クロッシング(2008年・韓国)

c 2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.

(c) 2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.

 いろいろと脱北者のことが報道される。何らかの理由で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)から亡命、国外に出る人たちのことである。もとは同じ民族、北から南(大韓民国)へ逃れる人が増えているという。
 また2002年には、北京のスペイン大使館に25名が駆け込み、韓国に亡命。同じ年、vol048_081陽にある日本領事館に、少女のいる家族5人が駆け込もうとした。これは中国の公安が阻止し、脱北は失敗に終わった。日本の領事館は、ただ傍観するだけであった。
 このように、北からひそかに隣国の中国に入り、外国の大使館や領事館に駆け込み、亡命、という方法も多い。
 北朝鮮から逃れようとする人たちの現実は、わたしたちには、なかなか、きちんと伝わらないようである。ただ、いまなお脱北者はあとを絶たないという。だからこそ、脱北者人権連合といった組織もある。
 そのような背景をもとにした映画「クロッシング」(太秦配給)を見た。

c 2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.
(c) 2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.

 北朝鮮の炭坑の町。元サッカー選手で、いまは炭坑で働くヨンス(チャ・インピョ)は、貧しいけれど、妻ヨンハ(ソ・ヨンファ)、11歳の息子ジュニ(シン・ミョンチョル)と、幸せに暮らしている。父子はサッカーで遊ぶのが大好き、雨の中、ボールを蹴る。
 ヨンスの友人が南のスパイ容疑で連行される。家族は離ればなれになる、このようなケースも多いという。

 生活総和という、職場や地域単位の相互批判集会がある。ある日、妻のヨンハが、この生活総和の会場で倒れる。結核である。クスリが手に入らない。このままでは死んでしまう。しかたなく、ヨンスはクスリを求めて中国に向かう。 
 やがて、ヨンハは亡くなる。一人になったジュニは、家を処分したわずかなお金で父の行方を探すことになる。映画は、この悲惨な状況を、実にリアルに描いていく。
 ジュニは、幼なじみの少女と再会し、国境を越えようとするが、捕まってしまう。北から逃れるのに失敗した人たちの収容所に、ジュニと少女は入れられてしまう。
 ヨンスは、vol048_081陽のドイツ大使館を経由して、やっとの思いで、韓国のソウルにたどり着く。脱北関係の情報を提供したり、手引きをする仲買人を通して、ヨンスはジュニの消息を知ることになるが…。
 悲劇である。脱北者の現実のすべてが描かれているわけではないと思うが、このような状況があるのは、かなり事実だろう。もちろん、北朝鮮の大半の人たちは、ふつうに暮らしているはずである。

c 2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.
(c) 2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.

 映画は、実際に北を逃れたたくさんの人から取材、中国や韓国での撮影は、もちろん極秘に進められたという。
 監督は、娯楽映画でも手腕をみせるキム・テギュン。綿密な考証と長い時間をかけて撮られた映像からは、痛いほど、虐げられた人たちの叫びが聞こえてくる。
 自らも脱北者で、映画の助監督を務めたキム・チョリョンは言う。「幸せを分かち合うという、このあたりまえのことでさえ、北朝鮮では実現できないことを伝えたかった」と。
 おなじ人間なのに、思想や信条のちがいから、憎み合うという歴史は、いまなお、世界のあちこちで続いている。

2010年4月17日(土)より渋谷ユーロスペースico_link名古屋シネマスコーレico_link
5月1日(土)より銀座シネパトス千葉劇場ico_linkシネマート心斎橋ico_linkほかロードショー!

■「クロッシング」

第28回韓国映画評論家協会賞 音楽賞(2008年)
第16回イチョン春史大賞映画祭(2008年) 子役賞・美術賞・音楽賞・撮影賞・脚本賞・監督賞・最優秀作品賞・審査員特別賞?
第21回東京国際映画祭[アジアの風](2008年)招待作品 
第81回米国アカデミー賞外国語映画賞部門(2009年) 韓国代表作品  
第13回米国ハリウッド映画祭(2009年)グランプリ受賞

監督:キム・テギュン
製作:BIG HOUSE、VANTAGE HOLDINGS
制作:Camp B
脚本:イ・ユジン
撮影:チョン・ハンチョル
音楽:キム・テソン
出演:チャ・インピョ、シン・ミョンチョル、ソ・ヨンファ、チョン・インギ、チュ・ダヨン
2008年/韓国/107分/35mm/カラー/シネマスコープ/SRD
配給:太秦


チャンドマニ ~モンゴル ホーミーの源流へ~(2009年・日本、モンゴル)

(C)2009 FLYING IMAGE All Rights Reserved.

(C)2009 FLYING IMAGE All Rights Reserved.

