ティーンエイジ・パパラッチ(2010・アメリカ)

c2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

(C)2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

 まだ10代のころから何かに夢中になれることは、いいことかもしれない。もちろん何でもいいという訳ではないけれども。
 ハリウッドに住む13歳の少年が、映画やミュージシャンなどのスターやセレブを追いかけて写真に撮る。もちろん肖像権は関係ない。時には隠し撮りもする。ゴシップ雑誌がその写真を買う。それが面白いテーマなら1枚1000ドル以上にもなる。撮る方はパパラッチと呼ばれる。
 フェデリコ・フェリーニ監督の50年ほど前の映画に「甘い生活」があり、その中にゴシップ記事を書く記者が出てくる。有名人にまとわりつく蚊のようなところから「パパラッチ」というのだそうだ。事故死したとされるダイアナ王妃を追いかけたのも、イギリスのパパラッチだった。
 そのパパラッチの少年、オースティン・ヴィスケダイクを描いたドキュメントが「ティーンエイジ・パパラッチ」(クロックワークス配給)だ。彼は日本でいうと中学生になったばかりの年齢だろう。この仕事は大人の世界で、まっとうなものとは思えない。
 そんなオースティンに興味を抱いたのがハリウッドのスター、エイドリアン・グレニアーである。彼は、映画「プラダを着た悪魔」でのチョイ役のあとテレビで大ブレイクした俳優だ。エイドリアンは、撮る側のオースティンにカメラを向けることで、そもそも、なぜパパラッチが存在するのかを考えようとする。
 なぜ彼が、大人に混じって夜中までこのような仕事をするのか。学校の勉強はどうなっているのか。両親はどう思っているのか。著名人とパパラッチの関係は、などなど。
 スターやセレブはパパラッチを毛嫌いするが、彼らの中には迷惑半分や売り込み半分で、心よく思ってはいないけれどやむを得ないと諦めている人もいる。もちろん、パパラッチのおかげでそこそこ有名になった人もいる。

c2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

(C)2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

 両親が離婚したオースティンは、学校に通いながら父親と母親の家を行き来している。パパラッチになるきっかけは、パリス・ヒルトンをカメラで撮ろうとする群れを見てときめいたことから。そして最初に撮影したのがエイドリアンだった。
 母親は息子オースティンを信頼している。学校の勉強はちゃんとする、酒やドラッグには手を出さない、というのが条件だ。レストランでパパラッチはお断りと言われた父親は、息子のパパラッチ稼業をよくは思っていないようだ。オースティンは、「ぼくは自由だがそこには責任がある」と考えている。
 映画スターのマット・デイモンや、ウーピー・ゴールドバーグたちはパパラッチを毛嫌いしている。ウーピー・ゴールドバーグは言う。「写真を撮るならアニー・リーボヴィッツくらいの写真を」と、手厳しい。パパラッチたちは反論する。「スターやセレブは、名前を売っての仕事。そこにプライバシーはない」と。
 エイドリアンは、パパラッチの視点からスターやセレブを見ようとする。そして自らオースティンに教えを乞い、取材に同行、パパラッチの仕事がたいへんな時間と労力のいることだと感じるようになっていく。

(c)2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

(C)2009 RECKLESS PRODUCTIONS ALL RIGHTS RESERVED

 どのような写真が高く売れるのか、とのエイドリアンの問いにオースティンは答える。「セレブ同士が手をつないでデートしているところ」と。エイドリアンは、パリス・ヒルトンに頼んで疑似デートを敢行する。たちまちこれが話題となる。ゴシップの正体の一面だろう。
 若い人を対象にした、将来どのような職業につきたいかという調査では、上院議員や有名大学の学長になるよりも、セレブの荷物持ちになりたいという回答が上回ったという。
 オースティン自身も、子どものパパラッチという物珍しさでマスコミに出るようになる。オースティンの将来を心配した母親は、エイドリアンに言う。「こうなったのは、あなたのせいだ」と。そこでエイドリアンはあることを思いつく。 
 ドキュメントなのにいささか早熟の少年が自身の将来を見つめるという、まるで教養小説の趣。著名人が実名で現れるといった、虚実ないまぜのような展開はテンポが早くて軽快。監督したエイドリアンは、この作品でパパラッチ、セレブ、ゴシップ・マスコミという三者それぞれの立ち位置や関係を明かそうと試みる。
 オースティンはまだあどけない面持ちながらも14歳に成長し、自らの将来を夢見る。
 まだ十代で何かにのめり込むことは、本来の学業がおろそかにならない限りいいことだと思う。パパラッチよりも、たとえば報道写真家を目指すのならもっといいのだが。

2011年2月5日(土)より、新宿バルト9ico_link 他にて全国公開

■「ティーンエイジ・パパラッチ」

監督:エイドリアン・グレニアー
製作:エイドリアン・グレニアー/マシュー・クック
プロデューサー:バート・マーカス/ジョン・ロア/ロビン・ガーヴィック/リンダ・プリビル
編集:ジム・カーティス・モル
撮影:デヴィッド・セラフィン
2010年/アメリカ/95分/ビスタ/ステレオ 
原題:Teenage Paparazzo/字幕翻訳:島内哲朗
配給:クロックワークス


わが心の歌舞伎座(2010・日本)

(c)松竹株式会社

(c)松竹株式会社

 小さいころから、歌舞伎が好きである。まだテレビがモノクロだったころ、歌舞伎の舞台中継をよく見ていた。先代の市川團十郎、松本幸四郎、尾上松緑らがスターだったころである。
 歌舞伎のどこが面白いのか。一見、荒唐無稽、様式美にこだわった、いささか大袈裟な表現をとるが、喜怒哀楽といった人間のいろんな感情を、長唄や常磐津(ときわづ・浄瑠璃音楽の一種)、義太夫(浄瑠璃音楽の一種)といった音曲に支えられて深く描いているから、だと思う。

