新島襄 愛国の至情―日本富強への思い【大河を読み解くシリーズ5】

承前

 新島七五三太は、アメリカの地で徳川将軍家から薩長を中心とした新政権が誕生した時代の形勢をみつめながら、日本への帰国の時をさがしていました。1870(明治3)年4月の弟新島双六宛書簡は、弟が知らせてきた「日本当今之形勢承知いたし、偏に四海之波涛静まりて朝廷人才を挙げ蒼生に其居を安し、文を盛し、武を構し、我朝の欧羅巴の各国に比肩せんを望む」と、新国家誕生に強い期待を表明しています。ここに新島は、1872年2月安中藩大目付であった飯田逸之助に帰国したいとの思い述べ、その助勢を乞うたのです。そこには、「真神の道即ち耶蘇の福音」が日本富強をもたらす器となし、新日本の建設に参画する思いが吐露されています。

新日本への思い

 新島は、愛国の至情から国禁を犯したこと、アメリカにおいて欧米各国がなぜ「強大」になったかを探索したところ、「独一真神」「ゴッド」を信ずる人民が栄え、それを忘却した国は「愚鈍」に陥り、亡んでいることを歴史が証明していることを学び、この「耶蘇の福音」こそが日本に必要なのだと説き、そのために働き、日本の文明化と富強に尽すとの決意を、世界史の興亡を略記することで縷々述べています。まさにキリスト教は、文明国の宗教とみなされ、文明の器として説かれたのです。ここに七五三太は、日本のヨセフたる襄となり、日本の富国強兵をめざす精神の器となる「独一真神」を説く「耶蘇」の宣教師として帰国、新生日本を担う人間育成をめざします。

兼て御存之通、小生義公禁をも不顧、臥櫪千里に駆する志を起し、遂に海外を跋渉し、千辛万苦今日に至るは、全く国を愛する深による、然し国禁を犯せし段、国刑を免れざるを得ず、其のみならず、小生亞国へ参りしより、如何して欧洲の各国及米利堅の、日に強大に相成しやを克々探索せし所、漸く其妙奥を見るを得たり、亜細亜及び欧羅巴の歴史を見るに、独一真神、無所不能、無所不知、無所不在、無所無終、「ゴッド」、万有之造物者、見て不得、取れとも不可取の霊神、帝中の帝、王中の王の真理、妙動を信奉せし人民は必らず栄へ、其を忘却せし国は益愚頓に陥る、四千年以前に興起せし「イジプト」(エジプト)、其後「エツシチヤ」(アッシリヤ)、「バビロン」、「ポルシヤ」(ペルシャ)、「グリース」(ギリシャ)、羅馬(ローマ)の盛なりしは、今何所に在る、印度は甚古き国なれとも、至愚の仏法を信奉せし故、益愚頓に相成候て、空く英人の所領と成れり、且支那日本に於て一切此妙動を知らざりし故、当今の日本は百年前の日本に格別の相違無之、唯古史旧経を索る事にして、一切開花に進まず、是ぞと申す新発明も不致、却て当今之日本は、百年前の日本に劣れりと思れ候、此真神の道即ち耶蘇の福音は、孔孟の道に比すれば、唯馬と鹿の相違なるのみならず、実に月と鯰魚との相違に斉く思れ候、耶蘇の教は益栄え、孔孟之道は益衰ん事必常なり、依て小生も頗る此道に志し、当今は「アンドワ」邑の神学館に此道を攻め居候故、何れ帰国之上は此道を主張し、有志之子弟へ相伝へ、益国を愛し民を愛するの志を励まさん事を望む、且兼て学び得し地理、天文、窮理、精密等の学をも伝へ、富国強兵之策を起すのみならず、人々己を修め、独を慎むの道を教へんと存候、但し人々己を修め、其身を愛するを知らば、己の住める国を愛せざるを不得候事、自然の理なり

富国強兵・人心一致の器

 このように愛国の思いを認めた書簡は、己が信ずる耶蘇教が日本にポルトガルから伝えられたキリシタン宗門と異なり、「当今強大なる英国、プロイセン、合衆国にて信奉せる教道」であるとなし、「国を憂へ、民を愛する志」を起し、富国強兵、人心一致をもたらすものと説き聞かせます。そこでは、ローマ法王の下にあったイタリア、スペイン、オーストリア、ポルトガル、フランスが一時強大であったが、現在ではイギリス、アメリカ、プロイセン等の下であり、強兵を誇ったフランスもプロイセンに降参したように、「ゴッド」を信奉する国は甚栄へ、之を閑却せる人民は必らず亡ぶと申候、是道は奇々妙々、人心一致する事、駭に堪たり」、と近世の歴史をふまえて語りかけてもいます。
 いわば耶蘇宗といわれるプロテスタントの優位性は、「独一真神の真理」を奉拝することが英米等の国力を生み出した活力であるとなし、日本の文明化を果すためにも必要なものとみなされたのです。新島襄は、ここに吐露した思いを日本で実現すべく、独一真神の道を説き、日本の新生をめざしました。この独一真神の世界は次のように紹介されています。

亞国に行れる教は、実に独一真神の真理にして、我等の奉拝する所の者は、唯不可見の「ゴッド」、我輩及び天地万物を造れる天帝なり、扨此真神を奉拝し、且真神を信愛せば、必らす国を憂へ、民を愛する志を起さん、且富国強兵、かつ人心を一致せん事、此妙道に如く者なからん

