【あべ先生に聞く!図工のABC】造形遊びの評価が分かりません。

今さら聞けない? 図工のキホン、あべ先生に聞いてみよう。

 「図工で大切にしていることって?」「子どもの意欲を引き出すには?」などなど、図工に関する素朴な疑問やお悩みを、ABCシリーズでおなじみのあべ先生に聞いてみました。

造形遊びの評価が分かりません。


子どもの造形活動の過程(プロセス)における資質・能力(よさや可能性)を発揮している姿を捉えるのが造形遊びの評価です。

過程での子どものよさや可能性を捉える

 造形遊びの評価は、活動の過程における行為の姿が評価の対象の全てといえるでしょう。次の瞬間には変わっているというように、特に造形遊びのような活動は刻々と変化します。それぞれの場面では子どもの資質・能力が働いている行為と捉えることができます。作品を前にして優劣を付けようとする評価ではありません。目の前の子どもの活動での行為をよさや可能性として見取ろうとするものです。

 材料に働きかけて、自分の感覚や行為を通して捉えた形や色などから、イメージをもち、思いのままに発想や構想を繰り返しながら、自らの技能を働かせて「つくること」が造形遊びです。ですから単に遊ばせることが目的ではありません。

 特別な力を見ようとしているのではありません。どの子どもも持ち合わせている資質・能力です。行為は資質・能力の表れです。集中して取り組む姿などは態度として評価することができます。

 そこで子どもは「ここは目立つように明るい色にしよう」「もっと動くように仕組みを工夫しよう」「友だちの作品を参考に、材料の形を変えよう」など、知識や技能、思考力・判断力を働かせて活動しています。造形遊びは材料をもとにした自主的で主体的な活動です。

重要なのは「もの」ではなく「こと」

 プラモデルのように完成したイメージが先にあるわけではありません。「つくりだす」という独創性に富んだ創造的な活動なのです。その過程では、思いついたことを試したり、考えたり、失敗したりします。そのプロセスの上で、新たな考えが生まれ、試したりする「造形的な実験精神」を培っているといえます。ですから重要なのは、作品という「もの」ではなく「こと」なのです。

 子どもにとっては「つくること」が大切なのです。材料に働きかける「遊び」は、意欲を喚起し資質・能力を発揮させ、手や体の感覚を陶冶し、創造性を培うのです。ですから、子どもは造形遊びが大好きです。

 先生は、教室で子どものフィールドに立ち、子どもに寄り添い、声に耳をすませ、活動する姿に共感のまなざしを向けることです。図画工作の授業は童謡「めだかの学校」(作詞:茶木滋)の「だれがせいとか せんせいか みんなで げんきにあそんでる」の歌詞のように子どもたちの間を1,000歩あるく(笑)ことが「評価と指導」の第一歩です。子どもの思いを知ることです。

付記:昭和52年(1977)に新設された「造形遊び」は、改訂ごとに拡大され、現在は全学年で実施されています。遊びのもつ教育的な意義と、能動的で創造的な性格に着目した造形的な遊びが、「学習」として図画工作に位置付けられました。

 このコーナーは、ABCシリーズからピックアップしたページを基に、再編集して掲載しています。今回は、「評価のABC」p.29をピックアップ。

あべ先生と一緒に4コマ漫画で学ぶ「ABCシリーズ」


あべ先生による「ABCシリーズ」は、4コマ漫画で子どもや図工のことを学べる冊子で、累計30万部を発行。4コマ漫画と温かい語り口のコラムによる構成で、長年にわたって小学校の先生方に支持されています。Webサイトで全編をお読みいただけます。また、冊子でお送りすることもできます。
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阿部 宏行(あべ・ひろゆき)
1954年生まれ。元北海道教育大学岩見沢校教授。中央教育審議会 初等中等教育分科会教育課程部会 幼児教育部会委員、同芸術ワーキンググループ委員(平成29年)、文部科学省「学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者主査(小学校図画工作)」(平成29年)などを歴任。著書に子どもや図工のことを学べる『ABCシリーズ』(日本文教出版)、『つくって楽しい 届いてうれしい 絵封筒のABC』(日本文教出版)、絵本『どこにいるの』(文芸社)など多数。

【ドリームデイ・アット・ザ・ズーinアドベンチャーワールド】「違う」と出会い、心で繋がり、自分の正解を見付けてほしい ~突撃! 図工な企業(第4回)~

図工力(※1)を発揮して活動している(と編集部が感じた)企業などを訪問し、働く方々のお話を聞きながら、図画工作や美術を学ぶ意義を捉え直すシリーズの第4回目。

和歌山にあるテーマパーク「アドベンチャーワールド」では約120種、約1600頭の動物が暮らしており、動物と触れ合えるツアーやアトラクションなど多彩な楽しみ方を提案しています。

そんなアドベンチャーワールドで8年前からスタートし、毎年行われているイベント「ドリームデイ・アット・ザ・ズーinアドベンチャーワールド」の運営に関わっていらっしゃるお二人にお話を聞きました。

◎お話を聞いた図工な人々

  • 相田 拓道さん(株式会社アワーズ(アドベンチャーワールド)経営企画室企画営業課)
  • 岡崎 菜々子さん(株式会社アワーズ(アドベンチャーワールド)経営企画室広報課兼SDGs地域連携課)

左:相田さん、右:岡崎さん

◆「ドリームデイ・アット・ザ・ズーinアドベンチャーワールド」とは?

18歳以下の障がいのある方とそのご家族1200組を無料で招待し、周囲の目を気にせず思い切り楽しめる特別な一日を提供しています。2025年は11月5日に開催。

原体験から始まる学び

――「ドリームデイ・アット・ザ・ズーinアドベンチャーワールド(以下、ドリームデイ)」はなぜ始めたのですか?

岡崎:ドリデイの前身である「ドリームナイト・アット・ザ・ズー」は、1996年にオランダのロッテルダム動物園で誕生しました。その想いにアドベンチャーワールドが共感・賛同し、本取り組みを開始しました。当初は夜間開催として実施していましたが、より多くの方に、少しでも長い時間楽しんでいただきたいという想いから、2021年より日中開催版として「ドリームデイ・アット・ザ・ズーinアドベンチャーワールド」を開催しています。

ドリームデイでは、「原体験」を大切にしています。

私たちも幼少期そうだったように、誰かから教えられて…というよりも、自分が体験したことを通して「自分はこれが好き」っていう興味関心を見付け、世界にはいろんなことがあるんだなって知っていくと思うんです。

けれど、特定の属性・特性をもっている子どもたちは、そういった学びの機会がどうしても制限されてしまっている実情があります。学びの選択肢自体が少ないんです。これまでだったら周りの目を気にしてできなかったことをここで体験してもらいたい。そうして始まったのがドリームデイです。

相田:「筆談ボードを用意してますよ」「車椅子を貸しますよ」というのはだいたいどの施設でも対応していると思うんです。でも「ハートの部分」でもう一歩踏み込んだフォローができるんじゃないかなと。動物園に限らず、美術館や映画館も同じ状況かなと思います。

――なるほど…。「動物がいる」ことで、ゲストの皆さまにどんな影響が感じられますか?

相田:アドベンチャーワールドには約120種の動物がいます。同じサルでもぜんぜん違うサルがいる。自分より体が大きい、匂いがする、違う動きをする…。実際に見たり触れたりして、体の感覚を通して「違う命に触れる」っていう体験をしてもらえたらと思います。

動物もいろんな種類がいて、一頭一羽それぞれ生きているなって感じがして、人間も同じだなってことを感じ取ってほしいなと。

ここが図工力!

