機関誌・教育情報:「教育情報」No.24

機関誌・教育情報:「教育情報」No.24 “[特集]学校経営への羅針盤” を追加しました。

「令和7年度版 中学校教科書のご案内」特設サイト:美術

「令和7年度版 中学校教科書のご案内」特設サイト:「美術」の内容解説動画に「所さんに聞いてみた! ショート版(教科書QRコンテンツより)」を追加、資料ダウンロードに「内容解説資料(別冊)/CHUBI Vol.01、Vol.02」を追加しました。

中学校 美術:「【中学美術】生徒が育つ!授業の工夫」第2回公開

中学校 美術:村上尚徳先生(元IPU・環太平洋大学副学長)と荻島千佳先生(横浜市立東山田中学校教諭)による全3回の動画コンテンツ「【中学美術】生徒が育つ!授業の工夫」の第2回「学びを深める声かけ」を公開しました。

トロトロ、カチコチ・ワールド「○○○の世界をつくろう」~ひらめきシート・カードを活用して~(第4学年)

1.題材名

トロトロ、カチコチ・ワールド「○○○の世界をつくろう」

2.学年

第4学年

3.分野

立体に表す・鑑賞する

4.時間数

6時間

5.準備物

児童: 身辺材、タオルや布、絵の具、接着剤など
教師: 液体粘土、板ダンボール、自然材、ペットボトル、身辺材、ひらめきシート・ひらめきカード(「10.指導の手立てと児童の様子」を参照)など

6.題材設定の理由

 本題材は、布や身辺材を組み合わせた形を液体粘土で固め、組み合わせた形から想像した世界を立体に表す創造活動である。液体粘土は石膏のように固まるが、乾燥が遅いため児童にも扱いやすい。また、絵の具を溶かし込んだり、乾燥後に着色することもできるので、表現の可能性が広がる材料である。さらに、立体に表現することで、高さ・幅・量・塊など多様な側面から捉えながら空間を楽しむよさがあり、児童の多様な創造性を引き出すことができる。
 そこで、本題材では液体粘土の特徴を生かし、液体粘土に浸した布と身辺材を組み合わせながら、感じたことや想像したこと、見たことから、表したいことを見付けたり、考えたりしながら、自分の思いを表現することをねらいとしている。また、児童の発想を促すために、導入時にはアニメーションや映画の一場面などの画像を鑑賞する活動を取り入れたり、表現活動中に活動が止まってしまっている児童には、材料と触れ合う時間をつくったり、「ひらめきシート」や「ひらめきカード」を活用したりして、児童の思いが十分に発揮できるようにした。

7.題材の目標

【知識及び技能】

  •  布を固めた形から想像を広げて表すときの感覚や行為を通して、形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じなどが分かる。
  •  液体粘土や身近な材料を適切に扱うとともに、前学年までの材料や用具についての経験を生かし、手や体全体を十分に働かせ、表したいことに合わせて表し方を工夫して表す。

【思考力、判断力、表現力等】

  •  布の形を変えたりいろいろな向きから見たりして、感じたこと、想像したことから、表したいことを見付け、形や色、材料の特徴などを生かしながら、どのように表すかについて考える。
  •  布を固めた形や身近な材料を組み合わせてできた作品の造形的なよさや面白さ、表したいこと、いろいろな表し方などについて、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を広げる。

【学びに向かう力、人間性等】

  • 進んで布を固めた形から想像を広げて表す活動に取り組み、つくりだす喜びを味わうとともに、形や色などに関わり楽しく豊かな生活を創造しようとする。

8.題材の評価規準

【知識・技能】

  •  布を固めた形から想像を広げて表すときの感覚や行為を通して、形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じなどが分かっている。
  •  液体粘土や身近な材料を適切に扱うとともに、前学年までの材料や用具についての経験を生かし、手や体全体を十分に働かせ、表したいことに合わせて表し方を工夫して表している。

【思考・判断・表現】

  •  形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じなどを基に、自分のイメージをもちながら、布を固めた形から想像を広げて表したいことを見付け、形や色、材料などを生かしながら、どのように表すかについて考えている。
  •  形の感じ、色の感じ、それらの組合せによる感じなどを基に、自分のイメージをもちながら、自分たちの作品などの造形的なよさや面白さ、表したいこと、いろいろな表し方などについて、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を広げている。

【主体的に学習に取り組む態度】

  • つくりだす喜びを味わい進んで布を固めた形から想像を広げて表す学習活動に取り組もうとしている。

9.指導計画(全6時間)

