絵画鑑賞へのいざないⅢ ~作者は何を感じたか~(第2学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.基礎データ

題材・単元名

「絵画鑑賞へのいざないⅢ」~作者は何を感じたか~

時間数

3時間(3/3)

題材・単元の
特徴

クイズ形式を取り入れることにより,自然な流れで生徒に絵画作品を観察させ,グループ活動で様々な鑑賞の視点を学ばせながら,絵画鑑賞へ生徒をいざなう。

授業環境

活動環境

美術室

人数

教師1名 生徒数39名

教材や用具

教師:鑑賞用絵画(A4版に印刷),鑑賞用絵画(一部分拡大したもの),ワークシート
※使用した作品 
・「星降る夜,アルル」ゴッホ
・「ポール=アン=ベッサンの外港,高潮」スーラ
・「エラニーの教会」ピサロ
・「睡蓮の池:バラ色のハーモニー」モネ
生徒:筆記用具

コンピュータ
動作環境

使用デジタル教材

提示型デジタル教材『みる美術』
西洋美術 フランス国立美術館連合 編

OSバージョン

Windows Vista

使用周辺機器

プロジェクター,パソコン(パワーポイント)

2.活用事例および展開

①ねらい
 絵画作品をクイズ形式で鑑賞したり,描いてあるものを分析的に観察しながら,生徒の興味関心を絵画作品の鑑賞へと導く。作品が描かれた時代背景や表現方法の変化などにも着目し,基本的な知識を身につけたうえで,自ら進んで鑑賞し,その表現の工夫や特徴をとらえ,作者の心情や表現意図について考えようとする態度を養う。

②提示型デジタル教材『みる美術』利用の意図
 この授業では印象派における風景画を鑑賞させることを考えた。風景画作品は描かれているものが明確である場合が多く,作品を分析的に見せるための視点の設定が容易である。また,印象派の絵画は歴史上のそれまでの絵画と比較すると劇的に色使いや描かれ方が変わっていく時代の絵画でもある。様々な色使いや筆のタッチなどに着目することにより,作者の気持ちを考える,または想像する,表現意図を考えるというねらいに近づくために使用しやすい題材であると考えた。提示型デジタル教材『みる美術』は「印象派の風景画」などのように検索したいジャンルを指定することですぐに作品を探し出すことができる。また作品の部分拡大を容易にすることができ,非常に詳細に作品を観察することができる。そのため,授業で使用する絵画作品を選び出すことや部分拡大を見せて描かれたものを想像させるという展開を比較的容易にすることができた。

③評価について
◆美術への関心・意欲・態度
絵画作品に関心を持ち,自他の視点をもとに,積極的に作品を鑑賞し,作品に対する見方を広めようとする。
◆発想や構想の能力
画面構成や色彩の効果など,作者の意図について想像し,考えをまとめる。
◆鑑賞の能力
鑑賞を通して表現の工夫や制作意図を感じ取る。

④指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点,評価方法

「絵画鑑賞へのいざない」
①複数の絵画を自由に鑑賞し,描いてあるものや色使い,筆のタッチなどの視点からグループ活動でそれらを分類する作業をする。
②分類した視点について各グループからの発表を聞く。
③他のグループからの様々な鑑賞の視点を聞いた上で教師側からの視点を知る。
④感想をまとめる。

<留意点>
・複数の作品を選ぶにあたり,描かれているものが共通していたり,色使いが似ていたりするなど,ある程度分類することが可能な作品を選ぶ。教師側の視点では,作品から受けるメッセージや時代背景など作品に描かれたものだけでは分類できない視点を生徒に投げかけ,作品の奥深さに気づかせる。
<評価>
・作品を見るための様々な視点に触れ,鑑賞を楽しむとともに,作品に込められている意味などに気づき,積極的に作品を鑑賞しようとする気持ちを持つことができたか。〈ワークシート〉

「絵画鑑賞へのいざないⅡ」
①1時間目に鑑賞した作品を再び鑑賞し,様々な鑑賞の視点があったことを確認する。
②クイズ形式で教師側から出されるヒントをもとに絵画を描かれた順番に並べてゆく作業を行う。グループ活動により,相談しながら順番を考えていく。
③答え合わせをし,描かれ方の変化や時代背景などの解説を聞く。
④感想をまとめる。

<留意点>
・作品数が多いとクイズが難解になる恐れがあるため,その時代を象徴する作品などに鑑賞対象を絞って行う。
<評価>
・ヒントをもとに積極的に絵を鑑賞し,話し合うことで答えを導き出そうとしていたか。〈授業観察〉
・時代背景や作者の考えの変化などから描かれ方の変化を理解することができたか。〈ワークシート〉