☞ 「原体験」から学びが始まる。
☞ 多種多様な動物と出会い、「違う命」に触れることを実感する。

エデュテインメント(エンターテインメント×エデュケーション)の力

相田:動物と触れ合うときの、心がフワッてする感じ、ありませんか?「推しの動物を見付けた!」っていう喜びもあるんですよ。実はこの年になって鳥のかっこよさに気付きました(笑)。ペリカンとかめっちゃかっこいいなと。いくつになっても性別問わず、新たな気付きがあります。何かビビッとくる、動物のもつ「特別な良い違和感」がはまってるんじゃないかと思うんですよね。

相田:我々は「エデュテインメント」という概念を大切にしているんです。

岡崎:私は「エデュテインメント」という言葉に惹かれて入社したといっても過言ではありません(笑)。

私たちにとっての「エデュケーション」は、知識をただ教えるとか、誰かや何かのまねをするといった一方的なものではなく、自分で気付いて自分で疑問をもって自分で調べたくなる、主体的に考えていきたくなるような形をつくっていくことだと考えています。

相田:「この鳥って何食べるんだろ?」ってなったときに、「ネットで調べてみよう」「友だちに聞いてみよう」「共有したいな」っていう気持ちを後押しをするのが「エンターテインメント」の役割だと思っています。

パークであれば、パフォーマンスやBGM、イベントなどさまざまな方法で、まず最高のエンターテインメントを届けるんです。勉強しなさいよ、課題を提出しなさいよ、というんじゃなくて、自ら調べたくなるような雰囲気を醸しだすことが、我々「エデュテイナー」の役割だと思っています。まだまだ道半ばですけど…(笑)。

岡崎:実は私、もともと学校教員になろうとしていて。でも、大学時代に実際に授業をやったとき、なんか違うなって違和感を感じて…。

そんなとき、高校生の探求学習のプロジェクトがあって、それをサポートするスタッフに参加したんです。そうしたら、高校生がすごく前のめりに質問してきてくれて、私が分からないようなこともどんどん聞いてくれたんです。「じゃあ一緒に考えよっか!」でやるしかないみたいな状況になって。わからないことを教えてもらうのではなく、「一緒に考え始めよう」となる感覚がすごく素敵だなと感じたんです。

ここが図工力!

☞ エデュテイナーの役割は、自ら学びたくなるような雰囲気を醸しだすこと
☞ 「分からないから教える」ではなく、「一緒に考え始める」

心で繋がり、自分で見付けたことが「正解」

――ドリームデイの取り組みを通して、未来の社会がどんな形になってほしいと願いますか?特に、子どもたちに願うことがあれば教えてください。

岡崎:私たちが大切にしているのは、「だれもがキラボシ」という思いです。

個人の思い込みや価値観はそれまでの経験が影響していると思うのですが、「自分の当たり前は誰かの当たり前ではない」ということを忘れないでほしいなと思います。

「あなたも、私も素敵。」って、自分に対してもキラボシを認められる心を育んでいくことがまず大切だと思います。そうすることで、お互いを認め合い、「なかよくなれたら嬉しいな」って思える、そんな子どもたちが増えたらいいなと思います。

相田:今の子どもたちって、正解がもうすでに用意されているのかなって思っていて。ネットでもAIでも正解は出てくると思うんですけど、心で繋がって初めて分かることのほうを大事にしてほしい。

「自分以外はすべて他人」と思わずに、異なる他者と心と心で繋がることによって見えてくることを「正解」として捉えてほしい。

そうじゃないと、たとえば「障がいのある人には優しくしてくださいね」って言われたら、それを正解と思って受け止めちゃうんですよ。

ネットで調べればそれっぽい正解がすぐ見付かるけど、やっぱり自分で触れて初めて「そういうことだったんだ」という稲妻みたいなものが頭に降ってくる。それ「も」正解にしてほしい。特に子どもたちには。正解があるからこそ、「本当の正解」を見付けてほしい。

障がいのことだけじゃなく、自分が好きなスポーツでも、恋愛においても、人と交わることに関しては自分の正解を見付けてほしい。

…と、自分の息子にはいつも伝えています。

ここが図工力!

☞ 「正解」がすでに用意されている時代だからこそ、異なる他者と心と心で繋がり、「自分の正解」を見付ける。

◆参加されたゲストの声から

  • とにかく気が楽。多動や癇癪、パニックなどもお互い様精神のため心穏やかに対応できる。
  • 同じ立場の方が多くいらっしゃり、親子ともに気を遣いすぎることなく楽しめる。
  • 普段障がい児育児に孤独を感じることが多いのですが、他のご家族の姿を見て、自分だけではない、明日からも育児頑張ろうと思うことができたので(他の方にもドリームデイを)お薦めしたいです。
  • 人がたくさん集まる場所や、初めての場所が苦手で大きい声で叫んでしまうため普段は参加を諦めていたのですが、今回は挑戦することができ嬉しかったです。家族みんなで思い出をつくることができました。

相田:ゲストの皆さんがおっしゃっていたことは、「この空間はマイノリティとマジョリティが逆転している」。

あの空間には障がいのあるファミリーしかいないので、寝転がって泣いちゃったり、癇癪を起こしたりしても、周りに「ごめんなさいね」みたいなことを言わなくていいし、刺すような視線もとんでこない。それがないってだけで、ぜんぜん違うんです。

私には障がいがある子どもがいます。昔は、子どもを連れて街に行くときは、人の多い場所を避けて外出したり、急に癇癪などを起こしたらどうしようと常に考えて行動していました。映画であろうがバーゲン会場であろうが、楽しさは半減、いや、ほぼゼロになります。やっと到着した瞬間に癇癪を起こしたときは、もうその場で帰っちゃうこともたくさんありました。

刺すような視線も、謝る必要もない。それがないっていうことがもう、全てなんです。参加者にとって最大の恩恵です。

もう一つ、「きょうだい児」という言葉がありまして、きょうだいは常に我慢しているんです。同じように、自分のきょうだいが “障がい児っぽく” 扱われないってことも、きょうだいにとってたまらなくハッピーなんですよ。

★日本文教出版は、「ドリームデイ・アット・ザ・ズー2025inアドベンチャーワールド」にAdventureパートナーとして協賛しています。

※1:本シリーズでの図工力とは、図画工作や美術など造形活動を通して培われる「自ら考える力 決める力 やり抜く力」「多様な他者と協働する力」「よりよい未来を創造する力」です。図工力は「もの」をつくるときだけに発揮されるのではなく、社会の潤滑油となって楽しさや希望をつくりだせる原動力になるものだと信じています。そんな図工力を備えた人がいて、図工マインドが垣間見える活動をしている企業(組織)をここでは「図工な企業」と呼びます。

人物や風景の絵の指導、どうすれば?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第5回】~

発想が浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


絵のかき方の指導が難しいです。人物のかき方や風景の遠近感など、どのように子どもに教えればよいのか分かりません。絵をかくことに苦手意識がある子どもも、上手なかき方を知ることで自信につながると思うのですが…。


まず、先生が「上手な絵をかかせたい」「かかせなければ」と心のどこかで思っていませんか。また、子どもが心から「目に見えるとおりに表したい」と望んでいるというより、「そういう表し方がいい」と思い込んでいるのかもしれません。

