テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ

ジョン・ブレット《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》1871年 Photo: Tate 大阪中之島美術館は、大阪に関わりのある近現代美術をはじめ、日本と海外の近現代美術およびデザイン作品を数多く取り扱う美術館です。今回は主任学芸員の國井綾さんに、開催中の「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」の見どころや、大阪中之島美術館で行われているイベントなどについてお話を伺いました。

――テート美術館展では、テート美術館に収蔵されている古今東西のさまざまな作品を見ることができます。絵画彫刻だけでなく、インスタレーション作品なども鑑賞できる展覧会ですが、展示のテーマや特徴について教えてください。

國井:本展覧会は「光」をテーマとしています。18世紀末から現代まで、約200年の間にアーティストたちが光をどのように描き、扱ってきたのか。テート美術館のおよそ77,000点におよぶ充実したコレクションから、絵画、版画、写真、彫刻、インスタレーションなど多様な形態の作品約120点でご紹介しています。
 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー、ジョン・コンスタブルなどの英国近代美術史を代表する画家から、クロード・モネら印象派、ラファエル前派、バウハウス、そしてジェームズ・タレルやオラファー・エリアソンなどの現代美術家まで幅広く出品しています。アーティストによって光の扱いは実に様々。約200年の間に光をめぐる表現がどのように変遷してきたのかをめぐる展覧会です。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《湖に沈む夕日》1840年頃 Photo: Tate

――教科書ではクロード・モネの《積みわら 夏の終わり 朝の効果》や、《明るい日光の中の積みわら》を通して、光源の方向や光の色の変化について紹介しています。テート展でもモネの《エプト川のポプラ並木》を公開しています。テート展では《エプト川のポプラ並木》をどのように紹介していますか?作品の魅力と共に教えてください。

國井:モネは光の効果をとらえるために、異なる光の条件下で同じ主題を何度も描いています。《エプト川のポプラ並木》はエプト川に沿って並ぶ木々の列を描いた23点から成るシリーズのうちのひとつで、描き続けるために、モネはこれらの木々の伐採を自ら費用を負担して阻止したといわれています。素早い筆致で、明るい光の下に照らされた生命感あふれるポプラ並木が描き出されています。

クロード・モネ《エプト川のポプラ並木》1891年 Photo: Tate

――大阪中之島美術館では、展覧会に応じて様々な市民参加型イベントを行っています。特に力を入れて行っているイベントがあれば教えてください。

國井:私たちのまわりにある様々な「光」について、科学とアートの二つの視点から学び、楽しむ「大阪市立科学館×大阪中之島美術館  『光』を見る・知る・感じるツアー」を開催しました。大阪市立科学館と大阪中之島美術館、双方の学芸員が講師をつとめ、サイエンスショーとギャラリーツアーを実施しました。
 大阪市立科学館と大阪中之島美術館は、いずれも地方独立行政法人大阪市博物館機構に属するミュージアムです。お向かいに位置することから日ごろから様々な事業でコラボレーションしています。今回の展覧会は「光」をテーマとしていることから、美術的な視点からのアプローチだけでなく、科学的なアプローチが可能ということで、今回のコラボレーションにつながりました。

展覧会情報

■「テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ」
会期:2023年10月26日(木)~2024年1月14日(日)
会場:大阪中之島美術館 5階展示室
公式サイト:https://tate2023.exhn.jp/
問い合わせ:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター 受付時間8時~21時 年中無休)
休館日:月曜日(1/8は開館)、12/31、1/1
開場時間:10時~17時(展示室入場は閉場の30分前まで)
観覧料:一般2100円  高大生1500円  小中生500円

【関連作品 教科書掲載情報】

  • 令和4年度版「高校生の美術1」p22.
    積みわら 夏の終わり 朝の効果[油彩・キャンヴァス/60×100cm]
    1890~91 オルセー美術館蔵[フランス]
  • 令和4年度版「高校生の美術1」p23.
    明るい日光の中の積みわら[油彩・キャンヴァス/58.4×96.5cm]
    1890~91 ヒルステッド美術館蔵[アメリカ]

十和田市現代美術館

十和田市現代美術館 十和田市現代美術館では、教科書に掲載している塩田千春やロン・ミュエクなど、現代で活躍する作家の作品を数多く展示しています。
 今回はエデュケーターの青山真樹さんに、十和田市現代美術館における展示の工夫や、作品の魅力、そして学生を対象にした教育普及活動についてお話を伺いました。