「絵画鑑賞へのいざないⅢ」
①絵画作品の部分拡大を鑑賞し,何が描かれた絵かを想像する。
②作品全体を鑑賞するとともに,作品を分析的に見る視点を持ち,細部まで観察する。
③観察をもとに作者の気持ちや表現意図を考え文章にまとめる。

<留意点>
・作品を鑑賞して感じたことに「どうしてそのように感じたのか」などの意味づけをさせる。また,「作者はどうしてそのように描いたのか」などを考えさせ,作者の気持ちや表現意図に迫るようにする。〈ワークシート〉
<評価>
・作品を分析的に観察することから感じたことに理由付けをして自分の考えをまとめることができたか。また,作者の気持ちや表現意図を考えることができたか。〈ワークシート〉

3.本時の展開

①目標
・風景画の作品を様々な視点で分析的に観察し,作品から感じ取られることを言葉で表現する。
・作品の部分拡大を鑑賞することにより,その表現の工夫や特徴をとらえ,作者の心情や表現意図について考える。
・作品から感じたことに自分なりの理由付けをしながら感想をまとめる。

②提示型デジタル教材『みる美術』を利用した授業の展開



学習活動

◎主な支援 ●評価〈手だて〉


1 本時の課題を把握する。
(1)本時の課題を知る。

◎制作者が作品を作り出すときの気持ちに着目するよう伝える。

様々な視点から,絵画作品を鑑賞し,感じたことをまとめよう。



2 作品を鑑賞する。
(1)作品の部分拡大写真を見て何を描いたものか考え,話し合う。
●「これから風景画の部分拡大を見せます。色使いや筆のタッチなどをよく見てどんな風景が描かれているか,また,何を描いたものかを想像してください。」

◎作品の一部分を拡大して見せることで,筆のタッチや色使いに着目させる。
◎何を描いたものかを考えさせることにより,全体をより詳しく見ようとする意識を持たせる。

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○「暗い青が塗られているので夜空のようです。」
○「青い色の上に塗られた黄色がとても強く目に飛び込んできます。」
○「黄色い色は水面に反射した光のように見えます。」

◎絵の具の塗り方,筆が動いた方向,絵の具の厚さなどにも着目させる。

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○「様々な色は縦横に荒っぽく塗られています。何が描いてあるかは全然分かりません。」
○「よく見ると薄いピンク色でたくさんの点が描かれています。

◎縦横に塗られている絵の具,筆の動き,どんな色が塗られているかなどに着目させる。様々に考えさせた上で「わからない」ということも一つの答えとして認める。

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○「細かいたくさんの点で描かれています。遠くに見える水平線のようです。

◎点描で描かれていることに着目させる。細かい点の集まりがどんな風景になるのかを考えさせる。

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○「淡い色が重なって塗られています。青い色が薄く見えるので空の雲を描いたものだと思います。

◎淡い色の重なり方に着目させる。

(2)鑑賞の視点をもとに作品全体を鑑賞し,感じたことをまとめる。

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〈鑑賞の主な視点〉
・場所はどこだろう。
・時間は何時くらいだろう。
・季節はいつ頃で,気温はどれくらいだろう。
・(音が聞こえるとしたら)どんな音が聞こえるだろう。
・作者が最も描きたかったのはどの部分だろう。

◎作品をより分析的にまた,自然に鑑賞ができるよう鑑賞の視点を与える。

●「ゴッホの絵の季節はいつ頃でしょう。」
○「冬だと思います。」
●「どうして冬だと思いますか。」
○「下に描かれている人がコートのような服を着ているように見えるからです。」
○「星がきれいに見える季節なので冬かも知れません。」

●「スーラの絵の季節はいつ頃でしょう。」
○「春だと思います。」
●「どうして春だと思いますか。」
○「黄緑色の草が多く描かれていて,全体的な色も淡い感じだからです。」

◎一部分を見て感じたことと作品全体を見たときの感じ方の違いにも着目させ,感じたことをまとめさせる。

◎表現から作者の気持ちや考えを想像させる。

●作者の心情や制作意図などを自分なりに考えることができたか。
〈ワークシート〉

<生徒の作文(鑑賞文)>
・ゴッホの絵は,海の上に浮かんでいる船と夜空の風景です。人が厚着をしているので季節は冬だと思います。ゴッホは船が出している光に負けないくらい星が輝いていることに感動し,これを描きたいと感じたと思います。
・スーラの絵は,昼下がりの海辺の風景を描いたものです。季節はもう寒さが残っていない春のようです。作者は海岸を出て行くヨットの音,かすかなそよ風の音,ゆっくりと過ぎていく時間などに心地よさを感じ,まわりの風景を楽しみながらのんび りと絵を描いていったことが想像されます。



