新渡戸稲造が問いかけている世界

新渡戸稲造<国立国会図書館蔵>

新渡戸稲造<国立国会図書館ホームページより転載>

 今年は、明治天皇没後100年ということもあり、乃木希典殉死と重ね、明治という時代に想いをはせ、日本という国の容(かたち)を考え、この国の在り方を問い質そうとの言説が多くみられました。このような周年行事に託しての企画は、歴史を想起することで、現在(いま)ある私の場を確かめ、明日を生き抜く糧を手にしようとの試みにほかなりません。そのような想いで時空を旅してみたとき、今年2012年は新渡戸稲造生誕の1862年(文久2)から150年にあたります。その記念行事は、新渡戸ゆかりの地で行われたようで、「太平洋にかける橋」たろうとした新渡戸の志がその「武士道」に重ねて想起されたなかにうかがえます。新渡戸という存在は、このようにして語られてきた世界にあるのでしょうか。
 新渡戸稲造という存在の大きさは、日露戦争後の日本にとり、世界の「一等国」、大日本となったと思いあがっている日本の青年に如何に生きるかを問いかけ、第一高等中学校の選ばれた青年のみならず、実業青年に己の生きて在る場をみつめることから、明日への想いを問いかけたことです。その問いかけは、大日本にふさわしい国民に求められる品格、人間としてどのように生きるかを、相手に応じて語りかけたなかにうかがえます。

「修養」に託した思い

 新渡戸は、第一高等中学校校長でありながら、雑誌『実業之日本』に「修養」を連載したがため、学の内外から批判されました。この「修養」談は、江湖の青年、上級学校への進学を断念して実業に就かざるをえない青年の心を激しく揺さぶり、発奮せしめました。実業青年は、新渡戸が説く人生談に、生きて在る己の場を確かめさせる声を聞いたのです。
 この連載は、明治44年8月に一書となり、年内で14版を重ね、大正2年末までに28版、大正3年に縮刷版となり4年末に46版、5年3月に48版が刊行されるという大ベストセラーとなります。縮刷版は、天金装丁で、縦長の聖書のような装丁となっています。まさに『修養』は、人生の生き方を説いた実用書である以上に、「若し本書にして、一人にても二人にても、迷うものの為に指導者となり、落胆せんとする者に力を添え、泣くものの涙を拭い、不満の者の心をなだめ得るなら、これぞ著者望外の幸」と「序」に認めていますように、己の心を見つめる世界が語りかけた精神の書でありました。
 序で「修養とは何を意味する」かを問い、「修養とは修身養心ということ」、「身と心との健全なる発達を図るのが其目的」で、難しく考えるのではなく、「平凡な務」こそが大切で、「人はややもすれば、職業だとか或は言語だとかを見て、非凡と平凡とを区別するが、併し実際は平生の心掛と品性とを標準として決するが至当」となし、平生からの心掛けと品性の大切なことを説いています。この言は、向上心をもちながらも日々の仕事に追われる青年にとり、己の仕事を勤めることで世界が開けてくるとの思いをいだかせたのです。
 私が出会った日露戦争後世代の老人は、新渡戸の「修養」を読むことで、どれほど世の中が明るくなり、仕事をすることに希望をもてたかを目を輝かして話してくれました。このような新渡戸の魅力、その根にある世界とは何でしょうか。昨今、「品格」を語り、「国家の品格」なる言説が氾濫しているようです。それだけに新渡戸が問いかけた世界にある根に目を向けたく思います。新渡戸は、修養を問い語ることで、青年が世に出る、己の志を立てる、理想に向かって生きる上で何が大切かにつき、「人間は縦の空気をも呼吸せよ」と、説き聞かせています。

社会に生きる人間に何が問われているか

 新渡戸は、社会で生きていく上で、人間同士の横の関係だけではなく、人間以上のあるものとの垂直の関係に目を向け、「人間は縦の空気をも呼吸せよ」と説いてやみません。ここには社会関係を読み解く目が提示されています。

人生は社会のホリゾンタル(水平線)的関係のみにて活るものでないことを考えたい。ホリゾンタル―多数凡衆の社会的関係を組織して居るその水平線―に立つて居れば、多数の間に其頭角を抜き、其名利を恣にし、又指導することも出来るであろうが、併し一歩を進めて人は人間と人間とのみならず、人間以上のものと関係がる、ヴァーチカル―垂直線的に関係のあることを自覚したい。我々はただに横の空気を呼吸するのみで、活きるものでなく、縦の空気をも吸うものであることを知って貰いたいのである。人間と人間との関係以上というと、何だか耶蘇教の神らしいことになる、併し僕は必らずしも神と限るのではない。仏教の世尊でも、阿弥陀でもよい、神道の八百万の神でも差しつかえない。僕は何の宗教ということを、ここで彼れ是れいうことを好まぬ。只人間以上のあるものがある。そのあるものと関係を結ぶことを考えれば、それで可いのである。此縦の関係を結び得た人にして、始めて根本的に自己の方針を定めることが出来る。

 この問いかけは、横の人間関係に翻弄されて己の場を見失うのではなく、人間ならざる大いなる者に目を向けることで、社会を相対化し、己の場を確認することこそ明日への活力となるとのメッセージにほかなりません。ここには、水平的思考ではなく、垂直的思考こそが社会を読み切る目に問われていることを示唆しております。
 新渡戸が修養談に託して説いた世界は、日露戦争後の「大国」日本で水平的な横の関係で他者との距離をはかり、己を位置づけ、優勝劣敗に心騒がせる在り方への鋭い批判でありました。しかし日本社会は、垂直型の思惟への目を身につけることなく、他国、他者を秤として己の位置を確かめ、己を失ってきたのではないでしょうか。新渡戸稲造生誕150年にあたり、明治末年の日本に問いかけたメッセージに耳を傾け、垂直的な目、見えざるものの声に耳を傾けたいものです。

h_vol59_02

『修養』
新渡戸稲造
2002年 たちばな出版 刊


「自画像(ベレー帽)」 黒田清輝作

kbi_art_no043_01

油彩/板/36×25.3cm/1897

 黒田清輝31歳の自画像であるこの作品には、いかにもフランス帰りの芸術家らしい風貌が表現されています。黒田は明治を代表する洋画家の一人で、近年も彼の作品がテレビCMに使われるなど、今なお高い人気を誇ります。「近代洋画の父」と呼ばれるほどの成功を収めた黒田ですが、画家としてのスタートは、意外にも多難なものでした。
 黒田は明治17年、17歳でフランスに留学しましたが、当初は元老院(当時の立法機関)議官であった父親の意向により法律の勉強をさせられていました。パリで画家や画学生らと接するうちに美術の道を目指すようになりますが、父親の許しを得られず、しばらくは日本にいる父を説得しながら法律と美術の勉強を並行せざるをえませんでした。
 「天性ノ好ム処ニ基キ断然画学修業ト決心仕候(=自分の気持ちに正直に、どうしても絵の修業をすると決意いたしました)」と父に宣言し、ようやく画家修行に専念した黒田は、パリ近郊の風光明媚なグレー村を拠点に数々の優れた作品を描きました。グレーで出会い、黒田のモデルを務めたマリアとの恋愛を巡っては、のちに親友の久米桂一郎が「(黒田が)妙なことを言って……狂人のようになっていた」と語っているところをみると、深い悩みを経験したようです。
 帰国後、30歳代前半の黒田は、得意とする人物描写の腕前を大いに発揮して「湖畔」「昔語り」「智・感・情」などの大作を次々に発表しました。この自画像に描かれているのは、悩み迷う青年期の面影を残しながら、いよいよ念願の画家として開花しつつある姿と言えるでしょう。

