中学校 美術
中学校 美術

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
1.基礎データ
題材・単元名 |
感覚的アプローチによる鑑賞と分析的アプローチによる鑑賞 |
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時間数 |
1時間 |
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題材・単元の |
鑑賞の学習が表現の学習と関連しながら相互に影響し合える学習内容にしていくことが大切である。本校では3年間の鑑賞題材を系統的に位置づけ、表現と鑑賞の一体化を図りながら鑑賞学習を展開している。感覚的アプローチや分析的アプローチの手法によって得た学習課題を、生徒一人ひとりが価値意識を持って発表し合うことで共通点や差異などに気づくことや、新たな発見から導かれる認知活動によって創造的思考力が刺激されることで、創造的活動へと結び付いていくのではないかと考えている。 |
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授業環境 |
活動環境 |
美術室またはPC教室など |
人数 |
教師1名 生徒34名 |
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教材や用具 |
教師:電子黒板(BIG PAD:シャープ)、タブレット(iPad:アップル) |
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コンピュータ |
使用デジタル教材 |
提示型デジタル教材『みる美術』 |
OSバージョン |
Windows7 |
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教材や用具 |
電子黒板(BIG PAD)、タブレット(iPad) |
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その他 |
ネットワーク環境、タブレット学習システム (STUDYNET、STUDYTIME:シャープ) |
2.活用事例および展開
①ねらい
表現と鑑賞の学習は美術科の目指す感性や創造性の育成を支える両輪としての役割がある。その中でも鑑賞の学習は、造形的に表現されたものを視覚的に捉え、そのよさや美しさ、作者の心情や考えなどを感じ取り味わう活動である。見たことや感じたことを直観的、感覚的に捉える感覚的鑑賞に加え、作品を構成している造形要素を分析し、作者の表現意図や工夫などを学習する分析的鑑賞は、まさに探究心が核となる鑑賞学習の手法である。
「見ること」とは、視覚を通して得た情報を脳が処理し解釈する活動であり、日常生活ではこのことは無意識におこなわれているが、美術では形や色、材質などの造形的な面から意識的に見ることを通して視覚情報を整理、分析し、解釈することである。これが「見て考えること」である。この「見て考えること」は鑑賞の活動だけでなく、表現活動も含めたすべての造形的な活動を支える美術科の学習の基礎となると考えている。
表現や鑑賞の幅広い活動を通して、「ものの見方や感じ方」から得られる想像力や発想力、「どのように表現するか」という構想・構成力、「色・ 形・材料」で表現するための技能など、美術の基礎的な力を伸ばしながら、創意工夫したり試行錯誤したりする中で「自分が望む価値」を総合的にまとめ上げていくことが大切であり、本校美術科の授業づくりの核となるものである。美術の学習に取り組んでいくことを通して、心豊かな生活を創造していけるような力を身につけて欲しいと考えている。
②『みる美術』利用の意図
絵画作品の鑑賞では、作品に込められた作者の思いを感じ取ることや、絵画表現の多様性について理解するとともに、鑑賞の活動を通して造形的な感覚や判断力、造形的言語を養いながら、体験的に造形美術に関わる知識理解を高めることが大切である。これまでの鑑賞の授業では、教科書や資料集に掲載されている図版、カラーコピーやカラープリントによる限られた大きさの図版による授業が中心であった。また、掛け図などの大判の図版を使っても、黒板の位置からでは教室の後ろ側の生徒には何が描かれているのかを読み取ることが難しく、十分な鑑賞活動ができるとは言い難い。そこで今回は、掲示型のデジタル教材『みる美術』を使い、電子黒板とタブレットを活用して、教師と生徒が双方向で授業を展開できるように試みた。タブレットの拡大機能を活用することで画面に描かれたものをじっくりと鑑賞し、何が描かれているのかについて読み解きながら、作者がこの作品に込めた思いなどを感じ取ることや、生徒同志でお互いに感じたことや考えたことについて発表し合うことで、多視点的な見方や考え方、感じ方に気づき、より深く作品を鑑賞できるようにした。また、感じたことや考えたことなどを友達に説明することでイメージの言語化を図ることができると考えた。
③評価について
美術への関心・意欲・態度
・美術作品に関心を持ち、その世界を楽しめるようにする。
鑑賞の能力
・美術作品をじっくり鑑賞し、感覚的に味わい、分析的に見ることによって、作者が作品に託した思いや秘密に迫ることで美術の世界の楽しさを実感する。
・知識をもとに判断し、想像や推理を生かしながら、絵の世界を探究する楽しさを味わう。
④指導計画