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3 鑑賞したことを発表する。
(1)まとめたことをもとにグループで伝え合い,話し合いをする。

◎自他の感じ方,考え方の違いを捉えさせる。

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(2)各班の発表を聞く。

◎学級内での発表を通し,より多くの考え方に触れさせる。



4 グループでの話し合いや学級での発表をもとに授業の感想をまとめる。

●自他の感想をもとに作品鑑賞の様々な視点を知り,自分なりの感想を持つことができたか。
〈ワークシート〉

<授業後の生徒の感想>
・絵を見ていると作者そのものが映し出されているように感じました。描かれた風景以外にも表現されているものがあると思いました。
・今まであまり考えてこなかった作者の思いや気持ちを考えることができ,作者からの思いが伝わってくると感じました。
・作品には作者の心情も表現されていることを知りました。作者の人柄なども想像することができるのは,おもしろいことだと思いました。

③指導のポイント
・クイズ形式など遊び感覚を取り入れ,自然に作品を鑑賞させる。作品や作者に関する知識はできるだけ与えず,感じたことを自由に話せる雰囲気を大切にする。
・作品の一部分が拡大されることで見えてくるもの(筆のタッチ,色使いなど)は生徒にとっても新しい発見である。必要に応じて生徒が詳しく観察したいと思う場面を取り上げ,プロジェクターなどを使用し生徒全体に見せ,様々な意見を生徒から集める。
・多くの生徒に自分が感じたこと,考えたことを発表させることで価値観の交流を図り,作品を見る視点を自然に身につけさせる。作者の気持ちや表現意図を意識させることで作品の奥深さを感じさせる。

4.感想等

 今回の授業では提示型デジタル教材『みる美術』の部分拡大の機能を利用したが,生徒の興味,関心を高める導入,展開をすることができた。拡大することで絵の具の塗られ方,絵の具の盛り上がりや塗り重ね,筆のタッチなどが確認でき,生徒は「何が描いてあるか分からない」ということを言いながらもグループ活動ではそれぞれの考えを出し合いながら何が描かれたものかを探る様子が見られた。また,部分拡大を見せた後に作品全体を見せたことにより,拡大部分は全体の中のどの部分だったのか,他の部分にはどのように何が描かれているのかということを興味深く観察する様子が見られた。今後は作品を分類したり,比較したり,作品の情報を見たりするなど,他の機能も利用していきたい。生徒が自ら興味を持った作品を検索し,鑑賞できる授業展開を考えていきたい。

がれきに花を咲かせようプロジェクト

被災地の高校生にできることを、無理なく楽しく

gamba_tohoku_mark_w3001 人間が芸術=表現活動を行う意味やきっかけを震災後、よく考えるようになりました。一般に「芸術」と呼ばれる営みは、捉えがたいものを何らかの感覚や方法で生みかえるものです。私の認識では、芸術は決して特別なものではなく、生きる中で自然発生する行動のわかりやすい言い換えです。「あれ?いいな」と感じることに気付いた時点でそこに芸術が生まれる。それでいいと思うのです。
 芸術について偉そうに語れる立場ではありませんが、表現の仕方を「自分のもの」と意識した時、それがリンクした先が、私の場合は美術であったのだと思います。描く・つくる、という行為は、私の人生の中で大きな意味と多くの時間を占めてきました。「芸術」はいつの間にか生まれてくるもの。嬉しいから絵を描き、楽しいから粘土をこね、悲しくて絵具を画面にぶちまけ…生きながら呼吸をするように、自然と美術に関わってきたように感じます。

壊れた校舎

壊れた校舎

花がれき

花がれき

 校舎が壊れ不便な学校生活、放射能の不安があるこの土地で暮らすこと、将来のこと…とにかく二重にも三重にも困難を抱えた生徒たちに「がれきに花を咲かせようプロジェクト」を提案したのは2011年の4月。受け入れてくれた生徒と共に、今まで様々な美術的活動を繰り返してきました。今思えば、初めは自分自身も必死で、思いついたことを半ば勢いでやった、というのが正直なところです。重苦しい現実と対面した生徒が、それを飲み込んで自己表現できるような状況はあの時、全く存在しなかったと思います。私自身は震災翌日に、澱んだ心境を絵にして心が落ち着いた、という経験をしたわけですが、生徒たちに花を描く行為を勧めたのは、自己表現ではなく、美術の側面の一つ、「表現は活力を生む」というものに賭けたかったからと言えます。

東電へ応援の絵手紙を贈る

東電へ応援の絵手紙を贈る

花がれき壁掛け

花がれき壁掛け

仮設訪問ワークショップ

仮設訪問ワークショップ

 プロジェクト活動を通して少しずつ、笑顔の花が咲きました。今では多くの方々に応援していただけるような大きな花畑となり嬉しいです。このプロジェクトをここまでに発展させた美術部員たちに昨年、活動を振り返る機会を与えたときの回答を一部、ご紹介します。美術によって生きる力を得た生徒たちの、成長した姿がそこにあります。 