(久米美術館 学芸員 梶田里佳)

■久米美術館ico_link

  • 所在地 東京都品川区上大崎2-25-5 久米ビル8階
  • TEL 03-3491-1510
  • 休館日 月曜日(月曜が祝日の場合は翌日休館)、年末年始、展示替え期間

<展覧会情報>

  • 企画展「久米桂一郎・黒田清輝と東京美術学校の教え子たち」展
  • 2013年1月10日(木)~2月24日(日)

展覧会概要

  • 久米桂一郎と黒田清輝は共にフランス留学から帰国後、東京美術学校(現・東京藝術大学)に新設された西洋画科で指導にあたりました。今回の展示は、久米・黒田と、彼らの指導を受けた作家による絵画・彫刻作品を併せて鑑賞できる恒例の展覧会です。

<次回展覧会予定>

  • 久米美術館 常設展 I
  • 2013年3月12日(火)~4月21日(日)

その他、詳細は久米美術館Webサイトico_linkでご覧ください。


10より おおきい かず(第1学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

「10より おおきい かず」

2.目 標

○10をまとまりにして数えるよさを知り、身の回りの事象の個数を進んでとらえようとする。
○ブロック操作から図表現への活動を通して、20までの数を「10といくつ」という数の見方ができる。
○20までの数の構成(合成・分解)について理解し、数をよんだり、かいたりすることができる。
○20までの数を数の線上に表す活動を通して、大小、順序、系列を理解するとともに、そのよさを感じることができる。

3.評価規準

「関心・意欲・態度」
・身のまわりのものを10のまとまりと端数で数えたり、数を用いて表したりしようとしている。

「数学的な考え方」
・20までの数を「10といくつ」という数の見方でとらえている。

「技能」
・20までの個数を正しく数えたり、数字で表したりすることができる。
・繰り上がりのない(2位数)+(1位数)や繰り下がりのない(2位数)-(1位数)の計算ができる。

「知識・理解」
・20までの数のよみ方、かき方、大小、順序、系列を理解している。

4.本単元の指導にあたって

①教材について
 本単元では、10までの数についての理解に基づいて、20までの数の概念を形成することをねらっている。そして、「10といくつ」といった加法的な構成を加味して、数範囲を100まで拡張するための橋渡しとしている。

②学習過程について
 本単元の指導は、数を10のまとまりと10に満たない端数がいくつととらえる活動を通して、十進位取り記数法の素地的な扱いを、具体物(場面事象・挿絵)→半具体物(ブロック)→数図(○図)→数詞・数字と段階を追って理解するようにしている。数の構成(合成・分解)においても、「10といくつ」の見方を定着させることに重きを置き、ブロックによる算数的活動を中心に行うようにする。また、数の線を使って、数の大小、順序及び数の大きさをとらえさせ、数の概念の理解を深めていく。

③児童の実態
 子どもたちは,これまで「10までの かず」の構成を、具体物(ブロック・おはじき・数え棒など)と数詞を対応させ、意欲的に学習してきている。特に、授業の中で算数的活動を取り入れ、ブロックやおはじきなどの半具体物を用いながら,数える体験を繰り返し積み上げてきた。また、数にかかわる活動を通して、ものの個数・相等・多少などについて理解を深めてきた。

5.単元の指導計画

学習活動及び内容

学習のねらい

子どもの活動と内容

評価規準の具体例

20までのものの個数を既習の操作を生かして10のまとまりをつくり、10といくつという見方で考えて、16や12などの数のよみ方がわかる。

○挿絵にブロックを1対1対応させて数を調べる。
○10のまとまりを線で囲んだりブロックを並べ替えたりする。
○16、12のよみ方を知り、数字をかく。

・身のまわりのものを10のまとまりを線囲みやブロックでつくって数えようとしている。【関】

前時の10といくつのブロック操作を生かして、20までのものの個数を順序よく並べ、端数が1つずつ増えることに気づき、その数のよみ方とかき方がわかる。

○前時を想起して挿絵にブロックを置いて10といくつで表す。 
○10といくつをブロックから○図に置き換えてノートに表す。
○10から20までの数を順番によみながら、数字をかく。

・20までの数をすべてブロックや○図に表し、10といくつという見方でとらえている。【考】


本時

2や5のまとまりの挿絵から、その個数を2ずつ、5ずつにまとめて数えることができて、正しくよんだり、かいたりできる。

○挿絵から10のまとまりをつくったり、生かしたりして数える。
○2や5のまとまりを使って、2とびや5とびで数える。
○20まで順序よく数えて数の線をつくり2や5とびでも数える。

・2ずつ、5ずつにまとめて数えることができ、「じゅういくつ」と表現することができる。【技】

前時までのブロック操作を想起して、「10といくつ」という見方で合成・分解ができる。

○数カードの数だけブロックを10といくつで並べる。
○数カードで10といくつの合成と分解を表し、ノートにかく。

・20までの数を、10のまとまりと端数に分け2数の和で理解している。【知】

20までの数カードや数の線を使って、順序よく並べたり数の線をかいたりし、系列の中の位置が分かる。

○数カードを小さい順に並べたり数の線をつくったりする。
○大小の順や2・5とびに並んだ数の間の数を数の線で考える。

・数の順序や数系列をもとに、抜けている数の見つけ方を数直線で考えている。【考】

20までの数カードの大小の判断を、ブロックや数の線に置き換えて大小の理由を説明することできる。

○数カードを使って、大小の判断をブロックを使って考える。
○数の大きさ比べのカードゲームをして、結果をノートにかく。

・端数の大小で比べる方法を、ブロックや数カードで考えている。【考】

ブロックや○図を使って数の構成に着目して、10といくつの加法や減法の計算の仕方を考える。

○加法や減法の計算の仕方を合成・分解のブロック操作で考える。
○ブロック操作・10と6で16の言葉・式の可逆的に活動する。

・数の合成・分解に着目して10といくつの加法や減法の計算を考えている。【考】

繰り上がりや繰り下がりののない(2位数)±(1位数)の計算ができる。

○場面を既習のブロック操作におきかえ、たし算とひき算の判断をして、式へとつないで計算する。

・(2位数)±(1位数)の計算の仕方を理解している。【知】

6.本時の学習(第3時/全8時)

①目標
○2や5のまとまりの挿絵から、その個数を2ずつ、5ずつにまとめて数えることができて、正しくよんだり、かいたりできる。
○数直線をかいたりよんだりして、数直線上の数の系列(大きい順と小さい順、1ずつ・2ずつ・5ずつ増える)がわかる。