――教科書では塩田千春の《掌の鍵》や《集積―目的地を求めて 2014-2019》を掲載しています。塩田は糸や鍵、鞄など身の回りものを用いて制作を行っています。十和田市現代美術館で公開している《水の記憶》ではどのような特徴が見られますか?作品の見どころと共に教えてください。

青山:この作品は、赤い糸と船という、塩田千春の作品においてしばしば登場する2つの要素で構成されています。
 何層にも重なり編まれた糸は、頭上を埋めつくし壁面にまで広がっています。展示室がコンパクトな空間だからこそ、部屋の中に足を踏み入れると、まるで繭に包み込まれているかのような感覚を覚えます。しかし、複雑に絡み合う糸は、どこかに焦点を合わせようとすれば、それ以外はぼやけてしまい、一本一本を目で捉えきることはできません。
 部屋の中央には、その糸に繋がれた一艘の古びた木船が置かれています。この船は、過去に十和田湖にあったものです。塩田にとって「未知の場所へ導くと同時に、危険もつきまとう、“死” と隣り合わせの存在」だと言う船。その表面の至るところには、小さな傷やひび割れ、塗料の剥がれなどが見られ、その一つ一つに、船に起こった過去の出来事が刻まれているようです。
 「誰がどんな風に使っていたのだろう?」
 「この船は、どこでどんな経験をしてきたのだろう?」
 船のありし日の姿や、関わってきた人の存在に思いを馳せてみると、場所やものに宿る数多くの記憶や重ねられた時間があるということに気がつくのではないでしょうか。糸の状態を示すさまざまな表現―張り詰めたり、緩んだり、結んだり、切れたり、もつれたり―には、人や物の「関わり」を連想させるものが多くあります。編み込まれた無数の赤い糸は、この船にまつわる、そんな目には見えない無数のつながりを表しているのかもしれません。

塩田千春《水の記憶》
撮影:小山田邦哉
©2021 JASPAR, Tokyo and Shiota Chiharu

――教科書は、様々な作品を見ることや学ぶことで、新たな物の見方や考え方を知るきっかけに繋がることを大切にしています。十和田市現代美術館では、教科書でも取り上げている塩田千春や、ロン・ミュエクの作品など多くの作品を常設展示しています。作品の魅力を鑑賞者に伝えるために、特に意識して行っていることを教えてください。

青山:当館の大きなテーマは、「体験型」であること。作品を目の前にした時の、来館者の体験こそを大切にしたいと考えています。そのため、キャプションや館内リーフレット、音声ガイドなど、来館者が初期にアクセスするツールにおいては、情報や知識を過度に提供しすぎてしまわないように留意しています。それは来館者が、情報を読むことによって作品を「みたつもり」になってしまうことを避けるためです。それよりも、その人自身が作品から何を受け取り、どのようなことを感じ考えたのか―そこから鑑賞の一歩が踏み出されることこそが、重要だと考えています。
 「作品のよさ」や「魅力」といったものに、固定の答えがあるわけではありませんので、こちらから「伝える」のではなく、みる人それぞれに「考えてもらう」ためのきっかけをつくるという意識で各種ツールやプログラムを設計しています。

ロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》
撮影:小山田邦哉
Courtesy Anthony d’Offay, London

――教科書では、美術館に行くことを掲載したり、美術に関する仕事を取り上げたりするなど、学校外での美術との繋がりも紹介しています。十和田市現代美術館では学生を対象に、どのような教育普及活動を行っていますか?

青山:高校生向けには、美術館スタッフが学校に出向く出張授業のほか、団体観覧の受け入れ時には、学校の要望に応じオリエンテーションやグループ鑑賞などを組み合わせた対応を行なっています。また、10代の若者を対象としたユース・プログラムとして、「鑑賞」と「表現」を組み合わせ、作品世界をより深く体験するワークショップや、中高生とアーティストが出会い、ひとつのテーマのもとで共に考え・つくり・まなびあうプログラムなどを企画、実施しています。

美術館情報

■十和田市現代美術館
住所:〒034-0082 青森県十和田市西二番町10-9
公式サイト:https://towadaartcenter.com
問い合わせ:0176-20-1127
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は、その翌日)、年末年始
開館時間:9時~17時(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般1800円(企画展転換期1000円)、高校生以下無料