仮設訪問ワークショップ

仮設訪問ワークショップ

壁画プロジェクト

壁画プロジェクト

大林宣彦監督とAKB48「So long!」試写会

大林宣彦監督とAKB48「So long!」試写会

「活動に参加し、どんな心境の変化があった?どんなことを考えた?」

  • 自分が被災者だからといって支援してもらうだけじゃなく、助け合っていくことが大事だと思いました。そして、今できることは精一杯やりたいと感じるようになりました。
  • どう表現すれば、傷を負った方々の傷をえぐらずに元気づけられるのかというのをすごく考えさせられました。相手の気持ちを考えることの大切さを知りました。
  • すべてがすべて、すんなりいったわけじゃないけど、避難してきた人々を自分たちの作品で元気づけたり、笑顔に変えられるとわかった時、「役に立てた!」とすごく嬉しく思いました。これからもこの活動がある限り、「役に立ちたい」という気持ちを忘れずに頑張りたいと思います!
  • 人とのコミュニケーション能力がつきました。自分自身の性格(人見知り)などが緩和された気がしました。
  • 感謝されることへの喜びや、自分の特技を活かして他人の力になれたことがとても嬉しいです。
  • 人に喜んでもらえるのが嬉しかった。誰かのためになにかをしたいと思った。
  • 今までボランティアなどに参加したことがなかったのですが、これまでの活動を通して自分も何かしら役に立つことができるんだなと思いました。
  • 人のために何かをする、ということがあまりなかったので、すごくやりがいがあります。

「今後の抱負は?」

  • 今、自分にできることを精一杯やる。
  • 放射能汚染されていない瓦礫を受け入れて処理してくれている県の人たちも、風評で困っていると思うので、自信を持ってもらえるように、この活動を知ってもらう。
  • これからも仮設住宅に出かけ、人のために活動したい。
  • 少しでも多くの人に元気になってもらえるよう笑顔で頑張る。
  • 今後も活動を継続し、今まで以上に積極的に関わりたい。
  • この活動を新入生にも伝えていきたい。

番匠あつみ(ばんしょう・あつみ)
1973年福島県南相馬市生まれ。福島県立保原高等学校で美術教諭を務める。主に絵を描いて発表活動も行っている。


孤独な天使たち

(c)2012 Fiction - Wildside

(c)2012 Fiction – Wildside

 今年で72歳になる、イタリアの監督ベルナルド・ベルトルッチの新作「孤独な天使たち」(ブロードメディア・スタジオ配給)は、一言で言うと、瑞々しい教養小説のたたずまい。14歳の少年が、おとなへのとば口にさしかかる1週間の日々を、母親の異なる姉との触れあいの中で、綴っていく。いささかミステリアスに、一歩間違うと、大変な事態に陥るサスペンスをはらみながらの展開に、ハラハラ、ドキドキ、引き込まれてしまう。  
 監督生活50年、「暗殺の森」、「ラストタンゴ・イン・パリ」、「1900年」、「ラストエンペラー」、「シェルタリング・スカイ」などなど、およそ、映画の歴史に残る数々の傑作を撮ったベルナルド・ベルトルッチである。2003年に撮った「ドリーマーズ」以来、10年ぶりになる。70歳を超えたベルトルッチの、肩の力を抜いての一作だろう。
 このところ、ベルトルッチの旧作を見直す機会があり、「ベルトルッチの分身」、「暗殺の森」、「1900年」を立て続けに見た。ドストエフスキーの短編を基に、実験的ともいえる「ベルトルッチの分身」では、殺人を犯した若い大学教授に、その分身が現れての混乱ぶりが、軽妙に描かれる。「暗殺の森」は、ベルトルッチが29歳で監督、反ナチをめぐっての骨太の政治ドラマ。「1900年」は、資産階級と労働者の立場を超えて、二人の少年の生涯に渡る友情を、イタリア現代史に絡めて謳いあげた傑作である。本作は、過去のベルトルッチ作品に比べると、大作ではないだろう。しかし、繊細な若者のありように深く迫って、とても老境にある人の演出とは思えないほどの若々しさ。

