想いを込めて ~つくって使って味わう工芸~(第3学年)

1.題材名

「想いを込めて ~つくって使って味わう工芸~」(第3学年/10時間)

2.題材設定の理由

 対象学年の生徒たちは、地道な努力を積み重ね、粘り強く表現活動に取り組む態度が身に付いている。自分の表現したいものを明確にもっている生徒が多い反面、何を表現すればよいかを悩み、主題を曖昧にする生徒も見られる。他者の見方や感じ方を知りながら、自分の想いを表現する力を身に付けさせたいと考えた。
 福島県中学校教育研究会美術部会の研究主題である「造形活動における自己実現を通して、豊かな心を育む美術教育はどうすればよいか」をふまえ、自分の想いを形にすることで、表現する喜びを感じるとともに、相手のことを考えて工夫する中で、思いやりや感謝の気持ちを育める授業にしたいと考えた。そこで、装飾品として活用でき、また飾って楽しむこともできるブローチ制作に取り組むことにした。義務教育最後の3年生がこれまで身に付けた知識や技能を活用しながら、贈る相手へ想いを馳せ、その人への想いを形や色彩で表現するのに効果的であると考えた。
 完成したブローチを贈ることで、自分の表現が他者に喜ばれるという経験をし、自己実現を通して豊かな心を育めるようにと題材設定をした。

3.準備(材料・用具)

教師:学習プリント、石粉粘土、プラ板シート、粘土ベラ、伸ばし棒、竹串、カッターナイフ、はさみ、はかり、UV硬化樹脂、UVライト、ブローチピン、針金、ペンチ
生徒:筆記用具、アクリルガッシュ、面相筆、彩色筆、記録用タブレット端末

4.学びの目標

【知識及び技能】
 形や色彩、材料の質感などに着目し、意図や効果などをとらえ、材料や用具の特性を生かし、見通しをもって表す。

【思考力・判断力・表現力等】
 使う場面や飾る場所、贈る相手への想いなどを基に、形や色彩、材料の効果を考え、構想を練ったり鑑賞したりする。

【学びに向かう力・人間性等】
 調和のとれた装飾をすることに関心をもち、意欲的に取り組む。

5.評価規準

【知識・技能】
 形や色彩、材料の質感などが感情にもたらす効果や、造形的な特徴などを基に、意図や効果を全体のイメージで捉えることを理解している。
 材料や用具の特性を生かし、意図に応じて自分の表現方法を追求して、制作の順序などを総合的に考えながら、見通しをもって創造的に表している。

【思考・判断・表現】
 構成や装飾の目的や条件を基に、使う場面や飾る場所、贈る相手への想いなどから主題を生み出し、美的感覚を働かせて調和のとれた洗練された美しさを総合的に考え、表現する構想を練っている。
 使う場面や飾る場所、思いなどとの調和のとれた洗練された美しさを感じ取り、表現の意図と創造的な工夫について考え美意識を高め、見方や感じ方を深めている。

【主体的に学習に取り組む態度】
態表 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に調和のとれた装飾を考え構想を練ったり、意図に応じて自分の表現方法を追求して見通しをもって創造的に表したりする表現の学習活動に取り組もうとしている。
態鑑 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に使う場面や飾る場所、贈る相手への想いなどとの調和のとれた洗練された美しさなどを感じ取り、表現の意図と創造的な工夫について考え、見方や感じ方を深める鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

6.指導のポイント

 本題材では、ブローチ制作を通して、自分の想いを形にすることで表現する喜びを感じるとともに、相手のことを考えて工夫する中で、思いやりや感謝の気持ちを育むことをねらいとしている。導入では、ルネ・ラリックの装飾品や市販のブローチを提示し、形や色彩、素材の違いによる印象の変化や身に付ける位置・場面との関わりに気付かせる。単なる装飾としてではなく、「誰が、どのような場面で身に付けるか」という視点を持たせることで、制作への目的意識を高めたい。構想段階では、アイデアスケッチやメモを活用し、自分の想いやイメージを具体化させる。形や色彩、材料の組み合わせについて試行錯誤する時間を十分に確保し、友人同士で意見を交流する活動を取り入れることで、多様な見方や考え方に触れさせる。
 造形の工程では、丁寧さや根気強さの大切さを意識させ、失敗を恐れずにやり直す経験を積ませたい。また、毎時間作品の写真記録を取り、表したいイメージと制作の進み具合を照らし合わせながら改善を促した。完成後は、鑑賞活動を行い、互いの作品の工夫やよさを言葉で伝え合う時間を設けた。

7.題材の指導計画

学習活動の流れ

◆:指導上の留意点 ◎:評価方法

1
2

○機能性と美について学び、構想を練る。
・ルネ・ラリックの作品を鑑賞しながらブローチの役割や工芸作品、装飾品のよさについて学ぶ。
・感謝や労いなど想いを届けたい相手を一人選び、その相手へ贈るブローチのデザインを考える。

◆贈る相手の好きなものや色からイメージを膨らませ、相手への想いを形にするという意識をもたせる。

【アイデアスケッチ】
態表【観察】

3
4
5

○アイデアスケッチをプラ板シートに転写し、形に沿ってはさみで切る。それを伸ばし棒を使って平らにした粘土の上に配置し、カッターや竹串を使って型抜きをする。

◆粘土の厚さの目安を伝える。

○半立体になるよう粘土をつけ、モチーフの特徴を捉えながら作り込んでいく。全体ができたらやすりをかける。

◆ブローチとしての使いやすさを意識させ、粘土の厚さや重さ、全体の大きさに気を付けながら制作するように伝える。

○毎時間制作の進み具合を記録するためにミライシードのオクリンクプラスを活用し、自分の作品を記録する。

◆毎時間記録をすることにより、どんな工夫や試行錯誤をしたのか、また次の時間に改善したい点はどこかを明確にさせる。

知技【作品】
態表【観察、ポートフォリオ】

6
7
8
9

○アクリルガッシュやUV硬化樹脂を使って彩色する。
○必要に応じてグリッターやビーズなどの素材を使い、イメージに合う仕上がりになるよう試行錯誤する。
○仕上げに透明のUV硬化樹脂を塗り、硬化させる。裏面にはブローチピンを付ける。

◆色彩の組み合わせと表現意図を結びつけるよう伝える。

知技【作品】
態表【観察】

10

○友達の作品を鑑賞する。
・作品を並べ、グループで鑑賞を行い、最後に全体鑑賞会を行う。

◆贈る相手に作品を届け、身に付けてもらったり飾ったりしてもらうことを伝える。

【観察、プリント】
態鑑【観察、プリント】

8.授業を終えて

 美術という教科は、自分の思いや考えを形や色彩、素材を通して表現できる大切な学びの場であると考える。うまく言葉にできない気持ちも手を動かし、試行錯誤を重ねる中で少しずつ形になり、自分自身を見直すきっかけにもなる。
 本授業では、ただ作品を完成させることを目的とするのではなく、思いやりや感謝の気持ちを込めて制作することの価値を大切にしたいと考えた。誰かを思い浮かべながらつくることで、表現は自己満足にとどまらず、人と人とのつながりを生み出すものになる。また、自分の表現によって他者が喜んでくれる経験は、生徒にとっても大きな自信となり、自己肯定感を高めることにつながる。美術の学びを通して、自分の思いを大切にしながら、他者と関わり、社会とつながっていく力をこれからも育んでいきたい。

地域のお店を盛り上げるデザイン ~美術の力で解決しよう!~(第1学年)

1.題材名

「地域のお店を盛り上げるデザイン」

2.単元の目標

  • 形や色彩、材料、光などの性質や、それらが感情にもたらす効果などを理解し、材料や用具の特性などから制作の順序などを考えながら、見通しをもって表すことができる。(知識及び技能)
  • 伝える目的や条件などを基に、伝える相手や内容などから主題を生み出し、美しさとわかりやすさなどとの調和を考え、表現の構想を練ることができる。(思考力・判断力・表現力等)
  • 楽しく美術の活動に取り組み創造活動の喜びを味わい、美術を愛好する心情を培い、心豊かな生活を創造していく態度を養う。(学びに向かう力・人間性等)

3.教材観

図1 生徒作品(文具店の紙袋) 本題材は、美術科学習指導要領第1学年「A表現」(1)イ(イ)、(2)ア、〔共通事項〕(1)アイ、および「B鑑賞」(1)イ(ア)の内容を受け設定した。「美術の力で地域のお店を盛り上げる」を目標に、生徒が比較的行きやすい学校周辺のお店へ協力を依頼し、生徒が制作した作品を店舗にて使用していただく。生徒はお店の方に回答していただいた事前アンケートを基に、グループで協働し、作品を作る。本題材を通して、生徒は身近にあるデザインの役割を理解すると共に、デザイナーによってデザインがどのように生み出され、私たちの手に届くのかを、制作過程を通して追体験できるだろう。生徒の意欲を引き出し、美術を学ぶ意義や価値を実感させるねらいがある。
 過去3年間、地域とコラボした授業づくりを研究・実践してきた。1年目と2年目は包装紙、3年目は紙袋を生徒がデザインし、実際に店舗で使用していただいた。今年度新たな取り組みとして、お店の事前アンケートより、生徒自ら課題を見出し、「どのように盛り上げることができるか?」を学級で話し合うことからスタートする。お店に何が必要で、どのように関わるかも生徒にゆだねたい。店舗からのフィードバックをいただきながら構想を練り、他者と協働する力や他者意識をもってわかりやすく伝えようとする力を育みたい。

4.生徒観

 生徒は前期の学習において、画面構成の変化による印象の違いや配色による人間の心身に与える効果などを学習している。本題材を通して、生徒が作成した作品を、実際に店舗で使用していただくことで、デザインが人や社会を豊かにするものであることに気づき、よさや美しさなどの価値や心情などを感じ取る造形的な資質・能力を養う。

 学年の半分以上が附属小学校からの連絡入学の生徒であり、比較的男女の仲が良く、学校行事や学級活動など協力的に活動できる。各教科が行っている「協働的な学び」を意識したペア・グループ活動も活発で、相手の意見を尊重しながら、自分の意見を伝えることができる生徒が多い。造形活動が好きな生徒が多く、4月に行ったアンケートでは全体の84%が「好き」「どちらかというと好き」と回答している。「嫌い」「どちらかというと嫌い」と回答した生徒は、理由として「自分が作った物が見られるのが恥ずかしい」「他者の作品が気になって集中できない」「周りと違うと変だと思われるから」と他者からの評価が自己表現の阻害をしていると考えられる。

 中学校に入学し、初めての共同制作となり、本題材ではグループ編成の工夫や中間発表などを充実させ、生徒同士が相談しやすい「安心感」を感じる雰囲気づくりに取り組むことで、共同制作のよさや楽しさに気づかせたい。

5.指導観

 本題材は「楽しい・おもしろい」をテーマに、地域のお店の方やグループなど他者と関わり、デザインした作品を店舗で使っていただく事で、学校での学びを地域へ発信し、地域のお店を盛り上げ、本校全体研究内容にある「自走できる場づくり」を具現化した生徒の体験活動の場としたい。
図2 授業導入で使用したスライドの一部
 題材の導入では、お店で使用されている紙袋や包装紙、商品POPなどを提示し、生徒に身の回りで使用されているデザインやその役割について考えさせる。デザインはお店や商品のよさや魅力伝えるだけでなく、中身の情報やお店のブランドイメージを伝えるという宣伝の役割があることに気づかせる。デザイナーが作品に込める思いやグラフィックデザインの造形的工夫に気づかせる。伝える相手にわかりやすく表現方法を追求するための糸口を見つけることができると考える。また、これまでの造形活動や図画工作科、美術科での学びを振り返らせ、それらが特徴や感情にもたらす効果などを根拠に表現方法や主題を結び付け、表現の効果を確かめながら自分の表現を追求させたい。

6.題材の評価規準

知識・技能

思考・判断・表現

主体的に学習に
取り組む態度

 形や色彩などが感情にもたらす効果や、造形的な特徴を基に、美しさやデザインのわかりやすさなどを全体のイメージで捉えることを理解している。
 意図に応じて表現方法を創意工夫して、制作の順序などを総合的に考えながら、見通しをもって創造的に表している。

 地域のお店を盛り上げるために、伝える相手やお店のイメージ、要望などから主題を生み出し、色や形などが感情にもたらす効果や、分かりやすさと美しさなどとの調和などを総合的に考え、表現の構想を練っている。
 デザインの調和のとれた洗練された美しさなどを感じ取り、作者の心情や表現の意図と創造的な工夫などについて考えるなどして、美意識を高め、見方や感じ方を広げている。

態表 美術の創造活動の喜びを味わい楽しくお店のイメージや要望などを基に構想を練ったり、意図に応じて工夫して表したりする表現の学習活動に取り組もうとしている。
態鑑 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的にデザインの調和のとれた美しさなどを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えるなどの見方や感じ方を深める鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

7.単元の指導と評価の計画 ○○時間(本時:6時間/10時間目)


「課題」 ・活動内容とねらい



評価規準

1

「美術の力で地域のお店を盛り上げる方法を考えよう」
・デザインの役割について考え、制作する上で大切なことを考える
・事前アンケートや教師撮影の動画・写真から、どのようにお店と関わるかを考える

制作のポイントをホワイトボードへまとめる

・目立たせる・興味を引く・おもしろそう
・わかりやすい・インパクト・お店の個性を出すなど(生徒の言葉で表現する)

授業後、生徒から出た意見をまとめ、店舗へ報告。次時に生徒へフィードバックすることで、より客観的に構想を練ることができる工夫を行う。

 伝える相手やお店のイメージや要望などから、どのように関わるかを考え、デザインの色や形などが感情にもたらす効果や、分かりやすさと美しさなどとの調和などを考えながら構想を練っているかどうかを暫定的に評価する。
(活動の様子、アイデアスケッチ、振り返りシート)
態表 お店を盛り上げる方法を、自分の知識や経験を活かしながら、主体的に発想や構想の学習活動に取り組もうとする態度を評価する。
(活動の様子、振り返りシート)

2

「お店の雰囲気や要望から、思わず手に取ってしまうような商品POPを考えよう」
・お店の方からのフィードバックを伝え、デザインする上で大事なことを全体で共有。ブランドイメージやわかりやすさ、見た目の美しさに気づかせる。
・アイデアスケッチ【個人】
どんな商品POPを作成した方がいいか、個人で構想を練る。要望やイメージからアイデアを考える練習を兼ねる。



知・技 作品から、意図に応じて表現方法を創意工夫して表しているかなどを見取るとともに、形などの効果や全体のイメージで捉えることを理解していることを併せて見取り、知識と技能を一体的に評価する。(作品、アイデアスケッチ、ワークシート)
 伝える相手やお店のイメージや要望などから、どんな商品POPを作成するべきかを構想し、デザインの色や形などが感情にもたらす効果や、分かりやすさと美しさなどとの調和などを考えながら構想を練っているかどうかを評価する。
(活動の様子、アイデアスケッチ、振り返りシート)
態表 ペア・グループで協力しながら、主体的に商品POP制作に取り組み、形などの効果や全体のイメージで捉えることを理解しようとし、見通しをもち意図に応じて工夫して表そうとしている態度を評価する。
(活動の様子、振り返りシート)

3

「互いの作品を発表し合い、よりよい作品づくりに活かそう」
・アイデアスケッチグループ内発表①
よりわかりやすく相手に伝えるためにはどうしたらよいかという視点で互いにアドバイスし合う。自分の「美しい」や「わかりやすい」は、必ずしも相手と同じではないことに気づきかせ、客観的に自分の作品を見直す機会とする。
・グループ編成と担当商品の決定
お店のニーズと生徒がしたい表現がマッチするように工夫し、生徒の自己決定を促し、作品制作のモチベーションに繋げる。