学習活動の流れ |
指導上の留意点、評価方法 |
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「感覚的アプローチによる鑑賞方法」 「分析的アプローチによる鑑賞方法」 |
<留意点> <評価> |
3.本時の展開
①目 標
・美術作品に関心を持ち、鑑賞の活動を通して、その作品の世界を楽しむ。
・美術作品を感覚的に味わったり、分析的にじっくりと鑑賞したりする活動を通して、作者が作品に託した秘密に迫りながら美術の世界の楽しさを実感する。
・知識をもとに判断したり、想像や推理を生かしながら、絵の世界を探究する楽しさを味わい、自分の感じたことや考えたことをワークシートにまとめたり発表したりする。
②『みる美術』を活用した授業の展開
主な学習活動・内容 |
教師の指導・評価の留意点 |
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導入10分 |
・タブレット配布。 |
・鑑賞したことをワークシートに記述させることで、自分の思いや考えを整理し明確にさせる。 |
展開 |
・作品を鑑賞(分析的鑑賞)し、画面に描かれていることを詳しく読み取りワークシートに記述する。 |
・分析的アプローチによる鑑賞の視点を示す。 |
■タブレットの活用① □タブレットに書いたことを電子黒板に送る。 |
【発問例】 |
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・友達の回答を確認しながらもう一度画面をじっくりと見る。 |
■電子黒板の活用① |
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・作品から読み取ったことをお互いに発表する。 |
【発問例】 |
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・作品から読み取ったことをお互いに発表する。 |
【発問例】 |
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■タブレットの活用② □タブレットに書いたことを電子黒板に送る。 |
【発問例】 |
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・友達の考えを確認しながらもう一度画面をじっくりと見る。
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■電子黒板の活用② |
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まとめ 10分 |
・ミレーは「なぜこのような作品を描いたのか」。作品に込めた作者の心情や意図、表現の工夫など、今日の授業を通して、自分の思いや考えをまとめる。(時間があれば発表しお互いの考えを知る。) |
・本時の鑑賞の活動では、タブレットを活用し、図版の全体→図版の細部→図版の全体というように、作品全体から受ける印象や特徴を大切にしつつ、細部の詳細な観察を通した分析的アプローチの手法から、新しい発見や気付き、作者の表現意図の推理など、鑑賞の活動が「探究する楽しさ」を持っていることを体験的に理解できるようにする。 |
③指導のポイント
・感覚的アプローチからの鑑賞方法で、作品を生徒が自由に観察し、様々なことを発見させて味わわせることにねらいを置き、また一方では、分析的アプローチによる鑑賞方法で作家研究などを通して美術作品の背景を探り、文化理解を深めたりすることや、造形言語や造形要素などの知識が深まるなど、この二つの鑑賞方法の授業が効果的に構成されることで、より高次元の鑑賞学習となることが期待できる。
・『みる美術』を活用することで、鑑賞作品の図版全体を鑑賞することや、タブレットを活用することで、見たい部分を自由に拡大することができるので、それまで気づきにくかった様々なものが見えてくる。例えば、そこに描かれている具体的なもの、筆のタッチ,色彩表現など、生徒自身で様々な発見をする楽しみを味わわせながら授業に取り組ませることができる。
・電子黒板を活用することで、生徒がタブレットに書き込んだ情報を生徒全体で共有しながら授業を進めることができる。お互いが感じたことや考えたことなどを発表し合うことで、共通点や相違点があることに気づき、相互交流を図りながら様々な価値観を理解させたい。
4.感想等
教科書や資料集に掲載されている図版や、カラーコピーやカラープリントなどによる図版を用いたこれまでの鑑賞の学習では、生徒が図版を鑑賞しながら、教師の発問に答えたりワークシートへ記述したりといった活動が中心であった。今回の実践では電子黒板とタブレットを活用したことで、生徒が自分の鑑賞活動に合わせて作品を鑑賞出来るようになった。また、ワークシートもあくまでも鑑賞の活動を補助するような形で活用するようにしたことで「よさや美しさを感じ取り味わう活動」がじっくりと取り組めるようになったと考える。
これまでのワークシート中心の授業では、生徒一人ひとりの鑑賞活動を教師は読み取ることは出来たが、生徒がお互いに他者がどのような見方や考え方をしているのか、自分の見方や考え方、価値意識と比較しながらで捉える活動が希薄であったことが挙げられる。今後もさらに、ワークシートの形式や教師の発問の内容とタイミングなど、各学年の発達段階に応じた工夫について考えていきたい。