(c)2012 Fiction - Wildside

(c)2012 Fiction – Wildside

 14歳の少年ロレンツォ(ヤコポ・オルモ・アンティノーリ)は、父親が不在、母親のアリアンナ(ソニア・バルガマスコ)とも、ぎくしゃくした関係だ。学校ではカウンセリングを受けるほどの、自閉症気味な少年である。やっと、学校行事のスキー合宿に行くことで、母親は少しは安心する。ところが、ロレンツィオは、合宿の費用で、1週間分の食料やジュース、コーラなどを買い込み、自宅のアパートの地下室で、好きな本を読み、好きな音楽を聴いて過ごそうとする。地下室には、ベッドもあり、ボイラー室も隣接していて、居心地がよさそうである。
 そこに、しばらく会っていなかった、異母姉にあたるオリヴィア(テア・ファルコ)が押し掛けてくる。オリヴィアは、私物を取りに来たと言って、ロレンツォに小銭をせびって、出ていってしまう。深夜、行くところがないとオリヴィアが戻ってくる。母親に通報されては困るロレンツォは、しぶしぶ同居を許す。突然、オリヴィアが吐く。どうやら、ロサンゼルスに住んでいたころからのヘロイン中毒だったことが判明する。見かねたロレンツォは、祖母の入院している病院から睡眠薬を入手したり、必死にオリヴィアを看病する。

(c)2012 Fiction - Wildside

(c)2012 Fiction – Wildside

 かつて、オリヴィアは、ロサンゼルスで写真の個展を開いたことがある。その作品に見入るロレンツォ。何とか、回復する気配を見せたオリヴィアは、食欲が出てくる。夜中、ふたりは、母親の寝ている部屋に忍び込み、食料にビールを調達する。語り合う姉と弟。デヴィッド・ボウイの唄う「ロンリー・ボーイ・ロンリー・ガール」に合わせて、寄り添うように踊る。そして、1週間が経過する。
 踊るシーンには、濃厚な時間が流れる。セリフはないが、ふたりの感情がほとばしる。「暗殺の森」では、ドミニク・サンダとステファニア・サンドレッリの女優ふたりが、「ラストタンゴ・イン・パリ」では、マーロン・ブランドとマリア・シュナイダーが、それぞれタンゴを踊ったように、このダンス・シーンは、秀逸。まるで、孤独の、若いふたりの心の叫びを聞くようである。
 「孤独な天使たち」を見ると、過去のベルトルッチ作品を見たくなるにちがいない。ベルトルッチは健在である。

2013年4月20日(土)より、シネスイッチ銀座ico_link ほか全国順次公開

■『孤独な天使たち』

監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:ヤコポ・オルモ・アンティノーリ、テア・ファルコ 他
脚本:ニッコロ・アンマニーティ、ウンベルト・コンタレッロ、フランチェスカ・マルチャーノ、ベルナルド・ベルトルッチ
2012年/イタリア/97分/カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル
字幕翻訳:岡本太郎
原題:IO E TE
配給:ブロードメディア・スタジオ


ブルーノのしあわせガイド

(c)2011  I.B.C. Movie

(c)2011 I.B.C. Movie

 よき師と出会う。大事なことに気付く。また、多少いい加減でも、ここぞという時に、努力し、全力を出す。これは「教育」にとって、重要なことだろう。イタリア映画「ブルーノのしあわせガイド」(アルシネテラン配給)は、シリアスなテーマを、コメディの見本のように、軽快な笑いにくるんで見せる、まことにハッピーな作品。

(c)2011  I.B.C. Movie

(c)2011 I.B.C. Movie

 中年のブルーノ(ファブリッツオ・ベンティヴォリオ)は、元は教師。いまは、スポーツ選手やポルノ女優といったタレントの伝記などのゴーストライターや、元教師としての経験から、落ちこぼれ生徒の補習塾で、貧しいながらも、なんとか気ままに暮らしている。ある日、ブルーノの補習塾に通う14歳の生徒ルカ(フィリッポ・シッキターノ)の母親マリーナ(アリアンヌ・スコメーニャ)に呼び出される。マリーナはシングルマザーで、仕事の関係で、半年もの間、アフリカのマリに行くことになる。ついては、息子を預かって欲しい、と言う。「いったい、なぜ?」と驚くブルーノに、素顔を見せたマリーナは言う。「私が分からないの?」と。なんと、今から15年前に、ブルーノはマリーナと一晩、過ごしている。ルカは、その時に出来た子供であった。

(c)2011  I.B.C. Movie

(c)2011 I.B.C. Movie

 ブルーノとルカの同居が始まる。ルカはブルーノが父であることを知らない。補習塾と変わらず、相変わらずのタメ語で、ブルーノに接する。実の父子である。パニーノにきゅうりは不要、なんてことまで似ている。思わず、どんな父親だったかと尋ねるブルーノに、「どうせロクな男じゃない」と答えるルカ。