(c)松竹株式会社

(c)松竹株式会社

 昭和40年すぎから、歌舞伎座に足を運ぶようになった。いまの山城屋、坂田藤十郎が、まだ中村雁治郎を襲名する前、中村扇雀だったころである。高い座席には座れない。たいてい、3階うしろの幕見席である、ここは、1幕だけ、安く見ることができる。
 今年の4月、歌舞伎座が建て替えのため、さよなら公演の第2部を見た。もちろん、幕見席だ。「菅原伝授手習鑑」の「寺子屋」は、松王丸・松本幸四郎、千代・玉三郎、戸浪・中村勘三郎、武部源蔵・片岡仁左衛門の豪華配役であった。40年ほど、ときおりだが、通い詰めた場所、感慨は深い。

 このほど、ドキュメント映画「わが心の歌舞伎座」(松竹配給)が作られた。当代の人気役者がズラリ、それぞれが、歌舞伎座の思い出を語る。
 登場する役者は、中村芝翫(しかん)、中村吉右衛門、市川團十郎、坂東玉三郎、中村富十郎、中村勘三郎、松本幸四郎、中村梅玉、片岡仁左衛門、坂田藤十郎、そして、尾上菊五郎の11人。そして、この役者たちの最近の舞台のダイジェストが挿入される。有名な演目のクライマックス・シーンばかり。まるで、歌舞伎の「ザッツ・エンタテインメント」。実に見応えたっぷりである。さらに、歌舞伎座を支える、床山、大道具など、いろんな役割を果たす裏方さんの実態が紹介される。
 幕見席からは、とうてい見えない役者の表情が、映画ではあざやかに捉えられている。様式美はもちろんだが、歌舞伎には心理描写や身振りなど、たいへんなリアリティがある。それが役者たちの表情から伝わってくる。歌舞伎の持つおもしろさ、奥深さが、よく分かるのである。
 もう、歌舞伎に興味のある若い人には、ぜひ見てほしい。さらに、歌舞伎に魅せられることと思う。

(c)松竹株式会社

(c)松竹株式会社

 七代目中村芝翫。五代目中村歌右衛門の孫になる。歌舞伎座での芝居がいちばん嬉しく、誇りに思っていることと、年齢を表現する難しさを語る。80歳ながら、20代なかばの女性の気持ちで踊る「藤娘」。そして、6人の孫と踊る「雪傾城」。みごとな踊りだ。
 二代目中村吉右衛門。昭和28年の天覧を記憶している。ふだんから人間の匂いのする芝居を心がける。「義経千本桜」の二段目「大物浦」では、碇もろとも海に身を投げる平知盛を熱演する。はまり役は「平家女護島」の「俊寛」。「16年はひと昔、夢だ、夢だ」のセリフに万感が籠もる。「熊谷陣屋」も得意芸。
 十二代目市川團十郎。息子海老蔵の不祥事が発覚したが、市川家伝承の荒事を守る。七代目團十郎の選んだ歌舞伎十八番から「暫」を演じる。伝統に基づいて創造を加え、観客を楽しませたい、と語る。「助六由縁江戸桜」より助六の花道の出を、華麗に演じる。「勧進帳」の弁慶も達者。弁慶の飛び六法による引っ込みは、何度見ても格好いい。
 五代目坂東玉三郎。当代きっての名女形。昭和39年6月の五代目襲名披露が、歌舞伎座での最大の思い出。泉鏡花の「天守物語」と「海神別荘」、どちらも艶っぽさがたっぷり。
 源氏に追われる景清の居場所を明かさないために、琴、三味線、胡弓を弾きわける「壇浦兜軍記」では、阿古屋を演じる。これが出来るのは、今では坂東玉三郎だけだろう。
 五代目中村富十郎。松竹を創立した大谷竹次郎と白井松次郎兄弟の功績を称える。80歳にして、まだ小さい息子と「連獅子」を踊る。
 舞踏劇「石橋」もあざやか。獅子の舞は、富十郎家に縁の深い演目だけに、みごとな舞である。
 十八代目中村勘三郎。幼い頃、歌舞伎座の売店にいた女性にロビーで遊んでもらう。後日、彼女が亡くなる1年前に歌舞伎座に招待する。20歳で初演した「鏡獅子」を迫力たっぷりに踊る。野田秀樹の「野田版 鼠小僧」では、愛嬌たっぷり笑わせる。「仮名手本忠臣蔵」から、塩冶判官の刃傷、切腹の場面を演じる。
 フィルム映像では名優2人が登場する。三代目の市川猿之助。「義経千本桜」、「黒塚」のあと、ケレン味たっぷりの「伊達の十役」では、早変わり、宙吊りのおもしろさを演じる。もう一人は、四代目中村雀右衛門。「本朝廿四考(ほんちょうにじゅうしこう)」からの「十種香」、「三笠山御殿」、「英執着獅子(はなぶさしゅうちゃくじし)」、「金閣寺」で、幅広い女形芸を見せる。
 いよいよ、古式顔寄手打式のあと、2009年4月、歌舞伎座さよなら公演がスタートする。手打式の様子が挿入される。
 九代目松本幸四郎。孤独な人間の典型として、「菅原伝授手習鑑」から「寺子屋」の松王丸を演じて、涙を誘う。「勧進帳」の弁慶は、1000回以上も演じた、はまり役。「仮名手本忠臣蔵」の四段目では、大星由良助を演じた。
 大道具の場面転換は、幕間の10分間で設営する。みごとな早業だ。討ち入りのある「仮名手本忠臣蔵」十一段目の始まる前には、3つの場面を同時に組み立ててしまう。
 四代目中村梅玉。歌舞伎座の3階ロビーに飾ってある、かつての名優たちの写真を見ている。演じるのは、新歌舞伎の「頼朝の死」での頼家。梅玉は、「頼朝の死」の初日の前に亡くなった父、六代目中村歌右衛門の思い出を語る。「鈴ヶ森」では、白井権八に扮して、みずみずしい。
 十五代目片岡仁左衛門。孝夫ちゃんの愛称で呼ばれる上方の名優。初舞台は、昭和の名優、大松嶋と言われた父、十三代目片岡仁左衛門の歌舞伎座での襲名興行。観る人の心に残るように演じたい、と語る。「菅原伝授手習鑑」では、菅丞相を演じる。父と祖父が、大事にしていた役どころである。近松門左衛門の傑作「女殺油地獄」の与兵衛を、油にまみれて熱演する。
 四代目坂田藤十郎。三代目中村雁治郎から四代目襲名が決まったころ、「心中天網島」の「河庄」では、カーテンコールで襲名の挨拶をした。「曾根崎心中」の徳兵衛も心理描写が絶品。封印切で有名な「恋飛脚大和往来」では、忠兵衛の所作を、哀切たっぷり、丁寧に演じる。上方歌舞伎の至宝といえる。
 さよなら公演のための最後の顔寄で、演目が発表される。 
 七代目尾上菊五郎。歌舞伎座3階ロビーにある名優の胸像を見て、名優といわれた五代目、六代目の思い出を語る。陰惨なドラマ「直侍」を、コミックに演じて軽快。「魚屋宗五郎」は、酔っぱらうシーンがうまい。歌舞伎の様式美とリアルな心理描写を心がけている。当たり役は「弁天娘女男白浪」の弁天小僧で、「知らざぁ言って聞かせやしょう」の名セリフで有名。心地よい七五調のセリフ、口舌はあざやかである。
 千秋楽の演目は「助六由縁江戸桜」。市川團十郎扮する助六の睨みや見栄に、観客は大喜び。
 2010年4月30日は閉場式。8人の立役が「都風流」、5人の女形が「京鹿子娘道成寺」を踊る。まさに豪華版、最後の手打を、坂田藤十郎が務める。
 新しい歌舞伎座は、2013年春、完成の予定である。