②学習展開

【導 入】
1.既習の10のまとまりといくつを生かし、挿絵の具体物を数え、数字に表す。

san009_01

【資料1】導入の子どものノート

(1)10のまとまりのちがいを意識して数える。
 子ども達は、10のまとまりがない挿絵と10のまとまりができている挿絵を数え、○図に表した。
<数えて数字に表す活動の内容>…【資料1】
 10のまとまりがないときは、線で囲んで10のまとまりをつくって数え、○図に表した。
 10のまとまりができているときは、10と端数だけを数え、○図に10のまとまりをわかるようにして表した。
 10のまとまりがない事象とできている事象を比べ、数えるときの10のまとまりのよさについて話し合った。
<ペア・全体の話し合いでの子どもの反応>
 キャンディーは、10のまとまりをつくって数えた。でも、折り紙やクレヨンは、10のまとまりがあったので、ばらだけを数えればよかった。
 10のまとまりがあると、早く簡単に数えられた。(わかりやすい。見ただけでわかる。他)

【写真1】2ずつ・5ずつの挿絵の提示

【写真1】2ずつ・5ずつの挿絵の提示

(2)2ずつ・5ずつのまとまりの場面の挿絵を提示し、めあてをつくる。
 ケーキやおにぎりの2ずつのまとまりになっている挿絵と子どもやりんごの5ずつのまとまりになっている挿絵を提示した。そして、これまで数えた場面とのちがいを考えさせ、めあてをつくった。

めあて
2ずつや5ずつでかぞえて、10のまとまりといくつでかんがえよう。

【展 開】
2.2とびや5とびの数え方を知る。

san009_03

【写真2】2・5ずつで数え表した様子

(1)2とびや5とびの数え方を話し合い、挿絵の具体物を2とびや5とびで数える。
<数え方についての子どもの反応>
 ケーキは2こずつ入っていて、おにぎりは2こずつお皿にのっているから「2、4、6、8、10」で数えられる。
 子ども達は5人ずつ手をつないで、りんごは5こずつかごにのっているから「5、10、15」と数えられる。

san009_04

【資料2】2ずつ数えてノート

san009_05

【資料3】5ずつ数えたノート

 そこで、子ども達は、挿絵に「2、4、6、8、10」と数をかいて、10のまとまりをつくり○図に置き換えて表した。
 子どもの中には、「2、4、6、8、10」を繰り返す子どもが多かった。数名は、「2、4、6、8、10、12、16、18、20」と数える子どもも見られた。そこで、2ずつや5ずつで20まで数えるための【資料4】の挿絵を提示した。

(2)20までの数の線を使って、2ずつや5ずつで繰り返し数えて数の系列を考える。
 まず、ブロック等の動く具体物を使って、指で動かしながら2ずつ数える活動を行った。【写真3】
 次に、【資料4】の数の線の挿絵を提示し、□にあてはまる数字をかいた。2とびや5とびの数字に○で囲んだり、「2とび」や「2ずつ」の言葉を書き込んでいった。

san009_06

【写真3】数の線で数える様子

san009_07

【資料4】

【終 末】
3.2ずつや5ずつで数えられる場を教室の中で考えさせてまとめる。

san009_08

【写真4】2ずつや5ずつの事象を示す様子

 子ども達は、【写真4】のように、開示物を縦に2ずつや横に5ずつで見て数えることを発表できた。

まとめ
・2ずつや5ずつのまとまりをつかえば、わかりやすく、はやくかぞえられる。
・2とびや5とびのかぞえかたは、20までつづけてかぞえるとべんり。

6.実践のまとめ

 具体物(場面事象・挿絵)→半具体 物(ブロック)→数図(○図)→数詞・数字をつなぐ活動が、2とびや5とびの数え方や20までの系列を理解を深めた。
 子ども達の挿絵やブロック操作からの気づきを意識させるために、ペアや全体で自分の言葉で表現したことや各自がノートに書き込ませたことは、自分なりの納得した分かり方につながった。

「重なる形と図形の角を調べよう」 図形の角と合同(第5学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

「重なる形と図形の角を調べよう」 図形の角と合同

2.本時の位置づけ

第11時(全15時間)

3.本時のねらい

 本時は、どんな四角形も一つの頂点から向かい合う頂点に向かってのばした直線(対角線)で2つの三角形に分けることができ、180°×2で、四角形の内角の和が360°になることが理解できるようにすることをねらう。図形を三角形に分割してみる見方はその後の多角形の角の大きさの和を求める学習で活用される見方であり、全員の子どもに、確実に身につけさせたい。そこで、本時のしる、わかる段階はスモールステップで指導を行いエラーレスで学習を展開し、使いこなす段階で全員が交流に参加しながら考えさせ、知識を確実なものにしていく習得の授業スタイルで展開する。まず「しる段階」では、4つの角の大きさがわかっている長方形や正方形を提示し、内角の和が90×4で360°である事を確認した後、不定形の四角形を提示することで、課題意識を持たせ、めあてをつかませる。「わかる段階」では、4つの角を色分けし、切る、動かすという操作が可能な図形カードを用いて教師と一緒に四角形の内角の和の求める方法を話し合い、2つの三角形に分けて考える方法で三角形の内角の和が求められ、提示された四角形の角の大きさの和が360°といえる事を確認し、見通しを持たせる。さらに、別の四角形を提示し、どんな四角形でも2つの三角形に分割して考える方法で内角の和が360°であることを説明できるか問いかけ、多様な四角形の内角の和を、2つの三角形に分割する方法で求めさせる。「つかいこなす段階」では、どんな四角形でも内角の和が360°になることを確認した後、4つの三角形に分割した四角形を追事象として提示し、内角の和は180°×4で720°になる。この分け方では三角形の角の大きさの和は求められないのかという視点で交流させ、四角形の内角の和として必要な部分と必要ない部分をより明確にし、四角形の内角の和が360度であるという知識理解を強化できるようにする。

4.本時の評価規準

○知識・理解
 どんな四角形も、対角線で2つの三角形に分けることができ、三角形の内角の和が180°であることを使って、180°×2で四角形の内角の和が360°であると求められることを理解している。

5.単元の指導計画

主な学習内容と活動(※主な算数的活動)

スタイル

○パズルで形を構成する活動や薄い紙に写して重ねる活動、身のまわりの合同な図形を見つける活動。

習得

○合同な図形で対応する頂点、辺、角を見つけ、合同な図形では対応する辺の長さや対応する角の大きさが等しいことを理解する。
※薄い紙に写して重ねる活動。

習得

○台形、長方形、ひし形、平行四辺形を分割してできた三角形について合同の考え方を適応して調べ、合同な三角形を見つける。
※図形を薄い紙に写し取り、対角線で切り、重ねて、合同であることを重ねて確かめ、説明する活動。

習得


○合同な三角形のかき方を理解し、作図し、作図の仕方を説明することができる。
※底辺をきめ、頂点Aをきめるためにどの辺の長さやどの角の大きさが分かればいいかを話し合う活動。できた三角形が合同な三角形であることを、重ねて確認する活動。

