Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.04

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.04 “スリランカの小学校におけるESDワークショップ ―ゴミ・アート作品づくりを通したSELの実践―”を追加しました。

スリランカの小学校におけるESDワークショップ ―ゴミ・アート作品づくりを通したSELの実践―

 「この地球上で、なぜ人間だけがゴミを生み出してしまうのでしょうか。」
 2020年2月、スリランカ中部のペラデニヤ郊外にある小村の小学校の校舎にこんな問いが響き渡り、子どもたちの屈托のない笑顔が真剣な眼差しへと一変しました。
 私たちの研究室では、スリランカにおける「公立学校を拠点とした資源循環型コミュニティのモデル形成事業」が独立行政法人国際協力機構(JICA)による草の根技術協力事業(草の根協力支援型)として採択され、具体的な可能性を現地で探ることとなりました。プロジェクトではゴミ問題の解決に向けた「変化の担い手」となる「グリーン・ユース」を育み、公立の小学校が持続可能な社会のモデルになるように支援することが目指されます。グリーン・ユースを育む「楽しい学び」のデザインには慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)の大川恵子教授の研究室にご協力をいただき、プロジェクトを進めています。
 先日、このプロジェクトを本格的に始動させるための事前準備として、筆者らはスリランカに足を運びました。その際、村の小学生を対象に「ゴミの一生涯」を考えるワークショップを地元のペラデニヤ大学大学院およびKMDの大学院生と協働で行いました。
ゴミの分別を考える子どもたち はじめに6人ほどのグループに分かれて学校敷地内のゴミ拾い。プラスチック製のお菓子の包装やビニール袋、紙類、葉っぱや木の枝、大きい空き缶など、子どもたちはありとあらゆるゴミを求めて、学校中を駆け巡ります。その結果、筆者たちの予想をはるかに超える量のゴミが集まりました。
 次に拾ってきたゴミの分別作業。「生ゴミ」「紙」「プラスチック」の3種類について説明をし、それぞれに分別をしました。中には、3種の分別に当てはまらないゴミもあり、議論をする場面も見受けられました。続いて、分別をしたゴミの中から気になるゴミ、またはお気に入りのゴミをグループで1つ選び、そのゴミの一生を考えるワークに移ります。
子どもたちが制作した作品とワークシート 各グループに1枚、選んだゴミにインタビューをするためのワークシートが配られます。ワークシートには、ゴミの名前、年齢や出身、子どもたちが拾った場所にいた理由、将来の夢を問う5つの質問を準備しました。子どもたちはゴミをワークシートの中心に置き、〈ゴミの声〉に耳を傾け、仲間と共にワイワイガヤガヤと対話をしながらワークシートを埋めていきます。
 今度はゴミに命を吹き込みます。目玉をつけると、「ゴミ」は「キャラクター」に生まれ変わりました。制作に励んでいるとき、子どもたちはゴミに目をつけたことによって命が宿ったことを感じ取ったのか、画用紙や紙粘土を使い鼻や口、手足までをも夢中になって作っている姿が印象的でした。
 興味深いことに、完成したキャラクターの多くは、悲しい顔をしていたり、涙を流していたりしました。これは子どもたちがゴミの感情にまで思いを馳せていたということの現れと捉えることもできるでしょう。
作品を手にする子どもたち ワークショップの最後には冒頭にあるように、「この地球上で、なぜ人間だけがゴミを生み出してしまうのでしょうか。」と子どもたちに問いかけました。子どもたちも、また我々もそれぞれがこの問いと向き合い、次回集ったときにお互いの考えを共有することを約束しました。
 近年、ユネスコが刊行するESD関連の資料でもSEL(社会性と情動の学習)が強調されるようになりました。今回のワークショップでの学びは、地球規模課題にもつながるゴミという問題について知識だけでなく情動を駆使して表現し、それを仲間と共有した学びであったといえます。知識に加えて情動でも世界を捉える学びは地球規模課題が深刻化する現代社会において、ことさらその重要性が帯びてくるでしょう。

問いが生まれる知識の構造~バンコク調査報告(2)~

 「私たちは、何を根拠にどれが芸術で、どれが芸術でないと判断しているのか」。国際バカロレア教育においてこのような問いが生まれる背景には、独特の知識の捉え方があります。大学入学前の生徒を対象としたディプロマプログラムの、中核となる必修用件であるTOK(Theory of knowledge)を通して見ていきましょう(※1)

知の理論TOK

 TOKは「知識の理論」「知の理論」などと訳されています。知識とは、簡単に言えば「私が知っていること」や「みんなが知っていること」です。
 自分の経験や感覚を通して知っていることもあれば、科学のように遠い所で組み立てられた知識もあります。数学のように世界共通のものもあれば、歴史や倫理のように住んでいる国で価値観が違うものもあります。宗教のように哲学的だったり、芸術のように独自性が大切にされたり、知識はいろいろです。
 TOKでは、このような表面的な「知識の内容」については重視しません。そのかわり「知識について考える」ことを重視します(※2)

贋作は芸術か?

