学び!とESD

学び!とESD

スリランカの小学校におけるESDワークショップ ―ゴミ・アート作品づくりを通したSELの実践―
2020.04.15
学び!とESD <Vol.04>
スリランカの小学校におけるESDワークショップ ―ゴミ・アート作品づくりを通したSELの実践―
安齋 麻友子(永田研究室大学院生)

 「この地球上で、なぜ人間だけがゴミを生み出してしまうのでしょうか。」
 2020年2月、スリランカ中部のペラデニヤ郊外にある小村の小学校の校舎にこんな問いが響き渡り、子どもたちの屈托のない笑顔が真剣な眼差しへと一変しました。
 私たちの研究室では、スリランカにおける「公立学校を拠点とした資源循環型コミュニティのモデル形成事業」が独立行政法人国際協力機構(JICA)による草の根技術協力事業(草の根協力支援型)として採択され、具体的な可能性を現地で探ることとなりました。プロジェクトではゴミ問題の解決に向けた「変化の担い手」となる「グリーン・ユース」を育み、公立の小学校が持続可能な社会のモデルになるように支援することが目指されます。グリーン・ユースを育む「楽しい学び」のデザインには慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)の大川恵子教授の研究室にご協力をいただき、プロジェクトを進めています。
 先日、このプロジェクトを本格的に始動させるための事前準備として、筆者らはスリランカに足を運びました。その際、村の小学生を対象に「ゴミの一生涯」を考えるワークショップを地元のペラデニヤ大学大学院およびKMDの大学院生と協働で行いました。
ゴミの分別を考える子どもたち はじめに6人ほどのグループに分かれて学校敷地内のゴミ拾い。プラスチック製のお菓子の包装やビニール袋、紙類、葉っぱや木の枝、大きい空き缶など、子どもたちはありとあらゆるゴミを求めて、学校中を駆け巡ります。その結果、筆者たちの予想をはるかに超える量のゴミが集まりました。
 次に拾ってきたゴミの分別作業。「生ゴミ」「紙」「プラスチック」の3種類について説明をし、それぞれに分別をしました。中には、3種の分別に当てはまらないゴミもあり、議論をする場面も見受けられました。続いて、分別をしたゴミの中から気になるゴミ、またはお気に入りのゴミをグループで1つ選び、そのゴミの一生を考えるワークに移ります。
子どもたちが制作した作品とワークシート 各グループに1枚、選んだゴミにインタビューをするためのワークシートが配られます。ワークシートには、ゴミの名前、年齢や出身、子どもたちが拾った場所にいた理由、将来の夢を問う5つの質問を準備しました。子どもたちはゴミをワークシートの中心に置き、〈ゴミの声〉に耳を傾け、仲間と共にワイワイガヤガヤと対話をしながらワークシートを埋めていきます。
 今度はゴミに命を吹き込みます。目玉をつけると、「ゴミ」は「キャラクター」に生まれ変わりました。制作に励んでいるとき、子どもたちはゴミに目をつけたことによって命が宿ったことを感じ取ったのか、画用紙や紙粘土を使い鼻や口、手足までをも夢中になって作っている姿が印象的でした。
 興味深いことに、完成したキャラクターの多くは、悲しい顔をしていたり、涙を流していたりしました。これは子どもたちがゴミの感情にまで思いを馳せていたということの現れと捉えることもできるでしょう。
作品を手にする子どもたち ワークショップの最後には冒頭にあるように、「この地球上で、なぜ人間だけがゴミを生み出してしまうのでしょうか。」と子どもたちに問いかけました。子どもたちも、また我々もそれぞれがこの問いと向き合い、次回集ったときにお互いの考えを共有することを約束しました。
 近年、ユネスコが刊行するESD関連の資料でもSEL(社会性と情動の学習)が強調されるようになりました。今回のワークショップでの学びは、地球規模課題にもつながるゴミという問題について知識だけでなく情動を駆使して表現し、それを仲間と共有した学びであったといえます。知識に加えて情動でも世界を捉える学びは地球規模課題が深刻化する現代社会において、ことさらその重要性が帯びてくるでしょう。