情報の科学 アルゴリズムとプログラム(第1学年)

※この実践記録は2021年3月28日に執筆されたものです。

1.はじめに

 全日制普通科高校の本校は、1学年4クラス(うち総合科学コース1クラス)で全校生徒460名である。教科「情報」は、第1学年で「社会と情報」と「情報の科学」を開講しており、総合科学コースが「情報の科学」を履修している。
 総合科学コースの生徒は3分の2程度が男子生徒で、明るく元気な生徒が多い。また、グループワークや実習を積極的に取り組む生徒が多い。一方で、座学のみの授業になると集中力の持続が難しい。また、3分の2程度の生徒はタイピング速度が遅く、コンピュータ操作が苦手である。
 アルゴリズムについて中学校で学習した生徒は3分の1程度であり、フローチャート記号の意味や使い方を理解していない生徒が多くいた。順次・反復・分岐のアルゴリズムの基本構造を理解し、フローチャートを記述できるようにしたいと考え、この授業を実施した。

2.単元名

「アルゴリズムとプログラム」(実施学年:第1学年)

3.単元の目標

  • フローチャートやアルゴリズムの基本構造について理解する。
  • 問題文に合わせてアルゴリズムをフローチャートで記述する。
  • アルゴリズムに合わせてプログラミングができる。
  • プログラミングを問題解決に生かす方法を理解する。

4.単元の評価規準

ア 知識・技能

イ 思考力・判断力・表現力

ウ 学びに向かう力・人間性

・身近な手順をフローチャートで表現すことができる。
・フローチャートやアルゴリズムの基本構造について理解している。
・簡単なアルゴリズムのプログラムを作成できる。

・フローチャートで表された処理手順の意味を読み取ることができる。
・フローチャートとプログラムについて、それぞれの対応を考えられる。

・興味をもって、体験的な学習や授業に積極的に取り組んでいる。
・アルゴリズムとプログラムについて関心を持っている。
・グループでの活動に積極的に参加している。

5.単元の指導と評価の計画

(ア:知識・技能/イ:思考力・判断力・表現力/ウ:学びに向かう力・人間性)

学習内容

学習活動

評価の観点

評価の方法

1

アルゴリズムとフローチャート

身近な手順をもとにアルゴリズムの考え方とフローチャートの書き方を理解する。

行動観察
ワークシート

2

アルゴリズムの基本構造

フローチャートやアルゴリズムの基本構造について学び、簡単なプログラムを考える。

ワークシート

3

基本構造とプログラム

順次・反復・分岐の構造をもとに表計算ソフト(VBA)を利用してプログラムを作成し、実行する。

ワークシート

4

基本構造とプログラム

順次・反復・分岐の構造をもとに表計算ソフト(VBA)を利用してプログラムを作成し、実行する。

ワークシート

5

プログラムの作成

手順に従ってプログラム(VBA)を作成することにより、問題解決について学ぶ。

行動観察
ワークシート

6.本時の目標【2限目】

  • フローチャートやアルゴリズムの基本構造について理解する。
  • フローチャートを用いて簡単なプログラムを考える。

7.本時の流れ【2限目】

時間

学習活動・内容

指導上の留意点

評価

導入
5分

前時の復習
・コンピュータ室のパソコンにログインする手順をフローチャートで記述する。

・教科書に記載されているフローチャート記号を参考にしながら記述させる。
・時間をかけなすぎないように注意する。

ウ 行動観察

本時の学習内容の理解
3つの基本構造を学ぶことを理解する。

展開1
10分

順次
・「おはよう」「こんにちは」「おやすみ」の順に画面にメッセージを表示するプログラムをフローチャートで記述する。

・上から下へ記述された順に処理を実行する「順次」を理解させる。

ア、イ
ワークシート

・練習問題に取り組む。

・時間があれば、練習問題を進めるように指示する。

ア、イ
ワークシート

展開2
15分

分岐
・30点以上であれば「合格」、それ以外であれば「不合格」と画面にメッセージを表示するプログラムをフローチャートで記述する。

・教科書の例題を利用して書き方をイメージさせる。
・条件により処理を選択する「分岐」を理解させる。
・定期考査では同様の処理を行っていることを説明し、身近な処理であることを意識させる。