図3 担当商品を決めている様子

4
5

「お店の方とお客さんの困り感を解決する商品POPの企画書と試作品を制作し、お店に提案しよう」
・アイデアスケッチグループ内発表②
前時で修正したアイデアスケッチを新グループで発表し合う。自分の「美しい」や「わかりやすい」は、必ずしも相手と同じではないことに気づきかせ、客観的に自分の作品を見直す機会とする。
・商品POPの企画書と試作品を作成する。商品の情報を収集し、試作品を作成する。特に、POPを設置する場所やサイズ、設置方法などを生徒が試行錯誤できるような問いかけを工夫する。
・商品POPをデザインする練習や素材探求を兼ねる。

図4 店舗にあるファイルの種類や特徴を説明するPOPの試作を作成している様子

授業後、企画書と試作品をまとめ、店舗へ提出。訂正して欲しい箇所や表現などの要望を、次時に生徒へフィードバックすることで、より客観的に構想を練ることができる工夫を行う。特に、設置方法や大きさについて確認してもらう。

知・技 作品から、意図に応じて表現方法を創意工夫して表しているかなどを見取るとともに、形などの効果や全体のイメージで捉えることを理解していることを併せて見取り、知識と技能を一体的に評価する。
(作品、アイデアスケッチ、ワークシート)

態表 ペア・グループで協力しながら、主体的に商品POP制作に取り組み、形などの効果や全体のイメージで捉えることを理解しようとし、見通しをもち意図に応じて工夫して表そうとしている態度を評価する。
(活動の様子、振り返りシート)

6

「ペア・グループで話し合い、お店の要望をかなえる商品POPのアイデアを練り直そう」
・お店からいただいた要望をもとに、アイデア修正、学級全体で気づいたことを共有する
文具店は老若男女が訪れる場所であり、自分たちの「美しい」や「わかりやすい」は、必ずしも相手と同じではないことに気づきかせ、客観的に自分たちの作品を見直す機会とする。
・商品POP制作開始
素材探求での経験を活かしながら、ペア・グループで協力しながら商品POPを制作し始める。

 伝える相手やお店のイメージや要望などから、どんな商品POPを作成するべきかを構想し、デザインの色や形などが感情にもたらす効果や、分かりやすさと美しさなどとの調和などを考えながら構想を練っているかどうかを評価し、授業外で、主題や構想の工夫などを記述したワークシート等を完成作品と併せて再度見取り必要に応じて修正する。
(活動の様子、アイデアスケッチ、振り返りシート)
態表 ペア・グループで協力しながら、主体的に商品POP制作に取り組み、形などの効果や全体のイメージで捉えることを理解しようとし、見通しをもち意図に応じて工夫して表そうとしている態度を暫定的に評価する。
(活動の様子、振り返りシート)

7
8
9

「お店の方とお客さんの困り感を解決する商品POPを制作しよう」
・商品POP制作
素材探求での経験を活かしながら、ペア・グループで協力しながら商品POPを制作する。
・発表会の準備、グーグルスライドへまとめる

図5 ペアで作品を作成している様子

 伝える相手やお店のイメージや要望などを再確認し、より分かりやすさと美しさなどとの調和などを総合的に考え、表現の構想を練っているかどうかを暫定的に評価し、授業外で、主題や構想の工夫などを記述したワークシート等を完成作品と併せて再度見取り必要に応じて修正する。
(振り返りシート)
態表 主体的に制作に取り組み、形などの効果や全体のイメージで捉えることを理解しようとし、見通しをもち意図に応じて工夫して表そうとしている態度を評価する。
(作品、活動の様子)

10

「商品POPの工夫や表現の意図など、作品のよさが伝わる発表をしよう」
・グループごとにまとめの発表を行う
商品POPを作成する上で、試行錯誤した点や互いのデザインのよさを伝え合う発表を通して、見方や感じ方を広げる。
・学びの振り返り
「美しさ」と「わかりやすさ」の調和を考えるデザインの授業を通して、考えたことや新たな発見、気づきについて振り返りを行う。また共同制作を通して、感じたことや考えたこと、心情の変化なども見取る。

 主体的に作品を発表・鑑賞し合い、伝達のデザインの調和のとれた美しさなどを感じ取り、作者の心情や表現の意図と創造的な工夫などについて考えるなどの見方や感じ方を深めているかどうかを評価する。
(ワークシート、活動の様子)

8.本時の授業構造(これまでとこれから)

これまで

本時

これから

(中学1年)
・限られた色で様々な色を作る
・アプリを活用した、画像編集、画面構成について学んだ。
・個人制作が主だった。

・他者意識をもって、美しさとわかりやすさについて考える。
・他者と協働して作品を制作する

・気持ちを形に、ペアで協力しステンドグラス制作。
(中学2年)
・「光」と「かげ」作品づくり
・石彫、願いや想いを形へ表現する

9.本時のねらい

「グループで話し合い、お店の要望をかなえる商品POPのアイデアを練り直そう」

10.本時の指導の工夫(見取りの視点)

 本時の活動は、各ペアに提出してもらった企画書と商品POPの試作品を、事前にお店の方に見てもらい、生徒デザインに対して、訂正して欲しい箇所や要望などを記入してもらい、その企画書を生徒へ返却、デザインを修正する場面から始まる。「わかりやすいデザイン」とは何かを考え、生徒が表現方法を追究し、試行錯誤する場面が見られる。ペア・グループでの話し合いの場面や表情、振り返りシートなどから生徒の学びを見取る。

11.本時の学習活動(6時間/10時間目)

○学習の流れと生徒の活動 ◇活動支援

◎予想される生徒の姿
■評価

5

・前時までの振り返り

・本時のめあての確認

めあて:ペア・グループで話し合い、お店の要望をかなえる商品POPのアイデアを練り直そう

35

・前時に提出した企画書を返却、ペア・グループで共有
(事前にお店の方からコメントをもらう)

・2~3ペアにどんなコメントをもらい、どう感じたか共有してもらう。

◇補助発問
「老若男女が訪れる文具店でこの商品POPを見たら本当に伝わるかな?設置場所や設置方法、POPの大きさなどを見直してみよう!」
自分たちの「美しい」や「わかりやすい」は、必ずしも相手と同じではないことに気づきかせ、客観的に自分たちの作品を見直す機会とする。

・グループで話し合い、企画書の修正

・商品POP制作開始
素材探求での経験を活かしながら、ペアで協力しながら商品POPを制作し始める。

◎興味津々にお店の方からのコメントを読む
表態 ペア・グループで協力しながら、主体的に商品POP制作に取り組み、形などの効果や全体のイメージで捉えることを理解しようとし、見通しをもち意図に応じて工夫して表そうとしている
(活動の様子、振り返りシート)
 伝える相手やお店のイメージや要望などから、どんな商品POPを作成するべきかを構想し、デザインの色や形などが感情にもたらす効果や、分かりやすさと美しさなどとの調和などを考えながら構想を練っている
(活動の様子、アイデアスケッチ、振り返りシート)

10

・2~3ペアに今日の学びの振り返りを発表してもらう。
(コメントをもらうことで、気持ちの変化があったか、どのように修正していこうと思っているか)

・本時の内容を振り返る、今日の学びをクロムブックにまとめる
特に、お店の方のコメントをもらって感じたこと、気持ちの変化などを書き込むように声かけを行う。

・次回の活動内容の確認

◎本時で行ったことを振り返る
表態 前時までの生徒の姿や振り返りシートの記述を見比べながら、生徒の変容を見とる
(活動の様子、振り返りシート)

12.期待する生徒の学びの姿

 ペア・グループで協力し、「美しさ」と「わかりやすさ」の調和を考え、よりよいアイデアを生み出そうと試行錯誤する姿
【生徒の言葉】ペア・グループで話し合い、わかりやすい商品POPになったと思っていたが、お店の方のメッセージから、いろんな立場の人の視点から考えることの大切さに気付くことができた。グループで協力し、前回よりもお店の方やお客さんを笑顔にする商品POPになっていると思います。

13.板書計画

14.完成した生徒作品一部

下記の図6・7・8はそれぞれ完成した生徒作品である。

図6図6は文具店にあるペンの種類を中学生ならではの視点から、メーカー別ペンの「メリット(良さ)」や「デメリット(気になる点)」などをまとめた表である。実際に水にさらし、耐水性のチェックを行ったり、どのペンが人気なのか学級でアンケートをとったりするなどの工夫が見られた。

図7図7の作品はお店の方の事前アンケートより「間違って左利き用の商品を購入してしまうお客さんが多い」という困り感から、左利き用の商品であることを紹介する商品POPである。作品を作成した生徒は自身も左利きで、同じ間違いをしたことがあるとの経験から本作品を作成したと語っていた。

図8図8は小学生を対象に絵の具の作り方をわかりやすく伝えるPOPである。持ち帰ることもできるように掲示用とは別にチラシを作成し、絵の具コーナーに設置した。お店の意見を踏まえながら、シンプルな図の工夫を行ったり、QRコードで引用元を記載したりするなど、相手によりわかりやすく伝えようとする生徒の工夫が見られる。

15.実践を振り返って

 授業後のアンケートより、「地域のお店を盛り上げるテーマに授業を行いましたが、主体的に取り組めましたか?」の問いに対し、97.1%の生徒が「そう思う」「どちらかというとそう思う」と回答していた。また「なぜそう思いますか?」の問いに対し、「何を作れば地域のお店を活性化させることができるのか、実際に使う人の視点で考えることができたと思うから。」や「ペアと協力しながら、お店の良さや特徴、お客さんが笑顔になってくれるPOPをどうしたら作れるかなど考えながら一生懸命取り組むことができた」と答えており、実際に使用する場面や場所、伝える相手がいることで生徒の主体性を引き出すことにつながったと考える。また「美術の学習は、生活や心を明るく豊かにするのに役立つと思うか?」の問いに対し、全生徒が「そう思う」「どちらかというとそう思う」と回答していた。本実践は、生徒が美術を学ぶ意義や価値を見出し、それを生かそうとするきっかけになったと推測できる。
 特に美術デザイン分野では、「作る目的」「使う相手」「使う場面」が明確となり、「作品を実際に使ってもらう喜び」が生徒の「やりたい」という主体性を引き出し、学んだ知識や技能を自ら生かそうとし、生徒の深い学びへとつながりやすい。美術科の学びこそ、積極的に地域や社会に発信して行くべきではないだろうか。しかし地域のお店とつながると、どうしても学校が下請け業者的になってしまうと感じる時がある。辞書によると英語のコラボレーション(collaboration)の語源は、「合作」「共に」という意味があり、受け取り手の多少のニュアンスの違いはあるが、その言葉には「どちらも立場は同等」という意味合いが込められている。生徒もお店もどちらも美術の創造性が発揮できる共同実践となれば「真のコラボレーションの実現」となるだろう。「できるだけお店に負担のないように」という教師の思いが、生徒への指導や生徒作品に現れてしまうのではないかと気づく機会となった。私は地域とつながる実践で大切なことは、生徒に負けず教師も「楽しい・おもしろい」と感じることだと考える。これからも地域とつながる、生徒・教師・地域を笑顔にするような楽しい実践を模索していきたい。

「伝えたいこの想い≪色や形からのメッセージ≫」(第2学年)

1.題材名

「伝えたいこの想い≪色や形からのメッセージ≫」(第2学年/9時間)

この題材における「内容のまとまり」
第2学年
「感じ取ったことや考えたことなどを基にした表現」(「A 表現」(1)ア(ア)、(2)ア(ア))
「作品や美術文化などの鑑賞」(「B 鑑賞」(1)ア(ア))
〔共通事項〕(1)アイ

2.題材設定の理由

 複雑な事象の本質を掴めること、自分の思いを内省的に考えられることは、VUCAの時代を生き抜くために必要な素質だと考えている。3年間を通してこのような力を育成できるよう努めている。
 対象学年の生徒たちは、対象を客観視することや、自分の内面を表に出すことが難しいような成長段階にある。本校の生徒においても、じっくりと活動に向き合うことを苦手とし、描写力の「上手・下手」への意識からか、特に絵画表現への苦手意識が顕著である。続く3年生では、自己を表す活動として、ボックスアートを設定しており、3年間での自身の成長や、未来への思いなどをのびのびと表してほしいと考えている。その前段として、具体物の描写によらない自己表現の仕方として抽象表現と出会わせることで表現活動における価値基準を見直し、自分の気持ちと向き合い、その表現に自信をもてるような学びの機会を与えたいと考え、本題材を設定した。
 使用する材料に関しても、細かな表現に適しているものよりも、感情や願望のままに表現がしやすい液体粘土などを主材料とすることで、様々な表現方法を試行錯誤しながらその効果を生かし、発想や構想をしたことを基に自分の表したいことを工夫して表しやすいよう配慮をした。

3.準備(材料・用具)

教師:段ボール、木棒、不織布、液体粘土、画用紙、粘土ベラ、ハサミ、カッター、工作板、新聞紙
生徒:絵具セット(アクリルガッシュ)、クロッキー帳

4.学びの目標

【知識及び技能】
 形や色彩、それらの組み合わせに着目してイメージをとらえ、段ボール、木棒、不織布などの芯材や、液体粘土、アクリル絵の具などの材料や用具の特性を生かして表す。

【思考力・判断力・表現力等】
 感情などの心の世界などを基に形や色彩、構成などの効果を考え、構想を練ったり鑑賞したりする。

【学びに向かう力・人間性等】
 感じたことや感情などを形や色彩で表すことに関心をもち、意欲的に取り組む。

5.評価規準

【知識・技能】
 形や色彩、材料などの性質や、それらが感情にもたらす効果や、造形的な特徴などを基に、全体のイメージで捉えることを理解している。
 段ボールや液体粘土、アクリル水彩絵の具等の使い方や生かし方などの特性を生かし、意図に応じて表現方法を追求して創造的に表している。

【思考・判断・表現】
 自身の経験から感じ取った小さな喜びや悲しみを基に主題を生み出し、材料の組み合わせなどを考え、創造的な構成を工夫し、心豊かに表現する構想を練っている。
 造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と創造的な工夫などについて考えるなどして、美意識を高め、見方や感じ方を深めている。

【主体的に学習に取り組む態度】
態表 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に感じ取ったことや考えたことなどを基にした表現の学習活動に取り組もうとしている。
態鑑 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に作品などの鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

6.指導のポイント

〈材料について〉
 あえて細かい表現がしにくい段ボールや液体粘土を用いることで、いわゆる上手い下手が出づらくするのと同時に、素材と向き合う時間を大切にし、表現意欲の向上を促した。素材に触れながら発想する生徒も多く見られたため、当初のイメージ通りにつくるのではなく、素材に触れながら生まれた新たな発想も取り入れるように促した。
 一方、液体粘土という流動的な素材を用いて構成することが難しかったようで、高さを出したくても出せずに困っている生徒も多くみられた。参考作品を提示し工夫を紹介しつつ、課題の解決のために、材料の特性をどのように生かせるか実際に試すように伝えた。

〈技法について〉
 また、ドリッピング、スパッタリング、デカルコマニーなどの偶然性を生かした技法を組み合わせることで、具体的なモチーフを組み込まない表現を楽しめるようにした。

