する力の育成の視点

 このような力は活用力の一側面にすぎませんが、PISA調査でも注目されているように、現在、学力の一部として重要視されています。このような活用力を育成するためには、次の2点が算数・数学科の授業づくりで留意すべき点だといえます。
 第一に、学習内容に対する様々な観点からのアプローチです。様々な状況で活用する力を身につけるためには、ある問題状況に直面した際にその問題の解決に必要な算数・数学の学習内容が想起できる力の育成が必要です。また、そのためには、学習内容を色々な問題状況で使えるような学習が重要となります。
 たとえば、線対称な図形の学習について、教科書では下記のように記述されています。

日本文教出版 「小学算数」6年上巻 P.6

日本文教出版 「小学算数」6年上巻 P.6

 ここでは、紙を折ったり紙面に作図したりする学習を想定していますが、それだけでなく、ブロックなどを使っての線対称な図形づくりや、身の回りから線対称な模様を探す活動を通して、線対称な図形という学習内容にアプローチすることも必要です。
 第二に、算数・数学の学習で学んだ内容を使ってみようとする態度の喚起です。どんなに学習内容についての理解が豊かになったとしても、それらの学習内容を活用しようとする態度が身についていなければ、子どもたちは主体的に学習内容を活用することはありません。ともすれば、学習における活用力の重要性や算数・数学学習の有用性を理解しているのは教師だけで、子どもたちは十分に理解していないことも考えられます。それでは、算数・数学の学習内容を他の問題状況で活用しようという態度はなかなか育ちません。したがって、まずは子どもたちの学習に対する考え方(学習観)を見つめ直し、子どもたちが活用力の重要性や算数・数学学習の有用性を感じるような指導を行いたいものです。
 算数・数学学習の有用性が分かっていることは、算数・数学の学習に対するメタ認知と呼ぶことができます。一般的にメタ認知とは「認知についての認知」と呼ばれる概念で、ここでは、算数・数学学習で学んだことは色々な状況で使うことができ、それによって、直面する問題を解決できるということが分かることを指します。このようなメタ認知を育てるためには、「算数・数学の学習内容を活用して、問題解決に成功した体験」が重要であると言われています。さらに、「算数・数学の学習内容を使ったから、問題解決に成功したんだ」という振り返りによって、「次も算数・数学の学習内容を使うと、問題解決ができるかもしれないぞ」という考え方を育てることが可能になってくるのです。

3.おわりに

 活用力の育成に向けて、教科書の内容に応じた算数・数学的活動だけではなく、様々な算数・数学的活動を取り入れた授業づくりの必要性を指摘しましたが、全ての学習内容で様々な活動を行うことは、限られた授業時間を考えると無理な話です。したがって、子どもにとって理解が難しい学習内容やその後の学習で活用されるような学習内容について、重点的に様々な活動を取り入れることが有効でしょう。もちろん、教科書ではその学習内容の基礎的な算数・数学的活動を取り上げていると言えますから、それを疎かにすることは本末転倒です。まずはそれぞれの学習内容に対する基礎的な算数・数学的活動を丁寧に行った上で、目の前の子どもたちに応じてさらなる算数・数学的活動を検討すべきであると考えます。その際には、学習内容を身の回りの事象と結びつけ、その理解を一層深めることを意図した「いち・に・算活」の内容も有効に活用できると思います。

【参考資料】
加藤久恵、濱中裕明「研究成果報告(II)算数・数学教育チーム」『活用型学習の指導方法及び評価方法等の研究 兵庫教育大学(株)ベネッセコーポレーション共同研究プロジェクト報告書』P.48-106(2010年)


知識の構成と展開の中で活用を考える

RooT No.04表紙

1.いつ、どのような場面で活用するか

 PISA調査や全国学力・学習状況調査の結果から、新しい学習指導要領では活用する力の育成がこれまでにもまして叫ばれています。活用力は、文字どおり、知識や技能等を活用する過程の中で身につくものですが、活用する場面にはどのような場面があるでしょうか。
 まず、教科の目標に述べられているように、生活や学習に活用する場面があります。これを二つに分けるなら、新しい知識を知った後に、生活に活用する場面と、新しい知識を知るために、既存の知識を活用する場面があります(特に授業の前半で)。
 もう一つ忘れてならないのは、問題解決的な授業では、最初に取り組んだ問題解決の過程をふり返り、それを活用して新たな知識を構成する、という活用があります。例えば、平行四辺形の面積の学習では、まず「面積はいくら」という問題から、等積変形などを通して面積の値を求めますが、その後にその過程をふり返って、面積公式を定式化する活動が行われます。つまり、問題解決的な算数・数学の授業では、前半の問いの解決方法が、後半の知識づくりの対象へ転化され、知識の再構成が行われます。ここにある種の活用が見られます。
 さらに、まとめを行う際にも、何に使えそうか、何がまだ分かっていないかを見つけるなどの工夫が必要だと思います。次なる活用を見越してまとめをすることで、活用力がついていくように思います。
 算数・数学は常に活用を通して知識の構成と展開が行われるといっても過言ではありません。基礎的な知識・技能をまず習得して、それから活用する、といった考えを聞くことがありますが、こうした考えは活動を通した算数・数学学習とは齟齬(そご)が生じているのではないかと懸念しています。