液体粘土の特徴を生かして、布や身辺材を使って立体に表す。(1/6、2/6)(90分)
表現しようとしている「○○○の世界」を発表し、中間鑑賞を通して、自他の作品の表現を造形的な視点で捉えてよさや面白さを見付ける。さらに、思いをより造形的に実現するために着色したり、必要な身辺材を組み合わせたりして、工夫を加える。(3/6、4/6)(90分)
表現したい「○○○の世界」を完成させる。また、作品鑑賞を通して、自他の表現のよさや面白さに気付き、自分の思いを造形的に表すよさを味わう。(5/6、6/6)(90分)

10.指導の手立てと児童の様子

①第1次(1/6、2/6)

ア 知識や経験を引き出す導入
 導入では、題材名の「ワールド」に着目させ、児童は、どんな世界を表現したいかを考えた。児童がこれまでそれぞれ獲得している知識や経験を引き出したり、広げたりするために、世界遺産やアニメーション、映画の一場面などの画像を鑑賞することにした。実際の風景だけでなく、アニメーションや映画の非現実的な画像を取り入れたことにより、児童は、「ワールド」が現実にある景色の再現を目指すものではなく、自分なりの世界を創造していくという活動のイメージをつかむことができた。

イ 発想の元となる構造物の製作
 導入で自分が表現したい「ワールド」をある程度イメージできた児童と、まだ思いを強くもてていない児童が混在している状態で、作品の原型を製作した。児童は、予め様々な形に切断されたダンボールの板を選び、その上に身辺材を組み合わせ、それを芯材にして、液体粘土に浸した布を掛けるなどして製作した。児童は、新たな材料体験を楽しみながら、布の大きさやしわの感じなどから、意図的だったり、偶然できたりした形をいろいろな方向から見て、想像を膨らませて表現活動への意欲を高めていた。このようにしてできた形を元に発想し、思いを明確にしていく児童の様子が多く見られた。

②第2次(3/6、4/6)

ウ イメージマップの活用
 第1次から1週間後の第2次では、液体粘土が固まり、それぞれの作品の原型と対話することから始まった。原型から表したい世界を発想し、思いを広げるために、イメージマップを活用した。児童は、自分の思いを中心にして、思い付いた事柄や形、色、イメージなどを自由に連想して書いていた。連想することにより、児童それぞれの物語や場面の設定ができていく様子が見られた。

エ 中間鑑賞
 原型とイメージマップを元に、グループでそれぞれが考えていることを伝え合う中間鑑賞を行った。友人が着目した造形的な視点や、それによる考えを聞き、感想を伝え合う中で、互いに新たな気付きや共感を得ることができていた。

オ 思いと表現との関係性を問う発問
 児童は、表現する中で形や色を感覚的に選択し、その意味については、深く考えていないことがある。そのため、児童に自分の思いを造形的に実現していくために、形や色を選択していることに気付かせることが重要になる。そこで、活動への児童の思いに共感し、表現を認めながら、思いと表現との関係性を認識しているか形成的に評価し、その思いと表現との関係性を問う発問を繰り返していくことを指導の中心とした。それにより、児童は、自らの表現を造形的な視点で捉え、思いと表現を関連付けて意味付けしながら活動に取り組むことができた。

③第3次(5/6、6/6)

カ 新たな発想につながる材料コーナー
 「共有材料コーナー」と、様々な形の発泡スチロール片や麻紐、自然材の小枝など児童が思い付かないような材質や形の材料を「こんなのもあるよコーナー」として設置した。児童は、自分で準備してきた身辺材を使いながらも、時折材料コーナーを覗いては材料を持ち帰り、様々な組合せを試して活動を進めていた。

共有材料コーナー「こんなのもあるよ」コーナー

キ 「ひらめきシート」と「ひらめきカード」の活用
 活動が止まってしまった児童に発想を促す手立てとして、「ひらめきシート」と「ひらめきカード」を作成した。ひらめきシートは各グループに1枚ずつ準備し、いつでも参考にできるようにした。それにより、児童が自発的に発想の手掛かりを探ることができる。「ひらめきカード」は、ひらめきシートをカードにしたものである。カードは、教師が持っていて、児童がどうしてもアイデアが浮かばず困ったときに、1枚ずつ引かせ、カードに書かれている言葉に従って考えてみるよう伝えた。児童はその視点をきっかけにして新たに発想し、思いを基にしてアイデアを広げていた。新たな視点によって生み出された表現のよさや面白さを感じ、自分なりに意味付けや価値付けをして、喜ぶ顔も見られた。