〈声かけや支援について〉
 冒頭で触れたように苦手意識があり手が止まってしまう生徒には、抽象表現の考え方を改めて伝えた。その際、簡単な言葉や例示を用いるなど、一人ひとりに合った様々な伝え方をするようにした。また、具体物に頼らないイメージへの変換が難しいと感じる生徒が多く見られた。困っている生徒には参考作品を提示し、鑑賞活動を挟むことで形や色彩によるイメージを掴むことを促した。様々な声掛けを行う中で、音や匂いをイメージするように伝えると、上手くいく様子がみられた。

7.題材の指導計画

学習活動の流れ

◆:指導上の留意点 □:評価方法
下線部:造形的な視点に関する事項

1

○抽象表現の導入として、ワークシートを用いて、感情などの形のないものでも、形や色彩で表せることを確かめる。

◆ワークシートでは、テーマとして設定した感情を「形」と「色彩」に置き換える考え方をつかみやすいよう、線だけで表すパターン、色を用いてあらわすパターンの二つを設定した。
◆記号(♡など)は用いないように指導する。

○お互いに紹介し合う。

◆一つの感情ごとに区切って班内で共有させることで、他者の考えに触れさせ、それぞれの感じ方、表し方に違いがあることを確かめながら、造形的な視点で捉えることを促す。

 形や色彩、材料などの性質や、それらが感情にもたらす効果や、造形的な特徴などを基に、全体のイメージで捉えることを理解している。【ワークシート】

○自分が表したいテーマについて考え、ワークシートにまとめる。

◆より深い表現につながるよう、自身の経験を思い出させながら机間指導する。

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3

○素材に触れ、様々な表現方法を試し、表現の面白さを感じ取りながら、主題を表現するためにどのような生かし方ができるか考える。

◆悩んでいる生徒に対しては、まずやってみさせる。その中で、例えば、段ボールを切ったときと破ったときや、絵の具の重色と混色などの印象の違いを問い、形や色彩の感情にもたらす効果に気づかせる

◆いくつかの制作ブースを作り、実験的に様々な表現ができるようにする。

◆事前に道具の扱い方などを説明し、いつでも見返せるように紹介動画などをロイロノートへ共有する。

 自身の経験から感じ取った小さな喜びや悲しみを基に主題を生み出し、材料の組み合わせなどを考え、創造的な構成を工夫し、心豊かに表現する構想を練っている。

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8

○自身のテーマに沿って、様々な素材、材料、技法を組み合わせて表現を行う。

◆主題に近づける手立てとして、参考作品を提示する。

〈作品名〉崩れゆくよろこび(参考作品)
〈伝えたかったこと〉
先日、冷蔵庫に大切にとってあったプリンを床に落としてしまった時の、よろこびから失望に変わった気持ちの変容が忘れられなかったため表現した。

◆高さを出すことが難しく、自分の意図と反して平面的になってしまう生徒が多く見られる。支援として、他の生徒の工夫を適宜紹介していく。

 段ボールや液体粘土、アクリル水彩絵の具等の使い方や生かし方などの特性を生かし、意図に応じて表現方法を追求して創造的に表している。【活動の様子】

態表 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に作品などの鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

○作品名や表現の意図と工夫についてまとめる。完成作品の写真と合わせて、ロイロノートで提出する。

9

○互いの作品を造形的な視点をもって鑑賞し合い、その面白さや美しさを味わう。

◆まずは、キャプションを伏せ、作品のみで鑑賞を行い、どんな感情をテーマに制作した作品なのかを予想しながら鑑賞させる。その後キャプションありでもう一度鑑賞させる。

 造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と創造的な工夫などについて考えるなどして、美意識を高め、見方や感じ方を深めている。【ワークシート】

態鑑 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に作品などの鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。【活動の様子】

8.生徒作品例

【生徒1】

 本生徒は非常に真面目な性格で、自らの課題に対して懸命に向き合うことのできる生徒である。まとめ役をやったりするなど、熱意があるが、緻密な表現が苦手であり、考えを形や色彩を用いて表現することにはなれていない部分もある。「希望」というテーマを設定し制作を進めることとした。自身の経験から想起させながら、「希望ってどんな色かな?」「希望を感じたときってどんな気持ちの変化があったかな?」などの声かけを行った。

〈作品名〉
小さな希望

〈伝えたかったこと〉
 何かに挑んだりするとき、その物事が大きく困難な壁にぶちあたることがあったとしても、その物事に対して、「無理だ」「できないよ」というネガティブな感情ではなく、「いける」「がんばるぞ」と。ポジティブな感情があって、諦めなければ希望もつかむことができるよ。ということ。

〈制作にあたって工夫した点〉
 希望の欠片もない。ということを表現するために、「黒」「グレー」などの暗い色を使い、その中でも小さな希望がところどころあることを表現するために、「ドリッピング」を使用して、流れ星のようにしました。そして希望をゴールに見立てるために、真ん中に光(希望)を表現しました。

《教師コメント》
 様々な技法を紹介した中で、ドリッピングを試してみて「きれいだな~」と感じていたようで、それを用いるような作品にしようと考えていた。
 ①②の段階では、高さを出すことに苦戦していたが、班内の他の生徒の表現などから着想を得て高さを出すことで立体的な面白さを模索している姿が印象的であった。
 「希望」を強めるために、黒や青などの暗い色を用いたり、様々な困難を表すために形に変化を付け、いびつにしたり、刃物を使わずにちぎったり、あえてかすれた表現をすることで人生の困難さを強めることができている。素材や行為を用いた意図を考えながら表現していた。
 一つのテーマに対して多面的・多角的な視点で捉えようとする姿が毎授業で見られ、表現する中で工夫が見られた。

【生徒2】

〈作品名〉
1年に一度の出会い

〈伝えたかったこと〉
 仲が良かった友達と1年に一度しか会えないこと。その寂しさやそれでも会える日までお互いに頑張ろうという思い。

〈制作にあたって工夫した点〉
 主役を斜めにして動きが出るようにし、背景の青に映えるように様々な色で塗り重ねて、様々な複雑な感情を表した。

【生徒3】

〈作品名〉
UYAMAIの嵐

〈伝えたかったこと〉
 相手のことを尊敬する気持ちを伝えたかった。

〈制作にあたって工夫した点〉
 マーブリングやスパッタリング、ドリッピングを使って色々な表現方法を使えました。
 木棒や緩衝材、ダンボールで立体的に仕上げられました。
 絵の具とリキッド粘土を混ぜきらないで使うことで絶妙な色合いを引きだせました。

【生徒4】

〈作品名〉
弾ける喜び

〈伝えたかったこと〉
 私は、夜ご飯がお好み焼きだったときの喜びを表現しました。部活帰りで疲れていて、家に帰るとその日の夜ご飯はお好み焼きでした。私はお好み焼きが大好きなので、とても嬉しくて疲れが吹っ飛んでいった、ということを伝えたいです。

〈制作にあたって工夫した点〉
 リキッド粘土を撒き散らしたり、網のようなものにカラフルな色をつけました。また、マーブリングなどで喜びが想像できそうなピンクや黄色を使いました。

【生徒5】

〈作品名〉
放課後のたのしみ

〈伝えたかったこと〉
 学校が終わり、宿題などやるべきことを終わらせたあとに自分の楽しみがやってくるときの感情。好きなことに夢中になっていること。

〈制作にあたって工夫した点〉
 自分の世界に入り、外の世界から遮断されているように表現したくて、網のような物を使い外から遮断しているように見せました。そして黒やグレーなどの暗い色を入れないようにして、明るくしました。そして、白とリキッド粘土を混ぜて装飾物を塗りました。

9.授業を終えて

○成果と課題
 成果としては、表現することに対する抵抗感を少しながら下げることができたことだと考える。はじめは「抽象的」な表現に抵抗感を感じる生徒もいたが、徐々に自由な表現を楽しみながら制作する生徒が増えていた。また、いわゆる「上手い」「下手」の価値観ではない多彩な表現の面白さに気づき、自主的に他の生徒と情報交換をしながら授業に臨む様子が印象的であった。
 課題としては、はじめの抵抗感をいかに早い段階で解消し、内発的動機付けができるかである。はじめの題材との出会わせ方にもう少し工夫の余地があったと感じている。その上で、発想の段階を深く掘り下げることができると、もっと多彩な表現につなげられたのではないかと考える。さらに、イメージを具現化していくための手立てを提示しきれなかった。そのため、制作する際になかなか形に出来ずに苦労している生徒も見られた。
 概ね、課題は多く見られたが、表現すること自体に苦手意識を感じている生徒が表現を楽しみながらできていたことが授業者としては嬉しく思った。

○授業への想い
 幸せなことに、「先生の美術なら授業に出る」と言ってくれる生徒がいる。ほかの教科では授業を受けられない生徒でもやってみようと思えるのが美術の素晴らしいところではないかと考えるようになった。どの生徒も本当は自分を知ってほしいし、もっと表現したいと思っているのだと感じる。これらは生徒自身の自己肯定感につながるものだと思う。
 生徒たちがそうした思いをかたちにできるようにするためには、教師側の工夫も必要である。ここ数年は、多様な発想を促すために、場合によってではあるが、イヤホンを着用して没入しながら制作できる環境をつくるなど、美術室内の自由度を高めることを心がけている。もちろん制約をすることで導き出されるものもあるが、美術を苦手としている生徒にとってはある程度の自由は安心感があり、本人がリラックスできる環境でこそ本当の自分の表現ができるのではないかと思う。
 VUCAの時代である昨今、様々なものの中から本質的に何が大切なのか、自分は何をしたいのかを内省的に考えたり、他者の考えに触れたりする機会を設けられる顕著な教科が美術だと考えている。YouTubeやその他ネット配信サービスなどの普及にあたって、見る、聞くといった時間が多くなり、「絵を描く」などの「表現する行為」そのものを行う機会が少なくなったように思う。表現すること自体への抵抗感をもっている生徒が多くいる。様々なツールを使っていくことは、多彩な表現に繋がり非常に効果的である。一方で、素材そのものに触れることが少なったように感じる。日頃から様々な素材に触れ、様々なツールを使っていれば、多彩な表現に繋がり、抵抗感なく表現を楽しめることだろう。小学校図画工作科の授業などをみていると、子どもたちは本質的に、あらゆるモノと対話し、表現しようとする力をもっているように思う。中学校になると、知的な理解力が高まる中で、「表現すること」自体への意欲や興味はだんだん薄らぎ、抵抗感すらみられる状況にある。どこかで「美術=上手に絵を描く」のようなイメージをもってしまい、苦手意識が膨らんでいくのではと考える。しかし、これからの時代において「表現する力」は不可欠だと思っている。美術の授業を通して、自分の思いを「表現しようとする力」を育んでいければと考えている。
 そうした学びの機会を、どんな生徒であっても保証していきたいと思っている。今後も、誰しもがより楽しいと思える美術の授業ができるように研鑽を積んでいきたい。

「芸術作品のつぶやき」(第2学年)

1.題材名

「芸術作品のつぶやき」(第2学年/7時間)

2.題材設定の理由

 「美術館を訪れた人の多くが、“作品を見る(鑑賞する)時間” より、“作品のキャプションや解説などの表示を見ている(読んでいる)時間” のほうが長い」といったことを、最近よく見聞きする。確かに、生徒に聞くと作者名や作品名を “知識” として知ってはいるものの、作品自体をじっくりと “鑑賞する(味わう)” ことが少ないように感じた。このことから、生徒の素直な感性で作品と向き合い、自分なりの魅力や面白さを見出すことで、美術作品に親しみをもってもらいたいと考え、実践した。

3.準備(材料・用具)

教師:タブレット端末(iPad)、ワークシート、プロジェクター、スクリーン
生徒:タブレット端末(iPad)、教科書、資料集

4.学びの目標

【知識及び技能】
 作品の造形的な特徴などに着目し、効果や全体のイメージなどを捉える。

【思考力・判断力・表現力等】
 自分の価値意識や造形的な視点をもって作品から想像を広げ、美術作品の見方や感じ方を深める。

【学びに向かう力・人間性等】
 作品の造形的な特徴から想像を広げることに関心をもち、意欲的に鑑賞に取り組む。

5.評価規準

【知識・技能】
 形や色彩、構図などの造形的な特徴や、それらが感情にもたらす効果などを基に、全体のイメージで捉えることを理解している。

【思考・判断・表現】
 対象の形や色彩、表情や動作などに着目し、それらから得た気づきを自分の生活や経験などと照らし合わせ、連想される言葉を考えるなどして、見方や感じ方を深めている。

【主体的に学習に取り組む態度】
態鑑 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に作品の造形的な特徴から想像を広げるなどの、鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

6.指導のポイント

【題材観】
 本題材は、美術作品を観た印象を自分の生活経験と照らし合わせながら作品に適したつぶやきを考える活動を通して、作品と対話し深く味わうことをねらいとしたものである。美術作品を “実生活の一場面” と重ね合わせることで、その作品が自分の生活場面のどのような状況に近いのか振り返りながら没入感をもって作品と向き合うことができ、美術作品をより身近に魅力を増して感じられ、作品を鑑賞することの面白さを引き出すことができる。
 授業全体を通し、作品の検索、ワークシートへの記入、文章の考察には各自のタブレットを用いる。タブレットを使用することで作品画像の拡大ができ、作品の細かな部分をより詳しく観察することが可能である。

【指導観】
 導入時には、本題材の理解や、言葉の連想のしやすさから「モナ・リザ」と「鳥獣人物戯画」を用い、描かれている人物や対象の表情や動作などから連想される言葉「つぶやき」を考えさせる。次に複数の作品の中から班で1つ選択(抽選)し、その作品に含まれる「造形要素(造形的な特徴)」を手掛かりに読み解き、項目ごとに感じたことや印象を書き出させることで、作品への思考を深めさせる。各自が感じ取ったことは、班で持ち寄り、互いの感じ方の違いを確認したり、共感が得られるかを確認したりする話し合い活動を通し、班の「つぶやき」として一つにまとめさせる。
 その後、個人で検索した作品から「つぶやき」を考える活動に移るが、作品を検索する際には、単に面白可笑しい作品などを探すことにならないよう、国内外の主要な美術館や博物館を提示し、先ずはそれらの収蔵作品から鑑賞するよう伝える。描かれている人物を自分自身のみならず、友人や家族に置き換えたり、情景を生活場面に照らし合わせたりするなど、様々なことを連想させ、「どのようなときにこのような表情(場面)になるだろうか」と生徒に問うことで、自問自答しながら作品を探せるようにする。作品に添えるつぶやきについては、造形的な特徴から感じたことを基に考え、共感を得られるものになっているか、時折周囲の友人に意見をもらいながら、できるだけ端的にまとめるよう伝える。最終的に、選んだ作品や作者についてまとめることで本来の作品の意味や作者の意図を知り、より作者や作品に対する興味関心を高めさせる。

【資料】
①2時間目:「造形要素を手掛かりに作品を味わう活動」のワークシートと作品群

画像提供:公益財団法人大原芸術財団 大原美術館

<作品群>
・東洲斎写楽「中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と中村此蔵の船宿かな川やの権」
・エル・グレコ「受胎告知」  
・カラヴァッジョ「トカゲに噛まれた少年」
・クニップ「ピアノレッスン」  
・フェルメール「青衣の女」
・興福寺蔵「沙羯羅像」  
・ゴッホ「馬鈴薯を食べる人々」
・ホッパー「ナイトホークス」  
・深澤幸雄「小鳥紳士」
・イリヤ・レーピン「トルコのスルタンに手紙を書くザポロージャのコサック」