 この独一真神の世界に身を投じた新島襄は、Vol.60で紹介した「新島襄の初心」で述べましたように、「一国を維持するは決して二三英雄の力に非ず」「智識あり、品行ある人民の力」、「一国の良心」ともいうべき人間を育てることが国家富強の基本であるとの念で、キリスト教信仰による大学、同志社大学の創設をめざすこととなります。しかし新国家は、新島襄が思い描いた「一国の良心」を担う人民の力に期待する国家像とは逆に、軍事力に支えられた富国強兵路線を駆け足で突き進んでいきます。ここに愛国の業に己を投じて生き急いだ新島襄の悲劇の相貌が読みとれましょう。

参考文献

  • 『新島襄全集3 書簡編1』同朋舎 1987年

「ミレーの落穂拾い」を読み解く ~『みる美術』、BIG PADとiPadを活用して~(第1学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.基礎データ

題材・単元名

感覚的アプローチによる鑑賞と分析的アプローチによる鑑賞
~電子黒板(BIG PAD)とタブレット(iPad)を活用して、「ジャン=フランソワ・ミレーの落穂拾い」を読み解く~

時間数

1時間

題材・単元の
特徴

鑑賞の学習が表現の学習と関連しながら相互に影響し合える学習内容にしていくことが大切である。本校では3年間の鑑賞題材を系統的に位置づけ、表現と鑑賞の一体化を図りながら鑑賞学習を展開している。感覚的アプローチや分析的アプローチの手法によって得た学習課題を、生徒一人ひとりが価値意識を持って発表し合うことで共通点や差異などに気づくことや、新たな発見から導かれる認知活動によって創造的思考力が刺激されることで、創造的活動へと結び付いていくのではないかと考えている。

授業環境

活動環境

美術室またはPC教室など

人数

教師1名 生徒34名

教材や用具

教師:電子黒板(BIG PAD:シャープ)、タブレット(iPad:アップル)
生徒:教科書(日本文教出版1年)、美術資料(秀学社)、タブレット(iPad)、鑑賞ワークシート、筆記用具

コンピュータ
動作環境

使用デジタル教材

提示型デジタル教材『みる美術』
西洋美術 フランス国立美術館連合 編

OSバージョン

Windows7

教材や用具

電子黒板(BIG PAD)、タブレット(iPad)

その他

ネットワーク環境、タブレット学習システム (STUDYNET、STUDYTIME:シャープ)

2.活用事例および展開

①ねらい
 表現と鑑賞の学習は美術科の目指す感性や創造性の育成を支える両輪としての役割がある。その中でも鑑賞の学習は、造形的に表現されたものを視覚的に捉え、そのよさや美しさ、作者の心情や考えなどを感じ取り味わう活動である。見たことや感じたことを直観的、感覚的に捉える感覚的鑑賞に加え、作品を構成している造形要素を分析し、作者の表現意図や工夫などを学習する分析的鑑賞は、まさに探究心が核となる鑑賞学習の手法である。
 「見ること」とは、視覚を通して得た情報を脳が処理し解釈する活動であり、日常生活ではこのことは無意識におこなわれているが、美術では形や色、材質などの造形的な面から意識的に見ることを通して視覚情報を整理、分析し、解釈することである。これが「見て考えること」である。この「見て考えること」は鑑賞の活動だけでなく、表現活動も含めたすべての造形的な活動を支える美術科の学習の基礎となると考えている。
 表現や鑑賞の幅広い活動を通して、「ものの見方や感じ方」から得られる想像力や発想力、「どのように表現するか」という構想・構成力、「色・ 形・材料」で表現するための技能など、美術の基礎的な力を伸ばしながら、創意工夫したり試行錯誤したりする中で「自分が望む価値」を総合的にまとめ上げていくことが大切であり、本校美術科の授業づくりの核となるものである。美術の学習に取り組んでいくことを通して、心豊かな生活を創造していけるような力を身につけて欲しいと考えている。

②『みる美術』利用の意図
 絵画作品の鑑賞では、作品に込められた作者の思いを感じ取ることや、絵画表現の多様性について理解するとともに、鑑賞の活動を通して造形的な感覚や判断力、造形的言語を養いながら、体験的に造形美術に関わる知識理解を高めることが大切である。これまでの鑑賞の授業では、教科書や資料集に掲載されている図版、カラーコピーやカラープリントによる限られた大きさの図版による授業が中心であった。また、掛け図などの大判の図版を使っても、黒板の位置からでは教室の後ろ側の生徒には何が描かれているのかを読み取ることが難しく、十分な鑑賞活動ができるとは言い難い。そこで今回は、掲示型のデジタル教材『みる美術』を使い、電子黒板とタブレットを活用して、教師と生徒が双方向で授業を展開できるように試みた。タブレットの拡大機能を活用することで画面に描かれたものをじっくりと鑑賞し、何が描かれているのかについて読み解きながら、作者がこの作品に込めた思いなどを感じ取ることや、生徒同志でお互いに感じたことや考えたことについて発表し合うことで、多視点的な見方や考え方、感じ方に気づき、より深く作品を鑑賞できるようにした。また、感じたことや考えたことなどを友達に説明することでイメージの言語化を図ることができると考えた。

③評価について
美術への関心・意欲・態度
・美術作品に関心を持ち、その世界を楽しめるようにする。
鑑賞の能力
・美術作品をじっくり鑑賞し、感覚的に味わい、分析的に見ることによって、作者が作品に託した思いや秘密に迫ることで美術の世界の楽しさを実感する。
・知識をもとに判断し、想像や推理を生かしながら、絵の世界を探究する楽しさを味わう。

④指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点、評価方法

「感覚的アプローチによる鑑賞方法」
・作品から感じ取った第一印象(直感的な印象)を大切にして、感じたことや考えたことを自分の言葉でワークシートに記述し、お互いに発表する。