「ひらめきシート」…「ひらめきスイッチ大全」(知的創造研究会,2018,日本経済新聞出版)を参考に、図画工作科の活動内容に適した言葉を考え、筆者が作成したもの。

ひらめきシート
※クリック or タップでPDFが開きます。

「組み合わせてみよう」のひらめきカードを見ながら考えている様子。

ク 作品鑑賞
 作品が完成し、全体で作品鑑賞を行った。活動の中心となっていた思いや、思考したこと、言語活動の記述などを残してきたワークシートと作品を並べて置き、造形的な視点に着目しながら鑑賞活動をした。自分の感想を友人のワークシートに残し、自分の表現のよさも、たくさんの友人に見付けてもらうことにより、自らの創造性の発揮を実感し、表現するよさを味わっている様子が見られた。

11.実践を終えて

 児童の表現は、教師の想定をはるかに越えてそれぞれに広がり展開していった。「思ってもみなかった面白い作品ができた。」と喜ぶ顔が見られることがなによりも嬉しい。
 本実践では、活動が止まってしまった児童への手立てとして、「ひらめきシート」と「ひらめきカード」の活用を試みた。「ひらめきシート」と「ひらめきカード」を活用した児童は、31人中11名だった。そのうち、ひらめきのきっかけになったという児童は10人おり、「とりあえずやってみる」ことで、創造性を発揮させたり、思いとつなげたりすることに効果的であったという児童の様子が見られた。「ひらめきのきっかけにならなかった」と回答した児童は、使ってはみたものの、自分の作品との対話により、既に思いを表現することができていたことによる回答だった。これらのことより、「ひらめきシート」や「ひらめきカード」を使って、「とりあえずやってみる」ことは、発想を促すために効果的であることが分かった。一方、「とりあえず」だけの行為では、児童にとって意味のある表現はできず、思いをもって材料に関わりながら自分なりの工夫を加えた表現活動に、それぞれの価値を創造していくことが重要であることも分かった。
 したがって、「ひらめきシート」や「ひらめきカード」を初めから使って製作しようとしたり、活動全般を通して活用したりするのではなく、「思い」を大切にして、自ら思考し表現することを促した上で、思いがけない見方を提案するツールとして活用することが望ましいと言える。また、多様な視点で自らの表現を捉える見方や考え方は経験として身に付き、その後の表現活動や生活の中で生かされていくものだと考える。

Webマガジンまなびと:「学び!と共生社会」Vol.51

Webマガジン:「学び!と共生社会」Vol.51 “インクルーシブ教育の充実と地方自治体の動き(続)”を追加しました。

インクルーシブ教育の充実と地方自治体の動き(続)

1.はじめに

 前回、インクルーシブ教育に関する地方都市の動向を巡って、国立市のインクルーシブ教育への取り組みを紹介しました。インクルーシブ教育への対応については、文部科学省としては特別支援教育のシステムを維持しつつ、引き続きインクルーシブ教育システムの推進に努めるという姿勢を堅持していますが、国連の委員会の勧告に沿った形でインクルーシブ教育を進めようとしている地方自治体が出てきていることの一端として取り上げたものです。
 全国を俯瞰すると、こうした方向に舵を切る、あるいは舵を切ろうとしている自治体が他にもあります。前回の続編として今回も、そうした自治体の中から神奈川県海老名市、北海道根室市の動きを取り上げてみたいと思います。

2.神奈川県海老名市の取り組み

 この3月22日に、神奈川県海老名市教育委員会(伊藤文康教育長)と神奈川県教育委員会(花田忠雄教育長)がインクルーシブ教育の推進に向けて連携する協定を結びました(*1)
 海老名市は、インクルーシブ教育に積極的に取り組んでいます。市が策定した教育大綱には、「しあわせをはぐくむ教育」のまち海老名として、5つの柱のもと、次のような文言が記されています(*2)