 ブルーノに、ルカの通う高校から呼び出しがかかる。このままでは卒業できないルカに、ブルーノは真摯に向かい始める。ブルーノは、ルカが授業で習っているホメロスの話さながらに、実人生を巧みにおりまぜた教え方をする。すこしずつだが、ルカは勉強に興味を示しはじめる。ブルーノは、相変わらずのいい加減さながらも、必死でルカに接する。ルカもまた、父とも知らず、ブルーノを慕うようになる。ところが、ルカには、麻薬らしきものに手を出している、悪い仲間がいる。そして、ブルーノは、やっかいな事件に巻き込まれてしまうのだが…。
 原題は「Scialla!」、シャッラ。まあまあ、いいから、といったほどの意味だ。人生と適当に、いい加減につき合ってきた父と子が、10数年を経て初めて出会う。そして、肩の力を抜きつつも、父と息子が、本気を出そうとする。このいい加減さが、まことに爽快、まあまあいいから、これでいいよと、幸せな気分になれる。そして、思わぬ人生の出会いが、まことに痛快な結果をもたらしてくれることになる。
 ブルーノのような、先生が日本にもいればいいのだが。
 当初は脚本家、以降、イタリアのテレビで活躍してきたフランチェスコ・ブルーニの監督、脚本、原案になる。劇場用映画の初監督とは思えないほどの実力だ。

2013年4月13日(土)より、シネスイッチ銀座ico_link ほか全国順次公開

『ブルーノのしあわせガイド』公式Webサイトico_link

出演:ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ、バルボラ・ボブローヴァ、ヴィニーチョ・マルキオーニ、フィリッポ・シッキターノ
監督・原案・脚本:フランチェスコ・ブルーニ
(『見わたすかぎり人生』、『副王家の一族』、『ナポレオンの愛人』、『はじめての大切なもの』脚本)
制作:ベップ・カスケット、IBCムービー・プロダクション、ライ・シネマ協力
原題:Scialla!
2011年/イタリア/イタリア語/95分/カラー/ドルビーSRD/
配給:アルシネテラン


街の機能や関係性を復元する図画工作・美術

 今回は、図画工作・美術と街の関係について考えます。

 まず、一見美術と関係のない話からはじめましょう。私の義母は、戦前から商店街で酒屋をやっていました。酒屋に来るお客さんとよく語り合う人でした。自分が買い物するときにもお店の人と必ず話していました。商店街の歴史や人間関係にも詳しくて「あそこは以前お菓子屋で、その娘は銀行員と結婚して、、、」という具合です。

 義母の姿は、商業が物を売っているだけではないことを示しています。まず、お客さんと挨拶する、商品に情報を付け加える、景気を語るなど、お店は対話を提供しています。毎朝、店の前を掃除するので街はきれいになりますし、開店によって街の安全は保たれます。買い物のマナーを教えることもありますし、店と店、店と公共施設など地域のコミュニティをつないでいます。実に様々な役割を果たしているのです。

 このように考えると、商業だけでなく街に対する見方も変わります。例えば、街を劇場として見ることができるでしょう。私は、昔、帰り道でよく畳屋さんの前に座って、その見事な手さばきに見とれていました(※1)。店から流れてくる音楽に夢中になったことも多々あります。同じように、街全体を美術館と考えることができるでしょう(※2)。美術館ができる以前、美術品はどこかの家にありました。街全体で美術品を保有していたわけです。

 そこで私は、美術館で学芸員をしていたときに、子どもたち自身が美術品を認定する「街角美術館」という実践を、NPOと一緒に行ってみました。子どもたちと街を歩きながら、子どもが美術品だと思うものの前でギャラリートークをするという実践です。街の中にある絵や彫刻だけでなく、紳士服職人の技や歩道のタイルなどが立派なアートになりました。

 文科省に行ってから、この話をいろいろな場所でしました。「街が美術館、街が劇場、、、学校で描かれる一枚の絵は、それを取り囲む甍の波、地域との関係から生まれます」。すると埼玉県の加須小学校の校長先生が「よし、子どもの絵を商店街で展示する」と言い出しました。子どもがアポなしで「私の絵を飾ってください」と商店に飛び込むという実践です。

 当初、協力したのは、1店舗だけでした。ところが、そのうち展示に反対していた商店主が「なぜうちでやらないんだ」と言い始めました。理由は義母の話につながるものです。「今、人は無言で買い物をする。挨拶もしない。ところが子どもの絵を飾ったとたんそれらが復活した」、子どもの一枚の絵から、商業の持つ対話の機能が復活したというわけです。

 口コミは広がって、3年目には加須市の全商店街、99店舗が子どもの絵を飾るようになりました。ある店では駐車場が子どもの絵をかけたイーゼル(※3)でいっぱいになっていました。思わず「商売の邪魔になりませんか?」と尋ねたら、店主さんは「客の車よりも、子どもの絵の方がよっぽどいいや!」と威勢よく言って笑いました。絵は商店街からあふれて、街の板塀にも展示され、その賑わいに加須市長や埼玉県知事も駆けつけました。

