学び!とシネマ
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国家とは何か 人間とは何か 彼らの存在が私たちの心を激しく揺さぶる

(c) 2008 BIG HOUSE / VANTAGE HOLDINGS. All Rights Reserved.
いろいろと脱北者のことが報道される。何らかの理由で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)から亡命、国外に出る人たちのことである。もとは同じ民族、北から南(大韓民国)へ逃れる人が増えているという。
また2002年には、北京のスペイン大使館に25名が駆け込み、韓国に亡命。同じ年、陽にある日本領事館に、少女のいる家族5人が駆け込もうとした。これは中国の公安が阻止し、脱北は失敗に終わった。日本の領事館は、ただ傍観するだけであった。
このように、北からひそかに隣国の中国に入り、外国の大使館や領事館に駆け込み、亡命、という方法も多い。
北朝鮮から逃れようとする人たちの現実は、わたしたちには、なかなか、きちんと伝わらないようである。ただ、いまなお脱北者はあとを絶たないという。だからこそ、脱北者人権連合といった組織もある。
そのような背景をもとにした映画「クロッシング」(太秦配給)を見た。
北朝鮮の炭坑の町。元サッカー選手で、いまは炭坑で働くヨンス(チャ・インピョ)は、貧しいけれど、妻ヨンハ(ソ・ヨンファ)、11歳の息子ジュニ(シン・ミョンチョル)と、幸せに暮らしている。父子はサッカーで遊ぶのが大好き、雨の中、ボールを蹴る。
ヨンスの友人が南のスパイ容疑で連行される。家族は離ればなれになる、このようなケースも多いという。
生活総和という、職場や地域単位の相互批判集会がある。ある日、妻のヨンハが、この生活総和の会場で倒れる。結核である。クスリが手に入らない。このままでは死んでしまう。しかたなく、ヨンスはクスリを求めて中国に向かう。
やがて、ヨンハは亡くなる。一人になったジュニは、家を処分したわずかなお金で父の行方を探すことになる。映画は、この悲惨な状況を、実にリアルに描いていく。
ジュニは、幼なじみの少女と再会し、国境を越えようとするが、捕まってしまう。北から逃れるのに失敗した人たちの収容所に、ジュニと少女は入れられてしまう。
ヨンスは、陽のドイツ大使館を経由して、やっとの思いで、韓国のソウルにたどり着く。脱北関係の情報を提供したり、手引きをする仲買人を通して、ヨンスはジュニの消息を知ることになるが…。
悲劇である。脱北者の現実のすべてが描かれているわけではないと思うが、このような状況があるのは、かなり事実だろう。もちろん、北朝鮮の大半の人たちは、ふつうに暮らしているはずである。
映画は、実際に北を逃れたたくさんの人から取材、中国や韓国での撮影は、もちろん極秘に進められたという。
監督は、娯楽映画でも手腕をみせるキム・テギュン。綿密な考証と長い時間をかけて撮られた映像からは、痛いほど、虐げられた人たちの叫びが聞こえてくる。
自らも脱北者で、映画の助監督を務めたキム・チョリョンは言う。「幸せを分かち合うという、このあたりまえのことでさえ、北朝鮮では実現できないことを伝えたかった」と。
おなじ人間なのに、思想や信条のちがいから、憎み合うという歴史は、いまなお、世界のあちこちで続いている。
2010年4月17日(土)より渋谷ユーロスペース
、名古屋シネマスコーレ
5月1日(土)より銀座シネパトス、千葉劇場
、シネマート心斎橋
ほかロードショー!
■「クロッシング」
第28回韓国映画評論家協会賞 音楽賞(2008年)
第16回イチョン春史大賞映画祭(2008年) 子役賞・美術賞・音楽賞・撮影賞・脚本賞・監督賞・最優秀作品賞・審査員特別賞?
第21回東京国際映画祭[アジアの風](2008年)招待作品
第81回米国アカデミー賞外国語映画賞部門(2009年) 韓国代表作品
第13回米国ハリウッド映画祭(2009年)グランプリ受賞
監督:キム・テギュン
製作:BIG HOUSE、VANTAGE HOLDINGS
制作:Camp B
脚本:イ・ユジン
撮影:チョン・ハンチョル
音楽:キム・テソン
出演:チャ・インピョ、シン・ミョンチョル、ソ・ヨンファ、チョン・インギ、チュ・ダヨン
2008年/韓国/107分/35mm/カラー/シネマスコープ/SRD
配給:太秦