②3時間目:作品検索先の美術館・博物館
・東京国立博物館  
・国立西洋美術館  
・ロンドン・ナショナル・ギャラリー
・ルーヴル美術館  
・オルセー美術館  
・ウフィツィ美術館
・メトロポリタン美術館  
・シカゴ美術館  
・プラド美術館
・エルミタージュ美術館

7.題材の指導計画

学習活動の流れ

◆:指導上の留意点 ◎:評価方法
下線部:造形的な視点に関する事項

1

【提示作品の鑑賞(個人)】

○題材を把握する。
○描かれているものの表情や動作に着目し、感じたことを自由発表する。
○提示作品にぴったりだと思う言葉をつける。
・「モナ・リザ」が話しをしたら何と言うだろう。
・「鳥獣人物戯画」を見て、セリフや文章を加えてみよう。

◆他人を揶揄したり、不快を与えたりするような文章にならないよう注意させる。

2

【くじ引きで選んだ作品の鑑賞(個人→班)】

○班になり、複数の作品の中から、くじ引きで鑑賞する作品を一つ選ぶ。
○選択した作品を味わい、作品の「造形要素」から得た印象をワークシートに記入する。
・形や色彩、構成、立体もあるため人物の表情や動作などからどのような印象を受けるだろうか。

◆くじ引きによる選択とすることでゲーム性を加え、興味関心を高める。
◆作品の先入観をなくすため、参考作品の「作者」や「題名」などは伏せて提示する。
「造形要素」について参考作品とワークシートを提示し、生徒との掛け合いの中で理解させる。
◆タブレットで作品を拡大させ、より細かな部分も観察させることで、新たな気づきや発見につなげられるようにする。

○「造形要素」を手掛かりに、作品にぴったりだと思う言葉「つぶやき」を考える。

◆考えた言葉が、作品のどこから導き出されたのか都度確認することで、造形的な見方・考え方を働かせるように促す。

○班内で紹介し合うとともに、班としての「つぶやき」にまとめる。

3

【テーマに沿った鑑賞作品の選定】

○国内外の美術館や博物館の収蔵作品から、「日常生活」を連想させるような作品を複数点選び、画像をタブレット内のワークシートに保存する。

◆検索先を指定した展示施設に限定することで、単に面白可笑しい作品などを選ぶこと、危険なサイトへのアクセスを防ぐとともに、美術館や博物館に興味・関心をもってもらう。
◆インターネット上には、加工された作品もあることを知らせ、検索する際には注視させる。
◆提示した美術館や博物館のコレクションについて簡単な説明をすることで、検索しやすくさせる。

4
5

【テーマに沿って選んだ作品の鑑賞(個人)】

○既習の「造形要素」について再度確認し、前時に選んだ作品を鑑賞して、感じ取ったことやその理由をワークシートに記入する。

【ワークシート】

○それぞれの作品について、「造形要素」を手掛かりに「つぶやき」を考える。
○複数作成したものの中から、最も適した組み合わせのものを1つ選ぶ。

◆時折周囲に意見を求めるよう伝え、伝わりやすさや共感が得られているかを確認し、推敲を重ねるよう促す。
【ワークシート】

6

【作者や作品についてまとめる】

○前時で1つに絞った作品について、インターネットや教科書・資料集などで、作者や主題、制作の背景などを調べる。

7

【互いの「つぶやき」を鑑賞する】

○班でお互いの「つぶやき」を相互鑑賞する。
○自分ならどのような「つぶやき」をつけるか考え、ワークシートに記入する。

◆「つぶやき」の紹介の際には、作品のどのようなところから考えたのか説明させることで、造形的な見方・考え方を働かせるように促す。
態鑑【ワークシート】

8.授業を終えて

 これまでの鑑賞の授業では、特定の作品や作家、分野について学習することが多く、その内容も生徒の興味関心を高めるには充分と言えるものではありませんでした。今回の鑑賞「芸術作品のつぶやき」では、違った視点から芸術作品を味わったことで、作品の面白さや親近感を感じ、今までよりも生徒の美術に対する興味関心が高まったと感じました。
 2時間目の班による鑑賞活動の授業では、互いに感じ取った事柄を共有したことで、新たな視点や感じ方、作品の魅力の気付きにつながりました。エドワード・ホッパーの「ナイトホークス」を鑑賞した班は、当初「背景が暗いし、店内が明るい。人物も少ないから時間帯は夜の12時頃である」と読み取ったのですが、話を深めていく中で、「夜の12時にしては外にも店の中にも人がいなさすぎる。だから、夜中ではなく明け方なのでは?」と、さらに視点が深まるのが見て取れました。エル・グレコの「受胎告知」の作品には、「本を広げているから“勉強している”」「(右側の人物は)きれいな黄色の服を着ているし、手を挙げて呼んでいるようだ」と動作や表情、色彩感情を基に「勉強中の姉となんとしても遊びたい妹」という微笑ましい言葉を添えた班もありました。
 また、「つぶやき」の推敲中も周囲の友人に反応を聞きながら言葉を選んだり、自分の文章に共感を得られたことで嬉しそうに微笑んでいたりする姿も多くみられました。
 “つぶやき作品” の生徒の感想を見てみると、「今までこんなに多くの作品を見る機会がなかったので面白かった」「作品と言葉を組み合わせることで、作品の面白さが増した」や「作品を見ることは難しいと思っていたけど、これからはいろんな見方で作品を見ようと思いました」といった記述が多くありました。
 「美術」の面白さや魅力は “自由な発想” と、それらを受容できる “幅の広さ” にあると思います。今後もこの鑑賞活動を含めた制作活動を通し、周囲とのつながりや、自己肯定感を育んでいきたいと思います。

写真提供 ユニフォトプレス

ColBase(https://colbase.nich.go.jp/ )をもとに作成

写真提供 ユニフォトプレス

写真提供 ユニフォトプレス

写真提供 ユニフォトプレス

写真提供 ユニフォトプレス

じっくり見ると見えてくる ~そっくり葉っぱ~(第1学年)

1.題材名

「じっくり見ると見えてくる ~そっくり葉っぱ~」(第1学年/6時間)

2.題材設定の理由

 本校は福岡市の博多湾に浮かぶ能古島にある小中一貫校である。校舎は豊かな自然に囲まれており、教室から見える「能古島から見た福岡の風景」は新鮮で格別であった。このことを生徒に言うと「いやぁ、僕らは毎日見ているので…」と返答があった。そのとき、本校生徒は自然が豊かな環境に囲まれ過ごしているが、本当に自然の良さや美しさ感じているのかと疑問に思った。そこで改めて自然の良さや美しさを再認識するとともに、ものを「よく見て感じる」という原点に立ち返ってほしいと考え、本題材を設定した。

3.準備(材料・用具)

教師:学習プリント、スケッチ用紙、鑑賞プリント、はさみ、カッターナイフ、牛革、スーベルカッター、ベベラ、木槌、スポンジ、筆洗、ゴム台、穴あけポンチ、クラフト染料、布たんぽ、ヘラ、仕上げ剤(レザーコート、トコフィニッシュ)
生徒:筆・パレット(絵の具セットより)、Chromebook

4.学びの目標

【知識及び技能】
 葉っぱの形や色彩、風合いなどを捉え、革素材の特性を生かし、意図に応じて染めの効果や筆や布たんぽなどの道具の使い方を工夫して表すことができるようにする。

【思考力・判断力・表現力】
 心惹かれた葉っぱの形や色彩から感じとった自然の造形的な美しさ、そのものがもつ風合い、生命感、時間の経過などといった多様な印象やイメージから、主題を生み出し試行錯誤を通してよりよいものへ造形物と構想を練ることができるようにする。

【学びに向かう力・人間性】
 形や色彩、風合いなど心惹かれたところを葉っぱから感じとり、その特徴を捉えて心豊かに表現することに関心をもち、意欲的に取り組む態度を養う。

5.評価規準

【知識・技能】
知・技 形や色彩を理解し、染料の特性を理解し、使い方や活かし方を身に付け意図に応じて表している。

【思考力・判断力・表現力等】
 葉っぱを見つめ感じとった形や色彩、風合いの良さや美しさ、生命感などを基に主題を生み出し、構想を練っている。
 葉っぱの造形的な良さや美しさを捉え、そのものがもつ風合いや生命感や時間の経過などといった多様な印象やイメージを感じとっている。

【主体的に学習に取り組む態度】
態表 形や色彩、風合いなどを自然物から感じとり、その特徴を捉えて心豊かに表現することに関心をもち、意欲的に取り組んでいる。
態鑑 作品の良さや美しさや作者の工夫について考えるなどして見方や感じ方を広げている。

6.指導のポイント

題材観
 本題材は、形として残したいお気に入りの葉っぱを選び、その色や形から自然の美しさを感じとるとともに、多様な印象やイメージを捉え、新たなよさや美しさなどを発想し、試行錯誤を通してよりよいものへ造形物として表現する活動である。初めて出会うであろう革素材や専用の工具、染料といった道具の使用を通して新鮮な気持ちで対象物を「よく見て感じとる」ことができる題材である。

指導観
 指導に当たっては、初めに今回使用する革素材が、食用の牛の皮が使われており、命の素材であるとともに私たちの生活にも深く結びついていることを学習する。次に革素材の特性や歴史、制作で使う道具について学んだ後に、準備した葉っぱをスケッチする。その際に葉っぱそのもののらしさを捉えられるように、形や全体のバランス、葉脈の方向など部分と全体のバランスに着目させたい。染色の際には下地の色の上から別の色を重ねる方法を教師が示すことで、自分の葉っぱならばどのように行うか生徒に考えさせる。並行して、革の端切れを活用し、葉脈の線の太さや深さを表現するためにスーベルカッターの力加減の練習をさせたり、重色の表現を試させたりして、自分が感じた表現したいイメージへと近づくヒントを掴ませる。最後に仕上げ材を塗布して、葉っぱのうねりの感じを表現させる。
 本題材の要所でChromebookのスライド機能を使った振り返りを行うことで、できたことや工夫したこと、次回行うことの見通しをもたせていく。

 この活動でできたことや感じたこと、意図に応じた自分なりの工夫を記述し、次にやろうと思っていることを言語化して振り返ることで、次の制作に向けて見通しをもてるようにしている。

 完成した作品と、全体の活動を通した振り返りを行うことで、主題を表すための工夫や大切にした点を明確にする。Chromebookを活用したデジタルポートフォリオとしてまとめることで、今後の作品制作での振り返りとして活用させていきたい。

7.題材の指導計画

学習活動の流れ

◆:指導上の留意点 ◎:評価方法

事前

○作品として残したいお気に入りの葉っぱを探しておくように連絡する。

◆選ぶ際に形や色彩、その葉っぱがもつ風合いや雰囲気など心惹かれたところを考えさせる。

1

○革素材の性質や道具の使い方について学ぶ。
・牛革の半裁を見たり触ったりし「革」が命の素材であることを知る。
・身の周りにどのような革製品があるか考え、人の生活と革素材との関わりについて考える。

◆牛革について実際に見たり触れたりし、学ぶことで命の素材であることを実感させ、大切に扱う意識をもたせる。

2
3
4
5

○葉っぱのスケッチを行い、革に転写する。
・葉っぱをよく見て輪郭線や葉脈の線の形などに着目して描く。

◆葉っぱをスケッチするとともに、なぜこの葉っぱを選んだのか、どこに心惹かれたのかなどを考えさせ、言語化させる。


知技【スケッチ】
態表【様相観察】

○葉っぱの葉脈やテクスチャを表現する。
・示範をもとにセーベルカッターやべベラを効果的に使う。

◆教師が示範を行い、革の端切れを利用し、セーベルカッターやべベラでの打刻の練習をさせる。

○色の変化に着目し染料で染める。
・示範をもとに筆や布たんぽを使い、葉っぱの色や色の変化を表現させる。

◆革の端切れを利用し、彩色の際に色を重ねる順番や濃淡など練習や試行錯誤をさせる。

○仕上げ材を使って、任意の形に成形する。

◆葉っぱの形を思い起こさせ、作品をねじったり折ったりすることで表現させる。必要に応じてクリップを使い、型をつけさせる。

知技【作品】
【作品】

6

○友達の作品を鑑賞する。
・Chromebookを活用し、自分の作品を記録しポートフォリオを作成する。
・ポートフォリオと作品を並べグループで鑑賞を行い、最後に全体鑑賞会を行う。

【ポートフォリオ】
態鑑【鑑賞プリント】

8.授業を終えて

①授業者の願い
 これまでただ漠然と見ていた自然の形や色彩の美しさに対して、さらに意識して見ることで生命感や時間の経過など、これまで気付かなかったことに気付いたり、見る視点が変わったり、物事を深く考えたりするようになる。それは様々なものの本質に迫ることにつながることであると考える。この授業を通して、自分の身の周りのことや生活に置き換え、自身を見つめ、人との関わりやこれから起こりうる様々な事象などの捉え方に対して、より意識して考えてほしいと期待する。

②成果と課題
 「革」という素材やそれを加工する専用の道具を扱うことは、子どもたちにとっては初めてである。多くの子ども達がそれらの道具を使った制作活動を通して、葉っぱの形や葉脈の線、紅葉で変化する色などをよく見て、改めて自然のよさや美しさを感じ取ることができたと考える。出来上がった作品は校内に展示している。本校は小中一貫校であるため中学生がつくった美術作品を小学生が見る機会があり、早く中学校の授業を受けたいと楽しみにしている。校内での展示はもちろんのこと、地域の公民館など校外での展示も積極的に行い、より広く発信を行っていきたい。
 一方で、制作の際に十分な試行錯誤を経ずに一度の重色で満足してしまった生徒もいる。染色の途中で他の生徒と交流し、他の良さや自己の工夫の余地に気付かせる時間を十分にとることが必要だったように思う。また、終末に可能であれば落ち葉のたまっているところや水たまりの水面など、その葉っぱに合う周囲のシチュエーションを考えさせて写真を撮ることで、さらに自然の良さや美しさについて深く考えさせ、ポートフォリオにまとめることも考えられる。今後もさらによりよい展開を模索していきたい。

アマビヱとともに ~学校生活を楽しくしてくれる妖怪を考えよう~(第1学年)

1.題材名

アマビヱとともに ~学校生活を楽しくしてくれる妖怪を考えよう~

2.目標

○実際の生物や日用品などから発想を広げたり想像したりしことを基に、形や色を工夫しながら、自分の願いや希望を込めた妖怪を想像して、明るい学校生活を夢見て楽しく表現する。
○想像から生まれた妖怪を鑑賞し、そこに込められた願いや希望を踏まえながら、表現の工夫を感じ取る。

3.準備(材料・用具)

教師:アイデアスケッチのワークシート、振り返り用紙、軽量加工粘土、粘土ベラ
生徒:資料、付箋紙、水彩絵具

4.評価規準

知識・技能
 形やしぐさ、色彩、質感などが感情にもたらす効果や、造形的な特徴などを基に、想像した妖怪に託した願いや希望を全体のイメージで捉えることを理解している。
 粘土や絵の具の生かし方などを身に付け、意図に応じて工夫して表している。

思考・判断・表現
 身近な事物から感じ取った形や色彩の特徴や美しさ、想像したことなどを基に主題を生み出し、全体と部分との関係などを考え、創造的な構成を工夫し、心豊かに表現する構想を練っている。
 造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えるなどして、見方や感じ方を広げている。

主体的に学習に取り組む態度
態表 美術の創造活動の喜びを味わい楽しく表したい主題などを基に構想を練ったり、意図に応じて工夫して表したりする表現の学習活動に取り組もうとしている。
態鑑 美術の創造活動の喜びを味わい楽しく造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えるなどの見方や感じ方を広げる鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