「分析的アプローチによる鑑賞方法」
・分析的な視点で作品を読み解く。画面に描かれている様々な情報を、造形的な視点から分析し、ワークシートに記述し、お互いに発表する。
・友達の発表を聞き、様々な考えを知ることで、改めて自分の感想をまとめる。

<留意点>
・タブレットの画面の大きさに限界があるため、電子黒板やプロジェクタなどで大きな図版を鑑賞できるようにする。教師側からの情報は極力提示せずに、ゆっくり、じっくりと作品を鑑賞する時間を確保し、生徒が感じたことや考えたことを自分の言葉で発表できるような環境をつくる。
・ワークシートへの記述や積極的に発言できない生徒に対しては、教師の発問を工夫することで、自分の感じたことや考えたことを言語化させるようにする。〈ワークシートや発言〉

<評価>
・作品をじっくりと鑑賞し、自分の考えを述べているか。〈ワークシートへの記述と発言内容〉
・タブレットを活用し、様々な視点から作品を読み解く活動をしているか。〈授業観察やタブレットへの書き込み〉
・分析的アプローチによる鑑賞方法から読み解いたことについて論理的に考えをまとめることができたか。また,友達の考えたことなどについて自分の考えや意見を述べることができたか。〈ワークシートや発言内容〉

3.本時の展開

①目 標
・美術作品に関心を持ち、鑑賞の活動を通して、その作品の世界を楽しむ。
・美術作品を感覚的に味わったり、分析的にじっくりと鑑賞したりする活動を通して、作者が作品に託した秘密に迫りながら美術の世界の楽しさを実感する。
・知識をもとに判断したり、想像や推理を生かしながら、絵の世界を探究する楽しさを味わい、自分の感じたことや考えたことをワークシートにまとめたり発表したりする。

②『みる美術』を活用した授業の展開

主な学習活動・内容

教師の指導・評価の留意点

導入10分

・タブレット配布。
・タブレットの操作についての確認。
・STUDYTIMEへログイン。
・作品の図版を生徒のタブレットに配布。
・鑑賞(感覚的鑑賞と分析的鑑賞)についての説明。
・作品を鑑賞(感覚的鑑賞)し、作品から感じ取った第一印象をワークシートに記述する。

・鑑賞したことをワークシートに記述させることで、自分の思いや考えを整理し明確にさせる。
・発表したことについては肯定的に受け止める。
※電子黒板の活用
※タブレットを2人で1台使用。2人グループをつくる。
・感覚的鑑賞法として、作品の第一印象や直感的に感じたことや、作品をじっくり鑑賞することで、画面から感じとったことなどをワークシートに記述させる。分析的な鑑賞にならないように鑑賞の視点を示す。
【発問例】
「画面全体をじっくり鑑賞しましょう」
「画面全体からどのような感じを受けますか?」

展開
30

・作品を鑑賞(分析的鑑賞)し、画面に描かれていることを詳しく読み取りワークシートに記述する。

分析的アプローチによる鑑賞の視点を示す。

■タブレットの活用①
・描かれている人間に印(数字)をつける。
・人間以外に登場しているものに印をつける。

□タブレットに書いたことを電子黒板に送る。

【発問例】
「何が描かれていますか?」
「人間は何人いますか?」
「人間以外に登場しているものは?」

・友達の回答を確認しながらもう一度画面をじっくりと見る。

■電子黒板の活用①
・生徒の回答を確認する。

・作品から読み取ったことをお互いに発表する。
・この作品のタイトルを知らせる。
  ミレーの「落穂拾い」

【発問例】
「みんな何をしているのですか?」
・友達の発表を聞いて、他の考えや意見がないか、じっくりと考えさせる。

・作品から読み取ったことをお互いに発表する。
・友達の発表を聞いて、質問や疑問点などがあれば発表させて、意見交換をする。

【発問例】
「手前の3人はなぜ他の人たちと離れているのでしょうか?」
「この3人の関係は?」
「どんな人たちですか?」
「何歳くらいですか?」
「他に気づいたことはありませんか?」
※発表したことについては、できるだけ肯定的に受け止めるようにする。なぜ、そう感じたか、読み取ったかを大切にする。

■タブレットの活用②
・一番初めに目がいくところや視線の動きを数字や矢印などでタブレット(iPad)に書き込む。

□タブレットに書いたことを電子黒板に送る。

【発問例】
「ミレーはこの絵のどこを見せたかったのでしょうか?作品を見た時の視線の動き方を示してみましょう。」
「一番初めに目がいくところはどこですか?そこからどのように視線(視点)が移動しますか?数字や矢印で描いてみましょう。」

・友達の考えを確認しながらもう一度画面をじっくりと見る。

 

■電子黒板の活用②
・生徒の考えを確認する。

まとめ 10分

・ミレーは「なぜこのような作品を描いたのか」。作品に込めた作者の心情や意図、表現の工夫など、今日の授業を通して、自分の思いや考えをまとめる。(時間があれば発表しお互いの考えを知る。)
・本作品の第一印象と、分析的に鑑賞した後での印象の違いについて考え、ワークシートに記述する。

・本時の鑑賞の活動では、タブレットを活用し、図版の全体→図版の細部→図版の全体というように、作品全体から受ける印象や特徴を大切にしつつ、細部の詳細な観察を通した分析的アプローチの手法から、新しい発見や気付き、作者の表現意図の推理など、鑑賞の活動が「探究する楽しさ」を持っていることを体験的に理解できるようにする。