 「チャンドマニ ~モンゴル ホーミーの源流へ~」(FLYING IMAGE配給)を見た。
 かつて沢木耕太郎は、ユーラシアをバスで旅したときの紀行「深夜特急」を書いた。映画「チャンドマニ」は、まるで「深夜特急」を読んでいるような快感。景色が、音楽が、匂いが、住む人の息づかいが、しっかり伝わってくる。
 映像作家 亀井岳が旅をする。登場人物も旅をする。だから、観客たちも映画とともに旅をする。そこから受け手である観客は、まだ行ったことも見たこともない土地なのに、不思議な既視感を覚える。
 映像の力は鋭い。本作は、主にモンゴルの伝統芸能や音楽の周辺が描かれているが、モンゴルで暮らす人たちのさりげない日常が、短いシーンの中で丹念に表現されている。

(C)2009 FLYING IMAGE All Rights Reserved.

(C)2009 FLYING IMAGE All Rights Reserved.

 若者二人が、モンゴルのウランバートルから、喉で音楽を奏でるホーミー(喉歌)という奏法の発祥地チャンドマニまで旅をする。チャンドマニは、ウランバートルの真西、1500キロ以上も離れたホブド県にある村。ホーミーは、遊牧民たちが自然の中で、喜びや哀しみをあらわす、いわば人間楽器だ。
 映画に出てくるいくつかの歌は、山や河に湖、馬や羊、鳥、草花など、自然との関わりを歌ったものばかり。
 映画は、劇的な、大きなドラマではない。モンゴルの雄大な自然と、さまざまな人の暮らす様子がドキュメント・タッチでスケッチされる。これが、ひたすら美しい。青い空、朝焼け、黄金色の草原、雪の平原、遊牧民が羊を追い込む姿…。

 ウランバートルで働いているザヤーは23歳。ザヤーの故郷は、ホブド県のチャンドマニ村。父ダワージャブは遊牧民で、ホーミーの奏者として国から勲章を受けるほどの腕前である。もちろんザヤーも、幼いころからホーミーを身につけている。今日も、アパートの屋上で故郷のチャンドマニを思い、ホーミーを奏でる。
 ダワースレンは、ウランバートルの芸術大学にいるころから、モンゴルの民俗音楽劇団のトゥメン・エフ劇場に出ている。笛とホーミーを担当、もう6年になる。ザヤーとは、ほぼ同じ年代である。劇団の先輩たちが、正月休みをどう過ごすかの話をしている。「ホーミーの故郷、チャンドマニへ行くべき」と。耳を傾けるダワースレン。

 ザヤーは、ウランバートルの北で遊牧をしている、幼なじみのアイナに会いにゆく。共に歌い、語る。「ホーミーには風が吹くところがいいのさ」と。
 ダワースレンは、幼い子供と妻の三人暮らし。先輩たちの話から、チャンドマニに行くために、ホブド行きを決める。正月、飛行機のチケットが取れない。小さなバスで、丸二日かけて行くしかない。
 ウランバートルに戻ったザヤーは、故郷のチャンドマニに帰る決心をする。小さなバスがチャンドマニに向かう。遊牧民のザグトが、イケルという弦楽器を説明して、イケルを弾く。イケルは、馬の走り方を表現する。もちろん舞曲も。
 バスは、まっすぐな道をチャンドマニに向けて走る。雪に埋もれた道を走る。ザグトが馬頭琴を弾き、歌う。「四季にわたって、草花が咲き乱れて、風にゆれている」と。

(C)2009 FLYING IMAGE All Rights Reserved.

(C)2009 FLYING IMAGE All Rights Reserved.

 ドゥゲルは85歳。モンゴルの長唄オルティンドーを歌う。18歳のころから歌っている。「遠い土地から、駈けてきた、輝く黄色い、馬に乗ってよ、やっと着いたと、いななけば、あんなに遠い、アルタイ山だ」と。
 バスは雪の中でエンスト。乗客みんなでバスを押す。
 ドゥゲルの歌うオルティンドーが続く。「白檀香る、林の中、若い鹿が、いるようだ、手綱めぐらせ、ふりかえりゃ、あんなに遠い、アルタイ山だ」。もはや、トゥゲルの歌は祈りである。「楽しく幸せにお過ごしあれ」と。
 ザヤーは、家にたどり着く。お正月の準備が整っている。

 ホブド歌劇場。歌い手のセンゲドルジがツォールという笛を吹く。大した音は出ない。ところが、ホーミーを奏でながらツォールを吹くと、これが複雑だけれど、なつかしい音楽。
 カザフ族の歌い手、ラミャが歌う。「幼いころに歌った歌、アルタイ山脈に生まれた、白鷺は夜明けまでに目覚めた、雪山近くの山腹に生まれた、いとしの故郷、いとしの故郷」と。
 ザヤーは、故郷チャンドマニで、再び遊牧民に。ダワースレンは、ホーミーの源流を訪ねて、さらに西に向かう。ともに、ホーミー奏者であることを知らないで。 
 そして心ふるえるラストシーンが用意されている。

 映画「チャンドマニ」の映像、音楽は、素朴で心洗われる。そして、モンゴルの人たちの暮らしを、ただ、静かに記録するだけである。

2010年3月20日より、渋谷アップリンクico_linkほか全国順次公開!