2011年1月15日(土)より、東劇ico_link 他にて全国公開

■「わが心の歌舞伎座」

監督:十河壯吉
ナレーター:倍賞千恵子
撮影:柏原聡
照明:藤井克則
音楽:土井淳
2010年/日本/207分/HD
製作・配給:松竹


シチリア!シチリア!

(c)2009 MEDUSA FILM

(c)2009 MEDUSA FILM

 誰にでも、生まれ育った故郷はある。その思い出や思い入れの深さは異なっても、人生そのものに、なにかしらの影響をもたらすものと思われる。洋の東西を問わず、映画や文学、絵画、音楽など、いろんな表現に、故郷が登場する。
 イタリアのシチリア島に生まれた映画監督ジュゼッペ・トルナトーレも、故郷シチリアを映画で描く作家である。
 シチリア島の村が舞台。映画館に通い詰める少年の半生を描いた傑作「ニュー・シネマ・パラダイス」を監督したトルナトーレは、新作「シチリア!シチリア!」(角川映画配給)でもまた、故郷のシチリアを描く。

(c)2009 MEDUSA FILM

(c)2009 MEDUSA FILM

 1930年代のイタリアのシチリア。ペッピーノ少年は次男坊、経済的には豊かではないけれど、優しい家族や周囲の大人たちに囲まれて、幸せな少年時代を過ごしている。
 家業は牛飼い。もちろん、学校に行くけれど、農場に出稼ぎに行ったりもして、家業を手伝っている。ペッピーノの楽しみは、父に連れられて映画館に行くこと。サイレントの映画だが、ペッピーノにとっては、かけがえのない幸福な時間だ。 
 ペッピーノは、やがて大人になっていく。裕福な家の娘のマンニーナに恋をするが、マンニーナの両親は結婚に大反対。ペッピーノの家が貧しいからである。ふたりは駆け落ちまでして、やっとのことで結婚する。そして、時代の荒波にもまれながらも、ペッピーノは政治家を志し、みごと共産党から出馬、議員となる。
 かつてのペッピーノが、父に連れられて映画を見たように、父となったペッピーノは、まだ幼い息子ピエトロを映画に連れていく。ブルックリンの波止場で働くイタリア移民の悲劇、シドニー・ルメット監督の「橋からの眺め」だ。
 息子のピエトロが、賑やかになった町の通りに駆け出す。まだ幼かったペッピーノの姿に重なる。感動的なラストシーンが用意されている。

(c)2009 MEDUSA FILM

(c)2009 MEDUSA FILM

 ペッピーノの父から、ペッピーノの息子までの親子三代、1930年代から50年間にわたる家族のドラマである。ファシズムの崩壊、第二次世界大戦の敗戦、共和国の成立までの、まさに激動のイタリア史を背景に、家族のドラマが語られる。
 多くのエピソードは、さりげなく描かれるが、ひとつひとつが滋味深い。ひとつの家族の50年の歴史から、当時の社会背景、人生模様が、くっきりと浮かびあがる。
 笑いも涙もある。どのような境遇にあっても、前向きに、肯定的に生きることは、素晴らしい。正しいと信じたことを貫き、家族のため、人のために生きる。この、あたりまえのことを貫く勇気を、映画は伝える。

2010年12月18日(土)より
シネスイッチ銀座ico_link角川シネマ新宿ico_link他にてロードショー

■「シチリア!シチリア!」

監督・脚本: ジュゼッペ・トルナトーレ
音楽: エンニオ・モリコーネ
撮影: エンリコ・ルチディ
美術監督: マウリツィオ・サバティーニ
衣装: ルイジ・ボナーノ
2009年/イタリア/カラー/151分/スコープサイズ/ドルビーSRD/
配給:角川映画