ア、イ、ウ
行動観察
ワークシート

・他者とフローチャートを見比べ、違いを理解する。

・解答が複数あることを理解させる。

ウ 行動観察

・練習問題に取り組む。

・時間があれば、練習問題を進めるように指示する。

ア、イ
ワークシート

展開3
15分

反復
・数字が0から100になるまで、25ずつ数字を増やしながら画面に表示するプログラムをフローチャートで説明する。

・処理を繰り返し実行する「反復」を理解させる。
・25mプールで何回泳ぐと100mになるかを考えさせ、身近な処理を意識させる。

ア、イ、ウ
行動観察
ワークシート

・数字が0から1000になるまで、50ずつ数字を増やしながら画面に表示するプログラムをフローチャートで記述する。

・50mプールで何回泳ぐかを考えさせる。

まとめ
5分

学習目標の確認
3つの基本構造の理解度を確認する。

・理解度を計るためにFormでアンケートを作成し、配布する。

ウ 行動観察

8.まとめ

 多くの生徒はアルゴリズムとプログラミングに対して、「記号の意味が分からない」「中学校で分からなかった」「難しそう」などのマイナスなイメージを持っており、苦手意識が強かった。しかし、今回の授業でフローチャートの学習から段階を踏むことで、生徒は物事を整理して考えることができるようになり、最終的にはVBAを用いたプログラミングへと進むことができた。

 特に今回の授業では、次の点を心掛けた。①アルゴリズムと生活を関連させる。②考える時間を長くとる。プログラミング的な考え方が日常生活で、どのように役立つのかを時間をかけて生徒に考えさせることで、生徒の苦手意識が軽減されると考えている。
 今回の授業案は、文部科学省が提供している「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材(本編)」の第3章を参考に作成したものであり、令和4年度から実施される「情報Ⅰ」の中でも取り入れることができる。令和7年度から実施される大学入学共通テストに向けて、アルゴリズムの理解は非常に重要なことであり、時間をかけて丁寧に指導するべきであると考えている。

 生徒の評価では、ルーブリックと教育用クラウドサービスによるフォームを利用しており、その評価を成績の一部に取り入れている。教員はルーブリックを用いて生徒の活動を評価し、生徒は教育用クラウドサービスを利用したフォームで自己評価を教員へ送信している。GIGAスクール構想により教育用クラウドサービスの導入が進むことが予想されるため、有効な評価方法になると考えている。

【関連資料】

Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.46

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.46 “多文化共生と学校教育”を追加しました。

多文化共生と学校教育

1.はじめに

 今回は、外国人児童生徒の教育との関連で学校教育における多文化共生について考えてみたいと思います。近年、外国人児童生徒が増加傾向にあり、学校教育における多文化共生のあり方が問われています。国や文部科学省ではさまざまな施策を打ち出して外国人児童生徒の日本語教育や多文化共生の理解促進に努めています。しかしながら、共生社会の実現という観点からすると様々な課題も浮かび上がっています。
 特に、現実的な対応については、国としての外国人児童生徒の教育に関するガイドライン(*1)が示されているものの、それを実行する自治体の考え方や財政状況によって対応が異なっているという問題があります。予算や人的措置等の制約がある状況において、共生社会の実現という観点から学校を少しでも多文化共生の場としていくためには、教育分野内だけの閉じた空間での取り組みに留めることなく、広く専門的な蓄積のある関係機関等と連携して対応していくことも大切なことだといえます。
 国際協力機構(JICA)では、本務である国際協力を通じて得た知見を生かして「多文化共生・日本社会を考える」など多文化共生の理解啓発活動や学校における国際理解教育/開発教育を支援する様々な事業を行っています。2021年度からは「多文化共生の文化」 共創プログラムとして講演およびフィールドワーク、ワークショップを開催しています。2022年度は、国際理解教育/開発教育に関する授業実践や多文化共生に関するプログラムが実施され、その報告書が公表されています。この報告書には、学校が多文化共生に取り組む上で極めて有用な考え方が示されていて、実践事例や関連情報も満載です。
 そこで、今回は、外国人児童生徒への対応の現状を把握した上で、この報告書の概要を整理しておきたいと思います。