5.本題材の指導にあたって

①当時の生徒の実態について
 隣国で猛威を振るう未知のウィルスが豪華客船で広がったと聞いても、それはまだ遠い場所での出来事に過ぎなかった。しかし2020年3月、全国の学校が一斉に休校するという事態になり、新型コロナウィルスの脅威は身近な恐怖になった。4月に入学した新1年生は小学校の最後の一ヶ月を失っただけでなく、中学校生活のスタート2ヶ月を体験出来なかった。3ヶ月に及ぶ休校から分散登校を経て漸く学校が動き出した頃にはもう、夏休みが目前に迫っていた。初めての部活動、期末テスト、慣れない中学校生活を慌ただしく過ごす新1年生は、言葉にならない疲労が溜まったに違いない。学校生活になじめなかったり不安を抱えたりしている生徒が少なくなく、落ち着きに欠ける面が見られた。再スタートとなる2学期、楽しく取り組める題材を設定したいと考えた。

②題材について
 ウィルスによる感染症が広がる世間では、妖怪「アマビヱ」が脚光を浴びていた。かつて疫病の流行を予言し、自身の姿を描かせることで厄災を鎮めたと言われる妖怪である。休校中の自宅学習で2年生にフロッタージュによる小品制作を課したところ、一人の生徒がアマビヱを描いてきた。その作品はカラーコピーして「疫病退散」の文字とともに「お札」にして学校のあちらこちらに掲示した。夏休みには妖怪が登場するドラマも放送され、生徒たちの中でのアマビヱの認知度も高くなっていた。そこで「アマビヱとともに、自分たちの学校生活を楽しくしてくれるような妖怪を考えよう」と生徒たちに呼びかけて、この題材をスタートさせることにした。「いたら楽しい妖怪」というよりは「自分の不安なことや苦手なことを解決してくれる妖怪」などを考えさせた。自分の不安や困りごとを、自分で頑張って解決するのではなく、妖怪に何とかしてもらおうということで、どこか肩の力が抜けた雰囲気で授業は始まった。
 造形のアイデアに困る生徒には、日用品や動植物の形を組み合わせることなどをアドバイスすることで、発想の手がかりをつかめるように促した。

③次時の指導に生かす振り返り
 本校の美術の時間では、コロナ禍以前から、付箋紙を用いて授業の振り返りをしている。生徒達は毎時間、活動の振り返りを付箋紙に書いて座席表に貼っていく。指導者は全員の付箋紙が貼られた座席表をスキャナーで読み込み、次時の指導に活用している。授業の振り返りには3色の付箋紙を使用している。活動に「自信がある」「満足している」生徒は青の付箋紙、「普通」「まあ大丈夫」の生徒が黄、「困っている」「質問がある」生徒がピンクの付箋紙に書く。ピンクの付箋紙に書かれた質問は、指導者が個別に対応することもあるし、授業の導入で紹介し、生徒達から解決策を提案してもらうこともある。

座席表に付箋を貼る様子この座席表はスキャナーで読み込み、次時の個別支援に役立てる

付箋紙の色によって生徒の自己評価も一目瞭然になる

6.題材の指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点 ◎評価の方法


○中学校に入学して困ったことや悩みなどを出し合う。

・自分だけでなく、誰もが困りごとをもっていることに気づき、妖怪を生み出そうとする。

・困りごとや悩みを持つのは当たり前で、それを自分の力ではなく妖怪の力で何とかしようという活動に、楽しく入っていけるようにする。
・2021年度は、導入として「私のアマビヱ」を1時間で描かせて関心を持たせた。

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○学校生活を楽しくしてくれるような妖怪を考える。

・どんな困りごとを解決してほしいか、どんなことを一緒にしてほしいかなど、創作する妖怪に託したい願いや思いを書き出す。

・簡単な困りごとからやや深刻なものまで、まずは思いつくままに書き出させる。

・図鑑などの資料をもとに、アイデアスケッチしていく。

・妖怪の姿だけでなく、しぐさや色彩のもたらす効果についても考えさせる。
・妖怪の姿形をなかなか思いつかない生徒には、託した願いに関連のある日用品を好きな動物と組み合わせるなど、違う性質のものの取り合わせを試みさせる。
・それでも思いつかない生徒には、気に入ったキャラクターなどをヒントにさせてみる。
・図鑑ではなくタブレット端末で検索することも可能。
◎(知)(発)アイデアスケッチ
◎(態表)アイデアスケッチ、観察

○お互いのアイデアスケッチを鑑賞し、感想やアドバイスを伝え合う。
・良さや工夫を見つけ、更にその作品が良くなる工夫を考え合う。

・友達からのアドバイスをもとに、アイデアを見直したり改善したりする。

・作品を作り始める前にアドバイスを伝え合うことで、制作意欲を高めさせたい。
・鑑賞に際しては、色や形、全体の雰囲気に着目させる。
・グループ活動が困難な場合は、アイデアスケッチを机に置いた状態で生徒が回りながら、付箋紙に書いて貼っていく。良いところは青、アドバイスは緑など、色を分けておくとわかりやすい。
◎(鑑)付箋紙などのアドバイスの内容
◎(態鑑)観察
・アドバイスの取捨選択も作者にとって大事な作業であることに気づかせたい。

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○軽量粘土で妖怪を制作する。

・アイデアスケッチに示した色彩計画をもとに、着色方法を考える。

・軽量粘土に水彩絵具を練り込んで色粘土をつくることで、形を作り上げてから筆で着彩するよりもきれいな仕上がりとなる。
・絵具を練り込むと淡い色調となる。濃い方が良い場合は、後から着彩すると良い。
・細かい模様は面相筆で描いても良いが、水性顔料マーカーなどを使用させると失敗が少ない。

・アイデアスケッチをもとに、妖怪の制作をする。

・表したいイメージを確認させながら形をつくらせる。
・全体を1つの塊としてつくっていくのか、パーツごとにつくって後で組み合わせるのかなど、制作の手順を考えさせる。

・作品の設置方法を考え、完成させる。

・作品自体で自立させるのか、土台に接着して立たせるのか、また、糸などで上から吊すのかなど、展示の方法を考えさせる。

・妖怪に名前を付け、妖怪辞典(作品カード)を添える。

・アイデアスケッチの段階で名前を考えさせても良い。
・制作の振り返りを書かせても良いが、妖怪の説明を書かせた方が見ていて楽しい。
◎(知)作品
◎(技)作品
◎(態表)自己評価用紙、観察

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○友達の作品を鑑賞する。

・グループに分かれ、妖怪に託した思いの説明を作者から聞いた後、作品としての良いところや工夫点を出し合う。

・仕上がった作品については改善点を出し合うのではなく、お互いの良さや工夫を認め合うようにしたい。
・グループ学習が困難な場合は、妖怪と妖怪辞典を見ながら、付箋紙でメッセージを伝え合う。
・タブレットで撮影し、その画像を見合って意見交流することも可能。
◎(鑑)付箋紙などの記述
◎(態鑑)付箋紙、観察

7.成果と課題

 生徒達はこの題材に関心をもち、意欲が感じられた。妖怪達に託した願いは「忘れ物を取りに行ってくれる」「苦手な授業の時だけ時間を早く進めてくれる」など、都合の良いものが多かったが、軽い願いだからこそ楽しく取り組めたのかも知れない。妖怪の能力は完璧ではない場合が多く、例えば「忘れ物を取りに行ってくれるが、よく間違える」「嫌いな給食をプリン味に変えてくれるが、好きな物までプリンにしてしまう」といったウィットに富んだものが見られた。また、「人前で話すのが苦手な自分の代わりに意見を言ってくれる」など、自分を見つめて何とかしたいという願いが感じられるものなどもあった。
 「アマビヱとともに」は2020年限定の題材のつもりでいた。新型コロナウィルスに苛まされた2020年のみで封印するはずだった。しかし2021年になってもこのウィルスの脅威は勢いを増している。毎日の検温、前を向いて黙食の給食、部活動中も外せないマスク。縮小や中止の続く学校行事。中学生の我慢の日々は続いている。かつての日常は戻っていない。そこで、2021年も1年生の2学期に妖怪の制作を取り上げることにした。題材名は「アマビヱとともに ~シーズン2 終わりなき戦い~」。2022年度はコロナの脅威から解き放たれることを願い、3部作の最終年として「アマビヱとともに ~シーズン3 新たなる旅立ち~」を設定する予定だ。
 2020年は恒例の市の作品展が中止になった。妖怪達が作品展の観覧者をほっこりさせるだろうと密かに期待していたのだが、出番を失ってしまった。そのことを知り合いの寺院に話したところ、年末年始に数点を境内に飾ってくださることになり、「冬のお寺に妖怪」という奇妙な展示が実現した。初詣の参拝者や相談事のために訪れた人々の目を楽しませた。作者生徒のご家族が、仏像に一礼をしながら本堂に入っていく姿は微笑ましくもあった。また、小学校6年生が中学校入学の準備を始める頃、本校の制服や体育着を扱う洋品店が、ショーウィンドウに展示させてくださった。作品展の中止が、思いがけないところでの展示を生み出し、中学生の生み出した妖怪達が笑顔を届けることになった。この2つの試みはそれぞれ、地元新聞で紹介され、記事を読んだ人がまた訪れるという効果を生んだ。

 閉塞感の漂う学校で少しでも楽しい気持ちになれるように、という考えからスタートした題材は、学校という枠をはみ出して、地元の人に楽しい気持ちを届けることになった。シーズン2もまた、校外での展示をお願いしようと考えている。
 一方で、楽しい気持ちというところに重きを置きすぎたきらいはある。例えば顔の表現では目を作り込まずペンで描いただけになっていたり、正面性が強すぎて立体としての表現が乏しくなっていたり、造形技術の指導が弱かったと考えている。また、題材の目標設定などを考えると、中1ではなく、中2で取り組ませた方が扱いやすいようにも思う。
 本市では2020年3月にタブレット端末が生徒一人一人に貸与された。学校生活を楽しくしてくれる妖怪、というそもそもの設定を考えると、制作した妖怪を作品展に展示するのではなく、その妖怪が現れそうな場所で写真を撮って、その写真を鑑賞するという終末が良いようにも感じている。タブレット端末が配布されて後、相互評価の付箋紙については、アドバイスを書いた生徒が相手の生徒に渡す前にその付箋紙を撮影し、授業支援ソフトの提出ボックスに送付しておくようにさせている。このことにより、以前に比べて、指導者が生徒の視点を把握しやすくなったように感じている。シーズン2、シーズン3を展開する中で、ICTの有効活用も模索していきたい。

「ミニチュアの世界で表現する『思い出のワンシーン』」(第3学年)

1.題材名

「ミニチュアの世界で表現する『思い出のワンシーン』」(第3学年/9時間)

2.題材設定とねらい

 ミニチュア写真家である田中達也の作品をみると、日常には面白いものがたくさん溢れていることに気づかせてくれる。普段と視点を変えることで生まれる新たな世界や、見立ての面白さを生徒たちにも味わってもらいたいと考え、題材を設定した。自分なりに見つけた造形的なよさや面白さ、感動を、自分の作品づくりや鑑賞活動にもつなげることができれば、表現活動の幅も広がると考えている。中学3年生にふさわしく、自分の身の周りだけではなく、他者や社会との関わりを意識したりこれまでの経験を関連付けたりして、主題を生み出せるようにしたい。

3.準備(材料・用具)

教師:紙粘土、芯材(針金や紙など)、撮影用カメラorタブレット端末、電子黒板orスクリーン
生徒:筆記用具、スケッチブック、ポスターカラーorアクリルガッシュ、面相筆、校舎内外で見つけた見立ての素材

4.評価規準

知識・技能
 形や色彩などの性質や、それらが感情にもたらす効果、造形的な特徴などから全体のイメージや作風などで捉えることを理解している。
 素材の特徴や表現効果を理解し、意図に応じて工夫し創造的に表している。

思考・判断・表現
 お互いの思い出の場面やその時の気持ちなどを共有する中で、自分自身の内面と重ねて主題を生み出し、感じ取ったことや考えたことを自由に工夫して構想を練っている。
 見立てによるミニチュアの世界の造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えるなどして、見方や感じ方を深めている。

主体的に学習に取り組む態度
態表 態鑑 自然物や人工物を別のものに見立て新たな世界を表現することの喜びを味わい、素材がもつ造形的な美しさやおもしろさなどを基に表現したり鑑賞したりする学習活動に取り組もうとしている。

5.本題材の指導にあたって

 本題材は、ミニチュア写真家である田中達也の見立てによるミニチュアの世界を味わい、その世界の中で自分自身の中学校3年間の思い出の場面を表現するというテーマで主題を生み出し、表現する活動である。学習指導要領では、A表現(1)ア(ア)について、[第2学年及び第3学年]は「対象や事象を深く見つめ感じ取ったことや考えたこと、夢、想像や感情などの心の世界などを基に主題を生み出し、単純化や省略、強調、材料の組合せなどを考え、創造的な構成を工夫し、心豊かに表現する構想を練ること」が求められている。主題設定の場面では、お互いが感じていることを自由に語り合いながら、3年生としてこれまで培ったものや、仲間と共に頑張ってきたこと、努力や葛藤そして未来への期待や憧れなどを表現できるような主題を考えさせたい。また、グループで見立てのアイデアを出し合う中で、新たな発見をしたり、それぞれの思い出を尊重しながら話し合ったりすることで、生徒の内面から主題を引き出していきたい。
 見立てや全体のイメージなどの構想を練る場面では、主題の中心となるものをどのように表現するのか、素材や色彩、撮影場所などを十分に話し合わせ、構成を試行錯誤しながら表現の組み立てを工夫させたい。その際、スケッチブックに自分の感じたことや考えたことを自由にアイデアスケッチすることで、構想を練ることができるようにする。
 ミニチュアの人形を成形する際、紙粘土や針金の他に様々な材料や用具の特性を生かして具体的な形を成形させたい。また、温かさ、優しさ、激しさなどの感情にもたらす効果も考えながら、自分の意図に合う表現方法を模索し、創造的に表現できるようにしたい。
 鑑賞の場面では、「見立て」「色彩」「構成」などのいくつかの鑑賞の視点を設定し、造形的なよさや美しさを感じとれるようにする。見立ての工夫や材料の使い方などの表現の工夫にも着目しながら鑑賞し、お互いの作品のよさや美しさなどの価値を、生徒同士で発表し批評し合い、新たな発見を導くなど、深い鑑賞活動につなげたい。

6.題材の指導計画

学習活動の流れ

◆:指導上の留意点 ◎:評価方法
下線部:造形的な視点に関する事項

1

○PCやタブレット端末で、田中達也の「MINIATURE CALENDAR」(ミニチュアカレンダー)を鑑賞する。
https://miniature-calendar.com/about/
○身近にあるものを別のものに見立てて新たな世界をつくっていることに気づく。

◆鑑賞の際には、見立てに着目するよう促す。
◆自分が注目した作品について、グループ内で意見交流させる。
 「見立て」という言葉を用いて田中達也の世界を紹介することができる。
▶発問例「どのようなものを使って、どのような場面をつくっていますか。」「どのような視点で見ていますか。」「作品のタイトルやコメントにも注目してみよう。」
態鑑 自然物や人工物を別のものに見立てて新たな世界を表現することの喜びを味わい、学習活動に取り組もうとしている。
【ワークシート】自分が気づいた見立ての面白さの記述。