リトル・ランボーズ(2007・イギリス、フランス)

cHammer&Tongs,Celluloid Dream,Arte France,Network Movie, Reason Pictures

(C)Hammer&Tongs,Celluloid Dream,Arte France,Network Movie, Reason Pictures

 映画に憧れた少年時代だった。時代劇が好きで、悪役が斬られたときは、必死に拍手をした。そんな思い出が、ふとよみがえる映画が「リトル・ランボーズ」(スタイルジャム配給)である。

 小学生のころである。古本屋で、なぜか、東映の時代劇映画のシナリオを売っていた。なんとか入手して、撮影ごっこをした。近所の仲間を集めて、おもちゃの刀で、チャンバラのふりをして、撮影のふりをする。理解できる部分のセリフを言ったりもした。べったん(めんこ)やビー玉遊びなど、いろんな遊びを提案したが、この撮影ごっこは、受けた。
 もちろん、アニメーションは大好きだった。パラパラ漫画といって、少しずつ、人物や動物の動きをずらして、描く。パラパラめくると、動いて見える。まあ、アニメーションの原型だろうが、拙い絵ながら、一時、のめりこんで遊んだものである。
 映画は、1982年、イギリスの田舎町が舞台。11歳の少年ウィル(ビル・ミルナー)は、母親と妹、おばあちゃんと暮らしている。家は、厳格なプリマス同胞教会に所属しているために、テレビや映画、音楽などの娯楽は禁じられている。
 想像力豊かなウィルの楽しみは、ノートや聖書のはしっこに、いろんなイラストやパラパラ漫画を描くこと。

cHammer&Tongs,Celluloid Dream,Arte France,Network Movie, Reason Pictures

(C)Hammer&Tongs,Celluloid Dream,Arte France,Network Movie, Reason Pictures

 そんなウィルは、ふとしたきっかけで、不良少年リー(ウィル・ポールター)と仲良くなる。
リーは、ウィルと同じ母子家庭、母親は不在がちで、乱暴な兄がいる。そのような事情もあって、リーは、家事をこなし、食事も作る。いわば、自立した少年だ。
 ウィルは、リーの広い家の片隅にある小屋で、ビデオで「ランボー」を見る。初めて見る映画にウィルは大感激。すっかり、ランボーに魅せられてしまう。
 そこで、ウィルとリーは、リーの兄のビデオカメラを拝借して、なんと、自分たちだけの「ランボー」製作を思いつく。そこに、フランスからの交換生徒がやってくる。リーダー格の少年ディディエ(ジュール・シュトリク)が、この「ランボー」製作に多大な興味を抱き、仲間となる。
 さあ、どうなるか。
 紆余曲折、上級生たちの世界に足を踏み入れながら、ウィルたちの「ランボー」製作が続く。ところが、ある日、思いがけない事故が起こる。

cHammer&Tongs,Celluloid Dream,Arte France,Network Movie, Reason Pictures

(C)Hammer&Tongs,Celluloid Dream,Arte France,Network Movie, Reason Pictures

 少年時代の夢や、その夢を実現しようとする行動が、うまく描かれて、なんとも、ほのぼの、郷愁を誘う。
 少年たちが成長し、世に一歩を踏み出す結構は「スタンド・バイ・ミー」でもある。ラストは、たとえば「ニューシネマ・パラダイス」を見たときのような、「映画」というメディアをめぐる爽やかな余韻に、おもわず涙する。
 二度と戻らない、少年時代への郷愁をあざやかに切り取った監督・脚本は、ガース・ジェニングス。やはり、シルベスター・スタローンの「ランボー」に、限りない憧れを抱いた世代である。

2010年11月6日(土)より、渋谷シネクイントico_link ほか全国順次ロードショー!

「リトル・ランボーズ」公式Webサイトico_link

監督・脚本:ガース・ジェニングス
撮影技術:ジェス・ホール
美術:ジョエル・コリンズ
音楽 : ジョビィ・タルボット
プロデューサー:ニック・ゴールドスミス
2007年/イギリス・フランス/94分/


おにいちゃんのハナビ(2010・日本)

おにいちゃんのはなび

(c)2010「おにいちゃんのハナビ」製作委員会

 いまから5年ほど前に、新潟中越地震のドキュメントがテレビで放映された。花火で有名な、新潟県小千谷市の片貝町で行われる片貝祭りを中心に、作られたものである。
 映画「おにいちゃんのハナビ」(ゴー・シネマ配給)は、このドキュメントのなかに出てくる兄妹のエピソードを描いたもの。重病で亡くなった妹のために、成人式を控えた兄が、花火を打ち上げる、という話である。
 片貝の町が、世界的に有名になったのは、この祭りで打ち上げられる数々の花火だ。企業スポンサーによる花火大会ではなく、主体は、町に住むみんなが、花火のお金を出し合う。そして、誕生、成人、結婚、還暦などなど、人生の節目節目に、それぞれの願いをこめて、打ち上げるのである。
 花火が効果的に使われた映画では、アルフレッド・ヒッチコックの「泥棒成金」をすぐ思い浮かべるが、本作での花火は、重要な役割で登場する。

 ハナ(谷村美月)は女子高校生。重病のため、半年の入院生活から、やっと退院する。その日は、ハナの大好きな花火祭りの日。家には、兄の太郎(高良健吾)がいるが、大学も受験せず、就職もせず、いわば、引きこもりである。
 明るく勝ち気なハナは、太郎を外へ連れだそうと努力する。そして、兄のいた高校の同窓会で、成人を記念して花火を奉納、打ち上げる会の事務所に、なかば強引に連れていく。
 さらにハナは、新聞配達のアルバイトを太郎に世話する。しかも、太郎といっしょに、配達まで手伝う。
 一見、なにもかもがうまくいくかと思われたが、ハナの病気が再発する。ハナを見舞い、「俺は、人見知りで、ダサくて、暗い」という太郎に、「人見知りは遠慮深い、ダサいは個性的、暗いはクール」と、太郎を逆に励ます。
 やがて、ハナは亡くなる。死んだあとに、太郎の携帯に、ハナからの成人式のメッセージが届く。
 太郎は、悲しみをこらえ、ハナのために花火を打ち上げる決心を固めるが…。

 要所要所に、ドラマの伏線があり、しかも泣かせる。親子、兄妹の関係が過不足なく描かれ、説得力がある。
 悲しい話ではあるが、愛する者の死は、避けがたいことである。その後に、ぼくたちはなにをすべきかを、深く考えさせてくれる。
 兄妹の父親役で、タクシーの運転手を演じる大杉漣が、渋くて、うまい。監督は、主にテレビドラマ演出で実績のある国本雅弘。やや登場人物が泣きすぎるシーンもあるが、これが、長編劇映画の監督第一作になる。

9月25日(土)より有楽町スバル座ico_linkほか全国公開中!