【関連作品 教科書掲載情報】

  • 「高校美術」p4-5.
    集積―目的地を求めて 2014-2019[赤いロープ・スーツケース・モーター]2019
    森美術館での展示[東京都]
    塩田千春
  • 「高校美術」p54.
    スタンディング・ウーマン[ミクストメディア/405×155×110cm] 2008
    十和田市現代美術館蔵[青森県]
    ロン・ミュエク
  • 令和5年度版「高校生の美術2」p36.
    掌の鍵[古い鍵・赤い毛糸・ヴェネチアの木製の船] 2015
    第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(日本館)での展示[イタリア]
    塩田千春

「デイヴィッド・ホックニー展」

「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年 © David Hockney
左《両親》1977年 テート
右《ジョージ・ローソンとウェイン・スリープ》1972-75年 テート 撮影:編集部
 高校の美術の教科書ではデイヴィッド・ホックニーの作品を数多く掲載しています。今回は東京都現代美術館で2023年7月15日から11月5日まで開催されている「デイヴィッド・ホックニー展」に合わせて、学芸員の楠本愛さんにホックニーの作品の特徴や魅力、展覧会の構成などについてお話をお伺いしました。

――教科書では、作品を展示することの意義や、美術館を構成するデザインなど、展覧会や美術館に関する内容を取り扱っています。デイヴィッド・ホックニー展は、国内27年ぶりの大型個展で、約120点の作品を取り扱っていますが、この展覧会をつくる上で工夫したところや、ポイントを教えてください。

楠本:デイヴィッド・ホックニー(1937年、英国ブラッドフォード生まれ)は名実ともに現代を代表する画家と称されています。今回の展覧会では、1960年代の英国・ロンドンや米国・ロサンゼルスで制作された代表作から、近年の英国・イースト・ヨークシャーやフランス・ノルマンディーで制作された風景画まで、60年以上にわたる画業を網羅的にご紹介しています。

 東京都現代美術館は「現代・同時代(Contemporary)」、言い換えると「今」という時代と関わりのある芸術作品と出会える場所です。本展覧会も現存作家の個展のため、ホックニーが「今現在、世界をどのように見て、どのように描いているのか」をご紹介することによって、作家と同じ時代を生きる私たちひとりひとりが目の前にある世界を見つめ直す機会となることを願っています。

デイヴィッド・ホックニー 《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》2011年 ポンピドゥー・センター © David Hockney Photo: Richard Schmidt

――「高校生の美術1」では、ホックニーが1970年に発表した静物画《ピーマンと3本の色鉛筆》や、1982年に写真を組み合わせて制作した、《ぼくの母、ボルトン修道院、ヨークシャー、1982年11月#2》といった作品を掲載しています。ホックニーは絵画や写真などを用いて様々な表現を行っていますが、今回の展示におけるホックニーの作品の特徴や、見どころを教えてください。

楠本:今回の展覧会では、油彩画、版画、写真、iPad作品など、さまざまな技法や表現で描かれたホックニーの作品をご紹介しています。《ぼくの母、ボルトン修道院、ヨークシャー、1982年11月#2》と同じ「フォト・コラージュ」と呼ばれる100枚以上の写真を貼り合わせた作品《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》(1983年 東京都現代美術館)が展示されています。また、本展の見どころは近年制作された幅90メートルにもなる風景画《ノルマンディーの12か月》(2020-21年 作家蔵)です。

デイヴィッド・ホックニー 《龍安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都》1983年 東京都現代美術館 © David Hockney Photo: Richard Schmidt

――学校現場では、ICTを用いた活動が急速に増えてきています。ホックニーも2010年からiPadを用いて制作を始めたとのことですが、制作の背景や、鑑賞のポイントなどを教えてください。

楠本:ホックニーは「絵画」という歴史と伝統がある分野で仕事をするなかで、「どうすればこれまでにない絵を描くことができるか」ということを長年考え続け、さまざまな探求を重ねてきました。そのため、2010年に発売されたiPadをすぐに入手し、絵を描きはじめるということは、作家にとって自然な流れでした。ホックニーはiPadを戸外に持ち出して、多数の風景画を制作しました。本展覧会では大きなサイズの作品が展示されているため、iPad特有の生き生きとした色彩や筆跡をじっくりと細部までご鑑賞いただけます。