「チャンドマニ ~モンゴル ホーミーの源流へ~」公式Webサイトico_link

監督・脚本・編集・制作:亀井 岳
撮影:古木洋平
出演:ダワースレン、ザヤー、ダワージャブ、センゲドルジ ほか
2009年/日本・モンゴル/DV/96分/カラー/モンゴル語
配給:FLYING IMAGE


コララインとボタンの魔女 3D(2009年・アメリカ)

(C) Focus features and other respective production studios and distributors.

(C) Focus features and other respective production studios and distributors.

 もしも、目がボタンになれば・・・。
 周りがよく見えないだろう。しかし、目がボタンになってもいいのなら、そこにはたくさんの花が咲く美しい庭があり、面白いサーカスやミュージカルが楽しめ、おいしい食事がいっぱい、やさしいパパとママがいる。ただし、パパとママの目も、ボタンで塞がれている。そのような世界が、いったいどのようなものなのだろうか? 
 映画「コララインとボタンの魔女」(ギャガ配給)は、ニール・ゲイマンの同名の絵本が原作である。監督は「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のヘンリー・セリック。

(C) Focus features and other respective production studios and distributors.
(C) Focus features and other respective production studios and distributors.

 コララインは遊びたい年ごろの少女で、アリゾナからオレゴンに引っ越してきたばかり。パパもママも忙しくて、なかなかコララインにかまってくれない。コララインは家の中を探索、小さな扉を発見する。開けてみると、そこはレンガで固められていて、どうすることもできない。
 ある夜、目を覚ましたコララインは、ねずみを追いかけていると、ねずみは小さな扉から逃げていく。レンガで固められていたはずの扉には、トンネルが通じている。コララインもトンネルに入っていくと、そこはもとの家と同じ。
 でも何かが違っている。なんとママの目はボタン、ピアノを弾いて歌うパパの目もボタン。晩ごはんは豪華なローストチキン、コララインの好きなマンゴー・シェイクにケーキもどっさり。庭には色とりどりのきれいな花たち。
 朝、目をさましたコララインは、現実の家に戻っている。コララインは、夢を見ていたとママに話すが、ママはちゃんと聞いてくれない。
 夜、コララインは、またトンネルに入っていく。そこには楽しいことがいっぱい。現実の世界にいた黒猫がコララインにささやく。「この世界が気にいったようだが、それは間違いだ」と。
 やがてコララインは、現実の世界がたいへんなことになっているのに気がつくが・・。

(C) Focus features and other respective production studios and distributors.
(C) Focus features and other respective production studios and distributors.

 ストップ・モーションで、1コマ1コマ、丁寧に撮られたアニメーション。コララインの驚いたり、喜んだり、悲しんだりの表情がとても豊かである。
 楽しい、夢のような世界に居続けるには、目がボタンにされてしまう。現実の世界は、辛いことや悲しいことが多い。しかし、ちゃんと自分の目で、世界を見ることになる。
 登場するいろいろなキャラクターは、ややダークな雰囲気ではあるが、アニメーションの王道、もちろんユーモラスである。
 コララインの選んだ冒険につき合ううちに、なにか勇気のようなものが湧いてくるはずである。

2010年2月19日(金)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズico_linkほか
全国ロードショー

■「コララインとボタンの魔女 3D」

監督・脚本:ヘンリー・セリック
原作:ニール・ゲイマン著「コララインとボタンの魔女」(角川書店)
原題:Coraline
音楽:ブリュノ・クーレ
撮影監督:ピート・コザチク
コンセプト・アート:上杉忠弘
日本語吹替えキャスト:榮倉奈々、劇団ひとり、戸田恵子
2009年/アメリカ/カラー/ビスタ/5.1Ch/100分
配給:ギャガ powered by ヒューマックスシネマ


手のひらの幸せ(2009・日本)

ドリームワンフィルム/ドロップオブスター/ランテル・メディエール/シージェイネットワークス/T―artist

©ドリームワンフィルム/ドロップオブスター/ランテル・メディエール/シージェイネットワークス/T―artist

 知り合いの長岡市長 森民夫さんの「ほっと一息」というブログで、「手のひらの幸せ」という映画を長岡のあちこちで撮影しているということを知ったのは、7月である。
 幼いころから不幸な境遇の兄弟が、いたわりあって生きている。また、周囲のいろいろな人たちが兄弟に善意の手をさしのべる、といった映画のようである。原作は、歌手の布施明。歌手生活40周年記念のコンサートで朗読して、感動を呼んだという童話「この手のひらほどの倖せ」に基づいている。
 このほど、映画「手のひらの幸せ」(ゴー・シネマ配給)が出来上がった。