写真1

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 その後、加須小学校の子どもたちは「街角美術館」にも取り組みました。子どもたちが美術品だと認定した中には、マンホールのふた、銭湯の煙突、酒屋の古い樽、ショーウインドーの菓子細工、などがありました。子どもたちが手作りした認定証は今も商店に飾られています(写真1)。学校と地域もすっかり仲良くなって、商店主さんたちと子どもたちに日常的な交流が生まれるようになりました。

 これらの例は、どこでも同じようにいくというわけではないでしょう。ただ図画工作や美術が街の機能や関係性を復元させたことは確かだと思います。それは、おそらく他教科よりも容易でしょう。これも図画工作や美術ができることの一つだと思います(※4)。

※1:この視点は平成10年の指導要領第4学年のB鑑賞イ「親しみのある美術作品や製作の過程などのよさや面白さなどについて、感じたことや思ったことを話し合うなどしながら見ること(傍線筆者)」に反映された。
※2:このアイデアは北海道立帯広美術館の学芸課長から示唆を受けた。
※3:イーゼルは加須小学校のPTA活動の一環で親子で手作りしたもの。
※4:私自身は地元を離れたが、義母の酒屋と「街角美術館」が続いていたら、子どもたちが義母の酒屋の何かを認定してくれたかなと思う。ただ、当時の思いが実現したこともある。中央商店街の活性化プロジェクトに関わっていたときに、私は「街が学校や美術館なんだから、その関係性をつなぐ施設をつくるべきだ」と強く主張した。友人たちはその思いを引き継いで地域NPOと市が協同で運営する「宮崎アートセンター」をつくってくれた。


求められる言語環境の点検

icon_pdf_small「日文の教育情報 No.124」PDFダウンロード(346KB)

■ 気になる掲示物、言葉遣い

 研究会などで学校に寄せていただいた折、気づかされることがあります。廊下や教室の掲示物、あるいは教師と子ども、子ども間の言葉遣いの学校差です。
 まず、掲示物。教室から廊下の隅々まで、子どもにとって役立つ情報、子どもの活動に働きかける掲示が様々に工夫されている学校があります。その一方で、いつ掲示されたものか、そこここで日焼けした掲示物が半ばめくれて垂れ下がっているのを目にしたことがあります。どうかすると、掲示板そのものが鋭い刃物で傷つけられ、そのまま放置されていることもありました。
 次に言葉遣い。つい先日のことです。「てめえ、ふざけんなよ。」「このやろう、ぶっとばすぞ。」過激な言葉にぎょっとなって声のするほうを振り返ると、ごくあどけない顔立ちの子どもたちがふざけあっていました。
 そういえば、話し方教室の出前授業講師として中学校を訪れた方が、こんなことを話しておられました。何でも、授業直前、教室の中に入って準備をしているときだったそうです。担任の先生が廊下に顔を出し、遅れてくる生徒に大声でこんな注意を与えたというのです。「馬鹿やろう。何ぐずぐずしてるんだ。走れ。話し方の講師はもう教室に来てるんだぞ。」これから話し方教室を始めようというところだっただけに、複雑な気持ちを抱かされたということでした。

■ 言語環境に関する基本とは

 言語環境に関し、子どもの学習意欲への働きかけ、言語活動への配慮が隅々にまで行き届いている学校がある一方で、首をかしげる場合があることは確かです。学校全体の言語環境は、様々な形で子どもの学習活動や言語活動に影響を与えます。そんなことは分かりきったことのように思われます。しかし、その理解が必ずしも実際の取組と結び付いていないことがあります。
 対応の基本を確認しておきます。
 「小・中学校学習指導要領解説[総則編]」(小学校平成20年8月東洋館出版社発行、中学校平成20年9月ぎょうせい発行)、第3章第5節の1に、「児童(生徒)の言語環境の整備と言語活動の充実」として基本的な内容が明示され、整備の例として次のことをあげています。

①教師は正しい言語で話し、黒板などに正確で丁寧な文字を書くこと。
②校内の掲示板やポスター、児童生徒に配布する印刷物において用語や文字を適正に使用すること。
③校内放送において、適切な言葉を使って簡潔に分かりやすく話すこと。
④適切な話し言葉や文字が用いられている教材を使用すること。
⑤教師と児童生徒、児童生徒相互の話し言葉が適切に行われるような状況をつくること。(以下略)

 子どもは授業中の板書や掲示物、日常の様々な言語活動から影響を受けています。教師の説明や説話、様々な会話から話し方を学んでいます。子どもの言語活動をより適正にするためには、学校全体の言語環境の整備が求められます。
 教師は授業中の内容には様々に留意します。しかし廊下の掲示板、日常の言葉のやり取りに関してはついつい意識が薄くなることがあるようです。注意を行き届かせるためには、学校全体の言語環境の点検と指導体制の整備が重要になります。