■おにいちゃんのハナビ

監督:国本雅広
脚本:西田征史
出演:高良健吾、谷村美月、宮崎美子、大杉 漣、早織、尾上寛之、岡本玲、佐藤隆太、佐々木蔵之介、塩見三省 他 
主題歌:藤井フミヤ「今、君に言っておこう」(Sony Music Associated Records Inc.)
2010/日本/119分/35mm/カラー/1:1.85/ドルビーSR


小さな村の小さなダンサー

(C)Last Dancer Pty Ltd and Screen Australia

(C)Last Dancer Pty Ltd and Screen Australia

 中国ではこのところ、若くして、世界的脚光を浴びる人が多い。80后(バーリンホウ)と呼ばれ、文字通り、1980年代の生まれである。
 作家のハン・ハンは、アメリカ、タイム誌の「2010年世界で最も影響力のある100人」に選ばれている。また、ラン・ランはクラシックのピアニスト。昨年暮れには、サイモン・ラトル率いるベルリン・フィルハーモニーと共演している。ポップス歌手のリー・ユィチュン、女優のファン・ビンビン、コメディアンのシャオ・シェンヤンなどなど、いずれもまだ20代、将来有望な若い人たちである。
 1961年生まれ、バレエのダンサーとしてアメリカでブレイク。結果、アメリカに亡命するが、ダンサーとして有名になったリー・ツンシンも、いまで言う、バーリンホウの先輩格だろう。17歳で渡米、21歳で、ヒューストン・バレエ団のプリンシパルとなる。
 映画「小さな村の小さなダンサー」(ヘキサゴン配給)は、リー自身が、波瀾万丈の半生を振り返った自伝が原作である。これが、オーストラリアで出版され、ベストセラーとなる。
 1979年、テキサス州ヒューストン。中国のダンサー志望の若者リーが、はじめてアメリカに降り立つ。そして、幼いころを回想する。
 1972年、中国の山東省の小さな村。11歳の小学生リーは、貧しい暮らしではあるが、活発な男の子。たくさんの兄弟なのに、両親は愛情豊かである。
 ある日、生徒たちは「東方紅」を歌って、北京からの視察団を歓迎する。視察団は、全国からダンスの才能ある少年少女をスカウト、北京で英才教育を施すというもの。ちょうど、文化大革命の真っただなか、毛沢東夫人の江青が、文化政策の一環として展開しつつあった計画である。
 たまたま、先生の推薦で、リーが選ばれ、北京の舞踏学院に入ることになる。いかにも文革時代の雰囲気のなか、リーは、クラシック・バレーの基礎を身につけていく。厳しい訓練である。ひとり泣く日もある。
 リーの才能を評価するチェン先生は、ひそかに隠し持った西洋のダンサーたちの映像を、リーに見せる。リーは、ますます踊ることへの夢を募らせる。やがて、チェン先生は文革のせいで下放になる。
 1976年、周恩来、毛沢東が相次いで死去、文革は終結、改革開放がスタートする。1978年、アメリカから、ヒューストン・バレエ団の一行が北京に来る。リーは、バレエ研修生として、初めてアメリカに渡る。
 なにもかもが、カルチャー・ショックのなか、リーは突如、代役として「ドン・キホーテ」を踊ることになる。これが評判となり、リーはダンサーとしての名声を獲得するが、やがて、二度と中国に戻れなくなるほどの、たいへんな事件に巻き込まれていくことになる。
 しかし、感動的なラストが、笑いと涙に包まれて用意されている。
 「白鳥の湖」や「春の祭典」など、すばらしいバレエのシーンが続く。
 激動する中国の状況が、自由の国アメリカを舞台に、さりげなく描かれる。
 少年、青年、成人と、リーを演じる3人の俳優が、いい。ことに成人してからのリーを演じるツァオ・チーは、15歳でイギリスに留学、1995年に、バーミンガム・ロイヤル・バレエに入団、いまではプリンシパルを務めるほどの現役のダンサー、まさに適役である。
 演出は、アカデミー賞の最優秀作品賞を受けた「ドライビングMissデイジー」の監督、ブルース・ペレスフォード。激動する政治状況にあって、ダンサーとしての夢を実現しようとするリーの苦悩を、劇的に描いて、あきさせない。
 いまは、バーリンホウよりさらに若い世代、90年代生まれの90后(ジュウリンホウ)といわれる若者たちが、中国から世界に飛び立とうとしている。
 リー・ツンシンは、34歳でオーストラリア・バレエ団に入団、ダンサーとなり、現在49歳。オーストラリアのメルボルンに在住、作家である。