ドリームワンフィルム/ドロップオブスター/ランテル・メディエール/シージェイネットワークス/T―artist

©ドリームワンフィルム/ドロップオブスター/ランテル・メディエール/シージェイネットワークス/T―artist

 昭和33年の新潟県の長岡。母親を亡くし、父親は出稼ぎに出たままの幼い兄弟が、唯一の身寄りである祖父を亡くしたというところから映画は始まる。兄弟は希望苑という施設に引き取られる。
 昭和48年。兄の田中健一(河合龍之介)は大工見習いとして東京で働いている。高校生になった弟の龍二(浅利陽介)は施設にいた小さいころに、三条で印刷業を営む竹林家の養子となり、家業を継ぐつもりでいる。音楽の好きな龍二は高校の吹奏楽部に所属、フルートを吹いている。
 毎年の夏、龍二のことを心配する健一は三条に戻ってくる。竹林夫妻は、龍二をなんとか大学に行かせたいと健一に話す。健一もまた、龍二に大学に行くように勧める。

 入学の前祝いとして、健一はなけなしの給料から、龍二にフルートをプレゼントする。健一は出稼ぎに行ったまま帰らない父親の消息を調べている。やがて、高速道路の工事に出かけたまま、事故で死んだことを知る。兄弟は田中家の先祖の眠る墓に父の遺骨を埋葬し、龍二は「アメージング・グレイス」を吹く。

ドリームワンフィルム/ドロップオブスター/ランテル・メディエール/シージェイネットワークス/T―artist

©ドリームワンフィルム/ドロップオブスター/ランテル・メディエール/シージェイネットワークス/T―artist

 二人は、希望苑にいたころを回想する。施設を抜け出して、祖父と暮らした家に向かったときのことなどを。
 大学受験を直前に控えた龍二に、悲しい知らせが届く・・・。

 美しい風景が描かれる。長岡の栃尾地区など、小高い山並み、棚田が続き、わらぶき屋根の残る場所である。施設を抜け出し、祖父と暮らした家に向かう兄弟。お腹がぺこぺこ、柿をとろうとするが、西田敏行扮する家主に叱られる。訳を知った家主はおにぎりと柿を兄弟に与える。「両方の手に幸せをもらうと、涙が拭けないね」と健一。
 時代は、高度成長を遂げ、さらに豊かさを求めていたころである。純朴に、健気に生きる兄弟を見て、幸せとはいったい何かを、じっくりと考えさせられる。

 音楽をあきらめないようにと龍二に言う先生役に仲間由紀恵、健一の務める工務店の大工の棟梁に永島敏行、龍二の養母に生稲晃子が扮し、脇を固める。
 奇をてらわず、正攻法な演出は加藤雄大。黒澤明監督の下で長く撮影助手を担当、本作が監督としての第一作となる。

2010年1月23日(土)有楽町スバル座ほか、全国ロードショー!

「手のひらの幸せ」公式Webサイトico_link

監督:加藤雄大
プロデューサー:佐藤ヒデアキ
脚本:桑田健司
撮影:三栗屋博
音楽:伊藤ひさ子
編集:太田義則
出演:浅利陽介、河合龍之介、村田雄浩、生稲晃子、角替和枝、仲間由紀恵(友情出演)、西田敏行
2009年/日本/103分/ビスタサイズ/カラー
配給:ゴー・シネマ


カールじいさんの空飛ぶ家(2009年・アメリカ)

(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 世のなかには、いろんな出会いもあれば、さまざな別れもある。長く生きた老人はもちろん、幼い子どもでも実の親との別れがある。
 人は、どのような立場にあっても、いろんな人とつきあい、愛し、希望を持って、生きていかなければならない。
 そんなメッセージが伝わる映画が、「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」、「レミーのおいしいレストラン」などを製作したピクサーの新作アニメーション「カールじいさんの空飛ぶ家」(ウォルト ディズニー スタジオ ピクチャーズ ジャパン配給)である。
 カールじいさんは78歳の一人暮らし。幼いころは、シャイで無口、いつも飛行帽とゴークルを愛用する冒険好きな子どもだった。知り合ったエリーは、おてんばで活発、カールと性格は違っているが、冒険好きは同じである。

(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 やがてふたりは結婚、幼いころの秘密基地を改造した家で、ずっと幸せに暮らしていた。カールは動物園の風船売りで、風船の扱いは得意である。子どものいないふたりの夢は、南アメリカにあるという伝説の滝パラダイス・フォールに飛行船で出かけること。

 エリーは病気で死ぬ。ひとり残されたカールは、エリーとの思い出の詰まったアルバムを見ては、ため息のつく日々である。
 そこに宅地開発が始まり、カールは立ち退かざるをえなくなる。カールは、家にたくさんの風船をつけて旅立つ決心をする。
 近所に住む8歳のラッセルが、飛び立った家のドアを叩く。不幸な身の上のラッセルもまた冒険好き。自然探検隊に入っていて、たくさんの表彰バッジを持っている。欲しいバッジは、「お年寄りのお手伝いをした」というバッジだ。
 カールとラッセルは、旅立っていく。 
 カールは、エリーと夢見たパラダイス・フォールを目指すが、その行く手には、とんでもない状況が待ち受けている。

