Webマガジンまなびと:「学び!とESD」Vol.29

Webマガジン:「学び!とESD」Vol.29 “ホールシティ・アプローチの展開 ~ドイツ・ハンブルク市の取り組み~”を追加しました。

ホールシティ・アプローチの展開 ~ドイツ・ハンブルク市の取り組み~

ESD先進都市~ハンブルク~

 ドイツ北部に位置する自由ハンザ都市ハンブルク(*1)(以下、ハンブルクと表記)は、ドイツ最大の港街であり、国際会議や見本市も開催されるなど、工業とサービス業の重要な中心地です。ハンブルクでは、持続可能な社会の実現に向けた様々な取り組みが続けられています。こうした活動が評価され、ハンブルクは、2019年にユネスコ学習都市に関するグローバルネットワーク(UNESCO GNLC:Global Network of Learning Cities)のメンバーとなりました(*2)。さらに、同年にESDグローバル・アクション・プログラム(GAP)のキーパートナーにも指定されています。今回は、持続可能な社会を目指してESDを街全体で推進しているドイツ・ハンブルクの取り組みを紹介します(図1参照)。ハンブルクの取り組みは、持続可能性について街や市全体で実現していく「ホールシティ・アプローチ」の活動そのものです。

図1.ハンブルクにおけるESD(*3)(出典:ハンブルク市作成資料より筆者訳出)
https://www.hamburg.de/contentblob/13946516/a47014acbe1d83f1364fd0b64f052fcc/data/vortrag-1-hamburger-masterplanbne-ralf-behrens-bue.pdf ](2022年5月3日閲覧、以下同じ)

街全体で持続可能性を学び実現していく~HLNの存在~

 ハンブルクには、ESDの活動や団体(アクター)が集まる大きなネットワークが存在しており、その中心的な役割を担っているのが「HLN」(Hamburg lernt Nachhaltigkeit)「ハンブルクは持続可能性を学ぶ」という自治体と市民との共同イニシアティブです。HLNは、2005年にハンブルク政府により設立され、ESDに取り組む行政当局、様々な施設、団体、ネットワーク、個人等を構成員とする団体です。多岐にわたる関係者が連携し、市全体で持続可能性に取り組む実践が評価され、HLNは2019年のユネスコ/日本ESD賞(*4)を受賞しています。HLNに見られる行政と市民のこのようなネットワークは、ドイツ国内だけでなく世界中の自治体のモデルとなっています。

ハンブルク・マスタープランESD 2030

 2021年9月ハンブルク市は、2030年に向けて「ハンブルク・マスタープランESD 2030(Hamburger Masterplan BNE 2030)」を策定しました(以下、マスタープランと表記)。この計画は、2017年から2019年にかけて作成され、139名もの人々が計画策定に関わりました。そのうち、省庁・学校・大学といった公的な機関からは49名、教会・財団・連盟・NPO・保育施設といった様々な領域の市民が関わる団体からは90名が集結しました。このマスタープランでは、教育によってハンブルクを持続可能な社会にしていくことが目指されています。この計画文書は全体で44ページにわたり、幼児期から生涯にわたるあらゆる場面で、ESDを学び実践するためにどのような対策を講じていくかについて具体的に提示されています。教育分野を「幼児教育」「学校教育」「職業教育」「高等教育」「学校教育以外の学び(außerschulische Bildung)」「地域での学び」という6つに分けて、それぞれの分野におけるESD推進に関する目標と目標達成に向けた具体的な対策がまとめられています。

図2. ハンブルク・マスタープラン ESD 2030表紙(出典:ハンブルク市ホームページより)
https://www.hamburg.de/contentblob/15185278/1330dfec0260370d6eb591789abc5dd0/data/masterplan-bne.pdf

 マスタープランでは、各教育分野において、複数の行動フィールドが設定され、それぞれのフィールドにおける目標と目標達成に向けた具体的な対策が示されています。例えば、1つ目の教育分野である「幼児教育」では、行動フィールドが5つ示され、フィールドごとに目標と対策に関する説明が続きます。ハンブルクでは、2012年に改訂された「ハンブルク州教育計画」(Hamburger Bildungsempfehlungen für die Bildung und Erziehung von Kindern in Tageseinrichtungen)の中に、すでにESDに関する記載が盛り込まれています。しかし、教育計画に文言として記載するだけでなく、より実践レベルで子どもたちの生活と関連づいた形でESDを展開していくために、マスタープランでは、教育計画、教員研修、園運営における持続可能性などについてさらなる目標と具体的な対策が掲げられています。なお、「ハンブルク州教育計画」は、日本の幼稚園教育要領等にあたるもので、州内の幼児教育施設を対象とした法的な拘束力を持った文書です。