8月28日より
Bunkamura ル・シネマ、シネスイッチ銀座他 全国ロードショー

■「小さな村の小さなダンサー」

監督:ブルース・べレスフォード
製作:ジェーン・スコット
脚本:ジャン・サーディ
出演:ツァオ・ツィー、ジョアン・チェン、カイル・マクラクラン ほか


マエストロ6 サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

(c)Euro Arts Music International

(c)Euro Arts Music International

 『マエストロ6(シックス)』というタイトル通り、現在のクラシック音楽界の最高峰ともいえる指揮者たち6名のオーケストラ演奏が、相次いで映画公開される。その第一弾が、サイモン・ラトル指揮のベルリン・フィルハーモニー。その人気、実力は、世界屈指といわれている。
 映画ではあるが、コンサート会場にいる雰囲気が、存分に体感、味わえる。
 ふつうの映画より料金は割高だが、じっさいの公演チケットは、いずれも、おそらく数万円はする指揮者たちであり、オーケストラである。それを、映像、音響とも、最新設備の映画館で鑑賞できる。ちなみに学生料金は2500円。
 第二弾は、8月公開で、ヘルベルト・フォン・カラヤンの後任としてベルリン・フィルハーモニーの芸術監督を務めたクラウディオ・アバド率いるルツェルン祝祭管弦楽団。曲は、チャイコフスキーの幻想曲「テンペスト」ほか。
 以下、9月は、リッカルド・ムーティ指揮によるベルリン・フィルハーモニーで、ヴェルディの歌劇「運命の力」序曲、シューベルトの交響曲第8番。

 10月は、ピアニストとしても著名なダニエル・バレンボイムがベルリン・フィルハーモニーを指揮した、エルガーの「チェロ協奏曲」。バレンボイムの亡き夫人、チェリストのジャクリーヌ・デュプレが得意とした曲。そして、ブラームスの交響曲第1番。
 11月は、ロリン・マゼール指揮のニューヨーク・フィルハーモニック。ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」ほか。
 そして12月は、ベネズエラの若者たちのオーケストラ、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラを率いるグスターボ・ドゥダメル。ドゥダメルは、ベートーベンの交響曲第5番「運命」と第7番でCDデビュー、たちまち世界で大ヒットを記録した。1981年生まれの、まだ若い指揮者である。曲は、ラヴェルの「ダフネスとクロエ」、レナード・バーンスタインの「ウエスト・サイド物語」から「マンボ」。
 いずれも、名曲揃い、そして、現代最高の指揮者、オーケストラばかり。これらのクラシック演奏の数々は、見る価値じゅうぶんと思う。

 サイモン・ラトルはイギリスの生まれ。バーミンガム交響楽団を一流のオーケストラに育てあげ、若くして、サーの称号を授与される。ベルリン・フィルハーモニーには、クラウディオ・アバドの後任として、2002年9月から芸術監督を務めている。
 2年ほど前に公開されたドキュメンタリー映画「ベルリン・フィル 最高のハーモニーを求めて」では、伝統を守りながら、常に新しいことにチャレンジし続けるサイモン・ラトルと、世界一のオーケストラに所属する自負を持ちつつ、プレッシャーのかかる日々を生きる団員たちの姿が、あますところなく描かれていた。
 このほどの映画は、毎年末に開催されるベルリンのジルべスター・コンサートの2009年のもの。この年のコンサートは、ロシアのレパートリーから、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。ピアノは、天才と称されている中国の若手ラン・ラン。そして、チャイコフスキーのバレエ曲「くるみ割り人形」の第二幕の音楽。
 もう、居ながらにして、ベルリンのフィルハーモニー・ホールにいるようである。
 ラフマニノフの第2番は、1945年のイギリス映画「逢びき」で使われて、一躍、有名になった曲である。ここでのラン・ランは、いささか派手なアクションではあるが、その華麗な技巧は定評あるところ。叙情たっぷりに、ラフマニノフの難曲を弾ききる。
 後半は、「白鳥の湖」「眠れる森の美女」と並ぶチャイコフスキーの3大バレエ曲のひとつ「くるみ割り人形」の第二幕。ハープが美しく弾かれ、どこかで聴いたことのあるメロディがたくさん。「葦笛の踊り」、「花のワルツ」などで有名なバレエ曲である。ラトルは、楽しそうな表情で指揮する。
 アンコールは、意表をついたもの。ラン・ランのピアノによる曲は…。オーケストラのアンコールは、小さな子どもたちがコーラスで参加する。これまた、意表をついた曲。どちらもお楽しみに。

(c)Euro Arts Music International

(c)Euro Arts Music International

 もちろん、CDで聴くことのできる音楽ではあるが、映像では、指揮者やソリストの表情が、きめ細かく捉えられる。音楽によって異なるさまざまな表情は、より、その音楽への理解を助けてくれるはずである。
 ベルリン・フィルハーモニーのコンサート・マスターは、1979年生まれの樫本大進。安永徹の後をついで、堂々と務める。
 夏から秋冬と、いい音楽でいっぱいの映画を楽しんでください。

2010年7月31日(土)より、新宿バルト9ico_link ほか全国順次ロードショー!

マエストロ:
1.サイモン・ラトル
2.クラウディオ・アバド
3.リッカルド・ムーティ
4.ダニエル・バレンボイム
5.ロリン・マゼール
6.グスターボ・ドゥダメル
オーケストラ:
1.ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(作品:Simon Rattle・100分)
2.ルツェルン祝祭管弦楽団(作品:Claudio Abbado・95分)
3.ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(作品:Riccardo Muti・98分)
4.ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(作品:Daniel Barenboim・90分)
5.ニューヨーク・フィルハーモニック(作品:Lorine Maazel・95分)
6.シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(作品:Gustavo Dudamel・84分)
配給:ティ・ジョイ

ビューティフル アイランズ(2009年・日本)

(C) 海南友子

(C) 海南友子

 美しい地球の、三つの場所の景色、暮らしぶりが、ていねいに描かれる。南太平洋に浮かぶ珊瑚礁の島ツバル。イタリア、アドリア海の海上都市ベネチア。そして、アラスカの北西部、ベーリング海峡に面したシシマレフ島。どこも美しい場所ばかりである。
 映画「ビューティフル・アイランズ」(ゴー・シネマ配給)は、この三つの場所に共通する自然の豊かさ、歴史を綴りながら、迫りくる気候変動に警鐘を投げかける。決して、声高ではない。静かに、淡々と、美しい島の現実をルポしていく。