 ほのぼのとした前半に、コミカルでスリリングな冒険ストーリーが展開する。カールじいさんとラッセル少年の関係が、きめ細かく描かれ、やがてふたりは、かけがえのない間柄になっていく。

(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
(C)WALT DISNEY PICTURES/PIXAR ANIMATION STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 ずんぐりとしたカールや、太っていて可愛いラッセル以外にも、個性的で愉快なキャラクターがズラリ。また、カールの憧れの冒険家が悪役で登場し重要な役割を果たす。途中から旅に加わる犬のダグ、ジャングルに住む色あざやかな鳥のケヴィンたちのしぐさやセリフは、爆笑ものである。

 これは、大人も子どもも楽しめる、ディズニー映画の王道。笑って笑って、ハラハラしながら、ちょっぴり涙。それぞれの世代が、正しいこと、生きること、愛することの意味を、深く考えさせてくれる。

2009年12月5日(土)全国ロードショー!

■「カールじいさんの空飛ぶ家」

監督:ピート・ドクター
共同監督:ボブ・ピーターソン
プロデューサー:ジョナス・リヴェラ
製作総指揮:ジョン・ラセター、アンドリュー・スタントン
原案:ピート・ドクター、ボブ・ピーターソン、トム・マッカーシー
脚本:ボブ・ピーターソン、ピート・ドクター
音楽:マイケル・ジアッチーノ
編集:ケヴィン・ノルティング
プロダクション・デザイナー:リッキー・ニエルヴァ
スーパーバイジング・テクニカル・デイレクター:スティーヴ・メイ
スーパーバイジング・アニメーター:スコット・クラーク
キャラクター・スーパーバイザー:トーマス・ジョーダン
原題:UP
2009年/アメリカ/ドルビーSRD-EX/ビスタサイズ/123分
配給:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン


ピリペンコさんの手づくり潜水艦(2006年・ドイツ)

(C)nonfictionplanet

©nonfictionplanet

 「草原のなかの潜水艦」とは、不可能、ありえない、という意味のたとえだそうである。映画「ピリペンコさんの手づくり潜水艦」(パンドラ配給)は、たとえではなく、草原に住むピリペンコさんが、本当に潜水艦を作って、黒海で運転しようとするドキュメンタリーである。

 ウクライナの草原の村に住むウラジーミル・ピリペンコさんは、コルホーズ(集団農場)で、クレーンの運転手だった。今は定年となり、妻と同じ額の年金暮らし。
 ピリペンコさんには夢がある。潜水艦を作って、黒海で潜ること。そして海のなかに入って、魚や海草など、あらゆる生き物と気持ちを通わせ合いたいと思っている。この夢を実現しようと、ここ20年、夜な夜な、イルカ号と名付けた潜水艦を作っている。

Andrew Testa

©Andrew Testa

 いくらメカに強いといっても、クレーンと潜水艦では、まるで違う。ただし、ピリペンコさんは、「水中スポーツマン」という雑誌を30年も読み続け、なんとか、潜水艦らしきものを作ってしまう。ふつうイメージする潜水艦と違って、ピリペンコさんのイルカ号は、ずんぐりしていて、スマートではない。
 自宅はひまわり畑にかこまれた草原。子ども二人はもう大きくなって、独立している。今は、夫婦でトマトを栽培したり、牛や羊を飼っている。さりげない日常が、映し出される。
 ピリペンコさんは、なんとか夢を叶えようと、一途に潜水艦作りに励む。気のおけない友人セルゲイが何かと手伝ってくれる。いっしょに潜水艦に乗せてあげるつもりである。
 少ない年金をやりくり、奥さんに反対されながらも、より強力なバッテリーを買い揃え、準備はゆっくりながら進んでいく。

(C)Andrew Testa

©Andrew Testa

 奥さんや子どもたち、村の連中も引き込みながら、近くの池で試運転となる。みんなが、はらはらして見つめるなか、潜水艦は池に入っていく。なんと、かなりの水が漏れる。
 それでも、無事、リハーサルが終了。やっとのことで、イルカ号を牽引するトラックの手配も完了。二人は出発する。
 黒海までは、ざっと400キロ。ちょっとしたロード・ムービーの趣きで、これまたほのぼのした旅である。
 やっと黒海に着く。さて、どうやって、水際まで、イルカ号を持っていくのか? はたして、イルカ号は、水漏れがなく潜水できるのだろうか?