2~3

この時間からグループ活動
○テーマを決定する。
・3年間の活動を振り返り、お互いの思い出を自由に語り合う。
・ミニチュアの世界で表すテーマを決める。共有したそれぞれの思い出を合わせてテーマをつくることも考えられる。
○校舎内外を巡り、見立てができそうな場所や素材を見つけて話し合う。

◆お互いの思い出についてその場面や気持ちなどを共有し合い、尊重しながら聞くように促す。
【ワークシート】自分の思い出の整理。その後の話し合いの土台とする。

○アイデアスケッチをする。
・表現方法や仕上がりのイメージなどについて、構想を練る。
・スケッチブックにミニチュア人形の構想や見立てのアイデアなどを書く。

生徒のアイデアスケッチ。人形の配置や撮影における詳細など、具体的に記載している。

生徒のアイデアスケッチ。ジェットコースターを楽しむ場面。黒板の引き出し(チョーク入れ)をコースターに見立てている。

◆人形の詳細や、場面について、具体的にアイデアスケッチをさせる。
 思い出の場面を話し合い、人形の構想や見立てのアイデアスケッチをしている。

4~7

○紙粘土で人形を作る。
・針金や紙を心材にし、周りに紙粘土を少しずつ貼り付けながら人形を形成していく。
・人形に着彩する。

◆針金や紙粘土の扱いを説明する。
表現方法の工夫(色、形)を見つけることができる。
 材料や用具の特性を生かして人形を形成しようとしている。

8
(本時)

○場所や素材と組み合わせて、撮影をする。
・テーマに沿った場所や物を用意し、作った人形と合わせてミニチュアの世界を表現し、撮影する。

釜石で行われた「ラグビーワールドカップ」を観戦した思い出。
・昇降口の砂落としを芝生に見立てている。
・ゴールはストローで作成。

体育祭の「アピール応援」の発表場面。
・朝礼台の錆を土に見立てている。
・鉢巻や旗などは色紙等で作成。
・アングルや配置を工夫して撮影している。

撮影のアングル(角度)人形や材料等の配置の工夫を話し合い、試行錯誤しながらより良い構成を考えられるようにする。
臨場感の表現、人形目線などの工夫、その世界の中でどこにスポット(=ピント)を当てるか、など。
▶発問例「ミニチュアの世界に住む人形になったつもりで、目線やスケール感を変えてみよう。どのように印象が変わるかな?」「リアリティのある表現のためには、どのような目線で見れば良いかな?」

9

○ミニチュアの世界を発表する。
・グループごとに、完成したミニチュアの世界の写真を、モニターに映して発表する。

◆それぞれの思い出を表現するために、どのような工夫をしたか、具体的に発表できるようにする。

・発表を聞き、自分の感じたことや作品についての考えを書いたり述べたりする。

◆生徒がワークシートに自分の感じたことや作品についての考えを書きながら鑑賞できるようにする。
◎それぞれのグループの見立ての工夫や造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えるなどして互いの作品を深く味わおうとしている。

7.本時の学習

①目標
・素材の特徴や表現効果を理解し、意図に応じて工夫し創造的に表す。
・部分や全体に着目して構成の仕方を試行錯誤しながら表現の組み立てを工夫していく。
・何かを別の何かに見立てて新たな世界を表現することの喜びを味わう。
・活動の中で、その時の状況や感情を再現したり思い出を分かち合ったりする。
・素材がおりなす造形などを基に表現する学習活動に取り組もうとする。

②学習展開

主な学習活動・内容

◇指導の工夫や教師の支援
◆評価の留意点

○本時の内容の確認。
・本時の学習課題を確認する。

◇学習課題「場所や素材(自然物、人工物)と組み合わせて、写真を撮る。」を提示する。

・グループごとに写真撮影のための構成を確認する。

◇生徒がワークシートやスケッチブックを見て、全体のイメージを確認できるようにする。

○撮影場所へ移動し、構成を考えながら撮影する。

・実際にミニチュア人形や材料を配置して構成を考える。

◇グループ内で思い出の場面をふり返り、テーマに近づくような材料、色彩の組み合わせや視点を話し合いながら、構成を決められるようにする。

・グループ内のメンバーの色々な視点を取り入れて、構成を工夫する。

◇色々な視点やアイデアを取り入れ、グループ活動の良さを生かせるようにする。
◆構成を話し合いながら、その時の状況や感情を再現したり思い出を分かち合ったりする。
◆部分や全体に着目して構成の仕方を試行錯誤しながら表現の組み立てを工夫している。

8.他の作品例

 2023年度制作の生徒作品例(大槌学園にて)。学校内での一場面に限らず、修学旅行等の校外学習や休日の思い出など、より多様な場面を対象とした。
 全員分の「コメント付き作品シート」をボードに張り付けて展示した。
 展示にあたっては、田中達也の鑑賞画(日本文教出版発行)も活用している。

『東京スカイツリー』

生徒のコメント
「ホチキスの針をビルに、シャープペンシルを東京スカイツリーに見立てて、東京の街並みを表現しました。東京スカイツリーを見に行ったとき、高所恐怖症で怖い思いをして一番思い出に残っているので再現しました。」

『海での思い出』

生徒のコメント
「青いペットボトルの光の反射を海に、綿を波に見立て、海岸で遊ぶ様子を表現しました。
夏休み、友達と海で遊んだことが思い出に残っているので、その場面を見立ての世界で表現しました。光がきれいに反射する位置を調整し、影を作ることを工夫しました。」

『夜景』

生徒のコメント
「ホチキスの針をビルに見立てて、東京の街並みを表現しました。修学旅行の夜に実際に見た東京の街並みが凄く綺麗で感動しました。その光景が心に残っているので、その場面を見立ての世界で表現しました。ホチキスの高さや位置を工夫してリアルにビルに見えるように再現しました。」

『寝心地良き』

生徒のコメント
「クリップを新幹線の座席に見立てました。ほかにも、ホチキスの針をビルに、セロハンテープを窓に見立てました。新幹線の上から、見下ろしているという構図で撮りました。」

『Ruler Miraikan』

生徒のコメント
「定規を未来館のガラスの手すりに見立てて、真ん中に大きな地球を見上げているところを再現しました。入ってすぐ見上げると、巨大な地球型スクリーンがあり、初めて見た時の衝撃を遠くから見たような構図で表現しました。」

「命を守るハザードマップ」(第2学年)

1.題材名

「命を守るハザードマップ」(第2学年/7時間)

2.題材設定とねらい

 東日本大震災から10年目となる節目の年に、「いわての復興教育」副読本『いきる・かかわる・そなえる』を基にして自分たちの住む地域の安全を考察し、防災のピクトグラムを制作することで、美術の力を生かした街づくりを行う。なお、デザイン制作には、アプリ『SketchBook(スケッチブック)』(Autodesk社)を使用する。自らデザインした作品をプレゼンテーションで発信することで、地域の安全・防災への意識を高める教育を展開したい。

3.準備(材料・用具)

教師:タブレット端末(iPad)、ハザードマップ、モニター、スクリーン
生徒:タブレット端末(iPad)、教科書、美術資料集、スケッチブック、筆記用具
※使用アプリ『SketchBook(スケッチブック)』(Autodesk社)
 無料の描画アプリ。写真を取り込みその上から作業できるため、アイデアスケッチからデザイン制作に移りやすい。

4.評価規準

知識・技能
 形や色彩などの性質及びそれらが感情にもたらす効果、住んでいる地域、造形的な特徴などを基に、全体のイメージで捉えることを理解している。
 材料や用具の特性を生かし、意図に応じて表現方法を追求して、制作の順序などを総合的に考えながら、見通しをもって創造的に表している。

思考・判断・表現
 自分たちの住む地域の安全のために、伝える相手や用いる場所などのイメージから主題を生み出し、形や色彩などが感情にもたらす効果や、分かりやすさと美しさなどとの調和、統一感などを総合的に考え、表現の構想を練っている。
 目的や機能との調和のとれた洗練された美しさなどを感じ取り、作者の心情や表現の意図と創造的な工夫などについて考えるなどして、美意識を高め、見方や感じ方を深めている。

主体的に学習に取り組む態度
態表 美術の創造活動の喜びを味わい主体的に主題を生み出し、ピクトグラムの統一感などを総合的に考え構想を練り、意図に応じて創意工夫し見通しをもって表す表現活動に取り組もうとしている。
態鑑 美術の創造活動の喜びを味わい、主体的に、目的や機能との調和のとれた洗練された美しさなどを感じ取り、作者の心情や表現の意図、創造的な工夫などについて考えるなどして、鑑賞の学習活動に取り組もうとしている。

5.本題材の指導にあたって

 岩手県は、2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた。常に防災や災害に目を向けていく大切さを感じてもらいたい、発信してもらいたいと考え、本題材を設定した。“あの大震災”を風化させないことにもつながると考えている。デザインの伝達では、第1学年は対象を身の回りの人たちに設定しているが、第2・3学年では対象を広げて、社会一般の方々(国籍や年齢などにかかわらず様々な人)の立場に立ち、受け手の感じる印象を考えながら、「何のために」、「どのような方法で」「誰に伝えるか」を考えた制作を行っていきたい。
 私たちの住む盛岡市は、過去に台風などによる川の増水で度々被害を受けてきた地域である。過去の盛岡市内の災害情報を調べる中で、命を守ることへの重要性を感じ取った生徒から「自分の住む場所が実は5mの浸水想定区域ということを知らなかった」という意見が出てきた。まず、現在のハザードマップの情報を確認して足りない情報は何かを考えさせ、そこから美術の力を生かした取り組みとして、ピクトグラムの制作によりハザードマップや自分たちの住む町の情報を分かりやすく整理していきたいと考えた。
 「赤い円に斜線」は禁止、「黒枠のある黄の三角」は注意、「青い円」は指示(秀学社『美術資料』p.67「日本工業規格(JIS)のピクトグラム」)といったことからマークのルールや原則を学習し、デザインや配色計画などを行い、形や色彩で分かりやすく情報を直感的に伝えるためにはどのようにしたら良いかを考察させる。

生徒作品。「日本工業規格(JIS)」の原則に基づいて制作している。
左)災害が起きたら家に戻らない。浸水区域に戻らない。〈禁止〉
中央)ここは浸水区域である。家の高さまで水が来る可能性がある。〈注意〉
右)川が増水したときは、低いところから高いところへ移る。〈指示〉

 ピクトグラムの制作ではICTを活用した。器用でなくても思い通りにデザインを進めることができること、作業をレイヤーごとに区分けできるため制作の見通しが立てやすいこと、様々な配色を試したり、やり直したりするのも容易であること、作業の中で自然に単純化が進むことなど、デザイン分野では大きな利点がある。

 最後に、ハザードマップ上に完成したピクトグラムを載せて「命を守るハザードマップ」を制作し自分の伝えたい情報を整理する。また、Google「ストリートビュー」や現地の写真の上にも載せることで、標識としての適切な活用の仕方も考える。完成したハザードマップは、校内に掲示すれば、活動を通して知ることができた危険をより多くの人に周知する手立てとなり得る。

6.題材の指導計画

学習活動の流れ

◆:指導上の留意点 ◎:評価方法
下線部:造形的な視点に関する事項

1

・盛岡市のハザードマップの読み取りを行い、自分の住む地域の危険性を知る。

◆浸水区域やその他の災害の危険性が無いかを確認するよう促す。

・ハザードマップ上に必要だと思うピクトグラムを4人グループで話し合う。

◆ハザードマップから感じた視覚的に足りない点などを中心に話し合うようにする。

・「JIS」のピクトグラムの原則を基にしながら、視覚的に分かりやすい作品にはどのような特徴(形・構成要素・色彩など)があるかを考察する。

視覚的に分かりやすい作品の形や、色彩の特徴から受ける印象を捉えるよう促す。
 造形的な視点から、伝達のデザインに関して、統一感などについて理解しているかどうかを見取る。形や色彩などの効果を具体的に示しながら指導を行う。【発言の内容、ワークシート】
▶発問例「求める行動が伝わりやすい形(構成要素および全体)は、どのようなものが良いだろうか?」「伝わりやすい色遣い・配色は,どのようなものだろうか?」
 ピクトグラムの表現の意図と創造的な工夫について考えているかを見取る。見方や感じ方を深めるために 〔共通事項〕の視点をもたせた鑑賞となるようにする。【発言の内容、ワークシート】

2

・アイデアスケッチを描く。禁止、注意、指示それぞれの違いが分かるよう分類する。
・配色計画を立てやすいように色鉛筆で試し塗りを行う。

◆禁止マーク、注意マーク、指示マークに分類しながら相手にとって伝わりやすいデザインはどのようなものであるかを確認するようにする。
◆見やすいかどうか、伝わるかどうかなどの印象や、アプリでの作業を見越して、配置やレイヤーの区分けなどを考えるようにする。
 伝える場面や場所などのイメージなどから主題を生み出せているかどうかを見取る。必要な生徒には、伝達デザインの目的や意味、自分たちの住む地域の特色などを再度確認するように促す。【アイデアスケッチ】
態表 主題を生み出そうとする態度を見取る。【アイデアスケッチ、活動の様子】

3~5
(本時)

・描画アプリ『SketchBook』にアイデアスケッチを取り込み、デザイン制作に移る。主題を定め、アプリ内機能を使用して直線や曲線を描く中で単純化や省略を行いながら、デザインをまとめていく。塗りつぶし機能で彩色をしてピクトグラムを完成させる。

◆主題が相手に伝わるデザインであるかを常に意識するように促す。
◆タブレット端末を生かした制作となるよう、正確に描いていくよう指導する。
◆制作中は友達と相互鑑賞し、さらに伝わりやすくするためにはどのようにすればいいかを考えるようにする。
 形や色彩が感情にもたらす効果を生かし、意図に応じて表現方法を創意工夫しているか、制作の順序などを適切に考えられているかを見取る。必要な生徒には、発想や構想を確認するなどして表現の工夫などについて考えるよう促す。【作品】
▶発問例「表現の意図を正確に伝えるために工夫できることは何だろうか?」
「形の単純化や省略、要素の配置、配色などについて判断する上で大切な視点は、どのようなものだろうか?」
態表 主体的に表現方法を創意工夫したり、見通しをもって表そうとしたりする態度を見取る。必要な生徒に対しては、形や色彩における印象の違いなどに気付かせながら、表現の工夫を高めていくような指導を行う。【作品、活動の様子】

6

・過去の災害などの事例を基に、現在使われているハザードマップ上に作成したピクトグラムを載せて「命を守るハザードマップ」を制作する。

・Google「ストリートビュー」や現地の写真を活用し、標識として掲示する場合の適切な場所や配置の仕方も考える。

◆命を守るためという視点で、自分がどのような意図をもって制作し、どのような効果が期待されるかなどを改めて考えるよう促す。
 ピクトグラムの効果や、全体のイメージで捉える必要性を理解しているかどうかを見取る。必要な生徒には具体例を示すなどの指導を行う。【ワークシート、発言内容】
態表 作品の造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えることなどができているかなどを、取り組む態度とそれぞれ見取る。必要な生徒に対しては、主題から作品を見つめ直すなど作者の心情に迫るよう指導する。【発言の内容、ワークシート、活動の様子】

生徒作品。浸水の危険を伝えることで早い避難を促す。

・自分の制作意図や主題についてプレゼンテーションを行う。

◆プレゼンテーションでは、声の大きさに気を付けるように指導する。分かりやすい発表内容となっているかに注目するよう促す。

7

・作品の相互鑑賞を行う。
・事後活動の中で、自分の制作したピクトグラムが他の地域でも運用可能かどうかを考える。
・自分の制作したハザードマップについて事後アンケートに答えながらまとめの活動を行う。