私たちは「ひびきあう教育」の理念のもとに

  • こどもたちひとりひとりの
  • 家庭・学校・地域の「しあわせ」のために

「誰ひとり取り残さない教育」をめざします

 5つの柱のうちの一つには、「包摂性の高い教育的・社会的支援の推進」という文言が掲げられています。その中で、インクルーシブ教育の推進として、「個別の教育支援計画の作成等を通じた教育的ニーズの適切な把握のもとに、すべての子どもたちひとりひとりの多様性に対応した、学びやすい環境、わかりやすい授業、安全で安心できる居場所を目指します。」と記されています。
 他方、神奈川県は、県として以前からインクルーシブ教育の推進に力を入れ、公立高校での「インクルーシブ教育実践推進校」の取り組みなどを進めてきています(*3)。「インクルーシブ教育実践推進校」というのは、「誰もが大切にされ、いきいきと暮らせる『共生社会』をめざして、知的障がいのある生徒が高校で学ぶ機会をひろげながら、みんなで一緒に過ごすなかで、お互いのことをわかりあって成長していくことを目標にしている高校」ということです。神奈川県では、「知的障がい」のある生徒の進路を特別支援学校に限定することなく、インクルーシブ教育のレールに載せていこうとしていることが伝わってきます。
 背景にこうしたそれぞれの取り組みがあることを知ると、海老名市と神奈川県が連携を深めて、今回の協定締結に至ったということがよく理解できます。
 県と市は今後、協定書に基づいて、海老名市内でのインクルーシブ教育の実現に向けた研究・企画、実践や普及・啓発などで連携を深め、本年度中に推進会議(仮称)を立ち上げ、インクルーシブ教育に関する情報交換や具体的な実施事項などについて協議し、決定していくということです。
 また、神奈川県の黒岩知事の考えも新聞等で報道されています(*4)

 「なぜ神奈川県はインクルーシブ教育に積極的なのか?」「自閉症や発達障害といった脳神経の多様性を個性として積極的にとらえる『ニューロダイバーシティ』の考え方に関心を持たれているのはどうしてですか?」という問いに対して、黒岩知事は次のように答えています。

 神奈川県は「当事者目線の障害福祉」を掲げ、憲章や条例を策定しています。「ともに生きる社会かながわ憲章」と「神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例 ~ともに生きる社会を目指して~」です。
 これらが制定されたきっかけは、今から8年前、2016年7月に起きた県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」で起きた痛ましい事件です。19人の命が奪われた。それも元職員によって。理由は「意思疎通が図れない人間は生きている意味がないから」という理解し難いものでした。私にとって大変ショックな出来事で、「障害者とともに生きる社会の実現」を県政の最優先事項にしたのです。

 また、「日本の教育は均質な人を作ることに専念してきた」という側面がありますが、それに対して、「均質的な普通を目指すことが標準、という考え方は、非常に危ういと私は思います。なぜなら、そこに普通と、普通ではない、の分断があるからです。その延長線上に、悲惨な津久井やまゆり園事件があったのかもしれない。」とも述べています。

 やまゆり園の惨事を深く洞察し、「普通と、普通ではない」を切り分けてきたことの反省に立って、インクルーシブ教育を推進する方向が導き出されていることが伝わってきます。
 海老名市の伊藤文康教育長も、「『すべての子どもたちが、住んでいる地域の学校で学び成長することはあたり前のことであり普通のこと』との認識をした。その上で、『そんなあたり前の、ふつうの地域づくり・学校づくりを、子どもたちや保護者、教職員や地域の方々、市民の皆さまの声を聞き、話し合いを重ね、市全体で取り組みを推進したい』とコメント」しています(*5)。これからの海老名市の動向を注視していきたいと思います。

3.北海道根室市の取組

 根室市の教育委員会も、より踏み込んだ形で、障害がある児童を分けずに教育する「インクルーシブ教育」を市立花咲港小学校で実施していることを知りました。
 「市独自の取組として、障がいのみならず、人種の別や男女差、性についての指向性、社会的地位や背景の違いなど、あらゆる差別を乗り越えて、一人ひとりの個性と価値観を認め、自分らしく在るための選択や決定を尊重するインクルーシブ教育の実現に向け取組を進めてきた」(*6)ということで、花咲港小学校をモデル校として位置づけて取り組みが進められてきています。

 花咲港小学校の取組には以下のような特徴があります。

  • ドイツ発祥でオランダで広がった「イエナプラン」(*7)を参考に、障害がある児童には専門的支援を行いつつ、一般の学級の中で学ぶことを基本とする取り組みを進めていること。
  • 学級は幅広い年齢で構成し、一律の時間割を撤廃して、児童一人ひとりの発達に合った進度別の時間割を取り入れ、そのことで、障害の有無にかかわらず学ぶ環境をつくっていること。
  • 教師が一方的に進める授業形態はとらないこと。