習得


○合同な四角形の作図をする。
※対角線を引いて三角形をつくり、他の頂点の決め方を説明する活動。

習得・活用

○三角形や四角形が敷き詰められた模様を観察したり、三角形を敷き詰めたりする活動。

習得

○三角形の内角の和が180°であることを理解する。
※合同な図形を敷き詰めたもようを観察したり、3つの角を集めたりする活動。

習得

10

○三角形の内角の和が180°であることを使って未知の角の大きさを求める事ができる。
※三角形の内角の和が180°であることを根拠に未知の角の大きさの求め方を説明する活動。

習得

11
本時

○四角形の内角の和が360°であることを理解する。
※四角形の内角の和の求め方を三角形の内角の和の求め方を根拠にして説明する活動。

習得

12

○多角形の用語、意味を理解し、多角形を三角形に分割して内角の和を求める。   
※三角形の内角の和が180°であることを根拠にして、多角形の内角の和の求め方を説明する活動。

活用

13

○三角形や四角形の角の大きさの和を使って未知の角の大きさを求める問題を解く。

活用

14

○いろいろな平面図形を敷き詰めて模様づくりをする。

活用

15

○練習問題をして,学習の定着を図る。


6.実践紹介

(1) 本時展開【習得の授業スタイル】


学習活動

具体的な手立て


1.長方形や正方形と不定形の四角形Aを比較して話し合い、めあてをつかむ。

san008_01

・正方形は4つの角が90°。90°×4で360°
・どんな四角形も360°じゃないかな。
・四角形を三角形に分けて考えるとできそう。

○事実として4つの角度が分かっている四角形と角度が分からない四角形Aを提示し、どんな四角形も内角の和が360°であるといえるか問いかける。

四角形の4つの角の大きさの和が何度になるか調べて説明できるようになろう。



2.四角形の内角の和を調べる。
○1本の対角線で分け、角の大きさの和を求める方法を話し合う。

san008_02

○2分割された四角形と分割前の四角形を並べて提示し、三角形の内角の和が180度であることを確認した後,これを使って四角形の内角の和が何度か求められないか問いかける。子どもと対話しながら四角形の角の大きさの和が2つの三角形の角の大きさの和と同じになることを図形カードを使っておさえ、代表児の説明を板書することで説明のモデルをつくる。

san008_03○360°になっていることを4つの角を移動させ確認する。

○掲示用のカードを分割し、角を寄せて提示し、360°になることを視覚的に確認する。

○自分で作った四角形を1本の対角線で分け角の大きさの和を調べる。
・どの四角形でも角の大きさの和が360°であることが説明できるかな。

san008_04

○どんな四角形でも角の大きさの和が360度であると説明できるか問いかけ、自分で四角形を作り、角の大きさの和を求めるよう指示する。






3.いろいろな四角形の角の大きさの和の求め方を話し合う。
○自分が調べた四角形の角の大きさの和が何度になったかを説明する。(確認)
・どんな四角形でも、2つの三角形に分けられ、角の大きさの和は180×2で360°になる。

san008_05

○グループで自分が調べた四角形を使って説明し合うよう指示し、グループで説明しあった後、代表児1名の四角形の説明をもとに、どんな四角形の内角の和も360°である事を押さえる。

○4つの三角形に分けた四角形でも角の大きさの和が360°であることが説明できないか話し合う。(強化)

san008_06

・真ん中のいらないところがあるから、720°から360°をひかないといけない。720-360=360
・この方法でも四角形の4つの角の大きさの和が360°と求められる。
san008_07・3つの三角形に分けた四角形の角の大きさの和も説明できそう。

○2本の直線で4分割された四角形や3つの三角形に分割された四角形を追事象として提示し、この分け方では四角形の内角の和の認め方が説明できないか問いかける。




4.本時学習を振り返り、まとめる。

○四角形の内角の和が何度といえるか、それは何を使って説明できたかを振り返る。

四角形の角の大きさの和は360°である。四角形を三角形に分けて考え、三角形の角の大きさの和が180°である事を使って説明できる。

(2) 指導の実際(わかる段階・つかいこなす段階を中心に)

①わかる段階

【ステップ1】…見通しをもつ
 教師が提示した図形カードを用いて教師と子どもで対話しながら三角形に分け、2つの三角形がそれぞれ180度であることまで確認し、三角形の角の大きさの和と四角形の角の大きさを結びつける所に絞って子どもたちに考えさせた。はじめは見通しがもてなかった子どもたちも、友達の説明と三角形のカード操作を通して、2つの三角形を合わせると四角形の角の大きさと同じになることをとらえることができた。

san008_08

【ステップ2】…適用する
 ステップ2は、どの四角形でも、角の大きさが360度になることを説明できるかという課題を与えた。子どもたちは2つの三角形に分割して考える方法を使うといいという見通しを持ち課題解決に取り組んだ。解決の見通しがもてず戸惑っている子どもには、ステップ1の代表児の説明を板書したモデル文を見るよう助言すると、すぐに課題解決を始めることができた。モデル文は子どもの自力解決の支援として有効に働いたと考える。

san008_09

【ステップ3】…習熟する
 自分でつくったオリジナルの四角形の内角の和を求めるよう指示をしたことで、子ども達は様々な形の四角形に2つの三角形に分割して内角の和を求める見方を適用して課題解決を行っていった。この段階で、全員の子どもがモデル文なしで課題解決を進めることができていた。

san008_10

②使いこなす段階

san008_11

san008_12

san008_13

 使いこなす段階では、まずステップ1でグループでの発表や代表児童の説明をする場を設定し、どんな四角形でも内角の和が360°になる事を確認した。つぎにステップ2として追事象の四角形を4つの三角形に分けた図形カードを提示した。この分け方では4つの三角形の角の大きさの和が180°×4=720°になる。本時では「どこがおかしいのか」という課題の与え方をしたが、「これも三角形に分けているが、この分け方では四角形の角の大きさの和は求められないか」という視点で交流させた方が良かったのではないかと考える。
 子どもたちは図形カードを指しながら、四角形の角の大きさと関係がない角の大きさが含まれていることを見つけ、交流を進める中で、720°から、四角形の角には含まれない余分な角の大きさを取りのぞくことで、四角形の角の大きさの和が見つけられることを見出していった。さらに、3つの三角形に分割した四角形も、32名中29名が助言なしで自力で正しく説明をすることができていた。また、次の時間の12/15時の多角形の角の大きさの和を求める際も、全員の子供が戸惑うことなく三角形に分割して多角形の角の大きさの和を効率よく求めることができ、1単位時間内にn角形の角の大きさの和が(n-2)×180で求められるという規則性まで導き出すことができた。これらのことから、本時の習得の授業スタイルでの展開で、子どもたちは本時の学習内容を確実に理解し習得することができたと考える。

(3) 子どもの学習ノート

①11/15本時の学習ノート

san008_141

②12/15時の学習ノート

san008_15

組み立て方と字形 「友情」(第6学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

組み立て方と字形 「友情」 

2.目 標

○「へん」と「つくり」の組み立てを考えて自分のめあてをもち,練習方法を選び進んで取り組むことができる。
○「へん」と「つくり」の幅の違いに気を付けて,字形を整えて書くことができる。
○めあてをもとに自己評価をしたり,友達の伸びを認め合ったりすることができる。