 ほのぼの、笑って見ているうちに、夢や希望を持つことがいかに大切なことか分かってくる。心の豊かさとは、夢を持って、その夢の実現に向けて努力することである。ピリペンコさんの夢につき合ううちに、心がほんわか、豊かになっていくはずである。 

11月14日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

「ピリペンコさんの手づくり潜水艦」公式Webサイトico_link

山形国際ドキュメンタリー映画祭 市民賞受賞
監督:ヤン・ヒンリック・ドレーフス、レネー・ハルダー
2006年/ドイツ/カラー/ロシア語、ウクライナ語/90分 
配給:パンドラ
宣伝:エスパース・サロウ


ウイグルからきた少年(2008年・日本、ロシア、カザフスタン)

学び!とシネマvol042_01「ウイグルからきた少年」

 カザフスタンのアルマトイ。石油価格が高騰したせいで、豊かになりつつある町を舞台に、国籍の異なる三人の若者の悲惨な現実が、ドキュメンタリー・タッチで描かれる。

 「ウイグルからきた少年」(アップリンク配給)に登場する三人の若者は、まだ少年、少女といっていいほどの年齢で、建築工事が中断した廃屋のような部屋に同居している。 
 アユグは、中国の新彊(しんきょう)ウイグル自治区から逃げてきた少年。母親から、生きて逃げるように言われ、トラックに忍び込んでの不法入国である。新彊ウイグル自治区では、この夏、抗議デモで多くの死傷者が出たが、中国側の報道ばかりで、その実態はくわしくは分からない。アユグも、おそらくは弾圧された側のウイグルの少年という設定である。
 ロシア人の少女マーシャは、家出をして、街娼をしている。おそらく、さまざまな事情があったはずであるが、くわしくは語られていない。もう一人のカエサルは、カザフスタンの裕福な家の育ちのようだが、彼もまた、現実に失望したのか、家出をしてしまう。

学び!とシネマvol042_02「ウイグルからきた少年」 廃屋で暮らす三人は、警察の手入れがないよう、管理人らしい男に家賃を払っている。
 アユグはレンガ工場で働いているが、ある日、管理人が話を持ちかける。「英雄になれるぞ、母親も助け出す」という言葉につられて、なんと、自爆テロのメンバーとしての訓練を受けることになる。
 ホモの中年男性に誘われているカエサルは、男にナイフを突きつけ金を奪う。その恨みで、逆に見知らぬ少年たちに刺されてしまう。
 マーシャは、携帯電話の連絡で売春、お金を稼いでいる。咳が止まらず、血を吐くほどに、体は弱っているようだ。あどけない少女なのに、化粧をした表情は虚ろである。
 訓練を終えたアユグは、体に爆弾を巻き付け、祭りでにぎわう町の幸せそうな人たちに近づいていく。

学び!とシネマvol042_03「ウイグルからきた少年」 映画は、極端に少ないセリフで、静かに進行する。いま、世界のどこかでありえる現実を淡々と描く。背景には、カザフスタンという国や、かつて東トルキスタンという国であった新彊ウイグル自治区の歴史が横たわっている。そして、その裏には、旧ソ連や中国の外交政策が複雑に絡みあっている。
 ウイグル人は自爆テロなどはしない民族と聞いているが、イラクでは、幼い若者が実際に自爆テロを決行している。

 三人の幼い若者の生きざまは、いま世界のどこかの現実でもある。映画からは、多くの歴史やいまの現実を、より多く見てとってほしいというメッセージが伝わってくる。

2009年10月3日(土)より渋谷アップリンク他、全国順次ロードショー

「ウイグルからきた少年」公式Webサイトico_link

監督・脚本・編集:佐野伸寿
出演:ラスール・ウルミリャロフ、カエサル・ドイセハノフ、アナスタシア・ビルツォーバ、ダルジャン・オミルバエフ他
撮影:ボリス・トロシェフ
原題:YASHI
2008年/日本・ロシア・カザフスタン/Video/16:9/カラー/ウイグル語、カザフ語、ロシア語/65分 
配給・宣伝:アップリンク


ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション(カナダ)

偶然の出会いと、アカデミー賞受賞作「ライアン」
そして、奇跡の復活へ

ライアン・ラーキン

 一口にアニメーションといっても、さまざまな表現がある。たまには、アート系の、おもしろさがたっぷり、見る側の想像力を刺激するようなアニメーションはいかがだろうか。

 ライアン・ラーキンの手になる「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」(トランスフォーマー、トルネード・フィルム配給)は、ラーキンの才気あふれる、数少ない短編アニメーション作品(全4作、もう1作は未完で、友人の手で完成)の集大成である。この5作に加えて、ラーキン自身を素材にしたドキュメンタリーふうのアニメーション「ライアン」と「ライアン・ラーキンの世界」が、同時に公開される。すべて短編、上映時間にして合計44分ほど。

 ラーキンは、1943年、カナダのモントリオールの生まれ。1960年代のなかば、勤め先のカナダ国立映画制作庁でその実力が認められ、3分の短編「シランクス」と、1分少しの短編「シティスケープ」を監督する。
 「シティスケープ」は、文字通り、町の風景。わずか1分少しの間に、田舎から都会にやってきた男の混乱や戸惑いが、柔らかなタッチの木炭画で描かれる。
 「シランクス」は、有名なギリシャ神話、ニンフのシランクスと半獣神パンの物語。パンに追い回され、混乱したシランクスは、葦に姿を変える。嘆き悲しんだパンは、その葦から笛を作る、という話である。これまた、木炭で描かれた作品だが、シランクスの変貌する様子が、なめらかに描かれる。音楽は有名なドビュッシーの無伴奏フルートによる「シランクス」。