子どもは周りの大人の反応にすごく敏感です。幼少期から「写実的な絵=いい絵、うまい絵」という価値観に多く触れてきたとすれば、自然と刷り込まれてしまったということも考えられます。

そして、その価値観にとらわれたまま大人になり、また同じように子どもの絵を評価してしまう…ということが、繰り返されているのではないでしょうか。

年齢によって描画も変わる

まず大前提として、年齢が上がるにつれて描画も発達していく、ということを知っておきましょう。

1年生の担任の先生から、こんな相談を受けたことがあります。

「人をかくとき、腕を細い線でかいてしまうんです。棒人間みたいな。線を二本をかいて、その間を塗るってことができないみたいで…」

大人は、腕や体の厚み、立体感、空間の奥行きなどを認識できます。でも、それは子どもの頃からそうだったわけではありません。ましてや絵で分かるようにかくとなるとさらに難しいはずです。

1・2年生は、形の「輪郭」を認識し、それが描画にも表れ始める過渡期に当たります。

(教科書1・2上p.20-21「みてみて あのね」/令和2年度版)

こちらは1年生の絵の題材のページです。クレヨンの色でそのまま形を表している子もいれば、左下の玉入れの作品のように輪郭をとってから中に色をつけている子もいます。

例えば輪郭について「まだ意識にない」「まだそういう描画をする発達の段階ではない」という子もいることを知っておき、その子の表し方を認めていきましょう。

対象や空間の認識能力や描画の発達にはもちろん個人差があります。「この年齢になったら、このかき方ができていないとダメ」ということではありません。

子どもは、いくつもの題材の中で友だちと交流したり、新しい表し方を試したりして、自分の思いに合った表し方をだんだん見付けられるようになっていきます。いろいろな表し方があることを知った上で、どんな表し方をしたいかを自分で選んでいけるように支援することが大切です。

★【注】描画の発達段階について
子どもの描画の発達についてはさまざまな研究があり、もちろん個人差があります。時代とともに子どもたちを取り巻く環境も変化するので、一概に「この年齢だったらこのくらいかける」ということはいえません。しかし、実際の子どもたちの絵を研究した資料や書籍がありますので、それを知ることで「なんでかけないんだろう」「どう指導すればかけるようになるんだろう」というお困りや不安が少し楽になるかもしれません。
本ページの最後に参考書籍を紹介しています。Web上で見られるものもありますので、ぜひ参考にしてみてください。

【支援の例】学校の風景をかく絵の指導

「じゃあ、絵の授業で必要な指導ってなんだろう?」と思われた先生もいらっしゃるかもしれません。

6年生のこちらの作品を見てみましょう。みなさんはこの絵を見て、どんなふうに感じましたか?

(教科書5・6下p.26-27「わたしの大切な風景」/令和6年度版)

作者の児童は、この場所をかいた理由を次のように語っています。

毎朝、友だちが登校してくるのを、3階のあの場所からのぞいて待っている時の景色が心に残っていたのでかきました。なるべく遠近感がでるように、近くの右側の手すりの色をこくして、遠くの色をうすくしました(以下略)。

作者の児童にとって、思い入れのあるこの場所を表すために、階段の奥に下っていく感じや友だちとの距離を表すことがどうしても必要なことだったのだと分かります。まず何よりも最初に「その子の思い」があることが大切です。

では、この絵の作者のように、「階段が下っていく感じ、遠近感をかきたい」という子どもがいたとしましょう。複雑な階段の形や、遠い感じ・近い感じを表すのは、高学年でもとても難しいことです。どのような支援が考えられるでしょうか?

あくまで支援の一例ですが、私だったら一緒に階段のところに行き、その時の話を聞きながら実際に手すりに触ってみるよう促してみます。曲がっている感じ、だんだん下がっていく感じなどの形の特徴を、触ってみることで捉えられるように支援します。

★支援の例:一緒に触りながら形を確かめる

「(一緒に手すりを触りながら)ここまでまっすぐで、ここでガタンって落ちてるね」
「今はここの線をかいてるんだよね?この続きはどうなっているかな?」
「平らなところと、ちょっと出っ張ってるところがあるんだね」
「(子どもがかいた形を見ながら)あ、なんか下っている感じになってきたね」
「手すりの太さをだんだん細く表したんだね」

このように、子どもがかきたい対象とじっくり向き合い、自分の実感とともに形を見付けていけるように支援しましょう。子ども自身が「こんな感じがいいかも」と気付ければ、あとは自分で線や形を見付けてかいていけると思います。

■message 「あなたにしかできない表し方」ができるのが絵

私はいつも子どもたちに、「絵ってあなたにしかできない表し方ができるよ。とってもすてきだね」と伝えています。見たままそっくりなら、写真でもできますよね。

図工で育てたい「技能」は「大人にとって上手な絵、目で見たとおりの絵がかける力」のことではありません。“創造的な”「技能」なのです。その子が感じたことや見付けたことを、その子なりの線や形や色を選んで工夫して表していく力です。

子どもの絵を見るときは、子どもが感じ取ったことや表したかったことなどの「思い」に共感し、心を重ねるようにして見てみましょう。そうすれば、先生も子どもも楽しくてもっとやってみたくなる図工の時間になっていくのではないでしょうか。

★【参考】子どもの描画の発達に関する書籍
◎「子どもの絵の発達と道筋 子どもの絵の作品と説明」(東山明、清田哲男/著)
https://www.nichibun-g.co.jp/data/education/e-other/e-other013/
幼児期から小学生くらいの時期の描画の発達について解説しています。HP上で全ページ読むことができます。

◎「子どもの絵の世界 絵から読み取る発達の道筋とその指導」(東山明、清田哲男/編著)
https://www.nichibun-g.co.jp/data/books/search/?free_key=子どもの絵の世界
幼児期から18歳ごろまでの描画の発達について解説しています。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

「すきまちゃん」が絵本になります

2024年9月、弊社問い合わせ窓口に一通のメールが届きました。Gakkenの編集者の方からです。なんと、図画工作の教科書に載っている題材「すきまちゃんの すきな すきま」(※1)を基に絵本をつくりたいというご提案が!

それから1年。絵本づくりは着々と進み、いよいよ2026年2月に発行されます。

今回は上記メールの送り主であり、絵本の編集を担当した田中百合さんに、「すきまちゃん」の魅力を語っていただきます。

Gakkenで絵本づくりに携わっている田中百合さん。「教科書の題材ってすごく楽しそう。わたしもやってみた~い!」

いつもは塩対応な娘が……

おととし(2023年)の秋ぐらいに、小学校1年生だった娘が「すきまちゃん」を二人、持って帰ってきたんです。いつもは塩対応なんですけど(笑)、ちょっと得意気に見せにきたんですね。

すご〜くかわいくて、「なに、これ!!」って聞いたら、「『すきまちゃん』って言うんだよ」とうれしそうに教えてくれました。

一人は帽子をかぶっておめかししてニコニコしてて、もう一人はなんかびっくりしたような顔をしてますよね。同じにつくってもよさそうなものだけど、ちょっと違う顔にしてるんです。お洋服もそれぞれフェルトと紙を使ってつくってる。きっとつくりながら「この子はこんな性格でこんなことが好きで……」っていろいろ考えてたのかなって。

