校務のICT化とインクルーシブ教育

 前回、前々回と2回にわたって、インクルーシブ教育システムの構築に関連して児童生徒のICTの活用の意義について記しました。今回は学校の「校務」に関連する「ICT環境」の整備についてインクルーシブ教育の視点から考えてみたいと思います。

校務におけるICT環境の現状

 「GIGAスクール構想」の実現に向けて4800億円余りの国費が投入され(令和元年、2年度)、児童・生徒が使用する端末の整備や校内通信ネットワークの整備が着々と進められています。
 他方で統合型校務支援システム(*1)の導入による校務のICT活用も大きな課題となっています。しかし、こちらのシステムの整備率は、令和2年3月1日時点で学校全体の64.8% (前年57.5%)(*2)に留まっていて、導入が進んでいるとは言えない現状にあるようです。

インクルーシブ教育システムを念頭に置いた統合型校務支援システム整備への期待

 「校務面でのICT環境の充実は、教員の業務負担軽減だけでなくインクルーシブ教育システム構築の観点からもしっかり対応していくことが望まれます。このことは、「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」(*3)でも、以下のように言及されています。

(校務のICT化)
○ 特別支援教育におけるICT利活用において、特に課題となるのは、校務のICT化である。まず、特別支援教育の支援や指導の基本となる個別の教育支援計画や個別の指導計画がICTを介して学校内外で的確に共有することが困難な事例が少なくない。その背景としては、その内容について関係者間の連携が不十分な上に、これは、校務系の情報システムの基盤である統合型校務支援システムにおいて、特別支援教育に配慮したシステムが形成されていないことも一つの理由であると考えられ、こうしたシステムの未整備が、切れ目ない支援に向けた関係機関間の必要な情報の共有を難しくしている側面もあるとされる。今後、特別支援教育においても、より統合型校務支援システムを活用した情報の作成・管理が行われるよう、例えば、都道府県やシステムの開発業者に対して、特別支援教育に配慮したシステム開発を促していく必要があり、個別の教育支援計画の項目の標準化が必要との指摘も踏まえ、今後、文部科学省において、速やかにその参考となる資料を示すなど、支援を進めていく必要がある。

 小学校・中学校の通常の学級には、発達障害等があって配慮が必要とされる児童生徒が6.5%在籍していると言われています。こうした様々なニーズのある児童生徒については、個別の指導計画を作成して対応することになっていますし、関連機関等と連携して一貫した支援をするために「個別の教育支援計画」を策定して対応することにもなっています。このことは、小学校及び中学校学習指導要領「総則」に明示されているのですが、こうした取り組みを含めてインクルーシブ教育に関連する業務が統合型校務支援システム上で体系的に行えるようになれば、情報の一元管理・共有の充実が期待できますし、教師の負担軽減にもつながっていきます。

学校や保護者、関係機関での情報共有のためのICT環境の整備

 インクルーシブ教育システムの構築が進んでくると、これまで特別支援学級や特別支援学校への就学が適切と判断されていた児童生徒が通常の学級に在籍する事例も増えてくるものと想定されます。例えば、「動ける医療的ケア児」があげられます(*4)。「医療的ケア」というと、障害が重篤で専門家でなければ対応できないと思われていましたが、医療の進歩により、「気管切開児だが、知的、運動面に問題はない」という「動ける医療的ケア児」が増えています。こうした子どもたちは、障害者手帳に当てはまる項目はなく、療育手帳交付の対象でもありません。しかし、気管切開があることで健常者とも言い難い、いわば健常と障害の狭間にあると言えます。現状では、就学の場の選択にも苦労していますが、通常の学校への就学が進んでいくものと推察されます。「医療的ケア児」については、すでに厚生労働省によって、「医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS:Medical Emergency Information Share)」(*5)が整備されているのですが、こうした子どもたちの学校生活を支えるためには、学校や保護者、医療等の関係機関との連携が不可欠であり、学校教育においても、適切な情報共有ができるようなICT環境の整備を進めていくことが望まれます。

障害当事者の教師へのメリット

 また、障害当事者の教師にとっても、校務におけるICT環境の整備は、情報活用の面で大きなメリットがあります。学校教育分野での障害者の活躍の観点からも、校務遂行に必要とされる環境整備が期待されます。統合型校務支援システム設計の段階でこうした配慮がなされることは、「障害者権利条約」の理念にも叶うことです。こういうことが丁寧になされてこそ、内外に「インクルーシブ教育の構築に向けて積極的に取り組んでいる」と胸を張ることができるのではないでしょうか。

*1:校務におけるICT活用促進事業
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1408684.htm
*2:文部科学省「令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【確定値】」
https://www.mext.go.jp/content/20201026-mxt_jogai01-00009573_1.pdf
*3:「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」
https://www.mext.go.jp/content/20210208-mxt_tokubetu02-000012615_2.pdf
*4:厚⽣労働省「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報告書」、令和2年3 月
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000653544.pdf
*5:厚生労働省「医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS)について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12204500/000652672.pdf