 1968年、ラーキンは25歳にして、5分の短編「ウォーキング」を撮る。ただ、歩く人の動きを、丹念に描いているかと思いきや、少しずつ人の形が変貌、まるでインクのシミのようになっていく。これが、第42回のアカデミー賞の短編アニメーション賞にノミネートされ、いちやくラーキンは有名になる。

 その後、1972年に9分の短編「ストリート・ミュージック」を作る。これは、さまざまに姿を変えるモンスターたちが、楽しげにダンスを踊る。都会にあふれる人や物たちが、音楽の合わせて、いきいきと踊る。
 やがてライアンは、スランプに陥る。創作意欲が無くなったのか、重度のアルコール中毒になり、コカインにも手を出すようになったという。私生活でも不幸が続き、やがて、アニメーションの世界から去っていく。
 80年代は、ホームレスとなり、路上生活を経験、次第に、ラーキンの名は忘れさられていく。

 ところが、2000年、オタワ国際アニメーション・フェスティバルのディレクターから、ラーキンは審査員を依頼される。これがきっかけで、ふたたび、アニメーションの世界にカムバックしたラーキンは、2008年、監督5作目にあたる「スペア・チェンジ 小銭を」に着手する。
 自身のホームレス体験に基づくアニメーションは、未完のまま、ラーキンは肺がんで亡くなる。

 ラーキンのドキュメント2本、残された5本の作品から、ラーキンの描いた世界は、どのようなものなのか、考えてみた。もちろん、厳しい現実や、創作への夢や憧れは描かれるが、風刺や皮肉というより、ラーキンのアニメーションは、楽しく、美しい。なめらかに変貌する動きや色彩からは、限りない自由を感じる。
 若くして得た名声は、たちまち失うことになったが、アニメーションという表現で、自らを主張したラーキンの遺産は、見るべき価値があると思う。

2009年9月19日(土)、ライズXほか奇跡のロードショー

■「ライアン・ラーキン 路上に咲いたアニメーション」

ライアン』2004年 監督:クリス・ランドレス/第77回アカデミー賞短編アニメーション賞 受賞
ライアン・ラーキンの世界』2004年 監督:ローレンス・グリーン
シランクス』1965年 監督:ライアン・ラーキン
シティスケープ』1966年 監督:ライアン・ラーキン
ウォーキング』1968年 監督:ライアン・ラーキン/第42回アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート
ストリート・ミュージック』1972年 監督:ライアン・ラーキン
スペア・チェンジ 小銭を』2008年 監督:ライアン・ラーキン、ローリー・ゴードン
カナダ/計44分/スタンダード、アメリカン・ビスタ/ステレオ/デジタル上映


未来の食卓(2008年・フランス)

すべての学校給食を自然の味(オーガニック)にしようと、
南フランスの小さな村が立ち上がった。

学び!とシネマvol040「未来の食卓」01

 2006年、パリのユネスコ本部で、「ガンと環境汚染」についてのシンポジウムが開かれている。アメリカの学者が言う。「ガン、糖尿病、不妊の70%は環境が原因」と。

 フランスのドキュメンタリー映画「未来の食卓」(アップリンク配給)は、冒頭から、わたしたちに数々のデータを提示する。

 フランスの農業での殺虫剤の使用量はヨーロッパ最大で、世界でも2、3番目。子どもたちの給食のシーンでは、ソーセージや水、パン、チーズ、バナナなどの添加物や保存料、含有物などが示される。
 南フランス、ガール県のバルジャック村。映画は、この村の小学校が、給食をすべてオーガニックにするという試みを追いかける。

 化学汚染がもたらした現実は、ガンや白血病になって、人間を蝕む。食べ物の生産者は、自分たちで作ったものは、口にしない。何をどのように育てて、作るかを知っているからである。 
学び!とシネマvol040「未来の食卓」02 小学校のオーガニックの日、給食のメニューが張り出される。野菜を育てる子どもたちの様子が、いきいきと描かれる。今日は、マーシュ、レタス、玉ねぎの生育の様子をスケッチしたり、葉の成長を観察している。 
 いろいろな形で、環境汚染や農業の現実が浮かび上がる。飛行機が通っただけで洗濯ものが黄色くなる。年間、世界中で使う化学肥料は1億4千万トン。フランスはここ25年でガンの増加が著しい。除草剤のせいで、頭痛、吐き気がする農家の人。農薬の調合では、毎回、鼻血が出て、尿は出なくなることなどなど。また、水も通さない枯れた土壌と、ミミズのいる生きている土壌の違いも、明確に描かれる。