◆盛岡市と他地域(例えば沿岸地域)との、人口や地理的条件、想定される災害などの違いに着目するように促す。
◆「禁止」のマークばかりでは抑止力となるのかという問題や、現在法律で規定されている標識の位置は適当かなど、発展的な見直しを促す。
態表 作品の造形的なよさや美しさを感じ取っているか、作者の心情や表現の意図を考えているかを見取る。自分の制作したピクトグラムがどの地域にも生かせるかなど、さらに見方を広げるように指導する。【作品、ワークシート、活動の様子】

7.本時の学習(3~5時間/全7時間)

①目標
 自分たちの住む地域の命を守るという視点をもった制作活動であることを確認させる。タブレットを使用して、他者に伝わりやすいピクトグラムの制作を行う。主題を意識し、視覚的に伝達するためのデザインとしてより多くの人に伝わるよう単純化や省略などを行い、意図をもって丁寧に色塗りをし、ピクトグラムを完成させる。

②学習展開

主な学習活動・内容

◇:指導の工夫や教師の支援
◆:評価の留意点

・タブレット端末の準備を行い、グループごとにアイデアスケッチの鑑賞を行う。どのようなデザインが視覚的な効果があるか、意味が理解できるかなどの話し合いを行う。
・デザインの制作を進める上で必要な知識や考え方をクラス全体で確認する。

◇アイデアスケッチの鑑賞の際には、どの場面で使用されるものか、情報が伝わりやすくするには、どのようにしたら良いかを考えるよう促す。
◇ピクトグラムの原則やグループ内での話し合いの内容を基にしながら、災害時に使用するデザインとして視覚的に訴えるための形や色彩を考察するよう指示する。
◆主題を基に制作をする中で、伝える相手や地域の特徴など、具体的な内容について考えているかを確認するようにする。

・アイデアスケッチを写真で撮り、アプリ『SketchBook』に取り入れた上からピクトグラムの制作を行う。
・単純化や省略が自然に行われていくように、アプリ内の機能(「直定規」や「円定規」、塗りつぶし機能)を生かしながら制作を進める。
・配色などの効果を試しながら、より多くの人に伝わりやすくするためにはどのようにしたら良いかをさらに考える。

生徒作品。増水時は川に近づかないよう促すピクトグラム。川岸の看板に書かれていた内容を視覚的に表した。

◇写真は、角度の調整やトリミングなど、制作しやすいかたちに整えるよう伝える。
◇線の適切な太さなども考えるよう促す。
◆主題を基にした発想や構想を確認する。形や色彩が感情にもたらす効果を生かし、意図に応じて表現方法を創意工夫しているか、制作の順序などを考えて表しているかどうかを確認する。
◇グループ内での対話を活発化させるようにする。

(Autodesk screen shots reprinted courtesy of Autodesk, Inc.)
『SketchBook』の操作画面。取り込んだ写真の上から作業できる。

◆国籍や年齢にかかわらず、誰に対しても伝わりやすいピクトグラムとなっているか確認する。

・まとめとして自分が制作した作品を考察し、友達の意見などを参考にしながら次の時間へとつなげていく。

◇友達の考えも取り入れ、次の時間の見通しをもってもらう。

多様なコミュニケーション能力の育成のためのアーティストによるワークショップ(第2学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.単元名

多様なコミュニケーション能力の育成のためのアーティストによるワークショップ
~美術作品鑑賞と演劇のコラボレーション~

2.問題の提起と研究の目的

 生徒たちがこれから生きていく世界は,国際化や少子高齢化等が加速度的に進み,異文化コミュニケーションや世代間コミュニケーションが強く求められる時代となる。そのような世界では,上手く描くであるとか,美しさを模倣するといった技術的なことはさして求められない。もっと根源的なこと,「想像力により,人間関係を構築していく力」「人と人をつなぐための能力」が最も必要とされる。換言すれば多様なコミュニケ―ション能力の育成が求められる。
 多様なコミュニケーション能力を育成するためには,「物事を決まった一方向から見るのではなく,別の視点で見ていくこと」が必要である。そのことにより固定概念から脱却し,物事の意味や価値を新たに見いだすことが可能になる。「固定概念からの脱却と新たな価値や意味の発見」は,今までとは違う「オルタナティブ」な考え方でものを創りだそうとする姿勢をはぐくみ,多様なコミュニケーションを生むことに繋がると考える。
 しかし,生徒たちが1日のほとんどを過ごす学校や学級は,教師と生徒だけという閉ざされた特殊な世界である。そして,教師はどうしても一応に物事をとらえ,同じような考えや行動に縛られがちで,固定観念に囚われがちである。また,学校は生徒にとって日常そのものであり,日々同じような生活が繰り返される。このような環境の中では,多様なコミュニケーション能力を育成することは容易ではない。そこで,学校における「非日常性」あるいは「変化」を生徒に提供し,多様なコミュニケーション能力の効果的育成のため,学校教育の中にアーティスト(ここでは現代美術作家をさす)によるワークショップの導入を試みることとした。
 アーティストは,新しいものを創り出す事を生業としている。そのような人物と出会いともに活動することは,生徒たちにとって,当たり前となっている日常生活や閉塞的な思考を見つめ直す絶好の機会となる。いつもとは違った視点で物事を考え,新鮮なまなざしを持って世界を見ると,今までとは違う「オルタナティブ」な生き方を見つけられるようになる可能性が広がる。このような活動を通して,生徒たちは自ら,多様な視点で物事を見ることの意味を知るとともに,世界感を広げ,多様なコミュニケーション能力の重要性を深く認識できると期待する。

3.これまでの研究実績

 筆者は,過去2カ年にわたり文化庁の予算により「オルタナティブな視点の獲得」と「多様なコミュケーション能力の育成」を目的としたアーティストによるワークショップを以下の通り実施してきた。

(1)平成24年度(2012年)
 京都造形大学教授・椿昇氏とシロくま先生を講師にワークショップ「新写生会」を実施

(2)平成25年度(2013年)
 アーティスト・山本高之氏を講師にワークショップ「Boxing」を実施

(3)平成25年度(2013年)
 アーティスト・山本高之氏を講師にワークショップ「ふつうの門」を実施

 これらの実践を通して,まず美術の時間における生徒たちの変容が見られた。以前は,美術的価値は美しく描いたり上手くつくったりすることだと考えがちであったが,自分自身の想像力で新しい何かを創造することの価値に気づく生徒たちが現れてきたのである。このことは,今後美術の授業を越えて様々な場面で新たな価値を見いだすことに繋がる。また,画一的で閉塞的になりがちな学校や授業から,多様な価値を認められる学校や授業へと変化する兆しが見え始めている。このような変化を確実に生徒の力とするためにも,今後,継続的・効果的な事業として,さらなる実践を重ねることが求められる。
 その一方で,いくつかの課題や問題点も感じることとなった。最大の問題は,アーティストの情報やワークショップの内容に関する個々の資料が,一カ所に体系的に構築されていないため有効活用できないということである。ワークショップの目的を達成するために,それらは最も重要な要素であるが,そのデータの不完全さや希薄さから,現場の教師はその開催を断念せざるを得ないという実情がある。また,ワークショップが単なる実技指導に終わりがちで本来的意義の達成に至らないことも多々ある。派遣事業という制度はできたが,その中身の充実は開催者に一任されているため,現場は手探りの状態であり,理想的で効果的なワークショップとはほど遠い現状がある。そこで,学校におけるアーティストによるワークショップを公開実践し,その中で明らかになる効果や課題についての研究協議を通して,学校におけるアーティストによるワークショップの質的向上とさらなる普及につなげることとした。

4.平成26年度の取り組み

 平成26年度は,美術鑑賞に「演劇」のコラボレーションを実践した。その内容は,20点あまりのアートカードの中から作品1点を選び,「描かれた場面のその後,その前」や「画面の外に広がる光景」などを各チームで想像して劇を創作し上演するというものであった。チーム構成は,出席順で男女混合の6~7名程度とし,下記の通り,3日間の日程を組みプロの劇団員を講師に迎えて行った。
 また,期間中に公開ワークショップと研究協議会を設け,他機関への普及や連携を拡大していくこともその目的とした。

(1)日程
 ワークショップ:平成26年12月1日(月)~3日(水)(全9時間)
 振り返り:平成26年12月4日(木)(1時間)

(2)ワークショップアーティスト
 ・大原渉平氏(劇団しようよ/NPO法人フリンジシアタープロジェククト)
 ・紙本明子氏(劇団衛星/ユニット美人/NPO法人フリンジシアタープロジェククト)
 ・三田村啓示氏(空の驛/NPO法人フリンジシアタープロジェククト)

(3)公開ワークショップ及び研究協議会
 平成26年12月2日(火)5限,6限

(4)研究協議会指導助言者
 ・蓮行(劇団衛星代表)
 ・五島朋子(鳥取大学准教授)

5.評価基準

関心・態度
・自分の発想や意見・考えを積極的に発言するとともに友人の考えにも耳を傾ける。
・それぞれが主体性を持ってチームの意見をまとめ,より良い劇にしていこうとする。

発想・構想の能力
・鑑賞者に伝えたい内容を,正確かつ効果的に表現するために,台詞や動作などを発想力豊かに考えて構想を練り,創造的な劇の構成を考える。

創造的技能
・自分及びチームのメンバーの役柄や劇の各場面を総合的にとらえ,台詞の言い回しや表情・動作等の効果的表現方法を獲得する。

鑑 賞
・自分のグループ及び各グループの演劇作品について,自分の考えや意見・感想を口頭又は文章で表現できるとともに,自他の考えの良さや視点の違いの面白さに気付く。
・演劇の元になった作品をより詳しく研究するなど主体的・積極的に鑑賞を深め,芳醇な美術作品の世
界を楽しむ。

6.単元の指導計画

学習活動・内容

指導上の留意点

12/1
1/9h

・事前準備:ムンクの《叫び》を元に,ワークシート(資料1)にそって物語つくりの練習をする。
・チームごとに,アートカードの中から作品を1点選び,「描かれた場面のその後,その前」や「画面の外に広がる光景」等を想像して,起承転結を意識した物語をつくる。大まかなストーリーが出来たら,プロットを作成する。

・物語が絵から逸脱しないよう伝える。

・ワークシート(資料2,資料3)を用意するが,それにこだわり過ぎず,スムースな話し合いのための補助的利用とする。
・画中の様々なモチーフ(人,動物,室内外の風景など)をよく観察し,それらをうまく活用するよう伝える。

・コミュニケーションゲームを行う。(第1回目)
「バースデーチェーン」「エナジー回し」「歩く&とまる&手拍子の数でチームをつくる」などテーマに従い演技をする。
・物語をつくっていくワークを行う。
ナイフとフォーク・公園・猛獣使い・殺人現場…など,だんだん物語をつくっていけるようなワークをする。

・一枚の絵をつくっていくワークを行う。
・劇の脚本を作成する

・多くの人とのコミュニケーションを図るため,言葉や身体・表情などを工夫して使うよう指導する。
・形態は円とし,「その中心で演技をする」,「動作を順番に回す」などして,自分自身の動きを友人に披露するとともに,友人の動きも観察できるようにする。

・劇作りの基礎を体験するトレーニングとする。演技の場に一人,また一人と入っていき,全員が演技に係わることで完成する内容とする。
・ワークシート(資料2,資料3)を使ってさらに作業を進める。チーム名や構成も考えるとともに,どんな絵画をテーマにしたか等も発表する。発表することで,お互いに刺激を受け,創作意欲を高める。

12/2
3/9h

・発声練習と体をあたためるコミュニケーションゲームをする。(第2回目)
・劇の脚本を完成させ,配役をきめて演技練習をする。

・導入とする。

・それぞれが相互に意見やアイデアを交換しつつ脚本を制作させる。唐突な場面展開や,台詞の不自然さなど細部にも注意させる。

12/3
2/9h

・発声練習と体をあたためるコミュニケーションゲームをする。(第3回目)
・演技練習の続きを行う。
・講師に一度見てもらい,助言を受ける。

・この時間のうちに立って稽古することを目標とする。
・通し練習をするチーム,完成に向けた細部をつくるチームなど,それぞれの実態に合わせて指導・助言を行うことで劇の完成にむかう。

12/3
1/9h

・チームごとに劇を発表する。
劇の発表終了後,どのアートカードを元に制作したのかを考える。

・講師先生のまとめを聞く。

・各チームの持ち時間は5分以上10分以内とする。
・発表の順番は,鑑賞者の集中力や興味・関心を維持させるために,指導者側が決める。
・元になった作品の確認は、数枚のアートカードから選ぶクイズ形式とする。

・各チームの良かった点と少しの改良点を聞くことにより,自分たちの劇を客観的にとらえさせる。

12/4
1/9h

・ワークショップの振り返りをする。

・ワークシート(資料4)にそって振り返ることで,自分たちや友人の作品を分析的かつ冷静に批評させる。

7.まとめ

 生徒たちは,導入で行ったコミュニケーションゲームに,最初は戸惑いをみせたり,恥ずかしくて上手く参加できずにいた。しかし,やがて身体と気持ちがほぐれていき,大きな声を出したり,楽しみながら動けるようになっていった。
 また,一枚の絵から物語をつくあげることは,生徒にとって難度が高かったようだが,チームで意見を出し合い,協同して作品を作り上げることに喜びも感じていた。講師先生方の適切なアドバイスを受けることで,「いい劇をつくりたい」という意欲が高まっていった。少ない人数ではあったが,自分たちの劇の元になった美術作品への興味関心が高まり,作品について調べたりするなどの自発的な行為も見られた。また,人前で思いっきり演技ができたことに,普段の授業では味わうことが少なかった喜びと満足感を覚える生徒が多かった。
 公開授業を行ったのは,全体として,男子は元気が良く女子は非常におとなしいという学級であった。当初は,女子は控えめで男子が積極的にリードしていたが,やがて女子が変わっていった。劇作りのための話し合いや演技練習を繰り返す中で,「観客に見てほしい」とか「よりよい劇にしたい」という向上心が生まれていったようだ。その証として,講師先生に自分たち演技の客観的評価を求める姿が多くみられた。「ワークショップの振り返りを見ると,苦手なことに挑戦する事の意義を感じている生徒が多数いた。また,アーティスト(今回はプロの俳優)に,自分ではいいとも悪いとも思わないような変な所を褒められた不思議な経験も,多様な価値観を知ることに繋がり,刺激となっていたようだ。
 鑑賞という点では,劇の元になった美術作品への興味・関心がまだ薄いということ,また,劇の元が美術作品でなければならないという必然が無いことも反省としてあげられる。今後は,生徒により多く作品の情報を与えるとか,歴史画など作品のテーマを決めて演劇を作り上げるなど方法を考えてみたい。そうすることによって,本授業がより確かに美術鑑賞教育の中に位置づけられる可能性が高まると考える。
 この演劇ワークショップの振り返りを見ると,生徒たちは他者への積極的働きかけの一手法としての演劇の効果,またこの活動を通して得られた喜びや満足感,充実感に心地よい疲れと達成感を覚えていたことがわかる。特筆すべきは,演技者と鑑賞者の双方が,このワークショップに楽しさを感じた点である。単純ではあるが,楽しいというのは良質の経験である。楽しさは自発性を生み,さらなる自己表現へと続いていく。そしてそれは「他者へ伝える力」や「協力する力」へと繋がることが期待される。多くの生徒の感想にも,想像力を持って創造することが,人と人をつなぐ大きな力となることを体感したという内容の記述があった。
 現代社会や地域の抱える課題を先鋭的かつ独自の視点でとらえるアーティストによるワークショップは,固定概念からの脱却と新たな価値や意味の発見を意図して行うもので,生徒にオルタナティブな視点を育成するために非常に効果的である。研究協議会には,大学職員,博物館学芸員,アートNPO職員,劇団関係者,中学校の教員等の参加があり,幅広い情報交換や人的交流ができた。特に県内外のアーティストに関する多くの情報を保有する県立博物館から情報提供や助言をいただき,協力体制の強化が図れたことは,継続的・体系的な事業の展開にとって非常に有意義であった。加えて,ワークショップの開催の目的や意義について参加者同士共有が図れたと共に,人と情報のネットワークが整い,今後の幅広い活動や課題解決のための協力関係の構築という社会的効果も生まれたといえる。