2.外国人児童生徒の増加

 平成2年6月に「出入国管理及び難民認定法」の改正が施行されたことなどにより日系人を含む外国人の滞日が増加するようになりました。それに伴って、外国人に同伴される子どもが増加し、学校教育においても多文化共生や日本語教育が大きな課題となっていることは周知のとおりです(*2)

 文部科学省では、こうしたことを契機に、平成3年度から「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」調査を実施しています。平成11年度までは隔年、同年度から平成20年度までは毎年度実施、平成20年度以降は隔年度(偶数年度)実施となっています。直近の調査は、令和3年度に実施されています。その結果によると、公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数は総数で58,307人(約10年間で1.8倍増)、うち日本語指導が必要な外国人児童生徒は47,619人(約10年間で1.8倍増)、日本語指導が必要な日本国籍児童生徒は10,688人(約10年間で1.7倍増)となっており、外国人児童生徒への対応が大きな課題になっていることがわかります(*3)

図1 公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数の推移(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、義務教育学校、特別支援学校
*2:『外国人児童生徒等教育の現状と課題』令和4年度文化庁日本語教育大会(WEB大会)より引用

3.外国人児童生徒等への教育の現状

(1)外国⼈児童⽣徒等への教育の現状と課題

 文部科学省では、外国⼈児童⽣徒等への教育の現状と課題を次のように示しています(*2)

⼊国・就学前
 約1万⼈が不就学の可能性があり、就学状況の把握、就学の促進が課題となっている。

義務教育段階
 ⽇本語指導が必要な児童⽣徒は約5.8万⼈。うち、特別な指導を受けられていない児童⽣徒が約1割存在している。指導体制の確保・充実、⽇本語指導担当教師等の指導⼒の向上や⽀援環境の改善、異⽂化理解、⺟語・⺟⽂化を尊重した取り組みの推進が課題となっている。

⾼等学校段階
 年間で6.7%が中退しており、⼤学等進学率は51.8%。中学⽣・⾼校⽣の進学・キャリア⽀援の充実が課題となっている。

(2)外国人児童生徒等教育等に関する主な施策

 こうした状況を踏まえて、文部科学省では、「外国⼈の⼦供たちが将来にわたって我が国に居住し、共⽣社会の⼀員として今後の⽇本を形成する存在であることを前提に、学校等において⽇本語指導を含めたきめ細かな指導を⾏うなど、適切な教育の機会が提供されるようにする」ために様々な施策を展開しています。詳細は文部科学省の資料をご覧いただきたいのですが、主なものとしては、以下のような施策が展開されています(*2)

就学状況の把握、就学の促進
⇒外国⼈の⼦供の就学促進事業(H27年度〜)
指導体制の確保・充実
⽇本語指導担当教師等の指導⼒の向上、⽀援環境の改善
異⽂化理解、⺟語・⺟⽂化を尊重した取組の推進
中学⽣・⾼校⽣の進学・キャリア⽀援の充実
⇒帰国・外国⼈児童⽣徒等に対するきめ細かな⽀援事業(H25年度〜)

 上記のほかに、⽇本語指導が必要な児童⽣徒等の教育⽀援基盤整備事業、帰国・外国⼈児童⽣徒教育等に係る研究協議会等の開催、児童⽣徒の⽇本語能⼒把握の充実に向けた調査研究なども含めて、体制整備や指導内容構築が勧められています。