3.評価規準

○関心・意欲・態度
 「へん」と「つくり」の幅の違いに気を付けて,字形を整えて書こうとしている。

○思考・判断・表現
 「へん」と「つくり」の幅のとり方について,よく考えている。

○技能
 「へん」と「つくり」の幅の違いに気を付けて,字形を整えて書いている。

○知識・理解
 「へん」と「つくり」の幅の違いについてよく理解し,字形を把握している。

4.本単元の指導にあたって

①教材について
 本単元では,漢字の組み立て方の中で最も多い左右の組み立て方を扱っている。「へん」と「つくり」に代表される左右の組み立て方の学習は,4年生から行われており,児童の理解度もある程度は高くなっていることが想定される。『青』が文字の一部分になったときの形の違いや,「へん」と「つくり」の幅のとり方の違いを理解して書けるようにする。

②学習過程について
○自分のめあてを明確につかませる工夫

・試し書きと手本を比べる
・文字の形や組み立て方に意識を向けさせるための操作文字の利用
・自分のめあてを意識しやすいような学習カードの工夫
・課題をとらえやすく,どう書けばよいかの具体的なイメージがもちやすいような水書板や教材提示装置,動画などを活用した範書

○自分のめあてに合った練習方法の工夫

・下記のような練習用紙を用意し,自分のめあてに合った用紙を選択できるようにした。
 籠書き…字の太さ
 骨書き…とめ,はね,はらい,筆脈
 外 形…字形,中心線
 穂先の位置…始筆,終筆,穂先の向きや動き

③指導と評価について
 自分のめあてをつかみやすくし,つかんだめあてを常に意識して書かせることにより,ポイントを絞った自己評価や相互評価ができると考えた。全体的に字が上手く書けたかではなく,自分のめあてが達成できたかどうかを見ていったり,めあてが達成できたり,達成しようと取り組んだりする友達のよさを見付けたりすることによって,上達の喜びを味わうことができるようにしたい。

④児童の実態について
 本学級の児童は,書写の時間に集中して学習に取り組むことができる児童が多い一方で,書写の学習に対して苦手意識をもっている児童も少なくない。児童は日常生活の中で,ノートなどの文字を正しく書こうとする意識はあるものの,「組み立て方を考えて書く」ということに対しては,常に意識しているとは言い難い。そこで,組み立て方ということに目を向けさせ,日常の書く活動に生かそうという意欲を育てていきたい。

5.単元の指導計画(全3時間)

学習のねらい

子どもの活動と内容

評価規準の具体例

 ○「へん」と「つくり」の幅の違いを理解することができる。

 ・「へん」と「つくり」の幅の違いを理解し,自分のめあてをもって練習する。

 ・「へん」と「つくり」の幅とゆずり合いを理解して書いている。(技)

○「へん」と「つくり」の幅の違いに気を付けて,字形を整えて書くことができる。

・自分のめあてにあった方法を選んで練習し,「へん」と「つくり」の幅の違いに気を付けて,字形を整えて書く。

・自分にふさわしい練習用紙を選んで,自分のめあてに向かって練習している。(思)

○左右の組み立て方を確かめて,他の文字や硬筆でも字形を整えて書くことができる。

・他の文字や硬筆でも,既習事項を意識して,左右の組み立て方を確かめながら,字形を整えて書く。

・他の文字や硬筆でも,組み立て方に気を付けて,字形を整えて書いている。(理)

6.本時の学習

①目 標
○「へん」と「つくり」の幅の違いに気を付けて,字形を整えて書くことができる。
○自分のめあてを決めて,進んで練習することができる。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

準備物

1.前時の確認をする。

○「へん」と「つくり」の幅とゆずり合いを想起する。

○ポイント
・「へん」の幅は狭く,「つくり」の幅は広く書く。
・ぶつからないようにゆずり合いながら書く。

○「情」の筆使いを確認する。

○分解文字や前時のまとめ書きしたものを見ながら,前時に学習したポイントを確認し,黒板に掲示する。

○組み立てのポイントを意識させながら,「情」の筆使いを筆脈に気をつけて空書きする。

・分解文字
(・まとめ書き)

2.めあてをもつ。

○本時の全体のめあてをつかむ。

「へん」と「つくり」の幅の違いに気を付けて,二文字の字形を整えて書こう。

・学習カード

○「へん」と「つくり」の組み立て方,二文字の中心を理解し,字形を整えて書くことを確認する。

○本時のめあてである二文字の字形を整えることを意識させるために,中心線を引くように指示する。

○本時の自分のめあてを絞り込み,学習カードに記入する。
・「情」の「へん」と「つくり」の幅のとり方
・「友」の「はらい」の方向の違い
・「友」は台形,「情」は正方形
・中心線と重なる始筆部分

○自分のめあてを見付けにくい児童には,手本との比べ方を助言するなどの個別指導をする。

○ステップアップした練習ができるように,自分のめあてを2つ決めてもよいことを知らせる。

3.練習する。

○自分のめあてを意識して練習する。

○試書はほごにせず,後で振り返りに活用することを助言する。

・練習用紙

○一文字ずつ,または二文字の「籠書き」「骨書き」「外形」「穂先の位置」の4種類の練習用紙を選んで,自分の課題を解決していく。

○各自のめあてにあった練習方法や練習用紙を選択するように伝える。また,自分のめあてによっては,前時の練習用紙を再度使用してもよいことを知らせる。

○二文字の中心と字形を確かめる。

○一文字だけの部分練習にこだわっている児童がいたら,本時の全体のめあてを意識させ,時間を見ながら二文字への練習に移行させる。

 

○筆使いで困っている児童には,筆の動きを捉えた映像を見せることによって,筆使いを確認できるようにしておく。

○意欲的に練習に取り組めるように,努力した点や改善された点などを積極的に賞賛する。

・動画

4.まとめをする。

○「友情」のまとめ書きをする。

○自分のめあてを再確認してから,まとめ書きをするように助言する。

 

 

 

○学習カードに自己評価をする。

○まとめ書きを書き終えたら,試書と比較しながら,自分のめあてが達成できているかを振り返らせる。

○友だち同士で相互評価をする。

○近隣の友だち同士で作品を見合い,よさを見つけ合うように助言する。それによって,自分では気付かなかった自分の変容に気付かせていく。

○本時の感想を発表したり,がんばりや伸びを共有したりする。

○自分のめあてに従って練習に取り組んだ作品を取り上げ,がんばりや伸びを認め合うことによって,充実感がもてるようにするとともに,次時への意欲につなげていく。

・教材提示装置

5.次時の学習を知る。

 

○今までの学習を生かして,硬筆でも文字の組み立て方や中心を意識して書くことを告げる。

 

図画工作・美術で学力が伸びる?