③指導のポイント
・感覚的アプローチからの鑑賞方法で、作品を生徒が自由に観察し、様々なことを発見させて味わわせることにねらいを置き、また一方では、分析的アプローチによる鑑賞方法で作家研究などを通して美術作品の背景を探り、文化理解を深めたりすることや、造形言語や造形要素などの知識が深まるなど、この二つの鑑賞方法の授業が効果的に構成されることで、より高次元の鑑賞学習となることが期待できる。
・『みる美術』を活用することで、鑑賞作品の図版全体を鑑賞することや、タブレットを活用することで、見たい部分を自由に拡大することができるので、それまで気づきにくかった様々なものが見えてくる。例えば、そこに描かれている具体的なもの、筆のタッチ,色彩表現など、生徒自身で様々な発見をする楽しみを味わわせながら授業に取り組ませることができる。
・電子黒板を活用することで、生徒がタブレットに書き込んだ情報を生徒全体で共有しながら授業を進めることができる。お互いが感じたことや考えたことなどを発表し合うことで、共通点や相違点があることに気づき、相互交流を図りながら様々な価値観を理解させたい。

4.感想等

 教科書や資料集に掲載されている図版や、カラーコピーやカラープリントなどによる図版を用いたこれまでの鑑賞の学習では、生徒が図版を鑑賞しながら、教師の発問に答えたりワークシートへ記述したりといった活動が中心であった。今回の実践では電子黒板とタブレットを活用したことで、生徒が自分の鑑賞活動に合わせて作品を鑑賞出来るようになった。また、ワークシートもあくまでも鑑賞の活動を補助するような形で活用するようにしたことで「よさや美しさを感じ取り味わう活動」がじっくりと取り組めるようになったと考える。
 これまでのワークシート中心の授業では、生徒一人ひとりの鑑賞活動を教師は読み取ることは出来たが、生徒がお互いに他者がどのような見方や考え方をしているのか、自分の見方や考え方、価値意識と比較しながらで捉える活動が希薄であったことが挙げられる。今後もさらに、ワークシートの形式や教師の発問の内容とタイミングなど、各学年の発達段階に応じた工夫について考えていきたい。

文字の大きさと配列「相田みつをさんに挑戦!!」(第6学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

文字の大きさと配列「相田みつをさんに挑戦!!」

2.目 標

○自分が創作した詩をイメージに合わせて,文字の形や大きさ,配列を考えて書くことができる。
・詩のイメージに合わせて,書でのびやかに楽しく表現することができる。
・用紙全体との関係に注意し,文字の形や大きさを考えて工夫して書くことができる。

3.評価規準

○関心・意欲・態度
 相田みつをさんの詩に興味をもち,自分の思いを詩で表現し,詩のイメージに合わせて書でのびやかに楽しく思いを込めて書こうとしている。

○思考・判断・表現
 ポスター作りやパンフレット作り,新聞作り,卒業関係の活動などで,学習したことを生かしている。

○技能
 自分の詩をイメージに合わせて,紙面の大きさを考えて,文字の形や大きさを決め,全体の調和を考え,思いを込めて丁寧に書くことができる。

○知識・理解
 行頭や行尾をそろえたり,変化をつけたりするなど,いろいろな構成の仕方や筆勢の違いを理解している。

4.本単元の指導にあたって

 本教材は,相田みつをさんのように自分が創作した詩を思いを込めながら書で表現する学習である。相田みつをさんの詩は,短い言葉の中に詩人の思いが凝縮されており,人生の教訓となる詩である。また,相田みつをさんは,その詩の中でも特に伝えたい言葉や大事な言葉を大きくしたり力強くしたりして書で表現している。そうした技法を読み取り,自分の思いや気持ち,決意を詩という形で表現していく。その詩のイメージを大切にして,のびやかに楽しく興味をもって書で表す。書で表すときは,詩のもつ意味内容と文字の形や大きさ,筆勢を考えながら書いていく。また,学習したことは,ポスター作りやパンフレット作り,新聞作りなどの他教科の学習活動や全校生に発信する活動,卒業関係の活動など,多種多様な書く活動に役立てることができる教材である。
 本学級の児童は,板書を写すとき,しっかり黒板を見てノートに書いている。また,行やマスを意識して書くことができている。しかし,ノートを見ると,速く書こうとするあまり字形が乱れたり,配列を考えずに書いたりして読み返したときに読みにくくなっているものもある。
 今までの学習でいろいろな筆記具を使用し,その表現効果をつかんでいる。国語科「ようこそ,わたしたちの町へ」では,そうした経験を生かし,見出しを大きくしたり,書体や色,筆記具を工夫したりして,意欲的にパンフレット作りに取り組むことができた。しかし,紙面の大きさを考えて字の大きさを整えたり,配列よくまとめきれなかったりする児童もいた。
 そこで,本教材では,練習用紙を準備し,配列を考えながら硬筆で何種類か試し書きし,創作した詩のイメージに最もふさわしい書き方を決めて書で表現させたい。作品には,手作りの印を押して自分の作品として愛着をもたせたい。

5.単元の指導計画(全3時間)

学習のねらい

子どもの活動と内容

評価規準の具体例

1

 ○相田みつをさんの詩を鑑賞し,作品の特徴をとらえる。

○相田みつをさんのいくつかの詩を読み,特徴を話し合う。
・短い詩の中に詩人の思いが込められているよ。
・言葉によって字の大きさが違っているよ。大きい字の言葉が伝えたいメッセージなのかな。
・力強い字はその言葉を強調しているんだ。

☆相田みつをさんの詩「いまが大事」「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」などを楽しんで読み,特徴を見つけようとしている。

2

○自分が伝えたい思いや気持ちを詩に書く。

○詩の型にとらわれず,自由に言葉で表現する。
●相田さんのように自分が伝えたい思いや気持ち,今考えていることを書いてみましょう。
・いくつも書けるよ。
・素直に気持ちをそのまま書くと詩になるんだ。