ESDをチャンスに!~教育現場や地域社会の課題解決へ~

 ドイツ・ユネスコ国内委員会によって2014年に出された資料には、教育の現場や自治体レベルにおけるESDの捉え方として次のような考え方が示されています。

  • ESDは重要なチャンスを提供する。
  • 教育は「現場で」だけでなく「現場のために」行われることで、地域の社会構造に直接影響を及ぼす。
  • 「自治体はESDのために何ができるか」ではなく、「自治体のためにESDは何ができるか」が第一に問われている。
  • 自治体の政治戦略や開発戦略にESDを結びつけることは、自治体が持つ喫緊の課題の解決に向けた重要な視点やチャンスとなる。

 つまり、教育現場においても、地域社会においても、課題解決に向けてESDが提示するアイディアを活用するという考え方がはっきりとあらわれているといえるでしょう。ESDのために、教育現場や地域が存在するのではなく、私たちの教育現場や地域をよりよいものにしていくために、ESDを活用していくという発想の転換が、行政や教育などあらゆる場面で市民生活全体に広がっていくことで、ESDは新たな価値を生み出す可能性を持っているのではないでしょうか。
 今回紹介したハンブルクの取り組みからは、教育によって、自分たちの地域を環境的にも社会的にも経済的にもよりよいものにしていくという気概が感じられます。コロナ禍も完全に収束する見通しがまだ立っていないところに、ウクライナ危機が勃発したことにより、地球の将来になかなか希望を持てない社会情勢が続いています。ウクライナ危機を受けて2022年4月に、ハンブルク市はウクライナの首都キーウ市と「連帯と未来のための協定」を締結し、人道的支援を行っています。持続可能な社会には、平和と公正が全ての人に保障されていることが重要な要となります。これまでのハンブルクのホールシティ・アプローチの実践からも、教育は決して無力な営みではないことが示唆されています。このような社会情勢にあるときだからこそ、教育によってできることを足元から探していきませんか。

*1:ハンブルク市は、行政区画上単独で州(都市州)となっています。なお、ドイツは連邦制国家であり、各州に大きな権限が委ねられています。
*2:この国際的なネットワークは、持続可能な社会の構築を生涯学習を通じて実現していくことを目指し、ユネスコ生涯学習研究所が中心となり、学習都市の国際的なプラットフォームとして構築されました。
*3:訳注:BNE(Bildung für nachhaltige Entwicklung)は、ESDのドイツ語表記。
*4:ユネスコ/日本ESD賞は、2015年より日本政府の財政支援のもとユネスコにより創設されました。2019年は、国際審査の結果115件の候補案件から、HLNとボツワナ、ブラジルの3団体に同賞が授与されました。

【参考文献】

「火事からくらしを守る」(第3学年)

1.単元名

「火事からくらしを守る」(第3学年)

2.目標

 火災から地域の安全を守る働きについて、消防署などの施設や設備の配置、緊急時への備えや対応などに着目して、見学・調査したり地図などの資料で調べたりしてまとめ、関係機関や地域の人々の相互の関連や従事する人々の働きを考え、表現することを通して、関係機関は、地域の安全を守るために、相互に連携して緊急時に対処する体制をとっていることや、関係機関が地域の人々と協力して火災の防止に努めていることを理解できるようにするとともに、主体的に学習問題を追究・解決し、学習したことを基に火災から地域や自分自身の安全を守るために自分たちにできることなどを考えようとする態度を養う。

3.評価規準

○知識・技能

消防施設・消防設備などの配置、緊急時への備えや対応などについて見学・調査したり地図などの資料で調べたりして、必要な情報を集め、読み取り、関係機関や地域の人々の諸活動を理解している。

調べたことを関係図や文などにまとめ、消防署などの関係機関は地域の安全を守るために、相互に連携して緊急時に対処する体制をとっていることや、関係機関が地域の人々と協力して火災の防止に努めていることを理解している。

○思考力・判断力・表現力等

施設・設備などの配置、緊急時への備えや対応などに着目して、問いを見出し、関係機関や地域の人々の諸活動について考え、表現している。

連携・協力している関係機関の働きを比較・分類したり、結び付けたりして、関係機関や地域の人々の相互の関連や従事する人々の働きを考えたり、火災から地域や自分自身の安全を守るために自分たちにできることを選択・判断したりして、適切に表現している。