 学年や障害の有無を取り払った学級編成とするところは、まさしく「フルインクルージョン」だといえるのですが、それがいわゆる「ダンピング」に陥らないためには、個に応じた学習活動が保障される必要があります。花咲港小学校では、一律の時間割を廃し、それぞれの進度に合った時間割を取り入れるというところまで踏み込んで、その課題に対応しています。これにより障害がある児童が授業についていけないといった問題も起きにくくなります。また、画一的で一方的に教え込む授業でなくなることから、障害がない児童も意欲や主体性に学習に取り組むようになるというメリットも生まれてきます。
 花咲港小学校は小規模校で、児童数10人ということもあり、こうしたシステムが導入しやすかったのではないかと思われます。また、小規模校であることは、他の小学校に統合される可能性もあったわけで、特別支援学校がない根室市内におけるインクルーシブ教育の拠点として存続を図ったことは地域にとってもよい選択だったといえそうです。
 北海道内では障害がある児童が普通学級の中で学ぶことを原則としている公立学校はなく、根室市教育委員会の波岸克泰教育長も市議会で「インクルーシブ教育は、障害のみならず、人種や男女差、性の指向性、社会的地位や背景の違いなど、ひとりひとりの個性と価値を認め、自分らしくあるための選択や決定を尊重する教育で、これからの学校教育に求められる姿だ」(*8)と語っていて、道内や市内からの視察が絶えないということです(*9)。こちらもこれからの展開に目が離せません。

まとめ

 日本の障害児教育は、特別支援学校や特別支援学級などを設定し、流動性を担保しながらも障害がある児童と無い児童を分けて教育することが原則になっています。前回と今回、こうした枠組みにとらわれずに、独自のインクルーシブ教育を展開している、あるいは展開しようとしている地方自治体の取り組みについて紹介してきました。
 標準的な集団への画一的な教育を前提としていたこれまでの学校教育の枠組みを変えることなく、インクルーシブ教育に移行することは、現場や当事者の負担を増加させてしまうことにつながります。
 現状でも「手厚い支援」が受けられるからと特別支援学校を選択するケースも少なくないのですが、それは裏を返せば、今の体制のままでは通常の学校では十分な支援が受けられないという実態を察知しているからにほかなりません。
 障害があるなしにかかわらず、すべての児童生徒に歓迎されるインクルーシブ教育を展開していくためには、学級定数、教員の配置、指導方法・内容の工夫、指導体制の改善、環境整備、他機関との有機的な連携などが求められます。フルインクルージョン体制を維持しているイタリアではこの仕組みを50年に渡って築いてきました。
 地方自治体の弾力的な運用が奨励されているとはいえ、令和4年4月に文部科学省から「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について」という通知(*10)が発出されたように、国として示してきた枠組みに沿っていないととらえられると規制がかかってくる可能性もあります。
 海老名市、根室市、そして前回取り上げた国立市は、こうした制約がある中で、どのような工夫をして国連の障害者権利条約で示されている「インクルーシブ教育」に踏み込み、それを持続的に展開していくのか、そして、何よりも地域や保護者、児童生徒に歓迎されるように進めていくのか、しっかりと見守っていく必要があるといえます。

*1:海老名市教育委員会と「インクルーシブ教育の更なる推進に向けた連携と協力」に関する協定を締結します
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/98679/240322.pdf
*2:海老名市教育大綱
https://www.city.ebina.kanagawa.jp/guide/kyoiku/iinkai/1003117.html
*3:インクルーシブ教育実践推進校
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/j7d/cnt/f533456/index.html
*4:本音は特別支援学校をやめていきたい 神奈川県 黒岩知事が「ごちゃまぜを当たり前に」したい理由
https://forbesjapan.com/articles/detail/70412
*5:海老名市神奈川県 インクルーシブで連携 協定締結、協議本格化へ〈海老名市・座間市・綾瀬市〉
https://article.yahoo.co.jp/detail/609a0bdb4f9124d3e9eacdd788c21962e3b153d1
*6:1.インクルーシブ教育の推進について【教育総務課】

https://www.city.nemuro.hokkaido.jp/material/files/group/31/r5sougoukyouikukaigigizi.pdf
*7:イエナプランとは
イエナプラン教育は、ドイツで始まりオランダで広がった、一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶオープンモデルの教育。詳しくは下記サイトを参照してください。
日本イエナプラン教育協会

https://japanjenaplan.org/jenaplan/
*8:根室・花咲港小がインクルーシブ教育 幅広い年齢、時間割自由に 障害の有無取り払う

https://mamatalk.hokkaido-np.co.jp/article/225995/
*9:花咲港小のインクルーシブ教育 市内外から視察相次ぐ

https://news.yahoo.co.jp/articles/473275cc62f42209674428e5786011e721d03586
*10:特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)

https://www.mext.go.jp/content/20220428-mxt_tokubetu01-100002908_1.pdf