デイヴィッド・ホックニー 《ノルマンディーの12か月》(部分)2020-21年 作家蔵 © David Hockney

展覧会情報

■「デイヴィッド・ホックニー展」
会期:2023年7月15日(土)~11月5日(日)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/3F
公式サイト:https://www.mot-art-museum.jp/hockney
問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
休館日:月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10
開館時間:10時~18時(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般2300円  大学生・65歳以上1600円  中高生1000円 小学生以下無料

【デイヴィッド・ホックニー作品 教科書掲載情報】

  • 令和4年度版「高校生の美術1」p7.
    ピーマンと3本の色鉛筆[色鉛筆・紙/35.5×43cm] 1970
  • 令和4年度版「高校生の美術1」p13.
    ぼくの母、ボルトン修道院、ヨークシャー、1982年11月#2[コラージュ(写真)/120.5×70cm] 1982

真鶴町・石の彫刻祭

事前に石切り場で選んだ小松石をハートの形に彫刻する冨長。 「真鶴町・石の彫刻祭」は神奈川県の真鶴半島で産出される小松石を素材としたアート作品の公開制作やワークショップ等を通して、石とアートの魅力を融合し、日本における石の文化を世界に発信する芸術祭である。2019年から2020年にかけて、国内外で活動する注目アーティストたちが小松石を素材に彫刻を中心とした多彩な表現を展開する。
 2019年秋には滞在による公開制作をはじめトークショーやワークショップなどを随時実施予定となっており、期間中に作品の完成から設置までが行われるとのこと。来る2020年の夏には作品公開イベントを開催する予定となっている。実は真鶴には1963年にも世界各国から彫刻家が集結した「世界近代彫刻シンポジウム」が開催された歴史がある。国内外12名の彫刻家が小松石を用いて公開制作を行い、1964年の東京オリンピック開催時には新宿御苑で作品を展示し、大きな反響を呼んだという。今回の「真鶴町・石の彫刻祭」はその歴史を踏まえて開催されているものなのである。
 参加アーティストの一人である冨長敦也に話を聞いた。
 冨長はハートの形に彫刻した石を、その土地で出会う人々と共に磨き、みんなの想いでその石を輝かせるという「Love Stone Project」を展開している彫刻家だ。これは東日本大震災の被災地を訪れた経験から生まれた参加型プロジェクトである。大人から子どもまであらゆる人が参加可能で、人が腰掛けられるほどの大きさのものから、女性が抱えられるくらいのサイズのものまで、多彩な大きさの石を用いて、様々な地域で行われてきた。日本全国をはじめ、ニューヨーク、イタリア、メキシコ、ベトナム、カンボジアなど、これまで200ヶ所以上で実施され、およそ2万人以上が参加しているという。
 石を磨く作業は80番くらいの粗い耐水ペーパーから始まり、冨長のプランに従い、徐々に番手を上げていく。世の人々は一般的に、石は非常に硬く、人の手では研磨することなどできないという先入観を持っている。しかし、一旦磨きはじめると、粉が吹き始め自分にも石を磨くことができるのだ、と気付く。自分が向き合っている、その作品に変化を与えられることを実感すると、楽しくなるのだ。人はその作業に没頭していく。
 冨長は言う。「川の上流の石はごつごつした形をしていますよね。でも、それが川を流れて下流に行くにしたがって、角が取れて丸い石になっていく。その変化は自然の行為そのものです。このLove Stone Projectでは人々がその川の流れになり、自然がするのと同じように、石を磨き上げていくのです。」
 磨く作業は手触りに変化を与え、その変化は石との対話となる。石との対話は自分との対話にもつながり、石を磨く行為と共に人は自然の一部になっていく。そして、その石を中心に参加者がひとつになっていく。冨長は「子どもたちには触れることを、人々には交わることを伝えたい」と語っている。
 そんな「Love Stone Project」の真鶴版は9月28日から毎週末に11月いっぱいまで開催される。詳細は以下のリンクを参照のこと。

(編集部)