■ 点検に際しての留意点

 学校の言語環境は、次のように整理して捉えることができます。

[物的環境]
黒板、電子黒板、掲示板、図書室、情報・視聴覚機器、テレビ、新聞など
[人的環境]
板書・掲示板などの文字、教師や子どもの話し方、校内放送、図書の活用、情報・視聴覚機器の活用、新聞・文集づくりなど

 全校の言語環境ということでは、これらの全体を視野に入れ、授業、児童会・生徒会、委員会活動などの指導の機会を整理して捉え、何に重点を置き、どう環境整備を進めるかを明確にすることが大切です。
 留意したいのは、ただ形を整えればよいということではなく、子どもの言語活動に働きかけ、子どもの適正な言語活動に機能するように工夫するということです。特に日常の言葉遣いは、子どもたちの豊かな人間関係、望ましい集団の形成にも深いかかわりがあります。細かい配慮が求められます。
 まずは整備の内容を明確にし、全教師によって自校の実態を点検することが大切です。その上で、企画委員会、学年会や関連する研修会などにおいて協議の機会を設定したいものです。その際に先の学習指導要領解説の関連部分を参考資料とするなどして、指導の留意点、工夫・改善の重点について話し合い、子どもたちに働きかける言語環境を実現することが望まれます。

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伊勢物語絵巻

写真は部分|紙本着色/26.8×412cm/13世紀後半‐14世紀初

写真は部分|紙本着色/26.8×412cm/13世紀後半‐14世紀初

 伊勢物語絵として伝わっている着彩画の中で、この作品は制作時期が最も早く、鎌倉時代後期(13世紀末から14世紀初め)で、物語の7段分を含んでいます。
 質の高い顔料や金銀の装飾を用いた伝統的なやまと絵で、伊勢物語の雅(みやび)の世界を表しているのが大きな特徴です。しかし、この絵巻は、それだけに止まらない見所を備えています。
 掲載場面は、伊勢物語第41段「洗ひ張り」にあたり、豊かな男と貧しい男に嫁いだ姉妹の話です。貧しい男に嫁いだ妹が、自分の夫が朝廷で着る大切な衣服の袍(ほう)を正月に備えて洗ったのですが、仕事に慣れておらず破いてしまいます。それを苦にして泣いているのを姉の夫が同情し、義兄妹の縁を詠んだ歌を添えて義理の妹に新しい袍を贈った、という温かな心情を語る場面です。
 絵を構成するのは、建物と菜園などの屋外風景で、建物は、やや高い視点から天井や屋根を取り除いた吹抜屋台(ふきぬきやたい)の手法を用いて描かれています。建物と菜園の間には赤く色付いた柿の実をついばむメジロが、画面右上には着物を洗濯する洗い張りの情景として、洗った布を竹棒で張り延ばして乾かす伸子張り(しんしばり)の一部が見えています。
 この絵は該当する伊勢物語の内容を直接的には表さず、話しのポイントとなる着物を洗う行為を、伸子張りによって暗示的に示しているのです。雅な世界を田園風景に置き換えたり、白と青2色の暖簾(のれん)が風に揺れ、菜園は青々するなど物語の情景とやや相違しているのですが、絵師はこのようにあえて紛らわしくして伊勢物語への探求心をくすぐる仕掛けを作っていると解釈すると、絵巻の魅力はさらに増していきます。こうした表現が随所に盛り込まれているのがこの作品の大きな特徴なのです。なお、この作品は国の重要文化財に指定されています。

(和泉市久保惣記念美術館館長 河田昌之)

■和泉市久保惣記念美術館ico_link

  • 所在地 大阪府和泉市内田町3丁目6‐12
  • TEL 0725-54-0001
  • 休館日 月曜日(月曜日が祝・休日の場合はその翌日)

<展覧会情報>

  • 古美術の愉しみ-久保惣コレクションの国宝・重文-
  • 2013年4月7日(月)~5月26日(日)

展覧会概要

  • 上記の日程で、和泉市久保惣記念美術館が所蔵する国宝・重要文化財を中心にご紹介する特別陳列「古美術の愉しみ-久保惣コレクションの国宝・重文-」を開催します。「伊勢物語絵巻」は前期展示(4月7日~4月29日)で展示予定です。

<次回展覧会予定>

  • 常設展「北斎・広重の名所と風景-日本を巡る-」
  • 2013年6月28日(土)~7月28日(日)

その他、詳細は和泉市久保惣記念美術館Webサイトico_linkでご覧ください。