2.算数・数学的活動と活用力

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 新しい学習指導要領には、活用力のほかに算数・数学的活動の一層の充実、反復(スパイラル)の教育課程の推進、言語活動の充実、小中の接続といった視点が盛り込まれています。これらはバラバラに考えるべきでなく、豊かな算数・数学学習をいくつかの側面から眺めたものだと思います。
 一例として、中学1年の図形の移動の学習として、麻の葉模様での陣取りゲームを考えてみます。まず基準の陣を決め、常にその陣から平行、対称、回転のどれかの移動を使って、陣を取り合うゲームです。
 移動の活動を通して、移動の観点(対称移動における軸や回転移動における回転の中心等)を明確に意識することをねらいとしています。

RooT No.04 このゲームは、対称移動限定のゲームと回転移動限定のゲームに発展可能です。前者は2回連続の対称移動(移動の合成)を取り入れ、すべての場所がとれるようにします。その後に麻の葉を抜け出し、一般的に「任意の位置にある合同な一般三角形は、何回の対称移動で重ね合わせられるか」という問題に発展させたいと思います。実験をすれば、「2回でできそうだ」ということと、「少しずれているかもしれない」という感情が交じります。これは、証明をしたい、という状態でもあると思います。

RooT No.04 ずれを補正するにはどうすればよいか、ここに既習の垂直二等分線の活用があります。対応する一組の頂点を結び、線分の垂直二等分線をかけば、2回目の対称の軸も容易に見えてきます。

 もし重ね合わせ先の図形Bが裏返っていれば、もう一回対称移動を行えばよいので、「任意の位置に置かれた2つの合同な三角形は高々3回の対称移動で重ね合わせることができる」という結論が得られます。この証明は、作図と移動の過程をそのまま記述したもので、中学1年生にもかかせたいことですし、中学2年の証明に反復(スパイラル)として活用されることを期待します。
 回転移動限定ゲームも、同じように展開できます。まず、次の移動を考えてみてください。思考力アップのために。

RooT No.04 AはBに1回の回転移動で重ねられます。回転の中心はどこですか。どう考えれば移動が見えてきますか。

3.おわりに

 知識を積極的に活用し、思考力、判断力、表現力を養うことは、新しい学習指導要領の基本的な考え方であるとともに、知識の活用、ふり返り、本質の抽出、知識の再構成という一連の過程は数学の発達の本性でもあります。国際的な学力調査から、子どもたちに算数・数学に対する楽しみや自信が欠如している、ということが大きな課題として明らかになっています。習得だけに偏る授業でなく、子どもの知識や個性が生きる活用の場を考えたいし、そうした活用が連続する場づくりこそ、教師が教材研究の中で最も真剣に考えねばならないことだと思っています。

【参考文献】
岡崎正和,髙本誠二郎「図形の移動を通して培われる図形認識-論証への移行を目指したデザイン実験-」『日本数学教育学会誌91(7)』P.2-11(2009)


活用力を育成するための授業改善に関する2つのポイント-「全国学力・学習状況調査」の結果からの示唆-

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1.調査結果を授業改善に生かすこと

 「指導と評価の一体化」といわれるように、子どもたちの評価結果を日頃の指導にフィードバックさせることが大切です。PISAやTIMSS、全国学力・学習状況調査(以下、学力調査)といった各種調査の結果についても、順位や正答率だけに注目するのではなく、調査問題に対する子どもたちの思考過程の特徴や誤答の傾向などを授業改善に生かすことが重要です。
 こうした視座から、本稿では、「学力調査」の「B問題」を取りあげ、「活用力」に関する子どもたちの課題を考察するとともに、その課題をふまえた授業改善の方向性について検討したいと思います。

2.「学力調査・B問題」の調査結果から示唆される今日的課題

図1 平成20年度「B問題」3(1)