☆自分の思いや気持ちを詩で表現しようとしている。

○練習用紙(硬筆)に,配列を考えながら作品作りをする。
・縦書き,横書き
・文字の大きさ,筆勢
・行数
・自分の名前や印の位置

○創った詩を書で表現する準備をする。
●用紙の向きは自由なので,詩に合う向きで書きましょう。
・横書きの方が優しい感じかな。
・この言葉を伝えたいからゆっくり大きく力強く書こう。
●書くスペースがないから行をかえるのではなく,言葉でかえるといいね。
・この言葉は次の行に書こう。
・この言葉は感謝の気持ちを込めて丁寧に書きたいな。

☆創った詩を楽しく書こうとしている。

3

○作品を創る。

○作品を創る。
・ゆっくり丁寧に書こう。
・この字はゆったりと書きたいな。

☆創った詩をイメージに合わせて,書でのびやかに楽しく書こうとしている。

6.本時の学習

①目 標
・相田みつをさんのように,詩のイメージに合うよう,文字の大きさや配列を考えて,書でのびやかに楽しく表現する。
・友達の作品を鑑賞し,表現の工夫に気付き,思いに共感をもつ。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫と教師の支援

資料

1.本時の学習のめあてを確認する。
・どのように表現するかイメージをもつ。

○練習用紙(硬筆)を読み返し,目を閉じて詩のイメージを膨らませることができるようにする。
●グループで練習用紙(硬筆)を見せ合い,アドバイスしてもらい,自分のめあてを考えるようにする。
・この言葉は大きく書こう。
・ここは力強く書こう。

・練習用紙(硬筆)

2.自分のめあてをもって,練習をする。(半紙)
・自分に合っためあてで練習をする。
・練習の仕方を工夫する。

○半紙を配布し,練習に取り組めるようにする。
●一字一字の練習,配列など,めあてをもって練習できるように助言する。
・この言葉は次の行に書こう。

・毛筆書写用具
・半紙

3.まとめ書きをする。(作品を完成させる。)
・仕上げの詩を書く。
・印を押す。

○白表紙を配布し,練習したことを生かし,イメージしたように,のびやかに書くよう指示する。
●思いを込めて,丁寧に書くよう指示する。

・白表紙
・手作りの印
・スタンプ台

4.本時のまとめをする。
・自己評価,相互評価をする。
自己評価:作品に対する思いと工夫したところや上手く表現できたところ。
相互評価:どのような思いが伝わってくるか。文字の形や大きさ,筆勢や配列など工夫している表現はどこか。

○完成した作品を前で見せて,詩と自分の思いやがんばったところを発表するようにする。
●友達のよいところを発表するようにする。
・全力という言葉が力強くて全力でがんばろうという気持ちが伝わってくる。
・大事という言葉が大きいから大事にしたいってわかる。

 

地域と学校

icon_pdf_small「日文の教育情報 No.129」PDFダウンロード(322KB)

■ 学力の向上

 一昨年から文科省の委託で「運営組織と学力の相関関係に関する調査研究」を行っている。「学力向上を」という地域住民、保護者の声に対して学校は従来からの教師の教育技術の向上という手段を中心に対応してきたが、これに対して「学力向上」に組織力がどのように影響を与えているかということを調査研究したものである。調査の結果、学力の高い学校については以下のような結果が得られた。

①学力向上について、具体的な数値目標を設定し学校外に公開している。
②学力向上に関して地域の影響力を強く感じている。
③校長の双方向的かつ弾力的組織運営の意識が強く、その意識が教員に浸透、共有されている。

 また、校長を対象とした聞き取りから、学力の高い学校は次のような結果が得られた。

①客観的なデータにより児童・生徒の現状を把握している。
②具体的な目標設定を行っている。
③対話と共有によって組織で目標をつくり上げている。

■ 学校運営組織

 これらのことから、注目すべきことは、学校が組織で動いているということである。と同時に、校長はその組織運営の技術を獲得しなければならないということである。ややもすると、校長個人の教育方法を押しつけていないか。または、校長個人の思いをどの学校に赴いても目標としていないか。つまり、私たちは、学校の置かれている現状を把握する技術や方法の開発が遅れているのではないのだろうか。前回教育長の調査結果を書いた時と同じように(教育情報No.126参照)、その校長のタイプが重要ではなくて、その学校が置かれた状況が最も重要であって、その状況に対して、校長がどのような目標や方法を設定・実施するかが重要なのである。
 これには、現状を把握する技術の向上がまず最初であるが、現状把握の次は、校長のタイプ把握の技術が続く。そしてこのことをマッチさせる人事があることで終結する。これらのことを合わせて人事と言うが、現在の教職員の人事は「適材適所」という言葉は使うが、内容・技術が伴わないために、その学校の在職年数等を基準にせざるを得ないのである。人事技術の獲得も重要な課題である。