(3)外国人児童生徒の特別支援学級在籍について

 以上見てきたように、外国人児童生徒の増大に伴って、国としても様々な施策を持って対応してきていることがわかります。しかし、施策で掲げている目的を達成するためには時間がかかります。
 近年の報道によると外国人児童生徒が特別支援学級対象として対応されるケースも少なくないという報道がなされています。2022年2月28日配信の日本経済新聞の記事には、「外国生まれなどで日本語が不得意な小中学生のうち5.1%が、本来は障害のある子らを対象とする特別支援学級に在籍していることが25日、文部科学省による初の全国調査で分かり」、「小中学生全体の割合(3.6%)の1.4倍で、日本語の指導体制が整わないため少人数の支援学級で学ぶケースも多いとみられ」と記されています(*4)。そうした具体的事例についても紹介されています(*5)
 特別支援学級への在籍は、「障害」があることを前提としており、外国人児童生徒の特別支援学級在籍率が全体の1.4倍になっているというのは不自然です。この記事が指摘しているように、指導体制の整備の遅れなどから、外国籍の子らが多く支援学級で学んでいるととらえるのが順当だと思われます。
 なお、この記事では、「文科省は21年6月、特別支援学級に入る基準を定める手引に『障害がないのに日本語指導のために支援学級に入れるのは不適切』と明記した。」と文部科学省の対応も紹介しています。
 こうした事態が生じている背景には、公立小中学校で日本語を教える体制が十分に整っていない事情があることだけでしょうか。筆者は「多文化共生」の文化が十分に学校に醸成されていないということも影響しているように感じています。令和3年1月の中教審の答申に「社会の多様化が進み,画一的・同調主義的な学校文化が顕在化しやすくなった面もある」(*6)という記述が認められるように、外国人児童生徒についても画一的な対応が困難なことからこれまでの学校文化に即して通常の学級ではなく特別支援学級での対応が望ましいという判断がなされたとしても不思議ではありません。
 学習指導要領には、「個人差に留意して指導し,それぞれの児童(生徒)の個性や能力をできるだけ伸ばすようにすること」(昭和33(1958)年学習指導要領)、「個性を生かす教育の充実」(平成元(1989)年学習指導要領等)等の規定がなされており(*4)、また、インクルーシブ教育システムの構築、さらには「多文化共生」の醸成という観点からも、「障害」のない外国人児童生徒についても通常の学級で学ぶという選択が自然のように思われます。
 「多文化共生」という課題に対応していくためには、これまでの学校文化を乗り越える戦略が必要かもしれません。そのためには、教育分野という閉じた空間内だけの対応では限界があるように思います。「多文化共生の文化」を構築していくためには、学校外の専門家や関係機関等とも連携していく姿勢が重要になってくるのではないでしょうか。

4.「多文化共生の文化」 共創とJICAの取り組みから

 こうした「多文化共生」という課題を支援する機関の一つとして国際協力機構(JICA)があります(*7)。ここでは、2023年にJICAが発行した「誰もが自分を発揮できる学校づくり~多文化共生アイディアBOOK 2022~」と題する報告書(以下、「アイディアBOOK」)から紹介します(*8)
 JICAは、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関ですが、現在約150の国・地域で国際協力を展開しており、こうした国際協力を通じて得た知見を生かして「多文化共生・日本社会を考える」など多文化共生の理解啓発活動や学校における国際理解教育/開発教育を支援する様々な事業を行っています。2021年度からは「多文化共生の文化」共創プログラムとして、専門家による講演およびフィールドワーク、参加者間のワークショップを開催し、学校教育をサポートしています。2022年度の活動では、国際理解教育/開発教育に関する授業実践や多文化共生に関する取り組み等を行っている全国の教員や教育委員会担当者が参加したプログラムが実施され、「アイディアBOOK」にまとめられています。
 「アイディアBOOK」には、学校が多文化共生に取り組む上で極めて有用な内容が参加者間で共有されています。例えば、学校において、多文化共生を推進するために大切だと思う項目については、参加者間で以下のような内容が共有されています。

  • 管理職との対話や他の教員との対話が大切。
  • 心理的安全が教員間にも必要。
  • 特別支援教育に関する研修によって、理解は深まってきた。その一方で、外国につながる生徒や多文化共生に関する研修はあまりない。教師が自分のスキルを磨くことだけでは限界がある。
  • 外部との連携が必要。学校だけで完結しようとせず、どこかに助けを求めることが大切。
  • 人間関係がとても大事。
  • 教員が余裕・余力を持つことが必要。

 また、参加者全員で「多文化共生の文化をつくる」というのはどのようなことか、キーワードを共有し3つのカテゴリにまとめ、そこに出てきた言葉から、共通認識を深め、次のようにまとめられています。