高校生キュレーター活動の紹介

ミーティング風景


展示した作品の前で

 「コレクション・クッキング」は平成26年度、福島県立美術館開館30周年を迎えるのにあわせて企画されました。これは、コレクション(当館収蔵作品)をキーワードに、美術作品や美術館という場について作家や一般の人々にあらためて考えてもらう通年事業です。ここには二つの柱がありました。一つは展覧会、もう一つはワークショップです。「高校生キュレーター活動」は、このワークショップの一環として行いました。企画内容は半年間、美術館と高校生が話し合いを重ね、常設展示室の一室の展示を考える、というもの。県内から25名もの高校生が応募に答えて集まってくれました。
 活動は全員で話し合った後、方向性が同じメンバーに分かれ進められました。合間に展覧会出品作家のワークショップを体験するなど、観たり調べたりするだけでなく身体を動かしアートについて考える機会をつくりました。 
 テーマごとに分かれた各グループは、作品を直に鑑賞しつつ何度も話し合いを重ね、展示作品を吟味。「展覧会とは何?」「どんな展覧会にする?」「テーマは?」「テーマに沿った作品、作家は?」など、山積する課題に、普段「作る」側の高校生が「観せる」という立場で試行錯誤を繰り返しました。
 平成26年の10月に展覧会がオープン。会場を観るメンバーは一様に満足げな様子でしたが、これ以降も広報、関連事業(ワークショップ)と活動は続きます。展覧会よりも以後の展開が彼らには未知な世界だったかもしれません。
 年明け、振り返りも兼ね解散式を開催しました。彼らの希有な経験への感想はもちろんですが、作品や作家へ深い洞察を得ていることに心打たれました。高校生と美術館、互いに初めての経験から多々課題は残しましたが、逆に多くの可能性を秘めていることも知り得た企画になりました。

(福島県立美術館 学芸課 國島敏)

 

<関連リンク>

福島県立美術館ico_link

  • 所在地 福島県福島市森合西養山1
  • TEL 024-531-5511
  • 現在、空調設備改修工事のため休館中(2016年3月まで)

その他、詳細は福島県立美術館webサイトico_linkでご覧ください。

新印象派―光と色のドラマ

《グランド・ジャット島の日曜日の午後》の習作/1884/油彩/板/15.5×25cm/オルセー美術館蔵
Don de Mlle Thérèse et de M. Georges-Henri Rivière en souvenir de leurs parents 1948 © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 今回紹介するのは、ジョルジュ・スーラ(1859~91)の《グランド・ジャット島の日曜日の午後》(1884~86)のための習作です。点描法で描かれています。スーラに先立つ印象派の画家たちは、絵の具の混色による色彩の濁りを解消するために筆触分割による描画法を編み出しました。並置加法混色の効果を利用した印象派のスタイルは、より鮮やかに光を描き出し、当時の美術界に大きなインパクトを与えました。スーラはそのアイデアを色彩理論や光学理論に基づいて発展させ、独自の点描法に辿りついたのです。そして、その手法はやがて新印象派と呼ばれる芸術運動に繋がっていきます。
 スーラが研究した色彩学の中には文豪ゲーテ(1749~1832)の「色彩論」(1810)があります。「若きウェルテルの悩み」「ファウスト」などの文学作品で知られるゲーテは、自然科学者としても多くの著作を残しているのです。スーラはその他にもミシェル=ウジェーヌ・シュヴルール(1786~1889)やオグデン・ルード(1831~1902)の色彩論も参考にしています。この習作の画面下半分、陰になった芝生の部分を見てください。黄緑の芝生の合間に紫の点が打たれています。紫は黄緑とは補色関係に近い色です。色彩学には、隣り合う補色同士の配色では、その2色はお互いを強調し合う、という理論があります。スーラはそういった補色対比を念頭にして、全体の調和をとりながら配色を施し、明るい色彩を演出しているのです。また、並置加法混色では補色同士は明度を高める組み合わせとなります。このことも画面を明るくする一因となっているのです。
 数多くの下書きや習作を作るなど、念入りに下準備をしながら、2年の歳月をかけて描きあげられた《グランド・ジャット島の日曜日の午後》には、さまざまな配色の工夫が施されています。

(編集部)

 

<展覧会情報>

  • 新印象派―光と色のドラマ
  • 大阪展:あべのハルカス美術館 開催中~2015年1月12日(月・祝)
  • 東京展:東京都美術館 2015年1月24日(土)~3月29日(日)

展覧会概要

  • 印象派の筆触分割による光の捉え方を、より科学的に理論化した新印象派の作品約100点を展示。印象派のモネの作品から始まり、スーラ、シニャックによる新印象派初期の作品から、マティスの色彩あふれる作品まで、色彩表現の変遷が見どころです。