■ コミュニティ・スクール

 さて、この調査からもう一つ注目すべきことは、調査結果に「具体的な数値目標を設定し学校外に公開している。」、「地域の影響力を強く感じている。」とあるように、地域と学校の関係である。今年度、いわゆるコミュニティ・スクールは全国で1800校を超えているが、このコミュニティ・スクールの重要性である。学校と地域との関係を重視し、地域とともに学校をつくることが、結果的に子どもの「学力向上」をはじめとする子どもの能力を引き上げるより良い方法であるということである。
 問題は、コミュニティ・スクールを実施している多くの学校は、法律を適用し地域運営協議会を設置していることでコミュニティ・スクールであると思っていることである。一昨年度の研究の結果を基に昨年度からは、上記の学校と地域の関係の在り方に注目して、さらに調査研究を進めてきた。その結果、学校と地域の関係を5段階のスケールに分けられること、そして、それぞれの段階においてとるべき方法(処方)はどのようなものであるか、ということがみえてきた。
 研究内容を簡潔に記す。スケールとは、第1段階(学校と地域の関係が未成熟モデル)、第2段階(成熟進行モデルⅠ)、第3段階(成熟進行モデルⅡ)、第4段階(成熟モデル)、第5段階(発展モデル)の5段階である。このうち、第1段階から第3段階の途中までを、学校と地域が関係を形成する時期、第3段階途中から第5段階までを、学校と地域が共同運営する時期として、調査する学校と地域の関係がどの段階であるかを明らかにし、その学校ごとにどのようなことをするべきかの処方を行う研究である。
 この研究では、第4段階目をコミュニティ・スクールとしているが、残念ながら第4段階目にあるコミュニティ・スクールはわずかで、ほとんどが第1段階目から第3段階目であるということである。しっかりと地域とともに学校をつくっていかなければいけない。

日文の教育情報ロゴ

よくある質問~「製作」と「制作」

 「小学校図画工作はなぜ『制作』ではないのですか?」。よくある質問です(※1)。本稿ではなぜ小学校図画工作が「製作」で、中学校美術では「制作」が用いられているのか検討してみましょう。

視点1.言葉の性質

 言葉は本来「何かがあって、それを名付けた」というよりも、「言葉によって何かの概念が生まれる」という性質を持ちます。有名なのが「狸」です。犬の仲間ですが、日本人の誰もが犬とは思っていません。月を見れば腹鼓を打ち、変身して人を化かすような存在としてとらえています。「狸」は言葉によって犬から切り離され、生物の系統性や狸自身の意向にかまわず、文化的につくりだされた特別な動物なのです。
 また、言葉の解釈は時代や社会状況で変わります。最近の「子ども」と「子供」がそうでしょう(※2)。「お供やお供えものなど従属的な意味だから使うべきでない」という説もありますが、一方で以前から「『子供』を差別的な表現だというのはおかしい」「『供』は複数形だ」という人がいました。「言葉を変な思想性で変えてはいけない。言葉は人間の思想より大きなものだ」という指摘もあります(※3)。これから「子供」が増えるとすれば、それはそれで社会的な変化を表すことになるでしょう。
 言葉は生き物です。絶対的な正解があるというよりも、それを用いることによって、その社会や文化に何らかの概念を生み出したり、状況を変えたりする性質を持っています(※4) 。

視点2.辞書的な解釈(※5)

 辞書的には「製作」と「制作」の何が違うのでしょう。
 「製」は製図、製造、製鉄、製品、複製、木製など「こしらえる」「つくる」という意味を持っています。それに「作」を加えたのが「製作」です。「家具を製作する」「記録映画を製作する」「作品を製作する」など広く「つくる」という意味で用いられています。
 一方、「制」は基本的には制定、制度、法制など「整える」という意味があります。規制・制圧・自制などのように「おさえつける」「コントロールする」というニュアンスもあります。それに「作」を加えたのが「制作」です。そこには「自分の思うとおりに作り上げる」という意味が含まれます。「肖像画を制作する」「政令を制作する」「番組を制作する」など、かなり明確な意思があって作る場合に用いられます。美術や芸術の世界で「制作」が使われるのも、そこからでしょう。ただ、「映画製作」「制作スタッフ」のように様々な分野で慣習的な用い方がされており、「製作=実用」、「制作=芸術」といえるほど厳密な規定はできません。
 このようなことから、おおむね「製作」は幅広く、「制作」は芸術的な場面で用いられるということができるでしょう。

視点3.学習指導要領の歴史

 学習指導要領では、どのように「製作」と「制作」が使われてきたのでしょうか。
 第二次世界大戦後、それまでの「図画」と「工作」は合体し新しい教科「図画工作」が生まれます。小学校も、中学校も、高等学校もすべて「図画工作」です。学習指導要領では「製作」が用いられます。
 ところが、昭和33年の改訂で、中学校と高等学校は「美術」と「技術」に分かれます。小学校は「図画工作」のままですから、当然「製作」を用い続けます。そもそも変更する理由が生じていないのです。「制作」にするとなれば「工作も制作か」「砂遊びや、新聞紙で遊ぶ姿を芸術と呼ぶか」「明確な意図や自我が小学生で成立するか」など様々な問題が生まれたことでしょう。
 では、中高美術は「美術」になったから、すぐ「制作」に変わったのでしょうか。いいえ、昭和の間はずっと「製作」でした。「制作」を使い始めるようになったのは平成元年改訂からです。当時は時数減もあって「美術科とは何か」「教育課程に必要か」などの問いに答える必要がありました。そこに「制作」への変更を検討する理由が生まれたのでしょう。指導要領作成の協力者会議では「美術は芸術だから『制作』がふさわしい」「いや、意味が限定されるので『製作』のままでよい」などの議論が行われたようです(※6)。そして結果的に小学校図画工作は「製作」、中学校美術は「制作」という状況が生まれ、それが現在まで続くことになります。

 まとめてみましょう。「製作」は広い意味の「つくる」を示しています。造形遊びや工作など小学生の幅広い造形活動に適用するのは適切でしょう。一方「制作」には明確な目的意識や主題、芸術的な意味などが含まれます。芸術文化を理解し、自我も確立する中学生にはふさわしい用語だと思います。また、教科の歴史という観点から、小学校図画工作が一貫して「製作」で、中学校美術が途中で「制作」に変更になったことも十分理解できます。総合的に勘案すれば、どちらも社会状況を踏まえた妥当な結果だと思います。
 ただ、言葉の性質からすれば、小学校図画工作が「製作」、中学校美術が「制作」と言えるのも現行制度上の話です。社会や文化の変容にともなって言葉は変化します。6・3・3制や教育課程が変われば、それにそった概念や言葉の変更があるかもしれません。どのような未来が待っているのか、そのときどのような言葉が用いられているのか、それもまた興味深いことの一つです。