「すきまちゃん」の可愛さと、でき上がりの感じから、娘がノリに乗ってつくったことが想像できたんですよね。

娘さんが持って帰ってきた二人の「すきまちゃん」。おうちも、床が丁寧に色分けされていて、時計や冷蔵庫も付けられています。

そこで初めて教科書を見て、「『すきまちゃんが すきな すきま』ってなんてかわいいのー!」って感動しました。「これは絵本になる!」と自分の中で大盛り上がりしまして……。で、問い合わせフォームから連絡させていただいたというわけです。

そのあと「すきまちゃん」の発案者でもある南育子先生に絵本にする許可をいただき、いろいろやり取りをするようになりました。

子どもは「知ってる!」がうれしい

長年、絵本づくりに携わってきて、全然知らないものよりもちょっと知っているものに子どもが喜ぶ様子を見てきました。「知っていることが本に出てる、うれしい!」みたいな瞬間を知っているので、そういうものを絵本にしたいなって思っていました。

だから絵はリアルな学校にこだわりました。想像だけでかいて大人が見ていい構図を押し付けると「なんか、つまんない」ってなるんですよね。すごいな、子どもって。すぐばれちゃうんです。

自分が小学生だった頃とは学校もだいぶ変わっていますしね。今回は南先生と勤務されている業平小学校さんのご協力の下、図工室や音楽室などの様子とか、学校にどんな隙間があるのかとかを取材させていただきました。文をかく山本和子さんと絵をかくにしむらゆうきさんと3人でいろいろ見て回ることができて、ほんとありがたかったです。

物語も当初は、「最後にみんなでおうちをつくって、みんなの『すきまちゃん』が住めるようになりました、チャンチャン」って終わろうかと考えてたんです。でも南先生が「1年生だとここまでやるのはちょっと難しいかも」と。「絵本ならいいかな」とも言ってくださったんだけど、最終的に変えました。というのは、年齢に合ったものに子どもはピンとくる、なるほどと思って楽しめるっていうのが経験としてあったので、そこはこだわろうと思いました。

いかに読んだ子どもが絵本の中に自分がいるような気になれるのかをすごく大切にしました。

あと、図工をリスペクトしているので、言葉一つひとつに気を付けました。

田中さんの校正。「南先生と山本さんとにしむらさんがずっと並走してくださったから、言葉も絵もいい方向へ向かっていけたんです。」

例えば、最初は「すきまちゃんのつくりかた」とか「できあがり」っていうふうにしてたんですね。でも雑談しているときに先生が「図工ではここで『できあがり』ってしないんですよ」って言われて、すごくびっくりしたんです。図工や美術って、ものをつくるところがゴールだとずっと思っていたので。

「すきまちゃん」をつくって、隙間を探して、その隙間が特別な空間になるっていうところが図工なんだよって先生がおっしゃって、「なんてすてき!」って思って(笑)。そこは変えました。

子どもと子どもの周りにいる人に喜んでほしい

個人的にはこの絵本の中では夜の部分が好きなんです。夜に「すきまちゃん」たちが学校の中を動き回っていたらさぞ楽しいだろうって(笑)。

今はどこもかしこも明るくて、ネットで調べればなんでも分かる。それって楽しいところもあるけど、すべてに答えが出ちゃうというか、うやむやにできないっていうのはたいへんだろうなとも思っています。夜だけが子どもに残された謎の時間だと思うんです。寝ている間のことは分からないから。そこで「こんなことがあるかもしれないな」ってことは残っていてほしい。ファンタジーなところはとことんファンタジーにしたいなって。

この絵本は未就学児も対象にしているんです。年長さんがもうすぐ小学生ってなったときに、わくわくできて、さらっと小学校のことも分かるような本になるといいなって思っています。

子どもがどこかに自分を投影して最初から最後まで集中して読んで、「これ、つくってみたい」とか「授業でやったよ」とか、「うちの隙間はどこかな」って探してくれたりとかしてくれたら、すごくうれしい。とにかく子どもにウケてほしい。芸人さんみたいですけど、すべりたくない(笑)。

子どもと子どもの周りにいる人も喜んでほしい。だから、表紙ひとつとってもいろいろなパターンで検討します。

企画を考えるときは、子どもが喜ぶといいな、子どもの周りにいる人が喜ぶといいなってことをものすごく考えます。

大人が、親御さんや先生が、わくわくして読んでいると、子どもも楽しくなるのをこれまでも見てきました。だから大人にも読みやすくしないと、と思っています。名著はテキストがいい。というか、普通にただ読んでいるだけなのに、「あれ?読むのうまくなった?」って感じになります。いいテキストはいいリズムで読めるから、それで子どももすごく聞いてくれてるっていう循環が生まれていると思うんです。だから、そういうところはとても気を付けています。

「題材を手渡す」という思いに感動

絵本の企画を立て始めた頃、南先生から図工の研修会の案内をいただいたので、参加させてもらいました。そこで先生方がおっしゃっていた「題材を手渡す」という言い方にすごく感動したんです。

今まで授業って先生が上から指導して、子どもはそれを学ぶみたいに思っていたんですけど、そこにいた先生方は「この題材をどういうふうに手渡すと、子どもにいい感じに伝わるだろうか」ということにすごく心を砕かれていた。

わたしは今は市販の絵本をつくっていますが、その前はずっと直販で園に配る月刊の絵本を編集していたんですね。幼児期って月齢を追って子どもの成長や興味に合致していないと、すぐ「スン」としちゃう。

そういう経験を積み重ねてきたので、小学校でも子どもの目線に合わせて、子どもが自ら「やりたい!」ってなるように、手渡し方をすごく考えながら授業をつくっていることに感動しました。気が付いてから改めて教科書を読んでみたら、教科書もそういうふうに書いてあるって気付いて、また感動して。

分かるとか分からないじゃない、ほかの教科とは違う子どものよい面を見られる、いろんな子どものいろんな姿をよしとできる教科が図工なんだな、それってすごく今っぽいなって、胸にきました。

とはいえ題材によっては上手下手が出てしまうときもあると思うんですね。だけど、「すきまちゃん」はみんなが等しく「うちの子、いちばんかわいい」って思える気がするんです。だから、印象に残るというか。

本の見返しにいろんな「すきまちゃん」が載っていたら楽しそうというアイデア。

しかも、なんでもないことが、なんでもないことじゃなくなるっていうことが大発明だと思います。すごい価値観の創出ですよね。「すきまちゃん」がいるだけで、ただの隙間が、例えばほこりがたまっているだけの隙間が、秘密の通路の入り口になったり、ふわふわのおふとんになったりだとか想像できるのって本当に素晴らしいですよね。

なんか世界が明るくなるというか。「これしかない」って思うより、「ああもこうも考えられる」っていうふうになると、子どもも生きやすくなるんじゃないかな。こういった経験ができる授業って本当にいいなって。親としてはそう思います。

「すきまちゃん」。あー、かわいい。見れば見るほどかわいい!!(笑)

■書籍情報
すきまちゃんのすきなすきま

原案:南育子
作:山本和子
絵:にしむらゆうき
発売日:2026年2月13日(金)
サイズ:B5判
値段:1500円+税
ISBN:978-4-05-206262-9


※1:隙間テープなどを利用してつくった「すきまちゃん」が喜びそうな隙間を探して、いろいろな隙間の面白さを味わう題材。令和6年度版『図画工作』1・2上p54-55に掲載。

田中 百合(たなか・ゆり)

編集者。2005年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。同年4月(株)学習研究社(現(株)Gakken)入社。幼児向け絵本を中心に企画編集に携わる。9歳の娘がいる。好きな食べ物は餃子。趣味はお茶碗づくり。