 ツバル。21世紀中には、海に沈むといわれている国である。海抜は平均1・5メートル。毎年2月、3月ころには、8つの島全体が海水に覆われるという。
 子どもたちは元気である。今日も、海辺のヤシの木から海に飛び込んで、のびのびと遊んでいる。学校では、温暖化の影響で島が沈みつつあることを学ぶ。ある幼い姉妹は、おおぜいの家族とともに、のどかに暮らしている。お祭りには、みんなで歌い踊る。おだやかな日々に、すこしずつ、水かさは増していく。

(C) 海南友子

(C) 海南友子

 ベネチア。かつては共和国として繁栄した海上都市。サン・マルコ広場には、浸水したときのために、あちこちにすのこが用意されている。まだ幼い兄弟は、ゴンドラ乗りの父を誇りに思っている。
 ワーグナーやバルザック、プルーストが泊まったという名門ホテル、ダニエリの支配人は、ベネチアの歴史を語る。ガラス工芸の現場や、カーニバルの仮装パーティの様子が描かれる。
 11月から2月にかけて、高潮のために、町全体が水に侵される。足の付け根までの長靴を履き、水を流し出す商店の人たち。
 観光都市なのに、この高潮のせいで、ベネチアの人口は激減している。

 シシマレフ島。人口わずか600人足らず。アザラシやカリブー(トナカイ)の狩りで暮らす生活は、厳しい自然との戦いである。猟銃の手入れは、ふだんの大切な仕事である。ある夫婦は、狩りの最中に、割れた氷に落ちて死んだ息子の話をする。
子どもたちは、そりすべりやチア・ダンスで楽しそう。

(C) 海南友子

(C) 海南友子

 永久凍土に、いま、確実に変化が起きている。
 映画は、効果音や音楽はいっさい使用しない。画面は、観光映画のように、色鮮やかではない。あるがままの現実を、ゆったりとカメラに収めている。
 このあるがままの現実を、どのように捉えるかは、観客の判断に委ねられる。
 監督、編集は、「NHKスペシャル」などで、環境問題のドキュメントをいくつか制作した海南友子。監督は言う。「もし水没が進んだら、パタゴニアの氷河のように、私たちの生きているこの場所も取り戻すことはできない。永遠に」と。

2010年7月10日(土)より
恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー!

「ビューティフル アイランズ」公式Webサイトico_link

監督・プロデューサー・編集:海南友子
エグゼクティブ・プロデューサー:是枝裕和
撮影:南 幸男
撮影技術・録音:河合正樹
整音:森 英司
アソシエイトプロデューサー・編集:向山正利
2009年/日本映画/106分/35ミリ および HD
配給:ゴー・シネマ


パリ20区、僕たちのクラス(2008年・フランス)

(C) Haut et Court - France 2 Cinema

(C) Haut et Court – France 2 Cinema

 まだ学生のころ、ある私立の中学校で、社会科の教育実習をしたことがある。2週間ほど、40人ほどの生徒たちと、朝から終業まで、同じ時間を過ごす。自由闊達、のんびりした校風のせいか、ある数人を除いては、みんないい生徒たちだった。しかし、ある数人のうちのひとりの男の子は、折りにふれて、いろんな決まりごとを無視する。終業時の掃除はしない。ことごとく反抗的、クラスでも浮いた存在のようであった。
 授業のあとの掃除の時間、掃除当番の彼は、何もしないで突っ立っているだけ。いまなら大問題になったかも知れないが、たまりかねて樹脂製のちりとりで、彼の頭を殴った。驚いた彼は反抗の意志を示したが、そこはまだ中学生。その場だけのハプニングで終わった。彼とは実習が終わっても、しばらくつき合いが続いた。

(C) Haut et Court - France 2 Cinema

(C) Haut et Court – France 2 Cinema

 そのような思い出が、ふとよみがえるような映画「パリ20区、僕たちのクラス」(東京テアトル配給)を見た。
 舞台はパリ20区にある中学校。20区は、いろんな国からの移民たちが多く住んでいるところ。母国語を持ちながら、フランスで暮らす人たちの子どもたちが、中学校に通っている。この地区は、恵まれた人たちが住んでいるところではない。アフリカやアジアなどからの移民たちでさまざまである。
 先生になって5年目、まだ若い国語(フランス語)の先生フランソワ(フランソワ・ベゴドー)と、24名の生徒たちの一年が、ドキュメント・タッチで描かれる。
 大きな暴力事件や、ひどいいじめはないものの、生徒たちはどの先生にもかなり反抗的である。フランソワがむきになればなるほど、フランソワの揚げ足を取る。
 フランソワが宿題を出す。自分の紹介を書く、というものである。ジュリエットは「13歳の私に語ることはない」。「沈黙より軽い言葉は発するな」と腕に入れ墨をした黒人のスレイマンは「僕のことは僕にしか分からない」。
 また、アンネ・フランクの「アンネの日記」の授業をふまえたリュシーは「私たちの人生はアンネと比べて面白くはない」。
 文法の接続法半過去を習ったアンジェリカは、「こんな古い話し方は、おばあちゃんでもしません」。

 あるときから、フランソワとの仲がうまくいかなくなったクンバは「国語の授業で、家族や生理のことなどは話しません」といった手紙をフランソワに送ったりする。
 ふだんは、サッカーの好きな、どこにでもいるふつうの幼い中学生たちである。しかし、教師たちと渡り合う会話は、もうすでに大人の世界に足を踏み入れている。
 フランス語はまだ苦手なのに、優秀なアジアの子もいる。ラッパーにあこがれているエスメラルダは鋭い。「警官は悪い人ばかり、だからいい警官になりたい。警官が無理ならラッパーになりたい」。
 このような生徒たちと、フランソワの1年が、丹念に描かれている。フランソワのちょっとした一言「ペタス」が、大問題になったりもする。フランス語の「ペタス」は、「娼婦」と「下品な」という意味である。結果、スレイマンの退学問題にまで事が大きくなる。