<美術館情報>

■大阪展:あべのハルカス美術館ico_link

  • 所在地 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階
  • TEL 06-4399-9050
  • 休館日 月曜日(ただし1月2日は開館)
    ※12月29日(月)~1月1日(木・祝)は休館

■東京展:東京都美術館 企画展示室ico_link

  • 所在地 東京都台東区上野公園8-36
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休室日 月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)

<次回展覧会予定>

■あべのハルカス美術館

  • 高野山開創1200年記念 高野山の名宝
  • 2015年1月23日(金)~2015年3月8日(日)

■東京都美術館

  • 大英博物館展―100のモノが語る世界の歴史
  • 2015年4月18日(土)~6月28日(日)

その他、詳細はあべのハルカス美術館ico_linkもしくは東京都美術館ico_linkでご覧ください。

日本国宝展

国宝 「土偶 縄文の女神」 土/高さ45.0cm/縄文時代(中期)紀元前3000年~紀元前2000年頃/山形県舟形町西ノ前遺跡出土/山形県蔵 山形県立博物館保管 展示期間:11月21日(金)~12月7日(日)

 山形県で出土し、平成24年に国宝に指定された土偶です。発掘元の西ノ前遺跡は縄文時代中期の集落とされており、長さが10mを超える大型の住居跡も見つかっています。この土偶は、その集落で不要になった道具などを廃棄していたとされる「捨て場」から、5つに分割された状態で出土しました。西ノ前遺跡からは48個の土偶が出土していますが、完全に復元できたのは、この土偶のみ。通常、土偶は破片で見つかることが多く、完全な形には戻らないことが一般的です。病気や怪我を直すために土偶を身代わりとして打ち砕いたという説や、土偶の破片を集落の各地に分け、命の再生や繁殖、集落の繁栄を願ったというような説があります。完全に元通りになる土偶は珍しく、何か特別な扱いを受けた土偶かもしれない、と考えられているほどです。
 この土偶の頭部には目、鼻、口がなく表情はありません。形は半円形で、頭頂部と耳飾りを付けるあたりに穴が開いています。胸部はW字に張り出しており、ヘソより下が正面から見ると大きく内側に反り返ったようになっているのが特徴です。横から見るとお尻は後ろに突き出ており、その形から「出尻土偶(でっちりどぐう)」と呼ばれることもあります。身長は45cmです。現在見つかっている土偶の中では最も背が高く、八頭身かつ洗練されたプロポーションから「縄文の女神」と称されています。
 展示期間中、実物は東京国立博物館に展示されていますが、所蔵元の山形県立博物館ではレプリカの展示を見ることが可能です。

(編集部)

 

<展覧会情報>

  • 日本国宝展
  • 東京展 2014年10月15日(水)~12月7日(日)

展覧会概要

  • 平成26年現在で1092件の登録がある国宝の中から、約120件が集結する展覧会。縄文時代の祈りや美意識を今に伝える土偶、ユネスコ記憶遺産に登録されている貴重な資料、平成25年に国宝指定された安倍文殊院の善財童子立像、仏陀波利三蔵像など、多彩な国宝を一挙に見ることができます。

東京国立博物館ico_link

  • 所在地 東京都台東区上野公園13-9
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌火曜日に休館)

<次回展覧会予定>

  • みちのくの仏像
  • 2015年1月14日(水)~2015年4月5日(日)

その他、詳細は東京国立博物館ico_linkでご覧ください。

ボストン美術館浮世絵名品展 北斎

諸国瀧廻り「木曽路ノ奥阿弥陀ヶ瀧」/天保4年(1833)頃
William Sturgis Bigelow Collection
Photograph © 2014 Museum of Fine Arts, Boston. All rights reserved.