思いはあるのに技能が追いつかない…。不器用な子どもにどう指導する?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第4回】~

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


表したい思いはあるのに、手先や指先が不器用で、技能面で追いつかずいら立っている様子の子どもがいます。どのように支援すればよいでしょうか。


用具の使い方を言葉や映像だけで伝えようとしていませんか?先生が用具に手を添えていっしょにやるなどして、感覚を体で覚えられるように伝えましょう。

「ちょうどいいぐらい」が分からない

大人も同じだと思うのですが、用具を使うときの体の動かし方や感覚は、実際にやってみて「なるほど、こういう感じか」と分かるものです。「ちょうどいい力加減」を言葉だけで説明するのは難しいです。

子どもたちも同じで、特に初めて出会う用具であれば「どのくらいがちょうどいいのか」が分からないことがよくあります。微調整の具合が難しいのです。

例えば彫刻刀であれば、持ち手と反対の手を添えて刃を押し進める感覚や、彫りやすい「深さ」というのがありますが、自分でやってみないとその感覚はなかなか分かりません。

彫る角度が深すぎて刃が前に進まないと、無理に彫ろうとして力を入れすぎてしまうことがあります。反対に、刃が怖くて力を入れられずうまくいかない、という場合もあります。

そうなると表したいことが思うように表せず、「彫刻刀は嫌い!」「怖い」となってしまいます。

そんなときは、先生が手を彫刻刀に添えて一緒に刃を動かし、「このぐらいの角度で」ということを身体感覚とともに伝えるようにしましょう。

「ほら、できたね!」
「いい音で彫れたね」
「さっきと比べてどう?」
「きれいな彫り跡になったね」

…と声かけしながら、「ちょうどいい角度で彫れば、力を入れなくてもちゃんと前に進むんだ」ということが分かるように伝えましょう。

そうすれば子どもたちは、「そうか、この感じでいいんだ」と分かり、今度は自分でやってみよう、と安心して活動へ進むことができます。

左右の手の使い方と力加減

図工で使う用具は、右手と左手が違う動きをするものが多くあります。

例えばはさみやカッターを使うとき、どうしても子どもは「切る」ほうの手に意識が向きがちです。

例えばはさみで紙を切るとき、はさみを切りたい方向に動かして切ろうとしている子どもがいます。でも実は、紙を動かしながら切ったほうがスムーズに切ることができます。

また、カッターで紙を切るときは、カッターを持っていないほうの手で紙をしっかりと押さえることが大切です。

このように、意識が向きづらいほうの手にコツがある場合も少なくありません。

また、「力を入れれば切れる」と思っている子もいます。
「カッターはやさしく軽く持つといいよ」「しっかり材料を押さえるといいよ」など、左右の手の使い方や力加減、意識が向きづらいほうの手に注目させる声かけも大切です。

6年間を通して繰り返し使う

用具は繰り返し使うことで、感覚を体で覚えていくことができます。

一つの題材で終わりではなく、6年間を通して繰り返し使うことで身に付けられように計画しましょう。

例えば6年生の題材「1まいの板から」(5・6下p.32)では、3~5年生で学んできた金づち・のこぎり・電動糸のこぎりの技能を総動員して取り組みます。

描画材も同様で、繰り返し使うことで技能が身に付き、自分の表したい感じに表せるようになっていきます。すでに使ったことがある描画材は、子どもが使いたいときにすぐに手に取れるように準備しておくとよいでしょう。

例えば高学年の絵の題材で、

  • 物語から想像を広げて絵に表す題材(5・6下p.34「言葉から想像を広げて」)
  • 生活の中で心に残っていることを絵に表す題材(5・6上p.24「あの時あの場所わたしの思い」)

…のように、絵の具をメインとする題材でも、低中学年で学習しているそのほかの描画材も用意しておくとよいでしょう。クレヨン、コンテ、パステル、色鉛筆、金網、歯ブラシなどです。

手に取れる場所にあることで、「そうだ、あれが合いそうだな」と自分のイメージに合う表し方を思い付くことにもつながります。

とくに高学年では、自分の表したいことに合った用具や表し方を自分で考え、選ぶことが大切です。そうした経験を6年間を通して自然に積んでいけるような環境を整えましょう。

用具と出会うワクワクに寄り添う

私がのこぎりを使った授業をしたとき、子どもたちは「ひし形に切りたい」「ハート形に切れるかな」など、まっすぐ切る以外の切り方にもチャレンジしたいという声がたくさん出てきました。

大人の感覚からすると「それはちょっと難しいんじゃ…」と心配になることもあるかもしれません。けれど、子どもたちは初めて出会う用具にワクワクしていますから、いきなり否定するのではなく、「それはすごいアイデアだね。チャレンジしてみる?」と気持ちを応援してあげたいですね。

自分でやってみて、「この用具を使うとこんなことができる。でもこれは難しい」と用具の特性を実感を通して学んでいくことも大切です。

安全面に十分気を付けながら、子どもたちの挑戦を見守りましょう。

■message コロナ禍を経て変化した子どもたちを取り巻く環境

手をかざすだけで水が出たり、ワンタッチで絵の具のフタが開けられたり…。日常生活のさまざまな場面で、両手を使う動作が減ってきています。コロナ禍を経て、その傾向はますます加速したように思います。

また、熱中症対策で外遊びを制限される日が増え、全身を使って遊んだり運動したりする機会も減っています。成長期の子どもたちにはとても重要なことです。

子どもたちの体は、学年が上がるにつれて発達していきます。体の軸が安定していくとともに、肩・ひじ・手首・指先までがスムーズに連動し、左右で異なる動きに対応したり力の入れ具合を調節したりできるようになっていきます。

図工では、低学年ははさみやカッター、中学年は金づちやのこぎり…というように、各学年の体の発達に合わせて、その時期に適した用具を学んでいけるように設定されています。

危ないから、不器用だからやらせない…ではなく、安全面に気を付けながら、子どもが「表したい形」や「いいなと思う形」にどんどんチャレンジできるようにしましょう。

実際にやってみることで、子どもたちは「今まで使ったことのない体の使い方」を掴んでいくはずです。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

発想が苦手な子どもになんて声をかけたらいい?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第3回】~

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


発想することが苦手な様子で、ずっとかたまっている子どもがいます。どんな声かけをすれば、動き出せるでしょうか。


一見「かたまっている」ように見える子どもも、もしかすると「考え中」なのかもしれません。かたまっている理由もそれぞれ異なります。これまでの図工や学級での様子も思い出しながら、「なぜかたまっているのかな?」と理由を考えてみましょう。

かたまっている理由を考えよう

★子どもの様子をよく見て考えよう

  • 導入の「楽しかったこと何かあったかな」「そのときどんな気持ちだったかな」という問いかけが漠然としていて、イメージが沸きにくいのかも。
  • 表したい思いはあるけど、それを言葉にしたり絵にかいたり、表に出すことが不安なのかも。
  • イメージはあるけど、どんなふうに表したらよいのか困っているのかも。
  • この子はスロースタートなことが多いから、今はじっくり考えている段階なのかも。
  • 材料を触りながら思い付く題材はすぐに動き出していたな。手を動かしながら考えるほうが、表したいことを見付けやすいのかも。
  • よく見るとキョロキョロと友だちの様子を見ているな。手がかりを探しているのかも。
  • もしかして…忘れ物をしたことを言い出せなくて困っているのかな?