図1 平成20年度「B問題」3(1)

 平成20年度の「B問題」3では、「図形の性質と面積」に関する問題が出題されています。(1)では、まず、図1のように、三角形の頂点を中心に半径10cmの円の一部をかき、3つの黒い部分をあわせた面積を求める式「10×10×3.14÷2」を4つの式の中から選択させています。三角形の内角の大きさの和が180°になることを基に、求める面積が半径10cmの円の半分になることの理解を問う問題です。(1)の正答率は58.0%にとどまっており、「調査結果概要」では、「円の面積の求め方を基に、半円の面積の求め方を表す式を読み取ることに課題がある」(P220、下線筆者)と指摘されています。

図2 平成20年度「B問題」3(2)

図2 平成20年度「B問題」3(2)

 (2)は、図2のような長方形において、4つの黒い部分をあわせた面積が、(1)の三角形の3つの黒い部分をあわせた面積の2倍になっていることを問う問題です。(2)の正答率は69.3%であり、「三角形から長方形に図形を変えて考える発展的な場面で、図形の性質を基に面積の関係を考えることに課題がある」(P221、下線筆者)と指摘されています。

図3 平成20年度「B問題」3(3)

図3 平成20年度「B問題」3(3)

 続く(3)では、図3のように、長方形から四角形に図形を変えた発展的な場面が与えられています。その上で、図3の4つの黒い部分の面積の和が、(2)の長方形の面積の和と同じになる理由を言葉や式を用いて記述できるかどうかを問うています。

 「面積は同じになる」という選択肢を正しく選び、その理由も記述できた子どもは、33.4%にとどまっており、「長方形から四角形に図形を変えて考える発展的な場面で、図形の性質を基に面積の関係をとらえ、判断の理由を言葉や式を用いて記述することに課題がある」(P223、下線筆者)と指摘されています。

3.授業改善に関する2つのポイント

 これらの調査結果や課題をふまえ、筆者は、次の2つの視座からの授業改善の重要性を感じています。
 第一は、数学的表現力や数学的コミュニケーション能力の育成を重視した授業です。新学習指導要領では、言葉や数、式、図などといったさまざまな数学的表現を使って、自分の考えや解法を説明し伝え合う能力の育成が強調されています。前節のB問題では、(1)において式読に関する課題が指摘されるとともに、(3)では、言葉や式を用いた数学的表現力に関する課題が指摘されています。こうした課題は、中学校のB問題においても同様に指摘されている課題です。そのため、いわゆる「練り上げ」の場面などにおいて、さまざまな数学的表現を使って、自分の考えや解法を表現し伝えたり、逆に、数式や図などを読んで、他者の考えや解法を解釈したりするといった算数・数学的活動を充実させることが重要です。
 第二は、知識や考え方の本質を理解させるために、問題を発展的に考える授業の工夫です。前節のB問題の(2)や(3)に関する結果にもみられるように、基礎的な知識・技能や考え方を発展的な場面で活用することに課題がみられます。当該の知識・技能や考え方の本質をとらえ、「生きてはたらく」知識・技能や考え方として理解するために、知識・技能や考え方の活用の仕方や発展のさせ方を子どもたちに示す必要があると考えます。こうした視座から、日頃の指導では、当面の問題を解決することで満足するのではなく、問題解決の過程を振り返りながら、解法や考え方を別の場面や問題に活用する学習活動を意図的に仕組むことが重要です。その際、「場面や条件を変えたらどのようになるか?」といった問題意識をもたせながら、子ども自身によって問題を自律的に発展させることができるように指導を工夫したいものです。

[引用文献]
 文部科学省・国立教育政策研究所『平成20年度全国学力・学習状況調査【小学校】調査結果概要』(平成20年8月)


平成23年度用 新版「小学算数」教科書特集号

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RooT No.02表紙

インデックス

1.
算数の学びをデザインする新しい教科書

小山 正孝
4.
算数教科書における思考力・表現力を高める3つの柱

『小学算数』編集委員会
6.
台形の面積の求め方を説明しよう 

康 貴 利
8.
算数的活動を通して考える「いち・に・算活」

飯田 慎司
10.
豊かな算数的活動の実現を目指して 

『小学算数』編集委員会
12.
算数的活動を通した授業をつくる

上田 喜彦
14.
算数と道徳教育のつながり

伊藤 孝
16.
教科書における単位の表記について


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PISA調査の問題から示唆される活用力育成のための指導のポイント