 葛飾北斎(1760~1849)は、江戸時代後期に活躍した絵師です。20歳前後で浮世絵師としてデビューし、90歳で亡くなるまで浮世絵の範疇にとどまることなく、さまざまな画風に挑戦し作品を描き続け、その作品は世界中で高い評価を得ています。
 生前は勝川春朗(かつかわしゅんろう)、戴斗(たいと)、為一(いいつ)、画狂老人卍などというように、画号を30回以上も変更したことが分かっており、今日、一般的に称される北斎もそのうちの一つなのです。そのほか、生涯で93回も転居を繰り返したという記録も残っており、強い個性の持ち主であったことがうかがわれます。この展覧会は、そんな北斎の作風の変化を年代順に概観できるのが特徴です。
 1820年頃、北斎は為一の号を使い始めます。為一期の北斎は大判錦絵の名作を多数制作しており、ここを北斎の絶頂期とする研究者もいるほどです。その頃の作品といえば、富士山の見える風景を大胆な構図で描いた「冨嶽三十六景」、諸国の橋をさまざまな視点で捉えた「諸国名橋奇覧」などが挙げられます。
 本展覧会ではそういった有名作品に加えて、その時期に描かれた「諸国瀧廻り」シリーズ全8枚も展示しています。日本全国8か所の滝をモチーフに、多彩な水流の描き分けに主題を置いて組まれたシリーズです。白、水色、紺という少ない色数で表現される水の描写は北斎ならではの非常に独創的なものになっています。教科書掲載の「下野黒髪山きりふりの滝」では木の根のように枝分かれしながら滝壺に至る水の流れの表情を、ここで紹介する「木曽路ノ奥阿弥陀ヶ瀧」では、円形の滝口より真っ暗な奈落へと落下していく水の様子を描き出しているのが特徴です。そのほかの作品でも垂直に落下する滝、落下距離の短い滝、岩伝いに滴り落ちる滝などというように、さまざまな滝における水の表情を見事に描き分けています。
 北斎は、それ以前に出版した「北斎漫画」(1814頃)などの絵手本帳や、晩年の傑作、「上町祭屋台天井絵《男浪図》《女浪図》」(1840年代中期)でも水をモチーフにした作品を描いています。水を描くことが北斎にとって大きなテーマであったことは間違いありません。

(編集部)

 

<展覧会情報>

  • ボストン美術館浮世絵名品展 北斎
  • 東京展 2014年9月13日(土)~11月9日(日)

展覧会概要

  • 葛飾北斎の約70年にわたる画業を約140点の作品で紹介する展覧会です。全体は3章構成になっており、第1章では111点の作品を年代順に並べて、北斎の業績全体を概観できるのが特徴。続く、第2章では摺物や版本、第3章では肉筆画および版下絵といった貴重な作品や資料を見ることができます。
  • ボストン美術館の浮世絵コレクションの多くは近年までほとんど公開されたことがなかったため保存状態がきわめて良好です。いま摺り上がったかのような美しい色彩も見どころのひとつです。

上野の森美術館ico_link

  • 所在地 東京都台東区上野公園1-2
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 10/20(月)、10/27(月)

<次回展覧会予定>

  • 進撃の巨人展
  • 2014年11月28日(金)~2015年1月25日(日)

その他、詳細は上野の森美術館ico_linkでご覧ください。

鈴木康広展「近所の地球」

 鈴木康広(1979-)の大規模な個展である。水戸芸術館の現代美術ギャラリーに、これまでに制作してきた代表作および、本個展のために制作した新作が数多く展示されている。また、中心市街地活性化事業として水戸市街の24の店舗に各2冊ずつパラパラマンガを設置する、「パラパラマンガ商店街in水戸」も同時に開催しており、地域と連動した展覧会にもなっている。
 代表作の展示として「ファスナーの船」の関連資料があった。これは2002年に鈴木が飛行機で移動している際、上空より、水上を進む船の後ろに発生するハ字型の波(引き波、ケルビン波などと呼ばれる)を見て、そこから着想を得た作品である。このハの字に広がる波をファスナーが開かれる様に見立て、船をファスナーの持ち手と考えれば、地球をファスナーで開いているイメージにつながる、と鈴木は発想したのである。2004年にはファスナーの持ち手部分のラジコン船を制作し発表。このときは公園の池で実演した。2010年には実際の漁船を改造し、人間が乗船可能な全長約11mの船舶を現実のものとする。これは第1回瀬戸内国際芸術祭において、来場者を乗せて瀬戸内海を渡った。そのほかにも代表作として「遊具の透視法」(2001)「まばたきの葉」(2003)などが体験型のインスタレーションとして展示されている。
 また「パラパラマンガ商店街in水戸」は水戸市街を散策しながら、多彩なパラパラマンガを鑑賞できるのが特色である。鈴木のパラパラマンガはメタモルフォーゼによる形の変化の不思議さ、単純な動きの面白さ、短時間で完結するシュールな物語性、見たての妙など、さまざまな技法を一冊ずつ端的に凝縮してある。より多くの作品を見るほどに、「この手があったか!」と感心の度合いが深まるので、水戸市街を散策しながら、なるべく多くのパラパラマンガを鑑賞することをお勧めしたい。