かたまっている理由が違えば、必要な支援も変わってきます。
「この原因ならこの手立て!」と一つに決まるわけではもちろんありません。

ここでは、私が実践している支援の例をいくつか紹介したいと思います。

①言葉+具体物で伝える

特に低学年では、言葉だけで何かを理解したり、自分の思いや考えを言葉で表現することが難しい場合が多くあります。また、抽象的な「楽しい」「うれしい」「思い」「気持ち」といった概念をイメージすることが苦手な子どももいます。

材料を実際に操作して見せながら説明する、作品例を見ながらいいなと思うところや気になるところをいっしょに話す、など言葉+○○で伝えることをまずは意識してみましょう。

②具体的な選択肢を示す

長時間かたまっている様子だったら、なにか一つ行動できそうなことを提案してみましょう。例えば、クレヨンや色画用紙などの色を選んでみるように促す、などです。

★例えば:クレヨンの色を選んでみるよう提案する

T「どの色を使ってみたい?」
T「好きな色、教えて?」
T「いくつか選んでみてもいいね」
T「ほかの色も確かめてみる?どの色が合いそうかな」

このとき気を付けたいのは、「これを使ってみたら」と先生が決めてしまわないことです。それだと本人の意思とは関係がなくなってしまいます。

小さなことでもいいから、子どもが自分で選ぶ・決めることを大切にしましょう。小さな「選べた」「できた」の積み重ねが、次の活動のエネルギーになります。

③丁寧に、共感的に聞いてみる

例えば、生活の中で楽しかった、心に残った出来事を絵に表す題材で、「かきたいことがない」と言っている子どもがいたとしましょう。

「楽しかったこと、ある?」という漠然とした問いかけでは思い浮かばなかったのかもしれません。そんなときも、ちょっとずつ共感的に聞いていくと、その子の中にある自分の気持ちに気付くことがあります。

★子どもとお話ししながら、共感的に少しずつ聞いてみる

T「楽しかったこと、最近何かあった?」
C「うーん、別にない…」
T「そうなんだ。休み時間、友だちと何してるの?
C「教室でなんか、じっとしてる」
T「へぇ。じっとして、何してるの?
C「友だちのこと見てる」
T「へ~、そうなんだ!面白そうだね。みんなどんなことしてたの?

…これはあくまで一例ですが、こんなふうに、子どもと話しながらいっしょに見付けていくことから始めてみましょう。

④お試し紙を用意する

「材料を触って手を動かしながら考えた方が思い付きやすい」
「計画的に見通しをもって進めたい」
「友だちの活動を見て考えたい」

子どもによって、自分に合った学び方はいろいろです。
自分の学び方で進められることで、安心して活動に入っていける場合があります。
子どもが自分に合った学び方を選択できるように準備しておくことも大切です。

支援の例として、私はどの授業でも、お試し用の小さめの紙を用意しておいて、使いたい子はすぐ手に取れるようにしています。

子どもによって使い方はさまざまで、

  • 大きな画用紙にかく前に、構図などのイメージを確かめたい
  • 工作の題材で、つくりたい形や設計図をかいて考えたい
  • コンテ、パステルなどの描画材でかいたときの感じを確かめたい
  • 切ったり貼ったりしながら考えたい

…など、発想の手がかりを見付けるためのアイテムとして使うことができます。
写真はいろんな色の紙を用意していますが、題材によっては白い紙だけにするなど、大きさや色を考えるとよいでしょう。

自分に合ったやり方が違うのは、大人も同じですよね。
日頃から子どもたち一人ひとりの様子をよく見取って特性や個性を理解することで、その子に合った声かけや支援が徐々に思い浮かぶようになっていきます。

■message 「待つ」ことも大事

私は、「かたまっているな」というより、「何か考えているんだな」と思って子どもたちを見ています。

子どもに「今、何か考えているところ?」と尋ねてみることもあって、「うん」と答えてくれることが多いです。今まさにすてきなことを考えている最中なんだなと分かるので、安心してしばらく見守ります。

何もしていないように見えると心配で、「みんなと同じように動き出せるように支援しなきゃ!」と焦ってしまいがちです。先生自身が時間と心に余裕をもち、「待つ」「見守る」姿勢でいることも大切です。

「待つ」=「放置」ではありません。視界の端で、その子の様子をよく見ておきましょう。隣の子の活動を見ている、友だちの様子や材料置き場を見に行くなど、何かしらのアクションが見られるかもしれません。

そのタイミングで声をかけてみたり、また離れたり、「つかず離れず」の距離で見守ったり、思いに寄り添ったりしましょう。

それでも何の動きも見られないときは、困っていることを丁寧に聞くことから始めてみましょう。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

【あべ先生に聞く!図工のABC】余白いっぱいの絵をもってきて、もう終わったという子どもにはどうしたら?

今さら聞けない? 図工のキホン、あべ先生に聞いてみよう。

 「図工で大切にしていることって?」「子どもの意欲を引き出すには?」などなど、図工に関する素朴な疑問やお悩みを、ABCシリーズでおなじみのあべ先生に聞いてみました。

「終わりました」ともってきた余白の多い子どもの絵は、どうしたらよいでしょうか。


「余白恐怖症」は誰かというと、子どもではなく、ほとんどの場合が先生なのです。それも低学年や幼児期を担当する先生に多いのです。子どもは、四つ切の画用紙に「伸び伸び元気に画面いっぱいに!」かくものだという観念が先にあるためです。具体的に子どもの話を聞きながら、子どもの思いを受け取ることが大切です。その上で、技術的な問題でかけないのか、発想が広がらず終わってしまったのか、子どもとのズレを埋めていく対話が必要になります。でも最終決定は「先生ではなく子ども」であることが基本です。

子どもの背後にある心を察知する

 低学年の写生画や生活画などの指導で、「ここ塗ってないでしょう!」「白いところがなくなるように塗っておいで!」と指摘することがあります。時折ですが、地面と空の中間にある部分に何も塗られていないことを先生が気にして、意味もなく水色や黄色を塗らせてしまうことがあります。

 ある子どもが塗っていない部分を指さし、自信満々に「先生!ここは、空でもないし、土でもないんだ、空気だよ」と説明していました。子どもには、自分なりの理由があるのです。

 白い大きな画用紙は、子どもに心理的な圧迫を与えている場合があります。「ドキドキ」しながらかくので、小さくなってしまう場合や線が細く弱弱しくなってしまう場合もあります。

 ですから、いくつかの大きさの異なる画用紙を用意して選択させたり、小さくかいた複数の絵を、一つの画用紙に貼ったりするような方法もあります。子どもの思いに対して、「自分のかきたいことはかけているの?」「困っていることはない?」「もっと、ここをこうしたいことはない?」など聞き取ったり、いくつか提案したり、選択させる方法も考えられます。

 もちろん、高学年の子どもの写生画に余白があってよいとはいいません。なぜなら、高学年になると手前と、その奥にあるものなど、重なりや遠近にも気付くようになるからです。ただし、そこに至るには一足飛びにはいきません。

 子どもの表現の発達を踏まえると、中学年ぐらいから観察している事物と背景となる空間の奥行などを3次元で捉えることができるようになりますが、それを2次元の平面の世界にかくのは簡単ではありません。

 ですから、子どもは試行しながら発見し、理解していくのです。低学年は、思いのままに「かく絵」と考え、中学年からは、自分の思いを積み上げていくような「つくる絵」と考えて、指導を心がけることが大切です。