(C) Haut et Court - France 2 Cinema
(C) Haut et Court – France 2 Cinema

 いろんなことがあった一年。フランソワは、それぞれの写真を編集した記念文集を配布する。学んだのは、生徒たちだが、何よりも学んだのはフランソワかもしれない。
 ドキュメントと思いきや、本作は劇映画である。じっさいに教師だったフランソワ・ベゴドーの書いた「教室へ」(早川書房)が原作である。しかも、原作者が自身でフランソワを演じる。生徒たちもすべて、映画のための演技である。
 この奇跡のような映画は、第61回のカンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)を受賞。なめらかに、さりげなく、リアルに演出したのは、ローラン・カンテ。両親が教師である。
 日本の中学校の教室にいる先生たちに、ぜひ見てほしい。

2010年6月12日(土)、岩波ホールico_link にてロードショー

「パリ20区、僕たちのクラス」公式Webサイトico_link

監督:ローラン・カンテ
製作:キャロル・スコッタ、キャロリーヌ・ベンジョ、バルバラ・ルテリエ、シモン・アルナル
原作:フランソワ・ベゴドー「教室へ」(早川書房刊)
脚本:ローラン・カンテ、フランソワ・ベゴドー、ロバン・カンピヨ
撮影:ピエール・ミロン
編集:ロバン・カンピヨ
原題:Entre les murs
2008年/フランス映画/上映時間:128分
配給:東京テアトル


書道ガールズ!! -わたしたちの甲子園-(2010年・日本)

(c) NTV

(c) NTV

 書道は、義務教育で習っただけであるが、字を書くのが好きである。筆だけではなく、鉛筆、万年筆、サインペンなど、いろいろな筆記具で字を書き、紙や筆を買いに、何度も北京に出かけている。
 仕事で、いくつかの書籍のカバーや見出し、雑誌の見出し、映画のタイトルなどの書き文字を書いているが、うまい下手というより、できるだけ楽しい気持ちで、字を書いているつもりである。

 このほど、書道部で活動する女子高校生たちの群像を描いた「書道ガールズ!! わたしたちの甲子園」(ワーナー・ブラザース配給)を見た。
 映画は、字を書く目的はなにかを伝えて、あきさせない。派手な映画ではないが、筆によるパフォーマンスに取り組む高校生の群像を描いて、さわやかである。タッチはコメディだが、随所に泣かせるうまい演出で、笑って、ホロリ。
 そしてまた、友情、師弟や父娘間の対立と和解、活気ある町への再生など、いくつかのエピソードが、ていねいに描かれる。

(c) NTV
(c) NTV

 舞台は、紙の生産で名高い愛媛県の四国中央市。町のどこからでも、製紙工場の煙突が見える、のどかな町である。中央高校書道部の部長、里子(成海璃子)は父が書道家で、小さいころから書道を習っている。副部長の香奈(桜庭ななみ)、里子に負けないほどの腕をしている美央(山下リオ)たちが、里子の仲間である。
 ある日、臨時教員として書道部の顧問に、池澤先生(金子ノブアキ)が赴任してくる。ゲーム機オタクの池澤は、まったく里子たちの活動に無関心、教える気は微塵も感じられない。池澤は、里子たちの前で、音楽にのせての書のパフォーマンス、みごとな腕を披露する。
 書道部の清美(高畑充希)が、池澤のパフォーマンスを見て、感激、なんと演歌の「王将」に合わせて、書のパフォーマンスを始める。「部活にそんなものを持ち込まないで」と、里子は怒る。やがてそれは、停滞する商店街にあって、文房具店を営む清美の家の、閉店セールのためであることが判明する。
 部員は協力しあって、閉店セールにパフォーマンスを実行するも、失敗に終わる。里子のまわりに、美央の退部、清美の引っ越し、いじめにあう部員、幼なじみの実家の紙工場の火事など、つぎつぎと事件が起こる。
 そんな中、里子は、なんとか町に活気を取り戻そうと、ほかの高校に呼びかけての「書道パフォーマンス」を思いつく。
 はじめは無関心だった池澤も、里子たちの熱意に、きびしい特訓をほどこすようになる。

(c) NTV
(c) NTV

 参加高校は4校、太い筆にたっぷりの墨、重さ20キロにもなる筆を操ってのパフォーマンス、まさに「書道の甲子園」が始まろうとしている。ラストは、なかなかのドラマ、ささやかな奇跡が起こる。
 気持ちが沈んだままに字を書いても、だめ。うまい下手ではなく、いかに心をこめて書くか、である。映画からは、字を書く喜び、楽しさが、強く伝わってくる。
 劇中、おおげさではなく、太い筆から飛び散る墨の量は半端ではない。登場人物の顔、衣服に、墨が飛び散る。そして、見る側に、大きな筆で字を書いてみたい、と思わせる迫力に満ちている。
 主役の里子を演じる成海璃子はまだ17歳、健気な部長役を熱演。清美に扮する高畑充希は18歳。やや空気の読めないひょうきんな役どころを、達者に演じる。書のシーンは吹き替えなし、若い俳優さんたちの特訓が実った。
 監督は猪俣隆一。大ヒットした「マリと子犬の物語」に続く第2作目である。

2010年5月15日(土)、新宿バルト9ico_link ほか全国ロードショー

■「書道ガールズ!! -わたしたちの甲子園-」

監督:猪股隆一
脚本:永田優子
音楽:岩代太郎
製作:大山昌作
撮影:市川正明
プロデューサー:藤村直人、坂下哲也
出演:成海璃子、山下リオ、高畑充希、小島藤子、桜庭ななみ ほか
2010年/日本/121分/35mm/カラー/シネマスコープ/SRD
配給:ワーナー・ブラザース映画
宣伝:アルシネテラン