(編集部)

 

<展覧会情報>

  • 鈴木康広展「近所の地球」
  • 2014年8月2日(土)~10月19日(日)

展覧会概要

  • 2001年に公園の遊具を用いた映像インスタレーション作品で脚光を浴び、その後、美術館での作品発表のみならず、地域や空間を意識した活動や奇想天外なアイデアを紹介する著作などを発表し続ける鈴木康広の大規模な個展。これまでの代表作と新作を一挙に体験できる内容となっている。

水戸芸術館ico_link

  • 所在地 茨城県水戸市五軒町1-6-8
  • TEL 029‐227-8111
  • 休館日 毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)

<次回展覧会予定>

  • ヂョン・ヨンドゥ 地上の道のように
  • 2014年11月8日(土)~2015年2月1日(日)

その他、詳細は水戸芸術館Webサイトico_linkでご覧ください。

特別展 ガウディ×井上雄彦―シンクロする創造の源泉―

アントニ・ガウディ(スペイン|1852-1926) photo: Audouard & C.ª、 Barcelona ©Institut Municipal de Museus de Reus

 スペイン出身の建築家アントニ・ガウディ(1852-1926)の設計資料や手掛けた建築物と、漫画家井上雄彦(1967-)がガウディの生涯をテーマに描き出した漫画や絵画作品が同時に展示されるコラボレーション展です。井上は在スペイン日本大使館より「2013-2014日本スペイン交流400周年」の親善大使に任命されており、この展覧会はそのプロジェクトの一環でもあります。
 ガウディについては、学生時代の製図やスケッチなどから、建築家として名を成してからの代表作にまつわる資料や、現存する建築の写真などが紹介されています。自然の摂理に則ることに腐心したガウディの建築は、曲線や曲面を用いた生物的な形状が特徴です。代表作サグラダ・ファミリア聖堂の設計において、ガウディは紐と錘を用いて作成したフニクラ(逆さ吊り模型)を基に有機的な大型模型を作成し、工事を進めていました。サグラダ・ファミリア聖堂の着工は1882年。ガウディ没後の現在もなお、工事が進められており、かつては完成に300年かかると言われていました。しかし、現在ではスペインの経済成長や建築技術の進歩により、2026年の完成がアナウンスされています。

井上雄彦(鹿児島県|1967-)©I.T.Planning、日経BP社(写真:川口忠信)

 ガウディは設計図を役所に届ける必要最小限のみしか描かなかったと言われています。さらに、そういった数少ない設計図や大型模型の大半が、ガウディの死後に勃発したスペイン内戦で焼失するという憂き目にあってしまいました。現在のサグラダ・ファミリア聖堂の工事は、職人による伝承や、残されているおおまかな外観のデッサンなどを頼りに、ガウディの設計を推測しながら行っているのです。
 ガウディは後半生をサグラダ・ファミリア聖堂の作業に専念しましたが、そんな彼の生涯を3章に分けて、それぞれについて井上が自身の感性に基づいた漫画作品を制作しています。また、いくつかの時代におけるガウディの肖像画や、世界最大級の手漉き和紙に描いた墨絵などが展示されています。これらは、井上がスペインのバルセロナに滞在し、ガウディの建築作品で世界遺産にも登録されているカサ・ミラ内にアトリエをかまえて制作した作品です。

(編集部)

 

<展覧会情報>

展覧会概要

  • 建築家ガウディのスケッチや図面、建築作品の大型模型などの資料約100点を紹介。加えて、漫画家井上雄彦がガウディの生涯を描いた漫画や、ガウディの肖像画、大型作品を含む約40点の絵画作品も合わせて展示します。

森アーツセンターギャラリーico_link

  • 所在地 東京都港区六本木6-10-1
  • TEL 03-6406-6855
  • 休館日 会期中無休

<次回展覧会予定>

  • 私のマーガレット展
  • 2014年9月20日(土)~10月19日(日)

その他、詳細は森アーツセンターギャラリーWebサイトico_linkでご覧ください。