 今回は、「図工をがんばると他教科の学力が上がる」という「言説」の続きです。結論から述べれば、図画工作や美術における思考力や判断力等の育成については、これまであまり考えられてこなかったので、今後、見つめていく必要があるということ、でも、同時に、それを言いすぎると危険でもあるということ、この一見相反することについて現場的に話してみたいと思います。

 まず、紹介するのは、前回の原稿を書いた直後に訪れた、ある県大会での出来事です。講演会が終了し、校長室に戻ろうと校長先生と並んで歩いていたときのことでした。充実した大会の様子を語り合いながら、私はふと学力について聞いてみようと思いました。
 奥村「校長先生、全国学習状況調査の結果よくなっていませんか?」
 校長「えっ!…はい、国語と算数のB問題(※1)が上がったんです、でも…、どうして?」
 校長先生は、とても驚かれた様子でした。図工と学力調査を結びつけて考えたことはなかったでしょうし、また、遠方からの客が、いきなり図工に関係のない、校内事情を知っているような話をするわけですから無理もないことです。私は、こう説明しました。
 「ものをつくる、絵をかくというのは、簡単なことではありません。子どもたちは『この色をどうしよう』『どうやって組み立てようかな』と考えています。『この材料を付けよう』『いや、取ろう』と判断しています。それを何度も繰り返しているのです。本校には、そんなふうにつくられた作品が溢れていました。だから、さぞ、算数や国語の学力も上がっているだろうなと思って…。」
 校長先生は、なるほどと頷いて、子どもたちが能動的になったこと、先生たちの取り組みが変化したことなどを話してくれました。私も「それを教えてくれたのは、ある研究指定校の校長先生だったこと」「にわかに信用できる話ではなかったけれども、その後、繰り返し同じ話を聞いたこと」などを伝えました。
 もちろん、図工が思考力や判断力を伸ばしたと断言したり、それを証明したりできるわけではありません。でも、頑張っている学校に起きる固有の現象の一つで、それは子どもたちや先生たちにとって大事なことでしょう。

 ただ、このようなことを言いすぎるのも少々危ないと思います。それは、学習指導が子どもを見失う方向に働くからです。話を具体的にするために木版画で考えてみましょう。

art2_vol4_01

写真1

写真2

写真2

写真3

写真3

写真4

写真4

 一般に、木版画では、初めてであっても手順よく製作させることが多いものです。風景や、スポーツをしている様子などをテーマに「下絵」→「彫り」→「刷り」という具合です。その中で「工夫」という思考・判断が要求されます。「黒と白の割合を考えました」「腕を柔らかい線で表現しました」などです。一見、当たり前のようですが、重視しすぎると子どもの実際とずれることが起こります。
 例えば、手順よい製作活動は、確かに失敗がないでしょう。でも、子どもは彫ったこともないのに下絵をかいたり、刷ったことものないのに白黒の割合を考えたりしていませんか? もし、そうだとしたら、子どもにとってみれば、実体験がともなわないまま、分かったような、分からないような状態で製作していることになります。また、「工夫」だけに目を向けすぎると、子どもの感覚や感じ方が忘れられます。子どもは彫るときに、彫刻刀の刃先まで感覚を伸ばして、彫るときに出る音、彫る抵抗感などを感じています。彫り進める気持ちよさや、彫り跡の面白さ、生まれる形の不思議さなども感じています。それらを大事に追求させると、写真1~4のような状況が生まれます(※2)。いずれも版として残らないもの、屑として役に立たないもの、あるいは先生が怒るもの(!)でしょう。先生は削り残しや削りくず等に興味がないけれど、子どもは大好きです。穴も開けてみたいし、彫れるところまで彫ってみたい。穴を開けてもいい題材、存分に工夫できる題材にすれば何の問題もないのです(※3)。子どもの感覚、子どもの感じている面白さは本来大切にしなければならないものです。

 学力も大事、思考や判断も重要だけれど、感覚や感じ方(※4)も大切。どれか一つの側面だけに流されない、多面的な見方やとらえ方。それこそ図画工作や美術で必要なことだと思います。

※1:全国学力・学習状況調査は、A問題とB問題で構成されている。A問題は主に「知識」に関する内容だが、B問題は思考力や判断力等を問う問題になっている。
※2:題材名「私の夢を運ぶ風」。菅正隆・奥村高明編著『子どもの作品を生かした楽しい外国語活動 図画工作と外国語活動の協働』サクラクレパス出版部、2012より。
※3:どれも彫刻刀の使い方を相当「工夫」しないとできない。彫刻刀は「彫刻」用の刀であって「版画刀」ではない。彫刻刀の技能、そこからの発想という観点からはどれも満足な状況である。
※4:児童の感覚や感じ方、表現の思いなどは、その子自身の感性の働きである。今回の学習指導要領の改訂では、教科目標に「感性を働かせながら」を新たに加え、これを一層重視することを明確にしている。


二つの祖国で 日系陸軍情報部

(C)MIS FILM Partners

(C)MIS FILM Partners

 伝えておかなければならないことを伝える映画がある。映画は、エンタテインメントであっても、もちろん異存はないが、後世に残しておきたい、伝えたい、そんな映画もあらまほしい。
 すすきじゅんいち監督は、戦後生まれだけれど、すぐれたドキュメントを撮り続けている映画作家のひとり。このほど公開される「二つの祖国で 日系陸軍情報部」(フイルムヴォイス配給)は、すずきじゅんいちの、残したい、伝えたい思いにあふれた映画だ。
 二つの祖国とは、アメリカと日本。アメリカの陸軍に秘密情報機関(MIS)があって、ここには多くの日系人が所属していた。日系人であっても、国籍はもちろんアメリカである。アメリカ国内では、日系人ということだけで、人種差別を受ける。太平洋戦争が始まる。日本は、父もしくは母の国である。父母の祖国、日本と戦うことになる。兄弟同士、敵味方に分かれるケースもある。

(C)MIS FILM Partners

(C)MIS FILM Partners

 戦中、MISの兵士として従軍、戦後は敗戦国の日本側と交渉し、日本の再建復興に務める。生き残っている人もまだ多くいるが、当然、過去を語る辛さを抱えている。上院議員のダニエル・イノウエ、元ハワイ州知事のジョージ・アリヨシなど、多くの元MISの人たちにインタビューする。沖縄戦での実情も、明らかになる。
 まさに、戦争で翻弄された日系人たちである。家族や親戚の住む祖国日本への思いと、アメリカ人としての現実に、いわば、板挟みになる。もうかなりの年齢の人たちばかりである。インタビューのひとつひとつは、淡々と語られるが、語る言葉の意味は重い。「あまり話す気にはなれない、思い出すのが辛すぎる」、「私は日本ではアメリカ人、しかしアメリカの入国管理局では、日本人扱い」、「自らの運命を呪った。先祖の故郷、親戚の暮らす沖縄に侵攻し、人を殺す状況になるかもしれない」、「飛行機が何機も来襲し、我々が撃ち落とした。その中の一機には弟が乗っていた」…。
 MISでの、もともとの仕事は、戦時中の日本の情報を傍受し、翻訳したり、捕虜の尋問の通訳などだが、日本軍に投降を説得したりもした。優れた日系人だからこその仕事であった。そして、アメリカは、日本についての多くの情報を得る。時の大統領トルーマンが「人間秘密兵器」と言ったほどである。
 戦後すぐ、マッカーサーによる占領下にも、多くの情報活動や、調査など、MIS日系人の果たした役割は大きい。戦後の数々の利権をめぐって起きた下山事件の調査にまで、関与する。