気付きを生む指導を大切に

 図画工作に「気付く」指導と「教える」指導があるとしたら、気付く指導を大切にしたいと考えています。問題を発見することや問題意識をもつことは、どの教科においても重要なことです。「できるように指導する」というのは、「気付きを生む指導をする」ということに、他なりません。違和感をもつことや、これをどうしたら表せるのかという疑問が湧いて初めて、解決への方向が定まるのです。見守りながら子どもの疑問に応えたり、表現方法を支援したり、一人一人に寄り添う指導が大切です。

 このコーナーは、ABCシリーズからピックアップしたページを基に、再編集して掲載しています。今回は、「造形のABC」p.46、「題材のABC」p.37をピックアップ。

あべ先生と一緒に4コマ漫画で学ぶ「ABCシリーズ」


あべ先生による「ABCシリーズ」は、4コマ漫画で子どもや図工のことを学べる冊子で、累計30万部を発行。4コマ漫画と温かい語り口のコラムによる構成で、長年にわたって小学校の先生方に支持されています。Webサイトで全編をお読みいただけます。また、冊子でお送りすることもできます。
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阿部 宏行(あべ・ひろゆき)
1954年生まれ。元北海道教育大学岩見沢校教授。中央教育審議会 初等中等教育分科会教育課程部会 幼児教育部会委員、同芸術ワーキンググループ委員(平成29年)、文部科学省「学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者主査(小学校図画工作)」(平成29年)などを歴任。著書に子どもや図工のことを学べる『ABCシリーズ』(日本文教出版)、『つくって楽しい 届いてうれしい 絵封筒のABC』(日本文教出版)、絵本『どこにいるの』(文芸社)など多数。

お手本を見せるとまねしてしまう…。~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第2回】~

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


作品例やお手本を見せると引っ張られてしまい、「まね」で終わってしまう子どもがいるのではないかと心配です。見せないほうがよいのでしょうか。見せるとしたら、どんなところに着目させるとよいでしょうか。


作品例を見せるときに、「こういう作品をつくろう」と子どもたちに伝わってしまっていませんか?見せる場合は、題材のねらいに合った問いかけをすることが必要です。

見せることで、何に気付いてほしいのか

活動の見通しをもたせたいときや、発想のヒントにできるように、作品例を見せることが有効な場合はもちろんあると思います。ただ、「今日はこれをつくるよ」と伝わってしまうと、当然子どもたちは「そうか、こういうのをつくるんだな」と思ってしまいます。

「見せる/見せない」が重要なのではなく、「なんのために見せるのか」をしっかり考えましょう。見せることで、子どもたちにどんなことに気付いてほしいのかが大切です。

私も、授業のはじめに教科書の作品を子どもたちと一緒に見ることがよくあります。
そのときは、「どんなことを考えながらかいたのかな」「どんな工夫をしているのかな」など、その題材で発揮してほしい資質・能力につながるような質問をします。
そうすることで、子どもたちが「こんなことを頑張りたいな」と思えるようにしています。

教科書を例に:「こんなことあったよ」

たとえば、教科書の「こんなことあったよ」(1・2下p.26-27)を例に考えてみましょう。2つくらい作品を取り上げて、子どもたちといっしょに見ながらお話しするといいかもしれません。

★子どもたちとお話ししながら絵を見よう

◎「すいすいペンギン」を見ながら

T「お友だちのかいた絵を見てみよう。どんな楽しいことがあったのかな
C「ペンギンだ!私も見たことあるよ」
C「すべり台をすべって水中に飛び込んでる」
T「ほんとだね。なんでペンギンさんをかこうと思ったのかな
C「ペンギンのいろんな動きが面白かったからじゃないかな」
T「そうかもしれないね。ほかにも見つけたことはあるかな
C「みんなで見ているよ。きっと友だちといっしょに見たんだ」

◎「かぞくでりょかんでおひるねをしたよ」を見ながら

T「じゃあこっちの絵はどうかな?どんなことがあったのかな
C「旅館に泊まって、寝たときが楽しかったから、かいたんじゃないかな」
Tなんで楽しそうって分かったの?
C「顔がなんだかうれしそうだから」
T「ほんとだね。周りはどうかな?
C「リュックやかばんだ。旅行に必要ないろんな荷物が入ってるんだ」
T「きっとそうだね。この黒いのは何かな?
C「テレビだ!電話もある」
C「知ってる!旅館に泊まったとき、テレビがあったよ」
C「布団にもなにかかいてある。かわいい布団だね」

…こんなふうに、子どもたちは見つけたことをお話しするのが大好きです。

この題材で大切にしたいのは、「楽しかった」「おもしろかった」「頑張った」といった子どもたちの「気持ち」そのものです。

作品例を見せるときは、作者の「気持ち」が絵のどんなところから感じられるか、子どもたちといっしょに見付けることを楽しんでみましょう。「どんなことが楽しかったと思う?」と問いかけたり、「周りにもなにかかいてあるね」とメインではないところにも気付けるよう促すとよいと思います。先生が気付いていなかったことを子どもたちが見付けてくれることもたくさんあります。

絵を見ながらお話しする中で、子どもたちは自分が実際に体験したあんなことやこんなことを思い出し、「私はあれをかきたい!」とうずうずしてきます。そうなれば、ほとんどの子どもは「作品例のとおりにかこう」とはならないのです。

「まね」から始まってもいい

「友だちのまねばかりしている」と不安に思う先生もいらっしゃるかもしれません。まず、「まねする」こと自体は決して悪いことではありません。友だちの発想やアイデアをよく観察できている証拠ですね。

また、なんとなく「まねしている」ように見えても、お花の色だけ変えているとか、ちょうちょをかき足しているとか、よく見ると「その子らしさ」が絵に出てきていることがあります。それをめざとく見付けて、「ちょうちょがいるんだね」「そんなことも考えてたんだね」など、認める声かけをどんどんしていくと、もっと自分の思い付いたことをかきたいという気持ちになっていくはずです。

最初はまねから始まってもだんだん変わっていくので、それを見付けてほめる声かけをどんどんするとよいでしょう。

■message
「まね」は、自分を表に出すことへの不安が根底にある場合が多いと感じています。

たとえば、「同じキャラクターばかりかく子どもがいて気になる」というお悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。もしかすると、「そのキャラクターならかける」という安心感があるのかもしれません。きっと、そのキャラクターをかくことで周りからほめられた経験があるのだと思います。

図工の時間は、「それいいね」「すてきだね」「そんなこと考えたの?すごい!」とお互いを認め合う言葉がたくさん聞こえてくるといいですね。そういう雰囲気づくりが、すべての活動のベースになります。

先生や友だちから認めてもらう声かけをたくさんもらうことで、子どもは「自分の思ったことをかいていいんだ」と自信をもてるようになっていきます。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

「先生、これでいいですか?」~【新連載】畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども~

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。


子どもが「先生、これでいいですか」と作品を持ってくるときがあります。なんと答えたらいいか分からず、悩んでしまいます。自分なりの表現をもっと追求したくなるような言葉をかけられたらいいなと思うのですが…。


子どもはなぜ先生に聞いてきたのでしょうか。「これでいい」を決めるのは「先生」だと思っているからかもしれません。授業中の言葉が「指示」ばかりになっていませんか?振り返って考えてみましょう。

作業手順だけを伝えていませんか?

授業中、子どもたちにどんな言葉で活動内容を伝えているか振り返ってみましょう。たとえば「はじめに輪郭線をかいて、次に絵の具で色を塗って、最後に背景を塗りましょう」なんて作業手順を伝える言葉や板書ばかりになってしまっていませんか?