 

※1:この質問は「小学校ではない先生」からがほとんどで、小学校の先生や保護者から発せられることは少ない。時々「小学校も『制作』であるべきだ」という意見があり、その美術的な前提や固定観念には辟易することがある。
※2:文化庁:よくある「ことば」の質問(現在ページが存在しません)
※3:横浜国立大学の有元教授の話から。
※4:大学1年生のころ、大学4年生から「製作」じゃない「制作」だとよく書き直された。単純に語句の訂正というよりも、「芸術」という概念や、先輩と後輩の関係を成立させるためだったように思う。言葉の使用はある種の権力関係も含むのだろう。
※5:文化庁編「言葉に関する問答集」や大辞泉などから。
※6:議論は52年改訂時からあった。(協力者であった京都教育大学名誉教授竹内博先生の話)

新島襄の決断―憂国の激情【大河を読み解くシリーズ4】

承前

 新島八重を主人公としたNHKの大河ドラマは、八重の夫となる新島襄が登場してきた由。どのように襄が描かれるか不明ですが、上州(群馬県)安中藩士新島七五三太(しめた)、後の襄は、兵庫湊川の楠公墓碑を訪れ「嗚呼忠臣楠子之墓」に涙し、その拓本を八重と住んだ京都の自宅書斎にかかげ、己の志を問い質した人物でした(Vol.3「楠正成像に読みとる時代精神」参照)。
 この楠公の思いに己の志を重ねた新島襄は、ペリー来航の嘉永癸丑がもたらした欧米列強の襲来に強い危機感を抱き、攘夷の思いを胸に秘め、1864(元治元)年7月に箱館からアメリカに密航、アメリカ伝道会社の宣教師として1874(明治7)年、10年4カ月ぶりに帰国。この間、72年から73年にかけ、岩倉使節団に随行してアメリカ、ヨーロッパの教育制度調査に従事。帰国を前にした伝道会社の年会では、日本にキリスト教主義の学校設立を訴え、その支持を得たのです。
 その足跡は「新島襄の初心」(Vol.60)で紹介しましたが、今回は密航前夜の新島七五三太がとらわれていた憂国の激情ともいうべきものを読み解き、帰国後の襄が京都の地から日本に何を発信しようとしたかの初心をうかがうこととします。この激しい憂国の情は、西軍ともいうべき薩長の非情な攻撃に対陣し、会津を守護せんとした東軍の女兵士八重が思い抱いた愛藩(あいこく)に通じるものともいえましょう。密航までして世界を手にいれようとした襄が思い描いた世界は、「八重」に託された物語において、どのように語ってくれるのでしょうか。

宣教師ニコライへの手紙

 襄は、1864年に箱館でロシア領事館付き司祭ニコライの下に寄寓、ニコライに古事記等を教え、一方で英語を学び、密出国の時に備えます。この書簡は「(元治元年)五月 ニコライ様玉机下」と認められたものですが、新島自筆の封筒に入れられていた筆写のもので、襄の自筆ではありません。「クライスト」教を学びたいとの文面には、海外密航をニコライに支援を求めるための方便の感がありますものの、日本の覚醒をめざす憂国の情は新島の思いを説いたものです。

私儀今度江戸表より当地へ参候はよの義に無之、外国の人々に交はり、自分の行義は勿論、国を治むる道なとを承はらんとそんし、私の主人も親も許さざりしが、色々と申立、よふやく当地へ参る事を得、はからすも貴殿の御世話に相成候は、実に平生の願ひに相叶ひ、心の喜びいはん方も無之候、依而日夜学問に出精いたし候ハヽ、遂には私の本望も成就いたすべしと楽のしみをりしに、(目下、眼を病み、読書も出来ずに鬱々として日々をすごしていると心境を述べた後に)
私の西洋学をいたし候は、日本の地は尽く海岸なる故、航海術を開らき無事なるときは諸国へ参り公益いたし、事ある時は海軍をもて敵をふせぎ候ハヽ、一としほ国家の為に相成候半とぞんぜしに、近頃政府の政事益たゝす、国家益みだれ、物価益高登し、万民益困窮いたし候、さて国の有様かくなりしは、全く教のたたずして、国人神の道を知らさるより然らしむるとそんし候、嗚呼国のしか成りませしに、無理おしに兵を練り船を造る共、欧羅巴(ヨーロッパ)各国には敵しがたし、欧羅巴各国の強兵も敗り難きは唯一つの道理なり、然れば航海術は瑣末の事に而、私共は第一に「クライスト」聖教を学ひ己れをみかき、而して後其教書を釈して国中に布告いたし、国人をして尽く欧羅巴の強兵もやぶり難き独一真神の道を知らしめば、政もおのつから立ち、国も自らふるひ候半とそんし候、嗚呼我邦もしかなりませば、私の身はCrucified(磔)さるる共決してうらみず、全く神への奉公「クライスト」への勤めとそんし候、しかし日本にて「クライスト」教を学ばんには、極めてかたかるべし、いかんとなれば、「クライスト」教は国禁のみならす、此地にて学ひ候得ば速やかにはまいり難からん、故にひそかに欧羅巴へ抜け行き、是非とも此の志を遂けんとそんし候、去ながら欧羅巴へ参り学問いたすへき用意の金は更に無之候故、途中にては船のマトロス、彼地へ参り候得ば、「クライスト」教学校の小使となりてもくるしからず、偏に彼地へ参り充分学問いたしたくそんし候、扨右様の工夫もありしゆへ、いかにも養生いたし、少しも早く眼をいやしたくそんし候間、(どうかロシア病院で治療できるように紹介してほしい)
御頼みのほとこひねかひ候、且つ私学問の為めとて欧羅巴へ参り得べき工夫は、いかかして宜しきか臥し而奉伺候