 具体例で考えてみましょう。
 例えば、芸術の世界には贋作という問題があります。古い顔料を使い、巧妙につくられた贋作を見分けることは専門家でも難しいことです。1割から4割が贋作のまま流通しているという推計もあります(※3)。美術館に贋作が収蔵されているかもしれないのです(※4)
 有名な贋作者にトム・キーティングがいます。数千点もの見事な贋作で、彼は一躍有名になります。テレビ番組にまで登場し、そのテクニックを披露します。その結果、コレクターや有名人がキーティングの作品を集め、彼の贋作は現在数百万円とか……(※5)
 さて、ここまでは「知識の内容」です。ここから「知識について考える」ために問いが必要となります。
 まず、芸術に関する問いです(※6)

  • もし、同じ題材で、まったく同じ絵を描いたら、どのような理由で、片方の絵の価値がもう一枚の絵の価値よりも高くなるのだろう。
  • 社会はどのようにして、どの芸術家を尊重し、どの芸術家を無視するのかを決めるのだろう。

 トム・キーティングの描いたレンブラントの贋作と、レンブラント自身の絵の違いは、知覚的に判別が可能でしょうか。トム・キーティングよりレンブラントが尊重されるのは本当に公正なことなのでしょうか。作品の値段は何を根拠に生まれるのでしょう。
 さらに、芸術を離れて問いが立てられます(※7)

  • 私たちの信念を正当化することの重要性は、知識の領域によってどのように異なるのだろうか。
  • 私たちはどの程度まで、証拠の質ではなく証拠の量によって説得されるのだろうか。

 芸術で正当性を確かめるやり方を科学で用いることは可能でしょうか。証明するための証拠の量は多ければ多いほどよいのでしょうか。
 このような問いに対し、生徒は芸術や科学の発展の歴史を調べ、自分の知覚や感情を確かめ、あるいは専門家の意見などを参考にしながら考えていくのです。

知識の構造を問う

図1 このように、TOKは「知識そのもの」よりは、知識の成り立ちや特徴など、「知識の向こう」を問います。図で考えれば、芸術という知識そのものは問わず(図1:矢印1)、芸術を成立させる枠組みや芸術という知識を得る方法などを問うのです(図1:矢印2)(※8)
図2 同じことは、数学でも科学でも言えるはずです。そこで、図1を数学や科学などに置き換え、それぞれの領域を重ね合わせてみましょう。すると、表面には数学や芸術という領域的な知識が並び、その奥には共通する知識の構造が現れます(図2)。まるで脳のような形です。
 おそらく、TOKは、知識そのものではなく、自分の中にある(同時に共有されている)知識の構造を問う力を身に付けようとしているのでしょう。そうだとすれば、TOKは、学問の領域をこえて「共有された脳」を獲得する学習と呼べるのかもしれません。
 4月から小学校で始まった学習指導要領の完全実施。図画工作や美術などを単体で捉えるだけでなく、カリキュラム全体で考えるカリキュラム・マネジメントが求められています。バンコク調査を通して、今一度、知識や学びの仕組みを見直してみようと思った次第です(※9)

※1:本稿は泰日協会学校(バンコク日本人学校)で行われた協議会資料をもとに、新たに書きおこしたものです。
※2:Sara Santrampurwala他著 田原誠 森岡明美訳「知の理論」国際バカロレア(IB)スキルと実践 オックスフォード出版局(2016)p.5
※3:同上書p.24及び 「有名絵画は「偽物」、放射性炭素年代測定で判定」(2014.2.7) https://www.afpbb.com/articles/-/3007932
※4:「衝撃の鑑定結果 収蔵品の60%が偽物 南仏の美術館に打撃」(2018.4.30) https://www.afpbb.com/articles/-/3173052
※5:『トム・キーティング』 https://en.wikipedia.org/wiki/Tom_Keating 及び トム・キーティング他、滝口進訳『贋作者』新潮社(1979)
※6:前掲書1 p.24
※7:前掲書1 p.25
※8:図1は、TOKで知識を検討する際に用いられる「知るための方法(知覚、感情、理性、想像、記憶、直感、言語等)」や「知識の枠組み(範囲・応用、方法論、発展の歴史等)」をもとにイメージした図であり、厳密なものではありません。
※9:本稿は美術教育における国際バカロレア教育の研究者である横浜国立大学の小池研二教授の監修を受けています。

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