○主体的に学習に取り組む態度

火災から地域の安全を守るための働きについて、予想や学習計画を立てたり、学習を振り返ったりして、学習問題を追究し、解決しようとしている。

学習したことを基に、火災から地域の安全を守るために自分たちができることなどを考えようとしている。

4.本単元の指導にあたって

①単元の導入の工夫
 児童にとってあまり身近な問題ではない「火災」について関心をもたせるために、実際の火災の動画や火災を経験した人の話を導入で提示する。その後、火災に対する現段階でのイメージを共有するために、Googleフォームに火事に対するイメージや動画を見た感想などを記入させ、スプレッドシートで共有する。その際、児童の記入内容を「AIテキストマイニング」のサイトを活用し、ワードクラウドを作成して児童に提示すると、児童の火災に対する怖さや思いが視覚的に捉えられ効果的である。

実際の授業で児童の書き込みを活用して作成したワードクラウド

②消防署見学活動の記録
 消防署などを見学し、実際に現場で働く消防士の話を聞いたり、消防活動の設備や器具を見学したりすることは、児童にとって重要な学習活動である。コロナ禍で実際の見学が難しい場合は、オンラインでの見学をお願いすることも可能である。
 また、見学の様子を動画で撮影し、Googleクラスルームなどに投稿しておくことで、児童がいつでも見られるように工夫をした。そうすることで、児童が学習問題について調べていく過程で、実際の消防士の話や消防署の様子について、調べた内容を動画でいつでも確認することができ、児童の調べる意欲にもつながる。

5.単元の指導計画

学習のねらい

○学習活動 ◆問い ・児童の反応

①火災から地域の安全を守る活動に関心をもち、学習問題を立てる。

(本時)

○火事の動画や写真、火事にあった人の話から、火災の恐ろしさについて話し合う。
・思い出までも奪ってしまう。こわいものだ。
・火災でこうなるのはこわい。起こしたくない。

○足立区の火災発生件数や全焼件数の経年推移を調べて気付いたことを話し合う。
◆足立区ではどのくらい火災がおきているのだろう。
・火災の発生件数はだんだん減っている。
・どうやって発生件数を減らしているのかな。
・全焼件数が大きく減っているのはなぜだろう。
○火災件数や全焼件数が減少している理由を予想する。
・早く火を消すために、消防士は訓練している。
・地域で防火訓練をしているのを見たことがある。
・消防署では、現場に早く駆けつけるための仕組みや工夫があるのではないか。
○学習問題を立てる。

火事から町や人々を守るために、だれがはたらき、どのようなくふうをしているのだろう。

②学習問題に対する予想から、学習計画を立てる。

○予想に基づいて調べたいことを考え、記述する。
○調べたいことを分類・整理し、学習計画を立てる。
・消防署の人はどうやって火を消すのか。どんな工夫があるのか。
・火を消すために、学校や地域など、私たちの身の回りにどんな施設や設備があるのか。
・火事を防ぐために取り組んでいることはないか。

③消防署の活動について知り、消防署見学で調べたいことをまとめる。

○火災発生時の消防署の活動(出動・消火活動等)について、写真や映像を手がかりに話し合う。
◆消防署では早く消火活動をするためにどんな活動や工夫をしているのだろう。
・出動まで何分かかるのか。
・どんな車両があり、それぞれどんな役割があるのか。
・どのようにして火を消しているのか。
・早く消すために心がけていることは何か。
○見学で知りたいことを出し合い、まとめる。

④⑤消防署を見学し、火災への備えや対応に着目して調べる。

○通信指令室を中心とするネットワーク、関係機関との相互連携について調べる。
◆消火活動をするために、消防署以外の人たちとは、どのように関わっているのだろう。
・警察署に交通整理をお願いしている。
・水道や電気、ガス会社にも連絡している。
・消防団にも消火活動をお願いしている。
・消火をするために消防署以外にも多くの人が関わり合っている。
○従事する人の勤務体制や待機の仕方、訓練について調べる。
○その他、前時の学習までに出た疑問や調べたいことについて、消防署の人にインタビューをする。
◆消防署の人たちは、どのような願いをもち、どんな工夫や努力をしているのだろう。

⑥校内や地域における施設・設備について調べる。

○校内の防火設備を調べる。
◆学校の中には、どこにどんな消防設備があるのだろう。

○学区地域の施設や設備について調べ、地図にまとめる。
◆学校のまわりには、どこに、どんな消防施設があるのだろう。
・町の中には消火栓がたくさんある。
・学校のプールの水を使うこともある。
・どこで火事になっても困らないように、まちの中に設備が広がっている。
○日頃から消防署がこれらの施設・設備を点検していることについて知る。