()MIS FILM Partners

(C)MIS FILM Partners

 この映画の前に、すずきじゅんいちは「東洋宮武が覗いた世界」、「442日系部隊 アメリカ史上最強の陸軍」という2本のドキュメントを撮っている。併せてご覧になると、戦前戦後と続いた日系人の現実が、くわしく理解できるはずである。学校では習わなかった、つい最近の歴史が、映画を通して学ぶことが出来る。すずきじゅんいちは、いい仕事を残したと思う。
 また、この9月に、すずきじゅんいちは「1941 日系アメリカ人と大和魂」(文藝春秋)という本を上梓した。この3本の、いわゆる日系史映画三部作を撮ることになるいきさつから、三本の映画の背景や、2010年にロサンゼルスで遭遇した車での大事故、さらにアメリカの医療制度にまで言及している。さらに、妻の女優、榊原るみとの出会いから現在までが描かれている。榊原るみは、本作「二つの祖国で 日系陸軍情報部」の「監督の監督」としてクレジットされている。まことに遊び心にあふれて、ほほえましい限り。
 映画と著書から、すずきじゅんいちの伝えたい、残したい思いが、存分に窺える。

2012年12月8日(土)より、新宿K’s cinemaico_link銀座テアトルシネマico_link他全国順次ロードショー!

■『二つの祖国で 日系陸軍情報部』

≪第25回東京国際映画祭 公式出品作品≫

企画・脚本・監督:すずきじゅんいち
監督の監督:榊原るみ
音楽:喜多郎
製作:鈴木隆一、渋谷尚武、古賀哲夫、櫻井雄一郎
出演:ハリー・アクネ、グランド・イチカワ、ノーマン・ミネタ、ダニエル・イノウエ、ジェイク・シマブクロ、タムリン・トミタ 他
2012年/日米合作/カラー&BW/ステレオ/HDCAM/100分
原題:MIS -Human Secret Weapon-
配給:フイルムヴォイス


博物館における教育

icon_pdf_small「日文の教育情報 No.120」PDFダウンロード(330KB)

■ 博物館教育を中心とした博物館経営

 博物館は、資料の収集、保管、展示、調査研究をすることを目的とした機関であり、実物資料を通じて人々の学習活動を支援する施設としても、重要な役割を果たしている。
 当協会は、宮崎市の博物館類似施設(人文科学系3館、自然科学系2館及び文化施設1館)を、市条例に規定されている設置目的及び事業内容に則り、指定管理者制度により管理運営している公益財団法人である。
 博物館経営とは、博物館がまちづくり、人づくりという公益的なミッションを遂行する機関としての役割を含む概念と捉え、博物館教育を中心に据えた博物館経営の在り方について、「学校・地域との連携」「資質向上」をキーワードに整理する。

■ 博学連携の推進

 博物館の取扱いについて学習指導要領では、「連携、協力を図りながら、それらを積極的に活用するよう配慮すること。」(小・理)等、博学連携の推進を求めている。
 しかし、博物館における学習活動を配慮した教育課程の編成・実施が十分なされるまでには至っていないのが現状と思われる。
 博学連携の阻害要因の一つに地理的・経済的側面から既に指摘がなされているが、昨年度開催された「博学連携ワークショップin宮崎」において「同じ展示物を見ても、博物館関係者と学校関係者では視点が違うことを相互理解しなければ博学連携は広がらない」こと、そのためには、博物館を関係者が「科学的見方や考え方を楽しむ場」として捉え直すことが重要であることが指摘されている。(「日本理科教育学会第62回全国大会」)
 当協会では、「視点の違いの相互理解」を目的に、学習指導員(退職教職員)や市教委指導主事の指導でTIMSSやPISAの課題を用いて、学習指導要領に示す学力観についてワークショップを行い、各施設の展示物の展示の仕方や説明方法について子どもの視点(学習内容、生活体験)から見直しを行った。見直した展示物と学習指導要領の関連性を示した「授業に使える展示物-学校での利用ガイドブック」を作成・配布することで博学連携を推進している。

■ 地域との連携

 博物館の役割の一つに、地域活動への「関わり」があると考える。まちづくりにおける課題解決において、博物館の存在意義や活動の重要性を地域住民に向けて発信していくことが重要である。
 当協会が管理運営している施設では、地域住民や退職教職員(JSCジョイフルサイエンスクラブ等)にボランティアとして古文書解読の講師、展示物の案内・説明、イベントの運営、学習活動の支援等の活動や講座の実施などに参加していただいている。博物館の活動に地域住民が専門的な技術や知識の提供者として主体的に関わりを持ってもらうことは博物館にとっても活動内容の充実となる。
 また、このような博物館ボランティアの活動は地域にとっても地域の文化力、教育力の向上につながるものであり、自立した地域社会の形成(「知の循環型社会」)を目指した活動と言える。
 今後、地域住民が持っている知識や情報を取り入れて地域や各種団体と協働で事業を開催することは、博物館経営にとって重要と考える。

■ 体系的な研修計画

 博物館はそのミッションやビジョンを達成するために、博物館が持つマンパワーを含めたさまざまな経営資源を最大限に活用して、教育機能を提供することが必要である。
 当協会では、事業の充実を図り適切な事業を展開するため「研修計画-公益目的事業を推進するための人材の育成」を策定している。
 「研修計画」を体系的なものにするため、《求める職員像》(①サービス提供のできる職員、②施設の効用を最大限に発揮できる職員、③チャレンジできる職員、④コミュニケーション能力のある職員、⑤専門能力のある職員)と《研修内容》のマトリックスで具体的な《研修項目》を設定している。
 このことは、職員に《求める職員像》の視点から自己評価し、内省的思考を経て主体的に《研修項目》を選択していくことを求めていることになる。
 また「研修計画」は固定的なものでなく、P-D-Sの評価サイクルによって適宜見直しながら、より有効で計画的な研修体系に改めるものと考えている。

 博物館と学校・地域との相互の関わり合いは、今後も博物館教育として継続・発展するであろう。博物館が行う教育活動は、地域社会に対して「公共の場」としての博物館の存在意義を示すことでもあると考える。