参加者が考える「多文化共生の文化づくり」

  • 「知る」という言葉には「知らせる」という意味もあると思う。では、「知らせる」場とはどこか。授業でも図書室でも、可能性はあるのではないか。
  • 多文化共生の取り組みにおける入口、そして出口を考えているが、出口から入る活動があってもいい。
  • 「多文化」というのが【当たり前化】する、つまり、【無意識に受入れられている状態】になっていること、習慣化されていることが「文化」ではないか。
  • 「平等」と「公平」の意味を認識すること。
  • 誰に対しても与えられる機会の平等だけではなく、結果の平等も考えること。

「文化」をつくるためにそれぞれが考える必要な視点・取り組み

  • 実生活において、考え方や行動にまで浸透していくことが大切。
  • 地域全体を考えると、小学校では実践が行われているのに中学校に入ったら何も機会がなかったということがないように、継続して学び続けられる仕組みを作る必要がある。
  • 学校によって「多文化共生」の目標が変わってくるということを忘れてはいけないと感じた。多文化=外国人などと一括りにはできないし、それぞれの文脈や課題も異なってくる。外部連携においてもその点を認識した上で、学校・教員がどう関わって連携していくかを考える必要がある。→外部機関に対し、学校が具体的なオーダーを行っていく必要がある。
  • 「多文化共生」についての取り組みは、同じ地域だとしても学校によって取り組まれ方が異なる。地域全体で将来を見据えて取り組んでいきたい。

「多文化共生の文化」をつくる上で外してはいけない視点

  • 平等→公正の視点への変容
  • 「多文化」は外国につながる人だけではなく、個々が持つ特性も含めた視点を持つこと。
  • 「多文化」を受入れるだけでなく、受入れられていることやその考え・行動が当たり前のように定着していること。

 また、参加者の学校や機関による「多文化共生の文化をつくるための活動アイディア」も掲載されていて、「多文化共生の文化」醸成の活動のヒントとなる情報を得ることができます。このアイディア集については次のような説明が付されています。

どのような取り組みをしていくことが「多文化共生の文化」の醸成に寄与していくのか、そのアイディアをまとめたものです。ユネスコの「ハッピースクール」の視点、そして外部連携という視点を踏まえ、授業だけではなく、学校全体として「多文化共生の文化」を実現するための様々なアイディアを考えていきました。その中には、既に実施している取り組みから効果的な内容を発展させたもの、本プログラムで得たインプットから、学校の現状を踏まえて今後進められそうなアイディアが含まれています。それぞれが目指す学校や地域像をもとに、学校が全体的に変容していくためにできる一歩は何かを考えたアイディアの中に、読者の皆様にとって参考になるものがあれば幸いです。

 さらに、巻末の「多文化共生のための参考文献・教材・資料リスト」が掲載されています、72点の文献等が紹介されていて、「多文化共生」をより深く知り、今後の活動を展開していくために役立ちそうです。

5.まとめ

 本稿では、外国人児童生徒が増加傾向にあり、学校教育における「多文化共生」の課題について取り上げました。令和3年1月の中教審の答申では、副題に「~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」とある(*6)ように、学校教育の質と多様性、包摂性を高め、教育の機会均等を実現することを示しています。学習指導要領も「個性を生かす教育の充実」へと舵を切っています。しかしながら、外国人児童生徒への対応については、特別支援学級在籍率が全児童生徒の比率を大幅に上回っているなど、苦渋の選択かもしれませんが、個の尊重よりも画一性を重視した対応がなされている実態もあることがわかりました。
 「多文化共生」については、国や文部科学省も様々な施策を打ち出して対応していますが、従前の学校文化では想定していなかった「多文化共生」を学校に根付かせるための環境整備には時間がかかります。また、「多文化共生」だけでなく、「インクルーシブ教育システムの構築」にも関わることですが、「公平」の要素を取り入れていくことで状況は変わってくることが期待できます。しかしながら、通常の学級ではまだまだ「平等」が優先されているように思います。
 今回紹介したJICAの取り組みは学校にさまざまな知見を提供し、こうした学校の弱みを見直す役割を担ってくれています。JICAだけではなく地域で活動しているNPO法人や支援団体など関係機関等とのパイプを太くして、それらの知見を活かしていくことが、学校における「多文化共生の文化」醸成の近道であるように思われました。