もしそうなら、子どもたちは先生に言われたとおりに「作業」をこなすだけなので、当然「これでいいか」を決めるのは先生、ということになってしまいます。

図工は、大人がいいと思う作品をつくらせるための時間ではありません。

子どもたちが自分の中にある思いに気付き、表したいことを見付けられるように促す声かけを一緒に考えていきましょう。

子どもに問い返し、お話ししよう

もし子どもたちが「これでいいですか」と聞いてきたら、いっしょに作品について話をしてみましょう。

★子どもとお話ししながら、思いを引き出そう
「いちばん好きなところはどこかな?理由も教えてくれる?」
「そのとき、どんなことがあったのかな?」
「こだわったところを教えて?」
「なるほど!○○のイメージを表したかったんだね。それならどんな色や形がいいかな?」

本人も、自分の心の中にある表したいことやイメージをうまく掘り起こせていないときがあります。子どもとお話ししながら「自分はどうしたいのか」という思いを聞き出し、「そうなんだね」と思いを受け止めてあげましょう。そうすることで、子どもは自分の気持ちに自信をもち、次の「やりたいこと」が少しずつ出てくるはずです。

「手順」をやめたら、子どもたちの「言葉」が変わった!

知り合いの若い先生から、「『うごいて楽しいわりピンワールド』(教科書3・4上p.12-13)をやるんですが、どのように授業を進めたらいいか悩んでいて…」と相談を受けたことがありました。

その先生は、「作品例を見せて、割りピンの使い方を説明して、つくり方を説明して…」と手順を示していく授業をイメージしている様子でした。

そこで、「いろいろな大きさや形の紙を用意しておいたらどうかな?」「割りピンを使ってできる動きを試す時間をとったらどうかな?」とアドバイスしたんです。

授業後、その先生が「これまで聞いたことのないような言葉が、子どもたちからたくさん出てきたんです!どんどん自分たちで工夫していくんです!」とうれしそうに報告してくれました。聞くと、次のような言葉だったそうです。

★「手順」をやめて、変化した子どもたちの言葉
「先生、○○を使いたいんだけど、ありますか?」
「先生、ここをこうしたいんだけど…」
「先生、こんなこと思い付いたよ!見て見て!」

実際に動かしたり試したりする中で、それぞれの思いやアイデアが生まれてきたのですね。子どもたちの心からの主体的な言葉が自然と出てきたのだと思います。

その先生は、これまでは「最初に見せた作品例と同じような作品ばかりができあがってしまう…」と悩んでいたそうなのですが、今回は「子どもたちの動きも言葉も全然違って、すごく楽しかったです!」と話してくれて、私もうれしく思いました。

「手順」で進める授業はたしかに「安心」なのですが、子どもも先生も実はぜんぜん楽しくないんです。授業をする先生自身が楽しんでいるということも子どもに伝わりますから、とても大切なポイントです。

■message
実は、先生に言われたとおりに作業するだけのほうが子どもたちはとってもカンタンなんです。だって、あんまり考えなくてもできちゃいますよね。

「じょうずな作品をつくらせなきゃ、かかせなきゃ」と焦ってしまっていませんか?図工で大切なことは、子どもがめいっぱい心を動かして「やってみたい、表してみたい」と思いながら活動することです。

どの子も頑張りたい気持ちでいっぱいです。最初はうまくできないのが当たり前。試したり、友だちと交流したりする中で、「いいこと見付けた!」「こんなことを表してみたい」「もっとこうしたい」という気持ちが生まれていきます。

子どもが見付けたことをしっかりと受け止め、応援し、支えていきたいですね。


畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。

【あべ先生に聞く!図工のABC】意欲を引き出す題材名とは?

今さら聞けない? 図工のキホン、あべ先生に聞いてみよう。

 「図工で大切にしていることって?」「子どもの意欲を引き出すには?」などなど、図工に関する素朴な疑問やお悩みを、ABCシリーズでおなじみのあべ先生に聞いてみました。

子どもの意欲を引き出す題材名は、どのように考えればいいですか?


子どもたちの活動を観察してみましょう。どんな言葉を使い、どんなことに関心があるでしょうか。そこに子どもの心を動かす題材名のヒントが隠れています。子どもは身体性を感じる言葉がお気に入りです。「だんだん」「どんどん」などの活動の広がりを感じさせる言葉や「ぐるぐる」「ころころ」などの行為の楽しさや、動きの面白さ、「ふわふわ」「キラキラ」などの材料の質感や様態が発想を刺激します。

子どもが使っている「言葉」に注目

 学びは喜びです。子どもの造形活動を観察すると、子ども同士で通じ合う「言葉」があります。決して音声として発せられたものだけではありません。まなざしやうなずき、つぶやき、ささやきなど、身体を基にした「言葉」があります。相手に伝えたい言葉もありますが、自分自身に発するような言葉の中にも、子どもの資質・能力が潜んでいます。「これ!なんか、いい!」もその一つです。題材名も、言葉を介しながら子どもの意欲に火を灯す働きがあります。「トントンギコギコ」などは、木を材料にしながら、金づちやのこぎりで、用具を用いて自分の思いを実現する様子まで浮かびます。ますます期待感がふくらみます。

子どもの心に触れる題材名に

 題材名には、「トントンギコギコ」のように、おおよその授業内容がイメージできることはもちろん、つくりだす喜びを期待させる「わくわく感」が大切です。また、題材名は子どもたち一人一人のよさを生かす豊かな学習活動に誘う働きをしています。また、「このような活動はどうですか」「こんな活動もできますよ」というように、表現の発想や構想を膨らませる提案でもあります。

 「新しい学力観に立つ実践事例」(※1)には、「楽しみ色に輝く空にはしごをかけてのぼったら……、そこは想像もできなかった空の世界」などの題材名が並んでいます。また、補助的な題材名や複数の題材名を付けたりして、子どもの思いを広げたり、具体化するようなことも考えられます。ですから、決まりきった「運動会の絵」などという題材名ではなく、「(運動会での)忘れられないあの瞬間!」など、子ども一人一人の心に届く題材名が大切です。

 このコーナーは、ABCシリーズからピックアップしたページを基に、再編集して掲載しています。今回は、「題材のABC」p17をピックアップ。

あべ先生と一緒に4コマ漫画で学ぶ「ABCシリーズ」


あべ先生による「ABCシリーズ」は、4コマ漫画で子どもや図工のことを学べる冊子で、累計30万部を発行。4コマ漫画と温かい語り口のコラムによる構成で、長年にわたって小学校の先生方に支持されています。Webサイトで全編をお読みいただけます。また、冊子でお送りすることもできます。
電子ブック・PDFで読む
冊子の送付を依頼する

※1:文部省『新しい学力観に立つ図画工作の学習指導の創造 小学校図画工作指導資料』日本文教出版 1993

阿部 宏行(あべ・ひろゆき)
1954年生まれ。元北海道教育大学岩見沢校教授。中央教育審議会 初等中等教育分科会教育課程部会 幼児教育部会委員、同芸術ワーキンググループ委員(平成29年)、文部科学省「学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者主査(小学校図画工作)」(平成29年)などを歴任。著書に子どもや図工のことを学べる『ABCシリーズ』(日本文教出版)、『つくって楽しい 届いてうれしい 絵封筒のABC』(日本文教出版)、絵本『どこにいるの』(文芸社)など多数。