⑦関係機関や地域の人々の火災予防活動について調べる。

○地域や関係機関における防火活動を調べる。
○消防署と消防団がどのように連携・協力して、火災の発生に備えたり対応したりしているかを調べる。
◆火災を防ぐために、消防団や地域の人たちは、どのような活動をしているのだろう。
・消防団の人は自分の仕事の合間に訓練などをしている。
・地域でも防災訓練が行われているよ。
・住宅用火災警報器など、身近なところにも火災を防ぐための物があるんだね。
・火事を防ぐために地域の人や消防団の人が協力し合って活動しているんだね。

⑧調べたことを関係図に整理し、学習問題の結論をまとめる。

○消防署・消防団や町会・区役所等の関係機関について、調べてわかったことを関係図にまとめる。
◆火事から私たちを守るために、だれがどのような働きをしているのだろう。
・消防署だけではなく地域のみんなが火災を防ぐために協力している。
・私たちも火事を防ぐために協力したい。
○学習問題についてまとめる。

⑨学習したことをもとに火災予防について自分たちにもできることを考える。

○火災の主な原因を調べる。
・たばこの不始末やガステーブルなどが原因なんだ。
○地域の安全を守るために自分たちができることを考え、伝え合う。
◆火事や火事による被害をもっと少なくするために、自分や家族、地域にできることはどんなことだろう。
・消火器の使い方を知っておくことが大切だ。
・火事が起きないようにみんなに呼びかけたいな。
・地域の消防団に協力できないかな。
○今までの学習を振り返り、地域の安全を守るために自分たちができることを考え、「火事0せんげんポスター」にまとめる。

6.本時の学習

①目標
 火災から地域の安全を守る活動に関心をもち、学習問題を立てる。

②学習展開

○主な学習活動・内容
◆問い ・児童の反応

指導の工夫と教師の支援

資料

○本時のめあてを確認する。

□単元名「火事からくらしを守る」を板書し、児童が学習の方向性をつかめるようにする。

資料をもとに話し合い、学習問題を立てよう。

○火災の動画や被害にあった人の話を読み、火災に対するイメージを共有する。
・火事はこわい。命や大切なものをうばってしまう。
・思い出もなくなってしまう。

□資料から火災によってどのような被害が生じるのかを発問する。
□Googleフォームに投稿された児童の意見をスプレッドシートにして共有できるようにする。
□AIテキストマイニングを使い、児童の考えをワードクラウド化で可視化する。

◎火事の動画や写真
◎火事にあった人の話

○足立区の火災発生件数や全焼件数の経年推移を調べて気付いたことを話し合う。
◆足立区ではどのくらい火災がおきているのだろう。

◎足立区内の火災発生件数
◎足立区内の全焼件数

・火災の発生件数がだんだん減っている。
・どうやって発生件数を減らしているのかな。
・全焼件数も30年前と比べて大きく減った。
・全焼件数が大きく減っているのはどうしてなのだろう。

□「火災件数」も「全焼件数」も減少傾向であることを押さえる。
□「全焼」の言葉の意味を説明する。
□「減っている」のではなく、何らかの努力により「減らしている」ことに気付かせる。
□「火事を減らす工夫」「火事の被害を減らす工夫」に焦点化していくよう板書を工夫する。

○火災件数や全焼件数が減少している理由を予想する。(グループ→全体)

□班ごとにJam boardの付箋に、予想される火事や火事の被害を減らすための取り組みについて書くよう指示する。

◎写真資料(全国火災予防標語ポスター、消防車点検、消防士の訓練、消火器訓練)

◆火事を起こさないためや火事を早く消すために、どんな工夫や取り組みをしているのだろう。
・早く火を消すために、消防署では訓練している。
・地域で防火訓練をしているのを見たことがある。
・現場に早く駆けつけるための仕組みや工夫があるのではないか。

□児童の生活経験だけでは、予想できない場合は、写真資料を読み取らせ、火事に対する様々な備えや取り組みについて考えるよう助言する。
☆Jam boardの記述や発言内容から「火災の際に安全を守るための関係機関や人々の働きに着目して、問いを見出しているか」を評価する。【思-①】

○児童の考えをもとに学習問題を設定する。

□児童が予想した、火災や火災の被害を抑えるための取り組みを確かめるためには、どんな学習問題にしたらよいのかを考えるよう、助言する。

学習問題
火事から町や人々を守るために、だれがはたらき、どのようなくふうをしているのだろう。

○本時の学習を振り返る。

□「ふりかえりシート」の視点に沿って振り返るよう指示する。

振り返りの視点
①内容について(わかったこと、わからなかったことなど)
②今日の学び方について
③次の学習に向けて
④これからの生活に生かしたいこと