 小学校では、マーシュとブロッコリーが出来る。ビートも生のまま、給食に出る。おいしいという子どももいるし、ポテトフライが好きという子供もいる。
 もちろん、工業的生産による食べ物とオーガニックによる食べ物の経済的比較も、いろんな角度から検証される。
学び!とシネマvol040「未来の食卓」03 小学校と子供たちが始めた取り組みが、少しずつ周りに、変化をもたらし始める。有機に切り替える農家も出てくる。給食のオーガニック化が進み、村のスタンド売りも評判になっていく。
 さりげなく、花々に群がる蜂が写し出される。「蜂が消えたら、人類は4年後に滅亡する」とアインシュタインの言葉が添えられる。
 小学校では、ラディッシュ、カリフラワー、パセリ、ズッキーニ、玉ねぎが出来る。パセリの茎のにおいを嗅ぐ子どもたち。

 環境や健康を守るための、オーガニックという動きが、これからの消費のあり方を見直す大きなきっかけになりつつある。ことはフランスだけではない。日本では、いま、食の環境はどのようなものなのか?
 ここ50年ほどで、著しく変化した食事情について、大きく見直すときがきていることを痛感する。

2009年8月8日(土)
シネスイッチ銀座・渋谷アップリンクにてロードショー!

「未来の食卓」公式サイトico_link

監督:ジャン=ポール・ジョー
プロデューサー:ベアトリス・ジョー
出演:エドゥアール・ショーレ、ぺリコ・ルガッス
製作:J + B SEQUENCES
撮影:ジョエル・ピエロン、アマル・アラブ
音楽:ガブリエル・ヤレド(『ベティ・ブルー』、『イングリッシュ・ペイシェント』)
2008年/フランス/35mm/カラー/ドルビー/112分 
配給・宣伝:アップリンク


いけちゃんとぼく(2009年・日本)

大人になったあなたに贈る、珠玉のラブストーリー

いけちゃんとぼく01

 人気のコミック作家、西原理恵子さん初の絵本「いけちゃんとぼく」が映画になった。タイトルも同じ「いけちゃんとぼく」(角川映画配給)である。
 コミカルで軽快、ファンタジーではあるが、これがなかなか、考えさせられる。正体不明の生き物いけちゃんと9歳の男の子の交流を通して、一見、男の子の成長が描かれるが、実はそれだけではない。

 いけちゃんは、9歳の男の子ヨシオ(深澤嵐)にしか見えない、正体不明の生き物である。ヨシオがいじめられたり、また他の子をいじめたり、父親が死んだり、同じ年頃の女の子と仲良くなったりするときなど、折にふれて、ヨシオのそばに現れる。いけちゃんには、基本的な形はあるけれども、そのときの状況で、色や形が変わったりする。
 いじめにあったヨシオは、学校をさぼっていけちゃんと山に向かう。いじめに対する復讐の練習である。なんとヨシオは、トンボの頭を万華鏡に入れたり、蝶をそのままノートに貼り付けたりする。悔しくて泣き出すヨシオにいけちゃんは言う。「大きくなって好きな人ができたら、このことを話しなさい。きっと、笑ってくれるよ」と。

 家に帰ると、いじめられたヨシオの危機を救おうと、父親(荻原聖人)が出かけていくが、いじめっ子の親たちに恐れをなして、行方不明になってしまう。さっそく、子どもの喧嘩に親が出るとはなんだとばかり、ヨシオはいじめっ子に詰め寄られるが、そこに、父親の訃報が届く。
 いけちゃんはヨシオに「人より早くおとなにならなければいけない子どももいるんだ。きみがその一人」と励ます。

いけちゃんとぼく03
 その日から、ヨシオは、母親(ともさかりえ)が驚くくらい、ごはんをたくさん食べて、早くおとなになろうと努力を始める。さらに、強くなろうと、牛乳屋のおじさん(モト冬樹)に空手を習い始めたりする。
 ヨシオが女の子と仲良くなろうとすると、いけちゃんは顔を真っ赤にして怒る。そんないけちゃんを見て、ヨシオは、いけちゃんはひょっとしたら女の子ではないかと思う。
 「今日はラッキーなことがある」といけちゃん。ヨシオは、いじめっ子にはじめて、パンチの仕返しをする。いけちゃんの予知能力にヨシオは驚く。
 遠くの町の悪ガキたちが、ヨシオたちの住む町にやってくる。いまやリーダー格になったヨシオは、悪ガキたちに、決着は野球の試合でつけようと提案する。
 少しずつだが、ヨシオは成長をとげていく。それにつれて、いけちゃんは、次第に、見えなくなることが多くなってくる。
 やがて、いけちゃんは、ヨシオに正体を明かすことになるが…。

いけちゃんとぼく02
 CGをうまく使って、ユーモラスにいけちゃんが描かれる。いけちゃんの声は、蒼井優が務める。表情と感情の豊かないけちゃんに合わせて、なかなかの雰囲気ある声である。

 いけちゃんの正体が分ったとき、そうか、このファンタジーは、人を愛することはどういうことかを、それぞれに問いかけているのだと、納得することになる。そして、涙を誘うラストシーンが待っている。

 映画「いけちゃんとぼく」は、おとな向けの映画かも知れないが、若い人たちにも、さまざまな形の愛の意味を、充分考えさせてくれるファンタジーである。

 2009年6月20日(土)角川シネマ新宿他にて全国ロードショー