福島市を創る高校生ネットワークの誕生①

1.啐啄同時

 2018年4月、福島市の中学生だった生徒チームは全員高校生となり、活動の再スタートを切ることになりました。札幌新陽高校の生徒たちとの交流で刺激を受けたリーダーたちは「自分たちの力で何か新しいことを始めたい」と言いますが、大学生も入って話し合いをしても同じところをぐるぐる回るだけで、なかなか話を先に進めることができません。しかし、この機を逃すまいと考え、コアメンバーに大人の考えを提案することにしました。
図1 全員が高校生になって久々の再会 私が生徒たちに取り組ませたいと考えたのは、高校生フェスティバルでした。高校生フェスティバルと言えば「愛知県高校生フェスティバル」が有名で、高校生の感覚で楽しいさまざまなイベントを展開しつつ、高校生たちの主張を市民にアピールしていくというもので、30年以上の伝統があります(後にここともつながることになります)。2年生のリーダーの一人に「高校生フェスティバルをやったらどうか」提案すると、「私も福島市の高校生文化祭みたいなことを考えていた」と言います。大人が生徒にやってもらいたいことと、生徒自身がやりたいことが見事に一致し、これまでの滞った空気が一気に消え去りました。
 ヒナが卵からかえるときに内側から殻をつつき、親鳥が外からつついてかえるのを助けることを「啐啄(そったく)同時」と言います。生徒と大人が課題を共有する上で、この「同時性」はとても重要だと思います。

2.生徒中心か、教師中心か

図2 活動の中身を話し合う 探究活動やPBLを考えるときに、常につきまとうのが「生徒中心か、教師中心か」という永遠の課題です。一般的には、教師中心というのは古い考え方で、新しいやり方は生徒中心で行くべきだと認識される傾向が強いと思います。文字通り、生徒丸投げで教師は見守るだけ、生徒たちだけでやり遂げたから「楽しく元気にやっていた、主体的にやったのでよかった」と短絡的に考えられてしまうか、もしくは生徒たちが想定外のことをやり出して、「そこまでやっていいとは言わなかった、やりすぎだ!」と生徒たちとぶつかってしまい、やはり教師が主導するしかないと修正することになります。
 この、「生徒か、教師か」という問題は、考え方によっては、学校だから生まれてくる問題ということもできます。課題の答えは教師と生徒のいずれかが持っていて、答えを持っている側が主導すべきという考え方です。学校の中では答えは必ずどこかにあるということが前提となりますが、現実社会の中では答えを誰かが持っているとは限らず、むしろないことがほとんどです。つまり、生徒と大人が協力して答えを探さなければならないのです。この、「生徒か、教師か」を乗り越える視点が「社会構成主義」という教育観です。詳細は別の章に譲りますが、自由度が高まるPBLなどを考えるとき、この社会構成主義の視点は非常に重要です。「どこまで生徒が、どこまで教師が」という、生徒と教師のバランスの問題ではないと思います。

3.「福島市を創る高校生ネットワーク」の誕生

図3 高校生の力で福島市を盛り上げるには 高校生フェスティバルをチームに提案すると、全員が賛成してくれました。ただ、自分たちでやりたいことを楽しくやるというだけではなく、これまでやってきた、震災の風評被害を乗り越え自分たちの町を活性化させることを目的にやろうということになります。それなら新しくチームを作って、市民にアピールする方が効果的ではないか、ということになり、「福島市を創る高校生ネットワーク(F-city Creators Network、FCN)」が誕生します。福島市をF-cityとしたのは、福島の頭文字「F」から始まるさまざまなキーワード(例えばFreshやFriendlyなど)を自由にイメージし、福島市の姿を描き出そうとしたからです。
図4 徐々に課題が見えてきた 福島市は、全国のどこにでもあるような特徴の弱い街と言えます。彼らが中学生のときに福島市の観光ツアーを企画しましたが(vol.17「地域課題に挑む生徒たち②」参照)、そのときに福島市の魅力は何か、メンバーが同級生に尋ねたところ、ほとんどの回答が「ない」「わからない」というものでした。福島市の外の人たちに福島市を紹介しようとしても、何を話したらいいかわからないという人がほとんどでした。町に魅力が少ないのなら、自分たちで魅力を発見する、さらに自分たちで魅力を創り出すことがこの「FCN」の目的となりました。
 3年前に市内の二つの中学校の20人から始まった福島市チームの活動は、彼らが市内の15の高校に進むことによって、市内のほとんどの高校をつなぐネットワークができました。彼らがそれぞれの高校で仲間を広げ、FCNの会員を増やし、高校生フェスティバルに発展させることができるのではないか、期待がふくらんでいきました。

機関誌・教育情報:「その他の教育資料」No.54

機関誌・教育情報:「その他の教育資料」No.54 “【私の実践レポート】端末導入で変わる授業の「カタチ」” を追加しました。