日文の教育情報ロゴ

曲がりとおれ「ビル」(第3学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

曲がりとおれ「ビル」

2.目 標

 片仮名「ビル」の、「sho003_05」と「sho003_06」の筆使いを理解し、曲がりと折れに気をつけて書くことができる。

3.評価規準

○関心・意欲・態度
 友達と学び合いながら、曲がりと折れの筆使いに気をつけて書こうとしている。

○思考・判断・表現
 曲がりと折れの筆使いについて、自己評価や相互評価を行い、自分や友だちの伸びを見付け合うことができる。

○技能
 曲がりと折れの筆使いに気をつけて、「ビル」を書くことができる。

○知識・理解
 曲がりと折れの筆使いを理解している。

4.本単元の指導にあたって

 本単元では、毛筆で初めての片仮名「ビル」を取り上げた。「曲がり」と「折れ」の筆使いを比較して、その違いを確認し、「曲がり」と「折れ」における筆の軸の扱いと、穂先の動きについてつかませることのできる効果的な題材である。
 本学級の児童は、毛筆の学習に毎時間意欲的に取り組んでいる。しかし、漢字や平仮名の基本点画(「横画」「縦画」「はらい」「折れ」「点」「曲がり」)の筆使いについて学習してきているものの、あまり定着していないのが現状である。本単元が目標とする「曲がり」と「折れ」についても、定着させるためには時間がかかると予想されるので、工夫した学習活動を展開する必要がある。
 そこで本単元では、毛筆の学習でありながら、グループ形式を取り入れて進めることにした。これまで、さまざまな教科でグループ活動を取り入れ、その中での相互評価を通して学びを深めてきた。毛筆の学習においてもグループ活動を取り入れ、従来の自己評価だけでなく、相互評価を行い互いの作品を研き合うことで、本単元の目標にせまりやすくなるのではないかと考える。

5.単元の指導計画

学習のねらい

子どもの活動と内容

評価規準の具体例

○片仮名「ビル」を曲がりと折れに気をつけて書くことができる。

・とりあえず書いてみる。
・手本の字に注目し、文字のバランス、長さ、位置などを確認する。
・「ビル」の曲がりと折れについて確認する。

(関・意・態)
友達と学び合いながら、曲がりと折れの筆使いに気をつけて書こうとしている。

○書いた「ビル」を友だちと見せ合いながら、お互いの課題点について考え交流することができる。

・自分の作品の課題点について、1人で考えた後、グループで話し合う。
・グループで1人ずつ、自分の作品の課題点について発表する。
・発表で出た課題点を黒板にまとめ、クラス全員の課題として共有する。

○片仮名「ビル」を曲がりと折れに気をつけて書くことができる。

・「ビル」を書くときに注意することについて確認する。
・前回の学習を生かして、「ビル」を書く。

(思・判・表)
曲がりと折れの筆使いについて、自己評価や相互評価を行い、自分や友だちの伸びを見付け合うことができる。

○書いた「ビル」を友だちと見せ合いながら、お互いの良さについて考え交流することができる。

・友だちと「ビル」を見せ合いながら、友だちの「ビル」の良さや、自分の「ビル」の良さについて考え交流する。
・考えたことを発表する。

写真1

写真1

写真2

写真2

6.本時の学習

①目 標
 片仮名「ビル」を曲がりと折れに気をつけて書くことができる。
 書いた「ビル」を友だちと見せ合いながら、お互いの良さについて考え交流することができる。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

準備物

1.「ビル」を書くときに注意することについて確認する。
・「sho003_05」の曲がるところに注意しよう。
・「sho003_06」の部分はしっかりはねよう。
・バランスよく書こう。

・グループ(3~4人)で話し合い、確認できるようにしたい。
・「ビル」の手本をもとに考えられるようにする。

・「ビル」の手本

2.前回の学習を生かして、「ビル」を書く。(写真3)

・静かに、最低3枚は書き、1番よくできたと思うものを机にのせておくようにする。

・半紙

3.友だちと「ビル」を見せ合いながら、友だちの「ビル」の良さや、自分の「ビル」の良さについて考え交流する。(写真4)

・グループの中で見せ合いながら、友だちの作品の良いところを見つけるようにしたい。


4.考えたことを発表する。

・誰の作品の、何がよいかを発表できるようにする。
・自分の作品のよくなったことも合わせて発表できるようにする。


写真3

写真3

写真4

写真4

「傷ましき腕」 岡本太郎作

油彩/キャンヴァス/111.5×162cm/1936(1949再制作)

油彩/キャンヴァス/111.5×162cm/1936(1949再制作)

 1929年、岡本太郎はパリに留学します。当初、画家としての方向性に悩んでいた岡本は、1932年にパリの画廊でパブロ・ピカソの抽象的静物画「水差しと果物鉢」に出会い感動し、抽象芸術に自身の進む道を見つけます。
 岡本は1933年アプストラクシオン・クレアシオン(抽象・創造協会)に参加(1937年脱会)し、1934年から暗い空間に布と金属の棒が浮遊する抽象的な「空間」シリーズを描き始めました。彼は「空間」シリーズを制作しながらも、抽象的な表現に限界を感じていたようです。何故、岡本は抽象的な表現に行きづまってしまったのでしょうか。岡本は“パリで生きる自分の感覚をより生々しく表現したい”と思ったのかもしれません。そして彼は当時よく“パルパブル:palpable(手につかめる、極めて明瞭という意)”という言葉を使いながら、より現実に迫る自らの表現を模索していきます。
 1935年「リボン」「リボンの祭り」を制作。布のモチーフがリボンに変化します。これらの作品に描かれたリボンには、様々な意味の象徴性を感じることができます。このリボンのモチーフはさらに発展して、1936年「傷ましき腕」のリボンとして登場するのです。この「傷ましき腕」は、大きく描かれた赤いリボンと、ピンクの縞模様のように皮膚を等間隔で切り開かれた腕、そして握りしめられた拳という題材で描かれました。リボンを付けた人物の顔が見えないのに、黒い髪に覆われた頭部と赤いリボンが不思議な存在感を出しています。「グラッシ」という古典技法で何層にも重ねられた濃紺の背景と、リアリズムの手法で描かれたリボンや腕のモチーフは、戦争に向かいつつあった不穏な時代の空気と,当時の日本と西洋(近代)に引き裂かれた岡本自身の内面を伝えているのではないでしょうか。
 身体の一部であるこの傷つけられたたくましい腕は、シュルレアリスム(超現実主義)の身体性とも通底しながら、見る者に痛みをともなった共振感覚で迫ってくるようです。

(川崎市岡本太郎美術館 学芸員 仲野泰生)

■川崎市岡本太郎美術館ico_link

  • 所在地 神奈川県川崎市多摩区枡形7?1?5
  • TEL 044-900-9898
  • 休館日 月曜日(月曜が祝日の場合は除く)、祝日の翌日(祝日の翌日が土日にあたる場合を除く)、年末年始、他に臨時休館日あり

<展覧会情報>

  • 企画展「小野佐世男-モガ・オン・パレード」
  • 2012年10月20日(土)~2013年1月14日(月・祝)

展覧会概要

  • 小野佐世男はモダンボーイ、モダンガール、通称「モボ・モガ」が銀座を闊歩した1930年代から、戦後にかけて活躍した画家・漫画家でした。小野は独特の女性像を描きました。本展では、小野佐世男の作品と活躍を、原画・書籍・雑誌・映像など約500点で紹介します。

<次回展覧会予定>

  • 企画展 第16回 岡本太郎現代芸術賞展
  • 2013年2月9日(土)~4月7日(日)

その他、詳細は川崎市岡本太郎美術館Webサイトico_linkでご覧ください。