*1:『外国人児童生徒受入れの手引き』~外国人児童生徒の体系的かつ総合的な受入れのガイドライン~
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/1304668.htm
*2:文部科学省総合教育政策局国際教育課「外国人児童生徒等教育の現状と課題」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/taikai/r04/pdf/93855301_06.pdf
*3:日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/genjyou/1295897.htm
*4:NHK Web特集「日本人と外国人に“2倍”の差 いったい何が?」
2022年2月28日 17:00配信
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220228/k10013490711000.html
*5:日本経済新聞「日本語苦手な子の5%が支援学級に 全小中生の1.4倍」
2022年3月25日 17:00配信
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE2384T0T20C22A3000000/
*6:中央教育審議会「令和の日本型学校教育」の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと, 協働的な学びの実現~(答申)

https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_2-4.pdf
*7:JICAについて

https://www.jica.go.jp/about/
*8:独立行政法人 国際協力機構 (JICA)「誰もが自分を発揮できる学校づくり ~多文化共生アイディアBOOK 2022~」

https://j-gift.org/wp-content/uploads/2023/06/jica_tabunka_ideabook2023.pdf

Webマガジンまなびと:「学び!とPBL」Vol.68

Webマガジン:「学び!とPBL」Vol.68 “伝え合うことで成長する生徒たち(中学校でPBL②)”を追加しました。

伝え合うことで成長する生徒たち(中学校でPBL②)

 中学校における探究活動の実践を、前回に引き続き、福井市森田中学校(以下、森田中学校)の木下慶之先生の理科の授業を通して見ていきましょう。

1.体育館に太陽系をつくろう

 木下先生が提案授業で公開したのは、「太陽系とは何か」をテーマに、体育館に太陽系の縮小モデルをつくろうという学習活動でした。生徒たちは1班4名の7班に分かれ、前時までに1班ごとに興味のある惑星(水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星)を選択し、調査活動を行ってきました。本時では、各惑星班から1名ずつで構成された4つのツアーグループに編成して、100兆分の1の太陽系を体育館内に惑星モデルを置きながら設定しました。そして、ツアーのようにして仲間たちに担当する惑星についてポスターやレポート、図鑑をもとに紹介し合いました。学習活動の課題は「行ってみたい惑星はどこか」にしました。
 調査内容に個人差はあったものの、調査したことを自分なりに構成して、他者に発信したり、場をつくり出したりする学びの姿、生徒たちの資質・能力についても同僚たちと知ることができました。当日は、近隣の福井市森田小学校の教員や福井大学教職大学院の方々も参観し、体育館で80名程度のにぎやかな学習の場となりました。
 授業づくりで最も悩んだのは、これまでの流れに沿いつつも、みんなで解明したくなるようなワクワクするテーマ・課題が設定できないか、ということでした。
 準備では、教頭からは「ステージショーではなくて、フロアショーにしたいよね」「脳味噌に汗をかくような状況」という言葉をいただくほど、夜の職員室で授業の構想をじっくり聞いてもらい、校長や教務、図書館の司書まで協力してくれました。
 生徒たちの準備も予想以上に活発で、他者を意識して「伝えたいこと」「惑星の特徴」を吟味してまとめていました。

2.学びの場を楽しむ生徒たち

 体育館のスクリーンで太陽系を3Dで観察した後、縮尺をテーマに太陽と地球の大きさの比についてモデルを使って確認し、体育館内に太陽を中心にして、100億分の1の距離に惑星を配置していきました。いよいよ4グループに分かれて太陽系ツアーが始まります。
ツアーのプレゼンの様子
 火星を選択した班のミズキはロボットを開発することを将来の目標にしています。日頃から未来について関心を持っており、火星移住をテーマにして火星の特徴をレポートにまとめてきました。現在どのような研究がなされているのか、人が生活するために必要なことは何かを火星の環境や特徴をもとにまとめ、同じ班のメンバーとも共有して、当日のツアーのプレゼンに臨みました。各惑星から1名ずつ7名で1グループが構成され、順に案内していきます。