RooT No.01表紙

1.はじめに

 昨今、活用力の育成が叫ばれていますが、「活用」と言いますと、真っ先に全国学力・学習状況調査のB問題が思い浮かびます。ただ、こうした学力調査が実施されることになった背景には、いわゆる、「PISAショック」があったようにも思います。
 PISAショックとは、OECDが15歳児を対象に行っている国際学力調査(PISA調査)において2003年調査の結果が2000年調査の結果より落ちたことを受けて関係各所に広まったショックのことを指します。例えば、2000年調査における「数学的リテラシー」の順位は、参加32ヵ国中1位だったのですが、2003年調査では、参加41ヵ国中6位となってしまい、こうした結果は、当時の学力低下論争にある種の「とどめ」を刺した感もあったように思います。
 詳しく見てみますと、数学は6位だったのですが、実は1位グループには入っていましたので、そうした「相対的な」順位の低下に関しては、慎重に議論すべき問題だったでしょう。しかし一方で、我が国の指導がPISA 調査で求められているような力を伸ばしていないとすれば、それはそれで問題のようにも思えます。とすれば、実際のPISA 調査の問題を分析し、現在、社会で求められている力はどのようなものなのかを検討しつつ、「活用力の育成」に関してどういった示唆を引き出せるかについて議論してみることは、興味深い作業でもありましょう。

2.PISA 調査の問題の具体例

 PISA 調査では、その調査領域が、例えば「数学的リテラシー」とあるように、学校で学習した単純な知識・技能の習得状況を問うような問題が出題される訳ではありません。様々な状況で知識・技能を活用する能力を問われる問題が出題されます。また、各問題では、「数学的な内容」「数学的プロセス」「数学が用いられる状況」という3つの側面が考慮されます。特に「数学が用いられる状況」に関しては、実生活で生徒が遭遇するような状況として、「私的」「教育的」「職業的」「公共的」「科学的」という5つが設定されており、全国学力調査B問題に比して、かなり幅広い問題状況が想定されていることが分かります。
RooT No01_02 ここでは、数学が用いられる状況としては「公共的」、すなわち、生徒が生活する地域社会における文脈が問題状況となっている問題の1つである「盗難事件」問題を紹介いたしましょう。あるTVレポーターがこのグラフを示して、「1999 年は1998 年に比べて、盗難事件が激増しています」と言いました。
 このレポーターの発言は、このグラフの説明として適切ですか。適切である、または適切でない理由を説明して下さい。

国立教育政策研究所(編)(2004).『 生きるための知識と技能2:OECD生徒の学習到達度調査(PISA) 2003年調査国際結果報告書』. p.119.
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 なお、この問題の完全正答率は11.4%で、OECD平均の15.4%と比べてみても、かなり低いものと見てよいでしょう。

3.活用力育成のために

 全国学力調査B問題でも、こうした「データやグラフからある種の判断を求め、その判断の理由を問う」問題は継続的に出題されています。ところが、自らの考えを整理して、例えば「判断とその理由」を数学的な表現を用いて説明しなければならないような問題では、正答率が低くなるようです。そして、まさにこの結果から、活用力育成のための指導のポイントが示唆されます。それはすなわち、数値的なデータからある種の判断を求め、その理由を表現させ、できれば表現を洗練・工夫することで他者の納得を導くような活動を数多く授業に取り入れることが重要だということでしょう。
 また、この問題自体からは、「問題の文脈を作る状況を広く考えるべきだ」というもう1つのポイントが示唆されます。我々が「活用」を考える場合、直前に学習した知識・技能を超えない範囲で、それが使われる日常的な問題を考えてしまいがちです。しかし、そうした制約にとらわれ過ぎると、問題状況がいびつになりかねません。「盗難事件」問題のグラフの問題点は、記述統計の指導では必ず取り上げられる話題ですが、レポーターのグラフ解釈に対する批判的意見を述べる場合には、算数・数学の範囲を超えて、メディア・リテラシーに関わる議論にも踏み込まざるを得なくなります。しかし、それでもあえて「社会のリアルな問題を取り上げる」という目的意識を優先させて学習課題を選択・構成することは、算数・数学と社会との繋がりを感じ取らせるために、また「活用しようとする態度」の育成のために、重要な指導のポイントになってくると思うのです。

4.おわりに

 ここではやや特殊なPISA調査の問題を取り上げ、そこから示唆される活用力育成のための指導のポイントを2点述べました。しかし、実は我々教師が最も意識すべき指導のポイントは、日々の算数・数学の授業を「既習事項の活用」という観点から構成し、児童・生徒にもそうした意識付けをはかるという所にあるのではないかと、密かに思っています。