【資料編】※クリックすると拡大します

資料1

資料2 大原涉平作

資料3 大原涉平作

資料4

感じる風景「思いの空」(第2学年)

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.題材名

感じる風景「思いの空」
「色とかたちの挑戦:木版画で抽象画」のための導入課題

2.目 標

 以前、美術部でタブレット端末機での鑑賞を体験した際に「作品を見て友達と話しているうちに、自分でも何か描いてみたくなった。」と生徒の意見があった。鑑賞した作品のメモやスケッチではなく、その体験から制作の着想を得て、1時間の授業内で鑑賞と制作をする、準備と片付けが簡単で机の上にタブレット端末や教科書があっても、小さな作業スペースででき、発想や描写に苦手意識がある生徒でも取り組める課題を提案したい。

3.準備(材料用具)

教室にデジタルテレビ、制作中の手元を映すカメラ(無線LANでテレビと繋げる)
正方形(10cm×10cm)やハガキサイズに切った画用紙を大量、色鉛筆24色セット、綿布、筆洗油の入った油差を人数分、1.2cm幅マスキングテープと鉛筆削りをグループの数
※水場には手洗い用の石鹸を用意
生徒:筆記用具、教科書、美術資料

4.評価規準

[関]
○目に見えないものを形や色で表すことを楽しむ。
○感じ取ったことを話し合う活動に関心をもつ。

[発]
○鑑賞を通して感じたことから発想を広げる。
○自分の気持ちを表すための描き方を工夫する。

[創]
○偶然にできる形や色の効果を生かす。
○自分の気持ちが表れるように、材料や用具の使い方を工夫する。

[鑑]
○形や色の使い方や表現の工夫について話し合い、見方を広げる。
○友達の作品を見て、自分との違いや表したかった色や形の工夫を見つける。

5.本題材の指導にあたって

 写実的に「上手く」描くことに興味がある年頃が忘れかけているのは、造形遊びのように素材と触れ合って発想することや、表していくうちに自分の気持ちにあう色や形に気づいて楽しむこと、「失敗も偶然の効果に」変える臨機応変さだ。自らが捉われる「上手い・下手」の狭い価値観を壊して自分の想いを思い切って表し、友達と語り合って心をつなげる喜びを感じさせたい。
 中野区はアールブリュット(アウトサイダーアート)の展示が盛んだ。この数ヶ月前には企画展のポスターが本校でも目立つ場所に掲示され、生徒はその大胆な抽象表現に驚き、何度も立ち止まって見入っていた。また、二年生は社会科で江戸時代の文化を学ぶ時期、さらにいまも浮世絵を制作する「アダチ版画研究所」の職人の様子を詳細に記録したDVDも美術室にあり、地域や他教科、図画工作との学びをつなぎ、広げる、まさに絶好のタイミングだ。鑑賞と知識を連動させ、表現と鑑賞の能力をより高めていくような充実した活動にしたい。
 また、導入課題「感じる風景:思いの空」では、お互いが感じたことや想いなど自由に語り合う鑑賞から発想して表現に取り組み、それぞれの個性を認め合える気軽な雰囲気を作りたい。そこで、色鉛筆のぼかし技法を紹介する。この技法は筆者が中学生のときに、こぼれた灯油からヒントを得て試行錯誤したものだ。誰もが知る身近な画材・素材を見つめなおし、誰も思いつかない新たな活用方法を探究する楽しみ、失敗も偶然の効果や面白さととらえられるような柔軟さや臨機応変な態度を育てたい。

<参考> 教室内の準備について

美術室に洗濯ヒモを張り、作品を乾燥させている様子。

プレス機には手を挟まないように安全板を取り付けた。版の厚みにあわせた補助板もベッドプレートに貼り付けてある。

給食のチマキの竹の皮で巻きなおしたバレン。

6.題材の指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点、評価方法

1
本時

◎色とかたちの挑戦:感じる風景「思いの空」
・冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」を見て、描かれているもの、見えないものに気づかせる。
・色鉛筆を使って「今の自分の心の空」を描く。
・見えないものを形や色で表すことを楽しむ。

・絵から聞こえる音や声に気づかせるため、「よく見る:絵に入る」ように誘導していく。
・鑑賞していて思い出したこと、心にわきあがってきた思いなどをもとに発想するように声をかける。

・お互いが感じたことや想いなど自由に語り合う鑑賞から発想して表現に取り組み、それぞれの個性を認め合える気軽な雰囲気をまずは作りたい。

・作品は学年全員分を廊下などに展示する。

2

7

◎「色とかたちの挑戦:木版画で抽象画」
・言葉や音楽、好きな絵を(「よく見る:その中に入る」鑑賞で)手がかりにしてイメージを広げ、抽象的な表現を作り出すことを楽しむ。
・願いや祈り、思いをどのような形にこめるか工夫する。具体的なイメージを誇張(デフォルメ)して抽象化する。
※電動糸鋸がメインの「切りすすみ版画」。

◎「アダチ版画研究所」DVD鑑賞20分ほど
・伝統的な浮世絵の制作方法を映像で学ぶ。浮世絵が分業作業で作られていることや彫刻刀の安全な使い方、摺り方については詳しく板書で説明を受ける。

・電動糸鋸、釘、ドライバー、彫刻刀など、表したいイメージに合わせて用具を選択して制作する。
・プレス機の使用方法を学び、プレス機かバレンか印刷効果を自分で試しながら、重ね摺りをしていく。五枚摺る。

◎明治の浮世絵、庄田耕峰の作品を大きなテレビ画面で見せ、版画の持つ色合いの良さや質感の工夫などを味わう。
額装された版画作品:宮本承司「水おすし」を見せる。現代版画作家の実物にふれる。

◎摺った紙は、美術室の天井から大きく張った紐に洗濯バサミで吊るして乾燥させる。乾燥させながら、お互いの作品を鑑賞する。

・版画で仕上げることを念頭に、まずは思いついた線や大まかな形を描くように声をかける。
・モンドリアンの抽象絵画へのプロセスを紹介する。
・下絵が線的な表現になり過ぎないように、墨汁と筆なども用意して自由に使えるようにしておく。
・プレス機と電動糸鋸の安全指導を徹底する。

 

関:木版画ならではの表現に興味をもつ。

発:彫り(切り、釘穴の粗密)や摺りを意識して版づくりの構想を練る。

創:材料や用具の生かし方を考え、手順を考え、見通しをもって表す。

鑑:抽象的な版表現の工夫を味わう。他者の作品に込められた想いを感じ取る。

見当をつけるため、ライトボックスを使うことを思いついた生徒。
「おおお!バレンとプレス機で、印刷の感じが違う!」
「版を一回濡らしてから刷ると、にじむ!」
「黒い紙に刷るときって、白を混ぜなきゃだめみたい。」
「黒に赤で刷って、金を重ねたらきれいだったよ!」
「前の色が釘穴に残っていたのが出てきちゃったけど、面白いなー。」
「ゴミ箱の版の切りくず、もらっていいですか?」
「インクの指紋つけちゃった!次の版で隠しちゃおう。」

プレス機も、刷り終えた生徒が次に刷る生徒にやり方を教えるという流れが自然に生まれている。圧力調整もコツをつかんだようだ。
何度もインクの色を変えて重ねていく。

◎自分の作品すべてに題名をつける。
抽象画らしいタイトルとはなんだろう?作品の向きや組みなども考えて、余白に鉛筆で題名、サイン、エディションを入れる。

◎五枚摺ったなかから、展示する作品を選んで台紙に貼る。コメント用紙に自分の作品の「見どころ」を記入する。

8

お互いの作品を鑑賞する。

全員の作品を並べて鑑賞する。それぞれの感想や意見を述べ合い、鑑賞用紙の記入を通して、今後の自らの制作について考えさせる。

<参考> 生徒作品 一枚の版から。インクや紙の色、構成を変えて摺ったもの。

「幻覚で進めない」

「走り去ったあと」

「弾む足、逢いにいく」

7.本時の学習

①目 標
 「絵の中に入る」鑑賞からイメージを広げ、「今の自分の心の空」という抽象的な表現を作り出すことをクラス全員で楽しみたい。自身の制作を通して抽象的な表現に関心をもち、誰もが知る身近な画材・素材を見つめなおして誰も思いつかない新たな活用方法を探究する楽しみや失敗も偶然の効果や面白さととらえられるような柔軟さや臨機応変に工夫する態度を育てたい。

②学習展開

主な学習活動・内容

指導の工夫や教師の支援・評価の留意点

始まる前に
クラスの生活班(グループ)のかたちで着席する。
班長が必要な用具を人数分揃えてかごに入れ、班員に配布する。(戻すときも数を確認してかごに入れさせる)

教科書、資料集の画像をカメラで大きなテレビ画面に映して全員で細部まで鑑賞できるようにする。
※マスキングテープはあらかじめ人数分貼っておいたほうが時間の短縮になる。(紙の裏表の把握もしやすい)
パレット用紙には印をつけておくと良い。
★窓のカーテンは閉めておく。

◎色とかたちの挑戦:感じる風景「思いの空」
・教科書、資料集の抽象画、版画の図版を見て、これから取り組む課題について知る。
よく見る:絵の中に入る
・冨嶽三十六景「神奈川沖浪裏」を見て、描かれているもの、見えないものに気づかせる。作者の意図を感じ取る。

・教科書、資料集の抽象画の図版を紹介する。
・絵画の知識や価値にとらわれず、安心して自分の考えを述べたり、自己の表現を追求したりできるようにする。

「絵の中に入って辺りを見渡してごらん。そこからどんな空が見える?」
絵から聞こえる音や声に気づかせるため、「よく見る:絵に入る」ように誘導していく。

・鑑賞していて思い出したこと、心にわきあがってきた思いなどをもとに発想するように声をかける。
・同じ絵を見てもそれぞれ感じ方が違うことに気づくようにする。
★ここで窓のカーテンを開ける。
「今日の空の色はどんな色?一日が楽しみになるような朝の色?暑くなるぞっていう勢いの色?うんざりすることがあって退屈な色?恋をしているようなウキウキした色?同じ空を見ても、見る人の心次第で違う色に感じるね。」 
「絵に入って見上げた空の色も、その絵から感じ取ったものだから、今の自分の心の空色なのかもしれないね。どんな空色が見えた?これから色鉛筆で描いてみよう。」

「波にのまれそうな恐怖の瞬間。」
「そうかなあ、高波だー!つかまれーみたいな元気な感じがするよ。」
「この絵に入るのか、どこに入ろうかな。富士山の上だな。ここなら安心。」
「船から見上げる空?助かりますようにって祈る空だよー。」

※鑑賞する絵画は、空がハッキリと描かれていないものや小さいもの、光の方向だけが示されているなど、生徒の想像をかきたてるものが良い。「洛中洛外図:舟木本」も楽しい。
・お互いが感じたことや想いなど自由に語り合う鑑賞から発想して表現に取り組み、それぞれの個性を認め合える気軽な雰囲気をまずは作りたい。

鑑賞をもとに制作をする
・主題を発想する。鑑賞をもとに、発想や構想を掘り下げて考えて制作をする。
・小さな画面に色鉛筆を使って「今の自分の心の空」を描く。見えないものを形や色で表すことを楽しむ。

・用具と色鉛筆のぼかし技法について説明する。

筆洗油は揮発性の液体なので扱いには十分注意する。
※窓を開けて換気する。
※教室などでこの作業を行う場合は無香性の筆洗油をつかうが、あえて臭いのある筆洗油を使用したほうが生徒は危険性を認知する。ゴミ箱には絶対に他のゴミ(揮発するものや発火するもの)と一緒に丸めて入れないこと。
※紙に残った油染みは乾燥すれば消える。
※制作が終わったら、必ず返却された油差しの数と綿布の数を確認する。全員が手を石鹸で洗うことを見届ける。机は水拭きする。

「いま、描きたい気持ちの空が思い浮かんじゃって、この波の絵から離れちゃいそうだけど良いですか?」
「描いているうちに思いついて、描きたいものが変ってきちゃったなあ。もっと爽やかな感じにしたい。」
「この色がきれいだったから、これを生かしたいな。」

・パレット用紙を切って、ステンシルのように型紙にする方法など、生徒が思いついた技法をカメラで撮影し、大型テレビに映して全員に紹介する。

・最後にもう一度テレビにカンディンスキーの抽象画を映し出す。
・作者の意図を感じ取ろうとする姿勢を大切にする。

・描き終わったら、丁寧にマスキングテープをはがす。
・白く残った余白部分に鉛筆で題名とサインを入れる。

「このへんがあったかくて、だんだん冷たくなる感じ。山登りの思い出を描いたのかな」
「線の感じが音楽っぽい。聞こえてくるのは大きい音とかかも。」

・制作を振り返り、自己評価や感想をまとめる。どんな想いを込めたのか発表する。他の生徒の作品の表現の工夫や良さを味わう。

・次回からの版画制作の見通しができるようにしたい。

生徒作品「またあした」

関:心にのこる情景を思い出す。
発:思い出を振り返りながら発想を広げる。
創:材料や用具の生かし方を考え、工夫して表す。
鑑:他者の作品に込められた想いを感じ取る。

<参考>

自分の心の闇を描くと筆を取り、何枚もドローイングを描いた生徒。

電車の路線図から発想する生徒。版画だから逆になると気づき、大慌て。

生徒作品「襲来」
手前の黒い部分はゴミ箱の切りくずを版にして後から付け加えた。

制作中の生徒作品(部分)
幾何形体から発想していた。黒いインクに金色を重ねている。

 今回、ほとんどの生徒が最初の下絵から離れ、版を重ねながらの色や形から何度も想像を広げて表したいことを模索していた。まとめの題名を考える場面ではどのクラスも楽しく盛り上がり、組み作品にしてお話作りをする生徒も多く、作品を見返しては詩的な題名を発想する様子が全体に見られた。また、浮世絵や現代版画の制作や歴史、購入方法や展示の仕方にも大きく興味を示した。何より、「もっと版画の時間が欲しい。工夫したい。」のつぶやきに成長を感じた。

生徒作品「夜の昼」
「白夜というのを社会で知り、そこから発想しました。主な版をうすくして、上から小さな版を濃い色でのせることで目立たせました。」

生徒作品「運命」
「花を描いてみたかった。花の散る運命と、実は食べられてしまう運命を描きました。」

生徒作品「冬の道」
「自分が好きなように描きました。細かいところまで彫っています。見どころは凹版なことです。色は優しい感じにしました。」

生徒作品「暁の晩」
「浮世絵をみてかっこいい!と思ったのが発想のきっかけです。自分の頭の中を表現しました。日の出と雲をみてください。」