 翌日担任に提出するミズキの生活の記録には「自分の持っている火星の知識はすべて伝えることができました。本物の天体も観察してみたいです。」と書かれていました。他の生徒の記録で、「今までにない授業でとても楽しかったです。」「太陽系の星のことを知ることができました。」「3Dがとてもきれいでした。」といった記述が目立ちました。

3.雨の中の天体観測会

 本校の生徒玄関は西向きで、下校時に日没後の惑星が観察しやすいことから、天体望遠鏡をここに常設し、下校時に天体望遠鏡で惑星をのぞけるようにしました。これがきっかけとなって、学校で天体観測会を開催しようということになりました。12月26日には夕方に部分日食を見られるチャンスもあることから、福井自然史博物館の学芸員に相談し、助言をいただきました。3年生の理科係がポスターを作成し、3年生の生徒たちにアナウンスしました。3年生は受験を控えていましたが、年末の夜にもかかわらず30名の参加希望がありました。

天体望遠鏡で観測する様子天体観測会のポスター

 当日は残念ながら雨となりましたが、生徒たちは「雨でもやりましょう!僕ら行きますよ。」と開催を希望してきました。雨天プログラムを理科部会のメンバーで検討し、シミュレーションソフトを使った天体教室を開催することにしました。当日急遽参加できなくなった生徒もいましたが、保護者を含めて28名が参加しました。
 まずはT先生が、国立天文台のシミュレーションソフト「mitaka」(*1)や3Dメガネの活用方法を紹介しました。教頭は天体望遠鏡の使い方を紹介してくれました。
 生徒たちは理科の授業ノートを準備してきており、授業で取り組んだ太陽系ツアーや黄道十二星座(自分の誕生星座)について調査してきたことをテーマに他クラスの参加者と交流しました。ミズキは天体教室でも再び火星について紹介しました。
 ダイチとノリタカは、解散後「やはり本物が見たいですよね。」「次は入試が終わったら、僕たちが企画しますよ。」と伝えてきました。
 天体教室に参加できなかった生徒の中には「ベテルギウスが暗くなっていて、そろそろ超新星爆発するかもしれない。」と家族に天体についてレクチャーしていた者もいました。それを聞いたのは弟の1年生からで、彼は「先生!お姉ちゃんから聞きました。まだベテルギウス爆発していませんか。」と友人たちと廊下などで質問するようになりました。

天体教室の様子

4.単元のふり返りで

 これ以降も生徒がただ自分で理解するだけでなく、天文現象の仕組みを他者に解説することを意識し、単元ストーリーを大切にして学習を展開させていきました。仲間への説明で見方の違いを認識するような授業展開のデザインを心がけました。
 単元後の振り返りで、友人の力を借りて月の満ち欠けの仕組みを理解できたAさんが次のように述べています。「理解するまでが長かったけど、自分で説明して、考えを深めることができた。自分でもっと月について分かるようにがんばりたい。」彼の学びを支えた1班の生徒は「Aさんに太陽が南中する時間を説明したときが一番がんばりました。人に教えると、自分の考えもさらに深まっていくと感じました。」と記していました。
 この様子を撮影したビデオを学級全体で紹介すると、他の班の生徒たちが、「Aくんの6分に渡る挑戦もすばらしいし、それを一生懸命支える3人もすばらしいよね。」「こういう雰囲気の学年、学級って素敵だよね。」と評価しました。1班の生徒たちも、自分たちが取り組んできたことを客観的に認識し、自己評価するチャンスに結びついたと思われます。
 さらに、この様子を研究部のメンバーと共有し、全職員に提案授業を含む単元全体の過程を伝え、生徒たちの中で起こったエピソードを紹介し、その学びの姿を共有しました。研究主任から「森田中学校のキーコンピテンシーとして、4つの気(活気、根気、覇気、和気)をもとに各教科で実践を見直してみませんか? それを来年度の実践につなげていくことも考えてみましょう。」「来年度4月からの総合的な学習の時間の準備を今からしていきましょう。」などと提案がなされました。

*1:4次元デジタル宇宙ビューワー“Mitaka”
https://4d2u.nao.ac.jp/mitaka/