国家の改造は精神の覚醒から

 新島襄は、ニコライの下でキリスト教に目覚めたかというと疑問ですが、「近頃政府の政事益たたす、国家益みだれ、物価益高登し、万民益困窮いたし候、さて国の有様かくなりしは、全く教のたたずして、国人神の道を知らさるより然らしむるとそんし候、嗚呼国のしか成りませしに、無理おしに兵を練り船を造る共、欧羅巴各国には敵しがたし」と、精神の覚醒なくして国家の改造はなしえないとの思いを吐露しています。この思いこそは、楠公の精神に己の身を捧げんとした志につうじるもので、時代を覚醒せしむる精神の器を求める旅をなさしめたのです。
 密航の船中で漢訳聖書を学び、「ロビンソン・クルソー」を読むことで、造物主たる唯一の神を強く自覚した新島は、船主ハーディ-の庇護を受け、Joseph Hardy Neesima、と称し、日本を救済するヨセフになる意思を表明し、Joseph-襄と名乗りました。アンドーヴァー神学校附属教会で洗礼を受け、アマースト大学に学び、アンドーヴァー神学校に進み、牧師となり、日本宣教の任を受け帰国。
 キリスト者新島襄は、御一新前夜の1867(慶応3)年3月、父新島民治にアメリカにおける生活の様相、アンドーヴァーで学ぶ日々を報じ、「天上独一真神の道を修め」ていること、「天上独一の真神全家を恩顧し、悪事災難を禦き、かつ日々の食物を賜ひ、其上以前に犯したる罪を御ゆるし被下」と、「主の祈り」を教え、この祈りを「御となへ候得は、此神喜んで必らす其の祈祷を御聞き未来の冥福を被下候事必定に御座候。扨此神の事は逐々小子帰郷の後仔細に可申上候」と、キリスト者たる己の世界を説き聞かせています。まさに新島七五三太は、新島襄となることで、日本の改造がキリスト教による覚醒でしか為しえないとの思いを宣言したのです。


◆ニコライ-Ioan Dimitrovich Kasatkin Nikolai(1836-1912)

1861(文久元)年箱館着。日本全国にハリストス正教を伝道、その日記には伝道で訪問した各地の民情が記されています。全国布教の拠点となる会堂を東京お茶ノ水に建設、ニコライ堂の呼称で東京名所となる。『宣教師ニコライの全日記』全9巻 教文館(2007年)
ヨセフは、創世記37-50章に記された物語の主人公。

三菱一号館美術館名品選2013 ― 近代への眼差し 印象派と世紀末美術

 19世紀末のパリは、成熟する都市の大衆文化とともに版画芸術が花開いた時代であり、多くの画家=版画家たちが互いに影響し合いながら、様々な技法とスタイルによる個性豊かなオリジナル版画を生み出していきました。とりわけ石版画(リトグラフ)技法は、画家自身が描いた線を石の板にそのまま写し取って大量に複製できるため、芸術作品をより身近なものにしました。パリの歓楽街モンマルトルのダンス・ホール「ムーラン・ルージュ」のポスターや、「ジャヌ・アヴリル」「メイ・ベルフォール」など、モンマルトルのスターたちを宣伝するポスターを制作したアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは、浮世絵から影響を受けた大胆な構図と色使い、簡潔かつ斬新なデザイン性によって、それまで広告に過ぎなかったポスターを芸術の域にまで高めていると言えます。

 ロートレックと同様にパリに生きる人々を主題にしつつ、よりフラットで均一な色の面の効果をさらに追求したのが、フェリックス・ヴァロットンの木版画でしょう。スイスで生まれ、パリで活動したヴァロットンは、ナビ派の画家の一人に数えられますが、その木版画は白と黒のみを用いた独特のスタイルを有しています。ヴァロットンの木版画には、彼特有の風刺的なユーモアが存在すると同時に、現代のわれわれが見ても色あせないデザインセンスが感じられます。このほかにも、ナビ派のピエール・ボナールやモーリス・ドニ、象徴主義のオディロン・ルドンら19世紀末の重要な作家たちによる版画コレクションからは、当時の版画芸術の興隆と広がりを見て取ることができるでしょう。

(三菱一号館美術館 学芸員 杉山菜穂子)

 

<展覧会情報>

  • 三菱一号館美術館名品選2013 ― 近代への眼差し 印象派と世紀末美術
  • 2013年10月5日(土)~2014年1月5日(日)

展覧会概要

  • ルノワールら印象派、そしてルドン、ロートレック、ヴァロットン。19世紀末パリを中心に、美術史上大きな変革期を生きた29人の画家たちの、夢と理想、自由の輝きに満ちた149点の三菱一号館美術館所蔵品を展覧します。

三菱一号館美術館ico_link

  • 所在地 東京都千代田区丸の内2-6-2
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 月曜休館(但し、祝日の場合は開館し、翌火曜休館/12月24日は18時まで開館)/12月28日(土)~2014年1月1日(水・祝)

<次回展覧会予定>

  • ザ・ビューティフル ― 英国の唯美主義1860-1900
  • 2014年1月30日(木)~5月6日(火・祝)

その他、詳細は三菱一号館美術館Webサイトico_linkでご覧ください。